遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第77話 覚醒する白き竜

「はあ、はあ、はあ…」

暗い独房の中、遊矢はゆっくりと目を覚ます。

目の前には疲れた表情を見せる月影の姿があり、自分の上半身は裸になっている。

「月影…うう!!」

腹部の痛みを右手で押さえながら、遊矢は起き上がろうとする。

だが、月影はそれを右手で制する。

「月影、どうしてここに…」

「素良殿についての情報を伝えようと思ったのだが、このように怪我をしていた。よって、治療をさせてもらった」

「治療…?じゃあ、俺の手当てを…」

忍者であるはずの月影が弾丸を取り出し、更に傷口を縫うことができるとは思わず、びっくりする。

「本来ならば病院まで連れて行って、正規の治療をせねばならぬが、今はそうも言っている状況ではない」

「わかってる…。それより、素良についてって…」

「今は時間がない。ただ、今のところは味方になったということだけ理解しておけ」

「味方…そっか、よかった…」

痛みのせいか、冷や汗をかきながらも素良がいきさつがどうであれ、味方になってくれたことが素直にうれしかった。

彼の汗を月影が手ぬぐいでふき取る。

「まだ治療が終わってから時間がそれほど経っておらん。今は体を休め、体力回復に努めよ。それから…」

月影は袋からいくつか空気注射器を出し、それを遊矢に見せる。

「風魔忍者が明治時代から使っている薬だ。これは痛みが耐えられないときに首筋に注射するといい。いつまでも、というわけではないが、痛みを緩和してくれる。だが、これは劇薬に近い。依存性はないが、短時間に何度も使うと、体に負担がかかる。何度も吐き気を催すだけであればまだしも、最悪の場合は意識不明となる」

「忍者と言っても、かなり…ハイカラ、なんだな…」

痛みに耐え、苦笑しながらしゃべる遊矢を見て、月影は少し安心する。

こうしてしゃべることができるのであれば、少なくとも命に別状はない。

そういうと、月影は注射器を腰に巻いてつけるカバンに入れ、遊矢のそばに置く。

「今、カバンの中にある注射は全部で10本。可能な限り、拙者も調達できるよう動くが、数に限りがある。どうか…有効に」

「あ…あ…」

だんだん意識が遠くなり、再び遊矢は目を閉じた。

 

(さあ、皆さま!!まもなくフレンドシップカップ2回戦第4試合が始まります!!)

3つのデュエルが終わり、もうすぐシティは夕方になろうとしていた。

だが、スタジアムを包む熱気は衰えを見せず、2回戦最後のデュエルへの期待が込められている。

(この2回戦最後のデュエルを飾るのはこの2人!!今大会の紅一点、セレナ選手とペンデュラムシンクロモンスターという未知のモンスターで沢渡選手を下した、ユーゴ選手!!)

名前が呼ばれた2人は別々の出入り口からDホイールに乗って出てきて、スタートラインに立つ。

すると、セレナはヘルメットを脱いでユーゴに目を向ける。

ヘルメットを着けたままあいさつすることは無礼だと彼女は思っているためだ。

「ユーゴというデュエリスト。1回戦でのデュエルは見事だった。だが、私にはやらねばならないことがある。悪いが、お前にはここで敗れてもらうぞ!」

「…」

ヘルメットを脱いだセレナの姿を見たユーゴが固まる。

髪や目の色、性格はまるで異なっているが、顔立ちがリンそっくりだったからだ。

「リ…」

(ユーゴ、彼女はリンではありませんよ。今はデュエルにだけ集中してください。そうでないと…)

「ああ、分かった。わかってる…クリアウィング」

ユーゴの脳裏でクリアウィングが語り掛ける。

彼女がリンではない、ということはユーゴ自身も分かっている。

アカデミアに連れ去られた彼女がここにいるのはありえない。

だが、セレナを見ると、どうしてもリンとだぶって見えてしまう。

自分に活を入れるため、ユーゴは自分の両頬を叩いた。

(さぁ…両者気合が入ったところで、フィールド魔法《スピード・ワールド・A》を発動。

《スピード・ワールド・A》が発動し、ユーゴとセレナのDホイールのエンジンが動き出す。

(クリアウィングのいう通りだ。リンそっくりなデュエリストが相手でも今は…!)

(アカデミアを倒すためにも、ここで負けるわけにはいかない。遊矢、私もお前に続く!)

(ライディングデュエル…アクセラレーション!!)

ソリッドビジョンでできた信号が赤から青に代わり、両者のDホイールが発進する。

 

「始まりましたか…。デュエルが」

局長室に戻ってきたロジェが椅子に座り、スタジアムから出てきたユーゴとセレナの姿をモニターで見る。

(セレナ…あなたに敗北は許されない。あなたには…私が作る理想郷の象徴となってもらわなければならないのです。榊遊矢と共に…)

ロジェはノートパソコンを開き、独房の様子をカメラで確認する。

独房の中は遊矢1人となっていて、彼は静かにあおむけで眠っている。

(手筈通り、治療済みですね…よいことです)

ランサーズの仲間が独房に侵入し、彼の治療をすることはロジェ自身わかっていた。

だが、まだ遊矢を自分の手中に収めることをあきらめておらず、彼の力を欲していたため、わざと見逃していた。

 

会場を飛び出した2台のDホイールは互いに互角のスピードを見せており、どちらが先攻を取ってもおかしくない状態だった。

(よし…!これなら先攻を取ることができる!)

真面目ではあるが、デュエル以外は全くのポンコツであるセレナだが、アカデミアで訓練を個別に受けていたこともあり、身体能力が高く、Dホイールも1度か2度乗ったくらいで乗りこなせるようになっていた。

Dホイールとライディングデュエルについてはベテランの域に達しているユーゴと互角でスピード勝負できるほどに。

これはユーゴ自身も驚いていた。

「すげえなあんた!ライディングデュエルを数えるくらいしかしてねーのに…。けどなぁ!!」

一気にアクセルを踏み込んだユーゴは更にスピードを上げ、セレナを右側から追い越す。

リンと2人で作り上げ、改造し続けたユーゴのDホイールの性能は黒咲のマシンブルーファルコンを上回っており、Dホイールの性能差を見せつける。

「よし、このまままっすぐ進んで…何!?」

急に右折と直進のコースが移動をはじめ、通行不可能となる。

おまけに通行不可能になると展開されるはずの壁が開かず、このまま曲がると最悪の場合、転落してしまう。

ライディングデュエルではコースに復帰できなくなった時点で負けが確定する。

「くそぉ!!」

やむなく、ユーゴはスピードを落とし、その間にセレナが追い抜いていく。

ユーゴをいつでも追い越せるように、左に車体を寄せていたセレナはすんなりと左のレーンへ進むことができた。

(ああーーーっと、どういうことでしょう!?急に分岐点の3つのコースのうちの2つが使えなくなってしまった――!えー、交通管理センターからの説明では、ここまでのデュエルでコースに損傷が発生したのが発見され、やむなく実行した措置であると…うーん、仕事熱心なのはわかるけど、もうちょっと融通きかけてほしいなー)

 

セレナ

手札5

ライフ4000

 

ユーゴ

手札5

ライフ4000

 

「…」

先攻を取ることができたセレナだが、このあまりにも不自然なアクシデントに不快感を感じている。

正々堂々を信条とする彼女にとって、たとえアクシデントであっても、ハンデをつけるようなことは認められないものだった。

「…私はモンスターを裏守備表示で召喚。カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

セレナ

手札5→2

SPC0

ライフ4000

場 裏守備モンスター1

  伏せカード2

 

ユーゴ

手札5

SPC0

ライフ4000

場 なし

 

「俺のターン!!」

 

ユーゴ

手札5→6

SPC0→2

 

セレナ

SPC0→2

 

「俺は手札から《SRバンブーホース》を召喚!」

 

SRバンブーホース レベル4 攻撃1100

 

「こいつの召喚に成功したとき、手札からレベル4以下のSR1体を特殊召喚できる。俺は手札から《SR三つ目のダイス》を特殊召喚!」

 

SR三つ目のダイス レベル3 攻撃300(チューナー)

 

「俺はレベル4の《バンブーホース》にレベル3の《三つ目のダイス》をチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、レベル7!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

(ユーゴ選手!エースモンスターである《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の召喚に成功!速攻で決めてしまうのでしょうか!?)

「く…!!」

このまま攻撃されるわけにはいかないと判断したセレナは目の前の分岐点を右に進み、ユーゴから遠ざかる道を選ぶ。

「中途半端に遠くへ行かなくてもいいぜ!《クリアウィング》のスピードは並みじゃねえからな!!」

そういいながら、ユーゴは直進し、2人が進むコースが別々になる。

 

「アクションカードパネルの配置変更を」

それと同時に、ロジェの指示で、オペレーターがコンソールを操作し、配置されているアクションカードパネルの配置が前もって変更されていく。

ユーゴのコースのパネルを消去し、セレナのコースにあるアクションカードパネルのカードを変更する。

(セレナ…あなたに敗北は許されないのですよ)

 

「バトルだ!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》で裏守備モンスターを攻撃!旋風のヘルダイブスラッシャー!!!」

回転しながら《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》はセレナの裏守備モンスターめがけて突撃する。

そのスピードは200キロを超えており、あっという間にセレナに迫っている。

「よし…!!」

ちょうどアクションカードパネルを通過したセレナは入手したアクションカードを見て、すぐに発動する。

「アクション魔法《大脱出》!バトルフェイズを終了させる!」

裏守備モンスターの前にトランポリンが出現し、それを使ってセレナと共に上空へ飛んでいく。

攻撃に失敗した《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》はすぐにユーゴのフィールドへ戻っていく。

 

セレナ

SPC2→3

 

「ふうう…」

コースに着地したセレナはユーゴのもとへ戻っていく《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を見る。

《大脱出》でバトルフェイズを終わらせた以上、もう相手は追撃を仕掛けることはない。

「くっそーーー!!俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

セレナ

手札2

SPC3

ライフ4000

場 裏守備モンスター1

  伏せカード2

 

ユーゴ

手札5→1

SPC2

ライフ4000

場 クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500

  伏せカード2

 

「私のターン!」

 

セレナ

手札2→3

SPC3→5

 

ユーゴ

SPC2→4

 

「あれは…」

ドローしたと同時に、新しいアクションカードパネルを通過する。

「私は手札からアクション魔法《ワープブースト》を発動。私のスピードカウンターを3つ増やす!」

「何ーーーー!?んなの、ありかよー!?」

 

「あり…なのですよ。私がいる限りね」

ユーゴの言葉に応えるように、笑いをこらえながらロジェがつぶやく。

今のデュエルは、言い換えればセレナとユーゴという2つの駒をロジェが動かす1人チェス。

ロジェの見えざる手によって、いくらでも状況をコントロールされる。

 

セレナ

SPC5→9

 

ワープブースト

アクション魔法カード

(1):自分用のスピードカウンターを3つ置く。

 

「だったら、俺も!!」

ユーゴも負けじとアクションカードパネルを探す、

だが、なぜか1つのコースに確実に1つは配置されているはずのアクションカードパネルがどれだけ走っても見つからない。

「パネルがねえ…どーなってんだよこれ!?俺、ついてねーーー!!」

(ついているついてない、という問題ではない気がしますが…)

頭を抱えるユーゴに対し、クリアウィングは冷静さを失わず、状況を分析し始めていた。

「私は手札から《Sp-スピード・フュージョン》を発動。私のスピードカウンターが4つ以上あるとき、融合召喚を行うことができる。私は手札の《月光紫蝶》と《月光紅狐》を融合!」

紫を基調とし、背中に蝶の羽がついたバレリーナのような女性と顔の右半分を金色の仮面で隠し、まるで怪盗のような雰囲気を見せる、赤い狐を模した女性がフィールドに現れ、上空には三日月が現れる。

その三日月の引力に引かれるかのように、2体のモンスターが飛んでいく。

「紫の毒持つ蝶よ、炎を宿した狐よ、月の引力により渦巻きて新たなる力と生まれ変わらん!融合召喚!現れ出でよ!月明かりに舞い踊る美しき野獣!《月光舞猫姫》!」

 

月光舞猫姫 レベル7 攻撃2400

 

「ここで融合召喚…!けどよぉ、攻撃力2400では…」

「私が何も考えもなしにこのような行動をしたと思ったか!?私は融合素材となった《月光紅狐》の効果を発動!このカードがカード効果で墓地へ送られたとき、相手フィールド上のモンスター1体の攻撃力をターン終了時まで0にすることができる!」

幻影となった《月光紅狐》が口から炎を吐く。

「はっ、甘えぜ!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の効果発動!1ターンに1度、レベル5以上のモンスター1体のみを対象としたモンスター効果の発動を無効にし、破壊する!ダイクロイック・ミラー!!」

《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の翼から緑色の大出力ビームが発射される。

そのビームに炎ごとの見込まれた《月光紅狐》の幻影は消滅する。

「だが、効果破壊できていない以上、《クリアウィング》の攻撃力はアップしない!私は《スピード・ワールド・A》の効果発動。私のスピードカウンターを7つ取り除き、デッキからカードを1枚ドローする。そして、私は裏守備表示となっている《月光蒼猫》を反転召喚。そして、《月光舞猫姫》の効果発動!1ターンに1度、私のフィールド上のムーンライトモンスター1体をリリースすることで、このカードはこのターン、相手フィールド上のすべてのモンスターに2回ずつ攻撃することができる。そして、そのターン相手モンスターは1度ずつ戦闘では破壊されない」

《月光蒼猫》が紫色の粒子に代わり、《月光舞猫姫》を包み込む。

自らを包む光に合わせるように、彼女はその場で踊り始めた。

「無駄だぜ!攻撃力が足りてねーじゃねーか!」

「何度も言わせるな…。私は考えなしに行動しない!私の墓地に闇属性モンスターが3体存在するとき、このカードは手札から特殊召喚できる!《ダーク・アームド・ドラゴン》を特殊召喚!」

「何ぃ!?」

闇の力を得て、漆黒に染まった《アームド・ドラゴンLv7》が現れる。

これまでの可愛らしいモンスターたちとは対極の位置に立つモンスターの登場に、ユーゴは驚愕する。

 

ダーク・アームド・ドラゴン レベル7 攻撃2800

 

セレナ

SPC9→2

 

「私は《ダーク・アームド・ドラゴン》の効果を発動!墓地の闇属性モンスター1体を除外することで、フィールド上のカードを1枚破壊する!ダーク・ジェノサイド・カッター!」

《月光紅狐》の幻影から力を受けた《ダーク・アームド・ドラゴン》が咆哮しつつ、腹部から黒い刃を発射する。

刃で切り裂かれたユーゴの伏せカードがバラバラになって消滅する。

 

破壊された伏せカード

・シャドー・インパルス

 

「《シャドー・インパルス》…。《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》をおとりに《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》を特殊召喚するつもりだったか!」

《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》は《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》とは異なり、一定の条件下ではフリーチェーンで効果を発動できる。

そのため、仮に《シャドー・インパルス》の効果で特殊召喚され、おまけに効果によって《月光舞猫姫》の効果と攻撃力を奪われたら、ここからの戦略が破たんしていた。

《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》ではなく、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を選んだことがアダとなってしまった。

「くっそぉ!!」

「バトルだ!《月光舞猫姫》で《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を攻撃!」

「何!?攻撃力が低い《月光舞猫姫》で攻撃だと!?」

「罠カード《幻獣の角》を発動!発動後、このカードは装備カードとなって獣族・獣戦士族モンスター1体に装備できる!そして、このカードを装備したモンスターの攻撃力は800アップする!」

《幻獣の角》から力を受けた《月光舞猫姫》が踊りながら、コースを飛び越えてユーゴの前に来る。

「よし!アクションカードパネル!!」

ようやく見つけたアクションカードパネルを嬉しそうに通過したが、手にしたアクションカードを見た瞬間、表情が凍り付く。

「嘘だろ…!?アクション罠《平手打ち》…」

翔太が2度も被害を受けたあのアクション罠カードを手にしてしまい、いきなり白い大きな手袋に手をたたかれ、《SR-OMKガム》が墓地へ落ちてしまう。

そして、手に持っている短剣で《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を斬りつける。

破壊はされなかったものの、それにより《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の体が傷つき、余波がユーゴを襲う。

「ぐああああ!!」

 

ユーゴ

ライフ4000→3300→3200

SPC4→3

 

月光舞猫姫 レベル7 攻撃2400→3200

 

「《月光舞猫姫》は攻撃宣言するたびに、相手に100ダメージを与える効果がある。そして、2回目の攻撃を始める!!」

《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が反撃のために白いブレスを放つが、《月光舞猫姫》はバック転でかわし、ナイフを投げる。

だが、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の前に現れた《SR三つ目のダイス》の幻影がそれを受け止めた。

そして、ユーゴの頬にソリッドビジョンで切り傷が再現される。

 

ユーゴ

ライフ3200→3100

 

「あっぶねー…《SR三つ目のダイス》は相手ターンにこいつを墓地から除外することで、1度だけ相手モンスターの攻撃を無効にできる…」

「だが、お前の敗北が少しだけ遠ざかっただけにすぎない。私は《ダーク・アームド・ドラゴン》で《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を攻撃!」

《ダーク・アームド・ドラゴン》がユーゴめがけて腹部の刃を発射する。

もうアクションカードを手にすることができないユーゴは黙って攻撃を受けるしかなかった。

刃で切り刻まれた《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が消滅する。

 

ユーゴ

ライフ3100→2800

 

「私はこれで、ターンエン…!」

「ここで俺は罠カード《リサイコロ》を発動!俺の墓地のスピードロイドチューナー1体を効果を無効にして特殊召喚する!俺は墓地から《SR-OMKガム》を特殊召喚!」

背中に小さな子供が買う食玩の箱を抱えているように見える小さな人型ロボットが現れる。

 

SR-OMKガム レベル1 守備800(チューナー)

 

「そして、サイコロを1階降り、出た目と同じレベルになる!」

「運任せなカードを…デュエルは戦略が命だ!そんなものなど…」

「どうだろうな?その運がデュエルにでかい波を起こすことだってあるんだぜ!!」

ディスプレイのサイコロのアイコンに触れると、サイコロが自動的に振られる。

「出目は1!よって、《OMKガム》のレベルは1、変化はしねえ!」

「どうする?《ダーク・アームド・ドラゴン》の効果はあと2回使えるだろ?《OMKガム》を破壊するって手もあるぜ?」

ユーゴのいう通り、このまま《ダーク・アームド・ドラゴン》の効果で破壊するという手もある。

だが、セレナの墓地に残っている2体のモンスターはそこにあってこそ、という要素がある。

除外から墓地へ復帰させるカードが手元にない以上、再利用は難しい。

ユーゴの言葉に乗り、《SR-OMKガム》を破壊した後に、彼が一気に展開させる可能性もある。

沢渡とのデュエルでは、フィールドにカードがない状態で一気に逆転勝利を果たしている。

「…《ダーク・アームド・ドラゴン》の効果は使わない…。私はこれで、ターンエンド!」

 

 

セレナ

手札3→0

SPC2

ライフ4000

場 月光舞猫姫(《幻獣の角》装備) レベル7 攻撃3200

  ダーク・アームド・ドラゴン レベル7 攻撃2800

  伏せカード1

 

ユーゴ

手札1

SPC3

ライフ3200

場 SR-OMKガム レベル1 守備800(チューナー)

 

「俺のターン!」

 

ユーゴ

手札1→2

SPC3→5

 

セレナ

SPC2→4

 

「俺のフィールド上に風属性モンスターが存在するとき、こいつは手札から特殊召喚できる!《SRタケトンボーグ》を特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ レベル3 攻撃600

 

「こいつは自信をリリースすることで、デッキからSRチューナー1体を特殊召喚できる。俺は《タケトンボーグ》をリリースし、《SRアクマグネ》を特殊召喚!」

《SRタケトンボーグ》が姿を消し、先の部分が斧のようになっている2つのU字磁石が悪魔の弾を模した青い持ち手にくっついている形のモンスターが現れる。

現れると同時に、その磁石に引っ張られるように《月光舞猫姫》が吸い寄せられていく。

 

SRアクマグネ レベル1 攻撃0(チューナー)

 

「おい、待て!?お前…一体何をした!?」

「《アクマグネ》は召喚・特殊召喚に成功したとき、相手フィールド上のモンスター1体とこいつを素材に風属性シンクロモンスターをシンクロ召喚できる。俺はレベル7の《月光舞猫姫》にレベル1の《アクマグネ》をチューニング!」

《SRアクマグネ》がチューニングリングと化し、それでも消えない磁力に引っ張られていく《月光舞猫姫》が7つの星となって取り込まれる。

「猛々しき獣の魂を宿した翼で、雲を切り裂き、天を目指せ!シンクロ召喚!現れろ、レベル8!《HSRカイトライダー》!!」

白虎を模した模様の凧を背中に取り付けた白い人型ロボットがユーゴの前に現れる。

そして、腰のベルトの両端についているレバーを倒してその場で跳躍すると、そのまま上空を飛び始めた。

 

HSRカイトライダー レベル8 攻撃2800

 

「《カイトライダー》の効果発動!こいつをSRチューナーをシンクロ素材にしてシンクロ召喚に成功したとき、デッキからカードを1枚ドローできる!バトルだ!俺は《カイトライダー》で《ダーク・アームド・ドラゴン》を攻撃!!」

凧の左右についているブースターが起動し、速度を倍以上に高めた《HSRカイトライダー》が《ダーク・アームド・ドラゴン》に向けて右拳を前へ出しながら突撃する。

それにこたえるように、《ダーク・アームド・ドラゴン》も右拳を構えて迎え撃つ。

「このまま相討ちを…!?」

「悪いな、《カイトライダー》は戦闘では破壊されない!」

ブースターの出力がさらに上昇し、《HSRカイトライダー》が更に突撃の勢いを強めていく。

自身の3分の1以下の大きさの人型ロボットに力負けする形で、《ダーク・アームド・ドラゴン》があおむけになって倒れ、爆発する。

「更に、《カイトライダー》の効果発動!このカードが戦闘で相手モンスターを破壊したとき、このカードは破壊される!」

ブースターのエネルギーが切れたのか、《HSRカイトライダー》の凧が動きを止め、そのまま地上へと落ちていく。

「そして、エクストラデッキに存在するレベル7以下の風属性・ドラゴン族シンクロモンスター1体をシンクロ召喚扱いで特殊召喚できる!」

「何!?」

「輝く翼、神速となり天地を照らせ!シンクロ召喚!現れろ、《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》!!」

地表へ接触しつつあった《HSRカイトライダー》を《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》が引き上げる。

そして、彼は後を仲間に託すと、姿を消した。

 

クリアウィング・ファスト・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

HSRカイトライダー

レベル8 攻撃2800 守備2500 シンクロ 風属性 機械族

「SR」チューナー+チューナー以外のモンスター1体

このカードはS召喚以外の方法で特殊召喚できない。

(1):「SR」チューナーを素材にこのカードのS召喚に成功したときに発動できる。デッキからカードを1枚ドローする。

(2):このカードは戦闘では破壊されない。

(3):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊したとき、このカードを破壊することで発動できる。レベル7以下の風属性・ドラゴン族Sモンスター1体をエクストラデッキからS召喚扱いで特殊召喚する。

 

「このまま追撃するぜ!《クリアウィング》!!」

《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》が《HSRカイトライダー》の攻撃を無駄にしないため、そのまま猛スピードでセレナと距離を詰めていく。

そんな中、急に至近距離にアクションカードパネルが現れ、それを通過することになる。

(なぜここで…??)

再び不自然な形で入手したアクションカードを手にするセレナ。

そんなセレナの真上に到達した《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》は彼女に向けて白いブレスを放つ。

「ぐああああ!!」

 

セレナ

ライフ4000→1500

SPC4→1→2

 

「く…私はアクション魔法《再出撃》を発動!私が1000ポイント以上のダメージを受けたとき、私の墓地からモンスター1体を特殊召喚する!私は《月光舞猫姫》を復活させる!」

再び上空に現れた三日月から、《月光舞猫姫》が踊りながら降りてくるが、彼女も違和感を覚えていた。

「更に私は罠カード《月光の宝札》を発動!私の墓地に存在するムーンライト融合モンスターの融合召喚に成功したとき、私のフィールド上にこれら以外のカードがない場合、デッキからカードを2枚ドローできる(まさか…このデュエルは…)」

「くっそー!あいつついてるぜ。またいいアクションカードをゲットしやがってー!」

(ユーゴ、このデュエルは…)

「ああ、分かってる分かってる!たまにはこういう天気だってある!そうだろ」

(いや、そういうわけでは…)

「だったら黙って、デュエルを続けようぜ!俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

セレナ

手札0→2

SPC2

ライフ1500

場 月光舞猫姫 レベル7 攻撃2400

 

ユーゴ

手札1→0

SPC5

ライフ3200

場 SR-OMKガム レベル1 守備800(チューナー)

  クリアウィング・ファスト・ドラゴン レベル7 攻撃2500

  伏せカード1

 

月光の宝札

通常罠カード

「月光の宝札」は1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分フィールド上に「ムーンライト」融合モンスターが墓地から特殊召喚に成功したとき、自分フィールド上にこれらのカード以外のカードがない場合にのみ発動できる。自分はデッキからカードを2枚ドローする。

 

「すっげえ!運もいいし実力もある。最高だぜ、あんた!」

いきなりセレナに通信を入れたユーゴが満面の笑みを浮かべながらセレナに言う。

遊矢の言葉で、敗者が地下送りになるということを知っているだろうにもかかわらず。

そんなデュエルなのにこのようなことを言うユーゴのことをセレナは理解できなかった。

「バカか!?お前は!負ければ地下送りにされるのを知っているのか!?そんな命がけのデュエルだというのに楽しいだと…ふざけるな!!」

「ふざけてねぇよ。俺は本気で楽しんでるんだ。あんたはデュエルが楽しくないのか?」

「デュエルは戦いだ!楽しむというのは論外だ!」

アカデミアでは、セレナはほかの人間とかかわる機会がほとんど与えられず、ただデュエルと訓練をするばかりの日々だった。

デュエルの相手も精巧に作られたCPUが相手になることがほとんどで、人とデュエルをしたことがあまりない。

ただ強くなることだけを要求された彼女にはデュエルを楽しむ余裕などなかった。

アカデミアの異質な環境が今のセレナという人格を形成したのだ。

「デュエルが戦い…?楽しむのは論外…?つまんねえな」

「何!?」

「聞いてみろよ、スタジアムから聞こえる声を…」

2人が走っているのは、ちょうど2人が出ていった出入り口の反対側のコースだ。

スタジアムに近いため、大きな声援があれば、ここまで聞こえることがある。

「うおおお!!ユーゴ、もっと攻めろーー!!」

「いいぞ、セレナーー!!次はどんな融合召喚を見せてくれるんだー!?」

「どっちもいいぞ!!もっと俺を燃えさせろーー!!」

「ユーゴ!ユーゴ!!」

「セレナ!セレナ!!」

「これは…」

これまでデュエルだけに集中していたセレナはこの声が聞こえていなかった。

対戦相手と自分、そしてモンスターのことだけで手一杯で、周りを見渡すことができなかった。

「みんな楽しんでる…。俺とお前がこうさせたんだぜ?」

「私が…?」

「そりゃそうだろ。デュエルは1人ではできねえからさ。さあ、思いっきり盛り上げようぜ!俺たちの力で!!」

セレナのいるコースにユーゴが合流する。

そして、セレナと並走し、彼女にサムズアップをした後でスピードを上げていった。

(だが…このデュエルは…)

楽しむと言いながらも、このデュエルが何者かによって仕組まれていることに気付いたセレナにはそれができない。

このような結果の見えている出来レースで勝ったとしても、それが本当の勝利と言えるのか?

これが本当に楽しいデュエルだと言えるのか?

そんな問いが頭に浮かんでしまう。

「セレナーーー!!」

「勝ってくれーー!!!」

「女の意地を見せてやれーー!」

だが、そんな疑問を観客の歓声が徐々に吹き飛ばしていく。

そして、ずっと感じたことのなかった胸の高鳴りを感じ始める。

(この胸の高鳴り…そうか、これが…これが…)

「さあ、セレナ!!早くターンを始めねーと、観客がみんな待ちくたびれちまうぜ!!」

「…ああ!!」

口元が緩み、今までの真剣な表情が嘘だったかのような笑顔を見せながら、セレナは右手を上にあげる。

「レディースアンドジェントルメーン!!(遊矢、お前の言葉…使わせてもらうぞ!)これより、ランサーズの1人、セレナの融合召喚による華麗な攻撃をお見せする!!私のターン!」

 

セレナ

手札2→3

SPC2→4

 

ユーゴ

SPC5→7

 

「え…ランサーズ…!?」

ランサーズという言葉を聞いたユーゴの目が丸くなる。

彼の脳裏には翔太とのデュエル、そして彼からの尋問の時の記憶がよみがえる。

「あーーー!!まさか、あの俺をバナナ呼ばわりしやがったあいつの仲間ー!?」

 

「くしゅん!!」

「ん?どうした?」

「ハウスダストに反応したんだよ」

部屋の掃除をする翔太は鼻を指でさすりながら、ゴミ袋に集めたごみを放り込む。

「ん?こいつは…」

ふと、ゴミ袋の外に飛んでいる黄色い物体を拾った翔太はそれをごみ袋に入れ、じっと見る。

「…バナナの、皮だな。あいつ…ボロボロになってるか?」

 

「私は手札から《月光彩雛》を召喚!」

黄色いひな鳥を模した帽子と同じ色彩のマントを装備した、幼い少女型のモンスターが現れる。

 

月光彩雛 レベル4 攻撃1400

 

「このカードはデッキ・エクストラデッキからムーンライトモンスター1体を墓地へ送ることで、そのモンスターにターン終了時まで変身する。《月光舞豹姫》へ変身しろ!」

マントを翻すと、それに《月光舞豹姫》の姿が映し出される。

「そして、手札から《Sp-スピード・フュージョン》を発動!その効果で、私は《月光彩雛》、《月光舞猫姫》、そして手札の《月光蒼猫》を融合!美しきマントを纏う雛よ、月明かりに舞い踊る美しき野獣よ、蒼き闇を徘徊する猫よ、月の引力により渦巻きて新たなる力と生まれ変わらん!融合召喚!現れ出でよ!月光の原野の頂点に立って舞う百獣の王!《月光舞獅子姫》!」

融合と同時に夜となり、上空には満月が浮かぶ。

それから降り注ぐ光の下、赤い腰マントとビキニアーマーを装備した、紫色のライオンを模した女性モンスターが剣舞を披露した後で、セレナのもとへ向かう。

 

月光舞獅子姫 レベル10 攻撃3500

 

「エクストラデッキから特殊召喚したな!!俺は《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》の効果を…」

「無駄だ!《月光舞獅子姫》は相手のカード効果の対象にならず、カード効果では破壊されない!」

《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》が力と効果を奪おうと、舞姫に向けてブレスを放つが、彼女が持っている剣でそのブレスを切り裂いてしまった。

「更に、《月光舞獅子姫》は1ターンに2度攻撃することができる!まずは《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》を攻撃!!」

《月光舞獅子姫》がブレスを切り裂かれ、動揺する《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》を剣でそのまま真っ二つに切り裂いた。

悲鳴を上げながら《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》が爆散し、その余波に巻き込まれた《SR-OMKガム》も破壊されてしまう。

「何!?《OMKガム》まで!!」

 

ユーゴ

ライフ3200→2200

SPC7→6

 

「《月光舞獅子姫》は1ターンに1度、モンスターを攻撃したダメージステップ終了時に相手フィールド上の特殊召喚されたモンスターをすべて破壊する効果がある」

《月光舞獅子姫》の剣先がユーゴに向けられる。

「さあ、最後は《獅子姫》の舞によって散れ!!」

《月光舞獅子姫》が剣舞をはじめ、剣を振るうたびに衝撃波を飛ばした。

「罠発動!《ガード・ブロック》!!俺が受ける戦闘ダメージを0にし、デッキからカードを1枚ドローする!」

しかし、ユーゴがドローしたのと同時に現れた透明のバリアが彼を衝撃波から守る。

「防がれたか…!だが、お前の切り札である《クリアウィング》は封じた!私はこれでターンエンドだ!」

 

セレナ

手札3→0

SPC4

ライフ1500

場 月光舞獅子姫 レベル10 攻撃3500

 

ユーゴ

手札0→1

SPC6

ライフ2200

場 なし

 

「ん、んん…」

ユーゴとセレナのデュエルがクライマックスを迎える中、遊矢はゆっくりと目を覚ます。

既に月影によって注射されているためか、痛みはないものの、強い倦怠感を覚えていて、起き上がるだけでもつらく感じる。

できることとしたら、こうして横になることだけだ。

「みんな、どうしているんだろう…ん??」

柚子たちの身を案じる中、遊矢のデッキが光る。

(ふん…小僧が伸びている間に事態が進んだようだな)

「オッドアイズ…」

(退屈しのぎだ)

再び遊矢の両目が黒と赤のオッドアイに変化していく。

「あ、ああ、あ…」

同時に遊矢の目に映る景色が緑色の光に包まれていく。

その光の中から、聞いたことのない男の声が聞こえ始める。

「まだだ!!俺はまだ満足していない!!もっと面白い、もっと激しいデュエルを見せてやる!!」

「誰だ…今の声は…?」

聞いたことがないにもかかわらず、なぜかどこかで聞いたことのあるような声に遊矢は困惑する。

次第に多くの人々の声が聞こえ始める。

「もっと激しいデュエルを!!…!!」

「もっと過激に!」

「もっと熱く!」

「もっと楽しませろ、…!!」

なぜか誰かの名前のところだけが、遊矢の耳には聞こえない。

「いいだろう!応えてやる…!お前たちの期待に!!お前たちの欲望に!!」

次第に光の中から1人のデュエリストの姿が見えてくる。

だが、光がまぶしいせいで、その姿を見ることができない。

「さあ、英知のカードよ!!俺に彼らの欲望に応える力を!!」

デッキから青い水晶でできたカードを出した彼はそれを天に掲げた。

 

「やってくれるぜ、だが、勝つのは俺だ!俺の…!?」

一方、ユーゴも急にめまいを感じ、車体がぐらつく。

そのめまいの間に、未加工の水晶をいくつも体につけた《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の姿が目に浮かぶ。

(どうやら…僕たちに敗北は許されないみたいですね)

「クリアウィング、今のは…」

めまいは一瞬で収まり、車体のぐらつきを抑えながら、ユーゴはクリアウィングに尋ねる。

(僕の封じられた力の一部が解放された、ということでしょう。”英知”の力によって…)

「英知、だって??」

(いつかわかりますよ。しかし、今は…)

「ああ、このデュエルを楽しねーとな!!俺のターン!!」

 

ユーゴ

手札1→2

SPC6→8

 

セレナ

SPC4→6

 

「俺は手札から《Sp-デッド・シンクロン》を発動!スピードカウンターが5つ以上あるとき、墓地のモンスターを素材にシンクロ召喚を行うことができる!」

「何!?」

「俺はレベル8の《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》にレベル1の《SR-OMKガム》をチューニング!」

フィールドに現れた《SR-OMKガム》の姿が水晶でできた壁に代わっていき、あとから現れた《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》がそれに向けて突っ込んでいく。

「神聖なる光蓄えし翼煌めかせ、その輝きで敵を撃て!シンクロ召喚!いでよ!レベル8!《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

このまま水晶を突き破っていくと、その姿がユーゴがめまいの中で見たものへと変わっていった。

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン レベル8 攻撃3000

 

(なんということでしょう…《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が水晶の鎧をまといました!!うわーーきれーー!!)

《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》を見たメリッサがつい実況中であることを忘れて、見とれてしまう。

「せっかく召喚したモンスターだが、攻撃力3000では私の《月光舞獅子姫》は倒せないぞ!」

「バトルだ!《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》で《月光舞獅子姫》を攻撃!」

「何!?」

月の光に照らされ、黄色い光を放ちながら《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》が突撃を駆ける。

その光によって力を得たのか、水晶の竜のスピードが加速度的に上昇していく。

「バカな!?月の光が《クリスタルウィング》に味方するだと!?」

「《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》はレベル5以上のモンスターと戦闘を行うとき、ダメージ計算時のみ、戦う相手モンスターの攻撃力分、攻撃力がアップする!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン レベル8 攻撃3000→6500

 

「バカな…!?」

「いっけえーーー!!烈風のクリスタロス・エッジ!!」

肉薄した《月光舞獅子姫》に向けて、水晶の爪で攻撃を仕掛ける。

1度は剣で受け止められたものの、それは左手の爪だけで、右手の爪を防ぐことができない。

その爪で剣を握る腕を引き裂かれ、その痛みで剣を放してしまった《月光舞獅子姫》を水晶のかけらが混じった白いブレスで焼き尽くそうとする。

 

「まずい…!!早くアクションカードパネルを!!」

焦ったロジェはすぐにオペレーターに指示を出す。

すぐにセレナの前にアクションカードパネルが出現する。

「…」

目を閉じたセレナはアクションカードパネルを横切った。

それと同時にブレスが放たれ、白い光の中に《月光舞獅子姫》が消えていった。

 

セレナ

ライフ1500→0

 

(決まったーーーー!!自らの不運を水晶の輝きで消し飛ばしたユーゴ選手!準決勝進出を決めましたーーー!!)

「ふうう…」

スタジアムに戻り、歓声に包まれる中、セレナはヘルメットを脱ぐ。

敗北したにもかかわらず、満たされた表情を見せていた。

だが、ユーゴは不機嫌そうで、ヘルメットを脱いでじっとセレナを見る。

「なんだ?」

「なんでだ?あのときアクションカードパネルを通過してたら、まだ勝負がわからなかっただろ?」

「あれはおそらく、私を勝たせようとする主催者側のいかさまだ。そんなものに乗る必要はない」

「え…?イカサマ??そんなの、あったっけかぁ??」

「何!?お前…まさか気づいていなかったのか…?」

(はぁ…バカだなぁ…やっぱりユーゴはミジンコレベルの脳みそですよ…)

「んあだとぉ!?誰がミジンコレベルだ!!」

(いえいえ、そうではありませんでしたね。あなたの脳みそはマイコプラズマレベルですよ!!)

急に誰も姿が見えないクリアウィングと大喧嘩を始めるユーゴ。

周囲の人々から見ると、それは一人口げんかにしか見えず、あまりにも痛々しい光景だった。

「はぁはぁ…悪い!!なんでもねーから、気にすんな!!」

「…ああ」

「おっと!そういえば、ランサーズだ!!なぁ、突然で悪いんだけど、俺もランサーズに入れ…」

「おい、そろそろいいか!」

「さぁ、負け犬の地獄へご案内だ」

ユーゴの話を遮り、2人のスタッフがセレナを確保する。

「おい、ちょっと待てよ!!?俺の話はまだ…!!」

「…ユーゴというデュエリスト。おそらく、準決勝か決勝で遊矢と会えるだろう。彼もランサーズの1人だ。入りたければ、彼に頼むんだな。悪いが、今の私にはそれができない」

「セレナ…」

「いつか必ず、お前にリベンジする!その時は、私が勝つ!」

ユーゴにリベンジ宣言を済ませると、セレナはスタッフに連れていかれた。

そんな彼女の後姿をユーゴはじっと見ていた。


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