「んんん…」
強い日の光が差し込むホテルの一室で翔太は目を覚ます。
青いステテコパンツ1枚だけの姿で。
「にしても、ビャッコはどこへ行ったんだ…?」
セキュリティにつかまってから、ビャッコの姿を見ていない。
少しだけ心配していたが、それすら許さないかのように扉をノックする音が聞こえる。
「誰だよ!?」
「お待たせしました。これから試合が始まりますので、お迎えに…」
「試合?おいおい、いま何時だ…よ??」
壁にかかっている時計を見るとすでに午前11時。
すっかり寝坊していたのだ。
「今、開けますよ」
「待てよ。いま着替える」
さすがにパンツ一丁で出るわけにはいかず、翔太は普段来ている服を着る。
「そういえば、もう試合はしたのか?」
「はい。権現坂昇対クロウ・ホーガンと風魔月影対シンジ・ウェーバーのデュエルが行われました。勝者はクロウ・ホーガン、シンジ・ウェーバーです」
「おいおい、ランサーズ2連敗かよ。あいつら何やってんだ?」
着替え終えた翔太は扉を開き、前で待っているボーイの後をついていく。
「そういえば、Dホイールはどうなってる?俺のDホイールはここにはねーぞ?」
「それについてはこちらですでに用意してあります。その点はご安心ください」
おそらく2つ年齢が下かもしれない、その茶髪のボーイの淡々とした質問の受け答えに少しうんざりする。
もう少し、面白みのある回答をしてくれてもいいだろう。
そんなことを考えていると、2人は青コーナーの格納庫につく。
そこには色合いはマシンキャバルリーに似ているものの、それには2つあったライトが1つだけとなっており、側面にはキー付きのツールボックスがなぜか備え付けられている、ホンダ・CRF250Lをモチーフとしたものだ。
エンジンの周辺にはスキットプレートがきちんとついている。
「CDW-062、Dフランク。こちらが今大会であなたに貸し出されるDホイールです」
「貸し出す?レンタル料を取るつもりか?」
「いえ、レンタル料に関してはすでに受け取っているとのことです」
「受け取り済み…?払った覚えはねーが…」
「あの、私服のままで大丈夫ですか?ライディングスーツもお貸しできますが…」
「あんな窮屈な服なんて着ていられるか」
そういいながらヘルメットをかぶり、Dフランクに乗る。
マシンキャバルリーとは違い、最初からライディングデュエルのために開発されたものであるためか、性能はわずかながら高い。
(見世物になるのは面白くないが、うっぷん晴らしさせてもらうぜ)
(さぁ、いよいよ第3試合が始まります!!このデュエルはどんな展開を見せてくれるのでしょうかーー!?)
「ううー、翔太君ー…」
「キュイキュイー…」
伊織とビャッコがテレビの前でまるでシンクロしているかのように両手を固めてお祈りしている。
なお、ビャッコは今朝、伊織の布団の中から出てきたようだ。
(フレンドシップカップ1回戦、第2試合!赤コーナー!!収容所にて苦節10年!今、伝説がここによみがえる。エンジョイ長次郎こと、徳松長次郎ーーー!!)
「エンジョーーーイ!!」
奇妙な一声をあげながら、茶色いライディングスーツと茶色い量産型のDホイールに乗った男が飛び出し、それと同時に観客席から歓声が上がる。
やせているものの、身長は180近くあり、面長な顔立ちだが、ヘルメットのせいでその素顔はよくわからない。
「すげぇ、エンジョイ長次郎だ!!」
「もう1度、奇跡のドローを見せてくれーー!!」
「長次郎!!長次郎!!」
コモンズ出身者を中心に、徳松を応援する声が広がっていく。
それにこたえるように、徳松が声を上げる。
「待たせたな、諸君!エンジョイ長次郎、今戻ってきたぜ!」
それと対極的なのがトップスのセレブたちだ。
「ふっ、あの徳松か…」
「強くなって戻ってきたのならよいが…な」
「10年前のような、恥さらしなデュエルをしなければいいですわね」
「徳松長次郎…エンジョイ長次郎か…懐かしいな」
テレビを見ていたモハメドが興味深げに徳松を見つめる。
「知っているのか?その、エンジョイ長次郎ってのは」
缶コーヒーをもって戻ってきた鬼柳が質問する。
「ああ…。コモンズ出身のデュエリストで、勝ち負けよりも楽しむことをモットーにした奴だ。子供たちにデュエルを教え、デュエルでコモンズとトップスの壁を壊そうとした」
コーヒーを開け、一口飲んでから、ため息をこぼす。
「…うまく、いかんかったってこと…?」
「ああ。話によれば、トップスはそんなあいつを金にものを言わせて手に入れたレアカードを武器に、複数人でリンチにかけた」
「ひでぇ…」
「で、自分の信条を拒絶されたあいつには罵声とブーイングの嵐が待っていて、追い詰められた末にイカサマに走り、御用。コモンズじゃあ悲劇のデュエリストとして語り継がれている、生ける伝説だな。まさか、また表舞台でデュエルができるようになるなんてな」
「モハメドのおっさん、一つ質問なんじゃが…?」
「ん…?」
「その徳松っておっさん、冷麺好きか?」
漁介の言葉に一時全員が沈黙する。
「…なぜ、冷麺、なんだ?」
「なんと、なく…」
(青コーナー!!突如現れ、ただいまコモンズで勢力拡大中のギャング、シェイドのリーダー!経歴不明のダークホース…秋山翔太ーーー!!)
「翔太君!?」
「キュイイ!?」
翔太の名前が出て、緊張感が走る。
チームブレイドとの交渉により、彼がフレンドシップカップに出ることになったというのは知っていたとはいえ、まさか初戦で長次郎とデュエルをすることになるとは思わなかった。
「うわぁ、エンジョイ長次郎にも勝ってもらいたいが、ボスにも勝ってもらいたい…ジレンマだな」
「翔太ーーー!!負けんなやーー!!」
「ここで負けたら、スタンダード次元が3連敗だ!面目丸つぶれじゃー!」
「長次郎!長次郎!」
「ボス!ボス!!」
別の宿舎にいるメンバーでは、どうやら応援が翔太と徳松で二分されており、7対3で徳松側が有利となっている。
コモンズ出身者の多い現地メンバーであるため、無理もない。
「頑張れ、翔太君!」
「キュイキュイ!!」
青コーナーから出てきた翔太のDフランクと長次郎のDホイールがスタートラインに立つ。
「よぉ、あんたには悪いが、約束がある。すまねえが、負けてもらうぜ?」
「負けるのはあんただろ?冷麺好きのおっさん」
「なっ、なんで冷麺が出てくんだ!?」
「嫌いなのか?冷麺」
「好きっちゃあ好きだが…」
左の頬を人差し指で書きながら、収容所にいたときのことを思い出す。
彼は収容所に送られた後、やさぐれてしまい、デュエルの力で囚人たちを支配するようになった。
その実力は収容所にいるセキュリティをもコントロールできる程で、囚人から巻き上げたカードで買収し、リッチな生活を楽しんでいた。
ステーキやフカヒレ、フォアグラなどを食べることがあったが、冷麺は食べていなかった。
(今いるホテルにも冷麺はなかったし…ここを出たら、食いに行くか)
(さーぁ、まずはフィールド魔法、《スピード・ワールド・A》発動!!」
メリッサが目の前にあるコンピュータのボタンを押すと同時に、徳松と翔太のDホイールのディスプレイに《スピード・ワールド・A》が表示される。
(こいつのルールはわかったけどよ…俺はDホイール自体初めてだ。ま、その部分はデュエルの実力でどうにかするけどな)
徳松はじっと、左腕のホルダーに装着されている自分のデッキを見る。
「頼むぜ…俺と一緒に盛り上げてやろう」
(さあ、まもなくライディングデュエルが始まります!!)
2人の目の前に現れたソリッドビジョンの信号機が赤い光をともす。
(ライディングデュエル…アクセラレーション!!)
信号の色が緑になると同時に、2台のDホイールが発進する。
「うおお…こいつは…!!」
まさかの加速に徳松が不安な表情を浮かべる。
バイク自体乗ったことが初めての彼には体が露出した状態でのスピードアップが必要以上に怖く思えてしまう。
そんな彼の動揺を気にせず、翔太はさらに加速する。
(Dホイールは使っていれば、自然となじんでくる。なじんでしまう前にキャバルリーに乗れるようにしねーと…)
そう考えながら、翔太のD・フランクが第1コーナーを取る。
翔太
手札5
SPC0
ライフ4000
徳松
手札5
SPC0
ライフ4000
「俺のターン!俺はモンスターを裏守備表示で召喚。カードを3枚伏せ、ターンエンド」
(翔太選手、ここで3枚もの伏せカードを出した!!さあ、エンジョイ長次郎はここで何を見せてくれるのかーーー!?)
翔太
手札5→1
SPC0
ライフ4000
場 裏守備モンスター1
伏せカード3
徳松
手札5
SPC0
ライフ4000
場 なし
「伏せカード3枚なぁ…」
なんとか安定させた長次郎は翔太の伏せカードを見る。
ライディングデュエルでは《サイクロン》や《大嵐》のような魔法・罠カードを破壊する魔法カードがなかなか使えないため、これらを除去する手段が限られている。
そして、彼自身もルールはわかっている程度でライディングデュエルに慣れているわけではない。
「俺のターン、ドロー!」
徳松
手札5→6
SPC0→2
翔太
SPC0→2
「うおおおぉ!?!?」
ドローした瞬間、また加速をしてしまい、徳松はあやうくドローしたカードを落としそうになる。
(んだよ、あのおっさん…素人か?)
そんな醜態を見せる中年男性を冷ややかな目で見る。
「ふう、ふう…お…」
なんとかカードを手札ホルダーにかけることに成功した徳松の眼にアクションカードが映る。
ちょうど、彼のコース上にあり、取りやすい位置にある。
「アクションカードについては遊矢たちに聞いてるんだよっと!!」
カードを手にした徳松はすぐにそれを発動する。
「俺はアクション魔法《ハードポイント》を発動!お互いにデッキの上から3枚カードを確認し、好きな順番に並べ替える!(こいつはいいアクションカードが手に入ったぜ!)」
デッキの上からカードを3枚引き、それを確認する。
そして、互いに迷うことなく順番を決めて、デッキの一番上に戻した。
徳松
SPC2→3
ハードポイント
アクション魔法カード
(1):お互いに、デッキの上からカードを3枚確認する。その後、好きな順番でデッキの一番上に戻す。
「そして、俺は手札から《花札衛-松》を召喚!」
徳松の真上に花札の松というカードが大きな長方形の機械で作られたようなものが現れる。
花札衛はその名前の通り、日本古来のカードゲームである花札をモチーフとしたモンスターだ。
そのため、そのシンクロモンスターは花札の役がネタとなっている。
花札衛-松 レベル1 攻撃100
「このカードの召喚に成功したとき、俺はデッキからカードを1枚ドローし、そのカードを互いに確認する。そして、そのカードが花札衛モンスターじゃない場合、墓地へ送られる。俺がドローしたカードはこいつだ」
徳松はドローしたカードをディスプレイにかざす。
すると、翔太のディスプレイに彼がかざしたカードが表示される。
これはライディングデュエルでカードを公開しなければならない場合に備えて搭載された機能の1つで、公開すべきカードをこうしてかざした場合、すぐに相手にそのカードの画像を送ることができるものだ。
ドローされたカード
・花札衛-松に鶴
「花札衛かよ…さっさと手札に加えろ」
「おいおい、少しは敬語を使えって…。それより…」
急に徳松が若干速度を落とし、翔太と並行して走る。
「なんだ?」
「シェイドについては噂になってるぜ?なんでも、コモンズの発展のために動いてくれてるんだってなぁ。収容所で噂になってるぜ」
「で、なんだ?」
「…ありがとな。やり方は違うが、コモンズとシティの境界を消すっていう点では変わらん。それが続いてくれりゃあ…」
「勘違いするな、俺は俺のやりたいようにやってるだけだ。さっさとデュエルを続けろ」
そういいながら、翔太は足元のアクションカードを手札に加える。
「ちっ…アクション罠か」
舌打ちすると同時に、そのカードが強制的に発動し、翔太のスピードカウンターを落とす。
翔太
SPC2→1
「アクション罠《平手打ち》。その効果で俺は手札を1枚ランダムで墓地へ送る。くそ!」
WDCのダンジョンデュエルで伊織がいきなり手にしたのと同じアクションカードだったこともあり、翔太は余計悔しくなる。
そして、手札に残ったたった1枚のカードを墓地へ送る。
手札から墓地へ送られたカード
・魔装騎士ペイルライダー
「ハハハッ!そんな悔しがるなって。人生いいこともあれば悪いこともある。それはデュエルだって同じだ。負けて恥じず、勝って驕らず、だぜ?」
「ふん…」
「俺は《花札衛-松》をリリースし、《花札衛-松に鶴》を特殊召喚!こいつは《松に鶴》以外の花札衛1体をリリースすることで、手札から特殊召喚できる」
《花札衛-松》のイラストに《クレーンクレーン》の姿が浮かび上がる。
この《クレーンクレーン》が鶴の代わりなのだろう。
花札衛-松に鶴 レベル1 攻撃2000
「こいつの特殊召喚に成功したとき、デッキからカードを1枚ドローし、お互いに確認する。そのカードが花札衛ならそのまま特殊召喚できるが、それ以外の場合は墓地へ送られる。こいつが俺のドローしたカードだ」
翔太のディスプレイにカードが表示され、翔太は余計嫌な顔を見せる。
「そのカードは…」
「残念だが、こいつは花札衛じゃなくて、《シャドール・ビースト》。こいつはカード効果で墓地へ送られる場合、デッキからカードを1枚ドローする」
花札衛はこの2枚から見るように、運が絡んでくる効果を持つものがある。
その欠点を軽減するために、彼は《シャドール・ビースト》などのカードで転んでもただでは起き上がらないようにしている。
楽しむことと勝利することを両立しているともいえる。
「バトルだ!俺は《松に鶴》で裏守備モンスターを攻撃!」
《花札衛-松に鶴》から《クレーンクレーン》が飛び出し、くちばしで翔太の裏守備モンスターを貫こうとする。
しかし、そのカードは攻撃を受ける直前に消え、翔太の背後でまるで背後霊のように正体を見せる。
魔装霊レブナント レベル2 守備500(チューナー)
「《魔装霊レブナント》がリバースしたとき、デッキから魔装モンスター1体を手札に加える。そして、こいつはリバースしたターン、戦闘では破壊されない」
翔太のデッキから《魔装祭事クリスト》が自動排出され、手札に加わる。
「なるほどな…最近はそういうカードも出てきたのか。収容所でもいろいろカードを見てきたが…世界は広いんだなぁ。《松に鶴》の効果発動!こいつが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、俺はデッキからカードを1枚ドローする。そして、俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド」
翔太
手札1(《魔装祭事クリスト》)
SPC1
ライフ4000
場 魔装霊レブナント レベル2 守備500(チューナー)
伏せカード3
徳松
手札6→7→5
SPC3
ライフ4000
場 花札衛-松に鶴 レベル1 攻撃2000
伏せカード2
「ああーーー!!翔太君ついてない!!」
「キュイー!」
伊織とビャッコが2人仲良く両手で頭を抱える。
「だが、《レブナント》の効果で《クリスト》を手札に加えることができた」
「《クリスト》は相手によって破壊されたとき、墓地から魔装騎士1体を特殊召喚できるんやったな?」
「ああ。そして、墓地には《平手打ち》で墓地へ送られた《ペイルライダー》がいる。うもぅいきゃぁ…」
「俺のターン!」
翔太
手札1→2
SPC1→3
徳松
SPC3→5
「モンスターを裏守備表示で召喚。そして、このカードは俺のフィールド上に存在する魔装モンスター1体の攻撃力を半分にすることで、手札から特殊召喚できる。《魔装鬼ストリゴイ》を特殊召喚」
《魔装霊レブナント》の背後に、背中のあたりに五芒星が刻まれていて、1メートル程度の体に見合わぬ2メートル近い長さで先に鉛色の針がある、血のような赤い体の蝙蝠型モンスターが現れる。
そのモンスターは針を仲間の背中に突き刺し、叫び声をあげつつその体から力を吸い取る。
「うげぇ…仲間の力を奪うモンスターか。奇妙なカードを使うんだなぁ」
魔装鬼ストリゴイ レベル5 攻撃2100
魔装霊レブナント レベル2 攻撃600→300
魔装鬼ストリゴイ
レベル5 攻撃2100 守備0 闇属性 悪魔族
【Pスケール:青8/赤8】
(1):このカードはもう片方の自分のPゾーンに置かれているPモンスターが「魔装」モンスター以外の場合、墓地へ送られる。
(2):自分フィールド上に存在する「魔装騎士」モンスターの攻撃宣言時に発動できる。相手フィールド上に存在するモンスターの攻撃力・守備力がターン終了時まで600ダウンする。
【モンスター効果】
「魔装鬼ストリゴイ」は1ターンに1度しか、(1)の方法で特殊召喚できない。
(1):このカードが手札に存在し、自分フィールド上に「魔装」モンスター1体を対象に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、そのモンスターの攻撃力が半分になる。
「レベル5の《ストリゴイ》にレベル2の《レブナント》をチューニング」
刺されたままの《魔装霊レブナント》の体が消え、針が2つのチューニングリングに変化して《魔装鬼ストリゴイ》を包み込んでいく。
「黄金の剛腕を持つ漆黒の戦士、その気高き力で道を拓け。シンクロ召喚!現れろ、《魔装剛毅クレイトス》!」
チューニングリングと吸血鬼が緑色の光に包まれ、その光の中から《魔装剛毅クレイトス》が飛び出す。
魔装剛毅クレイトス レベル7 攻撃2600
(おおーー!!《魔装霊レブナント》の効果から追い打ちをかけるようにシンクロ召喚!!しかも、攻撃力は2600--!!)
「バトルだ!俺は《クレイトス》で《松に鶴》を攻撃!ゴールデン・アッパー!」
《魔装剛毅クレイトス》が《花札衛-松に鶴》を貫こうと、攻撃名にアッパーが入っているにもかかわらず、正拳突きをする。
「甘いぜ、坊主。俺は罠カード《雨流れ》を発動」
《魔装剛毅クレイトス》の拳が内側が黒く、外側が赤い和傘で受け止められる。
その傘を持っているのは青い文官束帯と黒い烏帽子を装備した青い目の貴族だ。
ちなみに、雨流れは花札の用語で、柳に小野道風を獲得すると花見酒の組み合わせが無効になる特別ルールだ。
「こいつは俺のフィールド上に存在する花札衛が攻撃対象となったとき、そのモンスターの破壊を無効にする」
「だが、戦闘ダメージは受けろよ。さらに俺は永続罠《エヌルタの慈悲》を発動。1ターンに1度、俺にフィールド上に存在する魔装騎士、そして魔装と名の付くシンクロ、エクシーズ、融合モンスターが相手モンスターと戦闘を行う時、相手に与える戦闘ダメージを倍にすることができる」
鉄でできたビキニアーマーを身に着けた、若干黒い肌で黒いロングヘアーの女性の幻影がそのカードから現れ、《魔装剛毅クレイトス》に宿る。
すると、彼の肉体が紫色の光に包まれ、右腕に宿る五芒星の魔力が増幅する。
それにより、傘と拳がぶつかり合う地点から激しい衝撃波が発生し、それが徳松を襲う。
「ぐうううう!!強引に押してきたか!!」
徳松
ライフ4000→2800
SPC5→4
(翔太選手先制ーー!!あのエンジョイ長次郎に手傷を負わせたーーー!!)
「まだまだだぜ…?《雨流れ》のもう1つの効果だ!手札・デッキ・墓地から花札衛のチューナーを1体特殊召喚する!俺はデッキから《花札衛-柳に小野道風》を特殊召喚」
攻撃を防いだ貴族が背後に現れた新しい機械の花札の中に入っていく。
そして、彼が入ったのと同時にそれには花札の柳のイラストが描きこまれていく。
花札衛-柳に小野道風 レベル11 攻撃2000(チューナー)
雨流れ
通常罠カード
(1);自分フィールド上に存在する「花札衛」モンスターが攻撃対象となったときに発動できる。そのモンスターは戦闘では破壊されない。そして、ダメージステップ終了時に手札・デッキから「花札衛」チューナー1体を自分フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する。
「そして、《柳に小野道風》の効果発動!デッキからカードを1枚ドローし、お互いに確認する。そして、そのカードが花札衛なら特殊召喚でき、それ以外であれば墓地へ送られる。さぁさぁ皆の衆!そして俺の相手をしてくれている坊主!エンジョイ長次郎の奇跡のドローに期待してくれーー!!」
徳松の言葉に客席が歓声に包まれていく。
「こいこい、こいこい!!」
「こいこいこいこーーいい!!」
コモンズの観客たちが全員こいこいと叫ぶ。
ここからのドローはデッキ操作されていない、完全に運の領域だ。
「んだよ?運任せの効果じゃねーか…」
観客と徳松に水を差すような発言をする翔太。
そんな彼の言葉におこることなく、徳松は再び彼と並走する。
「運任せ?結構なことじゃねえか。ここから先は俺もお前もどうなるかわからねえ。もし、これで大外れしたらがっかりだろうな」
「だったら、さっきみたいにデッキ操作すればいいだろ?」
「確かに、その方が確実だな。勝つことだけを考えるなら。けどよ、デュエルは勝つためだけにやるんじゃねえ。楽しむためにやるものさ。お客さんも俺たちも、みんなが楽しむためにな。お前さんはデュエルが楽しいと思ったことはねえのか?」
徳松の質問に翔太は沈黙する。
目覚めてから今まで、翔太は様々な場面でデュエルをしてきた。
仲間を守るため、奪われたカードを取り戻すため、塾を守るため、大会を勝ち進むため。
だが、デュエルを楽しんでいたかどうかについては自信をもって答えることができない。
機械的にやっているだけなのか、楽しんでやっているのか、自分自身よくわからないのだ。
「俺がデュエルをするのは目的を果たすためだ。楽しいともつまらないとも思った覚えはない」
「そうか…だったら、ここはエンジョイ長次郎の名に懸けて、デュエルの面白さを教えてやろう!!さぁ、待たせたな皆の衆!遅くなったが、奇跡のドローをお見せしよう!!」
「ああ!!遅せーぞ長次郎!!」
「みんな待ってるぞーーー!!!」
翔太から離れた徳松はデッキトップに指をかける。
「こいこい!!こいこい!!」
「こいこいこいこーーい!!」
「エンジョーーーイ!!」
叫びながら、徳松はカードを引く。
引いたカードは《花札衛-芒に月》だ。
「来たぞ!《花札衛-芒に月》!!」
月の代わりに《邪神アバター》が描かれた芒に月の花札が現れる。
花札衛-芒に月 レベル8 攻撃2000
「《芒に月》にも《柳に小野道風》と同じ効果がある。再び奇跡のドローをお見せするぞ!」
「こいこい!こいこい!」
「こいこいこいこーーい!!」
掛け声とともに、徳松がカードを引く。
「次は《花札衛-桜に幕》!!」
機械でできた、桜に幕の花札だ。
膜に隠れて、騒いでいる魔物がいるようだが、見えるのは茶色い腕だけで、何のモンスターかは不明だ。
花札衛-桜に幕 レベル3 攻撃2000
花札衛-桜に幕(アニメオリカ・調整)
レベル3 攻撃2000 守備2000 効果 闇属性 戦士族
このカードは通常召喚できない。
「花札衛-桜に幕-」以外の自分フィールドのレベル3の「花札衛」モンスター1体をリリースした場合に特殊召喚できる。
(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローし、お互いに確認する。それが「花札衛」モンスターだった場合、そのモンスターを特殊召喚できる。違った場合、そのカードを墓地へ送る。
(2):このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。
「さぁ、《桜に幕》も同じ効果がある!さらにもう1度だぁ!」
「こいこい、こいこい!!」
「こいこいこいこーーい!!」
さらに一段と大きくなる掛け声。
掛け声が終わると同時にカードが引かれる。
「おっと、みんな済まねえ。次にドローしたカードは《絶対王バック・ジャック》だ。こいつは墓地に送られたとき、デッキの上から3枚を並べ替えることができる。皆の衆、このデュエルでもう1度奇跡のドローをお見せする!それまで待っててくれー!!」
「おお!待ってるぜ、エンジョイ長次郎!!」
「今度は5連続ドローを頼むぞーー!!」
(くそ…俺のターンだってのに)
徳松は一気に3体ものモンスターを召喚した。
しかも、自分のターンではなく、翔太のターンのバトルフェイズ中にだ。
攻撃力では攻撃力2600の《魔装剛毅クレイトス》よりも低いものの、ここからシンクロ召喚につなげられる可能性がある。
「まだ俺のターンを終えるわけには…ん??」
コース上ではあるが、かなり高い位置にあるアクションカードを発見する。
今のままでのジャンプではその高さまで行くのは無理だが…。
「こいつでどうなるか…?」
壁はトンネルのそれと同じ形になっている。
それを利用して横っ飛びの形になるが、その場で飛ぶよりも高い位置に跳躍した。
そして、そのアクションカードを取ることに成功するが…。
「またアクション罠か!?」
2連続のアクション罠の入手にイラ立ちながら、やむなくそのカードを発動する。
「アクション罠《お手付き》。こいつは俺のデッキの上から3枚のカードを墓地へ送る」
(うわー、またまたアクション罠!このチャレンジャーは不幸体質なのかー??)
「誰が不幸体質だ!?黙ってみてろ!!」
翔太
SPC3→2
デッキから墓地へ送られたカード
・魔装獣ユニコーン
・Sp-エンジェル・リフト
・魔装猫バステト
(幸い《バステト》が墓地に落ちてくれたか…)
「さっきの俺のドローは楽しんでもらえたか?」
再び並走する形になる2人。
その表情は雲泥の差で、思い通りに進まずあまり余裕のなさそうな翔太に対して、徳松は笑顔だ。
「あんなドロー、ただのラッキーだろ?次は外れるのが関の山だ」
「ラッキーでいいんだ。お前の言う通り、俺がやっているのはただの運任せ。だが、それを楽しみに見てくれるやつらがたくさんいるのさ。それに、当たったときはデッキが俺に応えてくれた気がして、とてもうれしくなる。だから、やめられねえのさ」
「ふん…」
「お前さんのデッキも、応えようとしてくれてるんじゃないか?」
そういった後、徳松は再び加速して翔太から離れた。
なお、翔太と話すために減速した際に彼はちゃっかりアクションカードも手に入れている。
しかも、それは魔法カードで、結果として更に彼はスピードカウンターを得ている。
徳松
SPC4→5
「バトルフェイズ終了と同時に、《花札衛-松に鶴》の効果発動。このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時に、俺はデッキからカードを1枚ドローする」
「俺は…これでターンエンドだ」
翔太
手札0
SPC2
ライフ4000
場 魔装剛毅クレイトス レベル7 攻撃2600
裏守備モンスター1
エヌルタの慈悲(永続罠)
伏せカード2
徳松
手札5→7(うち1枚アクション魔法カード)
SPC5
ライフ2800
場 花札衛-松に鶴 レベル1 攻撃2000
花札衛-柳に小野道風 レベル11 攻撃2000(チューナー)
花札衛-芒に月 レベル8 攻撃2000
花札衛-桜に幕 レベル3 攻撃2000
伏せカード1
「俺のターン、ドロー!」
徳松
手札7→8
SPC5→7
翔太
SPC2→4
「さぁ…奇跡のドローで集まった札の力を見せてやる!俺は《柳に小野道風》の効果を発動。フィールド上に存在するこのカードをシンクロ素材とするとき、このカードを含むすべてのシンクロ素材のレベルを2にすることができる。俺はレベル2となった《松に鶴》、《芒に月》、《桜に幕》にレベル2となった《小野道風》をチューニング!」
4枚のカードが縦一列となり、一番前に配置されているのは《花札衛-柳に小野道風》だ。
「涙雨!光となりて降り注げ!シンクロ召喚!出でよ!レベル8、《花札衛-雨四光-》!」
口上を叫ぶと同時に、4枚の花札が砕け散り、再び花札の中にいる貴族に扮したモンスターがフィールドに飛び出す。
それと同時に、上空には曇り空が発生し、大雨が降り始めた。
花札衛-雨四光 レベル8 攻撃3000
「《桜に幕》の効果発動!このカードがシンクロ素材として墓地へ送られたとき、デッキからカードを1枚ドローする!」
「攻撃力3000のシンクロモンスター…。だが、俺の《クレイトス》はエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、攻撃力が1000上がるぞ!」
《魔装剛毅クレイトス》の籠手に刻まれた五芒星が光りを放ち、籠手にあたった雨が蒸発する。
「ああ、ならその攻撃せずに退場させりゃあいい。俺は手札から《Sp-ハイスピード・クラッシュ》を発動。俺のスピードカウンターが2つ以上あるとき、俺のフィールド上に存在するカード1枚と、フィールド上のカード1枚を破壊する。《花札衛-雨四光》と、《クレイトス》を破壊する!」
《花札衛-雨四光》が傘の持ち手を引き抜く。
傘の中に隠されていた刀の刃が露出し、そのモンスターは回転しながら《魔装剛毅クレイトス》に突撃する。
黄金の拳と貴族の刀がぶつかり合い、何回かそれを繰り返すと、《魔装剛毅クレイトス》の籠手が砕け、それと同時に彼のソリッドビジョンが消滅する。
だが、《花札衛-雨四光》は無事だ。
「なぜ、《雨四光》は破壊されない?」
「こいつは花札衛をカード効果による破壊から守り、更に相手のカード効果の対象にならないようにしてくれている」
「ああ、そうかよ…。俺のフィールド上に魔装モンスターが存在しないとき、《エヌルタの慈悲》は墓地へ送られる。そして、このカードが俺のカード効果で墓地へ送られたとき、デッキから魔装ペンデュラムモンスターを1体手札に加えることができる。俺はデッキから《魔装剣士ムネシゲ》を手札に加える」
ビキニアーマーの女性の幻影が翔太のフィールドから消え、翔太の手に《魔装剣士ムネシゲ》が加わる。
だが、このカードだけではペンデュラム召喚が行えない。
(《ムネシゲ》が手札に加わったのはいいが、《雨四光》の攻撃力は3000。どうするか…)
エヌルタの慈悲
永続罠カード
「エヌルタの慈悲」の(3)の効果は1ターンに1度しか発動できない。
(1):1ターンに1度、自分フィールド上に存在する「魔装騎士」モンスター、「魔装」S・X・融合モンスターが相手モンスターと戦闘を行う時に発動できる。その戦闘で発生する相手へのダメージは倍になる。
(2):自分フィールド上に「魔装」モンスターが存在しない場合、このカードは墓地へ送られる。
(3):このカードが自分の効果によって墓地へ送られたとき、自分のデッキに存在する「魔装」Pモンスター1体を対象に発動できる。そのカードを自分の手札に加える。
「さぁ、バトルだ!!《雨四光》で裏守備モンスターを攻撃!」
《花札衛-雨四光》が刀を抜き、裏守備モンスターを真っ二つに切り裂く。
裏守備モンスター
魔装祭事クリスト レベル1 守備0
「《クリスト》は相手によって破壊されたとき、墓地から魔装騎士を特殊召喚できる。俺は《魔装騎士ペイルライダー》を特殊召喚!」
(《平手打ち》の効果で墓地へ送ったカードか…)
死の騎士が両手に光剣をもって、《花札衛-雨四光》をにらむ。
魔装騎士ペイルライダー レベル7 守備2000
「出たー!翔太君の《ペイルライダー》!!」
「せやけど、《ペイルライダー》の攻撃力は2500。攻撃力3000の《雨四光》にはかなわんで!?」
「《ペイルライダー》には戦闘を行った相手モンスターを破壊する効果がある。だが、《雨四光》は自分を含めて花札衛をカード効果で破壊できないようにしている。やるとしたら、除外かバウンス、単純な力押しのいずれかだ」
攻撃力3000というエースクラスの攻撃力に、カード効果への対策の能力を持つ《花札衛-雨四光》にシェイドのメンバーは警戒する。
「ほぉ、こいつが《ペイルライダー》か。花札がモチーフのカードを使う俺が言うのもなんだが、黙示録とは、ベタだなぁ」
「ほっとけ。お前のフィールドにはもう攻撃できるモンスターはいないぞ?」
「いいや?まだ攻撃は続けるぞ?俺は罠カード《鬼札御免》を発動。俺のフィールド上に花札衛シンクロモンスターが存在し、相手フィールド上に特殊召喚されたモンスターが存在するとき、俺の花札衛シンクロモンスター1体はこのターン、もう1度だけ攻撃できる。そして、その攻撃で守備モンスターを攻撃した場合、貫通ダメージを与える」
「何!?」
徳松のフィールドに金太郎の代わりに描かれているのか、《赤鬼》が描かれた花札が現れ、それが透明なエネルギーとなって《花札衛-雨四光》に取り込まれる。
力を得た貴族は再び刀を抜いて、死の騎士を殺そうとする。
「裏目に出たか!?ここは…」
前を見ると、右足側でかかとあたりと同じ高さに浮いてるアクションカードを発見する。
「三度目の正直だ!!」
藁をもすがる思いでカードを取ると、すぐに翔太のスピードカウンターが増える。
翔太
SPC2→3
「(よし…!)俺はアクション魔法《回避》を発動!それで攻撃を無効にする!」
「待て待て、俺もアクションカードを持っていることを忘れるな?アクション魔法《ノーアクション》を発動!アクションカードの発動を無効にし、破壊する」
「何!?」
発動した《回避》が粉々に砕け散る。
ノーアクション(アニメオリカ)
アクション魔法カード
(1):アクションカードの発動を無効にし、破壊する。
「さあ、これをどうしのぐんだ?坊主!?」
「俺は罠カード《ガード・ブロック》を発動!俺に発生する戦闘ダメージを0にし、デッキからカードを1枚ドローする。そして、ペンデュラムモンスターである《ペイルライダー》はフィールドから墓地へ送られるとき、エクストラデッキに置く」
左腕に装着された楯で刀を受け止めたものの、上空に発生している雲から雷が落ち、《魔装騎士ペイルライダー》が破壊される。
翔太
手札0→2(うち1枚《魔装剣士ムネシゲ》)
鬼札御免
通常罠カード
(1):自分フィールド上に存在する「花札衛」Sモンスターが戦闘を行ったとき、相手フィールド上に特殊召喚されたモンスターが存在する場合に発動できる。そのモンスターはこのターン、もう1度攻撃することができる。その戦闘で守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ相手に戦闘ダメージを与える。
「うわーーー!!《ペイルライダー》が破壊されちゃったー!」
「《ガード・ブロック》でスピードカウンターの低下は阻止したが、これで《ペイルライダー》と《クリスト》による《雨四光》の破壊ができなくなってしまった…」
ペンデュラムモンスターである《魔装騎士ペイルライダー》と《魔装鬼ストリゴイ》はペンデュラム召喚によってフィールドに呼び戻すことは可能だ。
しかし、手札にあるペンデュラムモンスターは《魔装剣士ムネシゲ》のみ。
《ガード・ブロック》の効果でドローしたカード、もしくは次のターンにドローするカードがスケール6以下のペンデュラムモンスターでなければ、ペンデュラム召喚自体が難しい。
「俺はカードを4枚伏せ、ターンエンド!」
翔太
手札2(うち1枚《魔装剣士ムネシゲ》)
SPC3
ライフ4000
場 伏せカード1
徳松
手札8→4
SPC7
ライフ2800
場 花札衛-雨四光 レベル8 攻撃3000
伏せカード3
(ああーーーエンジョイ長次郎、あとちょっとで大ダメージを与えられたのに、惜しい!!しかーし、翔太選手のエースカードである《ペイルライダー》は破壊されましたーー!さあ、攻撃力3000のシンクロモンスターにどう対抗するのかーー!?)
「俺のターン!」
翔太
手札2→3
SPC3→5
徳松
SPC7→9
「この瞬間、《雨四光》の効果発動!相手がドローフェイズ時に通常のドローを行ったとき、相手に1500のダメージを与える!」
「何!?くぅ…!!」
翔太がドローしたカードから強い光が一瞬だけ発生する。
すぐに目を閉じたことで、被害は軽減されたものの、それでも翔太のDホイールが体勢をわずかに崩した。
翔太
ライフ4000→2500
SPC5→4
「やりやがったな…」
ドローしたカードをホルダーに納め、《花札衛-雨四光》をにらみつける。
「だったらこのターンで破壊してやる!俺はペンデュラムゾーンにスケール1の《魔装忠臣ユキモリ》とスケール9の《魔装剣士ムネシゲ》でペンデュラムスケールをセッティング!」
翔太の左側に黒塗りの当世具足と鹿の角を模した飾りのある兜、右手には槍を持った、顔に三日月上の大きな傷跡のある若い武将が現れ、青い光の柱を生み出す。
具足の背部には伝説上の生き物である麒麟が描かれていて、五芒星は兜の中央部分についている。
そして、右側には《魔装剣士ムネシゲ》が現れる。
「おお、ペンデュラムモンスターを出そうとしてるみてえだが、そう問屋は卸さねえよ!俺は罠カード《砂塵の大竜巻》を発動!相手フィールド上に存在する魔法・罠カードを1枚破壊する!俺は《魔装剣士ムネシゲ》を破壊させてもらうぜ!」
砂が混ざった竜巻が翔太を襲い、それに巻き込まれた《魔装剣士ムネシゲ》が吹き飛ばされていく。
(こいつ…!!)
「悪いが、ペンデュラムモンスターのとんでもなさは経験済みだ!召喚する前に封じさせてもらうぜ!」
「そういうことは全部が終わってから言うんだな、おっさん!!俺は手札の《魔装弓士ロビン・フッド》の効果を発動。相手フィールド上にのみモンスターが存在するとき、手札のこのカードを表向きでエクストラデッキに置くことで、俺の墓地・エクストラデッキから魔装ペンデュラムモンスター1体を手札に加える。俺はお前に破壊された《魔装剣士ムネシゲ》を再び手札に加え、セッティングする」
「おいおい、これじゃあ不発同然だな」
《魔装弓士ロビン・フッド》のレベルは3で、《魔装忠臣ユキモリ》と《魔装剣士ムネシゲ》のペンデュラムスケールであれば、ペンデュラム召喚で呼び出すことができる。
翔太は実質ノーコストで幅広いペンデュラム召喚を行える状態にまた戻したのだ。
「俺は再び《魔装剣士ムネシゲ》をセッティング。これで俺はレベル2から8のモンスターを同時に召喚可能。来たれ、時の果てに眠りし英雄の魂。漆黒の魂と契約し、封印から解き放たん!ペンデュラム召喚!叫びをあげる吸血鬼、《魔装鬼ストリゴイ》!悪を裁く森の弓士、《魔装弓士ロビン・フッド》、第4の騎士、《魔装騎士ペイルライダー》!
魔装鬼ストリゴイ レベル5 攻撃2100
魔装弓士ロビン・フッド レベル3 攻撃1000
魔装騎士ペイルライダー レベル7 攻撃2500
「一度に3体も特殊召喚か。だが、甘いぜ!俺は罠カード《奈落の落とし穴》を発動!相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・特殊召喚に成功したとき、そのモンスターは破壊され、ゲームから除外される。これで、《ロビン・フッド》以外のモンスターは破壊だ!」
「俺はカウンター罠《ギャクタン》を発動!相手の罠カードの発動を無効にし、デッキに戻す!」
「何!?」
《ギャクタン》発動と同時に、徳松のフィールドにある《奈落の落とし穴》のソリッドビジョンが消滅し、彼の手でそのカードがデッキに戻される。
「ふぅ…ペンデュラム召喚対策カードへの対策として入れてたおかげで助かったぜ。更に、俺は墓地の《魔装猫バステト》の効果を発動。俺のフィールド上に魔装モンスターが存在するとき、手札・墓地から特殊召喚できる」
翔太の前に現れた砂嵐の中から《魔装猫バステト》が飛び出し、《魔装騎士ペイルライダー》の肩に乗る。
そして、ニャーンとかわいらしく鳴くと、女性客から歓声が上がった。
魔装猫バステト レベル1 攻撃0(チューナー)
「へぇー、横柄な態度に似合わず、かわいらしいモンスターをデッキに入れてるんだなー」
「ほっとけ。俺はレベル5の《ストリゴイ》とレベル3の《ロビン・フッド》にレベル1の《バステト》をチューニング。勝利と支配をもたらす第2の騎士よ、終戦を告げるその矢で敗者を鎮めよ!シンクロ召喚!《魔装騎士ホワイトライダー》!!」
《魔装猫バステト》が飛び降りると、その姿が緑色のチューニングリングに代わる。
その中に2体のモンスターが入り、緑色の光を放つと、その中から《魔装騎士ホワイトライダー》が現れた。
魔装騎士ホワイトライダー レベル9 攻撃3100
(おおーー!!翔太選手も負けていません!攻撃力3000の《雨四光》を倒すべく、攻撃力3100の《ホワイトライダー》を召喚しましたーーー!!)
「バトルだ。俺は《ペイルライダー》で《雨四光》を攻撃!クアトロ・デスブレイク!」
「攻撃力の劣る《ペイルライダー》で攻撃だと?何か裏があるみてえだな」
「当然だ。俺は《クリスト》の効果を発動。俺の魔装騎士が相手モンスターを攻撃するとき、このカードを除外することで、ダメージ計算時のみその攻撃力を他の魔装モンスター1体の元々の攻撃力分アップさせることができる」
翔太のフィールドに現れた《魔装祭事クリスト》が黄色い粒子となって消滅し、《魔装騎士ペイルライダー》に宿ろうとしていた。
「済まねえな。俺はカウンター罠《透破抜き》を発動!こいつは手札か墓地で発動するモンスター効果を無効にし、そのモンスターを除外する」
「ちっ!?」
《透破抜き》から放たれる波紋が黄色い粒子を消滅させる。
そして、居合の構えを取っていた《花札衛-雨四光》に両断されそうになる。
「俺は《ムネシゲ》のペンデュラム効果を発動。1ターンに1度、俺のペンデュラムモンスター1体の破壊を無効にする」
《魔装剣士ムネシゲ》が丸楯を投げ、《花札衛-雨四光》と《魔装騎士ペイルライダー》の攻撃を妨害する。
そして、貴族の刀が楯とぶつかったことで発生する衝撃波が翔太を襲う。
「ぐううう…!!」
翔太
ライフ2500→2000
「ならおれは《ホワイトライダー》で《雨四光》を攻撃!アロー・オブ・ルール!」
《魔装騎士ホワイトライダー》が上空へ飛び、3本の矢を放つ。
1本目の矢は刀を切り裂き、2本目の矢は傘を楯にしてしのぐが、最後の矢は傘に命中した瞬間、爆発を起こす。
その爆発に巻き込まれる形で《花札衛-雨四光》が消滅する。
それと同時に、上空の雨雲が消え、天気が元に戻った。
徳松
ライフ2800→2700
「(さらに追撃してえところだが、もう俺には攻撃手段がない。近くにアクションカードもない…)俺はこれでターンエンドだ」
翔太
手札3→1
SPC4
ライフ2000
場 魔装騎士ホワイトライダー レベル9 攻撃3100
魔装騎士ペイルライダー レベル7 攻撃2500
魔装忠臣ユキモリ(青) ペンデュラムスケール1
魔装剣士ムネシゲ(赤)ペンデュラムスケール9
伏せカード1
徳松
手札4
SPC7
ライフ2700
場 伏せカード1
「どうだ、おっさん。あんた自慢の《雨四光》は破壊されたぞ?」
「ああ。これでまた一段と面白くなった」
「面白くなった…?」
確かに、徳松の手札とスピードカウンター、ライフは翔太を上回っている。
しかし、《花札衛-雨四光》が破壊され、ペンデュラム召喚対策のカードがことごとくかわされた結果、フィールドに残ったのは伏せカード1枚のみ。
そんな状態で面白くなったと言えるのは、よっぽどの馬鹿か、勝つ自信がまだあるかのどちらかだろう。
「俺のターン、ドロー!」
徳松
手札4→5
SPC7→9
翔太
SPC4→6
「俺は罠カード《貪欲な瓶》を発動!こいつは墓地に存在するカード5枚をデッキに戻し、デッキからカードを1枚ドローする」
墓地からデッキに戻ったカード
・花札衛-桜に幕
・花札衛-松に鶴
・花札衛-松
・花札衛-芒に月
・花札衛-雨四光
「そして、俺は手札から手札から《Sp-スケアリー・リボーン》を発動。俺のスピードカウンターが7つ以上あるとき、お互いに墓地から攻撃力2000以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。俺は墓地から《柳に小野道風》を特殊召喚!」
「だったら、俺は墓地から《魔装霊レブナント》を特殊召喚する」
《Sp-スケアリー・リボーン》から発生する波紋が2体のモンスターを墓地から呼び戻す。
魔装霊レブナント レベル2 守備500(チューナー)
花札衛-柳に小野道風 レベル11 攻撃2000(チューナー)
Sp-スケアリー・リボーン
通常魔法カード
「Sp-スケアリー・リボーン」は1ターンに1度しか発動できない。
(1):自分のスピードカウンターが7つ以上あるとき、互いの墓地に存在する攻撃力2000以下のモンスター1体ずつを対象に発動できる。それらのモンスターを互いのフィールドに特殊召喚する。
「そして、《柳に小野道風》の効果は忘れていないだろうな?このカードは特殊召喚されたとき、デッキからカードを1枚ドローし、ドローしたカードが花札衛なら特殊召喚し、それ以外の場合は墓地へ送る」
徳松がデッキトップに指をかけると、そっと翔太に目を向ける。
「さっきのターンを見て、安心したぜ」
「はぁ…?」
「お前さん、ちゃんとデュエルを楽しんでいるみたいでな」
ニッと笑いながら話す徳松に翔太はむっとする。
「何言ってんだ?」
「だって、俺の妨害を潜り抜けてペンデュラム召喚をして、さらにシンクロ召喚までやった。そのときにうれしそうな表情を見せたんだが…気のせいだったか?それに、俺の《雨四光》を倒したとき…どう思ったんだ?」
「俺は…」
徳松の問いかけに、翔太は少し黙り込む。
前のターンに自分がどんな感情を抱いていたのか、もう忘れてしまっていた。
ただ、そのというかけを聞く中で、少なくとも《花札衛-雨四光》を倒したときは妙に達成感のようなものを感じていたのを思い出した。
「楽しみ方は人それぞれだ。それが人を傷つけることになる場合を除いてはな。さしずめ、お前さんが楽しいと思うときは、さっきのような強力なモンスターを攻略した時だな。だったら、《雨四光》を超える俺の最強カードを見せてやる。さぁ、皆の衆。待たせたな!!これから徳松長次郎の奇跡のドローを御覧に入れよう!」
「オオオオーーー!!」
「今度はどんなドローを見せてくれるんだ!?」
会場が盛り上がるなか、徳松は大声で宣言する。
「予告するぜ…これから俺は5体の花札衛を召喚する!!それも…手札を1枚も使わず、花札衛たちの特殊召喚で発動する効果だけでだ!!!」
まさかの宣言に会場が驚きに包まれる。
先ほどの軌跡をのさらに上をいく奇跡のドローを見せようというのだから、なおさらだ。
「まずは1枚目!!さあ、成功を祈っていてくれー!」
「こいこい、こいこい!!」
「こいこいこいこいーーー!!」
「エンジョーーーイ!!」
掛け声に包まれる中、徳松はカードをドローする。
「1枚目、《花札衛-桐に鳳凰》!!」
機械でできた、《鳳凰》のイラストがある桐に鳳凰の花札が徳松のフィールドに現れる。
花札衛-桐に鳳凰 レベル12 攻撃2000
「そして…《桐に鳳凰》にも、《柳に小野道風》と同じ効果がある!!」
再び会場が掛け声に包まれていく。
(訳が分からねえが…このおっさん、またやりやがる!!)
「エンジョーーーイ!!《花札衛-桜に幕》!」
今度はドローしたカードを見ないまま、そのままフィールドに置く。
そのカードは徳松の言う通り、《花札衛-桜に幕》だった」
花札衛-桜に幕 レベル3 攻撃2000
「さぁ、3枚目のドローだ!!もっと大きな声で頼むぜーー!!」
「こいこい!!こいこい!!」
「こいこいこいこーーい!!」
最初はコモンズの客だけだったのに、いつの間にかトップスの客の一部も掛け声に参加する。
徳松のデュエルがトップスにだんだん受け入れられつつあるように。
「エンジョーーーイ!!《花札衛-芒に月》!!」
花札衛-芒に月 レベル8 攻撃2000
「そして、4枚目だ!!」
「こいこい、こいこい!!」
「こいこいこい…」
(こーーーい!!あ、ついうっかり…。うー、MCは中立でなきゃいけないんだったーー!)
「エンジョーーイ!!《花札衛-松に鶴》!!」
花札衛-松に鶴 レベル1 攻撃2000
「さあ…5枚目いくぜーー!!といっても、この状態だと花札衛をドローしたとしても手札に加えるだけだがな」
そういいながら、徳松はこのターンで7回目のドローを行う。
「ドローしたカードは《花札衛-松》。こいつは手札に加わる」
宣言通り、徳松のフィールドに5体の花札衛が現れた。
《花札衛-柳に小野道風》がいるということは、ここからの展開は想像できる。
「《柳に小野道風》の効果により、こいつら5体のレベルは2として扱われる。いくぜ…!俺は4体の花札衛にレベル2の《花札衛-柳に小野道風》をチューニング!!その神々しきは聖なる光 、今、天と地と水と土と金となりて照らせ!」
5体の花札衛が重なり合い、そこに5色の光が発生する。
そして、その光に反応したのか花札が5枚すべて粉々に砕け散り、そこから紫色の甲冑をみにつけ、背中に薄茶色の帯でつながっている5つの青い太鼓を浮かべた侍が現れる。
「シンクロ召喚!出でよ、レベル10!《花札衛-五光》!!」
花札衛-五光 レベル10 攻撃5000
「おおおーーーーー!!!!」
徳松の最強カードの登場に会場が大いに盛り上がる。
そして、太刀を引き抜いて翔太のフィールドにいる2体の騎士と向き合う。
「バトルだ!俺は《花札衛-五光》で《ペイルライダー》を攻撃!!」
(く…!!)
今の翔太のライフは2000。
攻撃力2500の《魔装騎士ペイルライダー》への攻撃を許してしまうと、ライフが尽きてしまう。
翔太はDフランクをジャンプさせ、上空に浮かんでいるアクションカードを手にする。
「俺はアクション魔法《大脱出》を発動!バトルフェイズを終了させる!」
「《花札衛-五光》の効果発動!相手の魔法・罠カードの発動を無効にし、破壊する!」
「何!?」
発動した《大脱出》のカードが急に真っ二つに切れて消滅する。
大脱出(アニメオリカ)
アクション魔法カード
(1):バトルフェイズを終了させる。
翔太
SPC6→7
「更に、戦闘を行う相手モンスターの効果をバトルフェイズ終了時まで無効にする!!」
「ちぃ…!!」
《魔装騎士ペイルライダー》がマシンガンを発射して、《花札衛-五光》をけん制するが、背中についている太古から発生する波紋が弾道を狂わせ、いずれも《花札衛-五光》にかすりもしない。
やむを得ず、光剣で応戦しようとしたが、攻撃力5000のそのモンスターの力に太刀打ちできるはずもなく、力ずくで真っ二つにされそうになる。
「ならおれは罠カード《ハーフ・カウンター》を発動!俺のモンスターが相手モンスターに攻撃されるとき、相手モンスターの元々の攻撃力の半分を得る!」
《ハーフ・カウンター》発動と同時に《魔装騎士ペイルライダー》の五芒星が光り、光剣の出力が増幅する。
それを見て、これ以上攻撃をしても利がないと判断したのか、《花札衛-五光》が徳松のそばまで下がっていった。
「《花札衛-五光》の効果!こいつがいる限り、俺のフィールド上に存在する花札衛は戦闘では破壊されない」
「《魔装剣士ムネシゲ》のペンデュラム効果。1ターンに1度、俺のペンデュラムモンスター1体の破壊を無効にする」
花札衛-五光(アニメオリカ・調整)
レベル10 攻撃5000 守備5000 シンクロ 光属性 戦士族
チューナー+チューナー以外のモンスター4体
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールド上に存在する「花札衛」モンスターは戦闘では破壊されない。
(2):1ターンに1度、魔法・罠カードが発動したときに発動できる。その発動を無効にし、破壊する。この効果の発動に対して、相手は魔法・罠・モンスター効果を発動できない。
(3):このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、バトルフェイズ終了時までその相手モンスターの効果は無効化される。
「うう…!?」
戦いが終わると同時に、翔太の視界が真っ白になっていく。
(まさか…こいつも俺の記憶の鍵…!?)
白い光が消えると、翔太の視界に広がる景色がスタジアムから静寂に包まれた、石でできた部屋の中になっていた。
そこには剣で突き殺された女性と、病気のためか、倒れて死んでいる男がいる。
そして、2人のそばにはオレンジ色の髪で白い服を着た少年がいる。
「父上…母上…。どうして…!?」
母親だと思われる女性の遺体が彼の目の前にあることから、おそらく彼女が彼をかばったと思われる。
そして、彼を殺そうとしたのは病気で死んだ男のようだ。
ショックを受ける彼の背後に紫色の影が現れ、彼をそそのかす。
お前は母親が殺され、父親に呪いの王子とさげすまれた悲劇の王子ではない。
両親を自らの手で殺し、世界を戦乱と虐殺の嵐に落とす狂気の王子だと…。
そして、影は少年の体に1枚のカードを埋め込んだ。
「あの影はいったい…??」
再び翔太の視界を白い光が包み込む。
(このカードの記憶はここまでか…。残りあと5枚…)
光が消えると、景色が再びスタジアムの中に戻っていた。
「これでバトルフェイズ終了だが…まだ俺のターンは終わってねえ!俺は《スピード・ワールド・A》の効果を発動!スピードカウンターを4つ取り除き、相手に俺の手札をすべて見せ、手札のSpの数×400のダメージを与える!」
宣言と同時に、徳松の手札がホルダーでスキャンされる。
そして、翔太のディスプレイに徳松の手札の内容が表示される。
徳松の手札
・花札衛-松
・デストラクション・ジャマー
・Sp-ダッシュ・ビルファー
・Sp-ギャップ・ストーム
・Sp-ゼロ・リバース
「く…!!」
徳松の手札の中にあるSpは3枚。
そして、スピードカウンターは9つ。
この後、彼が2枚そのダメージ効果を発動した場合、合計2400ポイントのダメージが発生し、翔太が負けてしまう。
「さあ、ここをどう切り抜ける?坊主!!」
《花札衛-五光》の背中の太鼓が鳴り、それと同時に衝撃波が翔太を襲う。
「ぐううう!!」
翔太
ライフ2000→800
SPC7→6
徳松
SPC9→5
(よかった…俺が記憶を見ている間は時間が進んでいなかったみたいだな)
一度目の衝撃波が収まるが、数秒もたたないまま再び衝撃波が発生する。
「俺は手札の《魔装楯タカモリ》の効果を発動!こいつを手札から特殊召喚することで、俺が受ける効果ダメージを0にする!」
左腕に長さが約150センチ、幅が約50センチあり、赤と黒でできた大きなS字が描かれている白い木製の楯を持つ、左腕に五芒星が刻まれた黒い坊主頭で、太い体の男が現れ、衝撃波を受け止める。
魔装楯タカモリ レベル4 守備2000(チューナー)
徳松
SPC5→1
魔装楯タカモリ
レベル4 攻撃1000 守備2000 チューナー 地属性 戦士族
(1):1ターンに1度、自分が効果によるダメージを受けるときに発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、そのダメージを0にする。
(2):このカードが「魔装」SモンスターのS素材となる場合、このカードをチューナー以外のモンスターとして扱うことができる。
「ほぉ、やるじゃねえか坊主!!俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」
翔太
手札1→0
SPC6
ライフ800
場 魔装騎士ホワイトライダー レベル9 攻撃3100
魔装騎士ペイルライダー レベル7 攻撃2500
魔装霊レブナント レベル2 守備500(チューナー)
魔装楯タカモリ レベル4 守備2000(チューナー)
魔装忠臣ユキモリ(青) ペンデュラムスケール1
魔装剣士ムネシゲ(赤)ペンデュラムスケール9
徳松
手札5→4(《花札衛-松》《Sp-ダッシュ・ビルファー》《Sp-ギャップ・ストーム》《Sp-ゼロ・リバース》)
SPC1
ライフ2700
場 花札衛-五光 レベル10 攻撃5000
伏せカード1
「これが…俺のラストターンといったところか…」
翔太はフウッと深呼吸をしてから、デッキトップに指をかける。
(《花札衛-五光》。魔法・罠カードを無効にするだけでく、戦う相手モンスターの効果をかき消し、更に破壊耐性まである究極のモンスター…)
ゆっくりと、指に掛かったカードがデッキから離れていく。
「(だが…こいつを倒せば、勝てる!!)俺のターン!!」
翔太
手札0→1
SPC6→8
徳松
SPC1→3
「俺は手札から《Sp-ハーフ・シーズ》を発動!俺のスピードカウンターが3つ以上あるとき、相手モンスター1体の攻撃力を半分にし、減らした数値分俺のライフを回復させる!」
(このタイミングで《ハーフ・シーズ》??それでも、《五光》の攻撃力が2500で戦闘破壊できない点では変わりねえ。目的はこいつをサンドバックにすることか?)
徳松は翔太のフィールドをじっと見る。
(《ユキモリ》のペンデュラム効果はこいつがペンデュラムゾーンに存在するとき、1度だけ魔装モンスター1体は相手のモンスター効果を受けなくする。だが、《ペイルライダー》を除いてそんな効果で今、有利になれるモンスターはいねえ。それに、俺の伏せたカードが何か知らねえわけじゃないだろうしな)
徳松は自分が伏せたカードである《デストラクション・ジャマー》を見る。
(このカードはフィールド上のモンスターを破壊するカード効果を無効にし、破壊する。こいつで《ペイルライダー》の効果を防ぐことができる。なら、発動する目的は…まさか!?)
次に注目したのは《魔装霊レブナント》と《魔装楯タカモリ)、エクストラデッキにいるペンデュラムモンスターだった。
(《魔装楯タカモリ》はチューナー以外のモンスターとしても使えるチューナー。ペンデュラム召喚によって素材はどうにでもなる状況だ。更に強いシンクロモンスターをシンクロ召喚し、力づくで押し切る気か!?)
《魔装弓士ロビン・フッド》をペンデュラム召喚すれば、レベル5か7、9のシンクロモンスターを召喚できる。レベル9のシンクロモンスターが《魔装剛毅クレイトス》や《魔装騎士ホワイトライダー》のような高い攻撃力を誇るモンスターであれば、押し切られる可能性が高い。
《魔装鬼ストリゴイ》であっても高いレベルのシンクロモンスターが出る可能性が高い。
そして、翔太のエクストラデッキの攻勢がどうなっているのかは当然わからない。
ならば、やるべき手は…。
「俺は《五光》の効果を発動!1ターンに1度、魔法・罠カードの発動を無効にし、破壊する!!」
《花札衛-五光》の刀で、《Sp-ハーフ・シーズ》が破壊される。
これで、翔太の手札が再び0枚になった。
「俺は《スピード・ワールド・A》の効果を発動!スピードカウンターを7個取り除き、デッキからカードを1枚ドローする」
翔太は再びデッキトップに指をかける。
(これで、お膳立ては済んだ。あとはこいつが来るだけだ…)
「翔太君…ってあれ??」
テレビで応援する伊織が隣に目を向ける。
そこにはビャッコがおらず、あるのはみたらし団子の櫛が置いてある小皿だけだ。
「ビャッコちゃん…??」
口元がみたらし団子のたれで汚れている伊織は周りをきょろきょろし、彼を探した。
スピードカウンターが7つ減ったのを確認したのと同時に、翔太はカードをドローする。
そして、ドローしたカードを見る。
「おっさん…」
「ん…なんだ、坊主?」
「俺の勝ちだ」
静かに勝利宣言をした翔太に観客席に動揺が走る。
「俺は手札から《魔装妖ビャッコ》を召喚!」
「キュイーー!!」
召喚と同時に、翔太の頭の上にビャッコがみたらし団子を食べながら現れる。
それのたれが垂れて、ヘルメットにつく。
「お前…出る場所を間違えるな!!」
「キュキュー??」
なんでそんなことを言っているのかわからないと言いたげに首をかしげる。
そして、そのまま気にせずにみたらし団子を食べ、くしをランドセルにしまう。
魔装妖ビャッコ レベル3 攻撃400
翔太
SPC8→1
「俺はレベル3の《ビャッコ》にレベル4の《タカモリ》をチューニング!可憐なる妖魔よ、その秘められし妖の力を解放せよ。シンクロ召喚!《魔装妖キュウビ》!!」
「キューーーー!」
翔太の頭の上から飛び降りたビャッコが4つのチューニングリングをくぐり、その姿を《魔装妖キュウビ》へと変えていく。
魔装妖キュウビ レベル7 攻撃2000
「そして、俺は《ユキモリ》のペンデュラム効果を発動!こいつがペンデュラムゾーンに存在するとき、1度だけ俺の魔装モンスターをターン終了時まで相手モンスターの効果から守る!」
《魔装忠臣ユキモリ》の五芒星が光りだすと、それに反応してフィールド上の魔装モンスターたちの五芒星が光る始める。
魔装忠臣ユキモリ
レベル7 攻撃2200 守備1000 風属性 戦士族
【Pスケール:青9/赤9】
「魔装忠臣ユキモリ」の(2)の効果はこのカードがPゾーンに表側表示で存在する限り1度しか発動できない。
(1):このカードはもう片方の自分のPゾーンに置かれているPモンスターが「魔装」モンスター以外の場合、墓地へ送られる。
(2):自分のターンのメインフェイズ時に発動できる。ターン終了時まで自分フィールド上に存在する「魔装」モンスターは相手のモンスター効果を受けない。
【モンスター効果】
「魔装忠臣ユキモリ」の効果は1ターンに1度しか発動できない。
(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊したとき、自分の墓地・エクストラデッキに表向きで存在する「魔装」モンスター1体を対象に発動できる。そのカードを手札に加える。
「バトルだ。俺は《キュウビ》で《五光》を攻撃!」
「攻撃力2000のモンスターで攻撃力5000の《五光》を攻撃だと!?」
「《キュウビ》が相手モンスターと戦闘を行う時、ダメージステップ終了時までそのモンスターの効果を無効にし、攻撃力・守備力を0にする!」
「キュイーーーー!!」
ビャッコのしっぽに宿った9つの火球が発射される。
その炎を受けた《花札衛-五光》の鎧が解け始め、背中にある太鼓が砕け散る。
そして、解けて弱った部分に狙いを定めたビャッコが思いっきりそこに向けて体当たりをした。
「まさか…《五光》が…」
体当たりを受けた《花札衛-五光》は空の彼方へ飛んで行ってしまった。
徳松
ライフ2700→700
SPC3→1
「これで最後だ!《ペイルライダー》でダイレクトアタック!」
《魔装騎士ペイルライダー》がマシンガンを発射する。
(ここまでか…済まねえな)
徳松は収容所にいる2人の子分を思い出す。
彼らはエンジョイ長次郎としての自分を取り戻したあと、とある脱獄計画が発動した際におとりとなり、自分に脱出の機会を与えてくれた。
そして、彼らは自分にもう1度表舞台に出てほしいと言ってくれた。
(けど…悔いはねえさ)
弾丸が次々と徳松のDホイールに着弾する。
そして、ライフが0になったのと同時にDホイールが止まった。
徳松
ライフ700→0