ARMORED CORE V ―OASIS WAR―(改訂版)   作:キサラギ職員

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The Hound of Death:死の猟犬 アガサ作品


7、The Hound of Death 【傭兵ルート】

 ガイガーカウンターが常時鳴りっぱなしだった。

 外に出ようものならば血を吐いて死ぬであろうほどに大地は放射能汚染されつくしていた。大気中にはかつての戦争の名残である重金属が漂っている。空に太陽は見えない。黄色、灰色、を合成したような濁りが蓋をしており、それは昼夜を問わず空をみせようとはしない。メインカメラから望む大地にはエメラルドグリーン色の水たまり。四方には掠れた黄色と黒の三つ葉マークが刻印されたドラム缶が無造作に廃棄されている。昔、燃料タンクとして使われていたらしき球状の物体の傍らには、ヘドロと赤錆にまみれた大型輸送機の残骸が伏していた。

 かつて人は戦った。冷兵器、核兵器、生物兵器……考えられるありとあらゆる愚かしい行為が実行に移されたという。もはや当時の詳細な状況を記憶するものなどいないのだが、ともあれ、世界中が汚れていた。放射性物質以外にも未知の汚染物質が発見されており、汚染から遮断できる装備を持たぬ者は即座に死に至る。

 ふと視線を上げれば立ち枯れた樹木の並び。昔、地球が清浄な頃は緑色の葉をつけていたであろう生物の名残は、腐って土に還ることも許されず、灰色に掠れた肌を大気に晒し続けていた。腐ることもない。すなわちバクテリアなどの微小生物の一切が死に絶えた、まさに生命のない永遠の砂漠である。もはやこの場では生命は生きることさえ許されない。

 彼女は、機体の浄化装置で塵一つ混入を許さない清浄な大気を吸い込むと、おもむろに一歩を踏み出した。無論、彼女自身の足ではない。鋼鉄製の頑丈な二本脚がである。

 ここは汚染地域。

 かつての繁栄の果て、最後に人が手に入れた、果てしない荒野。

 ここはその昔、どこぞの勢力が補給基地かなにかに利用していたと言われる地点である。資料は乱世の中に失われ、正確な記録を閲覧することはできない。

 問題なのは、ここがどこかではない。なにか、でもない。汚染地域、ということでもない。

 待ち受けるのがなにか、という一点である。

 

 『真実を知りたくはないか?』

 

 なる謎めいた依頼文から始まる仕事の依頼書には、この地点が指定されていた。

 正確には、砂嵐吹き荒れる廃棄施設の奥、であるが。砂嵐が激しく、通常の航空機は近寄ることさえ許されない。仮に接近しても風にあおられ墜落するか、エンジンを砂にやられて航行不能に陥るのがオチである。そこでヘリで途中まで運搬して、投下してもらった。

 万が一、機体が動けなくなった時のための救援の用意も依頼してきてある。契約には一人で来いとのことだが、救援も勘定に含めろとは一文ももかかれていなかったので、問題はないと考えた。

 彼女の居る場所から目標地点までは巡航して二十分近くかかる。

 システム変更。

 

 『システム スキャンモード』

 

 武装、FCSへの給電が停止し、索敵、駆動系、ブースターへエネルギーが優先的に回される。

 さっそく水たまりを避けてブースターで地面を巡航する。汚染地域に限らず、人の寄りつかない危険地帯にはかつて運用されていた兵器が暴走してうろついていることもある。襲撃に備えて遮蔽物から遮蔽物へ身を隠しながら移動するように心がけた。

 装備は、ガトリングとバトルライフルとロケット。背中にOW『HUGE PILE』。彼女の標準装備である。

 本音では今までに収集してきた別のOWを積んできたかったのであるが、整備が済んでいなかったこともあり、HUGE PILEを選択した。まず積むことを前提にしているあたりから彼女の執着もわかろうというものである。

 およそ二十分後、計算通りに目標地点に到達した。

 あまり時間をかけることはできない。生命維持のための酸素やフィルターなどに限りがある。もし生命維持が止まれば棺桶の中で窒息する。これらの装備はACの基幹部のなかでも比較的単純な技術が使われているので交換は容易である。逆説的にはACは核兵器運用化での活動を想定して作られたということになる。

 さしずめサイコロを縦横比を保ったまま引き伸ばしたというべき巨大な建築物と、街の一区画に匹敵する面積を持っていたであろうキャタピラの残骸があった。建物の中、とは指定されていない。すぐそこで真実を教えてやる、ということが契約内容だった。

 だが、何もなかった。少なくとも真実を教えてくれそうな存在はない。看板も、記号も、なんらかの情報機器も。

 にも拘らず感覚が訴えかけてくるのである。この場所は危険であると。

 第六感が疼いた。キルゾーンに迷い込んでしまったのだと。

 システム変更。

 

 『システム 戦闘モード』

 

 程なくしてその予感は的中した。

 正六面体の建物の上に、二機のACが出現した。あらかじめ待ち構えていたのであろう。その両機ともに肩に特徴的なエンブレムがあった。下部は平べったく、中部は女性のくびれのように反り、天辺は同じく平たい円状の面となっており、その上には球体が乗ったという。彼女は知識に乏しく、そのエンブレムが何を示すのかを断言できずにいたが、もし知識のある者がいたらこう言い当てたであろう。

 ――チェスのポーンであると。

 両機の構成は正反対であった。

 正面右のACはタンク型。分厚い装甲。高火力。辺りさえすれば負けはしないを地で突き進む重装甲高火力型。

 正面左は軽量二脚型。高機動、軽火力。当たらなければどうということはないを前提に、敵を攪乱して追いつめる軽武装機動型。

 軽量二脚型のカメラアイが点滅した。経験があった。オープンチャンネルに切り替える。反応あり。相手と無線が繋がった。

 依頼内容では指定地点に到達せよとだけあった。相手が敵とは限らない。なんらかの情報を握っている可能性もある。まず対話を試みなくては、文字通りお話にならない。彼女は会話が苦手な分野ではあったが、ドンパチを吹っ掛けるよりも遥かに気が楽で賢いことを経験上から学んでいた。

 無線は沈黙を刻み続けた。

 らちが明かないと彼女は口を開くと、静かに語りかけた。

 

 『お前たちが依頼主(クライアント)なのか? 私は契約でこの場に行けと言われ、やってきた。真実とやらを知りにな』

 ≪…………≫

 ≪…………≫

 

 三十秒経過。変化なし。ほぼ同じ内容を繰り返してみるも変化がない。

 突然マニュピレータが持ち上がって攻撃を仕掛けてくるということもなく、ただ沈黙している。訳が分からぬものほど怖気を与えるものはない。相手の正体も、目的も、わからないからこそ恐ろしく感じた。

 一分経過した頃、無線に変化があった。

 息が荒くなってきたのである。無線からゼェゼェともハァハァとも付かぬ僅かな空気音が漏れてきて、鼓膜を擽る。うなじに息を吹きかけられているような錯覚に背筋に鳥肌が経った。事実、立っていたであろう。

 呼び出されてみれば謎のACが二機。無線を繋げても返事がない。攻撃してくるでもなければ降伏してくるでもない。

 いい加減ストレスが蓄積してきた彼女が、空にバトルライフルを撃ってみようかとした刹那、変化があった。

 耳がキンキンする笑い声が無線から響いてきたのである。

 

 ≪アハハハハハハハ!! 出来損ないがいるぜ!≫

 ≪やっちまおーぜ!! 俺たちはアイツなんかよりもずっと強い!≫

 

 耳障りな笑い声。もとい、嘲笑。まるで相手は彼女のことを知っているかのような、もしくは見下すべき対象としているようで、支離滅裂な音程にて無線にぎゃんぎゃん音を投げてくる。

 

 ≪いくぞーNo.1!≫

 ≪No.2!≫

 

 二機が動いた。

 彼女は操縦桿に力を込めると、呟いた。

 

 「嵌められたか………それとも……これが……」

 

 敵の――ポーンのエンブレムにNo.1の文字が描かれたタンク型の右部レールガンが俄かに電流を孕み、左部オートキャノンが唸りを上げた。

 まるで相手に見せびらかすように地面を抉りつつ徐々に持ち上げられる射線をハイブーストで易々と躱すと、グライドブースト。敵の懐に潜り込む。チャージもろくにしていないレールガンの弾頭が掠め、射線上にあった鉄塔に突き刺さる。

 敵、No.2がサイコロ型の建物から飛び降りるや、まだ距離が離れているにも関わらず両手持ちのショットガンを撃ち放った。だが、有効射程外で放ったがために空間という緩衝剤に威力を吸い取られる。散弾がフレイムスクリームの装甲に命中するも火花を散らすだけで弾かれる。

 まるで素人ではないか。武器の特性も理解せずに撃つなど、度し難い。

 ガトリングをNo.2に集中。ハイブーストでショットガンの射線から退き、一気に至近距離に寄る。敵は漸く回避に移行した。軽量二脚型特有の軽快な動作で壁に飛びつくやブーストドライブ。横にずれる。遅れてガトリングが壁に弾痕を刻んだ。

 だがしかし、回避は遅すぎた。既にバトルライフルの照準が完了していたのだから。軽量二脚型のコア目掛けてHEAT弾を三連射。No.2、再びショットガンが左右同時発射。HEAT弾の一発を空中で挫き、二発目は跳躍で躱す。

 フレイムスクリームが壁に取り付くや、ブーストドライブ。真上に跳躍。二度目の跳躍で上に登ると見せかけて真横に蹴る。オートブースタが起動し、赤黒い巨体がゆらりと滑る。ボックスブースタが傾いだ。蹴った反動を利用して方角を変えれば、離れた地点からショットガンを撃つという理解不能な攻撃を行おうとするNo.2に牽制代わりのバトルライフルを発射、左側の壁を蹴ってブーストドライブ。無事、建物の屋上に登坂することに成功した。

 この間、建物が邪魔で射撃を行えなかったNo.1は、ただ屋上で待っていた。場所を変えようだとか、No.1を援護しようだとか、まるで考えずにである。

 チャージの完了したレールガンが、フレイムスクリームの上半身が現れるであろう位置に銃口を合わせ、弾頭を放つ。ローレンツ力で加速された弾頭が大気をプラズマ化させつつ建物の角を貫通、地面へ小規模なクレーターを穿った。

 彼女は、敵の思考を先読みしていた。のこのこと現れたところを狙い撃ちするために、屋上に陣取っていたのであろうということを。

 だから、あえて虚を突くことにした。

 壁に取り付いたまま、一拍の時間を置いた。刹那、真上を高速弾が通過した。衝撃に壁の表面が罅割れる。着弾の振動が機体越しにも伝わった。

 今だ。

 ブーストドライブ。Gで胃袋が縮み上がる。

 タイミングをずらして出現したフレイムスクリームに対し、やっとオートキャノンの集束銃身が回転を始めるも、遅すぎた。No.1とNo.2が役割を分担して、タンク型が遠距離から弾幕を、軽量二脚型が攪乱を担当すればあるいは状況の打破が可能だったかもしれないが、全ては過ぎたことである。

青いメインカメラの燐光が、タンクの装甲を舐めるように見遣った。

 赤黒い機体がガトリング、バトルライフル、ロケットを斉射する。マニュピレータが稼働して銃口を掲げ、ショルダーユニットの上部ハッチが開き、発射管が外気に姿を現した。火線がNo.1のタンク型のコアに集束、運動エネルギー、化学エネルギーの作用を発揮した。残弾カウンターがとどまることなく数値の減少を伝える。

 

 ≪ああああああああ!?≫

 

 敵の悲鳴のなんとこそばゆいことか。

 タンク型の両腕武器がガトリングが吐き出す弾幕に、バトルライフルのHEAT弾に、ロケット弾に飲まれ、消え失せる。保持していたマニュピレータが砕け、装甲が剥がれ、爆発に飲まれて曲がらない方向にねじ曲がる。コアに殺到した弾頭らが破壊力を存分に発揮する。分厚い装甲に食らいついたガトリング弾が装甲を削り、HEAT弾が穴を穿つ。ロケットが弾頭をブチ当てるや信管が作動。機体を飲み込まんばかりの爆発を起こす。頭部に殺到した弾列がメインカメラ保護装甲を悉くねじ伏せ内部を暴力で犯しつくした。強化樹脂の破片が、あたかも大気中に投げやられた涙のように煌めく。

 タンクがブーストチャージ。無限軌道が空回りする速度で突進を仕掛けるも、これをドロップキックの要領で躱し、逆にコアを蹴っ飛ばす。安定性に長けるはずのタンクがよろめき、屋上の端まで追いやられた。

 殺気。背後からだ。

 タンク型のショルダーユニットが、ハンガーユニットが作動するのを見れば、背後からの射撃に備えて、あえてタンク型の横をすり抜けて屋上から飛び降りると、背面の壁を蹴って勢いを得、ハイブーストと複合した絶大な速力を持って地面に降着した途端に爪先で向き直る。薄汚れた地面が鉄に研磨され、茶色い埃を巻き上げる。たちまち、突風に煽られて大気の塵と同化した。

 

 ≪殺してやるぅぅぅ!≫

 

 No.2が絶叫した。旧式。身に覚えはなかったが、こちらを格下に捉えているが故の言動というのは理解できた。精神的に不安定な連中に対して対話が通用するとは考えられず、今は戦闘中であるから集中を途切れさせたくなかった。

 そこで彼女はあからさまに鼻で笑ってみせると、バトルライフルで己の方に『来いよ』の合図をしてやった。

 

 『出来損ないだかなんだか知らないが、粗製(ボンクラ)に負けるわけにはいかないな』

 

 見え透いた挑発に、敵機の殺意が炸裂する列車砲が如く膨れ上がる。再び、屋上の敵と、地上の自分という構図。敵機のメインカメラが強く発光した。もっとも、タンク型の頭部はカメラが潰れていたのだが。

 システム変更。敵機体の構成を調べる。

 

 『システム スキャンモード』

 

 高感度カメラに切り替わり、砂埃で薄暗い周囲がくっきりとは言わないまでも、はっきりと映し出された。

 システム変更。

 

 『システム 戦闘モード』

 

 彼女はバトルライフルを軽く投げると、空中で掴み取り、敵に銃身を見せつけた。

 挑発である。実戦経験を積んだ兵士にはまるで通用せず、逆に蔑まれるであろう、行為。相手が精神的に不安定で高ぶりやすいことをなんとなく察知してからの行動である。挑発が様になるのも人型兵器特有と言えよう。戦車や戦闘機は素人目にもわかる挑発を行う術を持たない。急接近、威嚇射撃が関の山である。

 

 「そうこなくっちゃ」

 

 二機が一斉に建物から飛び降りるや、グライドブーストで向かってきた。タンク型が後衛、軽量二脚型が前衛、などの戦術をまるで度外視したゴリ押し戦法をとってきたのである。

 ランチェスターの法則曰く、自軍と敵軍の物量の差が1:2あるとき、比率にして累乗の開きがあると言われている。だがしかし、それは同時に戦闘した場合であり、軽量二脚型が機動性に任せて突出して、タンク型が支援もせずに突進してくるならば、実質的に一対一が二度繰り返すことと同じである。おまけにタンク型は損傷している。彼女にとってこの戦いは弱い者いじめに等しい楽な戦いであった。

 No.2がショットガンを撃つ。散弾が襲いくるも、フレイムスクリームはそれを見越して後進していた。距離で減退した散弾は装甲に弾かれた。

 向かってくる敵の貧相なコアにバトルライフルを発射。引き撃ち。弾丸の速度は低下するが、化学エネルギーに頼るHEAT弾には影響がない。そもそも、相手が向かってくるのであれば、相対的には弾速は変わらないことになる。

 軽量二脚型の装甲に穴が穿たれ、機体が自動で踏ん張ったところにロケットを連射した。コア、頭部がロケット弾頭に抉られる。グライドブーストで得た速力を殺し切れず軽量二脚型はもんどりうって転倒、重力という絶対遵守の掟に従い何度も地面に叩き付けられながら止まった。止めにバトルライフルを一射。

 軽量二脚型を乗り越えて、タンク型が猛進する。無限軌道の四隅からプラズマ炎を噴き、大気を切り裂き、更にハイブーストで速力を増して突っ込む。損傷したマニュピレータにはヒートハウザーが二丁。カシュン、カシュン、と独特の発射音を立てつつ、計十発の榴弾の雨がフレイムスクリームを包み込む。

 グライドブースト起動。速度に任せて敵の弾幕を突っ切る。爆発で機体が動揺するも、重量二脚型特有の安定性と粘り強さでなんとか耐え抜き、牽制でガトリングを連射。タンクの装甲を破るには至らない。狙いは無限軌道。人間の脚部に相当する重要な移動部品に弾丸をばら撒く。スカートに遮られ跳弾したが、No.1が彼女の意図に勘付き、上半身の向きはそのままに、下半身の向きを超信地旋回で捻じ曲げた。

 マニュピレータの損傷により、決して機動性に優れているとは言い難いフレイムスクリームの速力にさえ、タンク型は追尾できずにいた。ヒートハウザーの爆発はどれもフレイムスクリームの後を追う形にしかならない。超信地旋回で追尾しようとしたが既に遅かった。損壊したメインカメラに代わり、性能の低いサブカメラがメインモニタを代用しているのも、追尾が遅れた原因である。

 フレイムスクリームがロケットを連射。バトルライフルの的確な射撃でタンク型の両腕を潰すと、鉄塔に取り付いた。

 

 ≪ははははっ、馬鹿め!≫

 

 敵には両腕を潰されてもなお最後の武器があった。ショルダーユニットのハッチが開くやカウンターガンのライフルに匹敵する威力の射撃が始まった。

 彼女は、あろうことか躱そうともせずに無視した。鉄塔を盾になるように回り込めば、バトルライフルだけを物陰から出し、応射。タンクのカウンターガンから放たれた弾丸が鉄塔に穴を穿ち、ただでさえ脆いその直立を不安定にした。

 フレイムスクリームが、鉄塔にコアをぴったり押し付けるとブースターを吹かした。ハイブースト。5mの巨人が戦闘機動を取るために発揮される推力が、鉄塔を押す力に転用される。脆くなっていたそれは軋みを上げて崩れ、倒れかかった。

 メキメキと鉄塔が折れる。最初、ゆっくり。後、早く。重力により加速度的に横転速度が速まり、根元の留め金が金属的な悲鳴を上げた。

 そして、鉄塔が倒れる。

 ――No.1の機体目掛けて。

 

 ≪あったるわけないだ……!?≫

 

 ハイブーストを吹かし、横に緊急回避したタンク型に対し、HETA弾が二発、吸い込まれる。両肩にへばり付いた大型弾が装甲を害し、ショルダーユニットを潰した。刹那、鉄塔が倒れ、盛大な粉じんが巻き上がり、一帯の視界は完全に一色に染め上げられた。

 No.1が赤黒い機体を見失う。モードを変更した。

 その間隙を縫い、赤黒い機体が上空よりタンクの下半身に飛び乗った。砂煙という煙幕越しに、青いメインカメラが敵を見据えた。数十トンの重量物が上空より落下した衝撃でタンクの装甲が歪む。

 かつん。ガトリングの銃口がぴったりとコアに押し当てられ、モーターが作動、銃身が回転し始めた。No.1の機体が足掻いた。マニュピレータを砕かれ、肩を撃ち抜かれた腕が電流とオイルを派手にまき散らしながら、必死に己の下半身にのしかかった敵を排除せんと向きを変える。が、その出力は不足しており、また近すぎて銃口が相手を捉えることが叶わない。

 

 ≪死にたくな……≫

 『くたばれ(ダイ)』

 

 ガトリングの咢が敵の内臓を咀嚼した。

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 全てが終わった後、正六角形の建物の壁を体当たりで壊して赤と黒二色の塗装をした機体が姿を現した。赤黒い機体は既に味方の回収地点へと撤退しており、後に残されたのは残骸と化した二機のACだけ。

 赤黒二色のACは残骸には目もくれず、フレイムスクリームが去った方角にメインカメラを向けた。

 メインカメラが、硬い保護の内側で引っ切り無しにピントを変更しており、蚊の鳴き声にも似た駆動音を鳴らしていた。

 皮肉なことに、その兵器が出現した場所は、かつて人類が宇宙に希望を見出したころの産物であり重力を振り切って旅立つための基地であった。そしてその、その兵器は過去に製造された化け物だった。未来への希望を踏み越えて、過去の絶望が現れたのだ。

 その兵器は、頭部パーツから伸びるアンテナを格納すると、ゆっくりとその場から去って行った。


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