「あーー、つーかーれーたー…」
寮に戻ってきた伊織がクタクタに疲れたのか、部屋に入るとすぐにソファーにダイブする。
今日は攻撃を仕掛けてきたギャングへの迎撃とそれに対する報復及び戦後処理で、こうして戻ることができたのは午後8時だ。
このまま寝ちゃおうと思った伊織だが、今日はそれが許されない。
「よーし、ここにテレビを置くぞー」
部屋に漁介が入って来て、その手には古い液晶型の大きなテレビが握られている。
「んー?なんでテレビをー?」
「忘れたんか?今日はフレンドシップカップ前夜祭じゃ!大会参加者がわかるし、ジャックのデュエルが見れるんじゃぞ!?」
「えーーー!?今日!?」
「もう、昨日も言ったのに忘れてたの?」
後から部屋に入ってきた柚子があきれたように言う。
「ネットの海戦はこれでいいか?」
「ああ。そういえば、ジョンソンはどうした?」
「興味がないって、見張りを続けてる」
そして、モハメドと鬼柳の手でテレビがネットにつなげられ、電源を入れると、液晶画面には白い楕円形のスタジアムとそれを包む漆黒の空を彩るカラフルな花火の数々が映し出されていた。
(シティは1つ、みんな友達ーー!さぁ、年に一度のコモンズとトップス合同の大会であるフレンドシップカップがここイリアステル区のセルジオスタジアムで開催されまーす!そして、この晴れ舞台の実況を私、メリッサ・クレールがお送りします。クゥーーー!長年の苦労がついに報われるー!)
ハイテンションな女性の声が聞こえる中で、スタジアムの中の光景が映し出される。
そこにはこぎれいな燕尾服、もしくはドレスを着た、いかにもリッチもしくは成金といえる人々やしわが多く、よれよれな服を着た貧乏な人々、そして顔にレーザーで焼きつけられた黄色い刻印であり、犯罪者もしくは前科者の証であるマーカーがついた人々もいる。
ただし、シティは1つと言いながらもコモンズとトップスの人々が分け隔てなく応援席に座っているわけではなく、規則的に区間分けされていて、一緒に応援することはない。
この光景を見るだけでも、スローガンがただの言葉でしかないということがよく分かってしまう。
「翔太君が見たら、絶対皮肉りそう…」
伊織の言葉に全員が首を縦に振る。
なお、このスタジアムはシティが最初に作られたころ、セルジオという男がシティで誰でも楽しくデュエルができる場所を作ろうと考え、たった1人で作り上げた小さなデュエルリングが起源となっている。
それが時が流れるにつれてスタジアムとなり、そしてライディングデュエル用のコースが追加され、その形状はすっかり変わってしまったが、そんな彼への敬意としてセルジオの名前がこのスタジアムにつけられた。
(今日は大会開催前の特別な夜!その夜を彩るのはキングによるエキシビションマッチ!!さぁ、登場してもらいましょう!われらのキング、コモンズからの下剋上を成し遂げた絶対王者、その名は…ジャーック、アトラーーース!!)
名前が呼ばれると同時に、入場口からジャックがDホイールに乗って飛び出してくる。
白い一輪のタイヤというべき特異な形状のDホイール、ホイール・オブ・フォーチュン。
キングたるジャックに勝利を、王道を阻む敵に敗北を与える運命の輪。
「待たせたな!俺がジャック・アトラスだ!!」
「わぁーーーー!!」
「ジャックーーー!!」
ジャックの登場とともにコモンズ、トップスを問わず、数多くの観客が歓声を送る。
だが、その一方で…。
「へっ、何がキングだ。トップスの犬になり下がっただけじゃねえか!!」
「何を言ってんだ!?ジャックはコモンズの可能性を示してくれた英雄だろ!?」
コモンズの観客席の一部では殴り合いや口論が発生しているが、それについては意図的にテレビカメラは映像にするのを避けている。
そして、そんな彼らを見ながら、トップスのある成金は優雅にワインを飲みながら見ている。
「全く、野蛮な生き物だな。コモンズというのは」
「ジャックは英雄だよ。勝ち続けている間は…ね」
(そして、そんなキングに挑戦する無謀なるチャレンジャーにも登場してもらいましょう!!)
ジャックが出てきた入場口の隣にあるもう1つの入場口が開く。
(経歴一切不明の小さきエンタメデュエリスト!そのチャレンジャーの名は…榊遊矢ーーー!!って誰??)
「遊矢!?」
まさかの名前に驚いた柚子がテレビの前にいる鬼柳をどかして、かじりつくように見る。
それと同時に、そこからマシンレッドクラウンに乗った遊矢が飛び出した。
「なんで遊矢がフレンドシップカップに…??」
「交換条件でござるよ」
「なに…!?」
突然の声にびっくりした柚子達は声のする方向に目を向ける。
廊下へ向かうドア付近に月影がいた。
「なんだ、脅かすなよ…」
「月影、どうしてここに?」
「翔太殿についての報告に参った。…と言いたいところだが、フレンドシップカップをテレビで見ることができるということはそれも不要のようだ」
「おっと、ちょっと待ってくれ」
懐に入れていた携帯が鳴ったモハメドは電話に出る。
「よぉ、ジョンソン。目が見えないのに携帯が使えるなんてな」
(レオコーポレーションが開発した、音声入力型を使っているからな。ボタン式やスマートフォンは使いにくい。それよりも…)
「客だろ?もうコンタクトを取ってる。連絡すまないな」
電話を切り、再び懐に入れたのを確認した月影は話を始める。
「今、遊矢殿が前夜祭に参加しているように、ランサーズはフレンドシップカップに参加することとなった」
「なんでそないなことを?」
「零児殿がこの次元の最高権力者である評議会と接触したのだ。そこで、彼らはランサーズに融合次元と対抗する力があるのかを見極めるために、このフレンドシップカップを利用することになった。基本的に、このフレンドシップカップではランサーズとシンクロ次元のデュエリストがぶつかり合うことになる」
「ってことは、ランサーズは全員この大会に参加するということ?」
「いや、零児殿と拙者は参加しない。拙者には別の役目がある。そして、零児殿は自ら人質となった。このフレンドシップカップ中にランサーズがシンクロ次元を裏切ることはないということを証明するために」
「そんな、人質って…!?」
「仕方ないだろ?シンクロ次元にとって、ランサーズはまだどこの馬の骨かわからないような得体のしれない集団。保険をかけて当然だろ」
鬼柳の言葉に、反発する柚子が口ごもる。
確かに、スタンダード次元ではランサーズは自衛隊のように自分たちを守ってくれる存在として一目置かれるかもしれない。
しかし、次元戦争とは距離を置いていると思われるシンクロ次元にとっては正体不明の集団でしかない。
シンクロ次元からの助力を得るためにも、今は何が何でも信頼関係を構築していかなければならない。
そんな話をしている間にも、前夜祭は進行していく。
2人がスタートラインに立つ。
「皆に問う!今夜俺は何ターンでこいつを倒す!」
客席に向けて、ジャックは質問する。
それにこたえるように、紫色の帽子をかぶったコモンズの若者が立ち上がる。
「決まってる!こんなガキ、1ターンで終いだ!!」
その言葉に周囲の観客が全員うなずく。
意見が分かれる男とはいえ、実力だけは共通して認められているようだ。
「キングのデュエルはエンターテインメントでなければならない!」
「エンタメ…」
エンタメという言葉に遊矢は反応する。
そして、ジャックは己のエンタメを宣言する。
「ターン1、先攻をとるのは俺だ!その幕開けに続きターン2、相手にも十分に見せ場を与え、ターン3、最後はそれを上回る圧倒的な力の差を見せつける!」
「遊矢君を3ターンで倒すってこと…??」
ペンデュラム召喚を手にし、そして融合召喚やエクシーズ召喚といった複数の召喚法を手にした今の遊矢を倒すのは至難の業となっている。
そんな彼を宣言通りに撃破するというのは、仮に成功したらそれこそびっくりするくらいのエンターテインメントになるかもしれない。
実力のわからない相手に対してなら、なおさらそうだ。
(それでは、フィールド魔法を発動します!今回からルールが一部改訂され、《スピード・ワールド・A》が新たなライディングデュエルのフィールドとなります!それでは、会場の皆さんは入り口で配布した封筒を開け、その中にあるカードをご覧ください!)
メリッサの言葉に従い、観客は白い小銭入れと同じくらいの大きさの封筒を開く。
そして、メリッサの口からその中身となっているカード、《スピード・ワールド・A》について説明される。
スピード・ワールド・A(アクション)
フィールド魔法
(1):お互いに「Sp」魔法カードまたはPカード以外の魔法カードを発動できない。
(2):最初のターンを除いたお互いのスタンバイフェイズ時、お互いのプレイヤーはこのカードに自分用のスピードカウンターを2つずつ置く(最大12個まで)。
(3):1度に受けたダメージ800ポイントの倍数ごとに自分のスピードカウンターを1つ減らす。
(4):お互いのプレイヤーは1ターンに1度、アクションカードを手札に加えることができる。そのとき、アクション魔法カードを手札に加えたプレイヤーはこのカードに自分用のスピードカウンターを1つ置く。アクション罠カードを手札に加えたプレイヤーはこのカードに乗っている自分用のスピードカウンターを1つ取り除く。そのとき自分用のスピードカウンターがない場合、相手プレイヤーのこのカードの上に相手用のスピードカウンターを1つ置く。
(5):自分のスピードカウンターを任意の個数取り除くことで、以下の効果を適用する。
●4個:自分の手札をすべて相手に見せる。手札の「Sp」魔法カードの数×400ポイントのダメージを相手ライフに与える。
●7個:自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●10個:手札の「Sp」魔法カードを相手に見せ、フィールド上に存在するカード1枚を破壊する。
(6):このカードの効果は無効にされず、フィールドから離れない。
「アクションカード??それを手にすることでもスピードカウンターを得られるのか」
「どうやって手に入れるのかは知らないけど、これでまた一歩ライディングデュエルが進化したってことになるんだな」
観客席がザワザワしている間、ジャックはわずかに隣にいる遊矢に目を向ける。
(奴が榊遊矢…)
自分よりも5つか6つくらい年齢が下で、16歳以上でなければ乗ることのできないDホイールに乗っている彼の目はオレンジ色のゴーグルで隠れているため、見ることが難しい。
一方、遊矢はジャックの宣言に苛立ちを覚えていた。
(俺がたったの3ターンで負ける…??一度もデュエルをやったことがないのに、そんな決めつけを!!思い通りにさせるか!)
ただし、最初の先攻をとるのはジャックだというのは可能性が高い。
マシンレッドクラウンはDホイールに不慣れである遊矢のためにリミッターがかけられている。
また、自動操縦の制度が従来のものよりも高いことから、安心して遊矢も載ることができるが、スピードでは相手に大きく差をつけられることになる。
今回の場合、相手はシンクロ次元最強のデュエリストとされるジャック。
Dホイールの性能も彼自身のテクニックもかなりのもの。
先攻を取られることは目に見えている。
(それでは…フィールド魔法《スピード・ワールド・A》発動!!)
メリッサの宣言とともにスタジアムに緑色の波紋が発生する。
その波紋がアクションカードを生み出し、それがコース上にばらまかれていく。
そして、2人のDホイールのディスプレイにカウントダウンの画面が表示される。
「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」
カウントが0になると同時に、2人のDホイールが同時に発進した。
しかし、スタートダッシュも加速力もどちらもホイール・オブ・フォーチュンの方が上で、すぐに大きく引き離されてしまう。
「うわぁ、なんだよこのチンタラした走りはよー!」
「勝つ気あんのかよー!?」
「くぅ…!」
マシンレッドクラウンには自動操縦機能を縮小し、リミッターを解除することで、マシンブルーファルコンに近いピーキーな性能を発揮することができるよう、設計はされている。
しかし、操縦技術が未熟な遊矢ではそうするとDホイールに振り回されて転倒、病院行となるのがオチだ。
あっという間にジャックが第1コーナーを取り、彼の先攻でデュエルが開始となる。
ジャック
手札5
SPC0
ライフ4000
遊矢
手札5
SPC0
ライフ4000
「俺の先攻、俺は手札から《レッド・スプリンター》を召喚!」
レッド・スプリンター レベル4 攻撃1700
このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、俺のフィールド上にほかのモンスターが存在しないとき、手札・墓地からレベル3以下の悪魔族チューナー1体を特殊召喚できる。俺は手札から《レッド・スネーク》を特殊召喚!」
左手の5本指がすべて赤い目の蛇となっていて、口が裂けている紫色のターバンの男が現れる。
現れた瞬間、全身の浅黒い肌が赤く染まっていき、着ている白いトーブも発火の影響か黒く染まっていく。
レッド・スネーク レベル3 攻撃1300(チューナー)
「(宣言通り、貴様に2ターン目は全力を出させてやろう)俺はレベル4の《レッド・スプリンター》にレベル3の《レッド・スネーク》をチューニング!」
《レッド・スネーク》の体が3匹の蛇を残して燃え尽きていく。
そして、3匹の蛇は《レッド・スプリンター》の体にかみついた。
かみつかれた獣は痛みを感じたのか、走るスピードを緩めるが、その体に宿る炎が規模を増し、肉体が隠れてしまうくらい燃え盛る。
「新たなる王者の脈動、混沌の内より出でよ!シンクロ召喚!誇り高き、《デーモン・カオス・キング》!」
《レッド・スプリンター》を包んでいた炎が真っ二つに切り裂かれ、その中から《デーモン・カオス・キング》が飛び出す。
デーモン・カオス・キング レベル7 攻撃2600
(出ましたーー!!キングが従える混沌の王、《デーモン・カオス・キング》!!これが、チャレンジャーへの最初の試練となるのかーーー!!)
「そして、カードを3枚伏せ、ターンエンド!」
ジャック
手札5→0
SPC0
ライフ4000
場 デーモン・カオス・キング レベル7 攻撃2600
伏せカード3
遊矢
手札5
SPC0
ライフ4000
場 なし
「俺のターン、ドロー!」
遊矢
手札5→6
SPC0→2
ジャック
SPC0→2
「うわぁ!!」
急にスピードが上がり、危うくハンドルから手を放しそうになってしまう。
これまでのライディングデュエルでのスタンバイフェイズ時でのスピードカウンターの上昇は1で、ゆっくりとスピードに体を慣らせることができた。
しかし、《スピード・ワールド・A》では一気に2つの上昇があるだけでなく、アクションカードの効果や入手による変動が発生するため、スピードに慣れる時間が《スピード・ワールド3》以上に失われることになる。
「俺のエンタメを見せてやる!!俺はスケール1の《EMゴムゴムートン》とスケール8の《EMドクロバット・ジョーカー》でペンデュラムスケールをセッティング!」
ゴムボールでできた羊型モンスター2匹と《EMドクロバット・ジョーカー》が遊矢の両サイドの光の柱を生み出す。
ちなみに、羊型モンスターの大きさが異なっており、大きい緑色の羊の上で小さい紫色の羊がのんびりと眠っている。
「これで俺はレベル2から7までのモンスターを同時に召喚可能!」
すぐに遊矢の目がコース上にあるアクションカードに向けられる。
これを手にして、スピードカウンターを得ることでジャックにプレッシャーをかける。
遊矢はDホイールを横に倒して走行し、カードを手に取る。
手にしたのがアクション魔法カードであることを確認したDホイールが自動的にスピードカウンターをあげる。
遊矢
SPC2→3
「よし…俺は手札からアクション魔法《オイル交換》を発動!お互いにデッキからカードを1枚ドローし、スピードカウンターを1つ増やす!」
遊矢
手札6→4→5
SPC3→4
ジャック
手札0→1
SPC2→3
オイル交換
アクション魔法カード
(1):お互いにデッキからカードを1枚ドローする。ライディングデュエル中にこのカードを発動した場合、更にお互いのフィールド魔法ゾーンに存在する「スピード・ワールド」魔法カードの上に自分用スピードカウンターを1つ置く。
ドローしたカードを見て、遊矢はさらに畳みかける。
「そして俺は手札から《EMセカンドンキー》を召喚!」
黄色い星のペイントがある青い鞍をつけた、デフォルメされているドンキーが現れる。
EMセカンドンキー レベル4 攻撃1000
「このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、俺のペンデュラムゾーンにカードが2枚存在する場合、デッキから《セカンドンキー》以外のEM1体を手札に加えることができる!俺はデッキから《EMハンサムライガー》を手札に加える。そして、手札から《Sp-エンジェル・バトン》を発動!俺のスピードカウンターを4つ取り除くことで、デッキからカードを2枚ドローし、そのあと手札を1枚墓地に送る」
遊矢
SPC4→0
手札から墓地へ送られたカード
・EMディスカバー・ヒッポ
「(これで準備は整った…!)揺れろ魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!現れろ俺のモンスターたち!《EMハンサムライガー》!」
遊矢の制服に似た白いマントをつけた赤い甲冑を装備している黒い長髪の侍が最初に現れる。
「「キャーーーー!!」」
整った顔立ちのせいなのか、登場と同時に観客席の女性たちの黄色い声が聞こえた。
(キャーーー!素敵なモンスター!!あ…失礼しましたー…)
《EMハンサムライガー》自身はデュエルに集中したいのか、歓声に対しては少しだけ手を振るだけで対応を済ませ、《EMセカンドンキー》に騎乗した。
EMハンサムライガー レベル4 攻撃1800
「…ま、まぁいいや。お次は《EMトランプ・ガール》!!」
まさかのことに少し手が止まった遊矢が気を取り直して次のモンスターを出す。
桃色の髪でトランプのマークを模した飾りがいくつもついている紫のパジャマ帽子とフランス貴族風の服を着た、絵本に出るような魔法使いの姿の少女が現れる。
EMトランプ・ガール レベル2 攻撃200
「そして、真打ち登場!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃2500
(どうした、小僧。何を動揺している?)
オッドアイズが遊矢に目を向け、テレパシーで言葉をかける。
「うるさい!俺は《トランプ・ガール》の効果を発動!このカードを含めた俺のフィールド上のモンスターを素材に融合することができる!俺は《トランプ・ガール》と《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を融合!」
「ほぉ…」
《EMトランプ・ガール》が杖を振ると、彼女とオッドアイズの周囲を4種類のトランプのマークが包んでいく。
「あやかしの技を操りし者よ、二色の眼宿りし竜と一つとなりて、新たな力を生み出さん!融合召喚!雷鳴纏いし疾風の竜、《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》!!」
オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン レベル7 攻撃2500
(なんと融合召喚!?ペンデュラム召喚に引き続き、未知の召喚を見せてくれています!!これは楽しみですねー!!)
「《ボルテックス・ドラゴン》の効果発動!このカードの特殊召喚に成功したとき、相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を手札に戻す!俺は《デーモン・カオス・キング》をデッキに戻す!ライトニング・トルネード!!」
《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》の4枚の翼が生み出す稲妻の嵐が《デーモン・カオス・キング》を包み込もうとする。
「ならば俺は罠カード《悪魔王の大鎌》を発動!俺のフィールド上に存在する悪魔族シンクロモンスターが魔法・罠・モンスター効果の対象となったとき、そのモンスターをリリースし、エクストラデッキからリリースしたモンスターと同じ属性の悪魔族シンクロモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する」
「させない!俺は《ボルテックス・ドラゴン》のもう1つの効果を発動!1ターンに1度、このカード以外のカード効果が発動したとき、俺のエクストラデッキに表側表示で存在するペンデュラムモンスター1体をデッキに戻すことで、その発動を無効にし、破壊することができる!」
《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》の目が光り、その眼から放たれる赤と緑の光線がジャックの発動した《悪魔王の大鎌》を破壊しようとする。
「ならば俺はもう1枚の《悪魔王の大鎌》を発動する!」
「何!?」
もう1枚の《悪魔王の大鎌》から力を受けた《デーモン・カオス・キング》が自爆し、稲妻の嵐を吹き飛ばす。
そして、爆発で起こった煙の中から白い模様がいたるところに刻まれている漆黒の鎧とマントを身に着けた、大鎌を持つ白い鉄仮面の死神が現れる。
(これぞ、王の絆というべきものでしょうか!?命を懸けてキングを守った《デーモン・カオス・キング》の意思を受け継ぎ、敵に死の制裁を加える死神の王、《天刑王ブラック・ハイランダー》が現れたーーー!!」
天刑王ブラック・ハイランダー レベル7 攻撃2700
エクストラデッキからデッキに戻ったカード
・EMトランプ・ガール
悪魔王の大鎌
通常罠カード
「悪魔王の大鎌」は1ターンに1度しか発動できない。
(1):自分フィールド上に存在する悪魔族Sモンスターが相手の魔法・罠・モンスター効果の対象となったときに発動できる。そのモンスターをリリースし、エクストラデッキからそのモンスターと同じ属性の悪魔族Sモンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚する。
「《ブラック・ハイランダー》の前で、俺たちにシンクロ召喚は許されない!」
《天刑王ブラック・ハイランダー》がじっとオッドアイズを見つめる。
(我が力の片割れを封じる力を持つか…。いや、そんな効果がなくとも…)
オッドアイズは再び遊矢に目を向ける。
(ふん…殺す価値もないな。今の小僧は)
「まだだ!俺は《ハンサムライガー》と《セカンドンキー》でオーバーレイ!!」
思い通りにいかないことへのいらだちか、ハンドルを強く握る遊矢が次の行動に出る。
《EMセカンドンキー》に乗る《EMハンサムライガー》が目の前に現れた銀河のような黒い空間の中に飛び込んでいく。
「漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!ランク4!《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!」
空間が消えると、そこには《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》が現れる。
オッドアイズとダーク・リベリオンの2体が遊矢を表向きは守るかのように《天刑王ブラック・ハイランダー》に立ちはだかる。
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4 攻撃2500
(なんということでしょう!?ペンデュラム召喚、融合召喚の次はエクシーズ召喚!?これまた未知の召喚法を見せてくれる榊遊矢選手、目が離せません!!)
「《ダーク・リベリオン》の効果発動!このカードのオーバーレイユニットを2つ取り除くことで、相手モンスター1体の攻撃力を半分奪う!トリーズン・ディスチャージ!!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の翼部が展開し、紫色の稲妻が《天刑王ブラック・ハイランダー》を襲う。
稲妻によって体を縛られた王は転倒し、《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》に引きずり回される。
天刑王ブラック・ハイランダー レベル7 攻撃2800→1400
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4 攻撃2500→3900
取り除かれたオーバーレイユニット
・EMハンサムライガー
・EMセカンドンキー
「攻撃力3900!?」
「今の《ブラック・ハイランダー》の攻撃力は1400!あの2体のモンスターを攻撃を受けたら、キングは!!」
ジャックがこのままでは1ターンキルされるかもしれないという状況に陥ったことで、観客や彼を応援しているチアガール達が驚きつつ、じっとジャックを見つめる。
だが、ジャックは焦りの色を見せず、引きずられている《天刑王ブラック・ハイランダー》を見る。
「すごい…」
一方、テレビでそれを見ているシェイドの面々も遊矢の怒涛の召喚ラッシュに驚いていた。
「いけー、遊矢ーー!!このままジャック・アトラスをやっつけてまえー!」
「勝てる、勝てるぞーー!」
観客席とは異なり、部屋の中は遊矢を応援する声を歓声に包まれていた。
まるで、もう遊矢の勝利が決まったかのように。
「すごいねー、さすがは柚子ちゃんの彼氏ー!」
「か、彼氏!?」
テレビを一番前で見ていた柚子がビクッとし、言った張本人である伊織を見る。
「出発のとき、遊矢君と2人っきりになってたよねー?その時にもしかしたら…」
「な、なにを言って…」
「大丈夫、離れていても心はつながっている。君のことを愛しているから…とか遊矢君が言って、そして柚子ちゃんは遊矢君と…」
スパァァァァン!!!
顔を真っ赤にした柚子のハリセンが伊織の頭部に炸裂する。
モロにくらったせいか、伊織は目を回しながらその場に横になる。
「あーあー…」
「これはどう見ても伊織が悪いな」
頭に大きなたんこぶができている伊織をかばう仲間は一人もいなかった。
「ハックション!!」
それと同時に、遊矢は大きなくしゃみをしてしまう。
(んー?誰か俺のこと噂してるのか??)
右手人差し指で鼻をこすりつつ、そんなことを考える。
「何をやっている、榊遊矢。さっさとデュエルを続けろ」
スピードを落とし、遊矢の隣に移動したジャックが彼に顔を向けることなく言う。
そして、すぐにスピードを上げて遊矢の前を走り始めた。
「バトルだ!俺は《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》で《ブラック・ハイランダー》を攻撃!!」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》がその場から急激に高度を上げていく。
そして、稲妻で拘束されている《天刑王ブラック・ハイランダー》はそのまま引っ張られ、空中へ行く。
高度100メートルのところで、黒い稲妻の竜が死神の王の頭部を両足で挟み、回転しながら落下していく。
地面に王の頭部が直撃したとき、そこに大きなクレーターが生まれた。
それができた際の衝撃がジャックを襲う。
「むうう…!!」
ジャック
ライフ4000→1500
SPC3→0
「ジャックが一気に2500もダメージを!!」
「そのせいで、ジャックのスピードカウンターがなくなっちまった!まずい!!」
「負けないでーーー、ジャックーーー!!」
観客が動揺するが、今の遊矢にはそんなことはわからない。
今はただ、ジャックとデュエルをし、勝つことしか考えていない。
「これで終わりだ!《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》でダイレクトアタック!轟け、雷光のスパイラルバースト!!」
《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》の口から雷鳴の宿った竜巻が放たれ、ジャックを襲う。
竜巻が直撃した瞬間、ジャックとホイール・オブ・フォーチュンが爆発と煙が包み込んだ。
「嘘だろ…??」
「ジャックが、負けた…??」
まさかの出来事に全員が沈黙する。
そして、その数秒間の沈黙を破るかのように、煙の中からホイール・オブ・フォーチュンが現れ、エンジン音と走行音を響かせる。
「馬鹿な!?確かに攻撃は…!」
「よく見てみろ、榊遊矢。俺に攻撃は届いていない」
「何!?」
遊矢はジャックの頭上に目を向ける。
そこには《デーモン・カオス・キング》が《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》の雷鳴を両腕の黒い曲刀で受け止めていた。
ただ、そのエネルギーがあまりに高かったせいか、その剣は雷鳴が消えると同時に砕けてしまった。
「俺は罠カード《リジェクト・リボーン》を発動した。このカードは相手の直接攻撃宣言時に発動でき、バトルフェイズを終了させる。そして、墓地からシンクロモンスターとチューナーモンスターを1体ずつ、効果を無効にして特殊召喚できる」
「じゃあ…ジャックが特殊召喚したチューナーモンスターは…!?」
遊矢はディスプレイでジャックのフィールドを確認する。
それと同時に、《デーモン・カオス・キング》の背後に隠れていた《レッド・スネーク》がジャックのもとへ降りていった。
レッド・スネーク レベル3 攻撃1300(チューナー)
デーモン・カオス・キング レベル7 攻撃2600
(おおーーー!!何ということでしょー!?あの絶体絶命の状況を見事に切り抜け、更にシンクロモンスターとチューナーモンスターを復活させたー!さすがはジャック!私たちのヒーロー!!)
「すげぇぜジャック!!」
「このまま逆転してくれーー!!」
先ほどとは真逆に、メリッサも含めて観客席が歓声に包まれる。
それに対して遊矢はこのターンに決められなかったことを悔やみ、唇を噛む。
(さっき、《悪魔王の大鎌》に対して、《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》の効果を発動しなければ、ここで勝てていたのに…)
1ターンに1度しか発動できない《オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン》の無効効果をかわされ、今のエクストラデッキの状態を見ると、その効果を発動できるのはあと1回程度。
この状態であれば、次のターンにジャックにとどめを刺されることはないかもしれない。
といっても、今の遊矢に追撃する余力がないのは事実だ。
「ふん…この程度で動揺するとはな」
悔しさで周囲が見えていない遊矢に失望にも似た感情を見せたジャックはコース上の、地表よりも高い位置にあるアクションカードに目を向ける。
そして、ホイール・オブ・フォーチュンがジャンプさせ、そのカードを手にした。
(ここでジャック・アトラスもアクションカードをゲットーー!!)
「アクションカード…はっ!?」
メリッサの言葉を聞いて我に返った遊矢は《スピード・ワールド・A》のカードに目を向ける。
(確か、アクションカードは1ターンに1度だけ手札に加えられて、そしてそのカードが魔法カードなら、スピードカウンターが…!!)
ジャックと遊矢のフィールドの間に表示されているスピードカウンターを見る。
相手のスピードカウンターは1に変化している。
「俺はこれで…ターンエンド」
ジャック
手札1→2(うち1枚アクション魔法カード)
SPC0→1
ライフ1500
場 デーモン・カオス・キング レベル7 攻撃2600
レッド・スネーク レベル3 攻撃1300(チューナー)
遊矢
手札5→2
SPC0
ライフ4000
場 オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン レベル7 攻撃2500
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4 攻撃3900
EMゴムゴムートン(青) ペンデュラムスケール1
EMドクロバット・ジョーカー(赤) ペンデュラムスケール8
遊矢のターンが終わると同時に、ジャックが再び遊矢の横を走る。
「貴様、エンタメデュエリストとか言っていたな…?」
「…ああ、そうだ」
メリッサの選手紹介で、遊矢はエンタメデュエリストだと紹介された。
だが、今のジャックの目に映る遊矢にそのような印象はない。
あるのは、自分の周囲にいくらでも転がる敗北者の候補。
自分を満たす力を持たない、その他大勢のデュエリスト。
「貴様のエンタメなど独りよがりに過ぎん!」
「何!?」
独りよがり、という言葉に遊矢は反応する。
自分のデュエルは父親から受け継ぎ、近づくために努力して手にしたエンタメデュエル。
それを否定される、ましてはみんなを笑顔にするためにやっているデュエルを独りよがりと評価されるとは思いもよらなかった。
「俺が本当のエンタメを見せてやる!俺のターン!」
ジャック
手札2→3
SPC1→3
遊矢
SPC0→2
「俺は手札からアクション魔法《ティンクル・コメット》を発動!モンスター1体の攻撃力をターン終了時まで1000ダウンさせ、更に相手に500ダメージを与える!」
「させるか!今度こそ無効にしてやる!」
遊矢の声を聴いたオッドアイズは再び目から光線を放つ。
ジャックは《ティンクル・コメット》のカードを上へ投げると、光線はカードに命中、消滅させる。
エクストラデッキからデッキに戻ったカード
・オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン
「ならば俺は手札から《Sp-ハーフ・シーズ》を発動!俺のスピードカウンターが3つ以上あるとき、相手モンスター1体の攻撃力を半減し、その数値分、俺のライフを回復する」
《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の体から青いオーラが放出され、ジャックの体に吸収されていく。
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4 攻撃3900→1950
ジャック
ライフ1500→3550
(問題は…ジャックのあと1枚のカード…)
遊矢の目はジャックの最後の1枚の手札に向けられる。
「さらに俺は《デーモン・カオス・キング》をリリースし、《バイス・ドラゴン》をアドバンス召喚!」
バイス・ドラゴン レベル5 攻撃2000
「レベル5の《バイス・ドラゴン》にレベル3の《レッド・スネーク》をチューニング!」
再び《レッド・スネーク》が3匹の蛇を分離させた後で体を炎の中に消す。
そして、蛇は《バイス・ドラゴン》にかみつき、その竜の体を炎に包んでいく。
「王者の咆哮、今天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力をその身に刻むがいい!シンクロ召喚!荒ぶる魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト レベル8 攻撃3000
「グオオオオオオン!!!」
召喚されると同時に激しく咆哮する傷だらけの竜。
両腕にはマグマに近い熱を放つ紅蓮が宿っている。
「このカードは俺のターンのメインフェイズ1に1度、こいつ以外の、フィールド上のこのカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ、特殊召喚された効果モンスターすべてを破壊し、破壊したモンスター1体につき、500のダメージを与える!アブソリュート・パワー・フレイム!」
「何!?」
トリーズン・ディスチャージでせっかく増やした攻撃力を《Sp-ハーフ・シーズ》によって奪われた《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》には抵抗する力はない。
《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の両拳がそれぞれ遊矢のドラゴンに1度ずつ命中する。
(小僧は未熟…だが、小僧にせめてもの褒美をやろう)
破壊されそうになったオッドアイズが最後の抵抗のためか、拳を腹部で受け止めた状態で《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の頭部に向けて口から稲妻を放つ。
ギリギリのところで首を右にそらすことで回避するも、その赤い竜の左目に稲妻が命中する。
まさかのダメージで身をのけぞり、左手で左目を抱える相手を見つつ、オッドアイズは《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》とともに消滅した。
そして、消滅のときに発生する爆風が遊矢を襲う。
「うわあああ!!」
遊矢
ライフ4000→3000
SPC2→1
「グウウウ…!!」
左手をどかし、怒りに満ちた目で遊矢に目を向ける《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》。
左目は傷ついており、瞼あたりからは煙が出ている。
(まさか…破れてなお《レッド・デーモンズ》に手傷を負わせる者がまだいたとはな…)
キングになる前と比べると、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》が傷を負うことはあまりにも少なかった。
このモンスターはいつからか、受けた傷は癒えずにそのまま痕になって残り続けている。
その傷の数こそがこれまで潜り抜けてきた修羅場の数。
自分のキングとしての強さの証。
その傷を負わせたモンスターの主は決まって強者で、自分には及ばなかったがすさまじい力を持っているデュエリストばかりだった。
(…気に入れんな…)
だが、今回は偽物のエンタメデュエルをやる、少しのことで動揺するような力のないデュエリスト。
そんなデュエリストの操るモンスターに自分の魂であるモンスターの傷が増やされることが気に入らなかった。
「榊遊矢、最後に《レッド・スネーク》の効果を見ておけ」
「何…!?」
《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》は怒りを抑え、遊矢に目を向ける。
これから敗北するときに相手の言うことを聞くことになるのは癪だが、《レッド・スネーク》の効果については子のデュエル中わからなかった。
遊矢はディスプレイを操作して、そのカードを表示する。
レッド・スネーク
レベル3 攻撃1300 守備200 チューナー 炎属性 悪魔族
(1):このカードをS素材とするとき、ほかのS素材が自分フィールド上に存在する「レッド」モンスターのみの場合、このカードのレベルを4として扱うことができる。
(2):このカードをS素材としてS召喚された「レッド・デーモン」モンスターは以下の効果を得る。
●自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードが戦闘で相手モンスターに破壊され墓地へ送られたときに発動できる。墓地に存在するこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。
「まさか…!!」
「《レッド・デーモンズ》でプレイヤーにダイレクトアタック!灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング」
《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》の口からオレンジ色の炎が放たれ、遊矢を包み込む。
「うわああああ!!」
遊矢
ライフ3000→0
ダメージの影響か、遊矢はマシンレッドクラウンから投げ出され、コース上に転落する。
うつぶせで倒れる遊矢のそばにジャックと《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》が来て、目を向ける。
「ふん…つまらんデュエリストだった」
吐き捨てるようにそう言い、立ち去ろうとする。
「待…」
「うん?」
遊矢の声がかすかに聞こえたジャックは遊矢に振り向く。
そのとき、遊矢はフラフラとしながらも立ち上がっていて、つけていたヘルメットはコース上に投げ捨てられていた。
衝撃のためか、ゴーグルにはひびが入っており、左の眉毛の左側あたりからは切れているためか、血が流れている。
「俺のデュエルが…父さんのデュエルが独りよがりだと…!?馬鹿にするな、ジャック!!」
「…チッ」
遊矢の目を見て、小さく舌打ちをしたジャックはその場を後にする。
「待てよ、ジャック!待…て…」
先ほどの一言が限界だったのか、遊矢は再び倒れてしまった。
彼は緑色の服を着たスタッフのタンカに乗せられ、コース上を後にすることとなった。
テレビでは、遊矢が搬送された後、何事もなかったかのように進行していく。
「ちょっと、遊矢は、遊矢は無事なの!?答えなさいよ!!」
明るく楽しく話すメリッサを抗議するように、柚子はテレビを両手で抱えて揺らす。
「やめておけ、柊。そんなことをしても無駄だ」
「でも…でも遊矢は…!!」
「ヴァプラ隊が作ったライディングスーツは特別性らしいからな。多少けがはするにしても、重いものにはならない。それに…今そうしても何も事態が好転しないだろう?」
「…」
それは柚子もわかっていることだ。
今の自分がいるのは会場ではなく、シェイドの宿舎のテレビの前。
そんな柚子に遊矢に対してできることはない。
「大丈夫、柚子ちゃん。遊矢君は無事だよ」
「伊織…」
いつの間にたんこぶが引っ込んだ伊織が柚子を優しく諭す。
そして、ゆっくりと彼女の両手が柚子の胸へ向かい…。
「伊織、何しとんねん!!」
「あべっ!?」
里香に殴られた。
「ううー、柚子ちゃんって14歳にしてはちょーっと胸大きいでしょ?何があるかなーって確かめたくならない??」
「だからってももうするなや!セクハラや!!」
「ぶー…女の子同士だしいいじゃんかー」
「いいわけあるかぁ!ここに男が何人いると思うとんねん!?」
「…」
なぜか里香と伊織による喧嘩が始まってしまう。
口げんかで殴ったりはしていないこともあり、全員はなられ見守ることにした。
「…どうしてこうなった?」
モハメドの小さなつぶやきは2人の声にかき消された。
「おいおい…遊矢の奴、猿みたいに踊りやがって」
一方、翔太はバナナを食べながら遊矢のデュエルの感想を口にする。
今彼がいるのはイリアステル区にある、スタジアム付近のホテルの中で、けがが治ったことから評議会によってここで大会の間、監禁生活をすることになった。
ほかの参加者もここに監禁されているとのことで、電話や手紙、直接面会することは禁じられている。
食べ物や飲み物、着替えなどはルームサービスを頼めば手配してもらえ、風呂とシャワー、トイレもある。
ちなみに、風呂とトイレは別々のセパレートタイプだ。
「ん…?」
観客席を映している映像を見て、翔太は手に持っているバナナを見る。
「ああ…そういえば、シンクロ次元出身だったな。バナナマン」