遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第73話 目覚める光

(え、ええっと…遊矢選手はもう大丈夫そうなので、改めて、榊遊矢選手VSシンジ・ウェーバー選手による2回戦第2試合を行いまーす!)

メリッサの宣言と共に、スタジアムのゲートが開く。

2人のDホイールのエンジンも動き始めたが、遊矢はいまだに自分が見ている景色を現実のものと思えずにいた。

「さっき…シンジから黒い炎が見えた…。まるで、あいつを含めたすべてを焼き尽くそうとしているみたいで…」

遊矢にはあの炎がシンジの強い憎しみのように見えた。

黒咲にもアカデミアに対する強い憎しみが存在するが、シンジはその比ではない。

それを炎が証明し、遊矢に恐怖を与えている。

(怖いか?奴が…)

「…」

(沈黙は肯定、ということだな。これはペンデュラムと共に目覚めた魂が見えていた景色だ)

「ペンデュラムと共にって、どういうことだよ!?」

遊矢は舞網チャンピオンシップで暴走し、意識を失ったときにミエルも同じものを占いで見ていた。

しかし、その時は緊急事態が発生したこともあり、そのことを遊矢は知ることがなかった。

(その魂は…いずれ小僧、貴様が向き合わなければならないもの。お前自身を含め、越えなければならないもの。それこそが…)

(さあ、いよいよスタートです!ライディングデュエル…)

「まずい…!オッドアイズ、話はあとだ!!」

慌てて前を向いた遊矢はうっかり大声で話してしまったものの、会場は多くの人々の完成で包まれていたため、彼自身の声がほかに人に聞かれることはなかった。

仮に聞かれたとしたら、イカれていると思われただろう。

(アクセラレーション!!)

信号が青に変わると同時に2人のDホイールが発進する。

当然、加速力や最大速度が制限されている遊矢のマシンレッドクラウンでは競技用に作られているシンジのDホイールに勝てるはずがなく、10秒の差で最初の分岐点につく。

(シンジを…止めないと!!)

まっすぐ進むシンジの姿を見た遊矢は迷うことなくまっすぐ進む。

 

シンジ

手札5

ライフ4000

 

遊矢

手札5

ライフ4000

 

「いいか!?トップス共に虐げられている同胞たち!!このデュエルでお前たちにトップスを倒せるという可能性を示してみせる!絶対に見逃すなー!!」

「うおおおお!!」

「やっちまえ、シンジ・ウェーバー!!」

(ちょっとー!お客さんたちに挑発するような言動はやめなさーい!!)

シンジの声を聴いたコモンズの観客たちが狂ったように歓声を上げる中、トップスの観客たちはある人は怯え、またある人はまるでゴキブリを見るような眼で彼らを見ている。

「まったく、野蛮な者たちだ」

「ええ…。同じ空間にいるだけでヘドが出る」

「こいつらもさっさと収容所に入れられちまえばいいんだ…」

「俺のターン!!俺は手札から《B・F-必中のピン》を召喚!」

シンジのフィールドに緑と黒を基調とした、小さなデフォルメされた蜂のようなモンスターが現れる。

蜂をモチーフとしたモンスターを見て、主にトップスの女性客らが不快感を覚えた。

 

B・F-必中のピン レベル1 攻撃200

 

「なんだ、たかだ攻撃力200のモンスターか」

「コモンズのゴミ共と同じ、ただの雑魚モンスターじゃぁないか」

燕尾服姿の男が笑いながらワインを優雅に飲み干す。

そんな言葉が聞こえたかのように、シンジは言葉を並べる。

「そうだ!こいつは俺たちと同じだ!たったの1体だけでは何も役が立たない。トップスというでかい壁に大穴を開けることができない。しかし、多くの仲間が集まれば、不可能を可能にできる!《必中のピン》の効果発動!1ターンに1度、相手に200のダメージを与える!いけぇ!!」

《B・F-必中のピン》が遊矢に向けて針を発射する。

針は遊矢の右肩をかすり、路上に着弾する。

「くぅ…!!」

 

遊矢

ライフ4000→3800

 

「更に、《必中のピン》のもう1つの効果を発動!B・Fと名の付くカード効果で相手にダメージを与えたとき、俺のフィールド上に《必中のピン》以外のモンスターが存在しない場合、デッキからレベル4以下のB・F1体を特殊召喚できる!俺はデッキから《B・F-隠撃のクロスボウ》を特殊召喚!」

真っ黒な体で、下半身部分がクロスボウを模した構造となっている蜂が《B・F-必中のピン》の前に立つように現れる。

 

B・F-隠撃のクロスボウ レベル2 守備600(チューナー)

 

B・F(ビー・フォース)-必中のピン(アニメオリカ・調整)

レベル1 攻撃200 守備300 効果 風属性 昆虫族

「B・F-必中のピン」の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。

(1):1ターンに1度、自分のターンのメインフェイズ時に発動できる。相手に200ダメージを与える。

(2):自分の「B・F」カードの効果によって相手にダメージを与えたとき、自分フィールド上に「B・F-必中のピン」以外のモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキからレベル4以下の「B・F」モンスター1体を特殊召喚する。

 

(シンジ選手、先攻1ターン目から遊矢選手にダメージを与えただけでなく、更にモンスターを呼び出したーー!)

「これがB・Fの力だ!次々と仲間の力を結集させ、強大な壁を打ち崩す!!コモンズの結束の力の象徴なんだ!!」

拳を高く上げながら宣言するシンジの体に宿る黒い炎が勢いを増していく。

それを間近で見る遊矢の手が震えている。

「シンジ…」

「更に、俺は《隠撃のクロスボウ》の効果発動!1ターンに1度、デッキの上から3枚までカードを墓地へ送ることで、1枚につきこのカードのレベルを1つ上昇させる」

シンジのデッキから2枚のカードが墓地へ送られ、墓地から放たれた光を受けた《B・F-隠撃のクロスボウ》の瞳が光る。

 

B・F-隠撃のクロスボウ レベル2→4 守備600(チューナー)

 

デッキから墓地へ送られたカード

・B・F-必中のピン

・B・F-早撃ちのアルバレスト

 

B・F-早撃ちのアルバレスト(アニメオリカ・調整)

レベル4 攻撃1800 守備800 効果 風属性 昆虫族

(1):このカードが戦闘で破壊されたときに発動できる。手札から「B・F」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「俺はレベル1の《必中のピン》にレベル4の《隠撃のクロスボウ》をチューニング!蜂出する憤激の針よ、閃光とともに天をも射ぬく弓となれ!シンクロ召喚!現れろ!《B・F-霊弓のアズサ》!」

2体の蜂がチューニングリングによって力を結集させ、その姿を蜂を模したロングスカート付きの鎧とフェイスガードを装備し、弓矢を手にした人型モンスターへと変えていく。

弱小のモンスターが力を合わせ、強力なシンクロモンスターに変わったことはまさにコモンズの結束を連想することができ、コモンズの人々が更に声を上げる。

 

B・F-霊弓のアズサ レベル5 攻撃2200(チューナー)

 

「更に、シンクロ素材となった《クロスボウ》の効果発動!このカードを素材にB・Fシンクロモンスターのシンクロ召喚に成功したとき、墓地からレベル2以下のB・Fモンスター1体を特殊召喚できる!俺は墓地から再び《必中のピン》を特殊召喚する!」

 

B・F-必中のピン レベル1 守備300

 

B・F-隠撃のクロスボウ

レベル2 攻撃1000 守備600 チューナー 風属性 昆虫族

このカードはX素材とすることができず、このカードをS素材とする場合、昆虫族モンスターのS素材にしか使用できない。

「B・F-隠撃のクロスボウ」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分のデッキの上から3枚までカードを墓地へ送ることで発動できる。このカードのレベルを墓地へ送ったカードの数だけ上げる。

(2):このカードをS素材として「B・F」モンスターのS召喚に成功したときに発動する。自分の墓地からレベル2以下の「B・F-隠撃のクロスボウ」以外の「B・F」モンスター1体を特殊召喚する。

 

「《必中のピン》の効果発動!再び相手に200ダメージを与える!更に、《霊弓のアズサ》の効果発動!このカード以外のB・Fモンスターが相手に与える効果ダメージを倍にする!」

「何!?」

《B・F-必中のピン》が針を発射すると、《B・F-霊弓のアズサ》の力でその針が黄色く光りだす。

遊矢の肩に刺さると同時に、毒がきいたかのようなしびれを一瞬感じてしまう。

「うあああ…くぅ…!」

しびれにより、あやうく転倒してしまうほど車体が大きく揺れる。

 

遊矢

ライフ3800→3400

 

B・F-霊弓のアズサ(アニメオリカ)

レベル5 攻撃2200 守備1600 シンクロ・チューナー 風属性 昆虫族

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカード以外の「B・F」モンスターが自分フィールドに存在し、

「B・F」モンスターの効果でダメージが発生した場合に発動できる。

そのダメージは倍になる。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド!見たか遊矢!B・Fの…俺たちコモンズの可能性を!!俺たちの力で…トップスをねじ伏せる!!」

 

シンジ

手札5→3

ライフ4000

SPC0

場 B・F-霊弓のアズサ レベル5 攻撃2200(チューナー)

  B・F-必中のピン レベル1 守備300

  伏せカード1

 

遊矢

手札5

ライフ3400

SPC0

場 なし

 

「遊矢…」

シェイドのアジトでは、伊織の代わりに今度は柚子がテレビの一番近くに座って、遊矢のデュエルを見守っている。

なお、伊織たちは翔太を探しに行っており、彼女も同行しようとしていたが伊織に止められた。

「遊矢の一番のファンはちゃんと彼のデュエルを見ないと」、と言われて。

実質手札1枚でシンクロ召喚を行い、更にモンスターを蘇生させたうえにダメージを与えるシンジの動きには驚いたものの、気になったのは遊矢の動きだ。

マシンレッドクラウンのおかげで初心者である遊矢でもある程度動けるようになってはいるが、よく見ると若干震えているように見えるし、怯えを感じられる。

「おかしい…いつもの遊矢じゃない…」

 

「もうやめろ、シンジ!これ以上憎しみを育てるな!これ以上…これ以上憎しみを強めたら、お前自身が壊れてしまうぞ!!」

炎の正体がシンジの憎しみだと悟った遊矢は大声でシンジに訴える。

まるでシンジが《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》によって暴走した自分、強いて言えば翔太たちにその時に止めてもらえなかった場合にそうなっていたかもしれない自分に見えた。

「俺自身が壊れる…?かまわない!コモンズがトップスを打ち崩すためなら、俺が捨て石となっても構わない!!どんな犠牲を払おうとも、俺はこの革命をやり遂げる!」

「違う!そんなの革命でも何でもない!ただの怨念返しじゃないか!」

「怨念返しの何が悪い!?トップスがさんざんやってきたことを俺たちはやり返そうとしているだけだ!別の次元から来たお前に…コモンズの怒りがわかるわけがないだろう!?さあ、さっさとドローしろ!!!」

「シンジ…俺のターン、ドロー!!」

 

遊矢

手札5→6

SPC0→2

 

シンジ

SPC0→2

 

「俺はスケール1の《竜脈の魔術師》とスケール5の《慧眼の魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング!」

前後に刃がついたなぎなたを握る、白いローブと茶色いポニーテールの若き魔術師と紫色のマントと紫色の飾りがいくつもついた黄土色の鎧を着た灰色のマスクの魔術師が青い光の柱を生み出す。

「竜の血脈を受け継ぎし《竜脈の魔術師》よ、その猛々しき力でさらなる高みを目指せ!俺は《竜脈の魔術師》のペンデュラム効果を発動!1ターンに1度、片方の俺のペンデュラムゾーンのカードが魔術師の場合、手札のペンデュラムカード1枚を捨てることで、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を破壊できる!ドラゴニック・ストリーム!」

《竜脈の魔術師》のなぎなたに《EMラ・パンダ》が宿り、青い光を発する。

その刃をふるうと同時に青いかまいたちが発生し、《B・F-霊弓のアズサ》を切り裂こうとしていた。

「させるか!!!」

遊矢の前を走るシンジがアクションカードパネルを通過し、カードを手にする。

「アクション魔法《ミラー・バリア》を発動!フィールド上のモンスター1体はカード効果では破壊されない!」

鏡を模したバリアが展開し、かまいたちがそれによって阻まれた。

 

シンジ

SPC2→3

 

「くぅぅ…!」

「残念だったな!そう簡単に崩させないぜ。俺たちコモンズの結束を!」

得意げに笑いながら、《B・F-霊弓のアズサ》を見るシンジ。

場に残し続けるとますます傷が深くなっていくこのカードを破壊し損ねたのは痛い。

「まだだ!本質を見極めし《慧眼の魔術師》よ、その誤解なき瞳で勝利への道を示せ!《慧眼の魔術師》のペンデュラム効果発動!もう片方のペンデュラムゾーンにEMもしくは魔術師が存在する場合、このカードを破壊し、デッキからこのカード以外の魔術師1体をペンデュラムゾーンに置くことができる!セレクト・フォース!!」

《慧眼の魔術師》がマントの中に身を隠すと、そのマントの色が徐々に黒へと変わっていく。

「俺が選択するのはスケール8の《時読みの魔術師》!」

マントが消えると、その姿が《慧眼の魔術師》から《時読みの魔術師》へと変わっていた。

「これで俺はレベル2から7までのモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!ペンデュラム召喚!現れろ、俺のモンスターたち!!エクストラデッキから《慧眼の魔術師》!手札から《貴竜の魔術師》!そして、雄々しくも美しい二色の眼、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」

《竜脈の魔術師》に似た色彩のローブを着た、白いU字型の先端の杖を持つ紫色の髪の少女が《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の背中に乗って、はしゃぎながら出てきた。

そんな彼女を《慧眼の魔術師》が抱っこして降し、それを不満に感じた《貴竜の魔術師》は彼女を見ながら頬を膨らませる。

 

貴竜の魔術師 レベル3 攻撃700(チューナー)

慧眼の魔術師 レベル4 攻撃1500

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

「チューナーを含めて、一気にモンスターを3体だと!?まさか…!」

遊矢のフィールドに現れたモンスターたちを見て、彼がこれから何をするのかを理解したシンジは驚きを見せる。

「(そうだ…オッドアイズが呼び覚ました力は《アブソリュート・ドラゴン》だけじゃない。俺自身の怒りに反応した力も生まれている…!)俺はレベル4の《慧眼の魔術師》にレベル3の《貴竜の魔術師》をチューニング!!」

「遊矢がシンクロ召喚を!?」

テレビの前の柚子が目を丸くして立ち上がる中、《貴竜の魔術師》がチューニングリングとなり、その中を《慧眼の魔術師》がくぐっていく。

「二色の眼の竜よ、怒りの業火で闇を焦がせ!シンクロ召喚!レベル7!大地を焼き尽くす業火の竜!《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》!!」

チューニングリングが炎に包まれ、その炎の中から背中の三日月状の飾りが4本の赤い鞭へと変わり、全身の色彩がほぼ赤一色となった《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が飛び出してくる。

路上に立つと同時に上空に向けて咆哮し、遊矢の周囲が炎に包まれる。

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

「これが…《オッドアイズ》の新しい姿…!」

遊矢の《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》を見た柚子はじっとそのモンスターを見る。

舞網チャンピオンシップで、レオコーポレーションのビルの中で見た《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》にはない、確かに荒々しいものの、言葉にできないような安心感が感じられた。

口上にある『怒り』というものが感じられないくらいに。

「攻撃力2500が2体だと!?」

「まだだ!俺は《メテオバースト・ドラゴン》の効果を発動!このカードの特殊召喚に成功したとき、俺のペンデュラムゾーンに存在するカード1枚を特殊召喚する!俺が特殊召喚するのは《竜脈の魔術師》!バーニング・コール!!」

《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》の咆哮により、《竜脈の魔術師》のなぎなたに炎が宿り、その刃で自らを包む青い光の柱を切り裂いて、遊矢の前に立つ。

 

竜脈の魔術師 レベル4 攻撃1800

 

「そして、開いたペンデュラムゾーンにスケール1の《星読みの魔術師》をセッティング。バトルだ!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で《霊弓のアズサ》を攻撃!!」

「させるか!俺は手札の《B・F-奉納のアトラトル》の効果を発動!俺のフィールド上に存在するB・Fが攻撃対象となったとき、このカードを手札から特殊召喚することで、攻撃モンスターを破壊す…(ビーッビーッ!!)何!?」

急に発生した禁止音に狼狽するシンジははっとして、《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》を見る。

「まさか、こいつの効果か!?」

「そうだ!《メテオバースト・ドラゴン》が存在するとき、相手はバトルフェイズ中にモンスター効果を発動できなくなる!そして、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は相手モンスターと戦闘を行うとき、相手に与える先頭ダメージが倍になる!更に《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》が存在することで、お前は俺のペンデュラムモンスターが攻撃するとき、魔法・罠カードを発動できない!螺旋のストライク・バースト!!」

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の口から放たれた回転するブレスが《B・F-霊弓のアズサ》を貫く。

3重の障害により、カードによる援護が不可能なシンジは黙ってそのモンスターが破壊されるのを見ていることしかできなかった。

「くっそぉ!!」

 

シンジ

ライフ4000→3400

 

「まだだ!《竜脈の魔術師》で《必中のピン》を攻撃!」

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》に続いて、《竜脈の魔術師》がなぎなたで《B・F-必中のピン》を切り裂いた。

これにより、シンジのフィールド上からモンスターがいなくなった。

「よくもやってくれたな!俺は罠カード《シンクロ・スピリッツ》を発動!墓地に存在する俺のシンクロモンスター1体を除外し、シンクロ素材となったモンスター一組を墓地から特殊召喚する!俺は《霊弓のアズサ》を除外!現れろ、《B・F-必中のピン》!《隠撃のクロスボウ》!!」

フィールドに残留していた《B・F-霊弓のアズサ》だった黄色い粒子が集結し、その姿を自らのもととなった2体のモンスターへと変え、彼らはシンジのフォローに回る。

 

B・F-必中のピン レベル1 守備300

B・F-隠撃のクロスボウ レベル2 守備600(チューナー)

 

「どうだ!?トップスが俺たちを上から押さえつけたとしても、俺たちは立ち上がる!!お前たちを滅ぼすまで、何度でも、そうだ!!何度でもだ!!!」

拳を高々と掲げ、宣言するシンジを見たコモンズの人々は熱狂する。

自分たちに貧しい生活を強い、99%もの富を搾取するトップスという豚への憎しみと共に。

特に客席では、近くにトップスの客がいたら、もう暴力沙汰が起きてもおかしくないくらいの空気となっている。

「さあ、どうした遊矢!この程度では俺を止められないぞ!?」

「く…!!」

遊矢のバトルフェイズ終了と同時にシンジは新しいアクションカードパネルを通過するものの、このターンのアクションカードをすでにとってたことから、何も反応を起こさない。

そして、そのあとに続いていた遊矢がそのパネルのアクションカードを手にする。

しかし、今使えるカードではなかったためか、黙って手札ホルダーに収める。

「俺はレベル7の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と《オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン》でオーバーレイ!二色の眼の竜よ、人々の涙を束ね、解放への道を示せ!エクシーズ召喚!ランク7!悲しき世界を穿つ氷河の竜、《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》!!これで、ターンエンドだ!」

 

シンジ

手札3(うち1枚《B・F-奉納のアトラトル》)

ライフ3400

SPC3

場 B・F-隠撃のクロスボウ レベル2 守備600(チューナー)

  B・F-必中のピン レベル1 守備300

  伏せカード1

 

遊矢

手札6→0(アクションカードあり)

ライフ3400

SPC2→3

場 オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン(オーバーレイユニット2) ランク7 攻撃2800

  竜脈の魔術師 レベル4 攻撃1800

  星読みの魔術師(青) ペンデュラムスケール1

  時読みの魔術師(赤) ペンデュラムスケール8

 

「へえ、怒りの次は悲しみか?ただメソメソ泣くだけで、何の力もねーじゃねえか!?俺たちの革命の炎で蒸発させてやるぜ!いくぞ、コモンズの仲間たち!俺たちのターンだ!!」

「「「ドローーー!!!!」」」

スタジアムのコモンズの観客たちと共に声をあげながら、シンジはカードを引く。

 

シンジ

手札3→4

SPC3→5

 

遊矢

SPC3→5

 

「俺は手札から《Sp-シンクロ・リターン》を発動!俺のスピードカウンターが5つ以上あるとき、除外されている俺のシンクロモンスター1体を特殊召喚する!甦れ、 《霊弓のアズサ》!!」

 

B・F-霊弓のアズサ レベル5 攻撃2200(チューナー)

 

「また《アズサ》が…!?」

「俺は《必中のピン》の効果を発動!《霊弓のアズサ》の力を受け、お前に400ダメージを与える!」

《B・F-必中のピン》の針が再び遊矢を襲う。

ダメージを受けたときに感じたしびれをまた感じるわけにはいかなかった遊矢はやむなく車体の前面を盾にして受け止める。

 

遊矢

ライフ3400→3000

 

「まだ終わらねえ!俺は《隠撃のクロスボウ》の効果を発動!デッキからカードを1枚墓地へ送り、このカードのレベルを1つ上げる!」

 

B・F-隠撃のクロスボウ レベル2→3 守備600(チューナー)

 

デッキから墓地へ送られたカード

・トラップ・スタン

 

「更に俺は手札から《Sp-シャドー・シンクロ・サポート》を発動!俺のスピードカウンターが4つ以上あるとき、俺のフィールド上のチューナー1体にターン終了時までチューナー同士でシンクロ召喚できる効果を与える!俺はレベル3の《隠撃のクロスボウ》にレベル5の《霊弓のアズサ》をチューニング!!呼応する力、怨毒の炎を携え反抗の矢を放て!シンクロ召喚!レベル8、《B・F-降魔弓のハマ》!」

《B・F-霊弓のアズサ》が炎の輪となり、その中を《B・F-隠撃のクロスボウ》がくぐっていく。

「まさか…現れるのか…?シンジの憎しみの象徴のモンスターが…!?」

炎の輪が爆発し、その色が黒く変わっていくのが見えた。

そして、その炎が集結すると、オレンジのラインが入った黒い鎧をまとい、弓矢を持つ左利きの戦士が現れた。

「燃えている…??」

遊矢の目に映るその戦士は黒い炎を体のいたるところから噴き出していた。

 

B・F-降魔弓のハマ レベル8 攻撃2800

 

Sp-シャドー・シンクロ・サポート

通常魔法カード

(1):自分のスピードカウンターが4つ以上存在するとき、自分フィールド上に存在するチューナー1体を対象に発動できる。そのモンスターはターン終了時まで以下の効果を得る。

●自分フィールド上に存在するこのカードをS召喚に使用する場合、このカードをチューナー以外のモンスターとして扱う事ができる。

 

「こいつは俺たちコモンズの力の象徴!俺たちの革命を体現したモンスターだ!!こいつで榊遊矢を、トップスを倒す!」

シンジの宣言とともに、再びスタジアムがコモンズの熱狂的な歓声に包まれる。

だが、《B・F-降魔弓のハマ》の攻撃力は《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》と同じ2800。

何か工夫をしなければ、遊矢にさらにモンスターを展開させるチャンスを与えるだけなのがオチだ。

「《隠撃のクロスボウ》の効果発動!墓地から《必中のピン》を守備表示で特殊召喚する」

 

B・F-必中のピン レベル1 守備300

 

「バトルフェイズ、俺は攻撃を行わず、そのままメインフェイズ2へ移行する!」

「攻撃しないのに、どうして!?」

「《降魔弓のハマ》の効果発動!戦闘ダメージが発生しなかった俺のターンのバトルフェイズ終了時、俺の墓地のB・F1体につき、300のダメージを相手に与える!」

《B・F-降魔弓のハマ》の体がさらに燃え上がり、それとともに上空から同じ炎を宿した4体のB・Fが現れる。

全員が黒い炎を針や矢に凝縮させ、遊矢に向けて発射される。

「うわああああ!?!?こ、これは…!?!?」

次々と遊矢の体、そしてマシンレッドクラウンに命中していき、焼けるような熱が肌に伝わる。

それと同時に、遊矢の目に次々と光景が浮かび、その時のシンジの感情が伝わってくる。

幼いころの居場所であった孤児院をトップスに奪われた時の幼いシンジの姿、トップスに賭けデュエルを挑み、敗北したときに渡した一番レアなカードを馬鹿にされた時の屈辱。

コモンズに生まれたというだけでトップスからの理不尽を受け、それによって芽生えた屈辱と怒りがシンジの復讐心を育てた。

「これが…シンジの…」

 

遊矢

ライフ3000→1800

SPC5→4

 

「まだだぜ!《必中のピン》の効果も忘れるな!」

さらに追い打ちをかけるように、《B・F-必中のピン》の針が遊矢を襲う。

 

遊矢

ライフ1800→1600

 

その針を受けたとき、先ほどまでの屈辱や怒りとは別の何かを遊矢は感じた。

(なんだ、これ…)

目に浮かぶ光景は遊矢がセレナ、零羅、沢渡とともにシンクロ次元のコモンズに迷い込み、クロウの元で1週間近く生活していたときだ。

シンジは時折、所属しているギャングで戦利品として手に入れた食料をクロウのところまで持ってきていた。

もともと、シンジとクロウは同じギャングに入っており、なぜクロウがギャングから逃げ出したのかを知っていたシンジはこれまでと同じようにクロウを仲間として接し、こうして融通を利かせていた。

食料をもらい、うれしそうに笑う、クロウが世話している子供たちを見たいというのも理由のひとつかもしれない。

(そうだ…。憎しみだけじゃない。シンジの心にはまだ!!)

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

シンジ

手札4→1(《B・F-奉納のアトラトル》)

ライフ3400

SPC5

場 B・F-降魔弓のハマ レベル8 攻撃2800

  B・F-必中のピン レベル1 守備300

  伏せカード2

 

遊矢

手札0(アクションカードあり)

ライフ1600

SPC4

場 オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン(オーバーレイユニット2) ランク7 攻撃2800

  竜脈の魔術師 レベル4 攻撃1800

  星読みの魔術師(青) ペンデュラムスケール1

  時読みの魔術師(赤) ペンデュラムスケール8

 

B・F-降魔弓のハマ(アニメオリカ)

レベル8 攻撃2800 守備2000 シンクロ 風属性 昆虫族

Sモンスターのチューナー+チューナー以外の「B・F」モンスター1体以上

(1):このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

(2):1ターンに1度、このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで、その戦闘ダメージの数値分ダウンする。

(3):戦闘ダメージが発生しなかった自分バトルフェイズ終了時に発動できる。自分の墓地の「B・F」モンスターの数×300ダメージを相手に与える。

 

 

(シンジ選手、《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》を破壊できないものの、大きなダメージを遊矢選手に与えたーー!ここからどう反撃していくのでしょうか!?!?)

「シンジ…」

マシンレッドクラウンの通信機能を使い、前を走るシンジと繋げる。

(何のつもりだ!?サレンダーでもしたいのか?)

ディスプレイに映るシンジにもやはり黒い炎が宿っている。

しかし、憎しみの中に残っているシンジの優しさを遊矢は信じた。

「シンジ…確かに、俺はコモンズの人間じゃない。ましてや、シンクロ次元の出身じゃない。そんな俺には…シンジの、いやコモンズというべきかな…?みんなの苦悩や痛みはわからないかもしれない…」

シンクロ次元は遊矢にとって、まったく価値観の異なる人々が集まっていた。

勝者が決めたルールによる競争により、敗者から徹底的に搾り取るのを当然の権利として是とする人々。

搾取され、世界に自分の居場所がないことに絶望し、憎む気持ちは同じ経験をした人間にしかわからない。

そんな経験をしたシンジのトップスを許せないという気持ちを否定するつもりは遊矢にはなかった。

「だけど…だけどシンジ!お前にはわかるはずだ!そんなことをしても何も変わらないって、なにも報われないって!!」

(…黙れ…!)

「本当はわかっているはずだ!本当に…本当に変えなきゃいけないのは…みんなが幸せになるために変えなきゃいけないのは…」

(黙れと言っているのが聞こえないのか!?!?)

遊矢の言葉に反応したのか、感情を爆発させるとともに炎が燃え上がる。

通信を切り、遊矢と距離を詰めたシンジはじっと睨みつける。

「シンジ…」

「わからねえのか、遊矢!!この世界をひっくり返すためには、トップスを超える力を証明しなければならない!!それに…」

表情をゆがませ、声を詰まらせるシンジ。

それを見た遊矢は彼の葛藤を感じた。

「コモンズでは食っていくため、生きていくためにとれる道は限られてる。俺は…ギャングになって、犯罪に手を染めることでどうにか生きてきた…。殺しだってしたこともある!そして、一緒に必死になって生きて仲間の中にはセキュリティにつかまって、その場で殺されちまったやつもいるし、収容所で獄死した奴だっている!運よく出られたとしても…体をぼろぼろにされちまって、何もできなくなってしまったやつだっている!!せめて…せめてガキどもには俺と同じ思いをしてほしくない…。こんな思いをするのは俺だけで充分だ!そのためにとれる道はもう…あいつらに報いてやれる道はもう…これしか残ってねえんだよ!!」

「シンジ…(ビーッ、ビーッ!!)なに!?」

急にマシンレッドクラウンから警報音が鳴り、ディスプレイには召喚エネルギーの過剰吸収による機能停止の発生を伝えるテロップが表示される。

「召喚エネルギーの過剰吸収!?けど、ペンデュラム召喚は1回しか…」

ペンデュラム召喚以外にも、エクシーズ召喚とシンクロ召喚も行っているが、それでも追加装備によってより多くのエネルギーを吸収・貯蔵できるようになっているため、それだけで過剰となるのはおかしい。

そんなことを考えている間にも、だんだん速度が落ちていき、やがて止まってしまう。

「マシントラブルか…?だが、1分以上停止した場合は敗北なのには変わりない!!」

遊矢を無視し、シンジは進んでいき、アクションカードを手にする。

 

シンジ

SPC5→6

 

「遊矢!?どうして、どうして止まっちゃったの??」

テレビの両端をつかみ、必死にテレビ越しに遊矢に声をかける柚子。

しかし、そんなことをしても事態は変わらない。

遊矢にはDホイールのマシントラブルに関する知識が最低限あるものの、このようなことに関する知識は持ち合わせていない。

だから、何度もアクセルを起動させようとしている。

うんともすんともせず、無常に時間だけが過ぎていく。

(榊遊矢選手、あと20秒止まっていたら失格です!)

「動け、動いてくれ!!マシンレッドクラウン!!俺はシンジを止めたい!自分の仲間の思いを全部背負ってしまって、間違った道を進もうとしている彼を止めなくちゃいけないんだ!そのためには…ここで立ち止まるわけにはいかないんだ!!」

「榊…遊矢…」

スタジアムに設けられている特設の王座でデュエルを観戦しているジャックが彼の名前を口にする。

独りよがりなエンタメしかできない男、自分にとってはまぶしすぎる目をした男の名前を。

必死にDホイールを起動させようとする彼と、昔失ってしまった自分自身が重なって見えた。

(マスター…)

ジャックの脳裏に幼い少女の声が響く。

「お前は…」

(信じて…ボクを。あなたとサム君が会わせてくれた、ボクのもう1人のマスターを)

そうしている間に、あと10秒となる。

もう遊矢はデュエルができないと考えた観客の中には席を立つ人もいる。

しかし、遊矢はあきらめない。

(小僧…)

「あきらめちゃいけないんだ!ここであきらめてしまったら、もう2度とエンタメデュエリストを名乗れなくなる」

(あなたは…彼の悲しみと憎しみを払おうとしているのですね…)

「動け…!俺と同じ、道化の名前を持つDホイール!ほんの少しでも、優しさと悲しみを感じることができるなら、今だけでもいい!!動けーーーーー!!!!」

遊矢の叫びが影響したのか、彼の首にかかっているペンデュラムが赤く光り始める。

それと同時に、ディスプレイ赤く光り、『PLS』という文字が浮かぶ。

「PLS(ファントムライトシステム)…ああ!?!?」

遊矢とマシンレッドクラウンを赤い光が包んでいき、Dホイールの各部装甲が展開していく。

装甲の中に隠れた赤い水晶のようなフレームがそれによって露出し、発光する。

(な、な、な…何が起きているのでしょう!?榊遊矢選手のDホイールが…赤い光の中で変形しました!?!?)

「うおおおおお!!!!」

アクセルが再び動き出し、いきなり100キロ以上のスピードで走り始めた。


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