遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第75話 迷いと覚悟と

「長官、榊遊矢を連れてまいりました」

「ご苦労様です。君は下がりなさい」

「ハッ!」

遊矢を長官室へ連れてきたセキュリティが敬礼をした後で戻っていく。

シンジとのデュエルのあと、遊矢はスタッフに連れていかれる形でホテルに戻るはずだった。

だが、途中で現れたセキュリティに身柄を引き渡され、そのままここへ連れていかれた。

わざわざトップスの金持ちが使うリムジンを使っての出迎えで、よけい気味の悪さを感じられた。

「突然のお出迎えをしてしまい、申し訳ありません。君には折り入って話したいことがありましたから…。そうですね、お詫びのしるしに紅茶でもいかがですか?先ほどいいお茶をいただきましたので…」

「いったい、俺に何の用だ?」

ロジェの顔をあまり見たくないと思った遊矢は早く出ていきたいと、単刀直入に用件を尋ねる。

お湯を入れたばかりのティーポッドを机に置いたロジェは代わりにタブレット端末を手にし、それで周囲のガラスに映っている映像を切り替えていく。

「あなたはどのように感じましたか?この次元を…自分の直感として」

トップスやコモンズの光景を入れ替えて映し出しながらロジェは尋ねる。

「…最初はあまりにも理不尽な格差社会だって思った。けど、この大会に参加してからは、コモンズの大きな憎しみと、トップスのコモンズを人間とは思わない…どういえばいいか、軽薄な冷たさを感じて、どちらも…怖かった」

「怖い?」

「そう…感じるんだ」

不思議な形容をした遊矢の目をロジェはじっと見る。

今の遊矢の目は元に戻っている。

ロジェは遊矢の2回のデュエルを見ているが、双方のデュエルはあまりにも動きが違って見えた。

「まるでエスパーのような言い方ですね。いいでしょう。その怖さがシンクロ次元の本質と言えるでしょう。過酷な競争と理不尽な格差が社会の分断を招いており、将来はこの次元は内乱で自滅の道をたどるでしょう」

「内乱…」

遊矢の言った怖さの先にある未来を口にしたロジェを見た遊矢の表情が曇る。

治安維持局長官でありながら、平然と、まるで第3者か傍観者のように言う彼からトップスの人々とは異なる冷たさを感じられた。

「ご存知かもしれませんが、私はもともと、融合次元でアカデミアに所属していました。しかし、プロフェッサーのやり方についていけず、こうしてシンクロ次元に流れてきました。だからこそ、共感できるのです。君に…君の感じるこの次元の歪みに」

「融合次元の…!」

あまりにもあっさりと素性を暴露したロジェの言葉で、1回戦で戦ったデュエルチェイサー227がなぜ融合モンスターを手にしていたのか、つじつまが合った。

融合次元出身者であるロジェであれば、融合モンスターや融合関係のカードを作るのは造作もないことだ。

そして、融合モンスターを使ったあのセルゲイもロジェの差し金だということがわかる。

「君はシンジ・ウェーバーを倒したことで、ある程度内乱の機運を抑えることができたでしょうが、あくまで一時的。シンジ・ウェーバー以外にもこうして革命を起こそうと思う人物がいるでしょう。時計の針をほんのわずかに止めたにすぎません」

「じゃあ、どうすれば…」

ロジェのいう通り、シンジを倒した程度で革命を完全に止めることができるはずがない。

たとえ一度失敗したとしても、ある程度時が流れると再び起こる可能性もある。

「ですが、私が見ているのはその先です。革命という嵐の先には新たな社会システムが構築されます。私はそこで、人々に笑顔を与える理想郷を作りたいと思っています。そのシステム作りに、あなたの力が必要なのです」

笑みを浮かべたロジェは遊矢の両肩をつかむ。

その間の映像が変わり続け、その中にはトップスによる虐待を受けるコモンズの労働者の映像もある。

「あなたの人々を笑顔にするデュエルをしたいという思いは、革命の先の未来に必ず必要となります。そして、将来侵略してくるであろう融合次元に対する自衛として、ランサーズと柊柚子、セレナの力も必要です」

「柚子とセレナの力…!?」

「アカデミアは次元を統一し、理想郷を作るアークエリアプロジェクトを進めています。そして、柊柚子とセレナはこの計画で一番重要なピースです。彼女たちの存在を材料に交渉し、融合次元による侵攻を止めることができるでしょう。仮に交渉に失敗したとしても、ランサーズという大きな力がある。彼らの力はフレンドシップカップで証明されてますし、シンクロ次元の力も加えることで、より大きな力となります。いかがでしょう?あなたにとっても、まったく損にならない話でしょう。信用していただけますね…?」

ロジェが話す間、遊矢はじっと目を閉じて聞いていた。

映像が生み出す先入観にとらわれないように。

そして、もともとこの次元の出身者ではないということから彼の言葉の冷たさの正体を知った遊矢は目を開く。

「じゃあ…その革命の中で犠牲になる人たちはどうなる?」

「仕方ありません。創造は破壊の中でしか生まれない。何かを成し遂げるためにはそれなりの代価が必要になるもの。等価交換ですよ」

「等価…交換…」

 

「翔太君!!」

「ああ、久しぶりだな。伊織」

アジトに到着した翔太を伊織たちシェイドのメンバーが出迎える。

漁介と鬼柳は笑いながら翔太の肩をたたく。

みんな、まるで翔太がこのタイミングで帰ってくることが分かっているかのように見える。

「おい、サプライズじゃなかったのか?」

「月影から教えてもらった。お前が情報を持って戻ってくると…。再会を喜んでいる場合ではないようだな」

ジョンソンの発言で、若干浮かれていた周囲が落ち着きを取り戻す。

全員が落ち着いたのを確認した後で、翔太は後ろを向く。

「それは俺よりもこいつが言ったほうがいいだろう。なぁ、素良!」

「素良??」

いち早く、翔太の言葉に柚子が反応する。

そして、建物の陰からゆっくりと素良本人が姿を見せる。

「あいつ、アカデミアの…」

「漁介、黙っとれ」

「僕は…伝えに来たんだ。柚子と伊織、みんなに…その、いろいろと…」

「まぁ待て。ここじゃあなんだ。まずは落ち着ける場所へ行って、そこで話せるようにしよう」

話そうとする素良を遮るかのように、モハメドが提案する。

ここから話す内容はあまり表ざたにならないほうがいい、という判断だ。

それにうなずいた素良は柚子の案内で宿舎に入っていく。

「翔太君、素良って…」

「ま、あいつの言葉を聞いて、そのあとで判断するさ」

 

宿舎1階の一番大きな部屋に、翔太たちが集まる。

なお、次元戦争について知っている面々以外は部屋に入っていない。

「素良…話せ」

「うん。まず、プロフェッサーはシンクロ次元に柚子とセレナがいるって情報をつかんだ。おそらく、このフレンドシップカップが終盤に近づくくらいにオベリスク・フォースが乗り込んでくる。2人をさらい、獲物を狩るために…」

「居場所をつかんだって…どうして!?」

「デニスがアカデミアのスパイなんだ。彼は黒咲に敗れた後、融合次元へ逃げた」

素良がデニスを逃がした、ということは翔太と月影によって口止めされた。

その言葉で彼がやはりアカデミアの味方だという先入観を与えない全員に与えないようにするためだ。

素良は話を進める。

「シンクロ次元に乗り込む目的はもう1つ。ロジェの存在だ」

「ロジェとアカデミアに何か関係があるの?」

「うん。ロジェはもともと、アカデミアの人間なんだ。けど、プロフェッサーに従うのが嫌で、リアルソリッドビジョンシステムの設計図をもって脱走したんだ。自分だけの王国を作るために…」

「じゃあよぉ、セルゲイってイカレヤローと227が《融合》を持っていたのは…」

「ロジェが渡したんだと思う。彼以外、考えられない」

素良からの情報に一同が騒然となる。

だが、彼の言葉はつじつまが合う以上、それが事実であると受け取らざるを得ない。

「それから、もう1つ情報があるんだ。伊織についてだけど…」

「え??私の??」

まさか自分のことが話題になるとは思いもよらず、びっくりしながら素良を見る。

翔太もこれについては聞きたかったと思ったのか、先ほどの興味なさげに窓から外を見る不真面目な態度を一変させる。

「…これは僕も本当かどうかはわからない。しかも、これは伊織たち自身の目で確かめなきゃならないけど…」

「御託はいい。さっさと話せ」

「うん…。伊織、君のお父さんは…融合次元にいる」

「…え??」

「君は…融合次元の人間なんだ」

素良の口から伝えられた衝撃の情報に翔太たちが、誰よりも伊織自身が動揺する。

今までスタンダード次元で育ち、ほかの次元について何も知らずに育った自分が融合次元出身だということが信じられなかった。

「で、でも…私は舞網市の院長先生に拾われて、施設に…!!」

「だが、お前が持っているそのE・HEROデッキ、施設に来た頃から持っているといってたよな。《融合》のカード込で」

「それは…私にもわからないよ!私だって…聞きたいよ。どうして、HEROデッキと《融合》を持っているのか…」

大声を上げた伊織はその場で頭をかきむしる。

後半から涙声になっていて、そこには能天気で明るい翔太のよく知る伊織の姿がなかった。

「あくまで仮説だよ。けど…真実を確かめる方法は1つだけある」

「方法…?」

「それは、融合次元へ行くことだよ。アカデミアでは融合次元に住んでいるすべての人のDNAデータを持ってる。そこで真実を確かめることができる」

「DNAを…また奇妙なことを…」

アカデミアの規模がどれほどのものかは判断できないが、一つの次元の人間すべてのDNAデータを手にすることができるというのはあまりにも異常に思えた。

「僕が伝えられる情報は…これだけだ」

「…で、おまえ自身はこれからどうするんだ?まさかアカデミアへ帰るって言わないだろうな?」

立ち上がった翔太は素良の胸ぐらをつかみながらにらみつける。

今の翔太は明らかに機嫌がよくなかった。

「…わからない。翔太には言ったよね…。僕はまだ、どちらが正しいのかわからないって。プロフェッサーのいうことが正しいのか、遊矢たちが言ってることが正…!?」

言い終わらぬうちに素良の頬に翔太の拳が叩き込まれる。

殴り飛ばされた素良の姿を見た柚子が非難めいた眼で翔太を見る。

だが、それに意を返すことなく、デュエルディスクを展開する。

「お前に迷う時間が与えられてると思ってるのか、甘ったれ小僧が!」

「僕が…甘ったれ…」

「迷って、中途半端でいりゃあ俺らが手を差し伸べると思っていたか!?裏切るんなら今、この場で盛大に裏切れ。悪党のままであいるなら最後まで悪党らしくいろ!」

翔太の言葉を黙って聞いた素良の口の中が切れたのか、口元に血が流れる。

その血を手の甲でふき取り、立ち上がった素良はデュエルディスクを構える。

「お前に…何がわかる…僕の気持ちを…」

「わからないな。お前の気持ちを考えてるほど暇じゃあないからな」

「くっ…!」

「覚悟しろよ。半端な覚悟で勝たせてやれるほど…俺は甘くねえ!!」

 

翔太

手札5

ライフ4000

 

素良

手札5

ライフ4000

 

開始宣言無しにデュエルが開始され、素良はカードを5枚引く。

それを確認した翔太はターンを開始した。

「俺は手札から魔法カード《魔装門》を発動。お前のフィールドに《魔装幻影トークン》2体を特殊召喚し、デッキから魔装カード1枚を手札に加える。俺はデッキから《魔装弓士ロビン・フッド》を手札に加える。そして、手札から魔法カード《手札断殺》を発動。お互いに手札2枚を墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローする。さあ、手札を墓地へ送れ」

「《手札断殺》?素良のデッキは墓地を最大限に活用できるのに…」

柚子のいう通り、素良は墓地のカードを活用できる。

それだけでなく、様々な状況下で必要なカードをサーチしていき、何度も融合召喚を行う。

そんな彼を相手に《手札断殺》を使うのは下策と言ってもいい。

「俺は《魔装槍士タダカツ》と《代償の宝札》を墓地へ送る」

「僕は…《エッジインプ・DT・モドキ》と《魔玩具融合》を墓地へ送る…!」

お互いに宣言したカードが墓地へ送られ、カードをドローする。

そして、翔太の墓地が光る。

「この瞬間、《代償の宝札》の効果発動。俺はデッキからカードを2枚ドローする。更に、俺はモンスターを裏守備表示で召喚。カードを3枚伏せ、ターンエンド」

 

翔太

手札5→7→3(うち1枚《魔装弓士ロビン・フッド》)

ライフ4000

場 裏守備モンスター1

  伏せカード3

 

素良

手札5

ライフ4000

場 魔装幻影トークン×2 レベル6 攻撃2000

 

「僕のターン、ドロー!」

 

素良

手札5→6

 

「僕は手札から永続魔法《デストーイ・ファクトリー》を発動!1ターンに1度、墓地の融合またはフュージョン魔法カード1枚を除外することで、デストーイ融合モンスターを融合召喚できる。僕は…墓地へ送られた《魔玩具融合》を除外し、手札の《エッジインプ・シザー》と《ファーニマル・ペンギン》、《ファーニナル・シープ》を融合。悪魔の爪よ、凍てつきし翼よ、生贄の獣よ、神秘の渦で1つとなりて、新たな力と姿を見せよ!融合召喚!現れ出ちゃえ、融合召喚!現れ出ちゃえ!すべてを引き裂く密林の魔獣!《デストーイ・シザー・タイガー》!」

3体のモンスターが渦に取り込まれ、その中から小さい子供や女性にとってはグロテスクな姿の虎のぬいぐるみを見せる。

生では初めて見る里香は見た瞬間失神し、漁介に支えられる。

 

デストーイ・シザー・タイガー レベル6 攻撃1900

 

「《デストーイ・シザー・タイガー》、遊矢から聞いたぜ。俺たちへの決別のカードらしいな。そのカードを相変わらず大事に持ってたなんてな…」

「うるさい!《デストーイ・シザー・タイガー》は融合召喚に成功したとき、素材となったモンスターの数だけフィールド上のカードを破壊できる!僕は裏守備モンスターと伏せカード2枚を破壊する!」

《デストーイ・シザー・タイガー》が巨大なハサミを使って翔太のフィールドに襲い掛かる。

だが、そのモンスターは急に青い炎に包まれて消滅してしまった。

「何!?」

「カウンター罠《大革命返し》。カードを2枚以上破壊する相手のカード効果の発動を無効にし、除外する。どうした?らしくないプレイを見せてくれるな」

「くぅ…!」

悔しげに《デストーイ・シザー・タイガー》のカードをデッキケースにしまう。

だが、素良のフィールドには翔太が特殊召喚した《魔装幻影トークン》が2体存在する。

攻撃力2000であれば、並のレベル4以下のモンスターを倒せないトークンではない。

そして、まだ発動していないモンスター効果がある。

「僕は《ファーニマル・ペンギン》の効果を発動!このカードをデストーイ融合モンスターの融合素材としたとき、デッキからカードを2枚ドローし、手札を1枚捨てる!僕は手札から《トイポッド》を墓地へ送る!そして、《トイポッド》の効果発動!このカードが墓地へ送られたとき、デッキから《エッジインプ・シザー》もしくはファーニマルモンスター1体を手札に加える。僕はデッキから《ファーニマル・ドッグ》を手札に加える!更に、《ファーニマル・ドッグ》を召喚!」

 

ファーニマル・ドッグ レベル4 攻撃1700

 

「《ファーニマル・ドッグ》の効果発動!このカードを手札から召喚・特殊召喚に成功したとき、デッキから《エッジインプ・シザー》かファーニマルモンスター1体を手札に加える。僕はデッキから《ファーニマル・ベア》を手札に加える。そして、手札の《ファーニマル・ベア》の効果発動!このカードを手札から墓地へ送ることで、デッキから《トイポッド》をセットする。そして、セットした《トイポッド》を発動し、効果発動!手札1枚を墓地へ送り、デッキからカードを1枚ドローする!そのカードがファーニマルモンスターなら特殊召喚し、それ以外のモンスターなら墓地へ捨てる!」

素良の手札にある《ファーニマル・ウィング》がコインとなって《トイポッド》に搬入される。

そして、それの丸いレバーが動くと同時に赤いカプセルが出て、その中からチョコレートがついたドーナッツを持つ、天使の羽根がついた青いネズミのぬいぐるみが出てくる。

「僕がドローしたカードは《ファーニマル・マウス》!よって、手札から特殊召喚する!」

 

ファーニマル・マウス レベル1 攻撃100

 

「やけくそ気味なソリティアを見せてくれるな。よっぽど、俺に殴られたのが癪に障ったか?」

「うるさい!お前に何がわかる!アカデミアで教わった正義を忘れられず、遊矢達がくれた笑顔を捨てきれない…。僕にとってはどちらも…」

「甘ったれるな!アカデミア兵として俺たち全員を倒す気がない、これから起こる侵略を止める気もないならさっさとこの場から消えろ!俺は罠カード《選択》を発動!相手が3回以上モンスターを召喚・特殊召喚し、俺のフィールド上に表側表示で存在するカードがない時、相手のターンを終了させる!」

翔太の怒りと共に発動されたカードから赤と青の2色で彩られた扉が出現し、素良の前に置かれる。

「そして、お前はこれから1つの選択をする」

「選択…?何を…」

「1つは次のお前のターン終了時まで、俺はお前にダメージを与えることができない。1つはお前はデッキからカードを2枚ドローする。1つは俺のフィールド上に存在するすべてのカードを墓地へ送る。1つはデッキからカードを1枚選択して手札に加える。最後の1つは俺の手札を見て、その中からカードを1枚選択してデッキに戻す。この中から1つを選べ」

「翔太君、そんなカードをデッキに…」

相手のターンを終わらせるのはいいが、相手に破格のアドバンテージを与える、使いどころを誤れば自滅するようなカードに伊織は驚く。

「選択だって…?」

「ああ、そうだ。選択肢の数は変化するが、選べるのは1つだけ。そして、その選択によっておこる結果はすべて受け入れるしかない。お前に今、足りないのは受け入れる覚悟だ」

「受け入れる…覚悟…」

「そうだ。俺たちはアカデミアを止めるためにランサーズ、そしてシェイドに加わった。自分たちがアカデミアの兵士に敗れる覚悟もしてだ。お前が仮に俺たちのもとへもう1度来るなら、お前に求められるのは元同胞を自分の手で倒す覚悟だ。アカデミアに戻る場合は俺たちに倒される覚悟…。どちらにしてもいばらの道であることには変わらない。だから、その選択で起こるすべてを受け入れる気があれば、今ここで選べ」

「僕は…」

素良はアカデミアに戻ってから、こうして翔太とデュエルをするときまでのことを思い出す。

ドクターNに自分の体について聞かされたときは、正直に言うと怖かった。

訓練の賜物なのか、人前でその恐怖を言うことも顔に表現することもなかったが。

柚子とセレナのことがあり、せめて弟子である柚子だけでもとシンクロ次元に来たが、まさかこのようなことになるとは想像できなかった。

選択は予測できないタイミングで突然迫られる、教官からの教えの1つだが、それを今、肌で感じている。

(僕に残された時間は少ない…。迷っている間に死ぬのなら、僕は…!)

自分の体の中にあるものを感じた後で、素良の心は決まった。

「僕は…相手フィールド上のカードをすべて墓地へ送る!」

扉が開き、翔太のフィールドのカードが消滅していく。

 

墓地へ送られたカード

・魔装霊レブナント

・エヌルタの慈悲

 

翔太

手札3(うち1枚《魔装弓士ロビン・フッド》)

ライフ4000

場 なし

 

素良

手札6→2

ライフ4000

場 魔装幻影トークン×2 レベル6 攻撃2000

  ファーニナル・ドッグ レベル4 攻撃1700

  ファーニマル・マウス レベル1 攻撃100

  トイポッド(永続魔法)

  デストーイ・ファクトリー(永続魔法)

 

選択

通常罠カード

(1):相手がモンスターを召喚・特殊召喚を3回以上行った相手ターンにのみ発動できる。そのターンを終了させる。その後、相手は以下の効果の中から1つを選択する。

●自分はデッキからカードを2枚ドローする。

●相手フィールド上に存在するすべてのカードを墓地へ送る。

●自分のデッキからカードを1枚手札に加える。

●相手の手札を確認し、その中から1枚を墓地へ送る。

 

 

「その選択で、後悔はないんだな?」

空っぽになった自分のフィールドを見て、翔太は確認するように尋ねる。

「うん…。これが、僕が覚悟して選んだ道」

「…。俺のターン!」

 

翔太

手札3→4

 

「俺は手札の《魔装弓士ロビン・フッド》の効果を発動。相手フィールド上にのみモンスターが存在するとき、手札のこのカードを表向きでエクストラデッキに置くことで、エクストラデッキ・墓地の魔装ペンデュラムモンスター1体を手札に加える。俺は墓地の《魔装槍士タダカツ》を手札に加える。そして、相手フィールド上にのみモンスターが存在するとき、このカードはリリースなしで召喚できる。《魔装近衛エモンフ》を召喚」

 

魔装近衛エモンフ レベル5 攻撃1000

 

「《エモンフ》が召喚されたってことは…!」

手札の《魔装槍士タダカツ》、そしてフィールドに現れた《魔装近衛エモンフ》に伊織たちはこれから翔太がやるパターンを察する。

素良も腕を下ろし、潔く攻撃を受ける覚悟を固めていた。

「このカードをエクシーズ素材とするとき、他のエクシーズ素材は手札の魔装モンスターでなければならない。俺はレベル5の《エモンフ》と手札の《タダカツ》でオーバーレイ!万物を測りし漆黒の騎士よ、むさぼりし者たちに飢餓をもたらせ!エクシーズ召喚!!現れろ、《魔装騎士ブラックライダー》!!」

 

魔装騎士ブラックライダー ランク5 攻撃2800

 

「《ブラックライダー》の効果。メインフェイズ1にオーバーレイユニットを2つ取り除くことで、このターン、相手フィールド上のすべてのモンスターに攻撃できる」

オーバーレイユニットを取り込んだ漆黒の騎士の天秤が揺れ動き、4つの隕石が召喚される。

「来い、翔太!!」

「《ブラックライダー》で素良のすべてのモンスターを攻撃!ブラック・リブラ・メテオ」

召喚された4つの隕石が素良のフィールドに降りかかる。

隕石に直撃した4体のモンスターは次々と消滅し、素良を爆風に包まれていく。

 

素良

ライフ4000→3200→2400→1300→0

 

敗北した素良は大の字になってその場にあおむけで横たわっていた。

「あーあ、負けちゃった…」

敗北したらすべてが終わりだと言っていたころが嘘だったかのように、素良の表情はおだやかだった。

そんな彼に翔太は手を差し伸べる。

「これで、アカデミアの兵士、紫雲院素良は死んだ。これからは遊勝塾の紫雲院素良だ」

「…まったく、ほんの少しだけ僕より先に塾に入ったばかりでその言い方…。でも、今はそれでいい…」

翔太の手を握り、素良はゆっくりと立ち上がった。

 

「さぁ、改めて聞きます。私とともにシンクロ次元を理想郷に変える手伝いをしていただけますか?」

「…答えは、ノーだ」

「ノー?自分の今の立場をわかっていて、ノーというのですか?」

否定されたロジェは遊矢から手を放し、ゆっくりと後ろへ下がる。

遊矢の目は再びあのオッドアイへと変わっていた。

「やっぱり、あなたは俺たちと同じよそ者。だけど…あなたはシンクロ次元で生きている人たちのことを何にも考えてない!だから人の命を軽く見る。そんな人のことを…俺は信用できない!」

「私が、信用できない…??」

ピクピクと表情をゆがめるのを抑えながらロジェは穏やかな言動を崩さずに遊矢と話す。

だが、もうすぐその仮面は砕ける。

そうなるように、遊矢は言うのを続ける。

「あなたの言う理想郷はあなた個人にとっての理想郷、シンクロ次元の人たちのためのものなんかじゃない!本当に理想郷を作りたいなら、この次元にいる人を1人も残さず全員幸せにしろ!この次元の人々の命を…あなたのちっぽけな自己満足のために奪わせるもんか!」

「私に…指図するなぁ!!」

ついに怒りを爆発させたロジェは我を忘れて隠し持っていた護身用のピストルを発砲する。

弾丸は遊矢の左腹部に命中する。

「柚…子…」

左手を銃創にあてながら、遊矢は倒れ、意識を失った。

背中に傷がないため、貫通していないことが分かる。

「これは、警告です。榊遊矢。この次元の王に歯向かうとどうなるか…この痛みに苦しみながら考えるといいでしょう」

すぐにセキュリティ隊員が長官室にやってきて、遊矢を確保する。

そして、彼を地下の独房へ連行していった。


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