「そこやそこ!!ああ、アホ!そんなとこにボール蹴ったらあかん!!」
「やったーー!このラッキーを繋げてってええーーー!?ハンドー??」
「よっしゃぁ!これこそほんまのラッキーやぁ!!」
「…あいつら、何やってんだ?」
早朝の隣の部屋がうるさいと思い、廊下側の窓のわずかな隙間から中を見る翔太。
部屋の中では伊織と里香が先日手に入れた大型テレビをかじりつくように見て、やれハンドだやれPKだ、ゴールだパスだのと口にしている。
その部屋で一緒に寝ているはずの柚子はどうしているのかはここからでは分からないが…。
ちなみに、宿舎に引っ越した後で部屋割りが決まり、まずは大きい101号室には女性陣3人が入ることが決まった。
102のは翔太と漁介、103には鬼柳とジョンソン、104はモハメドだ。
また、2階以降は他のギャングメンバーが寝泊まりしており、屋上では交代で見張りが待機する。
今の時刻はまだ6時半で翔太にとってはまだ起きるには早い時刻。
しかし、2人の少女の声がうるさくて目を覚ましてしまった。
そんな中でもグースカ寝ることができる漁介がうらやましくて仕方がない。
(こんな時間にサッカー中継を見てるのか…。うるせえな)
中にいる柚子が耳栓をつけて寝ていることを願いながら、屋上へあがる。
「お、リーダー。お疲れ様っす!」
「後の見張りは俺がやる。お前は仮眠でもとってろ」
「了解っす!」
(大騒ぎの中でも寝れるんならな…)
きっと部屋に戻って寝ようとすると2人のうるささで泣きたくなることだろう。
そうなるといい気味だと悪い感情を抱きながら見張りを始める。
(ヒヒヒ!やーっと2人っきりになれたよなぁ?)
「…シンクロ次元にいる時くらい黙ってろ」
脳裏に聞こえたあの忌々しい声に翔太は毒づく。
だが、その声はその程度の言葉では痛くもかゆくもないようだ。
(で、どうだよ?俺がプレゼントした力の感想は)
「左手の痣のことか?シンクロ次元では使っていないが、まあまあだな」
(そいつは良かったぜー。大盤振る舞いした甲斐ありってなー)
「…それだけが用じゃねえだろ?」
以前投資したパン屋でできたメロンパンを口にしつつ、さっさとその声を聞かないようにしたいと思う翔太。
咀嚼する口はいつもよりも少し力が入っている。
(つれねーなー。そういやぁ、いつになったら残り7枚の記憶の鍵を解放してくれるんだよー?)
「そのうちな。お前はじっと待ってりゃあいい」
(はーいはい。あ…そーだ!今日はビックなお知らせがあったんだったー!まーずーはー、伏せろーー!)
「はぁ?」
何を言っているのかと思いつつ、伏せると同時に頭があったところにクロスボウの矢が通り、背後にある壁に命中する。
もし声が伏せろと言わなかったら、そして自分が伏せる行動をとらなければ即死だったかもしれない。
「なんだ!?」
懐から双眼鏡を取り出し、クロスボウが放たれたと思われる場所を調べる。
そこには黒いスーツを着た男が逃げようとしていた。
「見張りを撃とうとしただと…ということは!!」
その男がいた建物のそばにある道路を見ると、顔の両サイドに鋼の装甲がついた、金色の目で不健康そうな灰色の肌の男たちがゆっくりと前進している。
よく見ると、全員が黒いライディングスーツを着ていて、左腕がデュエルディスクと一体となっている。
更には同じ顔であることから…。
「ロボット軍団か!?この次元の奴らは頭がおかしいのか!?」
信号弾とサイレンを鳴らし、シェイドのメンバーたちに緊急事態発生を知らせる。
「な、何!?」
伊織と里香の声に慣れ、ようやく眠れるかと思った柚子がびっくりしながら飛び起きる。
伊織と里香は普段着に急いで着替えている最中だ。
「このサイレン…敵襲やで!?」
「敵襲って、もしかして…」
「多分、チームオーファンみたいなデュエルギャングだよ!」
「全員早く起きろ!!防衛線を張れー!!」
廊下では鬼柳とモハメドがまだ眠っているかもしれないメンバーたちを叩き起こしに動いている。
「柚子ちゃんは急いでチームブレイドに連絡を入れて!」
デュエルディスクとデッキを手にした伊織と里香は先に部屋から出て行った。
1人残されることになった柚子はなぜそのようなことを命じられたのか理解できずにいた。
(なんで、私だけ…?)
「くっそぅ!!何なんだよこのロボット共は!?」
第一線でデュエルをしているギャングがあまりのロボットの多さに顔を青くしている。
3ターン目になると急にデュエルディスクから音声が流れる。
(バトルロイヤルモードに変更!このターンより、バトルロイヤルルールが適用されます!)
「な、何だってーー!?」
それと同時にもう1体のロボットがデュエルに介入する。
しかし、なぜか乱入ペナルティによるライフ減少が発生していない。
「どうなってるんだ!?乱入ペナルティでライフが半減になるんじゃ…うわああああ!!!」
敗北したギャングはすぐにカード化し、ロボットに回収されてしまった。
「今の状況は?」
外に出て、アジトの西に位置する第三防衛ラインであるボウリング場廃墟に到着した翔太が聞く。
「ああ、第一線は20人いるが、もう4人やられてる!負傷して後退した奴が言うには、そいつらの近くまで行くとバトルロイヤルモードに切り替わって、更に負けるとカード化するとか…」
「カード化…」
その言葉で舞網チャンピオンシップのことを思い出す。
カード化するだけであれば、翔太の痣の力で助け出すことは可能だ。
しかし、それはそのカードを回収することができればの話だ。
「ちっ…ならその4人を助けるためにも前に出るとするか…」
翔太は第一線へ向かうために歩き出そうとする。
指揮はモハメドが行ってくれる。
なお、チームブレイドに援軍を求めた結果、そちらにもロボットが攻撃しているとのことで、援軍は少数しか送れないようだ。
「秋山、これを持って行け」
鬼柳と共に第三防衛ラインで戦うことになるジョンソンが翔太に水色の四角いブロック状の端末を渡す。
「こいつは何だ?」
「ヒイロ・リオニスが昨日提供したものだ。プロトタイプだが、これを使うことで1時間だけ召喚エネルギーを欺瞞させることができる」
「つまりはその間だけ全力でやれるってわけだな」
「そうだ。鬼柳は問題ないとして、永瀬たちにも渡している。使えるのは一度だけだ、気をつけろ」
「ああ…。俺の食べ残しの処分は頼むぜ」
端末をポケットにしまうと、翔太は先へ進んでいく。
それと入れ替わるように、2体のロボットが第三防衛ラインにまで到達してきた。
「さあ、始めるか…」
「ロボット程度で俺を満足させることはできねえよ…覚悟しろ」
ジョンソンと鬼柳のフィールドには《カラクリ将軍無零》と《煉獄龍オーガ・ドラグーン》が現れた。
第二防衛ラインである旧レクス区ハイウェイ出入り口には漁介と里香がいる。
「のわぁ!しまった!!」
漁介の《ドラグニティアームズ―レヴァテイン》が破壊され、彼のフィールドががら空きになる。
「これでとどめだ。《A・O・Jカタストル》でダイレクトアタック」
《A・O・Jカタストル》の漁介に向けて光線を発射しようとする。
「罠発動!《攻撃の無力化》!!これでバトルフェイズ終了や!!」
しかし、里香が割り込んで《攻撃の無力化》を発動したことで攻撃が漁介に及ぶことがなかった。
(なんやねん、これ!リスク無しで乱入有って…。ちゅうことは数の多いあいつらが有利ってことやないか!!)
「助かったのう、里香」
「ったく、漁師は気を抜いたら大けがするんやなかったんか!?ウチのターン、ドロー!ウチは《デブリ・ドラゴン》を召喚!」
デブリ・ドラゴン レベル4 攻撃1000(チューナー)
「こいつの召喚に成功した時、墓地に存在する攻撃力500以下のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚できるんや!ウチは墓地の《氷結界の破術師》を特殊召喚!」
氷結界の破術師 レベル3 攻撃400
「レベル3の《氷結界の破術師》にレベル4の《デブリ・ドラゴン》をチューニング!!シンクロ召喚!レベル7!《氷結界の龍グングニール》!!」
氷結界の龍グングニール レベル7 攻撃2500
「さあ、食い倒れするまで食ったれぇ!!」
手札を2枚捨てると同時に《氷結界の龍グングニール》の目が光る。
すると、ロボットたちのフィールドにいる2体の《A・O・Jカタストル》の真下から氷の柱が現れ、装甲をいともたやすく貫いていく。
そして、次第に2体を氷漬けにしていき、その氷を《氷結界の龍グングニール》がバリバリと音を立てて食べていった。
「里香…機械は食べても体に毒じゃぞ?」
「んなもん知るか!《氷結界の龍グングニール》でダイレクトアタック!!」
食べ終えた《氷結界の龍グングニール》の口から吹雪が放たれ、ロボットを凍らせていく。
「うわああああ!!」
ロボット
ライフ2100→0
ライフが0になったロボットは機能を停止させ、その間に里香がそれのデュエルディスクの中に収納されているカード化された仲間を回収する。
「ふぅ…これで1人助けることができ…」
「私のターン!私は永続罠《DNA移植手術》を発動。これで我々のフィールドに存在するモンスターの属性を光属性に統一させる」
「あ…!!」
気を抜くなと言ったのが自分であるにもかかわらず、1体倒したことで気を抜いてしまった。
その間にロボットは次の《機械複製術》を組み合わせることで《A・ボム》を3体出現させる。
A・ボム×3 レベル2 攻撃400
「バトル。《A・ボム》で《氷結界の龍グングニール》を攻撃」
《A・ボム》3体が《氷結界の龍グングニール》に向けて特攻し始める。
里香のフィールドには攻撃を対処するためのカードがない。
(アカン…!!)
「罠発動!《邪神の大災害》更に罠カード《立ちはだかる強敵》!!相手の攻撃宣言時、フィールド上の魔法・罠カードをすべて破壊する!!」
「え…!?」
黒い嵐がフィールドを包み込み、《DNA移植手術》が吹き飛ばされていく。
発動させたのは元ホイールズのギャングの1人だった。
「ったくよぉ!A・O・Jやジェネクスのような機械族シンクロ使いは俺らだけで充分だ!このパクリロボットが!!さぁ、嬢ちゃん!!《立ちはだかる強敵》の効果で他の《A・ボム》も強制的に《グングニール》を攻撃するぞ!」
「お、おおきに…!迎撃や、《グングニール》!!」
《DNA移植手術》が失われたにもかかわらず、なおも突撃しようとする3体の《A・ボム》を《氷結界の龍グングニール》の吹雪が数秒で氷漬けにしていく。
そして、《A・ボム》を召喚したロボットも氷漬けとなった。
ロボット
ライフ4000→1900→0
「にしてもこいつら…他の仲間を助ける気ゼロじゃな…」
漁介の言うとおり、ロボットたちは他のロボットがピンチになっても見向きすることなく目の前のデュエリストを倒すために動き続けている。
そうであれば、1体ずつ確実に撃破していくことは容易いのであるが、数が多いことには変わりない。
「せやったら、ウチらは団結や!ええか、助け合ってこのポンコツロボット軍団を壊滅させるでーーー!!」
「「オーーー!」」
「《ジャンク・ウォリアー》で《A・O・Jカタストル》を攻撃!スクラップ・フィスト!!」
《ジャンク・ウォリアー》の拳が叩き込まれた《A・O・Jカタストル》は中枢機能を失い、上空に光線を放ちながら消滅する。
「うわあああ!!」
ロボット
ライフ250→0
「うーん、いい感じ!」
「気を抜くなよ、次々と邪魔者がきてるぞ」
他のロボットが召喚したモンスターを《真六武衆―シエン》などの六武衆シンクロモンスターで破壊しつつ、自分と伊織のいる第一線の状況を見る。
自分と伊織を除き、前線で戦っていて確認できる人数は13人。
報告と照らし合わせると新たに3人がカード化されてしまったことになる。
少し気を抜いている間にも数体のロボットが第一線を越えてしまう。
(このままだとまずいな…だとすれば)
先程ジョンソンから受け取った端末が入ったポケットを見る。
仮にエクシーズ召喚や融合召喚、儀式召喚、ペンデュラム召喚をシンクロ召喚エネルギーに欺瞞させることができるとしたら、本気のデッキでデュエルができる。
そして、そのデッキに入っているあのカードであれば、一気にロボットのモンスター達を全滅に追い込むことも可能。
「(よし…)おい、生き残ってる奴ら!!今突破した奴らは放っておけ!それよりも、入ってきている奴らを誘導しろ!誘導ポイントはあそこだ!!」
デュエルディスクを操作し、伊織達に合流ポイントの場所を提示する。
それは廃校舎のグラウンドだ。
「誘導はいいけどよぉ、それでどうしようってんだ!?」
メンバーの1人は疑問に思いながらもゆっくりとその場所へ移動しながらデュエルを進める。
「まあ、任せておけ。それよりもまだ他のギャングの奴らには俺たちの秘密はしゃべっていないよな?」
「当たり前だ!言ったら、首が飛んじまう!」
(秘密をしゃべったら首が飛ぶって誰が決めたんだよ?)
きっと誰かが冗談半分で言ったのがうわさになって流れたのだろうと勝手に解釈し、合流ポイントへ向かう。
「さあ、食いつけ。死神が迎えに来てくれるぜ」
時を同じくして、ここは治安維持局オペレータールーム。
「いかがでしょうか?プロトタイプの性能は?」
「はい。今回投入した89機のうち、30機はチームブレイドへ、残りはシェイドの領域へ投入しました。なお、ロストしているのは10機。コマンダータイプはすべて健在。いずれも正常です」
「そうですか。では引き続きプロトタイプが収集したデータの回収を進めてください」
左手で兵士の駒をいじりながら、ロジェは言う。
彼のチェス台の隣にあるノートパソコンには例のロボットの姿が映っている。
「新世代型デュエリスト育成装置を元にしたデュエルロイド、ディアボロ。今集まっているデータを参考にすればおそらく、デュエルチェイサーズ以上の軍団となってくれる。まあ、プロトタイプ達はゴミ掃除程度の役目は果たしてくれるでしょう」
(くっそぉ!!また1人やられた!?)
(最初に戻すことすらできねえのかよ!?もうライフは残り少ねえのに!!)
(機械は疲れねえし、数も多いぜ!この野郎がぁ!!)
「B班はE班のバックアップに周れ!その間にC班は戻って、待機中のO班と交代しろ!!G班とX班、民間人の避難が完了しつつ、第2防衛ラインへ急げ!!あと少しの辛抱だ!!」
宿舎4階にある通信室でモハメドがモニターを見つつ、前線で戦うメンバー達の指揮をする。
最初は彼1人で行っていたが、処理しなければならない情報量の多さから対応しきるのが難しくなり、新たに2人が手伝っている。
柚子は戻ってきたメンバーに水や食料を持っていく。
「お疲れ様です、どうぞ!」
「ありがとうよ…5分後には再出動か…」
「あいつら何体いんだよ??」
全員が何とか戻ることができた班のメンバーはあまりのディアボロの多さに疲れ果てながら食べ物を口にする。
しかし、カード化された上行方不明となってしまったメンバーのいる班は無事に戻れた安心感と助けられなかったという無力感という2つの混じりあった感情を抱き、飲食する気力を失っている。
(あたしだけこんなことを…)
手に持っている銀色のレーションケースを見つめる。
ケースに移る自分自身の顔が少し曇っているのが見えた。
(あたしだって戦いたい…みんなを守れる力が欲しい!だけど…だけど…!!)
(おとなしく僕についてきてよ、じゃないと…彼らみたいになるよ)
(うるさいなぁ、黙らないと…)
柚子の脳裏に舞網チャンピオンシップの時の光景がフラッシュバックする。
カード化されたデュエリストとそれを見ながら笑うユーリ。
そして彼の圧倒的な力によって追いつめられる自分自身。
はっきりと自分も戦うと言って譲らなければ、今こうしていることはないはずだ。
しかし、それができないということは…。
「あたし、怖がってる…」
思い出しただけで手が震えている。
そんな自分の手を見て、なぜか思い出したのがストロング石島とのデュエルでピンチになった遊矢だった。
彼もまた、その時は敗北への恐怖で絶望し、震えていた。
「遊矢も…怖かったのかな?」
自分は幼馴染であり、昔から知っている遊矢のことを知っているつもりでいた。
しかし、結局は表向きの、表面だけが見せる感情だけを知っているだけ。
ネットで出てくるニュースの見出しを只見ただけで世の中について知っていると言っているようなものでしかない。
その深淵にある意味を知ろうとせず、分かったという言葉で思考停止していただけなのだ。
「お待たせしました!これを…!!」
「ああ、悪い…!!」
近くで最近シェイドに加わったばかりのメンバーが負傷しているメンバーの傷の手当てをする。
彼はここに入るまでデュエルの経験がないというある意味レアな人物で、そのためデュエルの勉強をしつつ、こうして自分にできることを精いっぱいやっている。
そんな彼を見て、柚子は決心する。
「あとはお願い!!」
「へぇ!?」
いきなりそんなことを言ってどうかしてのかと聞こうとする前に柚子が飛び出していく。
「待ってください!!今、戦場は…!!」
一方、モハメドも指示を出しつつ窓から柚子の姿を見ていた。
「…カナリアが鳥かごから飛び出していったか…」
「《A・O・Jフィールド・マーシャル》で《アサルト・ホイール》を攻撃」
「ちっくしょう!!お前ら、後は頼んだぜぇ!!」
敗北が確実となったメンバーが仲間たちに後を託しつつ、カード化していく。
ディアボロ達は確かに誘導されていっているが、その間に敗れていくメンバーがいるという現実が存在する。
しかし、相対的に数が少なく、ロボットと違い疲労のある人間の集団であるシェイドが勝利するにはこの手しか残っていない。
翔太と共に合流ポイントにいる伊織が更に準備をする。
「やれ、伊織!!」
「…。《ニトロ・ウォリアー》で翔太君にダイレクトアタック!!」
《ニトロ・ウォリアー》の一撃が翔太の顔面に叩き込まれる。
「くぅぅ…そうだ、これでいい!!」
翔太
ライフ4000→1200
「更に永続罠《シンクロ・ブラスト》の効果発動!1ターンに1度、私のシンクロモンスターの攻撃宣言時、相手に500ダメージを与える!」
翔太
ライフ1200→700
「翔太君、これで条件が整ったけど、本当に大丈夫なの??」
「俺を誰だと思ってんだ?」
「知-らなーい!だって、記憶喪失のデュエリストでしょ?」
「最強のデュエリストだ、空気を読んでそう言うことにしとけよ」
そんなくだらない話をしている間にもディアボロ達がA・O・Jを召喚し、翔太たちを攻撃する。
その攻撃は対処しているものの、唯一翔太だけが魔法・罠カードで攻撃をさばいているだけでモンスターを召喚する気配が一向にない。
だが、その行動にも限界がきてしまう。
「俺のターン!ちっ…このターンは盾なしか!」
「私のターン!バトルだ!《A・O・Jサイクロン・クリエイター》でダイレクトアタック!!」
守る手段を失った翔太に向け、《A・O・Jサイクロン・クリエイター》が攻撃する。
「翔太君!!」
「くそっ…!!!」
モンスターの攻撃が翔太に届こうとしたが、急に彼の目の前に《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》が現れて攻撃を受け止める。
「《ブルーム・ディーヴァ》!?もしかして…」
「あたしは罠カード《シフトチェンジ》を発動したわ!この効果で攻撃対象は《ブルーム・ディーヴァ》に変化する!そして、《ブルーム・ディーヴァ》は破壊されず、あたしが受ける戦闘ダメージを0にする!」
《幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ》が歌を歌い、自分が受け止めている攻撃を桜の花びらへと変えていく。
「お前、なんでここにいるんだよ!!?」
「決めたの!あたしは…あたしは守られるためだけにランサーズに入ったんじゃない!みんなと一緒に戦って、守って、傷ついて…次元戦争という哀しみと向き合いたいの!!」
「向き合う…か…」
今まで見たことがないほどのまっすぐな目を見せる柚子に翔太は少し驚きを感じた。
そして、それと同時に待ちわびていた通信が入る。
「ボス!!第一線にいるロボット共は全部合流ポイントに入った!そして、もう入ってくる敵はいねえ!!」
「ああ…。おい、くず鉄!お前らロボットでもわかるくらい、死って奴を味あわせてやるよ!」
翔太が端末を取り付けたデュエルディスクにパスワードを入れる。
すると、その端末から緑色の粒子が放出される。
そして、空気に触れることでその粒子は虹色の光を見せ始めた。
「俺のターン!俺はスケール2の《魔装槍士タダカツ》とスケール9の《魔装剣士ムネシゲ》でペンデュラムスケールをセッティング!!。来たれ、時の果てに眠りし英雄の魂。漆黒の魂と契約し、封印から解き放たん!(こいつの方が俺にはしっくりくるな)ペンデュラム召喚!現れろ、第4の騎士、《魔装騎士ペイルライダー》!!」
魔装騎士ペイルライダー レベル7 攻撃2500
召喚された《魔装騎士ペイルライダー》は数多の数のA・O・J達を見ても動揺を見せない。
翔太にはむしろこのモンスターが死を与えるべき獲物がこれほど多く存在することに喜びを感じている、そんなふうになぜか思えてしまう。
「(《ペイルライダー》…久しぶりにその力を解放させてやる)俺は更に手札から《PCM-シルバームーン・アーマー》を発動!俺のフィールド上に存在するレベル7のペンデュラムモンスター1体を同じ種族でランク7のエクシーズモンスターに変化させる。俺は《魔装騎士ペイルライダー》でオーバーレイ!月の鎧に拘束されし第4の騎士よ、その重力を戒めとし覚醒せよ。ムーンライトエクシーズチェンジ!現れろ、月の鎧纏いし死の騎士、《MLX-魔装騎士ペイルライダー・ムーンレイス》!」
夜が明け、太陽によって明るく照らされた街に場違いな、月の力を得た騎士が翔太の前に現れる。
すぐに攻撃できることを主張したいがためか、既にすべての火器の安全装置が解除されていた。
MLX-魔装騎士ペイルライダー・ムーンレイス ランク7 攻撃2500
「こいつは俺のライフが1000以下の時、相手フィールド上に存在するすべてのモンスターに1回ずつ攻撃することができる。そして、手札から速攻魔法《次元突破》を発動。こいつは俺のフィールド上に存在する魔装騎士の攻撃力をターン終了時まで倍にする」
MLX-魔装騎士ペイルライダー・ムーンレイス ランク7 攻撃2500→5000
「スクラップにしてやれ、《ペイルライダー》!」
《MLX-魔装騎士ペイルライダー・ムーンレイス》の全兵装からミサイルや光線、銃弾などが広範囲に向けて発射される。
鎧に刻まれている五芒星は青く光り、装備者の弾薬を自動的に供給していく。
こうして無限の弾薬を得た死の騎士の無慈悲なまでの攻撃がA・O・Jもろともディアボロ達を破壊し、スクラップへと変えていく。
数分が立ち、銃身が焼けたことで攻撃が止まる。
《MLX-魔装騎士ペイルライダー・ムーンレイス》の周辺には銃弾や爆発で機能を停止したディアボロであふれていた。
「さすが死の騎士…無慈悲すぎるだろ??」
「第一線を突破したロボットはどうした?」
「ああ、どうやら全滅したようだ」
「ふう…」
バトルロイヤルモードが解除されたのを確認すると、翔太はゆっくりとその場に座り込む。
あとはディアボロ達からカード化された仲間を回収し、痣の力で元に戻す必要がある。
(それにしても、カード化したデュエリストだと?たしか、それは融合次元だけの技術だったよな?)
黒咲たちエクシーズ次元のデュエルディスクにもカード化の機能がある。
しかし、それはレジスタンス活動の際に倒したアカデミアのデュエリストから奪ったデュエルディスクの技術を盗用したに過ぎない。
更にその技術はエクシーズ次元の技術者にも、そしてスタンダード次元の少なくともレオコーポレーションの技術者でも解析することができず、融合次元が独占している。
だが、それはそれでいいのかもしれない。
人間をカード化する技術によってどんな混乱がもたらされるのかは目に見えているのだから。
「スクラップから仲間を回収しろ。そして、奴らのカードとパーツ、デュエルディスク。使えるもの、売れるものは何でも回収するぞ」
そう言いながら、足元にあるディアボロの残骸の中にあるカード化されたメンバーを回収した。
それと同時にデュエルディスクにモハメドからの通信が入る。
「どうした?モハメド」
(気をつけろ、第一線の上空に航空機が一機、コンテナを積んでいる!!)
「コンテナ…?」
空を見上げると、確かに西の方角から航空機が飛んできている。
そして、下方に取り付けられているコンテナを投下した。
「ディアボロ…沈黙しました」
「そうですか。ですが、今回の戦果は素晴らしいものとなってくれました」
手元のノートパソコンにセキュリティのハードディスクに収められたディアボロの今回の戦闘データがダウンロードされる。
そして、ロジェはそのデータを自分のUSBメモリにコピーする。
「ところで、旧レクス区のデュエルにおいて以上は発生しませんでしたか?」
「いえ…召喚エネルギーも確認しましたが、シンクロ召喚しかありません。異常なしです」
「異常なし…ですか。それでは、試作Ⅱ型を旧レクス区に降下してください」
「Ⅱ型をですか!?しかし…」
オペレーターがロジェの言うⅡ型のデータを見つつ、否定的な声を出す。
これは以前、治安維持局内でテストを行った際に暴走事故を起こしたもの。
3機制作したうちの1機がトップスのディヴァイン区に流出し、確保するまでに10人の死傷者を出した。
この事件情報操作でコモンズの不穏分子によるテロとして処理されている。
「かまいません。あれは不穏分子によるテロだったのですから。それに、あれからデータを更新したのでしょう?まさか…私の意見に従えないとでも」
笑みを浮かべつつ、そのオペレーターを見る。
確かに表面上は笑みを浮かべたままだが、目から伝わるのは冷たい威圧だ。
「わ、分かりました…」
「なんだよ、このコンテナは!?」
「飛行機からの落下物か??」
通信がまだ届いていない第一線のメンバーの6人がコンテナが投下された場所に近づく。
すると、コンテナが自動で開き、その中から3機のロボットが現れる。
「またロボットだと!!?」
「急いで連絡するぞ!!」
デュエルディスクの通信機能を起動しようとする。
しかし、急にそれから雑音が聞こえるようになる。
「な、何だ!?おい、オペレーター応答しろ!!」
何度も繋げて連絡しようとするが、激しい雑音にさえぎられる。
「おい!レーダーが反応しないぞ!?」
「ど、どうなってやがる…!?」
(バトルロイヤルモード、起動します)
デュエルディスクから再び流れたその音声とともに彼らのデュエルディスクが勝手に起動した。
「またこれかよ!!?」
「くっそーーー!!なんで連絡できないんだ!?!?」
「ふふふ…ジャミング機能を追加し、更にデュエルギャング共が最も恐れる戦略を持つⅡ型。ホセ、ルチアーノ、プラシド。さあ…存分に狩りをして、データを集めてもらいましょう…」
もう1つのUSBメモリをつけ、その中にあるファイルを開く。
そのファイルの中にはかつて、遊星たちと戦ったイリアステルの三皇帝の姿があった。
最近はまた忙しくなり、執筆も若干停滞気味です…。
アニメ版ではもうフレンドシップカップが準決勝ですし、ここからペースを上げて行かないと…。
それにしても、来年の劇場版遊戯王が楽しみです!
《ブラック・マジシャン》が進化したモンスターも出るかなと期待しています。