遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第32話 月の鎧

「ふう…さすがに7人はきつかったかな。北斗君が来てくれてよかったよ」

デュエルディスクを閉じ、北斗に礼を言う。

「あ、あの…侑斗、さん…?」

サイドカーから出た柚子が確認するように侑斗の名前を呼ぶ。

「うん、僕は剣崎侑斗。君を助けるように依頼を受けていたんだ」

「ウィンダさんから聞いています。けど、なんでLDSの志島北斗が?」

「弟子入りしたんだ。この人に」

「ええ…!!?」

あの自分の強さにうぬぼれていた、沢渡程ではないが傲慢だった北斗が誰かの弟子になる。

柚子の想像範囲を超えることだ。

「本当にびっくりしたよ。突然僕に土下座して、一から鍛えなおしてくれって…」

「師匠!それは言わない約束です!!」

その時のことを離そうとする侑斗の口を北斗が必死になってふさぐ。

「あはは…結局、ユウが折れちゃって、零児君にお願いすることに…」

「ユウ…?」

「プハァ!!ちょっと訳ありでね。侑斗が呼びづらいなら、剣崎って呼んでよ。あ、ちょっとごめんね?」

デュエルディスクの電話機能が起動したのに気付いた侑斗は相手を確認した後、電話に出る。

「もしもし」

(私だ。剣崎)

「零児君だね?もう分かっているとは思うけど、柚子ちゃんは助けたよ」

周囲を見渡しながら、侑斗は言う。

風の目で確認しなければ見えないくらいの隠れた場所に小型のカメラが複数設置されている。

(感謝する。あなたに頼んでおいて正解だった。…ユース組で編成したランサーズが1人を残して全滅した)

「…そっか。…大丈夫?」

(…誰に対して言っているのか分からないが、一応大丈夫だと返しておこう。あとは…)

「分かってる。彼女を本社へ連れて行くんでしょ?すぐ行くよ」

電話を切ると、予備のヘルメットを柚子に渡す。

「え…?」

「僕とウィンダは一足先に戻る。北斗君はほかに生き残っている人がいないか探してほしい。危険だと分かったら、すぐに本社まで引き上げるんだ」

「は、はい!」

「あの…あたしは遊矢の…」

「ごめん…今は遊矢君達に会わせるわけにはいかない。」

「でも…」

「大丈夫。このバトルロワイヤルが終わったら、すぐに会わせてあげるから」

「じゃあ、私は精霊に戻るね!」

「へ?」

何を言っているんだと質問しようとする前に、柚子の視界からウィンダの姿が消える。

「き、消えた…!?これは一体…???」

「じゃあ、行くよ」

エンジンがかかり、侑斗と柚子を乗せたバイクが氷山エリアを離脱する。

突然消えたウィンダ、襲い掛かってきたユーリという遊矢そっくりの少年、そして融合次元の戦士であるオベリスクフォース。

すぐにでも遊矢に会って安心したい。

だが、今の柚子にできるのは彼の無事を祈ることだけだった。

(遊矢…)

 

「ん…んん…」

それと数時間後の密林エリア…。

気を失っていた遊矢が目を覚ます。

遊矢を運ぶ翔太は密林エリアで権現坂とミエルに合流していた。

「遊矢!」

「遊矢君!!」

「ダーリン!!」

権現坂とミエル、そしてオレンジ色の髪でそばかすがあり、穏やかな雰囲気を見せる少年が心配そうに遊矢の名を呼ぶ。

この少年の名前は茂古田未知夫。

遊矢がジュニアユース選手権出場のために、出場条件を満たしていたにもかかわらず、相手をしてくれたデュエリストだ。

ちなみに、そのそばで調理をしているクジラを模した帽子とピンク色のフィッシングウェアを着た男は大量旗鉄平。

2人とも、ミエルに頼まれて同行した。

「権現坂…未知夫…ミエル…?」

「ちっ、ようやく目を覚ましやがったな」

「翔太…」

木の上で周囲を見渡していた翔太が飛び降りる。

「翔太殿、そのオベリスクフォースという奴らは?」

「今はいない。ったく、あの世界のデュエリストは楽しいデュエルができないのか?」

ため息をつきながら、権現坂の質問に答える。

翔太はあらかじめ、権現坂達にオベリスクフォースについて知ってる範囲のことを教えていた。

(楽しいデュエル…デュエルで…笑顔を…)

懐から2枚のカードを取り出す。

《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》と《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》…。

デュエルで笑顔を…それは《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を託した男、ユートの遊矢へ託した願いだ。

その証となったカードが遊矢暴走の原因である可能性があるとはなんという皮肉だろうか。

「…ありがとう、翔太。もしお前が俺と止めてくれなかったら…」

「そうとは言えねえ。俺はあの時、本気でお前を殺そうとしていた」

「な…!?」

「あんた!!ダーリンを本気で殺そうとしたですって!!?」

殺そうとしたという言葉にミエルが怒り、翔太を詰問する。

「その言葉通りだ。俺もこいつで暴走した」

そう言いながら、遊矢達に《魔装騎士HADES》を見せる。

「ペンデュラムシンクロモンスター…?」

「ダーリンのはペンデュラムエクシーズで…」

「まあようわからんけど、それより飯や飯!!」

自分で釣った魚で作った海鮮鍋を持った鉄平が割り込んでくる。

密林エリアは幸い海岸付近に設置されたフィールドで、歩いて海岸まで行くことができるのだ。

鉄平は遊矢が目覚めるまでに魚を釣り、鍋を作っていた。

「…欲しくない」

しかし、なぜ暴走してしまったのかを考えるのに必死な今の遊矢には何も影響を与えない。

「なんや!せっかくミッチーの頼み聞いて、見返りなしにつくったったのに!」

「じゃあ、俺が食べる」

へそを曲げる鉄平を尻目に、翔太が海鮮鍋を食べ始める。

「な…お前のために作ったんやないで!!」

「どうでもいいだろ?それに、俺は晩飯食べ損ねたんだぞ」

「そんなんどうでもええねん!!」

「それよりも、柚子はどうした?」

鉄平を無視し、鍋を食べ続ける翔太の言葉を聞き、遊矢と権現坂がはっとする。

「そ、そういえば…権現坂!!柚子はどこへ!?」

暴走のことが頭から完全に飛び、遊矢は焦りながら権現坂に尋ねる。

「氷山エリアで一緒にデュエルをし、別れたきりだ。だが、そこにいる保証は…」

「柚子を探さないと!!このままだと柚子が!!」

「遊矢ーーー!!」

氷山エリアの方角から、オレンジ色の長髪でオレンジと青が基調の学生服を着た、右目部分に泣きホクロのある少年が走ってくる。

外傷がないところから、おそらくはオベリスクフォースと交戦することなく逃げ延びたのだろう。

「デニス!」

「知っているのか?」

「ああ!昨日の昼に一緒に戦ったんだ」

手短に翔太に説明した後、遊矢はデニスに目を向ける。

「デニス!一体どうしたんだ!?」

「はあはあ…氷山エリアで、ピンク色の髪の女の子がオベリスクフォースに襲われていて…」

「ピンク色の…柚子!!」

少なくとも、このバトルロワイヤルに参加しているメンバーの中でピンク色の髪の少女は柚子だけ。

大急ぎで遊矢は走って行ってしまう。

「あ、遊矢!ちょっと待ってよー!」

そんな遊矢を追いかけるように、デニスが行ってしまう。

「遊矢!!俺たちも追うぞ!!」

「うん!」

「待ちなさい、ダーリン!!」

「ちょ、まだ鍋がのこっとるでーーー!!」

権現坂と未知夫、ミエル、ついでに鍋を持った鉄平も追いかけていく。

密林エリアには翔太だけが残された。

「…ちっ、結局俺は青臭いガキの尻ぬぐいか。さっさと出てきたらどうだ?」

「さすがだな。…いつ分かった?」

「遊矢が女のことで動揺した時からだ」

翔太から見て右斜め後ろにある木がわずかにゆがむ。

ゆがみが消えると同時に、セレナと一緒にいた大柄の男、バレットが現れる。

「なるほど…わざと残り、私に追跡させないため…」

「それもあるな。まあ隠れてこうしてここにいるんだ。俺たちの居場所を教えている奴…いるだろ?」

デュエルディスクを展開させながら、バレットに目を向ける。

彼もまたデュエルディスクを展開させていた。

「前線へ戻るためにも、お前には私の手柄の1つになってもらう」

「歓迎するぜ。敵になら殺意の制御しなくていいからな」

「「デュエル!!」」

 

翔太

手札5

ライフ4000

 

バレット

手札5

ライフ4000

 

「俺の先攻。俺はモンスターを裏守備表示で召喚。ターンエンド」

 

翔太

手札5→4

ライフ4000

場 裏守備モンスター1

 

バレット

手札5

ライフ4000

場 なし

 

「私のターン、ドロー…」

ドローしたカードを見つめる。

(セレナ様…いずこに)

セレナと別れた後のことを思い出す。

彼は侑斗とセレナがデュエルをした翌日、舞網スタジアム地下駐車場で零児とデュエルし、敗れた。

そして彼はアカデミアに救援要請をだし、強制送還された。

セレナがスタンダード次元へ向かった理由は現地にいるエクシーズ次元の残党を討つためで、バレットも目付け役として同行していた。

これは零王には無断で行ったことで、バレットは強制送還後、懲罰部隊に強制的に編入されることになった。

しかし、それこそが彼の望むことだった。

彼の目的は戦場へ戻ることにあったからだ。

彼はエクシーズ次元の組織、レジスタンスのゲリラ攻撃によって仲間と片目を失い、予備役にされていた。

予備役は緊急時にならない限りは戦場に出ることは許されない。

しかし、懲罰部隊であれば不快な任務や危険な任務が多いが、前線に出ることができる。

また、零王からはセレナの保護を命令されている。

達成できれば、懲罰兵としてではなく、正規兵として前線に出ることが許される。

「私は手札から魔法カード《融合》を発動!」

「やはり融合か」

「私は手札の《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》と《スフィア・ボム球体時限爆弾》を融合。獰猛なる黒豹よ、敵に取りつく球体と混じりあいて、新たな雄たけびを上げよ。融合召喚!現れ出でよ、《獣闘機パンサー・プレデター》!!」

緑色のマントと剣を装備した人型の黒豹と4つのクローアームを装備した黒と赤が基調の球体型爆弾が現れる。

《スフィア・ボム球体時限爆弾》がどのような原理なのか分からないが、《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》の左半身と頭部の左半分を覆うような水色の装甲に変化し、そのモンスターに装着された。

 

獣闘機パンサー・プレデター レベル6 攻撃1600

 

「左半分が機械で右半分が獣戦士?とんだ悪趣味モンスターだな」

手札を3枚も消費して登場したモンスターを翔太が酷評する。

(伊織ならば同じレベル4同士のモンスターを融合素材にしても、さらに強力な融合モンスターが出せる)

そう心の中でつぶやくが、もちろん自分も同じことができるがというのも付け足している。

そんな彼の心中を分かっているのか定かではないが、バレットは効果発動を宣言する。

「《パンサー・プレデター》の効果発動!1ターンに1度、このモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与える」

《獣闘機パンサー・プレデター》の左胸部にあるビーム砲から赤い光線が発射される。

翔太は動揺することなく、デュエルディスクのソリッドビジョン部分を盾にする。

(たった800のダメージと攻撃力1600モンスターのためにここまで手札を使うのか?こいつらのレベルを疑うな)

実体化したダメージを受けてなおも酷評される《獣闘機パンサー・プレデター》があまりにもかわいそうだ。

 

翔太

ライフ4000→3200

 

「バトルだ!《パンサー・プレデター》で裏守備モンスターを攻撃!インペリアル・ソニック!!」

《獣闘機パンサー・プレデター》が剣の持ち手を咥え、高く跳躍する。

左目部分に装着されたカメラで裏守備モンスターの位置と動きを把握すると、そのまま急速に落下し、そのまま剣で切り裂こうとする。

「ふん…」

翔太が鼻で笑うと同時に、裏守備モンスターが消える。

「何!?消えた…」

バレットと《獣闘機パンサー・プレデター》が周囲を見渡す。

先に見つけたのは《獣闘機パンサー・プレデター》で、カメラが翔太の真後ろ20メートル先にある大木の前にあるわずかな空間のゆがみを把握する。

「そこか!!」

《獣闘機パンサー・プレデター》が今度は光線で歪みを狙撃する。

そこには《魔装霊レブナント》がいて、ビームを受けたにもかかわらず、無傷でその場にとどまる。

一方大木は光線を受けて発火し、そのまま根元から倒れた。

「こいつはリバースした時、デッキから魔装モンスターを1枚手札に加える。更にリバースしたターン、戦闘では破壊されない」

《魔装霊レブナント》は《獣闘機パンサー・プレデター》に向けて高笑いをしながら翔太の前へ戻っていく。

 

魔装霊レブナント レベル2 守備500(チューナー)

 

翔太が手札に加えたカード

・魔装剣士ムネシゲ

 

「ええい…私はカードを3枚伏せて、ターンエンド」

 

翔太

手札4→5(うち1枚《魔装剣士ムネシゲ》)

ライフ3200

場 魔装霊レブナント レベル2 守備500(チューナー)

 

バレット

手札6→0

ライフ4000

場 獣闘機パンサー・プレデター レベル6 攻撃1600

  伏せカード3

 

「俺のターン!」

 

翔太

手札5→6

 

「悪いが、そのポンコツには退場してもらうぜ?俺は手札から《魔装郷士リョウマ》を召喚」

 

魔装郷士リョウマ レベル4 攻撃1900

 

「そして、レベル4の《リョウマ》にレベル2の《レブナント》をチューニング。神の血を身に宿す槍士、雷鳴のごとき苛烈さを得て戦場で踊れ!シンクロ召喚!現れろ、《魔装槍士クーフーリン》!!」

 

魔装槍士クーフーリン レベル6 攻撃2100

 

「シンクロ召喚だと!?」

「俺は《クーフーリン》の効果を発動。1ターンに1度、俺のフィールドの魔装モンスターと相手フィールドのモンスターを1体ずつ選択し、選択した相手モンスターの攻撃力・守備力をターン終了まで俺の魔装モンスターのレベルかランク1つにつき400ポイントダウンさせる!ゲイ・ボルグ」

《魔装槍士クーフーリン》の槍が30本近くの銛に変化し、電流を纏った状態で《獣闘機パンサー・プレデター》に襲い掛かる。

両腕や両足、左目のカメラを中心にそれらが深々と突き刺さり、《獣闘機パンサー・プレデター》は残された機能によって痛覚を遮断しなければ立てない状態にまでなってしまう。

 

獣闘機パンサー・プレデター レベル6 攻撃1600→0

 

「くっ…!」

「バトルだ。俺は《クーフーリン》で《パンサー・プレデター》を攻撃。ニードル・スピア!」

手元に新しい槍を召喚した《魔装槍士クーフーリン》が天高く跳躍する。

そして、上空から急速に落下してその槍で《獣闘機パンサー・プレデター》を串刺しにする。

「ぐおおおお!!」

 

バレット

ライフ4000→1900

 

「ごっそりライフを失ったな」

「だが、私はここで罠カード《鉄盾の獣闘機勲章》を発動。このカードは1ターンに1度、戦闘ダメージを受けたとき、ダメージ100ポイントにつき1つ勲章カウンターを乗せる」

獅子とその前足を模した飾りがついた盾型の勲章がバレットのフィールドに現れ、メダルが21個それに貼りつけられる。

 

鉄盾の獣闘機勲章 勲章カウンター0→21

 

「勲章カウンター?」

「更に《パンサー・プレデター》の効果発動。このカードが破壊された時、墓地から融合素材となったモンスター2体を特殊召喚し、このカードをエクストラデッキに戻す。現れよ、《パンサーウォリアー》、《スフィア・ボム》!」

バレットの目の前に紫色の魔法陣が展開され、そこから《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》と《スフィア・ボム球体時限爆弾》が飛び出す。

 

スフィア・ボム球体時限爆弾 レベル4 攻撃1400

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー レベル4 攻撃2000

 

獣闘機パンサー・プレデター(アニメオリカ・調整)

レベル6 攻撃1600 守備2000 融合 闇属性 機械族

レベル4以下の獣戦士族モンスター+レベル4以下の機械族モンスター

(1):1ターンに1度、このカードの攻撃力の半分のダメージを相手に与えることができる。

(2):このカードが破壊され墓地へ送られた時に発動できる。このカードの融合召喚に使用した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、その一組を特殊召喚する。その後、このカードをエクストラデッキに戻す。

 

「おいおい、まるでゾンビみたいなモンスターだな…」

融合素材が復帰し、エクストラデッキに本体が戻ったことで、再びそのモンスターを融合召喚可能になった。

しかし、今のバレットには手札は無く、デッキに入っていると思われる《融合》は残り2枚。

(《鉄盾の獣闘機勲章》の効果は分からないが、今のあいつのデッキの枚数を考えたら、《融合》をドローする可能性は5.8%)

だが、そのような考えが当てにならないことを既に分かっている。

《ミラクル・フュージョン》や《EMトランプ・ウィッチ》のような《融合》を内蔵したカードも存在する可能性だってあるからだ。

そしてバレットは融合次元のデュエリスト。

必ずそのようなカードを入れていると思って間違いないだろう。

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド。さあ、あんたのターンだぜ?おっさん」

 

翔太

手札6→4(うち1枚《魔装剣士ムネシゲ》)

ライフ3200

場 魔装槍士クーフーリン レベル6 攻撃2100

  伏せカード1

 

バレット

手札0

ライフ1900

場 スフィア・ボム球体時限爆弾 レベル4 攻撃1400

  漆黒の豹戦士パンサーウォリアー レベル4 攻撃2000

  鉄盾の獣闘機勲章(永続罠) 勲章カウンター21

  伏せカード2

 

一方、レオコーポレーションのオペレータールームでは零児と中島、多くのオペレーターが待機している。

零児の隣には薄い紫の髪で濃い青の瞳、水色のブカブカな服を着ていて、黒いつば付きの帽子をつけているにも関わらず、水色のブカブカなフードをつけた小学生くらいの少年がいる。

彼の腕には顔の左側の左耳だけが紫色の布になっている白いデフォルメした熊のぬいぐるみが抱かれている。

「ユースのデュエリストたちは?」

零児の質問に、白い薄毛をした初老の男が心痛の色を浮かべながら答える。

「はい、桜木ユウを除き、全滅しました…」

「そうか…。剣崎が編成したヴァプラ隊は?」

「バス到着後、スタジアムを中心に防衛網を展開しております」

「そうか…」

自席に設けられているコンピュータを起動すると、数人のデュエリストの顔写真が表示される。

彼らはすべて先ほど全滅したと伝えられた人物たちだ。

「社長。彼らが到着しました」

「そうか…通せ」

オペレータールームの扉が開き、侑斗とウィンダ、柚子が入ってくる。

「零児君、言われた通り、彼女は連れてきたけど…遊矢君に会わせたほうが良かったんじゃないのかな?」

「いや…これからのことを考えると、今会わせることは得策ではない。それよりも…」

零児はコンピュータのパスワードを入力し、ディスプレイ部分を外す。

そして、立ち上がって柚子の前へ行く。

「遊矢は…遊矢は無事なの!!?」

遊矢のことが心配でたまらなくなった柚子が質問する。

メガネをわずかに動かした後、零児は大型モニターに目を向ける。

「彼は無事だ。今のところはな…」

「ああ…」

この時、初めて柚子はモニターを注視した。

多くのオベリスクフォースが出現し、無差別にデュエリストを襲撃する。

倒され、力尽きたデュエリストが彼らのデュエルディスクが放つ光によってカード化されていく。

彼らのまるで遊びのようにおびえるデュエリストをカード化していく姿に柚子は戦慄し、目に涙を浮かべる。

火山エリアに映像が切り替わると、そこには赤い髪とオレンジ色のマスクをつけた太陽を模した額当ての忍者と素良がデュエルをしている。

「素良!?なんで…」

「彼は融合次元のデュエリストだよ。おそらく、彼がオベリスクフォースを…」

そして、本社ビル出入り口では黒咲とセレナ、そして髪とマスクの色が青でそれ以外が先ほどの忍者そっくりの容姿の男が3人のオベリスクフォースと交戦している。

「セレナ…黒咲とちゃんと…」

「ということは、君はセレナちゃんと会ったということだね?」

「はい。彼女はエクシーズ次元で融合次元のデュエリストが何をしたのかを知らなかったから…」

「彼に会わせて、真実を知ってもらおうとして自分がおとりになったんだね」

侑斗がため息をつきながら、彼女の考えを口にする。

気持ちは分かるが、もう少し考えて行動すべきじゃなかったのかと言いたげなのを分かっているために、柚子は何も言えなくなる。

「おい、一体どうなっているんだ!!?」

オペレータールームに今まで出番のなかった沢渡が強引に入ってくる。

彼も舞網チャンピオンシップに参加したが、遊矢に敗れ、1回戦敗退になっている。

「沢渡?なんでここに!?」

「お前は柊柚子!お前こそなんでここにいるんだ!?ってそんなことより…赤馬零児!!なんでバトルロワイヤルの状況が放送されていないんだ!?」

「え…??」

沢渡の言葉に柚子がびっくりする。

そんな彼女を無視するかのように沢渡は言葉を並べる。

「何がどうなっているんだ!?答えろ!!参加者は…遊矢はどうなっているんだ!!?」

「…。そんなに今の状況が知りたいか?」

零児はじっと沢渡の目を見る。

「ああ、知りたいな。俺の知らないところであいつが負けるなんてことがあってはならないからな。あいつを倒すのは俺だ!!」

「そうか…」

 

「私のターン、ドロー!」

 

バレット

手札0→1

 

「私は罠カード《融合準備》を発動。エクストラデッキに存在する融合モンスター1体を公開し、テキストに記されているモンスター1体をデッキから手札に加え、その後墓地から《融合》を1枚手札に加える。私は《ミノケンタウロス》を見せ、デッキから《ミノタウロス》を手札に加える」

デッキと墓地から2枚のカードが自動排出される。

《融合準備》は罠カード故に即効性がないものの、次のターンになればフリーチェーンで扱うことができる。

《D.D.クロウ》のようなカードには注意が必要だが。

「そして私は手札から魔法カード《融合》を発動。その効果で再びフィールド上の2体のモンスターを融合し、《パンサー・プレデター》を融合召喚!」

 

獣闘機パンサー・プレデター レベル6 攻撃1600

 

「更に私は《鉄盾の獣闘機勲章》の効果を発動。このカードを墓地へ送ることで、私のフィールド上に存在する獣闘機1体の攻撃力を勲章カウンターの数×100ポイントアップさせる」

《鉄盾の獣闘機勲章》が消滅し、21個の勲章が光となって《獣闘機パンサー・プレデター》の肉体に宿る。

 

獣闘機パンサー・プレデター レベル6 攻撃1600→3700

 

鉄盾の獣闘機勲章(アニメオリカ)

永続罠カード

(1):1ターンに1度、自分が100以上の戦闘ダメージを受けた場合に発動出来る。その戦闘ダメージ100につき、勲章カウンターを1つこのカードの上に置く。

(2):勲章カウンターが置かれているこのカードを墓地へ送り、自分フィールドの「獣闘機」モンスター1体を対象として発動出来る。勲章カウンター×100攻撃力をアップする。

 

「おいおい、攻撃力が一気に3700かよ…?」

「まだだ!私は《パンサー・プレデター》の効果を発動!1ターンに1度、このカードの攻撃力の半分の数値のダメージを与える!」

《獣闘機パンサー・プレデター》の胸から放たれた光線が翔太のデュエルディスクに命中する。

攻撃力増加によって出力も上昇したためか、左腕に熱が伝わってくる。

「くっ!」

 

翔太

ライフ3200→1350

 

「更に私はここで罠カード《聖銀の獣闘機勲章》を発動!このカードは私の獣闘機モンスターが存在するとき、その融合素材モンスターを墓地から特殊召喚する。私は《パンサーウォリアー》と《スフィア・ボム》を特殊召喚!」

鏡のような輝きを見せる飾りのない勲章がバレットのフィールドに現れ、その前に2体のモンスターが立つ。

 

スフィア・ボム球体時限爆弾 レベル4 守備1400

漆黒の豹戦士パンサーウォリアー レベル4 攻撃2000

 

「更に、この効果で特殊召喚したモンスターの数だけ相手フィールド上の魔法・罠カードを破壊できる」

《獣闘機パンサー・プレデター》のビーム砲から赤い光線が翔太の伏せカードに向けて発射される。

このまま攻撃する前に、安全確保のために伏せカードを破壊しようと思ったのだろう。

「俺は罠カード《威嚇する咆哮》を発動。これでこのターン、お前は攻撃宣言できない」

「ふん、フリーチェーンの罠カードを仕込んでいたか。ならば私は手札から《ミノタウロス》を召喚」

 

ミノタウロス レベル4 攻撃1700

 

「そして罠カード《フュージョン・スナイパー》を発動。1ターンに1度、私のフィールド上に融合モンスターが存在するとき、相手の特殊召喚されたモンスター1体を破壊し、1000ダメージを与える」

Fが大きく描かれた鋼鉄製のスナイパーライフルが出現し、《魔装槍士クーフーリン》に向けて銃弾を発射する。

「ぐっ…!!」

槍士を貫いた銃弾はそのまま翔太の胸にも直撃する。

実体ダメージのために、翔太は痛みに耐える。

 

翔太

ライフ1350→350

 

聖銀の獣闘機勲章

通常罠カード

「聖銀の獣闘機勲章」は1ターンに1度しか発動できない。

(1);自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する「獣闘機」融合モンスター1体を対象に発動できる。このカードの融合召喚に使用した融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、その一組を特殊召喚する。その後、この効果で特殊召喚したモンスターの数まで相手フィールド上に存在する魔法・罠カードを破壊することができる。

 

フュージョン・スナイパー

永続罠カード

「フュージョン・スナイパー」はフィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

(1)1ターンに1度、自分フィールド上に融合モンスターが存在する場合、自分のターンのメインフェイズ時にのみ発動できる。相手フィールド上に存在する特殊召喚されたモンスター1体を破壊し、1000ダメージを相手に与える。

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

翔太

手札4(うち1枚《魔装剣士ムネシゲ》)

ライフ350

場 なし

 

バレット

手札1

ライフ1900

場 スフィア・ボム球体時限爆弾 レベル4 攻撃1400

  漆黒の豹戦士パンサーウォリアー レベル4 攻撃2000

  獣闘機パンサー・プレデター レベル6 攻撃3700

  ミノタウロス レベル4 攻撃1700

  フュージョン・スナイパー(永続罠)

 

「…ってことはつまり、その融合次元の奴らがバトルロワイヤルで悪さをしているってことか?」

零児と侑斗からの説明を聞いた沢渡は何とか脳内で内容を整理していく。

内心嘘だろうと思っていたが、モニターでその映像を見せられたこととカード化されたデュエリストを実際に見たことで真実だと認めざるを得なかった。

「沢渡シンゴ、君には融合次元のデュエリストたちの討伐をしてもらいたい」

「…はぁ??」

「敗者復活戦…という名目でだ」

急な話にポカンとする。

1回戦敗退のデュエリストにそのようなことを許すのはたとえ主催者であったとしても横暴だ。

それ以上に、敗北した以上は無条件の敗者復活は自身のデュエリストとしてのプライドが許さない。

「心配するな、あくまで名目。おおっぴらに動いたとしてもそのことは我々以外には分からない。それとも…私の命令が聞けないとでも?」

威圧するような目線を沢渡に送りながら、カードケースを渡す。

「これは完成したペンデュラムモンスターだ。オリジナルには及ばないが、それでも融合次元のデュエリストには十分に対抗できる。前金代わりだと思ってほしい」

ケースを見ながら、沢渡はゴクリと唾を飲む。

もう逃げられないということを暗に示されているということだろう。

彼は何も言わずにケースを取り、そのまま部屋から出て行った。

「沢渡…」

「柊柚子、君にはもう1つ見せたいものがある」

「え…?」

「これは昨日の映像だよ」

侑斗から簡単に説明された後、零児がディスプレイを見せる。

「ああ…」

流れる映像を見て、柚子は両手で自分の口を覆う。

暴走する遊矢が《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》を召喚し、3人のオベリスクフォースを蹂躙する映像だった。

 

「俺のターン!」

 

翔太

手札4→5

 

「俺はスケール3の《魔装船ヴィマーナ》とスケール9の《魔装剣士ムネシゲ》でペンデュラムスケールをセッティング。これで俺はレベル4から8までのモンスターを同時に召喚可能。来たれ、時の果てに眠りし英雄の魂。漆黒の魂と契約し、封印から解き放たん!(こいつの方が俺にはしっくりくるな)ペンデュラム召喚!現れろ、大海を巡る郷士、《魔装郷士リョウマ》!」

 

魔装郷士リョウマ レベル4 攻撃1900

 

「そして、第4の騎士、《魔装騎士ペイルライダー》!」

 

魔装騎士ペイルライダー レベル7 攻撃2500

 

「くっ…ペンデュラム召喚か!」

同時召喚された2体のモンスターを苦虫をかみつぶしたように眺める。

零児とのデュエルではペンデュラム召喚が原因で敗れたからだ。

「とっておきだ、あんたに俺の新しい力を見せてやるよ」

翔太は手札の中からカードを1枚手に取る。

(侑斗って奴め、遊矢のデッキにカードを仕込みやがって)

翔太は侑斗が2枚のカードを仕込んだことを見抜いていた。

権現坂と合流する前にあらかじめその2枚を確認した。

それは同じカードで、翔太は内緒でそのうちの1枚を横取りしていた。

「俺は手札から《PCM-シルバームーン・アーマー》を発動!」

「PCM!?RUMとは違うのか!?」

「こいつは特別なカードでな、俺のフィールド上に存在するレベル7のペンデュラムモンスター1体を同じ種族でランク7のエクシーズモンスターに変化させる。俺は《魔装騎士ペイルライダー》でオーバーレイ!」

発動と同時に、上空が熱い雲に包まれる。

雲が晴れると、青々として空が漆黒の闇に代わり、満月が浮かぶ。

《魔装騎士ペイルライダー》は空を飛び、月に着地する。

その地面に魔法陣が現れ、黄色い粒子がそのモンスターを包み込んでいく。

「月の鎧に拘束されし第4の騎士よ、その重力を戒めとし覚醒せよ。ムーンライトエクシーズチェンジ!」

粒子が徐々に鎧へと変化していき、第4の騎士に装着されていく。

2連装マシンガンが裏に装着された小型の青白い盾を右手、ビーム砲が内臓された大型の青白い盾を左手に。

全身を白銀の炸裂装甲が覆い、両足にミサイルポッド、背中にはガトリング砲とミサイルポッドがついたコンテナが装着される。

装備し終えると、胸部に三日月の紋章が刻まれ、そのモンスターは瞬時に翔太の前へワープする。

「現れろ、月の鎧纏いし死の騎士、《MLX-魔装騎士ペイルライダー・ムーンレイス》!」

 

MLX-魔装騎士ペイルライダー・ムーンレイス ランク7 攻撃2500

 

「この効果で特殊召喚されたモンスターは次の俺のターンのスタンバイフェイズ時まで破壊されない」

 

PCM(ペンデュラムチェンジマジック)-シルバームーン・アーマー

通常魔法カード

(1):自分フィールド上に表側表示で存在するレベル7のPモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターと同じ種族でそのレベルと同じ数値のランクを持つ「MLX(ムーンライトエクシーズ)」モンスター1体を、

対象のモンスターの上に重ねてエクストラデッキからX召喚する。

(2):この効果でX召喚されたモンスターは次の自分のターンのスタンバイフェイズまで戦闘および効果では破壊されない。

 

「ペンデュラムモンスターをエクシーズモンスターに変えるだと!?」

報告にもない、新たなペンデュラムモンスターの姿に驚きを隠せない。

「こいつは俺のライフが1000以下の時、相手フィールド上に存在するすべてのモンスターに1回ずつ攻撃することができる。また、1ターンに1度墓地の「魔装」モンスター1体を除外することで、相手モンスター1体の攻撃力・守備力をターン終了時まで0にする!」

「何!?」

「ムーンライト・シューティング!」

《MLX-魔装騎士ペイルライダー・ムーンレイス》のコンテナから3つのパーツに分解された青白い大型レールガンが自動的に取り出し、組み立てが行われ、2つの盾をその場に置いたそのモンスターに装備される。

そして、墓地から出てきた《魔装霊レブナント》の力を吸収し、超高速で質量弾が発射される。

質量弾は《獣闘機パンサー・プレデター》を撃ちぬき、更にその威力によってそのモンスターを後ろ10メートル先にある巨大な岩石にめり込む。

 

獣闘機パンサー・プレデター レベル6 攻撃3700→0

 

「《パンサー・プレデター》の攻撃力が0に!?」

「これで終わりだな。俺は《ペイルライダー》で攻撃!フルバースト・デスブレイク!!」

レールガンを投げ捨て、2つの盾を手にした《MLX-魔装騎士ペイルライダー・ムーンレイス》が4体のモンスターに狙いをつける。

その瞬間、光線とミサイル、マシンガンとガトリング砲の弾丸がこれでもかバレットのモンスター達に襲い掛かる。

《スフィア・ボム球体時限爆弾》は光線で撃ちぬかれて沈黙し、《漆黒の豹戦士パンサーウォリアー》は剣を持つ右手を中心にマシンガンでハチの巣にされる。

《ミノタウロス》は斧を盾にガトリングの銃弾をしのぐが、別方向から飛んできたミサイルを受ける。

そして、《獣闘機パンサー・プレデター》は無抵抗のままミサイルとガトリングによって完膚なきまでに岩もろとも破壊しつくされた。

「うわああああああ!!」

 

バレット

ライフ1900→0

 

MLX(ムーンライトエクシーズ)-魔装騎士ペイルライダー・ムーンレイス

ランク7 攻撃2500 守備2000 エクシーズ 闇属性 戦士族

「魔装」レベル7モンスター×2

(1):このカードと戦闘を行った相手モンスターをダメージステップ終了時に破壊する。

(2):自分LPが1000以下の場合、このカードは相手フィールド上に存在するすべてのモンスターに1回ずつ攻撃することができる。

(3):「魔装騎士ペイルライダー」をX素材としている場合、以下の効果を得る。

●1ターンに1度、自分LPが1000以下の場合、自分の墓地に存在する「魔装」モンスター1体を除外し、相手フィールド上に存在するモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターの攻撃力・守備力をターン終了時まで0にする。

 

攻撃により発生した爆風で吹き飛ばされ、うつぶせの状態で気絶するバレットをじっと見る。

「今回は遊矢の時のようにはならなかったな…」

新たな力である《MLX-魔装騎士ペイルライダー・ムーンレイス》をじっと見つめる。

(気に入らないが、あいつのおかげってことになるな)

カードをしまうと同時に、周囲を見渡す。

翔太を包囲するように、ボロボロなジャケットを着たデュエリストが複数人いることが確認できる。

服装こそバラバラだが、デュエルディスクの構造はオベリスクフォースの物と同じだ。

彼らもバレットと同じ懲罰部隊のメンバーだろう。

「懲りない奴らだ…」

再びデュエルディスクを展開する。

「秋山翔太!!お前を倒せば、俺たちの罪状を消してくれるとプロフェッサーは約束してくれた!!俺たちの未来のため、倒されてもらうぞ!!」

「能書きはいい。向かってくるなら叩き潰す」

カードを引き、すぐに自分のターンで行動をとれるようにする。

それと同時に彼らのフィールドには融合モンスター達が現れる。

「後悔させてやる!」

彼らに対抗するため、翔太のフィールドには《魔装騎士ペイルライダー》が現れた。


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