遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

73 / 145
第68話 共振する魂

「んぐんぐ…」

遊矢と227のデュエル終了後、翔太はボーイが持ってきた昼ご飯を食べ始めた。

この次元の富の99%を有するトップスだけあって、分厚い盛岡モモステーキやしおさわ米のご飯など、高級な食材がふんだんに使われている。

「にしても、ビャッコの奴はどこへ行った?」

食べている間、気になったのはビャッコの行方で、徳松とのデュエルが終わった後、また姿を消していた。

(ほんと、どうなってるんだ?あいつ…。常時実体化しているうえ、いつの間にかいなくなったり、俺よりも伊織に懐いて…)

(それでは、フレンドシップカップ1回戦第6試合を開始したいと思います!)

テレビからメリッサの陽気な声が響き、それと同時に客席からの歓声が流れる。

その中でカメラはスタジアムの北側に設置されているオーロラビジョンに向けられる。

(この試合でデュエルをするのはどちらも無名のデュエリスト!!まず1人目はええっと…んっと…ああ、特になし!沢渡シンゴーー!!)

「待たせたなー!フレンドシップカップの主役、沢渡シンゴ参上ーー!)

青を基調とした、徳松と同じ量産型の競技用Dホイールに乗り、青いヘルメットと黄色いライディングスーツ姿で登場する沢渡に観客が暖かな声援を送る。

「誰が主役だーーー!!」

「お前なんて知らねーよ!」

「ひっこめーーー!」

「だせぇー!!」

「参加者全員に謝れーー!!」

(あの馬鹿…米粒やるから黙ってろ)

そんな歓声を受けた自称、フレンドシップカップの主役の後に続いて、彼の対戦相手が出る準備を終える。

「この大会で…アカデミアの存在をみんなに伝えねーと…」

信号を見つめながら、ユーゴははやる気持ちを抑えて時を待つ。

そんな彼の脳裏に柔和な若者の声が響く。

(焦ってはいけませんよ?ユーゴ。今はやるべきことを…)

「ああ。わかってる。だからフレンドシップカップに出たんだ…」

翔太とのデュエル後、急に次元転移をしてしまったユーゴは自分の故郷であるシンクロ次元に来ていた。

しかも、運が悪いことにそこはトップスで、彼は不法侵入者として、デュエルチェイサーズに追われる身となってしまった。

というのも、彼はもともとコモンズの出身で、コモンズ出身者は許可がない限り、トップスに入ることは許されない。

なんとか逃げ延びた彼は世話になっている孤児院に匿われ、ほとぼりが冷めるまでそこで過ごすことになった。

そこでフレンドシップカップの存在を聞き、次元戦争とアカデミアの存在を伝えるために参加することを決意した。

自分が使用しているDホイールの修理・チューニングをする時間はうなるほどあった。

唯一気になったのは書類審査であり、文字については孤児院の院長に手伝ってもらって書くことができたが、問題は自分が不法侵入をしてしまったことだ。

そのことから、最悪の場合、即逮捕される可能性があったが、書類審査はなぜか通ってしまい、スタジアムに到着したときもセキュリティに拘束されることはなかった。

代わりに評議会の人間に誘拐され、参加者の集まるホテルに幽閉されることになってしまったが。

ユーゴは懐からリンと自分が映る写真を手に取る。

「リン…。もう少し辛抱していてくれ。必ず俺が助け出すから…」

(では、その…ああ、どこの馬の骨か知らない自称、主役を相手してくれるのはーー!!ええっと、以前デュエルチェイサーズと激しいデュエルを繰り広げてくれた、コモンズ期待の白いライオン!その名は…日村ーーー!!)

「誰が日村だ!!俺はユーゴだーーーーー!!!」

メリッサに対して大声で突っ込みながら、信号が青になったためユーゴは発進し、コースに飛び出す。

(え…?ああ、ごめんねーー。あなたの書類、ちょっと読みづらくて…。許してね、設楽君)

「俺はユーゴだ!!日村でも設楽でも、ついでに小山でもねー!!」

融合、融合の手先、バナナ、バナナマンとまともに名前を呼んでもらえないユーゴのストレスが増大し、怒りに満ちたまま、先にスタートラインについている沢渡に目を向ける。

「沸き立つ観客、盛り上がる客席…。これもまさに、俺のために作られた舞台!お前も下手なデュエルをしたら承知しな…」

「うるせーー!!今の俺はすっげー機嫌が悪いんだよ!すぐにケリをつけてやるよ!!」

「う、うるせーだと??お前、この俺を舞網市市長の息子と知って言ってんのか!?」

「知らねーよ!そんな市!!大体てめーは…」

(ユーゴ、つまらない喧嘩はやめてください。相手に失礼ですよ)

「うるせークリアウィング!!てめーは黙ってろ!!」

ユーゴを止めようとした、クリアウィングと呼ばれた声がわずかに沈黙する。

そして、先ほどまでとは態度が一変する。

(喧嘩するなって言ってんだよ!?いっぺんで聞けねえくらい脳みそ小せーのか、このクソチビがぁ!!)

「クソチビだとぉ…?誰がクソチビだ!?このキレまくりドラゴン!!」

(クソチビをクソチビといって何が悪いんだよ!?悔しかったら勉強しろ!クサレ脳みそがぁ!!)

「うっるせー!あんな文字ばっかの本がわかるわけねーだろ!もっと優しく教えることもできねーのか!?」

(SHUT UP-------!!!!)

メリッサの怒声により、クリアウィングとユーゴがびっくりして黙る。

ちなみに、すっかり置いてけぼりにされた沢渡は傍から見るとひとりで口げんかしているユーゴをまるで怖いものを見るような目で見て、沈黙していた。

(いい加減に準備をしなさい!!そうしないと失格よ!!!)

「し、失格は勘弁してくれ!!くっそー、クリアウィング…あとで覚えとけよ…」

柔和だが、キレやすい一面のあるクリアウィングを恨めしく思いつつ、ユーゴはヘルメットを直す。

なお、メリッサの怒声とユーゴのエア口喧嘩によって、会場はざわついている。

(えー、会場の皆さま。先ほどは見苦しいところをお見せして申し訳ありません!それでは改めて…フィールド魔法《スピード・ワールド・A》発動!!)

フィールド魔法発動と同時に、ソリッドビジョンで開始までのカウントダウンが始まる。

(ライディングデュエル…アクセラレーション!!)

カウントが0になると同時に、両者が発進する。

すると、直ぐにユーゴが前に出て、沢渡はその後ろをついていく形になる。

やはりライディングデュエル経験者であるユーゴの方がDホイールの性能を含めて、あらゆる面で沢渡にアドバンテージがある。

「くそっ!!」

しかし、沢渡もランサーズの1人として負けるわけにはいかない理由がある。

アクセルを入れ、スピードを上げようとする。

「な…!?うわああああ!?!?!?」

スピードを無理に上げたせいで、初心者である沢渡では制御できなくなり、彼のDホイールがウィリー走行を始めてしまう。

スピードが上がったうえ、グニャグニャと迷走する沢渡のDホイールがユーゴとぶつかりそうになる。

「うわ!?あ、あぶねえ!!」

慌ててユーゴは回避するが、その間にも迷走を続ける沢渡のDホイールは彼を追い抜き、第1コーナーを先に獲る。

「はあはあ、あぶなかった…」

顔面を真っ白に染め、スピードを落としたことで制御できるようになった沢渡はホッとする。

「すげえなお前。びっくりしたぜ」

すぐに追いついたユーゴは並走しながら、ビギナーズラックとはいえ、自分を追い抜いた彼を素直にほめる。

「へ、へへ…これが俺のライディングテクニックだ。そして、ここからが本番だ!俺のエンタメ劇場の開幕だぜー!」

 

沢渡

手札5

ライフ4000

 

ユーゴ

手札5

ライフ4000

 

「俺はスケール1の《魔界劇団-デビル・ヒール》とスケール8の《ファンキー・コメディアン》でペンデュラムスケールをセッティング!」

「おお…!!」

「あいつもペンデュラム召喚を使うのか!?」

緑色の口があり、左側の蛇を模した模様、右側に耳のないウサギの顔を模した仮面がある巨大な顔に両足と両腕がついている奇妙な紫色のモンスターと黄色い目のある白い仮面を顔の右側につけ、頭にはテンガロンハットを被り、先ほどのモンスターと同じ模様が脂肪たっぷりの腹についている緑色のモンスターが現れ、青い光の柱を生み出す。

シンクロ次元では珍しいペンデュラム召喚をまたみることができるためか、観客は興奮している。

「ペンデュラム召喚!現れろ、俺様のしもべたち!!」

光の柱の間に青い渦が現れ、そこから2体のモンスターが飛び出してくる。

「《魔界劇団-サッシー・ルーキー》!そして、俺の劇団の主役、《魔界劇団-ビッグ・スター》!!」

目が顔の右側と右手、そして右膝についている、茶色いオーバーホールと青いボサボサな髪が飛び出すくらいの小さな魔女帽子を装備したモンスターが偉そうに沢渡の前に立ち、胸を張って威張り始める。

「おいこら!?お前は主役じゃあねーだ…ろ!!」

それに怒った沢渡に左側から拳骨を受け、吹っ飛ばされた後で黒い燕尾服と茶色い型眼鏡を付けた、手足が異様に細い、ピンク色の薔薇を模した形の髪の人型モンスターが沢渡の前に立ち、まずはあいさつと言わんばかりに観客とユーゴに対して恭しく一礼した。

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー レベル4 攻撃1700

魔界劇団―ビッグ・スター レベル7 攻撃2500

 

(沢渡選手!開始早々ペンデュラム召喚し、エンタメデュエルの幕を開くーー!!)

「どうやら、口先だけじゃあねーみてーだな」

ペンデュラム召喚により、いきなり上級モンスターを含めて2体のモンスターを召還した沢渡をユーゴは素直にほめる。

正直に言うと、彼が口先だけのデュエリストかもしれないと思っていたためだ。

だが、実力をわずかでも見て、彼がただのデュエリストではないとわかると、それを素直に喜んだ。

これで、真剣勝負ができると思ったからだ。

「まだまだ俺のエンタメは続くぜー!まずは《ビッグ・スター》による華麗なるマジック!!」

沢渡が指を鳴らすと、《魔界劇団-ビッグ・スター》が右手をわずかにひねる。

すると、右手に薔薇の花をが現れ、それを沢渡に向けて投げる。

それを彼が手に取ると、急に薔薇が花弁となって、風に乗って飛んでいく。

そして、沢渡の手に残ったのは1枚のカード。

「すげえ、カードだ!!カードが出てきた!!」

「それにあのモンスター…クールでかっこいい!!」

「いいぞ、《ビッグ・スター》!!」

マジックを見せた《魔界劇団―ビッグ・スター》への歓声が響く中でも、そのモンスターは冷静にお辞儀をし、次の出番が来るまで沢渡の後ろに下がる。

「なんで俺じゃねーんだ…?まぁ、いいか…。《ビッグ・スター》はマジックのように、1ターンに1度、デッキから魔界台本と名の付く魔法カードを俺のフィールド上にセットできる!」

納得がいかない表情を見せながらも、沢渡は手にしたカードをフィールドにセットする。

(確かに魔法カードのサーチは強力だが、ライディングデュエルではSp以外の魔法カードを発動できない)

「さて…そして俺は…」

(イ○ズマキーーーック!!)

「うわああ!?!?」

殴り飛ばされていた《魔界劇団―サッシー・ルーキー》がようやく彼のそばに戻ってきて、彼に向かって飛び蹴りをする。

リアルソリッドビジョンであるため、それを受けた沢渡のDホイールが体勢を崩し、グラグラと揺れる。

(うわー。なんということでしょう。あろうことか自分のモンスターが命令されてないのにコントローラーにダイレクトアタックをしています。これはソリッドビジョンシステムの誤作動でしょうかー?)

メリッサがうーんと悩みながら実況する中、なんとか立て直した沢渡は自分を蹴ってきたモンスターに目を向ける。

「何しやがるんだ、テメー!!このデュエルの主役だぞ!?」

(ふん!さっきはよくもオイラを殴り飛ばしてくれたな!主役を殴ったお返しだ、団長!!)

「それはテメーがでしゃばったからだろーが!!なんで俺が責められなきゃ…って…」

怒った沢渡だが、急にある疑問が浮かび、急激に頭の中が冷える。

ソリッドビジョンシステムで現れたモンスターは鳴き声を発したり、奇声を上げたりすることがあるが、基本的にしゃべることはない。

だが、今のサッシー・ルーキーは沢渡の声に反応してしゃべるし、しかも先ほどは命令がないにもかかわらず、蹴ってきた。

まるで、意思があるかのように…。

(おい!!謝れよ、団長!!)

「な、なあ…もしかしてお前…精霊か??」

観客に聞こえないように、小さな声で質問する。

(ああそうだよ!察しの悪い団長さん!!オイラは魔界劇団の主役、サッシー・ルーキーだ!!)

「ま、マジで…??」

精霊については、ランサーズはヴァプラ隊との訓練中に侑斗から教えられている。

といっても、沢渡はそんなものは存在しないといわんばかりに不真面目に聞き、意思があって、普段は透明だから現実世界に影響を与えることはないが、リアルソリッドビジョンによって召喚されるなどの特定の状況になると実体化して現実世界にも影響を与えることがある、というところだけしか覚えていない。

ましてや、自分のデッキにそんな精霊がいるわけがないと思っていた分、サッシー・ルーキーの登場は驚きだった。

「おーい、沢渡…。早くデュエル進めねーと、失格になるぞ…?」

精霊のことで夢中になった沢渡にユーゴが並走しながら忠告する。

そして、その間に足元にあるアクションカードを手にする。

 

ユーゴ

SPC0→1

 

「げっ…そうだった…って、あ…」

ユーゴの言葉で我に返った沢渡はヘルメットの左ほお部分に違和感を感じた。

それに触れると、そこにはアクションカードが挟まっていた。

先ほどの蹴りを受けたとき、拍子で挟まったのだろう。

「おっと、こいつはラッキーだぜ!!」

 

沢渡

SPC0→1

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド!ちなみに、《ビッグ・スター》で伏せたカードはターン終了時に墓地へ送られる」

《魔界劇団―ビッグ・スター》が指を鳴らすと、伏せられていたカードが上空へ飛んでいき、花火となって消えた。

「すげえ、花火だー!」

「きれい…」

上空に浮かぶ炎の花に観客が見とれる。

(なるほどな…。その効果は客に魅せるための物だったのか…)

 

沢渡

手札5→0(アクションカード1)

SPC1

ライフ4000

場 魔界劇団―ビッグ・スター レベル7 攻撃2500

  魔界劇団―サッシー・ルーキー レベル4 攻撃1700

  伏せカード1

  魔界劇団―デビル・ヒール(青) ペンデュラムスケール1

  魔界劇団―ファンキー・コメディアン(赤) ペンデュラムスケール8

 

ユーゴ

手札5(アクションカード1)

SPC1

ライフ4000

場 なし

 

墓地へ送られたカード

魔界台本「オープニング・セレモニー」

 

 

「遠慮なくいくぜ…。俺のターン!!」

 

ユーゴ

手札5→6

SPC1→3

 

沢渡

SPC1→3

 

「おっと、ここで俺は罠カード《魔のデッキ破壊ウイルス》とアクション魔法《そよ風》を発動!」

「何!?」

沢渡が発動したカードを見て、ユーゴが表情をゆがめる。

「まずは《そよ風》からだ。こいつは俺のフィールド上に存在するモンスター1体の攻撃力・守備力を300アップさせる」

(よーし、主役のオイラがパワーアップ!!)

沢渡の頭上に乗ったサッシー・ルーキーがポーズを決める。

 

魔界劇団―サッシー・ルーキー レベル4 攻撃1700→2000 守備1000→1300

 

「そして、《魔のデッキ破壊ウイルス》は俺のフィールド上に存在する攻撃力2000以上の闇属性モンスター1体をウイルスに変え、相手の手札・フィールドを侵食する!!」

(おお、すげーぜ団長!って、あれ?攻撃力2000以上の闇属性モンスターって…)

「サッシー・ルーキー!!俺を蹴った罰だ!!しっかり仕事して来い!!」

(えええええ!?!?ひどいーーー!!)

悲鳴を上げながら、サッシー・ルーキーが紫色の蛇の模様を模した大量のウイルスに代わり、ユーゴの周囲に展開していく。

「このウイルスはな…手札とフィールド、そして相手のターンを数えて3ターンの間に相手がドローしたカードを確認し、攻撃力1500以下のモンスターをすべて墓地へ送る!!」

「くっそぉ!!」

仕方なく、ユーゴはドローしたカードを含めて手札のカードをすべて公開する。

 

ユーゴの手札

・SRダブルヨーヨー

・Sp-ヴィジョン・ウィンド

・SRパッシングライダー

・Sp-ハーフ・シーズ

・SR赤目のダイス

・竜の束縛

・回避

 

「んじゃあ、《ダブルヨーヨー》と《赤目のダイス》を墓地へ送ってもらうぜ!!」

ウイルスに反応した2枚のカードが紫色の光り、ボロボロと砂に代わっていく。

ただし、これはあくまで演出で、カードがそのままそうなっているわけではない。

ユーゴはおとなしく、ウイルスに感染した2体のモンスターを墓地へ送る。

「だが、これで俺の手がふさがったわけじゃねー!!俺は手札から《Sp-ヴィジョンウィンド》を発動!俺のスピードカウンターが2つ以上あるとき、墓地からレベル2以下のモンスター1体を特殊召喚する。そして、この効果で特殊召喚されたモンスターはターン終了時に破壊される。俺は墓地から《SR赤目のダイス》を特殊召喚!」

《Sp-ヴィジョンウィンド》のソリッドビジョンから生み出される小さな竜巻の中から、《SR赤目のダイス》が現れる。

 

SR赤目のダイス レベル1 攻撃100(チューナー)

 

(ユーゴ選手、ウイルスカードへのカウンターとして、蘇生カードで破壊されたモンスターを呼び戻したーー!!)

「ちっ…!《ヴィジョンウィンド》ってこういう時に面倒だぜ…!」

 

Sp-ヴィジョンウィンド(アニメオリカ)

通常魔法カード

(1):自分のスピードカウンターが2つ以上ある場合に発動できる。自分の墓地からレベル2以下のモンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはターン終了時に破壊される。

 

「そして、《赤目のダイス》をリリースし、《SRパッシングライダー》をアドバンス召喚!」

《SR赤目のダイス》が青い渦に変化し、その中から白と青を基調とした小さな旅客機のおもちゃと白い人型ロボットの胴体よりも上の部分が合体したようなモンスターが出て来る。

 

SRパッシングライダー レベル5 攻撃2000

 

「このカードのアドバンス召喚に成功したとき、墓地からレベル4以下のSR1体を特殊召喚できる。俺は《SR赤目のダイス》を特殊召喚!」

《SRパッシングライダー》の荷物入れが開き、その中から《SR赤目のダイス》が飛び出す。

 

 

SR赤目のダイス レベル1 攻撃100(チューナー)

 

「《SR赤目のダイス》は召喚・特殊召喚に成功したとき、《赤目のダイス》以外のSR1体のレベルを1から6のいずれかに変動させる。俺は《パッシングライダー》のレベルを6に変更する!」

 

SRパッシングライダー レベル5→6 攻撃2000

 

「俺はレベル6の《パッシングライダー》にレベル1の《赤目のダイス》をチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、レベル7!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

(ユーゴも負けじとシンクロ召喚!両者のエースカードがここに並び立つーー!!)

「ユーゴ…沢渡…」

デュエルを終え、自室に戻っていた遊矢も翔太と同じように2人のデュエルを見ていた。

どちらが勝ったとしても、少なくとも遊矢が知る人間がまた1人、地下へ送られることになる。

それに、まだ227にやったことが本当に正しかったのかわからずにいた。

(ふん…エンターテイナーを名乗るものがこのようなザマではな)

「オッドアイズ…」

オッドアイズの声が聞こえた遊矢はデッキを見る。

ユーゴが召喚したクリアウィングに反応しているのか、オッドアイズだけでなく、ダーク・リベリオンも光っている。

(オッドアイズ…。今、クリアウィングに…軽忽に会いに行きませんか?)

(最近目覚めたばかりの奴にか…いいだろう)

「おい、待てよオッドアイズ、ダーク・リベリオン!まさか…クリアウィングにも!?うわあ!!」

2枚のカードが放つ光が強くなり、遊矢の視界が緑色の光に包まれていった。

 

「へえ…ドラゴンかぁ。敵役にはちょうどいいぜ!ここから、沢渡エンタメ劇場の演目は『ドラゴン征伐』だ!一刀両断切り捨ててやるぜ!」

(団長ー。一刀両断するにも、楽屋には刃物もそれを使える役者もいないぞー!)

「細かいことを言うな!それぐらい、役者であるお前らが考えろ…」

(うわ…丸投げ。考えなしにいうなんて、バッカだなー)

「こいつ…!」

自分の劇団の役者のくせに全く敬意を払わず、馬鹿にした言動を見せるサッシー・ルーキーに怒りを覚える。

だが、それよりも問題なのはウイルスカードで確認したユーゴの手札にあるカードだ。

「さらに俺は手札から《Sp-ハーフ・シーズ》を発動!俺のスピードカウンターが3つ以上あるとき、相手モンスター1体の攻撃力を半分にし、その数値分俺のライフを回復する」

 

魔界劇団―ビッグ・スター レベル7 攻撃2500→1250

 

ユーゴ

ライフ4000→5250

 

「これで攻撃力は《クリアウィング》の方が上だ!バトル!!俺は《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》で《ビッグ・スター》を攻撃!旋風のヘルダイブスラッシャー!!」

(では…失礼させてもらいます!)

クリアウィングが回転しながら突撃し、《魔界劇団―ビッグ・スター》を粉々に打ち砕く。

そして、勢いを止めることなく沢渡に激突した。

「うわああああ!!」

 

沢渡

ライフ4000→2750

SPC3→2

 

「痛え…。だが、《ビッグ・スター》はペンデュラムモンスター!墓地へは行かず、エクストラデッキに置くぜ」

ダメージにより、スピードカウンターが減ったことでDホイールのスピードが若干落ちる。

そして、その間にユーゴが沢渡の前を走る。

「どうやら、征伐されるのはお前の方だったみてーだな。俺はカードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

沢渡

手札0

SPC2

ライフ2750

場 伏せカード1

  魔界劇団―デビル・ヒール(青) ペンデュラムスケール1

  魔界劇団―ファンキー・コメディアン(赤) ペンデュラムスケール8

 

ユーゴ

手札6→0(アクションカード1《回避》)

SPC3

ライフ5250

場 クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500

  伏せカード1(《竜の束縛》)

 

魔のデッキ破壊ウイルス 残り2ターン

 

「やってくれるぜ…。だが、ペンデュラム召喚がある限り、俺のエンタメ劇場はまだまだ盛り上がるぜ!俺のターン、ドロー!!」

 

沢渡

手札0→1

SPC2→4

 

ユーゴ

SPC3→5

 

「なら、そのペンデュラム召喚を封じさせてもらうぜ。俺は永続罠《竜の束縛》を発動!」

《竜の束縛》のソリッドビジョンから流れる青い粒子を受けたクリアウィングが緑色の翼からロープ上の光線を放ち、沢渡のエクストラデッキを縛り上げる。

「何?!」

「こいつは俺のフィールド上に攻撃力・守備力2500以下のドラゴン族モンスター1体を対象に発動でき、そのモンスターの元々の攻撃力以下のモンスターを特殊召喚できなくする」

「(ちっ…!これじゃあ、《サッシー・ルーキー》と《ビッグ・スター》をペンデュラム召喚できねーじゃねーか!!)やってくれるな。悪役はこれくらいしてもらわねーとな」」

「さあ、どうする!?お前の手札は1枚だけ。伏せカードはSpですらねーただの魔法カードだ!!」

「そうだ。だが…それで安心してたら大間違いだ。俺はセッティング中の2体の役者でペンデュラム召喚する!現れろ、《霞の谷の巨神鳥》!!」

「何!?」

ペンデュラム召喚によって生み出される青い渦の中から、雷鳥を模した緑色の巨大な鳥が飛び出してくる。

「で、でけえ…!!」

「エンターテイナーなるもの、予想外の動きってのを見せねーとな!!」

 

霞の谷の巨神鳥 レベル7 攻撃2700

 

「バトルだ!《巨神鳥》で《クリアウィング》を攻撃!!」

「アクション魔法《回避》!!こいつで攻撃を無効にする!!」

《霞の谷の巨神鳥》の口から放たれる稲妻をクリアウィングが白いブレスで相殺する。

(ユーゴ、アクションカードです)

「わかってる!にしても、このウイルスが邪魔だぜ…」

《魔のデッキ破壊ウイルス》は攻撃力が全体的に低いSRにとっては天敵と言えるカードだ。

そして、相手が《霞の谷の巨神鳥》を召喚したため、次のターンまでにそのモンスターを除去するか、《クリアウィング》の破壊を防ぐカードを手にしなければ、フィールドががら空きになってしまう。

コーナーの内側に隠れるように置かれているアクションカードをDホイールを大きく傾けながらとる。

「何!?」

「お、アクション罠《誤配送》か。サンキュー!」

 

沢渡

手札0→1

 

ユーゴ

SPC5→4

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド。次のターンで、ドラゴン征伐のクライマックスだぜ!!」

 

沢渡

手札0

SPC4

ライフ2750

場 霞の谷の巨神鳥 レベル7 攻撃2700

  伏せカード2

  魔界劇団―デビル・ヒール(青) ペンデュラムスケール1

  魔界劇団―ファンキー・コメディアン(赤) ペンデュラムスケール8

 

ユーゴ

手札0

SPC4

ライフ5250

場 クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500

  伏せカード1(《竜の束縛》)

 

魔のデッキ破壊ウイルス 残り2ターン

 

「くっ…!」

何とかクリアウィングを守り抜いたが、状況が悪化していることについては変わりない。

沢渡の隠し玉である《霞の谷の巨神鳥》はカード効果が発動したとき、ミスト・バレーカード1枚を手札に戻すことで、その発動を無効にし、破壊する効果がある。

デッキの主力がペンデュラム召喚に特化した魔界劇団であれば、おそらくミスト・バレーカードの数は少ない。

しかし、現在のペンデュラムスケールでは、自身の効果で手札に戻った《霞の谷の巨神鳥》をもう1度フィールドに出すことは簡単だ。

(それに、今の俺の手札は《魔のデッキ破壊ウイルス》に感染している…。だが…!)

ユーゴは深呼吸をし、デッキトップに指をかける。

「(だが、こんな障害を飛び越えねーと、リンに笑われる…!)俺の…ターン!!」

 

ユーゴ

手札0→1

SPC4→6

 

沢渡

SPC4→6

 

「《魔のデッキ破壊ウイルス》の効果だ。さあ、悪役。ドローしたカードを確認させてもらうぜ?」

「俺がドローしたカードはこれだ!」

迷わずユーゴはドローした《SR電々大公》を公開し、すぐに墓地に捨てる。

「そして、俺は《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を守備表示に変更。ターンエンド…」

 

沢渡

手札0

SPC6

ライフ2750

場 霞の谷の巨神鳥 レベル7 攻撃2700

  伏せカード2

  魔界劇団―デビル・ヒール(青) ペンデュラムスケール1

  魔界劇団―ファンキー・コメディアン(赤) ペンデュラムスケール8

 

ユーゴ

手札0

SPC6

ライフ5250

場 クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500→守備2000

  伏せカード1(《竜の束縛》)

 

魔のデッキ破壊ウイルス 残り1ターン

 

(なんとユーゴ選手、何も行動を起こさずにターン終了!万事休すなのかーーー!?)

「カードに見放されたな。なら、『ドラゴン征伐』クライマックスだ!!俺のターン、ドロー!!」

 

沢渡

手札0→1

SPC6→8

 

ユーゴ

SPC6→8

 

「俺は罠カード《魔界劇団の楽屋入り》を発動!俺のペンデュラムゾーンに魔界劇団が2体存在するとき、デッキから魔界劇団ペンデュラムモンスターをエクストラデッキに送ることができる。俺はデッキから《魔界劇団―ダンディ・バイプレイヤー》と《デビル・ヒール》をエクストラデッキに送る。更に、俺は手札から《魔界劇団―ワイルド・ホープ》を召喚!」

大きなV字の飾りがついたテンガロンハットと青いカウボーイスーツを装備したモンスターがフィールドに現れると、両腕を交差させて守りを固める《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》に、ラッパを模したハンドガンをホルスターから抜いて向ける。

 

魔界劇団―ワイルド・ホープ レベル4 攻撃1600

 

「バトルだ!俺は《巨神鳥》で《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を攻撃!!」

《霞の谷の巨神鳥》の口から放たれる稲妻がクリアウィングの体を縛り付けていく。

拘束された白き竜はそのままコースを引きずり回され、消滅した。

「てめえ…」

「ドラゴンが倒れたことで、悪しき白の魔術師は無防備となった…。さあ、《ワイルド・ホープ》!!正義の弾丸をお見舞いしてやれ!!」

帽子のつばを左手の指でつまみ、わずかに首を縦に振った《魔界劇団―ワイルド・ホープ》はユーゴに向けて、1発だけ弾丸を放った。

弾丸を受けたユーゴのDホイールが大きくスピンするが、すぐに体勢を立て直した。

「く…!クリアウィングがいなくなったことで、《竜の束縛》は破壊される…」

 

ユーゴ

ライフ5250→3650

SPC8→6

 

(見事正義の劇団が悪のドラゴンを退治!!白き魔術師を追い抜いたーーー!!)

「あいつ、以外とやるじゃないか…」

「沢渡かぁ…思ったよりやるかもな」

「そのままやってやれー、沢渡ー!魔界劇団ーー!!」

デュエル開始前まで馬鹿にしていた観客たちが一斉に沢渡を応援し始める。

それを見た沢渡は得意げに笑みを浮かべる。

「さあ、《竜の束縛》はもうない。ここで魔界劇団の醍醐味、ペンデュラム召喚を見せてやるぜ!!さあ、出て来い。俺様のモンスターたち!!」

沢渡が指をならずと同時に3度目の青い渦の中から待ってましたと言わんばかりにモンスターが飛び出してくる。

「《魔界劇団―サッシー・ルーキー》!《魔界劇団-ダンディ・バイプレイヤー》!そして、我が劇団の主役、《魔界劇団―ビッグ・スター》!!」

まずは左手に小さなラッパを持つ、赤い服と帽子が特徴的な紫の道化師が現れ、ラッパを吹き始める。

すると、残り2体の魔界劇団がその曲に合わせて踊り始めた。

 

魔界劇団―ダンディー・バイプレイヤー レベル2 攻撃700

魔界劇団―サッシー・ルーキー レベル4 攻撃1700

魔界劇団―ビッグ・スター レベル7 攻撃2500

 

「そして、《ダンディー・バイプレイヤー》の効果発動!俺のペンデュラムゾーンに魔界劇団が2体いるとき、このカードをリリースすることで、手札もしくはエクストラデッキからレベルが1か8の魔界劇団を特殊召喚することができる。俺はエクストラデッキからもう1体の《デビル・ヒール》を特殊召喚するぜ!」

《魔界劇団―ダンディー・バイプレイヤー》が帽子を投げ、ラッパを吹き始める。

ラッパから生まれる音符が帽子の中に吸い込まれていくと、それがだんだん巨大化する。

そして、その中から《魔界劇団―デビル・ヒール》が飛び出してくる。

 

魔界劇団―デビル・ヒール レベル8 攻撃3000

 

「俺はこれでターンエンド。次のターンでお前は終わりだぁ!!」

 

沢渡

手札0

SPC8

ライフ2750

場 霞の谷の巨神鳥 レベル7 攻撃2700

  魔界劇団―ワイルド・ホープ レベル4 攻撃1600

  魔界劇団―サッシー・ルーキー レベル4 攻撃1700

  魔界劇団―ビッグ・スター レベル7 攻撃2500

  魔界劇団―デビル・ヒール レベル8 攻撃3000

  伏せカード1

  魔界劇団―デビル・ヒール(青) ペンデュラムスケール1

  魔界劇団―ファンキー・コメディアン(赤) ペンデュラムスケール8

 

ユーゴ

手札0

SPC6

ライフ5250

場 なし

 

魔のデッキ破壊ウイルス 残り1ターン

 

「く…!俺のターン!!」

 

ユーゴ

手札0→1

SPC6→8

 

沢渡

SPC8→10

 

「さあ、《魔のデッキ破壊ウイルス》の効果で、ドローしたカードを確認させてもらうぜ?」

ユーゴが公開したカードは《Sp-ファイティング・ドロー》。

自分フィールド上にカードがなく、手札がこのカードのみのとき、スピードカウンターをすべて取り除くことで、相手が前のターンに特殊召喚したモンスターの数だけデッキからカードをドローするカード。

だが、《魔のデッキ破壊ウイルス》がある限り、攻撃力1500以下のSR達は力を発揮できない。

そして、エースである《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》は墓地にいる。

(あとは…!!)

ユーゴはDホイールのアクセルをふかし、スピードを上げる。

彼が欲しいのはアクションカードだ。

「悪役らしく、最後の悪あがきを見せてくれるのか?」

「悪あがきじゃねえ!ここからが本番だぜ!!」

そういいながら、ユーゴはアクションカードを手にする。

そして、そのカードを見て、目を輝かせる。

「俺はアクション魔法《ワクチン》を発動!このターン、俺はウイルスカードの効果を受けねえ!そして、このカードの発動に対して、相手はカード効果を発動できない!」

「何!?」

ユーゴのデッキを縛るウイルスがナース服の天使が振りまく光によって浄化されていく。

 

ユーゴ

SPC8→9

 

ワクチン

アクション魔法カード

このカードの発動に対して、相手は魔法・罠・モンスター効果を発動できない。

(1):このカードを発動したターン終了時まで、自分は「ウイルス」カードの効果を受けない。

 

「そして、《スピード・ワールド・A》の効果を発動!俺のスピードカウンターを4つ取り除き、手札のSp1枚につき、400のダメージを与える!!」

ユーゴは先ほどドローしたSpを公開し、そのカードから沢渡に向けて緑色の光線が発射される。

「うわああ!!」

 

沢渡

ライフ2750→2350

 

ユーゴ

SPC9→5

 

「もう1発だぁ!!」

更にユーゴはスピードカウンター4つを代償に、光線を発射する。

「ちっくしょう!!だが、これでお前のスピードカウンターはたったの1だ!!」

 

沢渡

ライフ2350→1950

 

ユーゴ

SPC5→1

 

「そして、俺は手札から《Sp-ファイティング・ドロー》を発動!俺のィールド上にカードがなく、手札がこれだけのとき、スピードカウンターをすべて取り除くことで、相手が前のターンに特殊召喚したモンスターの数だけ、デッキからカードをドローする。よって、俺はデッキからカードを4枚ドローする!!」

 

Sp-ファイティング・ドロー

「Sp-ファイティング・ドロー」は1ターンに1度しか発動できず、このカードの発動に対して、相手は魔法・罠・モンスター効果を発動できない。

(1):自分フィールド上にカードがなく、手札がこのカードだけのとき、自分のスピードカウンターをすべて取り除くことで発動できる。相手が前のターンに特殊召喚したモンスターの数だけ、デッキからカードをドローする。

 

ユーゴのDホイールのスピードが一気に最低値まで下がっていく。

そして、デッキに指をかける。

(頼むぜ…俺のデッキ!俺にこの困難を切り抜けるカードを…!!)

ドローしようとした瞬間、急に周囲の光景が白く染まり、時間が止まる。

「ん…?おい、一体どうなってんだ??」

自分のDホイールも動かなくなり、どうしたのだろうと思って降りようとするが、なぜか下半身が動かない。

動くのは腕だけだ。

そして、自身の右側にはなぜか鏡がある。

「鏡…?」

ドローしたカードをホルダーに固定し、その鏡を見る。

そこには遊矢の姿が映っていた。

「遊矢…??」

見た瞬間、遊矢が右手をユーゴに向けて伸ばしていく。

そして、ユーゴもなぜか右手が勝手に鏡へと延びていく。

互いの右手が鏡越しに重なったとき、ユーゴが大きく目を開く。

「遊矢…おい、左腕は…左腕はどうしたんだ!?!?」

重なって数秒経つと、その鏡が砕け散る。

しかし、そこに映っていた遊矢の姿はユーゴの脳裏にしっかり焼き付いていた。

あそこに映っていた遊矢にはひじから下の腕がなかったのだ。

 

「ハアハアハア…!!」

滝のように体から汗が流れるような感覚を感じていると、周囲の景色が元に戻り、時間が動き出した。

(い、今のは…??)

(どうやら、僕の兄弟が会いに来てくれたみたいですね)

「兄弟…?それって、前に言っていたドラゴンのことか?」

(ええ…。ですが、ユーゴ…今は)

「ああ…。わかってる。まずはこのデュエルに勝利しねーとな!!って…!?」

デュエルに集中するため、自分の墓地を確認し、再び衝撃を受ける。

「おい…どうなってんだ!?カードが…」

(おそらく、兄弟と私が共鳴した影響でしょう。私たちの力…無駄にしないでくださいね)

「ちっ…あとでどうしてこうなったか、詳しく聞かせろよ!!このカードは俺のフィールド上にモンスターが存在しないとき、手札から特殊召喚できる!俺は手札から《SRベイゴマックス》を特殊召喚!」

 

SRベイゴマックス レベル3 攻撃1200

 

「こいつの召喚・特殊召喚に成功したとき、俺はデッキから《ベイゴマックス》以外のスピードロイド1体を手札に加えることができる。俺はデッキから《SR三つ目のダイス》を手札に加える!更に、俺は手札から《エクスプレスロイド》を召喚!」

 

エクスプレスロイド レベル4 攻撃400

 

「こいつの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功したとき、俺は墓地のロイドモンスター2体を手札に加えることができる。俺は墓地から《SRパッシングライダー》と《ダブルヨーヨー》を手札に加える!更に、墓地の《SR電々大公》の効果発動!こいつを墓地から除外することで、手札・墓地からスピードロイドチューナー1体を特殊召喚できる。俺は墓地から《SR赤目のダイス》を特殊召喚!こいつの効果で、《ベイゴマックス》のレベルを3から6に変化させる!」

 

SR赤目のダイス レベル1 攻撃100(チューナー)

SRベイゴマックス レベル3→6 攻撃1200

 

「またレベル7のシンクロモンスターを!?」

「俺はレベル6の《ベイゴマックス》にレベル1の《赤目のダイス》をチューニング!!」

2体のモンスターがレベル7のシンクロモンスターを生み出す準備を整え、ユーゴは脳裏にこれから召喚するシンクロモンスターをイメージする。

「(こいつは…俺の相棒のもう1つの姿。もう1つの力!!)輝く翼、神速となり天地を照らせ!シンクロ召喚!現れろ、《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》!!」

一瞬だけ、フィールドに《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が現れるが、翼の色が登場と同時に緑から蒼へと変わっていく。

そして、胸部と頭部には緑色の水晶でできたプレートアーマーとヘッドギアが装着される。

 

クリアウィング・ファスト・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

(なんとユーゴ選手!!エースである《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を新たな姿でよみがえらせたーーー!!)

「《ファスト・ドラゴン》の効果発動!1ターンに1度、エクストラデッキから特殊召喚された相手モンスター1体をターン終了時まで無力化する!!」

「せっかくのシンクロモンスターだが、無駄だぜ!!《霞の谷の巨神鳥》の効果発動!こいつを手札に戻し、その効果の発動を無効にして破壊するぜ!!」

《霞の谷の巨神鳥》がその姿を稲妻に変え、《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》に突撃する。

2体のモンスターが接触した瞬間、大爆発が起こり、神速の竜は姿を消す。

本当なら、《SRベイゴマックス》か《エクスプレスロイド》の効果に対して、このカードを使うべきだが、相手が呼び出す新しいシンクロモンスターに対して発動することで、エンタメ性を高めようと彼は考えていた。

しかし、ユーゴが生み出した新しい力はそんなことを許すような生易しいものではない。

「そして、俺はスケール3の《SRパッシングライダー》とスケール8の《SRドミノバタフライ》でペンデュラムスケールをセッティング!!」

「何!?お前もペンデュラム召喚だと!?」

ユーゴの左側の《SRパッシングライダー》が、右側に白と黒のサイコロを模した羽をもつ蝶型ロボットが現れ、緑色の光のは下を生み出し、上空には遊矢と同じペンデュラムのエフェクトが発生する。

「神速の翼で過去と未来を貫け!ペンデュラム召喚!!《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》!!」

ペンデュラムが砕け、そこから再び《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》が姿を見せる。

登場と同時に、すさまじいスピードでコース上を飛ぶその竜に観客は圧倒される。

 

クリアウィング・ファスト・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

「まさか…《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》は…!!」

「ああ、ペンデュラムシンクロモンスター…。俺も初めてで、驚いてる…。そして、俺は手札の《クリアウィング・ダミー》の効果を発動!このカードを手札から墓地へ送ることで、俺のフィールド上に存在するクリアウィングシンクロモンスターの効果を発動する。俺は《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》の効果を発動!《ビッグ・スター》を無力化しろ!!」

《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》の口から放たれる青い炎が《魔界劇団-ビッグ・スター》の体を焼き尽くしていく。

体を焼かれた劇団の主役はその場に座り込み、攻撃力と効果をすべて失う。

 

魔界劇団-ビッグ・スター レベル7 攻撃2500→0

 

クリアウィング・ダミー

レベル1 攻撃250 守備200 効果 風属性 機械族

「クリアウィング・ダミー」の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分フィールド上に存在するこのカードが戦闘で破壊され墓地へ送られたとき、自分の墓地に存在する「クリアウィング」Sモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターをエクストラデッキに戻し、自分はデッキからカードを1枚ドローする。

(2):自分メインフェイズ時に、手札に存在するこのカードを墓地へ送り、自分フィールド上に存在する「クリアウィング」Sモンスター1体を対象に発動できる。そのカードの効果を発動する。

 

「く…ちっくしょおおおおおお!!!」

「《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》で《ビッグ・スター》を攻撃!!

《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》が更に速度を上げていき、そのまま《魔界劇団―ビッグ・スター》を貫いた。

《魔界劇団-ビッグ・スター》は粉々に砕け散り、沢渡にも衝撃が襲う。

「ああああああああああ!!!!」

 

沢渡

ライフ1950→0

 

融合次元、ファウスト島の研究施設。

左腕に何かを注射されていた素良だが、ドクターNによって、それをはずされる。

「ふぅー、僕、注射苦手なんだけど…」

「今注射したナノマシンが君の体内にあるものをごまかしている。だが…」

「…わかってる。それで、これがナノマシンの補充だね」

前もって受け取っていた使い捨て注射器を服のポケットから出す。

衝撃から守るために、特殊なビニールによって包まれていて、空気圧で体内に入れるタイプのものなので針はない。

「そうだ。デュエルディスクが体内の機能しているナノマシンを計測してくれている。それがレッドゾーンに近づいたら、可能な限り直ぐに注射するんだ。このレベルのナノマシンなら、レオコーポレーションでも作ることができそうだが、仮にここに戻らず、ナノマシン注射の補給がなければ…」

「…。もって、あと1年ってところだね」

自嘲気味に笑った素良は懐から愛用のキャンディーを出し、なめ始める。

「君の体内にあるそれはもはや外科手術では取り出せないからね。さあ…転送装置に準備はできた」

「…。あんたは一緒に行かないの?」

「私には…まぁ、いろいろとアカデミア製のナノマシンが入っていてね。転送しようとしたら、お陀仏だ」

素良はデュエルディスクを取り付けると、部屋の中にある扉状の転送装置の前に立つ。

「あのさ、一つだけいいかな?」

「どうした…?」

「なんで僕にこれだけ力を貸してくれたの?アカデミアを裏切る可能性がある人間として、ここに幽閉されたあんたが…」

「…。それを知りたければ、生きてここに戻ってくるのだな」

そういうと、転送装置を起動させ、素良の姿がそれが生み出す渦の中に消えていった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。