遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第3章 影(シェイド)に潜みし槍
第44話 面会


ゴオオオ…ゴオオオ…。

廃材を組み立てただけの粗末な建物と放置され、窓や壁紙のないコンクリートのビル、そして大量のごみが特徴的な町は昼となっても人通りは少なく、風と共に生ごみの悪臭が広がる。

このような廃墟のような街にも人は暮らしている。

ボロボロになった服で大量のごみが入った袋を積んだリアカーを運ぶ厚着の老人がその一例。

彼はゴミを施設に運び、それを買い取ってもらうことで金を得ている。

その金は酒とギャンブル、そして申し訳程度の食事で消えてしまうが…。

そんな彼が通りすぎた、ひどい錆で満ちたブランコだけしかない、公衆トイレの出入り口にはスプレーで描かれた落書きが大きく書かれている公園に異変が起こる。

青い光が発生し、そこから7人の男女が出てきたのだ。

翔太、伊織、里香、漁介、鬼柳、ジョンソン、柚子…。

彼らはシンクロ次元にたどり着いたのだ。

「うう、何だろうここ…くさーい!!」

「ん…?そんな臭いか?ここ??」

伊織と里香が鼻をつまんで匂いに耐えているが、漁介はノーリアクション。

それもそのはず、彼は修行中の漁師であり、魚のにおいに何度も苦しんだおかげで悪臭には免疫がついているのだ。

「リンゴや魚の骨…それに、みかんか?かなりの生ごみがあるようだな」

「おいおい、そんな匂いの正体を聞いて得する奴がいるのか?」

ジョンソンの研ぎ澄まされた感覚が無くてよかったと思う鬼柳。

そして、里香は速く移動したいという衝動に駆られる。

「くうーー!!さっさと移動や、こんなとこ!!」

「ああ…だが、まずはあいさつするべき相手がいるよな?」

翔太は後ろを向き、そびえたつ違法改造された3階建ての鉄筋コンクリート住宅を見上げる。

そこには写真の男が銃を翔太の頭部に向けていた。

「ええ!!?全然気づかなかった…」

「…」

びっくりする伊織をよそに、ジョンソンと鬼柳が警戒する。

(足音が聞こえなかった…。最初からそこにいたというのか?いた、ならば呼吸音が聞こえるはず…)

「おい、悪趣味なおっさん。あんたに預かりもんだ」

手裏剣のように、《マリンフォース・ドラゴン》のカードを投げると、男はカードを取り、そのまま彼らの目の前まで飛び降りる。

「《マリンフォース・ドラゴン》…なるほどな。やはり融合次元が動き出したか」

カードをケースにしまい、口元のスカーフを外す。

「中々渋いファッションなんだな、ヒイロ・リオニス」

「赤馬零児の使いだな、そうだ。俺はヒイロ・リオニス。お前たちの協力者だ」

銃をしまったヒイロが自分の名前を名乗る。

「ああ、俺は秋山翔太」

「永瀬伊織です、よっろしくお願いしまーす!」

「鬼柳一真だ…」

「…ジョンソン・オーベル」

「真田里香や!よろしくな、おっさん!」

「俺は梶木漁介、同じ水属性が切り札なら、気が合いそうじゃ」

「あ、私は柊柚子です。ヒイロさん、よろしくお願いします」

紹介を終えた7人の顔を見た後、ヒイロが公園の出入り口まで歩く。

「ついて来い、アジトへ案内する」

「アジト…せめて、生ごみのにおいのしない場所がいいな」

両手をズボンのポケットに入れた翔太がついていき、伊織たちが後に続く。

「あ、あの…ジョンソンさん…」

心配そうにジョンソンを見る柚子。

彼女は目の見えないジョンソンには誰の手を借りずに動くのは無理じゃないのかと思った。

バリアフリーの概念の欠片の無いこの町の中ではなおさらだ。

「いや、問題ない。足音と歩幅で分かる」

「え…?」

杖を持ったジョンソンがそれで足元を確認しながら進んでいく。

まるで目が見えないというのが嘘かと思えるくらい、翔太たちの後ろを歩いている。

(すごい…けど、どうしてこんなことが…??)

 

「ここだな…」

公園から歩いて5分の場所にある車屋の廃墟に入る。

天井の骨組みが一部露出していて、さびた修理用の備品がいたるところに放置されている。

ひどい環境であるものの、生ごみの悪臭がないだけましかもしれない。

ちなみに、翔太からヒイロに歩いている間にランサーズのことなど近状を報告されている。

「うわあ…本当にここがシンクロ次元なの??もう…」

「静かに…」

右手を低く上げたヒイロを見て、伊織が両手で自分の口を隠す。

(あいつ、何を考えているんだ?)

ゆっくりと壊れた丸いテーブルの裏を見るヒイロ。

そこには全長3センチの盗聴機が仕込まれていた。

ヒイロはそれを外して床に落とすと、そのまま踏みつぶした。

「悪趣味な警察だ、この次元は…。まずはこの次元について話をしておこう」

「ヒイロ・リオニス。この次元では何が起こっている…?」

ジョンソンが最初に質問する。

それを聞いたヒイロはうなずくと、すぐに質問に答える。

「この次元での問題は…理不尽は程の格差社会だな」

「格差…?」

「ああ、特にこのシンクロ次元の都市、シティが典型的だ。この次元では自由競争が過激に行われている。とどのつまり、勝てば何でも許される。今俺たちがいるコモンズという地域はその競争に取り残された奴らが集住している。そして、上を見ろ」

「上…?」

言われた通り翔太たちは上を見ると、そこには柱に支えられた巨大な都市が見える。

その都市のあまりのきれいな環境に漁介が驚く。

「空中都市かよ、あれは…」

「すっごーい!!そこで住むと、とっても気持ちいいかもね!!」

「あの都市には競争に勝ち残った奴らが住んでいる。トップスと称されたそいつらはこのシティの1パーセントの人口であるにもかかわらず、99パーセントの富を独占している。そして、わずか1パーセントのおこぼれで99パーセントのコモンズがしのいでいるという状況だ。つまり、勝てばすべてを手に入れることができ、負ければすべてを失う…セーフティネットもないって場所だ」

「…最低な次元だな、そこは」

苦笑する翔太が空中都市をじっと見る。

「ああ…。そして、競争社会の中ではスタートラインはフェアじゃない。トップスが決めたルールでコモンズは戦うことになる。その結果、トップスはいつまでもトップス、コモンズはいつまでもコモンズ。ま、トップス同士でも競争があり、そいつらでも負ければコモンズの仲間入りになるがな」

「冗談じゃねえな。パーティー開いたとしても、互いの痛いところを探り合いながら、笑顔で乾杯してるんだろうな」

「ふん、違いない。そして、ウェイターに賄賂を払って毒殺に機会をうかがうのかもしれないぞ?」

「鬼柳さん、ジョンソンさん…ちょっと怖い…」

冗談を言っていることにはわかっているが、そんなことを想像したくない柚子の顔が青くなる。

「この世界でお前たちにやってもらうことは…コモンズで力を持っているギャング達を組み込むことだ」

「ギャング?なんでそいつらを??」

「ギャングはコモンズにとって生き延びるために団結するためのコミュニティだ。彼らは時に危ない橋を渡る、敵対するギャングを倒して勢力下に置くことで力を強めている。そして…その中にはこの次元の警察である治安維持局をもしのぐ力のあるギャングもいる」

「治安維持局?…どうもトップスの味方をしそうな勢力だな」

「そうだ。治安維持局は基本的にはコモンズを取り締まる立場だ。トップスにとってはうれしい番犬だ」

そう言いながら、ヒイロは背後にある灰色のシーツで隠された巨大な物体に目を向ける。

そして、そのシーツを取ると、そこには彼が奪ったトレーラーが隠されていた。

装甲は青から灰色に塗装しなおしていて、治安維持局のマークも消されている。

そのかわりに、4本の牙のある髑髏がちぎれた鎖を噛んでいるような形のエンブレムをつけている。

「おお…トレーラーや!」

「見ればわかる。こいつは…?」

「このトレーラーは治安維持局から拝借したものだ。お前たちでも使えるように手を加えておいた。好きに使え。それから…」

続いてヒイロがトレーラーのハッチを開く。

そして、その中にあるDホイールを翔太に見せる。

「マシンキャバルリー…いつの間に」

「お前たちが来る少し前に送られた。赤馬零児の手引きだろうな」

ハッチを閉じ、扉を開けたヒイロが翔太たちに入れと手引きする。

中は10人が寝泊まりできるベッドと最低限の料理ができる調理場と洗濯機、そして4台のDホイールが収容できるピットがあった。

「狭いが、野宿するよりはマシだ。運転はある程度オートに任せることができる」

「なら、俺が運転する。四輪の免許はある」

「それから、お前たちにはこれを渡しておくぞ」

ヒイロが懐からいくつかデッキケースを取り出し、それらを伊織、里香、漁介、柚子に渡される。

中にはシンクロ召喚をコンセプトとしたカードの数々が入っていた。

「ペンデュラム召喚やアクションデュエルは異次元のデュエリストに対抗するための手段。だが、いつまでも使っていたら対策される。だから、いざという時まではそのカードを使え」

「うわあ、こんなカードもあるんだぁ」

興味津々に見ていると、ケースの中から数枚の紙幣が出てくる。

紙幣には蟹のような髪型のピエロが描かれている。

紙幣は他のデッキケースにも数枚入っていた。

「シティでの通貨だ。当面の資金として使え。20万イェーガーだ。円と同じ価値だと思ってくれていい」

「やけに用意がいいんだな」

漁介が持つ紙幣をのぞきつつ、鬼柳が怪しそうに言う。

その発言はヒイロには痛くもかゆくもないのか、フッと笑みを浮かべる。

「番犬から借りた金だ。親切に返さなくていいというな…。じゃあ、俺は行くぞ」

再びトレーラーの扉を開けると、ヒイロがスカーフで口元を隠して外に出ようとする。

「ヒイロさん、どこへ行くんですか?」

「俺は単独での行動に慣れている。お前たちの仲間とも接触する。それから…お前たちのチームの名前を記念にプレゼントする。…シェイドだ」

「シェイド…なるほど、ランサーズの”影”か」

にやりと笑いながら、言葉と自分たちの存在の意味を理解する翔太。

「物わかりのいい奴で助かる…死ぬなよ?」

そう言い残すと、ヒイロは外へ出ていき、そのまま町の中へ消えて行った。

「わあ、翔太君!!コーラ、コーラが入ってるよ!!」

ニコニコ笑いながら、コーラの瓶を手に取る伊織にジョンソンが調子に乗って全部飲むなと窘め、里香と漁介、ッ柚子がテーブルの上にあるシティの地図を見る。

そして、鬼柳は運転席に座り、マニュアルで運転のやり方をある程度頭に入れる。

「操縦の補助が徹底されている…。緊急の時に便利だな。とにかく、まずはここを離れるぞ」

ヒイロが盗聴機を見つけたことから、おそらくここがヒイロのアジトだったことを治安維持局が把握している。

だからヒイロはここを離れ、既にトレーラー以外の物はない。

まずはこのトレーラーを隠せる、自分たちのアジトとなる場所を探す必要がある。

幸い、ここにいたギャングは以前に治安維持局に摘発されたため、勢力なしという状態になっている。

少なくとも、アジトなしの状態でドンパチすることはなさそうだ。

「よし、発進させるぞ」

トレーラーがライトを点灯させ、そのまま車屋を飛び出していった。

運転している間、伊織たちはシンクロ次元での自分たちのデッキの構築に動き始めた。




明日からいろいろあるので、今のうちに最新話を書きました。
シェイドの名で活動を始めた翔太たちが何をするのか…?

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