ARMORED CORE V ―OASIS WAR―(改訂版)   作:キサラギ職員

2 / 33
HOUND 猟犬 卑怯者


1、HOUND

 マスターアームオン。

 グライドブーストオン。

 大柄な赤黒い鉄の巨人の背に青いプラズマ炎が湧きたつや、重量をものともせず浮上した。

 偏向ノズルが姿勢制御のために右左と身じろぐ。

 エネルギー兵器に強い装甲と放熱を考慮した構造をした丸みのある脚が、地を蹴った。たちまち青い火炎は爆発かくや膨張、鉄の塊が動くことを拒む慣性を振り切らんばかりに速度を与える。

 その膨大な推力が鉄の巨人の背中を蹴り飛ばす。ほぼ数秒と掛からぬうちに、赤黒いそれは地上を離れ、最高速度に達した。静止を置いてけぼりにして、白き大気の糸を引く。巨体が瞬きの間にスクラップ置き場から採掘施設の敷居をまたぐ。

 殺人的な加速が耐Gスーツの中の細い体を責め立てる。目玉が脳の中に引っ込んでしまう幻覚すら見た。毛細血管がイカれるのを、温かみと感覚が錯覚した。衝撃緩和機構が搭載されていても完全な遮断は不可能だ。

 前方に迫る乗用車を文字通り突進で吹き飛ばす。車体が転がり、地を滑る。火花。鉄と岩が擦れる耳障りな不協和音。コンテナの山をも勢いだけで彼方に飛ばし、さらに背面部のブーストにエネルギーを送り、強引な加速を実行。もはや火の球と化さんばかりの噴出炎が巨人の背中から生み出されるや、周囲のごみ屑を外部へと押しやりながら、とにかく前へ進まんと。

 対する敵は、気が付いていない。ヘリを落とすことばかりに夢中になり、投下された存在に注意を払わなかったらしく、一行に狙いをつけてすら来ない。

 

 『システム スキャンモード』

 

 システムを変更。視界が透き通った青色へ。より感度の高いカメラに切り替わることで光を発さずとも、暗闇を見通すことができるようになった。

 戦闘システム分のパワーを情報収集と解析に再分配することで、エネルギー消費量が減少。更にハイブーストで加速。跳躍。地を蹴り、採掘施設の外周部に生えたビルの壁面に取り付き、『跳ぶ』。壁に足を叩き付け、即席の足場とすれば、ブーストと脚力を融合して真上に跳躍した。壁が弾け砕け白い噴煙と化す。建材の破片が四方に落ちた。これぞACがACたる所以。脚部の存在意義の一つである。

 リコン発射、続けて3発。発射装置から放たれた吸着式リコンは空中で保護カプセルを投機すると壁面にぴったり張り付いた。

スキャンに反応。敵数3検知。震動、射撃音、駆動音、映像などから敵影が画面上に仮想の像となりて投影されん。

 T-106E SLON、3。R2B SHCHIT、1。2時方向。

 赤黒い機体―――フレイムスクリームが、再び飛ぶ。ビルの壁に取り付き、屋上へ。放物線を描いて上を通過してしまう前に、屋上のコンクリートを蹴り、正面数十m先にある屋上に飛び移れば、再び飛び、戦車と盾持ちの上空10mの位置を強奪す。ロックオンシーカーが敵機を捉える。

 陸戦兵器にとって、装甲を厚くすべきは真正面である。それは人の形をしていても例外はない。特に戦車などは、正面こそ装甲厚かれど上や後ろの装甲は薄い。

 インレンジ。

 ファイア。

 

 『システム 戦闘モード』

 

 フレイムスクリームの腕部兵装が傾ぐ。USG-23/H(ガトリング)と、UBR-05/R(バトルライフル)の射撃用小型カメラが無機質にピントを絞った。

 瞬間、轟音。

 マズルフラッシュが花咲く。

 腕部射撃安定装置がギシギシと唸った。

 獣が吠え立てるが如く、ガトリングのモーターが駆動して絶叫と共に鋼鉄の嵐を吐き、バトルライフルから大口径のHEAT弾が射出、戦車の上部装甲と、盾持ちの頭部へ殺到せん。

 戦車はあまりに巨大な力を受け、鍋の中の豆のように激しく揺さぶられ、『中身』がシェイク。遅れてやってきたHEAT弾が装甲に張り付くやモンロー/ノイマン効果により装甲を高速のメタルジェットで破り、内部を炭焼きにした。

 盾持ちはかろうじて耐えたものの、頭部を半ばからもぎ取られ、漏電しながらうろつく。マシンガンのめくら撃ちがビルの壁に弾痕を刻み、流れでビル上の水タンクの半分を抉った。水が吹き飛びあたかも雨のようになりて盾持ちに注ぐ。蒸気。

 フレイムスクリームは、既に盾持ちの射線の範囲外に逃れていた。

 撃破を確認などせずに慣性を利用して正面のビルの横部壁面に取り付き、蹴り飛ばす。ブーストドライブ。赤黒い鉄肌に青い光が反射せん。次に左の壁面、右の壁面と、最小限の動作で前へ前へ加速し続ける。衝撃に耐えきれなかった窓が粉みじんに砕け散りコンクリートの道路に降り注ぐ。銃を抱えた兵士らが悲鳴を上げてガラスから逃れんと転げる。

 リコン射出、3方向。情報更新。前射出リコンが機密保持のため自壊措置をとった。

 システム変更。カメラ切り替え。

 

 『システム スキャンモード』

 

 フレイムスクリームに命じ、採掘施設前のビルの屋上で足を止める。グライドブースト。真横への並行移動。コンクリートを蹴り、勢いを乗せる。ブーストを停止。慣性で横にあった別のビルの壁面になかばぶつかるかたちになりながらも、地に降りる……という動作を攻撃に転向した。

 重量を惜しげも無く発揮した踏み潰し。

 そこには、哀れな戦車がいた。数十トンにも及ぶ重量物が真上からのしかかり、装甲がへしゃげ、滑腔砲が折れた。無類の打たれ強さを誇る複合装甲とて、数十トンもの重量物および重力の理が重なり生み出された衝撃には無意味である。

 彼女は鼻を鳴らすとショルダーユニットを起動した。ロケット砲、スタンバイ。

 

 「“着艦”成功ってか」

 ≪冗談を言っている場合ではないぞ。レイヴン1からのスキャンデータを送信する≫

 

 キリエ、もといオペレーターからの通信。データ受信。スキャンモードの画面にウィンドウが展開し、採掘施設を上空から撮影したリアルタイムの映像データと、遠方からのスキャン結果が表示された。

 データの中にはACと思しき姿もあった。

 

 『感謝する、司令官殿』

 

 大仰しく例を言えば、感情を1ミクロンも窺わせないダルそうな声で返答があった。ブラックコーヒーを煮詰めた苦汁をマイクに塗りたくっているに違い無い、彼女はそう感想を抱いた。

 

 ≪必要とあればレイヴン1も戦闘に参加するが、期待するな。お前が死んだあとに投入されるのだからな≫

 『素晴らしい支援の仕方に涙が止まらない。ハンカチが欲しい』

 

 彼女はついキリエに皮肉をプレゼントしていた。

 などと話している間に、真正面から盾持ちが2機も距離を詰めてきていた。システム変更。

 

 『システム 戦闘モード』

 

 盾持ちの腕部のマシンガンが唸りを上げる。が、距離が遠すぎ、空間という緩衝剤のせいでフレイムスクリームの装甲を火花で彩るに止まった。バトルライフルを構え、盾の防備の無い場所を突く。予想通りに盾持ちは盾を斜めに構え無限軌道を正面に向けて、射撃を止め距離を詰める戦法をとった。

 足場の戦車をプレートのついた左脚で蹴れば、壁に取り付き、ブーストドライブ。高度を10m、20mと上げ、牽制にガトリングをバラ撒きつつ、逃げるそぶりを見せて肩部UHR-65/Hを連射する。肩部横センサーが反応を見せた。

 弾頭が肩から飛び出すや、ロケットモーターに点火。盾持ちを印象付ける盾に刃を突き立てる。モンロー/ノイマン効果により、盾に穴が穿たれる。衝撃に、盾持ちの上半身が揺らいだ。

 グライドブースト。

 瞬時に距離を詰めた赤黒い影が、左側の盾持ちに襲いかかる。重量と速度を乗せた膝蹴りが炸裂し、無限軌道もろとも横倒しに吹き飛ばす。もう一機の盾持ちがのんびりと旋回する間に、盾を踏み台に、ブーストドライブ。垂直からガトリングの雨を降らせるや、背後に着地して反転しざまにコックピットがあると思しき部位にガトリングの銃口を宛がう。

 引き金を絞った。

 咆哮。

 装甲がみるみるうちに削られ、内部をスクラップよりも酷い状態に追い込まん。

 アラート。メインモニタが赤く染まる。レーザー照射を検知、電波照射も検知。ミサイルが上空よりトップアタックを仕掛けてきている。直撃すれば頭部が破損する。下手すれば頭部とハッチを貫かれ、見るも無残な赤いジュースと化すであろう。

 見れば、フラミンゴが5機も揃ってミサイルを撃ってきていた。

 

 「っ……」

 

 回避を促す警告音が響いた。

 頭部が自動でミサイルの方角へ視線を修正した。電波により距離と速度を瞬時に測定。自動でメインカメラがミサイルを追尾する。

 ガトリングを掲げ、迎え撃つ。弾数を示す値が目にも止まらぬ速度で移り行かん。大口径の銃弾が計10発のうち、6発を削る。ハイブースト、ブーストドライブ。建物の陰に隠れ、さらに壁を連続で蹴り飛ばして水平方向に急移動。得た勢いでグライドブースト点火。半ば落下軌道をとりつつあったミサイルが、斜めに降り注ぐ状態に持ち込む。激しいGに眼球が傷んだ。

 ロケット砲、ガトリング、バトルライフルを掃射。

 喰らうわけにはいかない。採掘施設にあった煙突が射線に紛れるよう、誘導する。刹那、煙突にミサイルが直撃。小爆発。煙突がベキベキ悲鳴を上げて折れる。倒れかかってくるそれを危なげに躱し、ガトリングの弾幕をフラミンゴにくれてやる。フラミンゴの華奢な動体に複数の穴が穿たれ、錐揉みで地に落ちる。

 足元にリコン投射、数1。反応あり。敵数1。

 真横から、激しい衝撃が襲い掛かった。大口径の榴弾が赤黒い機体を火炎に包み込んだのである。ナパーム弾。機外温度が1000℃を越えていた。赤黒い機体は地獄の窯のさなかに放り込まれたのだ。

 リコン通信断絶。射出装置保護。

 機体の苦痛を、電子音声が代弁する。

 

 『機体がダメージを受けています 回避してください』

 

 頭部が回転、メインカメラが敵を睨む。地獄の火炎の内部に、青が死なずに輝いていた。

 ブーストノズルが、火炎の中で火炎を吐いた。赤黒い巨体は熱の中からはい出るや、ガトリングとバトルライフルを連続で撃ちながら後退したのだ。大量の薬莢が瀑布となりて流れる。盾持ちはここぞとばかりに前進。

 リコン再射出。

 次の瞬間、味方の武装ヘリ編隊が放ったロケットの連続射撃が雨あられと殺到して盾持ちの強固な防備もろとも消し炭にした。爆発、そして炎上。割れた装甲の破片がコンクリートの壁に突き刺さらん。

 だが武装ヘリの攻撃も、別のヘリが放ったミサイルによって中断してしまう。一機がミサイルに食われ、もう一機は地上から放たれたRPGにテイルローターを焼かれ、独楽のように回転しながら採掘施設の燃料タンクに突入、長大な火柱に変貌した。反撃と言わんばかりにヘリの一機が機首のガトリングでビルのワンフロアを薙ぎ払えば、反対側の窓ガラスが煌めきとなりて空中を彩る。

 それをじっと見つめている暇も無く、採掘施設の中央へと進む。火の領域を離脱したかと思えば機体の各部から冷却材が噴出した。赤黒い機体はたちまち白亜に染まる。TE兵器防御装備が作動したのだ。排熱装置が籠った熱を強制排気。頭

 ビルの陰から出た偵察型の敵にブーストチャージ。蹴りで撃墜。

 そして、オートブーストを中断、純粋な脚力で地に二条の線を刻みながら静止した。

 キリエの掠れ声が鼓膜を叩いた。

 

 ≪待て、UAVからのデータを送信する。敵AC接近中。距離300……3時方向。タンク型。始末しろ≫

 『了解』

 

 リコン発射。敵ACの上空に位置取るべくして大型クレーンに取り付き、鉄骨をへし折りながら跳躍、ブーストドライブ。

 

 ≪支援型を確認。距離600。Sz12 SPEER L、3が採掘施設の大型機械の前にお出迎えだ≫

 さらなる情報によりモニタが更新。

 高度20m、ブーストにより滑空開始。先に始末すべき敵は支援型。が、ビルの領域を抜けるや唐突に採掘機械がポツンポツンと並ぶだけの見通しの良い場所に出た。

 アラート。レーザー照射警告。遠方からの標準用のレーザーを機体のセンサーが検知したのだ。

 距離にして600離れた地点より、発砲炎。ビルの横から出たばかりのフレイムスクリームに、運動エネルギー弾が襲いかかる。一発が左足に命中。左脚を保護するプレートに弾痕が刻まれる。被弾の衝撃はすさまじく、鉄の体がたたらを踏んだ。だが巨人は斃れず、メインカメラで相手を静かに捕捉したのである。

 支援型――Sz12 SPEER L3機が一斉にスモークを散布。長大なマズルブレーキ付きの背負い滑腔砲を真ん中付近で折りたたむや、二本脚で起立し、逃げ出す。

 フレイムスクリームの腕が上がり、バトルライフルが火を噴いた。大口径HEAT弾が放物線を描き正確に支援型の今しがたいた場所に殺到する。

 リコン発射。敵数3。

 

 『システム スキャンモード』

 

 高感度カメラに切り替わる。コミカルな走り方で離脱しつつある支援型の三機を捉えた。

 グライドブースト。ところどころに傷を受けた巨体が嘘のようにふわりと持ち上がるや、空中を蹴るが如く猛加速にて、風を抜く。

 青きブーストが、大気を撹拌し、砂埃を巨体の後方に煙幕が如く押しやる。採掘施設のどこかで生まれた火の粉が乱気流に踊った。

 システム変更。FCSスタンバイ。

 

 『システム 戦闘モード』

 

 ロックオン、ファイア。

 ガトリングが火を噴き、肩部ロケットが連続で空中に噴射炎の残像を曳いた。面白い位に支援型に弾が集まった。一機は足が壊れ、慣性で地面を滑る。一機は運悪くコックピットをやられたか棒立ちに。もう一機は、ガトリングで背中から削られてロケット弾を受け爆散した。

 アラート。銃声。フレイムスクリームの数m横の地面にマシンガンの弾が跳ねる。数発が装甲で火花を散らした。カンカンカン、跳弾の音。

 空にバトルライフルを向け、一射。ミルク瓶並のサイズの薬莢が硝煙纏い、宙で放物線を描き落ちる。フラミンゴのローターが吹き飛び、錐揉み。

 グライドブーストを停止。ブーストが口を閉ざした。赤黒い巨体は得た速度を地面に爪先を突き立て、急減速。バレエダンサーがやるような目にも止まらぬ急反転により、背面へと銃口を向けた。

 メインカメラが青く輝く。

 リコン投射。敵反応検知。

 弾数を確認する。ガトリングの弾数は既に100発を切っており、バトルライフルは40発も無い。ロケット弾は残り数発。もっと弾のある武器を選択すべきかと唇を噛む。だがそれは出撃前にするべき悩みごとであって味方の支援が受けられない現状では、過ぎたことである。武器は発射速度や威力にばかり目が行くだろうが、弾数も重要な要素である。補給の受けられないことの多い傭兵にとって、弾数は生命線である。

 じっとしていては、狙われる。

 彼女は機体に命じると、滑走し始めた。ただ移動するなら、エネルギーを馬鹿食いするグライドブーストを使うよりも、通常ブーストで巡航した方が長くそして早く移動できるのである。

 最も、のんびりと移動する暇を与えてくれないのが、敵であるが。

 刹那、遠方から空間を穿ち、運動エネルギー弾がフレイムスクリームの真横に小規模なクレーターを掘った。ランダムに左右ジグザク滑走していなければ背中をやられていたであろう。

 傭兵家業をやっていて最も恐ろしいことは、“背中から撃たれる”ことである。その意味合いは、二つある。裏切りと、背後である。いつ味方が敵となるかわからないご時世とあれば裏切りほど恐ろしいものはない。

 あれは、敵だ。

 かつて裏切られて死にかけた経験が頭を占拠しかけたが、瞬時に振り払う。

 リコンを再度3基発射するも、敵影を掴めない。

 

 『システム スキャンモード』

 

 視界が半透明な青に移る。暗き空、黒い煙の柱、火の粉。悪視界さえ見通す目でさえ、射撃手の姿を発見することができない。

 右へハイブースト、反転。発砲炎が発生するタイミングを見計らい、聳え立つ異様を見せつける採掘機械の陰に滑り込む。

 通信が入った。メインモニタの情報が一新。

 

 ≪位置情報を更新する。無人機が撃ち落とされた。次からの情報更新は偵察用カメラで行う≫

 『それで、そのカメラを積んできたACはいつ参戦するのか教えてもらいたいね』

 ≪言っただろう、貴様が死んだら投入するとな≫

 『じゃあ、そいつの出番は一生無い』

 

 支援をしてくれるつもりは、無いらしい。いつものことである。

 犬(ハウンド)は犬(ハウンド)らしく飼い主の命令に尻尾を振っていればいいのだから。

 グライドブースト。巨体が一瞬、機械の陰からバトルライフルを出した。刹那、バトルライフルを出したすぐそばに着弾。だがこの動きはフェイントに過ぎない。次弾装填までのタイムラグを利用して、逆側から飛び出す。機械の縁を蹴る。ブーストドライブ。更にハイブースト。ビルの壁に埋まる勢いで取り付けば、横に蹴る。ブーストドライブ。

 遮蔽物ばかりの場所に逃げ込まれたせいか、直接的な狙撃が消えた。

 間接的な攻撃が降り注ぐ。

 上空より、榴弾砲5発が放物線を描いて襲来した。ビルの屋上に着弾するや、コンクリートを派手に砕き、屋上にあった鉄塔がおもちゃのようにくるくる回転しながら別のビルの横っ腹に刺さる。

 観測手でもいるが如く、榴弾の雨は容赦なく赤黒い巨人目掛けてやってくる。躱すなど不可能に近い。行く先を完全に予想したうえで上空より撃ち落とされるその砲撃は、拡散する弾の性質と相成って、範囲攻撃と化していた。

 巨躯なる爆発エネルギーが赤黒い巨人を揺さぶり、ブーストドライブを失敗に終わらせる。足を踏み外した巨人に、さらに一発の榴弾が迫る。とっさにハイブーストを吹かすも数mの場所に着弾。衝撃波と破片がガトリングをズタズタに引き裂いた。

 

 『パージします』

 

 オートパージ作動。使い物にならなくなったガトリングを、巨人がマニュピレータから投げ捨てる。熱を持った銃が地を転がり、トラックをミンチにして止まった。マニュピレータが自動で握られ破損を防止した。銃器稼働のために分配されていたエネルギーの供給が停止、コンデンサの負荷が軽減された。

 

 ≪距離、200。さっさと仕留めろ≫

 『了解した。敵の数は、どうだ』

 ≪お前の活躍により壊滅状態だ。残るはたかがAC一機。手早く畳め≫

 『その言葉を待っていた』

 

 そして彼女は、カバーを外し、レバースイッチを倒したのである。他の機器や計器などが一定のコンセプトを持って製造され、ACの操縦席に収まる中で、そのスイッチに限っては、後から付けたかのように違っていた。他のレバースイッチとは形状も違えば、カバーの形状、色も違う。位置もお世辞にも押しやすいとは言えない位置にある。

 背負った怪物が、目を覚ます。

 CPUを一瞬でハッキング。不正な手段で接続し、機体のモーメント制御やFCSなどにプログラムを紛れ込ます。

 メインモニタにノイズが走った。機体が、異物に身を固くするように。

 一瞬、入力を受け付けない状態に陥る。

 過去の産物でありながら未来兵器かくやという高性能を誇るACのOSに割り込むには幾重もの防壁と自己診断プログラムを透過しなくてはならない。OWという外部装置専用の電子演算装置をもってしてもACのセキュリティは破りがたいものであり、一時的に制御の中に規格外兵器を紛れ込ますことしかできない。

 ガトリングを握っていた腕に、背面部から別の強靭なる腕ががっしりと食い込む。後付のハブにパーツが接続した。バトルライフルが、背面からの細い腕に奪われた。背中にあった謎の箱が移動するや、45°回転、右腕と接続した。更に逃さぬとばかりに腕に金属製の拘束具が巻き付く。

 リミットブレイク。ジェネレータが過剰運転。余剰熱に冷却材が機体各部から噴出した。

 

 『不明なユニットが接続されました』

 

 メインモニタのノイズが酷くなった。電子音声も乱れ、聞くに堪えない雑音と成り果てる。

 ひっきりなしにスクロールするエラー表示は血の色。

 異物を排除せんと、操縦者の意思とは無関係にACのOSが行動を開始した。制御プログラムに強引に割り込もうとする命令を特定してフィルタリングをかけようとする。

 

 『システムに深刻な障害が発生しています ただちに使用を中止してください』

 

 右腕を占領した“箱”、そして左に突き出たもう一つの箱の、それぞれの背面が開く。ロケットエンジンがあった。ノズルが蠢き、絶叫する。巨体が、グライドブーストの比ではない、絶大なる速度に乗って『飛ぶ』。滑空でも、慣性でもない。自らの推力で飛翔したのだ。

 “箱”の先端部が破裂、覆いが二つに別れていずこに去れば、内部の“杭”が外気に露出した。青白い電流が箱に巻き付き、専用の排熱板が開く。

 チャージ開始。“箱”の内部で圧力が急上昇し、発生した熱で放熱板でさえ火を纏う。あまりの熱で装甲が溶解せん。

 逆流制御モノリス起動。ジェネレータから送られる過剰エネルギーから機体を保護すべく身構える。

 コア用特殊冷却器が柱のような蒸気を吹いた。

 下手すれば内臓を損傷しかねない速度で、赤黒い巨人が比喩でもなんでもなく空を飛び、空中でフラミンゴを体当たりで破壊した。軽機関銃には耐えうる白い装甲がへしゃげ、ローターが砕け散る。

 

 『不明なユニットが接続されました』

 

 警告が止まらない。

 右、左、と機動。そしてついでに採掘施設の煙突をも体当たりで破壊。

 遠方にいたタンク型ACに、真正面から接近する。

 敵は屋上に陣取ってスナイパーキャノンとヒートハウザーを撃っていたようだったが、異様な装備を背負ったACが高速で接近するのを察知するや、両銃を撃ちまくった。

 高速弾と、榴弾による弾幕が前方を遮る。

 ビルの屋上に一時着地すると見せかけて縁を蹴る。ブーストドライブ。追加でハイブースト。ビルとビルの間に潜入。速度を殺さぬまま、壁という壁を蹴って、ぶつかり、ダメージを受けながらも接近する。正面に鉄橋。ブーストドライブ。40mの上空に飛び出た。

 弾幕を躱し、横より赤黒い巨人が迫る。

 右腕を引き、速度を乗せた体当たり。ではない。体当たりは、布石に過ぎない。本命は別にある。

 刹那、“箱”からACの全長に匹敵する杭が電磁力と火薬の力さらにブーストにより加速され、タンク型ACのコアを串刺しにした。

 




サブタイ変更。リコンについて追記。その他メカニック追記。微調整。あとはされど違いなし

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。