ARMORED CORE V ―OASIS WAR―(改訂版)   作:キサラギ職員

11 / 33
6、Dry Mirage(中)【オアシスルート】

 戦況は芳しいとは言えなかった。

 怪しい動きを見せるミグラントやそれ以下の勢力のテロリストを伸すのに戦力を消耗させてきて、いざ回復だという真っただ中に襲撃が起こったため、十全の体勢で迎え撃つことができなかった。保有するAC三機と傭兵一機ではいかんせん数が足りない。対する敵は報告される限りで四機以上を揃えてきており、街の外縁部で撃墜したのを含めれば二倍以上だった。幸いなことと言えばAC戦力は傭兵を含めれば四機いるということである。もしACが居なかった場合、早々に白旗を上げることを検討しなくてはならなかったであろう。

 キリエは、オアシスの最深部というべき地下にある装甲化されたHQで、街中から上がる悲鳴のような情報乱流に顔を顰めていた。第一段階の迎撃では勢力を殺し切れず、第二段階でもそぎ切れなかった。状況は第三段階、すなわち街に誘い込んでの迎撃に移行している。もしも浸透を許せばオアシスの中心部に入られてしまう。現に歩兵の浸透が確認されており市民が身を挺して防衛に回っている現状がある。

 そして、オアシス側は敵がどこの勢力なのかを掴めないでいた。

 なぜか?

 攻撃が間接的だからである。固有の戦力ならば特定は容易だが、現在押しかけてきている戦力は悉くがお雇いなのである。特定などできるはずがない。それぞれの勢力がバラバラなのだから。

 もっとも、キリエらオアシスの上層部だけはおぼろげながら襲撃の理由を推測するに至っていたのだが。問題は推測が確定に至らないことである。断言するには証拠が必要だ。座標を特定するには三点からの測定が必要なように。

 キリエはオペレーターを通じて優先目標の変更を指示すると、傍らに控える男に目配せをした。彼女の電子画面が発する色取り取りが作り上げる影に紛れて目視困難となっていたが、言葉が遮られる恐れはない。

 

 「ジョン。奴らの狙いは………」

 「ええ、いかがなさいますか。スイッチ一つで沈めることも容易です」

 

 男――キリエの右腕たるジョンはそう言うと、おもむろに箱状の金属ケースを胸元で振って見せた。煙草入れにも見えなくもないそれは、オアシスが抱える重大なものをこの世から永遠に葬り去る権限を有するものである。

 キリエはそのケースをじっと見つめたまま、乾いた唇に指をあてた。

 

 「………もし完全に破壊してしまった場合、我々の価値は消失する。私は自らカードを捨てることはしない。が、いつでも破壊できるというのはプレッシャーとして使える」

 「中心部に侵攻された場合は……通信を試みましょう」

 「頼む。だが、まだ負けたわけではない。応援も要請してある。我らの意地をみせてやる」

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 北の塔にて。

 レイヴン2は近寄り過ぎた敵を相手にして、狙撃を止めた。近距離は狙撃攻撃の効力が最も発揮し難い戦闘距離であるからだ。レイヴン2は敵が目の前にいるのにスナイパーキャノンに固執するほど間抜けではなかった。

 敵を前にしてスナイパーキャノンを躊躇なく投げ捨てる。銃が傷もうが構うまい。くだらないポリシーよりも生存が最優先だった。それよりもまず動くことが求められた。レイヴン2は機体を駆るべく命令を下した。

 狙撃体勢解除。アンダーパイルがコンクリートから引き抜かれた。

 ハンガーユニット作動。ガション、と小気味いい音。重量四脚型ACドルイドの両腕に武器が握られる。

 刹那、塔に足をかけてブーストドライブで高度を上げてきた敵ACが、視界に出現した。構成、軽量逆脚型。両腕にショットガンを保持。近接射撃を前提とした装備。その両腕がドルイドの砂漠迷彩を食らわんと、ついと狙いを付けた。

 ドルイドは跳躍した。Gで血液が下半身に偏る。

 敵ACの両腕ショットガンが吼えた。ショットシェルが左右に飛ぶ。しかし、ドルイドはハイブーストで射線から逃れていた。左腕の装甲板が数枚ほど持っていかれた。

 丁度、敵ACと同じ目線にドルイドがいる。

 ショットガンのリロードタイムが致命的な隙となった。せめて両手交互に撃てばいいものを両手同時に射撃してしまった、それが命取りだった。

 ドルイドの右腕部のKO-4H4/MIFENG――ヒートパイルが、あたかも予期されていたが如く、敵ACの装甲の薄いコアへ吸い込まれる。二連装杭が火薬の力で加速、伸長し、先端の高威力HEAT弾頭で装甲を穿つと、緩んだ金属の隙間から杭全体をねじ込んだ。

 ジェネレータが溶け、操縦席は空き缶を踏みつけたよろしく変形した。操縦者の末路は語るべくも無く。

 尖った鉄片が舞った。

 右腕部を振りぬき、軽量逆脚型が有していた慣性そのままに後ろに受け流す。塔の屋上を何度か転げたその鉄くずは、制御を失い遥か真下に落ちた。

 レイヴン2は嗜虐に唇を歪めると、呟いた。無線を繋げる。

 

 ≪……俺は好きだぞ。愛してるんだ! 寄ればなんとかなるという先入観に囚われて死ぬ奴をな………オペレーター! AC撃破!≫

 ≪映像、確認しました。ヘリ多数をカメラで確認、退いてください≫

 

 感傷に浸るような真似はせずに塔から飛び降りると、つい今しがたヒートパイルで撃破したACが残骸になっているかを確認し、すぐさまブースターで巡航に入る。空を覆い尽くさんばかりに群れを成すヘリに対して左腕の箱型弾倉が特徴的なライフルKO-2Kを威嚇射撃。武装ヘリが左右に回避行動を取り、相手がACと認めるや、対地ロケットを一斉発射。

 レイヴン2は四脚の機動性を活かした機動で回避に移ると、ビルの壁を蹴って、再び蹴ってあたかも瞬間移動するかのような動きを見せるや、只管下がった。ライフルではふらふらと動き回るヘリ相手に不利だからだ。

 オペレーターにより情報更新。敵の攻勢がどこまで浸透しているのかを示す地図が瞬時に最新のものへと切り替わる。

 通信。OP。レオナである。

 情報更新。地図上にポインターが点滅した。

 

 ≪レイヴン2、ヒートパイルの代わりにガトリングを用意してあります。ポイントF、距離500地点へ急行してください。M1がカバーに入ります≫

 ≪レイヴン2了解≫

 

 レイヴン2はライフルの連射を継続したまま、敵に背中を見せぬようにビルの陰に滑り込んだ。

 一応、オペレーターの指示は命令という扱いになっている。傭兵時代にはオペレーターとは仕事が潤滑に進行するための情報管制官に過ぎなかったのだが、オアシスに所属するにあたっては上官命令に等しくなったのである。不安なのはオペレーターが有能なのだが新人だということである。

 ドルイドがビルの物陰から腕だけ出してライフルを撃つと、リコンを投射した。

 敵ヘリがビルの上から射撃せんと接近してきた。まともにやり合うには武装が悪すぎる。ヘリ相手に悪戯に時間を浪費するのもバカバカしい。壁を蹴る。ブーストドライブ。機体が蹴った反動で傾ぐ。機体前部ブーストノズルが前傾し、体勢を補正した。あたかも空中を滑るように移動して、距離を離す。ボックスブースターがリズムを刻むように噴射した。

 

 『M1……この前の作戦で生き残った奴………話には聞いていたが……』

 

 レイヴン2は独り言を吐いた。彼は傭兵に偏見があるわけではなかった。元々傭兵なので、むしろ好意的だった。だが話に聞くとオペレーション・ドラゴンダイブの際にたった一人生き残ったというではないか。傭兵も千差万別。仲間を踏み台に報酬を得ようとする清々しい外道もいる。もしもM1が危険な部類ならば後ろから誤射する用意があった。

 ヘリは執拗に追いかけてくる。狙撃は得意だが、びゅんびゅん蠅のようにたかる敵を狙うのは不得意だった。ライフルを撃ち放ち、只管下がり続ける。ロケットが地を掘る。攻撃ヘリの機首備え付けのガトリングが唸りを上げ、執念深くドルイドを追う。脚部に掠った。曳光弾と被弾の摩擦で装甲にオレンジの火が咲く。装甲を貫通するには余りに非力だが、センサーやリコンユニットへのダメージが考えられた。

 ビルの影に潜る。ヘリが追う。

 ACを追い詰められると興奮気味だったヘリパイロット達の顔が青ざめる。ビルの側面に鉄骨で台座が組まれており、その集束銃身が回転していたのだから。

 連装機関砲が咆哮し、次々にヘリを絡め取っていく。軽火器を受け止めるだけの装甲を有するヘリとて、戦車を粉々にする威力をもった大口径高速弾の弾幕には耐えられない。

 回避行動に移った一機に対し、ドルイドが挑みかかる。連装機関砲の台座を蹴っ飛ばしブーストドライブすれば勢いを乗せてヘリの側面より体当たりを仕掛けんとした。

 ヘリのパイロットはそれを見越して旋回し、巨体をスレスレで躱す。だが一歩遅かった。FCSとドライブシステムが連携。ドルイドが振り被り、突きの要領で腕を前へ。KO-4H4/MIFENGが鉄を穿つ。炸裂の衝撃で装甲が砕け、ボルトとナットが人を殺傷可能な速度で吹き飛ぶ。ヘリは中央から砕け、折れて、墜落した。

 四脚のブースターが作動して巨体を空中に繋ぎ止める。四脚の特徴の一つである滞空時間の長さは、四脚全てに備えられたサブブースターの恩恵故である。

 電子音声が冷静に宣言した。

 

 『パージします』

 

 ドルイドが二発限りの弾薬を撃ちつくしデッドウェイトとなったKO-4H4/MIFENGを投げ捨てた。これで左腕のライフルとショルダーだけが保有する装備となる。敵ACにしろ戦車にしろ、不安が残った。オペレーターの指示は的確だったと言える。

 通信。OP。

 

 ≪レイヴン2、3時方向よりM1が来ます。誤射に注意を≫

 

 着地。四脚ががっしり地面を噛む。まったくの同時にビルの屋上を乗り越えながらバトルライフルの一射でAS-12シリーズ――偵察型もしくは高機動型を撃墜して、赤黒い機体が姿を現した。

 砂漠迷彩のドルイドと、赤黒い塗装のフレイムスクリームがメインカメラでお互いをじろじろと観察した。

 レイヴン2はフレイムスクリームの肩から見え隠れする物騒な代物を目にとめたが、何も追及するつもりはなかった。

 

 ≪遅くなったレイヴン2。少々手こずった≫

 ≪へぇ、お前さんが例の傭兵か。世間話はあとだ。俺は後退して武器を取ってくる。この場を任せた。泣き言は聞かんぞ傭兵≫

 

 言うなり、ドルイドは後ろ向きにブースターで滑走し、速度を維持したまま優雅に一回転するやグライドブーストで地を高速移動してオアシス中心部に姿を消した。

 つい十秒前に上を飛び越してきたビルの屋上に設置された連装機関砲が空に弾幕を打ち上げる。

 リコンをビルの各所に投射。不意打ちに警戒する。ペダル操作。足、膝の組み合わせで機体に命令を下し、ブースターと脚部の出力を合成した上昇力でビルに取り付くや、すかさず水平方向に蹴っ飛ばす。ブーストドライブ。壁面が割れる。機体があたかも氷上のスケーターが如く宙を滑った。メインカメラの青が残像を曳く。

 刹那、銃弾の群れが道路上を舐めた。ガラスが割れ、雨のように地面に落ちる。

 コンクリート造りの民家の陰からぬっと盾持ちが姿を見せた。数、三。機動性の無さを補うべく固まって弾幕を張ってきた。

 着地はできない。更に壁に取り付くとショルダーユニットのロケットを連射。盾持ちを釘付けにした。炸裂の余波で盾持ちが陽炎に沈む。

 だがこれは罠だった。

 フレイムスクリームを基準に9時方向の路地からAS-12H AVES/Hが三機揃って出現し、一斉にキャノンを撃った。一発が脚部を掠めた。二発は外れた。三機は統制のとれた飛行でビルの間を離脱するとパッと散開し、再び上空からキャノンを撃つ。

 キャノンの威力がパッとしないとはいえ、三機一斉に放つとなれば話は別だ。

 優れた兵器を撃破するには、同時に攻撃する。火線を集める。近接戦に優れるならば、一撃離脱に専念する。

 どうやら敵は訓練された者らしかった。もっとも遠隔操作する兵器なので、どこかで操縦桿を握っている連中が、ということだが。

 

 「ああ、まったく。嬉しすぎて涙が出る」

 

 だから彼女は皮肉を吐いて、正面からの攻略を諦める選択をしたのだ。盾持ちを狙おうと隙を見せれば例の三機に背中を撃たれるであろうから。

 フレイムスクリームは三機の編隊にガトリングを撃って牽制、遠ざけると、バトルライフルを盾持ちに三連射しつつ後退した。厳しいことに盾持ちのすぐ後ろから戦車がわらわらと現れ、射撃を開始。APFSDS弾が唸りを上げて空間を抉る。一発がコア正面へ命中した。ダーツ型弾頭はしかし異常な硬度と粘りを有する装甲に衝突して潰れただけだった。

 質はともかく数が多い。正面からの撃ち合いは不利であることが決定的だった。ビルの壁に滑り込むと背を壁に付け、様子を窺う。

 リコン投射。システム変更。

 メインカメラが発光。ステータスのリフレッシュ。

 

 『システム スキャンモード』

 

 駆動音、射撃音、映像などのデータから敵の大まかな位置と情報がメインモニタ上に仮想の像となりて結ぶ。

 味方の戦闘ヘリがビルのすぐ影から編隊を組んで出現、盾持ちの横合いから対地ロケットを連射、機首ガトリングで戦車の上部装甲をタコ殴りにした。

 次の瞬間、例の三機がブースターの青い火炎をまき散らし鋭角に戦闘機動を取りつつ出現、味方ヘリを粉々にした。ねじ切れたローターが回転しつつビルの壁面に当たり、跳ね返る。

 

 『システム 戦闘モード』

 

 今しかない。真上から攻撃を仕掛けんと壁に取り付こうとした刹那、リコンに反応。だが彼女はリコンが反応するよりも数瞬早く危険を察知して行動に移していた。ペダル操作。ハイブースト、壁に取り付き斜め上に離脱。急激なGに手足の毛細血管が過熱した。

 警告。通信。OP。情報更新。敵位置、ゼロ。重なっている。

 

 ≪M1、敵AC接近!≫

 『馬鹿、遅い!』

 

 オペレーターを罵った。

 次の瞬間上空より計六発のロケット弾頭が拡散しつつ放たれた。ショットガン、そしてパルスマシンガンの放射までもがフレイムスクリームの真上より降り注ぐ。

 事前の回避が功を奏しロケット弾頭の射線の隙間を通過することに成功。ロケットが足元で炸裂、金属破片が脚部を傷つけた。

 ショットガンとパルスマシンガンは躱し切れずに機体の上部に受ける。腕部関節部が悲鳴を上げた。頭部が散弾とエネルギー放射に晒され揺らぐ。網膜投影式メインモニタに激しいノイズが走った。

 青白いエネルギーに飲まれたフレイムスクリームが、腕を上げる。威嚇的な造形をしたバトルライフルの銃口が敵ACを捉えた。発砲。めくら撃ちの一射が奇跡的に敵ACのパルスマシンガンの増幅装置に食い込む。

 破壊したか、してないかを確かめる余裕はない。

 二射目。外した。散弾の網が斜め上から降る。右腕に受けてしまい、反動でバトルライフルの銃口が下がった。

 ブースター停止。コンクリートの道路を盛大に抉りながら止まり、敵にガトリングを向ける。

 居た。シーカーが敵を捕捉、ロックオン。同じく敵からのロックを察知。被ロック警告が点灯。

 黒塗りの重量逆脚型ACが距離にして300の地点に佇んでいた。失ったパルスマシンガンの代わりにヒートハウザーを握っていた。

 敵は脚力を活かした立体戦法を得意としていると推測できた。上昇能力に劣る重量二脚ではいきなり真上を取られる恐れがある。事実、とられた。ロケット、ショットガン、ヒートハウザーの一斉射撃を真上から食らえば重装甲のフレイムスクリームとてただでは済まない。黄泉の川を渡る可能性があった。

 だが躊躇はできない。迷えば敵の優勢を許す。

 彼女はガトリングを連射せんと操縦桿を――通信。シャンパン隊。

 

 ≪手こずっているようだな……手を貸そう≫

 

 フレイムスクリームの真後ろより盾持ち四機が出現した。無限軌道を横に、上半身を重量二脚型ACに向ける格好で。四機一斉にガトリングを発射。重量逆脚型は真正面から食らい、よろける。しかし一瞬にして射線から逃れた。独特な逆関節の真後ろに備え付けられた大型ブースターと脚力による跳躍で瞬時にビルの屋上へと上昇すれば、オアシス側の連装機関砲の根元にショットガンをぴたりと合わせ、引き金を絞る。爆発。機関砲の銃身が半ばで曲がり、台座ごとビルから滑落し、沈黙。

 

 ≪いまだ、やれ!≫

 

 シャンパン隊の盾持ちから青い照明弾が放たれ、空に輝いた。

 次の瞬間、狙い澄ましたRPGの一斉発射がビルの各階から放たれ、重量逆脚に殺到した。爆発。だがその爆発はリアクティブアーマーの作動だった。

 敵ACのヒートハウザーが唸りを上げてシャンパン隊に降り注ぐ。ショットガンがビルに向けられ、発砲。退却に移ろうとしていた兵士らは、人類に向けるには威力が高すぎる弾頭を食らい、哀れひき肉と化した。

 フレイムスクリームは上空より襲いくる準人型の高機動型三機にガトリングを牽制射すれば、グライドブーストを機動。正面から距離を詰めるとみせかけて壁を蹴り、ブーストドライブ。蹴って蹴って道路を挟んだ反対側のビルに取り付き更に蹴った。三角機動を取りバトルライフルを発射。だが高威力HEAT弾は重量逆脚型のリアクティブアーマーに炸裂を阻止されて致命打にならなかった。

 ガトリングを放つ。

 ショットガンがフレイムスクリームを迎え撃つ。

 距離、50。ロケットを発射。射出装置で機体前部の空間に押し出された弾頭がロケットモーターに点火、白煙を曳いて敵に牙を突き立てる。連続射撃が重量逆脚型をよろめかせた。空中から地上に引きずり下ろす。

 重量逆脚型は慌てて跳躍するとロケットをばらまき、ヒートハウザーをフレイムスクリームの移動先に発射。五発の榴弾が放物線を描いて落ちる。偶然居合わせた装甲車両が爆風で横転、地面を滑った。

 

 『らああッ!』

 

 吶喊。

 コンクリートを踏み砕きながら跳躍、壁を蹴り、ハイブースト。一気に距離を詰めた赤黒い巨体が空中でハウザーをばら撒く重量逆脚型のコアを蹴っ飛ばした。鉄を鉄が殴りつける衝撃音。逆脚がくの字となりて空中でよろめき、ビルの壁に埋まる。

 

 ≪お返しだ、AC野郎!≫

 

 シャンパン隊の威勢のいい掛け声とともに、ガトリングが集中した。ビルの側面が蜂の巣になる。半分埋まった体勢で身動きのできない重量逆脚型の肢体ががくがくと痙攣し、装甲を落とす。フレイムスクリームがバトルライフルを発射。HETA弾が頭部にめり込み、吹き飛ばす。止めのロケットを二回発射。弾頭が逆脚型を壁に縫い付け、粉々にした。暴走したジェネレータがエネルギーと電流をまき散らし、ビルの壁を深く抉った。

 爆発。

 

 「しつこいやつらだ!」

 

 撃破の余韻に浸るわけにはいかなかった。

 上空より例の三機が武装ヘリを引き連れて戻ってきたのだ。

 シャンパン隊は空にガトリングを撃つも、ミサイルに一機が盾をやられた。ジョイントから盾が外れ、くるくる回転しつつ地面に転がる。隙を見せた盾持ちに高機動型とヘリの集中砲火が浴びせ掛けられた。盾持ちは見るも無残に装甲を穴だらけにされ横転、爆発した。

 フレイムスクリームが、離脱しつつある高機動型とヘリの横っ腹からぶつかっていく。高機動型を空中から蹴落とし、武装ヘリ一機のローターを殴り壊す。空中で落ちざまにガトリングを発射。粘つく射線が高機動型を空から地上に招く。装甲板が派手に弾ける。バランスを失った一機が後部から爆発、反動で明後日の方角に消えた。

 武装ヘリが一斉に逃げる。待っていましたと、ビルの屋上に身を隠していた兵士らがRPGを発射。あるヘリは操縦席を潰され、あるヘリはローターを成形炸薬弾に穿たれ、落ちる。

 彼女はほっと溜息を吐くとビルの壁に背中を付ける格好にした。強烈な喉の渇きを覚え、酸素マスクを外すとチューブ式の携行ゼリーを口にした。ものの数秒で吸い付くす。

 そして通信を入れた。

 すると、落伍した味方の盾持ちの残骸を調べていた隊長機と思しき一機がフレイムスクリームのほうに盾を振って見せた。盾持ちは非人間的な造形をしているが、死んだ味方に寄り添う姿は哀愁が漂っていた。

 

 『シャンパン隊、助かった』

 ≪別に礼はいらんよ。仕事だからな。礼ならレイヴン2に言ってくれや。あの人の命令だ≫

 

 あの重量四脚型のか。意外といいやつなのかもしれない。

 通信。OP。

 

 ≪M1、レイヴン2があなたの地点に復帰します。距離200。誤射に注意を≫

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 「……さて、そろそろか」

 

 レイヴン3はオアシスの後方拠点で補給を受けつつ、操縦席の中で一人ごちた。

 予想以上にオアシス側は善戦しているようだった。

 やるならば今しかない。レイヴン二機は前線で頑張っているようだし、傭兵も今はこの場にいない。

 そしてレイヴン3は後付けのレバースイッチを倒した。

 味方が周囲にいる真っただ中で、OW『MULTIPLE PULSE』を起動したのだ。

 裏切りのパルスが牙を剥いた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。