ARMORED CORE V ―OASIS WAR―(改訂版)   作:キサラギ職員

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8、The Giant(後)【傭兵ルート】

 爪を有する触手が高く持ち上げられるや、振り下ろされた。

 触手だけでも、その占有する面積はACを凌駕している。巨体が発揮する破壊力はACを一捻りにするだけはある。回避にしくじれば末路はミンチより悲惨である。

 

 「くそっ!」

 

 ハイブースト。機体自体とコックピットのG軽減でも殺しきれないGが肉体をきつく縛る。毛細血管が何本か狂う感覚が走った。

 青いメインカメラが残像を描く。

 辛うじて回避に成功するも、すぐ前に突き刺さったそれだけの反動で機体が安定性を欠いてよろめいた。刹那、触手の先端が触れる地面が白熱して、炸裂する。岩盤が溶けていた。もし機体に食らっていれば、溶けていたのは地面ではなかった。

 ただ逃げるだけのフレイムスクリームに、巨体の頂点に値する部分に設けられたハッチが次々と開くや、自立追尾機能を有した誘導弾を無数に放った。それらは四方にばらけて飛んで見せたのち、一斉にフレイムスクリームの元へと集束していく。代表とレジスタンスの戦いで初めて一般の目に晒された無人兵器である。通称『POD』。対戦車ミサイルと同等の速度ながら、旋回性能はそれを遥かに上回り、簡単な障害物ならば自ら回避するばかりか長距離巡航能力さえ有する時代にそぐわぬ高性能兵器。

 着弾まで二秒。迎撃は間に合わない。誘導兵器の旋回半径の内側、追尾の向こう側に逃げ込まんと、グライドブーストを起動。更にハイブースト。ノズルが偏向し、大気を叩き割らん勢いで推進炎を吹くや、赤黒い機体に推力を与える。

 PODの執拗な回避をいなしたと安心した刹那、通り過ぎたはずの群れが空中で尾をくねらせて向きを変えると、尾の根本のコーンスラスターに一段と大きな火を灯して三角錐型の頭部を突き立てんとした。彼女は対応に迫られた。更にハイブーストを吹かし、なんとか被弾を一発までに抑える。

 三角錐型の頭部が命中するや、コーンスラスター全てから噴出炎を吐き出しつつ穿孔器のように回転しながら装甲に潜り込む。

 

 「KEM(運動エネルギーミサイル)!? いや、こいつは!」

 

 危機を感じ叫んだのもつかの間、装甲に頭半分をめり込ませたそれがさく裂した。装甲がめくれ上がり変形する。爆発にたたらを踏むも、その勢いを利用して滑走すれば、コンテナひき肉にしながら巨大兵器の足元に潜り込んだ。

 

 「そううまくはいかせてくれないか!」

 

 だが敵兵器は足元に潜り込まれることを考慮した設計がなされており、甲羅の下側にはずらりと機関砲が生えていた。およそ人間相手に使うとは思えぬ大口径の近接防御火器群。機動兵器による接近戦への対抗措置。

 火線が殺到して、フレイムスクリームの上部装甲へ次々落ちる。KE、すなわち物理エネルギーへの備えを重視した腕部が機関砲のタコ殴りにあい、悲鳴を上げる。ショルダーユニット動作不良。装甲が剥げ、内部への侵入を許す。

 警告表示。ペダル操作。操縦桿を捻り、真上からの射線に身を捻る。

 ハイブースト。コンデンサー残量、50%を切った。偏向ノズルがきゅっと排出口を絞るや、また開き、一際大きな火を吐き出す。

 ACとは三次元戦闘を得意とする兵器であるが、決して飛行能力に長けた兵器ではなく、障害物を利用した、いわゆる三角機動を主とした兵器なのである。よって、おそらくは本体であろう甲羅のような部分は、高すぎて届かない。足場さえない現状、射撃するしかない。

 では、ちまちまと撃つしか打倒する手段はないのか? 

 というわけではない。

 彼女が狙ったのは巨大兵器の脚部だった。

 三本のうちの一本に肉薄、空中でオートブースタを制御。緩やかな回転からの腰の捻りを脚部に乗せた変則的な回転蹴り。

 

 「三本もあるなら、一本くらい、くれって!」

 

 蛇腹状機構によって可変する触手に凹みが生まれた。そこに、ガトリングの銃身を接触させれば、引き金を絞る。弾が極々短間隔で吐き出され、触手の強靭な合金を叩く。火花で鉄肌が包まれ、わずかに金属が剥がれて宙に浮く。貫通できない。ガトリングの貫通力では零距離でも装甲を穿てない事実を認識する。

 ―――なんて強度!

 舌を巻く。ついでに打った。

 巨体がわずかに怯んだのを見逃さず、追尾してくる機関砲の射撃を脚部に隠れることでいなし、別の脚部が爪で捕まえんとするのを目ざとく見つける。爪で掴まれば、熱線を超至近距離で浴びて瞬時にあの世行きが確定している。

 当たらなければどうということなどない。強力な火力と装甲があっても、敵に攻撃を当てられなければ意味などない。

 爪が開き、その鋭利な先端を突き立てんと、触手を横薙ぎにするようにして迫ってくるのを見れば、あえて接近する。センサーの警告を無視する。敵が接近して、攻撃を仕掛けてきています。そんなことはわかっているのだ。

 ガクンと機体がつんのめる。前面ブースタと脚部によるブレーキ。汗が額から離れてヘルメットのバイザーに滴る。前に対する相対的な重力が去り、地球の重力が戻れば、バイザーに付着していた汗が顔に飛び、下に垂れた。

 爪は目標が急減速したことに目的を達成できず、宙を掻く。ガチン。爪と爪が接触して金属音を鳴らした。諦めてなるものかと爪が再度開くと、内部に仕込まれた熱線発射装置を輝かせた。高温度を纏った金属が、乾いた大気を揺らめかせている。

 

 「ここ!」

 

 バトルライフルの照準を合わせる。ライフルの照準用カメラがピントを搾った。照準レーザーによる測定完了。反射光の強弱とパターンから距離を測定、誤差修正。射撃開始。一発。熱線発射装置に刃を突き立てたHEAT弾がその防御を穿ち、内側に貫徹する。小爆発が生じた刹那、爪が閉じ、しかし溢れんばかりの黒煙が触手の先端から漏れ出した。

 会心の一撃。

 やはり装甲は厚いが、内側は脆い。これは兵器に限らず生物にも当てはまることである。

 だが致命傷にならなかった。ガシャン、と何らかの固定が外れる音がすると、損傷したであろう熱線発射装置が触手の先端の穴から外に放棄されたのである。

別の触手が地面に踏ん張り、もう一本の触手が高速で爪を振り回す。

 ハイブーストで躱す。触手の進行方向に対して後退しては追いつかれるので、横に動いて、危ういとこで逃れる。動きは大きく、エネルギー消費も激しいが、触手は攻撃する際に爪をある程度の範囲で広げてくるので動きを大きくせざるを得ない。

 

 『機体がダメージを受けています 回避してください』

 「わかってる!」

 

 しかし小回りの利く機関砲の射撃は、触手という物体が障害物になっても、狙ってきていた。時折、コアや腕部を弾が叩き、そのたびにダメージを意味する文字がメインモニタに踊って被弾箇所を示す。装甲を貫ける威力ではないが、ボディブローのようにじわじわとACの継戦能力を削っていた。

 回避を行うと見せかけて、ハイブーストを僅かに吹かし、触手が進行方向先に刺さるのを誘発する。出来上がった即席の足場に取り付くと、抱きついてやった。

 巨大兵器は触手に取り付かれたことが気に食わないらしく、しっちゃかめっちゃかに振り回した。

 操縦桿を操作。出力を上昇、腕力および脚力で触手の振り回しに耐える。AC特有の急加速急減速とは比べ物にならない、まさに巨大な鞭の先に括り付けて振られているような、熾烈なるG。5mを構成する金属部品の質量分が振り回しという重量を加算されて腕部パーツと、しがみつくために引っかけた脚部に荷重され、関節とモーターが悲鳴を上げる。

 しかし腐ってもアーマード・コア。陸の王者。地底からやってきた化け物の振り払いに堪え、逆に勢いを利用して上空に跳躍した。重量感ある脚部がしなり、触手の振りをバネにして、甲羅の上に機体を運ぶ。

 

 「この距離なら………ちっ」

 

 フレイムスクリームが甲羅の上部に銃を突きつけた瞬間、甲羅中央部から何かがせり上がった。自律型の自爆兵器――――通称『AMMON』。咄嗟に撃ったバトルライフルの弾丸が一機の目玉をくり抜き落とすも、二機三機とハッチからはい出てきて距離を詰めてこられた分に対処などできるはずもない。

 

 ――――衝撃が全てを占領した。首の中央に僅かな痛みが走った。

 

 「く、……は」

 

 メインモニタが白亜に染まる。脳髄が抜け、内臓が潰れる、そんな錯覚さえ抱く、大爆発にフレイムスクリームの肢体は空中へと突き落とされた。自動で姿勢制御を取るも、続く触手による殴打は反応が間に合わず、空中をでんぐり返って地面へと落着した。自重と重力および勢いが一体化した打撃が機体を傷めつける。数回横転をした機体は、コンテナの群れに突っこんで静止した。戦闘で発生した熱で、フレイムスクリームは揺らめく空気の衣をまとっていた。

 ピクリとも動かなくなった敵機に止めを刺さんと、巨大兵器は三つ並んだ眼球で見下ろした。熱線発射装置が作動し、大気が揺らめき始める。排気口から獣の咆哮が響き渡った。

 ――――オオオオオオオオオン……!

 

 『脚部中破』

 『回路断線 パイパス開始』

 『警告 高エネルギー反応検知』

 

 メインモニタに映る警告の文字も、彼女にはわからなかった。

 自爆型の特攻と触手の一撃は機体の中で最も柔らかく壊れやすい彼女の体に耐えがたい衝撃をもたらした。瞬間的に発生した10Gを超える加速度が血管などに圧をかけ、一時的な失神状態に陥ったのである。むち打ち状態でもあった。

 だが朦朧とする意識の中でも不思議と操縦桿などの物体やモニタの意味は理解することができた。Gを感じ取る肉体という器官とは別に、情報を処理する脳が別の安全なところに居るようだった。無論、錯覚、幻覚の類に過ぎない。間違いなく脳は頭蓋骨の中に納まっているのだから。

 虚ろな眼球が見るのは、暗い視界。AC側がブラックアウトを悟って映像の光度を上げているとはいえ、脳が映像を正確に把握できないでいるため、不鮮明なノイズがちらついていた。

 巨体の眼球が太陽よろしく大閃光を宿し、今にも破滅の熱線を放とうとしている。

 巨大兵器はまさに鉄壁である。対空対地戦闘には誘導兵器と熱線。接近されれば機関砲と触手による近接格闘。上からも下からも攻められてもよい設計。何よりACを子供扱いするだけのパワーがある。

 

 「…………」

 

 意識が透き通っていく感覚。カチリ、と何かのスイッチが入った。脊髄反射的に操縦桿を操り、ペダルを蹴る。例えばプレス機を操作する作業員のように、例えば雑踏に立ち尽くす人物のように、海流が意思を持たずただ流れるように、入力される情報すべてが環境音に変貌して、自分だけがそこにあるという奇妙な感覚である。

 熱線を躱そうともせず、ロケットを発射。しかし迎撃機能らしきエネルギー弾が三つの発射装置の手前に展開し、ロケット弾を事前に破壊した。ならば寄ればいい。発射のタイミングを完全に読み切っているとでも言わんばかりにコンテナをガトリングで払い、後退する。壁にたどり着いたところで触手の応酬。それを手馴れた跳躍で足元に潜らせれば、ガトリングで触手の装甲に傷をつけながら取り付き、甲羅へと跳んだ。

 空中で姿勢を調整、腰を引き、目一杯の力を乗せた蹴りを中心の眼球を狙い、丸みのある膝をぶつけた。防御用の透明板がひしゃげ、さらには内側の装甲までを潰し、熱線の発射装置に致命的な損傷を与えた。

 蹴りの反動で大地に降り立ったその機体は、迷うことなくOWを起動していた。『HIGH FLAMETHROWER』。規格外の高温を発生させ敵を焼き殺す破壊兵器。対物破壊するには向かないが、活路がある。彼女はそう判断した、否、そう直感していた。まるで自分と機体が一体化したような恍惚とした気分で。

 メインモニタにノイズがちらつき、警告の文字が躍る。

 逆流制御モノリスから淡い電流が舞った。

 

 『不明なユニットが接続されました』

 

 追加で操作。OWがACの管制システムに不正侵入する間際に、機体のドライブシステムに命令する。リミッター解除。乗員の生命維持を顧みない、アーマード・コア本来が持つおぞましい力の解放。解除すれば強化人間とて耐えられるか分からぬ殺人的な機動が行えてしまう。OWによりシステムが不安定になっていることを利用した強引な解除である。

 エンター。入力完了。ACのコンディションを示す3D像の右隅にリミッター解除の証。同時にOWがジェネレータなどの機器を乗っ取って、出力を設計限界まで向上させた。機体駆動系、ブースター、出力、全ての制限から解き放たれたフレイムスクリームのありとあらゆる部位から蒸気が噴き出した。

 メインカメラがサーチライトかくや輝くや、脚部や腕部の装甲のいくつかが爆砕ボルトによって強制排除された。冷却能力不足が自壊に繋がると機体が判断したのだ。

 混乱したOSがHUDを誤動作させて、一度は畳もうとしたが、すぐに戻した。

 

 『リミッターを解除しました』

 『システムに深刻な影響が発生しています ただちに使用を中止してください』

 『リミッターを再起動してください 危険です』

 『システムに深刻な影響が発生しています ただちに使用を中止してください』

 『リミッター強制再起動します……待機してください』

 『リミッター再起動できません 不明なユニットの使用を中止してください』

 『システムに深刻な影響が発生しています ただちに使用を中止してください』

 

 機体とOWが格闘している。機体は不正なユニットの排除を。OWは不正な手段で機体に己を使わそうとする。

 OWのアームが武器を取り上げ、背面に持っていく。HIGH FLAMETHROWER本体は右にずれてアームの空間を稼ぐと、四本並んだボンベ型パーツを背面に張り出させた。

 コンデンサーが蓄えるエネルギー量表示にバグが発生。メーターが振り切れた次の瞬間には消えてなくなる。

 ペダルを踏む。人間という脆いパーツの耐久性から解放された機体各部のブースターが、通常時の比にならない火炎を外界に吹いた。重量二脚型ACではありえない、軽量二脚型のグライドブースト使用時にも勝る速度が発生した。

 巨大兵器が熱線照射装置から光線を放とうとして、目標がコンマの間に消えたことに気が付き、自立型誘導兵器を無数に放った。リミット解除状態にある機体はしかしPODの探知の網にかかった。大地に降る雨のように、PODが赤黒い巨人に落ちる。蛇のように尾をくねらせ、頭を振って、鉄屑を作り上げんとして。

 だが、当たらない。巨人は速度という単純な数字でPODの追尾から免れたのだ。

 採掘場を一直線に飛行していく、火炎の塊。PODはその追尾性能を発揮できない。まず追いつけないという現実が障壁となり、巨人を守ったのだ。

 採掘場の壁面に身を擦りながらも、巨人は、ジャンプ台から跳躍したスキー選手のように空中高く飛び出した。壁が台となったのだ。空中で膨大なエネルギーを消費しながらハイブーストを唸らせ、グライドブーストと複合した直角機動で巨大兵器の捕捉を誤魔化す。

 右、そして左。人間の肉体の限界を易々と超えるGが彼女に容赦なく牙を突き立てる。眼球の奥が、内臓が、毛細血管が狂っていく。裁断されていく。大脳が揺れ、頭蓋骨に何度も何度もぶつかっているよう。表示されるGの数値は二桁を常に突破していた。意識を保てていること自体が奇跡としかいいようがない。

 右腕に火炎放射器の発射装置がやってくると、背面部のボンブ四本が底辺の接続部を起点に四方向に花開く。銃身と腕部が金具でロックされると、引き金の保護装置が外れてマニュピレータにかけられた。火炎の主材料である燃焼液を運搬するためのパイプが背面部からせり出てきて接続。自動で放熱板が開き蒸気を吐く。液剤だけをかける火炎放射器なら放熱装置など粗末なものでよいが、腐ってもOW、ただの火炎放射ではない。それこそ発射時の熱量は他のOWの引けを取らない。

 しかし、火炎放射器で外側をこんがり焼いたところで小破がいいところであろう。もし狙うならば、そこしかなかった。爆竹を手のひらで爆発させても火傷を負うだけだが、爆竹を握ったまま起爆させればその手は一生使えなくなる。

 巨大兵器が残された二門の熱線を放たんと頭を傾け、咆えた。強制排気が奏でる不協和音。視界が熱線発射前の閃光に埋め尽くされ、虹彩がキリキリと窄むのを体感した。

 冷却が間に合わず秒を超えるごとに機能不全個所が倍増していく愛機の警告の一切合財を頭から消して、待つ。そう、敵の攻撃を。

 巨大兵器が触手の二本を地面に接触して、残った一本でフレイムスクリームを捉えんと、上段から下段に振り回す。

 相手は無人機であると彼女は直感していた。もし有人機ならば、誘導兵器と機関砲の弾幕を展開して距離を離すように誘導して、熱線で焼き殺すという戦法を取ればいい。フレイムスクリームの搭載兵器がろくに装甲を貫けないのだから、何も懐に飛び込ませる必要などなく、熱線で歯牙もかけずに薙ぎ払えばいいのだ。にも関わらず巨大兵器はフレイムスクリームがやってきたから迎撃しているだけのようで、戦術性を感じられない。まるで機械のようだった。

 近くの敵に触手を叩き付ける。この思考ルーチンを攻撃の中から解読し、逆に利用する。

 触手が爪を開いて真上からやってくるのを、あえて殴られる。接触の瞬間に吹き飛ばされる方向へブーストを点火。採掘場の壁面にめり込む速度を得て、機体ごとぶつかる。斜めにそそり立った壁面を得た勢いで駆け上がるや、斜め上方に向けてカタパルトよろしく飛翔した。水平飛行しかできないはずのACが装甲を何枚も失いながらも空を飛ぶ異常な絵が出現したのであった。

 熱線が、地平線へ放たれた。大気中の塵が熱エネルギーに晒され空気の構成成分と化す。

 だが中央の一門は先の接触で破壊されており、電流を垂れ流すだけ。二門は中心の一門が作り出してしまった隙を埋めることなく直進する。至近距離を焼き尽くした白亜の濁流が、命中すらしていないフレイムスクリームの装甲表面を泡立たせ、融解させた。

 壊れた砲門に肩からぶつかる。円形型のそれにACという巨体が突っ込み、縁を削った。強引に火炎放射器の銃身を中にねじ込むや、巨体が身をゆすって振り落とそうとするのにも構わず引き金を落とした。

 火炎放射器が竜となった。重武装をした騎士たちを諸共炭に変えてしまう温度を秘めた燃焼反応が、熱線照射装置を遡る。銃はマガジンから外に弾丸を出す道具だが、銃口から弾を入れる道具ではない。熱線照射装置は、ほぼプラズマ化した数千度超の火炎を受けて瞬く間に溶け、液体となって防御力を喪失した。行き場をなくした火炎は巨大兵器の甲羅の内部まで浸透し、制御中枢を焼き切った。排気口の可動フィンがとろけて液体状になった鉄を垂れ流す。誘導兵器のハッチが爆発を起こして装甲が弾ける。触手の付け根は気味の悪いうめき声を漏らすと、力を失い、本体を大地に投げ出した。巨大兵器は最後に熱線照射装置から火を噴くと、どっと大地に伏したのであった。

 

 『リミッター再起動完了』

 

 火炎放射器が、背中に帰っていく。四本のボンベは花が眠りにつくように纏まると、元の位置に滑る。砲身は右腕とのロックを解除してやはり背中に戻っていく。ただし放熱板は開きっぱなしで、右腕も熱が高すぎたのか動作せず、OWのアームが武器を渡しても受け取ることすらできない。UBR-05/Rは数十m下に落ちた。

 機体損傷、OW起動、リミッター解除。三重苦を背負わされた機体はまさに満身創痍であった。右腕は熱と損傷で動作せず、脚部やコアの装甲は大部分が剥げ、肝心の脚部は乱暴な衝突と機動によって歩行さえままならない。自力で採掘場を脱するのは無理であろうことがモニタ表示で分かった。

 濁った意識が正常に戻りだした。機体と一体化したような高揚は引き潮のように去って行って、残るのは筋肉と腱の鈍痛と、吐き気だけ。平衡感覚がない。操縦席に腰かけているから、辛うじて天地の区別ができるだけであった。遠心分離機に座席をつけて、小一時間回され続けたら、こうなるであろう。

 最悪の味がした。塩酸と甘さが出会って生まれたえぐい味が。胃液が逆流して、ついでに内容物まで出てしまったようである。喉が日焼けしているようだ。

 

 「死ぬ……吐くう………いや吐いた。最悪ッ」

 

 絞り出した声は擦れていて、ぜえぜえとため息がついで出た。

 げっそりやつれた顔から、出血があった。すっと通った鼻から一筋の血が垂れて肌を汚していた。ヘルメットを取ることはできない。舌で舐めて間に合わせる。

 彼女は事前に雇っていた回収班を呼ぼうと無線を操作して、息を飲んだ。

 コンディション異常。ブースターユニット動作不良。停止。

 丁度、巨大兵器の熱線照射装置があった座標からゆっくりと降下していた機体が、加速度的に地面に近づく。

 刹那、フレイムスクリームの背後でブースタが炸裂、OWが接合部から外れた。前につんのめる。OWがパージを想定していない武器が故の悲劇である。

 突然バランスを失った機体は減速の術さえもがれて空から落ちていった。翼を抜かれた鴉が飛べるはずもない。

 

 「メインブースターがイカれ………、ぐっ、だめ、飛べない!?」

 

 叫んだ言葉は虚しく操縦席に消えた。

 フレイムスクリームが自動で腕と脚を折ってコアを守った。

 だが非情にも機体は重力という自然の理から生える無数の手に引かれて大地に猛速度で体当たりされたのであった。

 今度こそ彼女の意識は途切れた。

 




POD(主任の素敵なプレゼントから出てくるクネクネ誘導兵器)の設定絵を読んで笑った
「ドルルルルルル」

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