遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第8話 もう1人のペンデュラム使い

「これって…」

「引き分け…?」

ライフが0となり、気絶している2人をタツヤ達は驚きながら見る。

「権現坂!!」

遊矢が大急ぎでデュエルフィールドへ入り、権現坂の肩を揺らす。

「うう…」

「権現坂、大丈夫か?しっかりしろ!!」

「すまん…。権現坂流不動のデュエルをもってしても、奴に勝つことができなかった…」

塾を守るための大事なデュエルに勝つことができず、自分のふがいなさを痛感する。

しかし、遊矢からかけられたのはねぎらいの言葉だ。

「引き分けにできたのはお前のおかげだ、権現坂!お前の信じるデッキの力、見せてもらったよ!」

「遊矢…」

権現坂は遊矢に、刃は北斗と真澄に支えられる形でデュエルフィールドを後にする。

「うーーん、でもこれどうなるのかな?」

「互いに1勝1敗1分け…となると…」

「延長戦です!!」

急に日美香が声を上げる。

「互いに1勝した生徒同士で決着をつける。よろしいですね?」

「そ…そんな勝手に!!」

「なら、俺がもう1度やればいいってことだな?そして相手は…」

翔太の目が真澄に向けられる。

「どうやらあなたはやる気みたいね?」

「ああ…。だが、北斗ってやつのようなレベルなら勘弁してくれ。それだとLDSのレベルの低さをさらすだけだからな」

「安心して。私は少なくとも沢渡や志島よりも強いわよ…秋山翔太」

「どうせ僕なんか…僕なんか…」

「お…おい、しっかりしろよ…」

真っ白になり、うつぶせに倒れる北斗を目覚めた刃が慰める。

あそこまでけなされた仲間をさすがに見捨てることができなかったのだ。

「待て…!!」

急に物陰から聞いたことのない声がする。

全員が注目する中、物陰から零児が姿を見せる。

「決着は私がつけよう…」

「…。あんたもLDSの生徒か?」

「関係者と言っておこうか」

翔太と零児が互いをじっと見る中、ゴーグルをかけた遊矢が翔太の肩をたたく。

「遊矢…」

「決着をつけるというなら…俺がつける!!」

「おいおい、俺の出番を取るつもりか?」

「このデュエルは遊勝塾の…父さんやみんなの塾を賭けたデュエル!!これ以上みてるだけなのはいやだ!」

「…。分かった、やるからには勝てよ」

遊矢の目を見て、翔太はため息をつくと彼の肩をたたき、伊織たちの元へ戻る。

「翔太君…いいの?もしかしたらこの人のデッキの中に…」

「鍵となるカードがあるかもな。けど、あいつは本気だからな。また別の機会を狙うさ」

普段のお気楽な目ではなく、本気に闘争心を燃やしている目。

それは翔太とデュエルをしている時には見せなかった目だ。

「そうだ!!ペンデュラム召喚は負けない!!」

「絶対に遊矢兄ちゃんが…」

「それはどうかしらね?あなた達、うちの零児さんがどれだけ強いか知らないのね?」

(零児…?)

デュエルディスクで観客席の声を聞いていた修造の脳裏にあるプロデュエリストの名前が浮かぶ。

赤馬零児…名字からわかるが、現在レオコーポレーション理事長を務める赤馬日美香の息子。

13歳でジュニアユース選手権、14歳でユース選手権優勝を果たし、15歳でプロデュエリストとなった天才で、現在はレオコーポレーションの社長を務めている。

(もしあいつが本当に赤馬零児なら…遊矢、本当に勝てるのか?)

「もういいでしょう、応援合戦は。あとは黙って見ていただきたい。私と彼のデュエルを…」

零児の言葉に両サイドは沈黙する。

そして、遊矢と零児がデュエルフィールドに出る。

デュエルフィールドで零児と対峙する遊矢はさらに険しい表情となる。

そんな彼にアユは恐怖を抱き、無意識に柚子にしがみつく。

「遊矢…どうしちゃったのかしら?」

「勝つことだけを考えているんじゃないのか?楽しむことよりも、あいつを倒すことに…」

「でも…あれは遊矢じゃない…」

柚子が知っている遊矢は常に明るく楽しくデュエルをしている。

険しい表情の遊矢はあまりにも彼らしくないと柚子には思えた。

「遊矢、笑って!!ここは明るく楽しいエンタメデュエルを教えるための塾でしょう!?忘れないで、笑顔を!!」

それは柚子が今できる精いっぱいのことだった。

「笑顔…」

柚子の言葉により、険しい表情が消えていく。

遊矢は小さいころからずっと遊勝のデュエルを見てきた。

彼はどんな状況でも笑顔を忘れず、デュエルを楽しんだ。

自分もそうならなければ、遊勝のようなデュエリストにはなれない。

ゴーグルを外し、笑顔になる。

「そうだよな…明るく楽しむのが俺のデュエル…。俺が笑顔にならなきゃ、楽しいデュエルはできない。よーし見せてやる!!最高の笑顔と楽しいエンタメデュエルを!!」

遊矢の言葉に柚子たちが歓声を上げる。

しかし、日美香は不敵な態度を崩していない。

「ふん…。その笑顔がいつまで続くかしら?」

「アクションフィールドはどうする?」

「君の好きにしてくれて構わない」

零児の言葉を受けた遊矢は修造に合図を送る。

修造はうなずくと、アクションフィールドを選び始めた。

「(遊矢は俺に任せるといっている。相手はプロデュエリスト…。たとえ卑怯と言われようとも、今は遊矢のため、そして遊勝塾を守るため、あいつが最も得意とするアクションフィールドを…)最高の舞台で、最高のエンタメデュエルを見せてくれ、遊矢!アクションフィールドオン!フィールド魔法《アスレチック・サーカス》を発動!!」

色とりどりのバルーンと派手なデザインの柱、そして空中ブランコとトランポリン、巨大なステージ。

さまざまな障害物と高低差のあるフィールドで、遊矢にとっては最も得意なフィールドだ。

これは修造が今できる彼への精いっぱいのエール。

必ず勝てというメッセージ。

「うわあ…サーカスだ!!」

「私、こういうの初めて見た!!」

「男気あふれる援護射撃だ、塾長!!」

「後は任せたぞ…遊矢」

「期待に応えるのがエンターテイナー!最高のデュエルを見せてやる!!」

2人はデュエルの準備を整える。

そして、柚子とタツヤ、フトシ、アユがデュエル開始の宣言をする。

「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!」

「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

「見よ、これがデュエルの最強進化系!」

「「「「アクショーーーン…」」」」

「「デュエル!!」」

 

零児

手札5

ライフ4000

 

遊矢

手札5

ライフ4000

 

「フィールドを選ばせてもらったお礼だ。先攻はあんたに譲るよ」

「お礼…?譲る…?なるほど、君はそういう思考をするのか?」

「へ…?」

遊矢にとって、これはきわめて当たり前の行動でしかない。

だが、レオコープレーションの社長であり、経営者として、そしてプロデュエリストとして数々の戦いを潜り抜けた零児とは異なる思考だ。

「まあいい、申し出は受け取っておこう。では私のターン。私は手札から永続魔法《法皇の契約書》を発動。このカードは私のターンのスタンバイフェイズ毎に1000ポイントのダメージを私は受ける」

「え…?」

「自分のターンが来る度に…」

「1000ポイントのダメージを受けるだと!?」

初期ライフ4000では、1000ポイントのダメージはあまりにも大きい。

そんなカードを通常のデュエリストはデッキに入れるのをためらう。

だが、そういう普通の考え方ではプロにはなれない。

「《法皇の契約書》は発動した時、デッキからレベル4以下のDDモンスター1体を手札に加える。私はデッキから《DDシーホース》を手札に加える」

「DD…?」

聞きなれない単語にフトシが首をかしげる。

「Different Dimention。異次元のことだよ」

「更に私は永続魔法《地獄門の契約書》を発動。このカードも自分のターンのスタンバイフェイズごとに1000ポイントのダメージを私に与える効果を持つ」

「何!?これで次のターン、奴は!!」

「2000ポイントのダメージを…!?」

リスクを全く顧みない零児の戦法に遊矢と柚子、権現坂は驚きを隠せずにいる。

(スタンバイフェイズごとに自分のライフを1000減らす契約書…おそらく、それに釣り合うほどのメリットを奴に…)

「《地獄門の契約書》は1ターンに1度、デッキからDDモンスター1体を手札に加えることができる。私はデッキから《DDリリス》を手札に加える。そして、私は更に永続魔法《魔神王の契約書》を発動。このカードも他の契約書と同じダメージ効果を持つ」

「これで3000ポイントのダメージ…?こんなリスクを冒して何を…??」

「《魔神王の契約書》は1ターンに1度、手札・フィールド・墓地のモンスターを素材に悪魔族融合モンスターを融合カードなしで融合召喚できる」

「えーーー!?《フュージョン・ゲート》みたいな効果を持ってるの!?」

「私が融合するモンスターは《DDシーホース》と《DDリリス》」

馬の上半身と魚の下半身を持つ、灰色のモンスターと薔薇でできた女性のような体つきのモンスターが現れる。

「大地と海を駆ける獣よ、闇より誘う妖婦よ!冥府に渦巻く光の中で、今ひとつとなりて新たな王を生み出さん。融合召喚!生誕せよ!《DDD烈火王テムジン》!」

赤いタワーシールドと剣、そして馬を模した鎧を身に着けた王が炎を纏って現れる。

 

DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃2000

 

DDシーホース

レベル4 攻撃2200 守備1500 効果 闇属性 悪魔族

(1):このカードは自分フィールド上に他の「DD」モンスターが存在しないとき、攻撃できない。

 

「すげえ…」

「あいつ、融合使いか!?」

「でも、あのモンスターを呼び出すためにあんなリスクを…」

「DDD…?」

「今度はDが3つ?」

「どういう意味だ?」

零児の戦法を疑問に思う柚子たちとは異なり、素良は険しい表情で見ている。

「なんか…全然違う。もしかして本物?でも…」

(3000ポイントのダメージを覚悟で呼び出したのは攻撃力2000の融合モンスターだけだと…!?奴の狙いは本当にそれだけなのか?)

一方、修造は零児の戦績を確認している

「過去の試合で、赤馬零児が融合召喚を使ったという記録はない。それを使わずに圧倒的な強さを見せた彼がさらに力をつけたというのか…?」

「私はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 

零児

手札5→0

ライフ4000

場 DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃2000

  地獄門の契約書(永続魔法)

  法皇の契約書(永続魔法)

  魔神王の契約書(永続魔法)

  伏せカード2

 

遊矢

手札5

ライフ4000

 

「手札を使い切っちゃった…」

ターンを終えた零児は眼鏡を整え、顔にわずかに付着した埃を払う。

更に、挑発するかのような少し見下した目を遊矢に向ける。

「何よあの態度、偉そうに!!」

「4番目に出てきた補欠のくせに!!余裕か!!?」

「余裕?それはあるかもね。自分から3000ポイントのリスクを負ったのも遊矢を舐めてるからなのかも…」

素良の予想に柚子と権現坂、そして伊織も腹を立てる。

「そんな…!!」

「けしからん!!対戦相手を舐めるなど、勝負師の…デュエリストの風上にも置けん!!」

「そーだそーだ!!」

「遊矢兄ちゃん!あんな奴、やっつけちゃえ!!」

「ケチョンケチョンにやっちゃって!!」

「しびれまくるくらいぶちのめしてやれ!!」

怒ったタツヤ達が声援を送る中、翔太は2枚の伏せカードをじっと見ている。

(これで考えられるのは…あえて3000ポイントのダメージを受けてそれを引き金に新たなカードを発動する…もしくは契約書を破壊してリスクを踏み倒す…そのどちらか…。だが…)

《魔装騎士ペイルライダー》を握り、零児の《DDD烈火王テムジン》を見る。

(なんだ…?この遠い昔に別れた仲間と再会するようなこの感じは…)

そんな疑問を翔太が抱く中、遊矢は達也たちの声援にこたえる。

「ああ!!だが、しびれさせるのは俺のエンタメデュエルでだ!」

そして、アクションカードを探すために走り始める。

「俺のターン、ドロー!!」

 

遊矢

手札5→6

 

「俺は手札から《EMウィップ・バイパー》を召喚!」

 

EMウィップ・バイパー レベル4 攻撃1700

 

「《ウィップ・バイパー》の効果発動!1ターンに1度、フィールド上のモンスター1体の攻撃力・守備力をターン終了時まで入れ替える!そしてこの効果はお互いのターンのメインフェイズに発動できる!混乱する毒!!」

《EMウィップ・バイパー》が尻尾についているハートマークが先端にある紐を揺らす。

すると《DDD烈火王テムジン》が催眠術にかかり、剣を置いて眠ってしまう。

 

DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃2000→1500

 

「《テムジン》の攻撃力が下がった!!」

「《ウィップ・バイパー》の攻撃力は1700!これなら勝てる!」

「しびれるーー!!」

「バトルだ!《ウィップ・バイパー》で《烈火王テムジン》を攻撃!」

《EMウィップ・バイパー》は眠っている《DDD烈火王テムジン》の首にかみつこうと相手に飛びかかる。

「永続罠《戦乙女の契約書》を発動!このカードが発動している間、私の悪魔族モンスターの攻撃力は相手ターンの間1000ポイントアップする。そして、このカードも他の契約書と同じリスクを持つ」

「これで…次の奴のターンのスタンバイフェイズ時に合計4000のリスクか」

 

DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃1500→2500

 

「どーしよう!!このままだと《ウィップ・バイパー》が返り討ちにされちゃうよ!!」

急なパワーアップに驚き、のけぞる《EMウィップ・バイパー》に目覚めた《DDD烈火王テムジン》の剣が襲い掛かる。

そんな中、遊矢は黄色いバルーンの上にあるアクションカードを回収し、他のバルーンを行き来して空中ブランコの出発点まで移動した。

「アクション魔法《ハイダイブ》を発動!フィールド上のモンスター1体の攻撃力をターン終了時まで1000ポイントアップさせる!」

《EMウィップ・バイパー》はかろうじて《DDD烈火王テムジン》の迎撃をかわすと、真下に出現したトランポリンを使って大きく飛び上がる。

 

EMウィップ・バイパー レベル4 攻撃1700→2700

 

ハイダイブ(アニメオリカ)

アクション魔法カード

(1):フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターの攻撃力をターン終了時まで1000ポイントアップする。

 

「よーし、いいぞ!!」

「これでまたまた逆転よ!」

「しびれるーーー!!」

(あいつ…こんなに動いてなんで痩せないんだ…?」

体を激しく動かすフトシを見て、翔太の頭にどうでもいい疑問が浮かぶ。

「私は《法皇の契約書》の効果を発動。1ターンに1度、私のDDモンスターが攻撃されるとき、そのモンスターは戦闘では破壊されず、自分が受ける戦闘ダメージを0にすることができる」

「何!?」

《DDD烈火王テムジン》の目の前に激しい炎の壁が生まれる。

攻撃不可能と判断した《EMウィップ・バイパー》はおとなしく引き下がり、遊矢の右腕に巻きつく。

 

法皇の契約書

永続魔法カード

(1):このカードを発動するとき、自分はデッキからレベル4以下の「DD」モンスター1体を選択して手札に加える。

(2):1ターンに1度、自分フィールド上の「DD」モンスターが戦闘を行う時に発動できる。そのモンスターは戦闘では破壊されず、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0となる。

(3):自分スタンバイフェイズに発動する。自分は1000ダメージを受ける。

 

「く…!!結構見せてくれるじゃん!」

「うーん…ここまでは互角。問題は…」

バトルが終了した今、修造の目は零児の4枚の契約書に向けられる。

「おそらく、最後の伏せカードは…」

修造は成績はあまり良くなかったが、元プロデュエリスト。

零児がむやみにハイリスクのカードを使うわけがないことはよくわかっている。

「互角じゃないわ!!」

「次の奴のターンのスタンバイフェイズ時、合計4000のダメージを負うことになっている!つまり…」

「ここで遊矢がターンエンドすれば、遊矢の勝利に…!!」

「あっけねーの」

「それはどうかな?」

「え…?」

「なんかあいつ、そういう単純ミスをするように見えないけど…」

素良はこれまでのデュエルとは異なり、かなり大真面目に遊矢と零児のデュエルを見ている。

まるで、零児の実力を少しでも多く知るためかのように…。

「…」

「ふっ…」

「何がおかしい!?」

「失敬。最初に君がお礼とか譲るとかいう言葉を口にしたのを思い出してね。君は心の優しい人間のようだ。だが、そんな優しさなど、戦いの舞台では一切通用しない!!」

「な…!?」

「君はターンエンドすることで勝利を得られる状況にいながら、それをためらっている。おそらく、それはその優しさゆえ。そんな甘さがどのような結果をもたらすのか…」

遊矢の人間性をここまで確かめていたかのような言動。

そして、零児の2枚目の伏せカードが彼の言った甘さがもたらした結果を示す。

「私は罠カード《契約浄化》を発動!」

発動と同時に、零児の4枚の契約書が消滅する。

そして、《DDD烈火王テムジン》の攻撃力が下がる。

 

DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃2500→1500

 

「何!?」

「これで契約は無効となった。このカードは私のフィールドに存在する契約書をすべて破壊し、破壊した数だけデッキからカードをドローする。更にその効果でドローしたカード1枚につき、1000ポイントライフを回復する」

 

零児

手札0→4

ライフ4000→8000

 

「ライフが一気に8000に!?」

「しかも、4000ポイントのダメージを無効にし、4枚もカードをドローしただと!?」

零児はこれでリスクを回避しただけではなく、いずれ背負うであろう新たなリスクに対処するためのライフを手にしたのだ。

まるで、手にした利益の一部を企業内に蓄積する内部留保のように。

「俺は…カードを1枚伏せて、ターンエンド。それと同時に《ウィップ・バイパー》と《ハイダイブ》の効果は消える」

 

零児

手札4

ライフ8000

場 DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃1500→2000

 

遊矢

手札6→4

ライフ4000

場 EMウィップ・バイパー レベル4 攻撃2700→1700

  伏せカード1

 

「甘い…か…」

零児の言葉はある意味正しい。

今のような塾をかけた戦いでは、甘さを捨てなければならないだろう。

「でも、もしそれで勝てたとしてもうれしくはないな。みんなが期待する、俺のエンタメデュエルがないまま終わったんじゃ…。あんたから見れば、これも甘ったれた考えかもしれないけど…だけど、俺は俺のデュエルで…父さんから教わったエンタメデュエルで勝ってみせる!」

しかし、遊矢はエンターテインメントデュエリストを目指している。

みんなが楽しめるデュエルをどんな状況でもできるようにならないとそんなデュエリストにはなれない。

そのことを、デュエルの前に柚子が思い出させてくれた。

「榊遊勝のデュエルでか…?」

「父さんを…父さんを知っているのか!?」

「ハハハ、そりゃ知ってるさ。お前の父ちゃんは有名人だからな」

「逃げ出した元チャンピオンとしてね…」

「ぐ…!!」

刃といつの間にか立ち直っていた北斗に尊敬する父親を愚弄されたことに怒りを覚える。

しかし、怒りを覚えたのは遊矢だけではなかった。

「黙れ!!!!」

「「う…!!」」

怒る零児に北斗と刃はおびえ切った表情となる。

「失礼。もちろん、君の父上のことは存じ上げている。現在のアクションデュエルの隆盛を築き上げたパイオニアとして、心から尊敬している」

「…」

今まで、身近な人々とは異なり、自分の周りでは遊勝を逃げ出した元チャンピオンとして愚弄する声がほとんどだった。

実際彼が行方不明となった後、メディアはそろって遊勝を貶めた。

学校では遊矢はそれがきっかけでいじめのターゲットにされ、半分不登校になってしまったこともある。

そんな彼にとって、今の零児はどこか新鮮で、他の人とは違うように思えた。

「今日は見せてもらうよ、君が父上から継承したデュエルを…。であるならば、私も君に本気を見せなければならない」

「本気って…じゃあ、今までは!!」

手加減をしていたのか…そう続くはずだった遊矢の言葉を遮り、零児はターンを開始する。

「私のターン、ドロー!!」

 

零児

手札4→5

 

「私は手札からチューナーモンスター、《DDナイト・ハウリング》を召喚」

紫色の大きな口が異次元から現れる。

 

DDナイト・ハウリング レベル3 攻撃300(チューナー)

 

「チューナーだと!?」

「このカードの召喚に成功した時、墓地からDDモンスター1体を特殊召喚できる。その効果で私は墓地から《DDリリス》を特殊召喚」

急に遊矢のそばに次元の渦が生まれる。

「な…うわあ!!?」

するとそこから急に《DDリリス》が現れ、遊矢はびっくりして柱にしがみつく。

「ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力・守備力は0となり、効果も無効化される。更に、そのモンスターが破壊された時、私は1000ポイントのダメージを受ける」

 

DDリリス レベル4 攻撃100→0

 

「これで、レベル7か9のシンクロモンスターをシンクロ召喚できる…」

「まさしく…ここからが本番」

「私はレベル4の《DDリリス》にレベル3の《DDナイト・ハウリング》をチューニング!闇を切り裂く咆哮よ。疾風の速さを得て新たな王の産声となれ!シンクロ召喚!生誕せよ!レベル7!《DDD疾風王アレクサンダー》!」

姿は《DDD烈火王テムジン》に若干似ているが、右手に剣を持ち、青い鎧と緑のマントを身に着けた王が姿を現す。

 

DDD疾風王アレクサンダー レベル7 攻撃2500

 

「今度はシンクロ召喚を…!?」

融合召喚だけでなく、シンクロ召喚まで使いこなす。

遊矢と零児のデュエリストの力量の差がどれだけ大きいかそれだけでもわかる。

だが、零児のデュエルはさらに想像できない方向へ進んでいく。

「まだ終わりではない。私は《烈火王テムジン》の効果を発動。1ターンに1度、このカード以外のDDモンスターの特殊召喚に成功した時、墓地からDDモンスター1体を特殊召喚できる。私は墓地から《DDシーホース》を特殊召喚」

《DDD烈火王テムジン》が剣を天に掲げると、上空に炎の渦が生まれ、そこから《DDシーホース》が降りてくる。

 

DDシーホース レベル4 攻撃2200

 

「そして、《疾風王アレクサンダー》の効果発動。1ターンに1度、このカード以外のDDモンスターのの特殊召喚に成功した時、墓地からレベル4以下のDDモンスター1体を特殊召喚できる。蘇れ、《DDリリス》!!」

《DDD疾風王アレクサンダー》が《DDD烈火王テムジン》と同じやり方で上空に風の渦が生まれ、そこから《DDリリス》が現れる。

 

DDリリス レベル4 攻撃100

 

「レベル4のモンスターが2体…まさか!?」

「私はレベル4の《DDシーホース》と《リリス》でオーバーレイ!この世の全てを統べるため、今 世界の頂に降臨せよ!エクシーズ召喚!生誕せよ!ランク4!《DDD怒濤王シーザー》!」

青い亀のような重装な鎧を身に着け、鋼の大剣を持った王が現れる。

 

DDD怒濤王シーザー ランク4 攻撃2400

 

「ああ…」

「エクシーズ召喚まで…」

「なんて奴だ…」

「まさか、あの人のデッキって翔太君と…」

「ああ…おそらく、俺と同じタイプのデッキだ…」

融合、エクシーズ、シンクロのギミックをすべて搭載したデッキ。

ある意味では、そのようなデッキは正気の沙汰ではないだろう。

だが、少なくとも零児は現にそれを十二分に使いこなしている。

「DDDとはすなわち、Different Dimention Daemon。異次元をも制する王の力。たっぷり味わうがいい」

3体の王を前に、《EMウィップ・バイパー》はすっかり怖気づいて遊矢の腕から離れない。

「いくぞ、バト…」

「ちょ…ちょっと待った!俺は《ウィップ・バイパー》の効果を発動!フィールド上のモンスター1体の攻撃力・守備力を入れ替える!その効果で俺は《怒涛王シーザー》の攻撃力と守備力を入れ替える!混乱する毒!!」

首を思いっきり降って恐怖を紛らわせた《EMウィップ・バイパー》が催眠術を使い、《DDD怒涛王シーザー》を軽い睡眠状態にした。

 

 

DDD怒濤王シーザー ランク4 攻撃2400→1200

 

「私は《烈火王テムジン》で《ウィップ・バイパー》を攻撃!」

《DDD烈火王テムジン》の炎を纏った剣が《EMウィップ・バイパー》を丸焼きにした後、真っ二つに切り裂いた。

「くっ…!!《ウィップ・バイパー》!!」

 

遊矢

ライフ4000→3700

 

「なら俺は罠カード《EMアドバンスチケット》を発動!俺のフィールドのEMが破壊された時、そのモンスターを墓地から守備表示で特殊召喚する!蘇れ、《ウィップ・バイパー》!!」

遊矢の目の前に《EMディスカバー・ヒッポ》が描かれている大量のチケットが降ってきて、それと共に《EMウィップ・バイパー》が舞い降りる。

 

EMウィップ・バイパー レベル4 守備900

 

「更に、俺はデッキからレベル4以下のペンデュラムモンスター以外のモンスター1体を特殊召喚する!俺はデッキから《EMソード・フィッシュ》を守備表示で特殊召喚!」

 

EMソード・フィッシュ レベル2 守備600

 

EMアドバンスチケット

通常罠カード

(1):自分フィールド上に表側表示で存在する「EM」モンスター1体が戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた時、そのモンスター1体を対象にして発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。その後、デッキからレベル4以下のPモンスター以外のモンスター1体を選択し、特殊召喚する。

 

「ほう…」

「そして、《EMソード・フィッシュ》の効果発動!このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、相手モンスターの攻撃力・守備力を600ポイントダウンさせる!」

《EMソード・フィッシュ》の分身が18体現れ、6匹で1体の王を包囲する。

 

DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃2000→1400

DDD疾風王アレクサンダー レベル7 攻撃2500→1900

DDD怒涛王シーザー ランク4 攻撃1200→600

 

「ならば私は手札から速攻魔法《DDDの評議会》を発動。私のフィールドにDDDモンスターが存在するとき、フィールド上に存在するすべてのモンスターの攻撃力・守備力を元に戻し、私のライフを1000回復させる」

「何!?」

「ストロング石島とのデュエルは私も見させてもらったよ。《ソード・フィッシュ》の効果は厄介だ。対処させてもらう。」

 

DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃1400→2000

DDD疾風王アレクサンダー レベル7 攻撃1900→2500

DDD怒涛王シーザー ランク4 攻撃600→2500

 

零児

ライフ8000→9000

 

DDDの評議会

速攻魔法カード

(1):自分フィールド上に「DDD」モンスターが表側表示で存在する場合にのみ発動できる。フィールド上に存在するすべてのモンスターの攻撃力・守備力を元々の数値に戻し、自分は1000LPを回復する。

 

「《疾風王アレクサンダー》、《怒涛王シーザー》、残りのモンスターを攻撃しろ!」

2体の王は自らの剣で《EMソード・フィッシュ》と《EMウィップ・バイパー》を切り裂いた。

「くっそーーー!!遊矢兄ちゃんのモンスターが全滅した!!」

「私はカードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

零児

手札5→2

ライフ9000

場 DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃2000

  DDD疾風王アレクサンダー レベル7 攻撃2500

  DDD怒涛王シーザー(オーバーレイユニット2) ランク4 攻撃2400

  伏せカード2

 

遊矢

手札4

ライフ3700

場 なし

 

「すごいな…これがあんたの本気か。3つの召喚法を操るなんて、正直驚いたよ」

翔太の零児と同じように3つの召喚法を操り、更にペンデュラム召喚も使いこなす。

しかし、彼が1回のデュエルでその3つすべてを使ったところは見たことがない。

零児がこの2ターンで3つの召喚法をすべて使い切ったのはある意味では新鮮だった。

「今度は俺のターンだ!俺は融合もシンクロもエクシーズもできないけど、俺にはペンデュラム召喚がある!お楽しみはこれからだ!!」

 

遊矢

手札4→5

 

「(来た…!!)レディースアンドジェントルマン!!ご来場の皆様、長らくお待たせしました!!これより榊遊矢によるエンターテインメントデュエルをお見せします!!」

「うおーーー!!」

「待ってました!!」

「いっけーー!遊矢君!!」

伊織たちは盛り上がりを見せるが、なぜか日美香は陳腐なものを見るような目をしている。

「俺はスケール1の《星読みの魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル2から7までのモンスターを同時に召喚可能!揺れろ!魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!! 来い、俺のモンスター達!!《EMファイア・マフライオ》!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」

シルクハットと蝶ネクタイ、そして炎のマフラーを身に着けた白いライオンが《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と共に姿を見せる。

 

EMファイア・マフライオ レベル3 攻撃800

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

「出たーー!ペンデュラム召喚!」

「新しいモンスターも出た!」

「しびれるーーー!!」

「さあ、反撃よ!遊矢!」

「いけーー!!」

「頼むぞ、遊矢!!」

ペンデュラム召喚により、柚子達のテンションが高まる。

「さあさあご注目!これより我が一座が誇るスーパースター、《オッドアイズ》による炎の曲芸をご覧に入れます!!」

ゴーグルをかけた遊矢は飛び降り、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の背に乗る。

「いくぞ、《オッドアイズ》!まずは《烈火王テムジン》を攻撃だ!その2色の眼で、とらえたすべてを焼き払え!!螺旋のストライク・バースト!!」

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の口からその名の通りドリル状に回転する炎のブレスが放たれ、《DDD烈火王テムジン》を破壊する。

「《オッドアイズ》が相手モンスターを攻撃するとき、相手に与える戦闘ダメージは倍になる!」

「…」

 

零児

ライフ9000→8000

 

「やった!!500の倍で1000のダメージ!」

「更に、《ファイア・マフライオ》の効果発動!このカードが攻撃表示で存在し、俺のペンデュラムモンスターが戦闘で相手モンスターの破壊に成功した時、バトルフェイズ終了時まで攻撃力を200ポイントアップしてもう1度だけ攻撃できる!」

《EMファイア・マフライオ》は炎のマフラーを空へ飛ばすと、それは自然に炎の輪となってそのモンスターの真上に浮遊する。

「いけ、あの炎の輪をくぐるんだ!《オッドアイズ》!!」

遊矢の命令を聞いた《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は力強く跳躍し、炎の輪をくぐる。

輪をくぐり終えると炎はマフラーとなって《EMファイア・マフライオ》の元へ戻った。

 

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃2500→2700(バトルフェイズ中のみ)

 

「火の輪くぐりだ!!」

「あんな技を使ってパワーアップさせるなんて…」

「まさに猛獣使い、いや、ドラゴン使い!!」

柚子達が面白そうに眺める中、修造に限っては窓に顔を張りつかせるくらいにじっと遊矢のデュエルを見ている。

「これこそエンタメだ!燃えるぜ遊矢、熱血だーーー!!」

「2回目の攻撃の対象は《疾風王アレクサンダーだ!!」

再び《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が螺旋のブレスを放ち、《DDD疾風王アレクサンダー》を焼き尽くす。

そして、ダメージは倍となって零児を襲う。

「…」

 

零児

ライフ8000→7600

 

「くーーー!!しびれすぎてたまらなーい!!」

「これで、あいつの連続復活コンボを封じたな…」

先程のシンクロ召喚と融合召喚の連続技は《DDD烈火王テムジン》と《DDD疾風王アレクサンダー》があったからこそできた芸当。

その2体を先に倒したことで、零児のさらなる展開を封じ込めることができた。

攻撃を終えた後も《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は走り続ける。

そして、ステージの端にあるアクションカードを遊矢は大きく体を傾けて回収する。

「よーし、今日の俺はきてるぞ!!俺はアクション魔法《ワンダー・チャンス》を発動!このターン、俺のモンスター1体はもう1度攻撃できる!今度は《怒涛王シーザー》だ!!」

再び放たれた螺旋のブレスにより、3体目の王も破壊されてしまった。

その時、《DDD怒涛王シーザー》のオーバーレイユニットが1つ消えたことを遊矢達は気づかなかった。

「…」

 

零児

ライフ7600→7000

 

ワンダー・チャンス(アニメオリカ)

アクション魔法カード

(1):自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択されたモンスターはこのターンのバトルフェイズ中、もう1度攻撃できる。

 

「やったーー!!全部やっつけた!」

「おまけに相手のライフを2000も減らした!!」

「もう、しびれすぎだよーー!!」

遊勝塾側がまるでもう勝利したかのようなムードとなる。

しかし、翔太は日美香がいまだに不敵な笑みを浮かべていることを疑問に思う。

(確かに。奴のDDDモンスター3体は撃破した。だが、彼女はまだあの男の勝利を確信してる…。まだまだ序の口ということか…?)

攻撃を終え、走り終えた《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》から遊矢が降りる。

「皆様、ご喝采ありがとうございます!《ファイア・マフライオ》は自身の効果により、攻撃できません!これにて、このターンの《オッドアイズ》の攻撃は終了し、攻撃力は元に戻ります。よく頑張ったな…」

3度も攻撃し、若干疲れを見せる《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》をやさしくなでる。

「私は《怒涛王シーザー》と《烈火王テムジン》の効果を発動。《烈火王テムジン》は戦闘または相手のカード効果で破壊された時、墓地から契約書を1枚手札に加えることができる。そして、《怒涛王シーザー》はフィールドから離れたとき、デッキから契約書を1枚手札に加えることができる。よって、私は墓地から《法皇の契約書》、デッキから《契約書の更新》を手札に加える」

「何!?また契約書を…」

「まだだ。更に私は《怒涛王シーザー》のもう1つの効果を発動。そしてそれにチェーンして罠カード《DDDの先行投資》を発動。まずは《先行投資》の効果だ。このターン戦闘で破壊された私のDDDモンスターの数だけデッキからDDモンスターを手札に加える。そして、《怒涛王シーザー》の効果だ」

急に零児のフィールド上空に3つの次元の裂け目が生まれる。

「このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除くことで、このターンのバトルフェイズ終了時にこのターン破壊されたモンスターを可能な限り私の墓地から特殊召喚することができる」

「そんな!!せっかく倒したモンスターが全部復活するなんて…」

「うわぁ…なんだかすごくえげつない効果…」

(《アブソルートZero》と《アシッド》の全滅コンボを使うお前が言うな…)

次元の裂け目から3体の王が無傷な姿で現れ、零児のフィールドに舞い戻る。

更に、零児の手札に3枚のDDモンスターが加わる。

 

DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃2000

DDD疾風王アレクサンダー レベル7 攻撃2500

DDD怒涛王シーザー ランク4 攻撃2400

 

零児

手札2→7(うち2枚《法皇の契約書》、《契約書の更新》)

 

EMファイア・マフライオ(アニメオリカ・一部創作)

レベル3 攻撃800 守備800 炎属性 獣族

「EMファイア・マフライオ」の(1)のモンスター効果は1ターンに1度しか発動できない。

【Pスケール:青3:赤3】

(1):1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在するPモンスター1体を選択して発動する。選択されたモンスターはこのターン、相手に与える戦闘ダメージが0となる代わりにバトルフェイズ中もう1度だけ攻撃できる。

【モンスター効果】

(1):このカードが自分フィールドに表側攻撃表示で存在し、自分フィールドのPモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊して墓地へ送った場合、自分モンスター1体を対象として発動出来る。対象モンスターの攻撃力をバトルフェイズの間200アップし、もう1度だけ続けて攻撃する事が出来る。この効果の発動ターン、このカードは攻撃出来ない。

 

DDDの先行投資

通常罠カード

「DDDの先行投資」は1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分フィールド上に表側表示で存在する「DDD」モンスターが戦闘で破壊されたターンのバトルフェイズ終了時に発動できる。このターン、戦闘で破壊され墓地へ送られた「DDD」モンスターの数だけデッキから「DD」モンスターを手札に加える。

 

「3体の王がよみがえったか…」

「それに、《DDDの先行投資》であの人、3枚もDDモンスターをサーチしたよ。それに、また契約書も手札に加えたし…次のターン、まずいことが起こるかも…」

《DDD怒涛王シーザー》の効果はあまりにも凄まじく、インチキ効果に等しい。

そのような抗議を想定してなのか、零児はその効果の代償を説明し始める。

「ただし、それだけの利益を得るためにはリスクがある。この効果を発動した次の自分のターンのスタンバイフェイズ時にこの効果で特殊召喚したモンスター1体につき1000ポイントのダメージを受ける」

「なるほどな…《契約浄化》と《DDDの評議会》でライフを回復したのはすべてはこのため…」

あえて3体のDDDモンスターを投資して3体のDDモンスターと2枚の契約書という利益を得て、更に投資したモンスターを《DDD怒涛王シーザー》の効果ですべて回収、そしてそのリスクを2枚のカードで得たライフで埋め合わせる。

結果、零児は元本を減らすことなく大幅な利益を得ることに成功した。

そして、遊矢は零児に利益を与える手伝いをしてしまったことになる。

「なら…俺は手札から魔法カード《苦渋の宝札》を発動。俺の手札がこのカードだけで、相手の手札が4枚以上存在するときに発動でき、俺はデッキからカードを2枚ドローする」

 

遊矢

手札5→1→2

 

苦渋の宝札

通常魔法カード

「苦渋の宝札」は1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分の手札がこのカードのみで、相手の手札が4枚以上存在する場合にのみ発動できる。自分はデッキからカードを2枚ドローする。

 

「そして…カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

零児

手札7(うち2枚《法皇の契約書》、《契約書の更新》)

ライフ7000

場 DDD烈火王テムジン レベル6 攻撃2000

  DDD疾風王アレクサンダー レベル7 攻撃2500

  DDD怒涛王シーザー ランク4 攻撃2400

  伏せカード1

 

遊矢

手札2→0

ライフ3700

場 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃2500

  EMファイア・マフライオ レベル3 攻撃800

  星読みの魔術師(青) ペンデュラムスケール1

  時読みの魔術師(赤) ペンデュラムスケール8

  伏せカード2

  

「あんた本当にすごいな!やることなすこと、全部おれの想像を超えてる!これから先あんたがどんなことをして俺を驚かせてくれるのか楽しみだよ!」

遊矢にとって、これだけの驚きを見せてくれたデュエリストは3人目だ。

1人目は父親である榊遊勝、2人目は自分とは異なるペンデュラムモンスターを持つ翔太、そして3人目は零児だ。

唯一の不満は塾を賭けたデュエルであることだけだ。

「君こそ見事だ。ペンデュラムモンスターがどのようなものか確かにこの身で実感させてもらった。次は…君の番だ」

「え…?」

まるで自分のペンデュラム召喚が零児を驚かせるほどのものではないような言い方。

遊矢がきょとんとする中、零児の言葉は続く。

「ペンデュラム召喚をここで使えるのは君だけなのか、この目で確かめるがいい!私のターン、ドロー!!」

 

零児

手札7→8

 

「私は《DDD怒涛王シーザー》の効果により、3000ポイントのダメージを受ける」

 

零児

ライフ7000→4000

 

「そして、私はスケール1の《DD魔導賢者ガリレイ》とスケール10の《DD魔導賢者ケプラー》でペンデュラムスケールをセッティング!」

「なんだって!?」

遊矢だけでなく、LDSと遊勝塾の生徒も零児のサプライズに驚きを隠せずにいる。

「あれってまさか…」

「ペンデュラムモンスター!?」

「嘘…」

今まで驚きをあまり見せてこなかった素良も板チョコを口にするのを忘れるほど驚いている。

「しょ…翔太君…これって…」

「3人目の…ペンデュラム使い…」

遊矢から見て零児の左右に2体のモンスターが現れ、光の柱を生み出す。

金色の装甲で腹部の左側に歯車の一部が露出している、手足のない機械とそのモンスターと左右対称な形で白い装甲と惑星の動きを現したような軌道をする複数の球体を腹部の右側に持つ機械。

「わが魂を揺らす大いなる力よ、この身に宿りて闇を引き裂く新たな光となれ!ペンデュラム召喚!!出現せよ、私のモンスター達よ!!すべての王をも統べる3体の超越神の2体!《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》!!」

上空から肢体のない青いクリスタルの像が2体降りてくる。

その像の中にある紫色の球体がコアだと思われる。

零児の発言から予測すると、おそらく3体このカードがデッキに入っているのだろう。

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン×2 レベル8 攻撃3000

 

「攻撃力3000が2体も…!?」

「なんで…あいつまでペンデュラムを…!?」

すさまじい驚きが遊矢を貫く。

翔太という自分以外のペンデュラム使いの存在によって、ペンデュラム召喚が自分の専売特許ではないことは理解できていた。

そのため大きな精神的ショックにはつながらなかったものの、やはり驚きは驚き。

「なあ、あんたどうやってペンデュラムを!?翔太が…俺の仲間が持っているペンデュラムモンスターについて何か知っているのか!?」

「今はデュエルの途中だ。もし、私に勝てたならば好きなだけ君の質問に答えよう。バトルだ!まずは《ヘル・アーマゲドン》で《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を攻撃!」

紫の球体から膨大なエネルギーが数多くの光線に変換され、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》に向けて発射される。

「く…!!罠発動!《ペンデュラム・フラッシュ》!!俺のフィールド上に攻撃表示で存在するペンデュラムモンスターが攻撃されるとき、相手の表側表示で存在するモンスターをすべて破壊する!」

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が虹色のバリアに包まれ、光線はすべて零児のモンスターに跳ね返される。

「《ヘル・アーマゲドン》の効果。このカードを対象としない魔法・罠カードの効果では破壊されない」

「何!?」

2体の超越神は光線を球体の中に吸収する。

そして残り3体の王は光線を受けて破壊された。

 

ペンデュラム・フラッシュ

通常罠カード

「ペンデュラム・フラッシュ」は1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分フィールド上に攻撃表示で存在するPモンスターが攻撃対象となったときに発動できる。相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターをすべて破壊する。

 

「この瞬間、破壊されたDDDモンスターのうちの2体の効果により、デッキから《地獄門の契約書》を、墓地から《戦乙女の契約書》を手札に加える」

《DDD烈火王テムジン》と《DDD怒涛王シーザー》の効果がここで使わることは予測できた。

しかし、このターンの敗北を防ぐためには、《ペンデュラム・フラッシュ》を使わざるを得なかった。

そして、バリアが消えると2体の《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》が再び光線を発射し、遊矢のモンスターを全滅させる。

「うわあああ!!!」

 

遊矢

ライフ3700→3200→1000

 

すると、破壊されたはずの2体のモンスターは遊矢のエクストラデッキに表向きの状態で収納された。

「なるほど…。フィールドで破壊されたペンデュラムモンスターはエクストラデッキで休眠状態に入るということか…」

「ああ…。そして、ペンデュラム召喚するときにはエクストラデッキのペンデュラムモンスターも召喚できる」

「一気に遊矢兄ちゃんのライフが…」

「何者なんだ、あいつ!!」

モンスターをすべて失った遊矢はじっと零児を見る。

なぜ彼がペンデュラムモンスターを持っているのかはわからない。

それを知るためにも、塾を守るためにも、そして仲間である翔太の記憶の手掛かりを得るためにも、零児に勝たなければならない。

しかし、零児が手にした契約書が更に遊矢を追い詰める。

「私は《法皇の契約書》と《地獄門の契約書》、そして《契約書の更新》を発動。《法皇》の効果で《DDケルベロス》を、《地獄門》の効果でもう1体の《ヘル・アーマゲドン》を手札に加える。更に、《契約書の更新》は契約書の効果で私が受けるダメージを0にする。そして、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

零児

手札8→3(うち2枚《DDケルベロス》《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》)

ライフ4000

場 DDD死偉王ヘル・アーマゲドン×2 レベル8 攻撃3000

  DD魔導賢者ガリレイ(青) Pスケール1

  DD魔導賢者ケプラー(赤) Pスケール10 

  伏せカード2

  地獄門の契約書(永続魔法)

  法皇の契約書(永続魔法)

  契約書の更新(永続魔法)

 

遊矢

手札2→0

ライフ3700

場 星読みの魔術師(青) ペンデュラムスケール1

  時読みの魔術師(赤) ペンデュラムスケール8

  伏せカード1

 

契約書の更新

永続魔法カード

「契約書の更新」はフィールド上に1枚しか存在できない。

(1):自分フィールド上に存在する「契約書」カードの効果で発生する自分へのダメージが0となる。

(2):自分のモンスターゾーンに「DDD」Pモンスターが存在する場合、このカードは1ターンに1度、魔法・罠・モンスター効果では破壊されない。

 

「見事だわ、零児さん」

静かに拍手をしながら、零児の圧倒的なデュエルを称賛する。

「ペンデュラム召喚をここまで完璧に使いこなすなんて…。となればもう遊勝塾など…(必要なければ潰してしまえばいいわ。融合もシンクロもエクシーズも儀式もペンデュラムもすべてLDSのもの)」

「くそ…!これでやつはリスクなしで契約書を使えるようになってしまった。どうする…?遊矢」

更に、零児が伏せたカードは十中八九、《戦乙女の契約書》だ。

それが発動されたら最後、遊矢は攻撃力4000の《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》を相手にしなければならなくなる。

そして、ダメ押しに手札にもう1枚の《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》、そして《DDケルベロス》が加わった。

遊矢は自分の伏せカードを確認する。

(今、俺が伏せているカードは《ワン・ツー・ジャンプ》。俺のターンのバトルフェイズ中に相手モンスターを2体以上戦闘で破壊した時、俺のフィールドのモンスターと相手フィールドのモンスターを1体ずつ選択し、選択したモンスター同士をバトルさせることができる。更に、その戦闘のダメージステップの間選択された相手モンスターの攻撃力は半分になる)

しかし、遊矢の手札にはカードがなく、ペンデュラム召喚に成功したとしても《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は2500。

攻撃力3000の《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》には及ばない。

更に、《法皇の契約書》のせいで必ず1回は攻撃を防がれてしまう。

 

ワン・ツー・ジャンプ(アニメオリカ)

通常罠カード

(1):自分のターンのバトルフェイズ中に相手モンスターを2体以上戦闘で破壊した場合、お互いのフィールドに攻撃表示で存在するモンスターを1体ずつ選択して発動できる。選択したモンスター同士で戦闘を行い、ダメージ計算を行う。更に、洗濯された相手モンスターの攻撃力は半分になる。

 

(このドローにすべてがかかってる!!)

遊矢はじっとデッキトップを見る。

「俺のターン、ドローーーー!!」

 

遊矢

手札0→1

 

「私は永続罠《戦乙女の契約書》を発動」

「何!?このタイミングで《戦乙女の契約書》を…」

「私は《戦乙女の契約書》のもう1つの効果を発動する。1ターンに1度、手札のDDカード、または契約書を墓地へ送ることで、フィールド上のカードを1枚破壊する。私は《DDケルベロス》を墓地へ送り、《時読みの魔術師》を破壊する!」

「な…何!?」

《戦乙女の契約書》からレイピアが発射され、《時読みの魔術師》の左胸を貫く。

《時読みの魔術師》は遊矢に自らの非力を詫びるような目を見せながら消滅し、エクストラデッキへ送られた。

「そ…そんな…《時読み》が…」

ペンデュラム召喚が不可能になり、遊矢の膝が折れる。

「そんな…《時読みの魔術師》が破壊されるなんて…」

「ペンデュラム召喚はPスケールに2体のペンデュラムモンスターがいなければ発動できない。そして、《星読みの魔術師》はもう片方が魔術師かオッドアイズと名のつくペンデュラムモンスターでなければスケールが4になる。これでは召喚できるレベルが狭まる」

「ってことは…遊矢兄ちゃん、負けちゃうの?」

「遊矢…」

柚子達が意気消沈する。

特に権現坂は引き分けとなり、遊矢に零児と戦わせることになってしまったために罪悪感が人一倍強い。

(すまん、遊矢!俺が決めきることができればこんなことには…!!)

「どうした?まだ君のターンだぞ?」

「…。俺はこれでターンエンド…」

ターン終了宣言と同時に遊矢の手からカードが落ちる。

《EMパートナーガ》、今の状況では役に立たないカードだった。

 

零児

手札3→2(うち1枚《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》)

ライフ4000

場 DDD死偉王ヘル・アーマゲドン×2 レベル8 攻撃3000

  DD魔導賢者ガリレイ(青) Pスケール1

  DD魔導賢者ケプラー(赤) Pスケール10 

  伏せカード1

  戦乙女の契約書(永続罠)

  地獄門の契約書(永続魔法)

  法皇の契約書(永続魔法)

  契約書の更新(永続魔法)

 

遊矢

手札1

ライフ3700

場 星読みの魔術師(青) ペンデュラムスケール1

  伏せカード1

 

「私のターン、ドロー!!」

 

零児

手札2→3

 

零児がドローした瞬間、《DD魔導賢者ガリレイ》と《DD魔導賢者ケプラー》が暴走を始める。

動作がおかしくなり、電気系統が混乱し、その影響で2体のPスケールが変化する。

 

DD魔導賢者ガリレイ(青) Pスケール1→3

DD魔導賢者ケプラー(赤) Pスケール10→8

 

「ペンデュラムスケールが狭まった…。やはりプロトタイプ、まだまだ安定しないか…」

今、零児が使用している2体の魔導賢者は遊矢が持つ2体の魔術師を元に作られたカード。

レオコーポレーションではペンデュラム召喚普及を1つの目的として遊矢のペンデュラムモンスターについての研究を行っている。

その結果、プロトタイプは完成したものの今のように安定せず、使用はできるがデュエルディスクへの負担が大きい。

現に零児のデュエルディスクはそれに耐えられるように改造されていて、普通のデュエルディスクではペンデュラム召喚成功と同時に壊れてしまう。

(だが…この状況は…)

このままバトルフェイズに突入し、遊矢にとどめをさすことはできる。

しかし、零児には自分のフィールドの状況を見て、何かが頭の中に芽生えつつある。

「…。ハハハハ…」

芽生えたものが見えた瞬間、零児は笑い始める。

笑う理由は自分の能力への賞賛ではない。

まだまだ自分の目が節穴だということに気が付いたためだ。

「なぜ今まで気づかなかった…?ペンデュラムはまだ完成形ではないことに」

「何!?」

「私には見えた!ペンデュラム召喚の新たな可能性を!今からそれを実証して見せよう!」

零児の言っていることを、そこにいる全員が理解できなかった。

日美香と翔太も含めて…。

(ペンデュラム召喚の新しい可能性だと!?一体それは…)

「いくぞ!!私は…」

「なんですって!!?」

日美香の驚きに満ちた声に注目が集まる。

中島から話を聞き、日美香と真澄達が動揺する。

「マルコ先生が!?」

「零児さん!!」

その一言と中島からのデュエルディスクを通じた連絡で事の重大性を悟った零児はカードをしまい、その場から立ち去ろうとする。

「な…ちょ、ちょっと!!」

「この勝負預ける」

完全に勝てる状況下でのデュエルの放棄。

なぜそんなことをするのか事情を知らない遊矢には理解できなかった。

「ま…待って!あんた、名前は!?」

「赤馬零児。この非礼の侘びとして1つだけ質問に答えよう。石倉純也」

「は…?」

「私が知っている魔装モンスターの使い手だ」

それだけ言い残すと零児は日美香たちとともに出て行った。

「赤馬…零児…」

圧倒的な実力、そしてペンデュラム召喚。

今の実力にはこえることができない壁。

彼には立ち去る彼らの後ろ姿を見ることしかできなかった。

(石倉純也…?)

零児が残した名前を翔太は思い出す。

自分とはコンセプトの全く異なる魔装モンスターの使い手と零児が称する人物。

(彼が…俺の記憶を…?)




OCG版に直すと、DDシリーズはかなり強いですね。
まあ、《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》の効果範囲が縮小されてはいますが。
さて、ここで登場した石倉純也という名前。
それが翔太のペンデュラムモンスター、そして記憶の鍵となるのか??

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