ARMORED CORE V ―OASIS WAR―(改訂版)   作:キサラギ職員

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それは、全てを焼き尽くす“暴力”――。


10、Assault(後)【傭兵ルート】

 指定された座標に到達した弾頭は、およそ10mの誤差はあったものの、概ね異常もなく起爆した。

 重原子の核分裂反応によって発生する膨大なエネルギーが人間の認識できる領域を遥かに超越した短時間で発生して光や熱などの別のエネルギーに置き換わったのである。

 ガレージ目がけて砲撃を仕掛けていた所属不明軍に対し、起爆点である上空十数mから放射線が放たれる。戦車やSzシリーズなどの分厚い装甲に守られた兵器はともかく、剥き出しのカノン砲などを操作する兵士たちのDNAが致命的な損傷を受けた。同時期に膨大な量の熱線が全方位に照射され、装甲の表面が沸騰し、生身の兵士たちは瞬く間に蒸発してしまった。ある兵士は一撃のもとに人体が崩壊して、何もかもが炭素や金属へと変わった。肉体が蒸気の柱となりて四散した。例え生身の兵士とて核は差別しない。戦場に逃げ場はないのだ。

 エネルギーによって熱せられた大気がプラズマ化して巨大な球体を作り上げた。球体は綺麗な表面を保ったまま拡張すると眼下の矮小な者たちを焼き尽くした。大気が移動する……つまりそれは衝撃波と化し兵器をことごとくなぎ倒していった。砲を掲げたままのSzシリーズが、熱量に砲自体を溶解させた刹那、横転して飛ばされていった。自走砲が爆散する間も与えられずバラバラとなり吹き飛ぶ。まさに波のように押し寄せる空気の壁が地表の砂を巻き上げ四方へと広がっていく。熱線を受けて死にきれなかった兵士たちが雑巾のように飛ばされる。テクニカルの塗装がブクブクと沸騰するや、車体ごと空中に持っていかれた。長時間に渡って流れ続ける高速の大気の前には、いかなる障害も太刀打ちできまい。

 膨張が止まると、今度は空気が爆心地へと戻っていく。津波の引き潮のように。

 砂埃などを多量に孕んだ黒い流動体が猛烈な火炎を抱きつつ空へと立ち昇った。誰が命名したか、その雲をキノコ雲と言った。

 生き残った兵士たちは絶望するだろう。致命的な放射線と、放射性物質を被ってしまったことを悟るだろうから。

 ある兵士は皮膚がケロイド状となり垂れ下がっていたが死にきれずにいた。もはや助かる見込みなどない。それでも死ねずに荒野を彷徨い水を求める。

 ある兵士は高速で飛んできた装甲の破片に下半身をもぎ取られ内臓を垂れ流していた。即死できなかったために発狂寸前の苦痛に耐えることを強いられていた。

 ある兵士は――――……。

 核兵器の使用という暴力のせいで所属不明砲撃部隊は壊滅的な打撃を被ったのである。

 

 

 突如として立ち上がった誕生した太陽に、戦場が一瞬静寂に包まれた。

 敵も味方もその光景に見入っていた。あるものは恐慌を起こした。あるものは震えた。あるものは歓喜した。あるものは顔をしかめ威力が予想より低いことをなじった。あるものは是非購入したいとソロバンを打った。

 ガレージを守る各機はしかし手を止めず操縦桿を目まぐるしく操作していた。砲撃が止んだのを合図にして近距離に肉薄してきている外敵に銃をぶつけていくのだ。

 バーラットが砲撃が止んだことを見計らい、各機へ通信を繋いだ。大規模な部隊を率いているという彼女が指揮を執るのはある意味適役であった。

 バーラット機の頭部ではアンテナとは異なる装置が高々と掲げられていた。レーザー通信装置である。

 核爆発後の電磁パルス下においても通信を可能とするそれは、バーラット隊の無人機を中継して本隊と繋がっていた。バーラット機が指揮・通信能力を重視して特別に改造していたことが功を奏した。

 

 ≪バーラットから各機。敵砲撃部隊の壊滅を確認した。わが隊により侵攻部隊の補給線及び侵攻後退線を断つ≫

 

 バーラットから送信されてきた画像データがメインモニタに投影された。

 敵の外周を襲撃して孤立させることで状況を押し返すという作戦である。

 苦々しげな気配を滲ませ雷電が無線に言葉を投げかけた。彼の部隊はおそらく間に合わないであろう場所にいるためバーラットに頼るしかなかったからである。

 

 ≪バーラット部隊にできるものかね≫

 ≪舐めて貰っては困る≫

 

 一方彼女は雷電に熱視線を送っていた。正確には背中のOW『富嶽』である。戦いが終わったら購入したかったのである。もし雷電が死んだらどさくさに紛れて盗もうと考えていた。

 核兵器の使用による外周部隊の壊滅。その影響はガレージ側に希望を与え、所属不明軍に絶望を与えていた。士気の低下は、戦力に劣る防衛側を活気付かせた。

 彼女は一種の楽観を抱いた。勝てる。そんな気がしたのだ。しかし手は抜かない。全力で潰すつもりであった。

 短時間とはいえ共闘してきた5機の動きが機械式腕時計かくや噛み合い始めた。

 

 

 ――――――-――

 

 

 その兵士は憤っていた。

 領土拡大や迎撃など意義のある武力行使ならまだしも上層部の政治でやむを得ず攻め込んだ挙句核兵器による反撃を受けてしまった。投入戦力をケチった結果がこの有様である。もし万全を期するなら砲を増やし混乱させたところでACによる強襲をかけるべきだったのである。敵を殲滅したいが戦力を失いたくないがゆえに中途半端な物量となった。敵からすれば相当な物量に見えただろうが、実態は違った。

ある意味では負けがわかっていた。だから兵士はAC戦力の投入を現場の判断として止めさせた。

 兵士は、メインモニタに投影される照準を元に狙撃していた。敵防衛設備の破壊。敵ACの狙撃。距離が遠いため直射は狙えないので曲射なせいか引っ切り無しに動き回るACには当たらない。

 その兵士は、己から離れた地点に濛々とそそり立つキノコ雲を見上げた。メインモニタに映り込む光景はまさに地獄であった。集団で固まっていては狙い撃ちにされると先読みして岩場に陣取っていたのが不幸中の幸いであった。もし核の直撃を受ければACとて無事では済まない。

 その兵士が駆るACがスナイパーキャノンを投げ捨てた。地面には数多くの狙撃兵装が転がっており薬莢が山を作っていた。兵士が今の今まで狙撃をし続けてきたことを示す証拠である。

 普段ならばその兵士はスナイパーキャノンをパージする際に丁寧に地面に置くのだが、やらずに投げ捨てた。感情の発露が許さなかったのである。

 兵士は、無線を繋いだ。

 岩場から離れた位置。土気色の擬装用布を被って隠れていたACが僅かに身じろぎをした。

 

 『出番だ雇われ。俺の代わりに時間を稼いで来い』

 ≪そのような言葉遣いをしてはなりませんよ。よい、吾が直々に参りましょう≫

 

 兵士が殿に指定したのは、素性もわからぬ、顔の一部を火傷した女の傭兵(ハウンド)である。契約時に吾には記憶がないと抜かしていた怪しげな女であるが時間稼ぎにはちょうど良い。

 兵士は待機していた別の部隊に命令を下そうと無線を開いた。

 

 ≪傭兵が目標に接近する。支援しろ。……無駄に死に急ぐことはない。傭兵だけいかせろ、いいな≫

 

 

 ―――――

 

 

 グライドブーストで肉薄すれば、戦車の砲撃を真正面から受け止めながらも、跳躍する。回転砲塔が必死に仰角を取ろうとするのをあざ笑うかのような高速で落下して踏みつぶせば、滑空砲を脚部で下に折り曲げてしまい、ハッチ目掛けて標準型ライフルを一撃した。

 完全に沈黙した戦車を土台に隊列を組んでいた戦車たちへライフルとバトルライフルの応酬をくれてやり、撃破スコアを稼ぐ。

 リコンに感あり。3。距離200。核爆発、砲撃、それらの影響でリコンの探知範囲が狭まっており、リコン自体が頻繁に破壊されるため、至近距離になってようやく探知する状況であった。視界も爆発炎上した多数の兵器があげる黒煙のせいで極めて悪い。

 人工のスモッグを掻い潜って、ACに匹敵する移動速度を誇るというAS-12シリーズ――AS-12L AVES/LとF21Cの優れたペイロードを利用した武装型B-44 ROKHの編隊がガレージに襲い掛かった。

 三機が一斉にミサイルをばら撒く―――レッドステインへ。

 数にして二桁という大量のミサイルを前に標準型ライフルとバトルライフルによる迎撃を試みるも連射性に欠けるために数発しか叩き落とせない。被弾を覚悟した刹那、横合いからバーラットの中量二脚型が飛び出して来るや、ショルダーユニットのCLWSで弾幕を張った。爆発。

 助けてくれたのか? 否である。バーラットは味方機が撃墜されることによる戦力減退を避けるべく動いただけに過ぎない。

 

 「ちっ!」

 

 彼女は舌打ちをした。ペダルを蹴る。跳躍。逆間接型の特殊ブースタが唸りをあげて上方への推進力を作れば、レッドステインの赤黒い肉体が低層ビルの屋上を飛び越せるであろう高度に達する。慌てて回避に移ったAS-12L AVES/Lの一機にバトルライフルの大口径をくれてやると、スラスタを吹かし平行方向にずれる回避で危機を脱した―――と思い込んでいた機に小型ミサイルを三連射した。ミサイルがショルダーユニットから飛び出すとレーダー反射波を頼りにくねくねと頭を振りつつ接近して衝突、叩き落とした。

 レッドステインの攻勢をいなしたB-44 ROKHへ、雷電機とヴィクター機による狙撃が行われる。正確性には欠けるが威力に富んだキャノンと、取り回しにかけるが正確性と威力に富んだスナイパーキャノンの猛攻。武装強化されたとて所詮はヘリである。泡食ってチャフ・フレアを放出すると、左右にふらふらとランダムに機動しつつ、逃げていった。

 通信。

 

 ≪バーラットから各機へ。敵が退き始めている。もう少しだ≫

 

 バーラットの言葉を見事に裏切るがごとく、B-44 ROKHの真下を高速で通過した機体があった。

 色違いのパーツ。ボロボロの装甲を別の金属で補ったツギハギだらけの機体。保持する武器もお古なのか目に見えて傷と汚れが目立っていた。重量四脚型。両手にスナイパーライフルを持っている。KEとCE防御に重点を置いたパーツ構成である。

 五機相手に中古の一機で立ち向かう。このような行為は通常勇敢ではなく蛮勇という。

 しかし腐ってもAC。一般兵器を歯牙にもかけない性能を誇る以上看過できぬ。

 リコン探知網にかかった不明ACに、ガレージの見張り塔の高度と四脚型特有の優れた滞空時間を活かした空中戦でヘリを制していたリーンホースが第一撃を喰らわさんと駆けた。

 ズバァン。ショットガンの軽快なドラムをベースにガトリングが鼓動を刻む。

 ショットガンを喰らいながらもジャンク機は頭上のリーンホースに向かって両手のスナイパーライフルを斉射した。二発のAPFSDSがリーンホースの脚部ブースタノズルを掠る。

 リーンホースが落ちる。オートブースター機能を停止して、重力と慣性に従いジャンク機の頭上を通り越す。着地と同時にハイブースト。軽快な軽量四脚型の特性を活かした緊急旋回。四つのつま先が大地を噛み火花をまき散らした。

 ジャンク機が、あたかも翼を広げる猛禽のように両腕を直線状に並べた。片やリーンホース。片やガレージ中央で対空戦闘からジャンク機排除に行動を移そうとするACたち。

 ジャンク機のスナイパーライフルの照準用カメラがピントを絞った。再装填。準備完了。

 雷電やバーラットは、撃つことができなかった。なぜなら射線上にリンホースがいるからである。ジャンク機は同士討ちという盾を利用したのであった。

 スナイパーライフルが唸りを上げた。放たれたAPFSDSがリーンホースの腕部装甲の弾性限界を超えて圧力をかけた。ブロック状に配置された装甲が砲弾の侵入に合わせ自動で砕け最悪の事態を回避した。

 射線が重なっていては誤射の危険性がある。ジャンク機以外が動けない。だが別の射線を確保できるACがいた。

 大地に張り付いたままのACの中でも特徴的な赤黒い塗装の機体が跳躍すれば、斜め上から弾丸をばら撒いた。

 標準型ライフルと速射型バトルライフルの弾幕をジャンク機はステップで回避する。機体中心軸を狙った弾幕のうち、バトルライフルはリアクティブアーマーに阻害されたが、ライフルは見事右前足の上面を叩いた。ACのような兵器にとって上面装甲は戦車ほど薄くはないのだが、前面装甲と比べればやはり薄い。

 被弾しても四脚特有の安定性で踏みとどまったジャンク機へ、レッドステインが一直線に伸し掛かっていく。ACの脚部は運動性と機動性の要である。ジャンク機は再装填が完了したスナイパーライフルの銃身に角度をつけた。

 彼女はしてやったりと笑った。

 

 「そうはいかないんだよ!」

 

 ハイブースト。スナイパーライフルから放たれる直線を躱し、着地。接近戦に持ち込もうとした。

ところが敵はスナイパーライフルという接近戦には向かない武器を持っているせいか、多勢に無勢を理解しているのか、グライドブーストで後退をしつつレッドステインを迎え撃った。後退しながらの射撃には、いくつかの対応を迫られる。接近するか距離を取るか――。

 彼女が選んだのは、ショルダーユニットの小型ミサイルを連射することであった。計四発がショルダーユニットから射出されるや僅かに放物線を描いて迫る。

 ハイブーストによる回避で一発を躱したジャンク機だったが、全弾回避はできず、三発があわやコア直撃というところで右腕を犠牲に大破を免れた。装甲がめくれ上がった。スナイパーライフルの銃身が妙な方向に曲がり薬室が爆ぜる。ジャンク機はグライドブーストを止めて大地を削りながら静止すれば、役に立たなくなったスナイパーライフルを投げ捨てた。

 オープンチャンネルによる通信波が戦場を伝わった。

 

 ≪吾の実力では足止めが精一杯。残念ではあるが致し方がない……皆の衆、縁があればめぐり合うこともあろう。ごきげんよう≫

 

 無言で、ヴィクターがスナイパーキャノンを撃った。あらかじめ発射されるであろうタイミングを見切っていたのか、ジャンク機が踊るように大地を踏みしめ、右腕を庇い右に旋回することで投射面積を減らし躱せば、スナイパーライフルをレッドステインに投げつけてグライドブーストで逃げ出していく。

 

 「っ……野郎!」

 ≪レッドステイン、待て。深追いは禁物だ。既にバーラット部隊が敵の追撃を開始している。我々が出る幕はない≫

 

 思わず後を追いかけようとした彼女へ、バーラット機が釘を刺した。

 五機それぞれが装甲に傷を負っており、弾薬も心許ない。深追いして逆に包囲されては元も子もない。ならば所属不明軍を包囲追撃できる可能性があるバーラット部隊に任せる方が確実である。

 敵が徐々に引いていった。もっとも足の遅い陸戦部隊のほとんどが五機の活躍を前にやられてしまっており、実質航空部隊の撤退なのであるが。

 ともあれ今日も生き残ることができた。

 彼女はほっと溜息を吐きヘルメットのバイザーを上げて顔の汗を拭うと、おもむろにウィスキーボトルを取り出して中身を啜った。

 喉の粘膜が焼ける味がした。

 

 

 




核を使うことに抵抗がないのはヒャッハー世界観だからだとおじいちゃんが言ってました嘘です


誰が主人公だかわかんない回。
単独プレイが基本の旧シリーズとは違った協力プレイが特徴のACⅤだからこそだと思います
今回はあのキャラや部隊を登場させてみたりしました
某女性生存説は私がここででっち上げてみただけなので公式設定でもなんでもないです
彼女のスピンオフで一作仕上げてみたいくらい声と喋り方が好き

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