遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第125話 獣狩り

「遊矢!遊矢!応答して!!」

戦艦周辺ではデュエルロイドとデュエル戦士による攻撃が行われており、護衛のヴァプラ隊とデュエルを繰り広げている。

遊矢に何度も通信をしているが、ジャミングされているためか一切つながらない。

「グレース!遊矢たちは大丈夫なの?!」

「ダメ…こっちからもつながらないわ。もしかしたら、アカデミアの罠に…」

可能であれば助けに行きたいが、攻撃が続いている以上は動くわけにはいかず、柚子の守りを割くわけにはいかない。

できることは、彼らが自力で突破することを願うことだけ。

(遊矢…無事でいて…)

 

 

 

「消し飛びやがれ!!人形が!!」

翔太の叫びとともに4体の魔装騎士がバトル・ビーストを模したデュエルロイド4体にダイレクトアタックを仕掛け、ライフが0になった4体が粉々にはじけ飛ぶ。

翔太だけでも撃破したバトル・ビーストもどきは10体以上で、そこからはもう数を数えることも忘れている。

伊織や遊矢、零児達もバトル・ビーストもどきを倒し続けているが、いくら倒しても一向にその数が減ることがない。

次々と投入されるデュエルロイドの数に押され、いずれ押し切られる可能性も目に見えている。

そんなデュエルが繰り広げられる中で、侑斗はデュエルに参加せずにその場で座り、目を閉じて念じ続けている。

「みんな、お願い!もうちょっとだから、粘って!!」

ウィンダもデュエルに参加し、息を切らしながらも遊矢たちを鼓舞する。

うっすらと目を開ける侑斗の両目は風の目を発動している。

ここでは下手に進んでも迷い込むだけで、いずれはこのデュエルロイド達の餌食になるだけ。

だが、どんなにフィールドを変化させたとしても、風はごまかさない。

風の流れを読んでいき、このフィールドを生み出している根源、そしてバトル・ビーストの本体を探していく。

「見えた!!」

バトル・ビーストの本体を特定した侑斗が立ち上がり、右手に力を籠め、正面に向けてふるう。

正面を視界をふさぐ木々が突然発生したかまいたちによってなぎ倒され、その先の景色をあらわにする。

両腕と両足が枷によって拘束され、獣のようにうなり声をあげるバトル・ビースト。

遊矢の目もオッドアイに変えたことで、ここまで戦ってきたバトル・ビーストとの違いを特定する。

どんなに強い相手であろうと、デュエルロイドである以上は人間レベルの感情を出すことができず、同時にプレッシャーもない。

だが、この拘束されているバトル・ビーストからは強いプレッシャーが感じられる。

見つかったことで敵が来ることを感じた本物のバトル・ビーストは自らを拘束する枷の鎖を引きちぎっていく。

居場所が分かったその獣への道をふさぐべく、なぎ倒された木々が徐々に再生していく。

「いけ、遊矢!権現坂もだ!こいつを止めろ!!」

「翔太!?」

「今、手が空いているのはお前らだ!さっさとそいつを倒して、この無限ループを止めろ!!」

二人に迫ろうとするデュエルロイドに割って入った翔太が無理やり彼らとのデュエルを開始する。

「迷うなよ…?迷えば、負けだ!!」

「くっ…!わかった!みんな、負けるな!!」

他に何も言うことができず、遊矢が拘束から無理やり出てきたバトル・ビーストに向けて走り出し、権現坂も続く。

走っていく2人の姿もまた、再生した木々によって阻まれ、消えてしまう。

(頼むよ…2人とも…)

 

「場所を特定されたか!?だが、今のバトル・ビーストであれば負けることはない。さあ、見せてもらうぞ。私の最高傑作の力を!!」

モニターに映る、本体の元へ向かう2人の姿に多少の驚きを見せたものの、サンダースの脳裏に浮かぶのは彼の勝利のイメージしかない。

バトル・ビーストを投影したデュエルロイドは本人とほぼ同等の力を発揮できるものの、それを成し遂げるには本体が近くにいる必要があるという弱点がある。

ブーンの説明によると、本体のデュエルエナジーをデュエルロイドが供給されることで真価を発揮できるようだが、その理論のほとんどはブラックボックス化しているらしい。

かつての不安定な彼であれば、自ら前に出て抑え込むという手段をとっただろう。

だが、今の彼にはその必要はなく、常にベストな状態で戦える。

「ふっ…。ほめたたえるのはいいが、せいぜい足元をすくわれるような真似になるなよ。ここにも、敵が来る可能性はあるのだからな」

ニヤリと笑うブーン、そして今まで閉ざされていた扉が開く。

そこにはヒイロの姿があり、この部屋まで続く通路には倒されたデュエルロイド達の残骸が散乱していた。

「まさか、ここまで1人で突入してくるとは思わなかったぞ…?ヒイロ・リオニス」

 

バトル・ビーストに向けて一心不乱で走る遊矢とその後ろを走る権現坂。

遊矢の背中、そして制服の袖と手袋で隠れた左腕を見る。

(遊矢…この次元戦争で確実に変わっていっている…)

戦争が始まる前、ペンデュラム召喚を使う前までの遊矢は確かに精神的にもろく、気弱なイメージが強い頼りない友人だったが、暴力を嫌う心優しい少年だった。

だが、次元戦争に巻き込まれ、シンクロ次元では左腕を失うほどの重傷を負い、エクシーズ次元では救おうと思っていたエドが自分の行いが引き金となって死ぬことになり、融合次元で自分の正体を知ることになった。

それらの遊矢が背負うには重たすぎるほどの悲劇と真実が少しずつ彼を変えていった。

デュエルロイドとのデュエルでも、覇王の名を持つドラゴン、そして侑斗から受け取ったドラゴンを使いこなし、戸惑うことなく敵を倒す姿を見せた。

それはランサーズにとって、そしてアカデミアを敵とみなす者にとってはよいことかもしれない。

だが、権現坂が恐れているのはその中で遊矢から本来の心が消えてしまうことだった。

(遊矢…心を見失うな。それを無くしたとき、お前はズァークに…)

「ぐおおおおおお!!!」

獣のような咆哮をするバトル・ビーストが正面から飛んできて、四つん這いになって2人を威嚇しながらデュエルディスクを展開する。

「こいつを止めて、翔太たちを助ける!いくぞ、権現坂!」

「ああ…。やるぞ、遊矢!」

「「デュエル!!」」

「グオオオオオオ!!!」

 

バトル・ビースト

手札5

ライフ4000

 

遊矢&権現坂

手札

権現坂5

遊矢5

ライフ4000

 

「俺の…ターン!!俺は《剣闘獣ラクエル》を召喚!!」

 

剣闘獣ラクエル レベル4 攻撃1800

 

「ぐうう…そして、自分フィールドに剣闘獣が存在するとき、手札の《スレイブタイガー》を特殊召喚できる…!!」

 

スレイブタイガー レベル3 攻撃600

 

「そして、手札から永続魔法《剣闘排斥波》を発動。さらに、《スレイブタイガー》の効果…。このカードをリリースし、フィールド上の俺の剣闘獣1体をデッキに戻すことで、デッキから剣闘獣1体を剣闘獣の効果で特殊召喚されたものとして特殊召喚できる…。俺は《ラクエル》をデッキに戻し、デッキから《剣闘獣アウグストル》を特殊召喚!!」

 

剣闘獣アウグストル レベル8 攻撃2600

 

「1ターン目からいきなりレベル8のモンスターを!?」

「まだだああ!!!《剣闘排斥波》の効果。デッキから剣闘獣の特殊召喚に成功したとき、デッキから俺のフィールド上には存在しない種族の剣闘獣1体を守備表示で特殊召喚できる!俺はデッキから再び《ラクエル》を特殊召喚!!」

 

剣闘獣ラクエル レベル4 守備400

 

「《アウグストル》が剣闘獣の効果で特殊召喚に成功したとき、手札から剣闘獣1体を守備表示で特殊召喚できる!!俺はさらに手札から《剣闘獣ムルミロ》を特殊召喚!!」

 

剣闘獣ムルミロ レベル3 守備400

 

「そして、俺のフィールドの剣闘獣は自らをデッキに戻すことで、エクストラデッキから剣闘獣融合モンスターを《融合》なしで特殊召喚できる!!俺は《ムルミロ》、《ラクエル》、《アウグストル》をデッキに戻し、融合!!彷徨える古の剣闘士の亡霊どもよ。皇帝の名のもとに集い、その力を捧げよ!融合召喚!来い!《剣闘獣アンダバタエ》!」

《剣闘獣アウグストル》が翼を広げ、彼の前に2体の剣闘獣がひざまずく。

そして、上空に出現した渦の中に3体が飛び込んでいき、中から現れたのは皇帝の名を持つ剣闘獣をもとにしたものとは思えないほっそりとした体つきをした、翼替わりの装甲をつけた黒い蜥蜴のような剣闘獣だった。

 

剣闘獣アンダバタエ レベル7 攻撃1000

 

「《剣闘獣アンダバタエ》…?」

「デュエルロイドは使ってこなかったカードだな…。警戒しろ、遊矢」

「《アンダバタエ》の効果…。このカードをこの方法で特殊召喚に成功したとき、エクストラデッキからレベル7以下の剣闘獣融合モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚できる!現れろ、《剣闘獣ガイザレス》!!」

 

剣闘獣ガイザレス レベル6 攻撃2400

 

「そして、《アンダバタエ》と《ガイザレス》をエクストラデッキに戻し、融合!!」

「何!?今度は融合モンスター同士での融合だと!?」

「現れろ…!!剣闘獣の支配者!!《剣闘獣総監エーディトル》!!」

今度は口上なしでエクストラデッキから排出されたカードをデュエルディスクに設置し、目的のモンスターがリアルソリッドビジョンによって降臨する。

剣闘獣を名乗りながらも杖を手にし、総監の名を持つ鹿のようなこのモンスターはこれまで戦った剣闘獣とはあらゆる意味で異質といえた。

 

剣闘獣総監エーディトル レベル8 守備3000

 

「《エーディトル》の効果発動!!1ターンに1度、エクストラデッキから《エーディトル》以外の剣闘獣融合モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する!俺は《剣闘獣ドミティアノス》を特殊召喚!」

杖についている魔石から光でできた鞭が出現し、それを振るうと同時に森の中から《剣闘獣ドミティアノス》が飛び出す。

 

剣闘獣ドミティアノス レベル10 攻撃3500

 

「《ドミティアノス》!?」

このモンスターの1ターンに1度だけとはいえ、モンスター効果を無効にして破壊する効果はフルモンスターの権現坂には刺さる。

おまけに攻撃対象を決める権利を奪われるとなると、下手にバトルフェイズに映り、攻撃を行うわけにもいかない。

「俺は…カードを1枚伏せ、ターンエンド!!」

 

バトル・ビースト

手札5→0

ライフ4000

場 剣闘獣総監エーディトル レベル8 守備3000

  剣闘獣ドミティアノス レベル10 攻撃3500

  剣闘排斥波(永続魔法)

  伏せカード1

 

 

遊矢&権現坂

手札

権現坂5

遊矢5

ライフ4000

場 なし

 

(《ドミティアノス》は奴のデュエルロイドとのデュエルで何度も見たが、《エーディトル》だと…?それは初めて見る…)

やはり本体のすべてをデュエルロイドでは再現することができないのか、それとも彼の身を守るためにあえて強力なカードを用意していたのかはわからない。

一つわかることは、そのモンスターが存在することが2人の状況を不利にすることだ。

「ならば…俺のターン!!」

 

権現坂

手札5→6

 

「俺は手札より《超重武者カゲボウ-C》を召喚!」

 

超重武者カゲボウ-C レベル3 攻撃500

 

「《カゲボウ-C》の効果。このカードをリリースすることで、手札から超重武者1体を特殊召喚できる」

(権現坂のデッキの中で最大の守備力を持っているのは《ビックベン-K》。《ドミティアノス》の攻撃力は3500)

守備表示のまま攻撃できる《超重武者ビッグベン-K》で《剣闘獣ドミティアノス》を相討ちさせることもできる。

だが、それを通すほど本体のバトル・ビーストは甘くない。

「《ドミティアノス》の効果…。1ターンに1度、相手モンスターの効果の発動を無効にし、破壊する!」

《剣闘獣ドミティアノス》の杖から放たれる電撃が《超重武者カゲボウ-C》を襲い掛かり、破壊する。

「だが…その効果も1ターンに1度のみ!俺の墓地に魔法・罠カードが存在しないとき、《超重武者ヒキャ-Q》は手札から特殊召喚できる!」

人間の骨格に直接ピンクの装甲が装着された状態で、飛脚のような様相をしている超重武者が飛び出すと、バトル・ビーストのフィールドへと走っていく。

 

超重武者ヒキャ-Q レベル5 守備1800

 

「《ヒキャ-Q》の効果。俺の墓地に魔法・罠カードが存在しない場合、このカードをリリースすることで、相手フィールドに俺の手札のモンスターを2体まで特殊召喚する。俺は手札の《ツヅ-3》と《イワトオシ》を貴様のフィールドに特殊召喚する!」

肩に背負っている小包の布をほどくと、その中から《超重武者ツヅ-3》と《超重武者装留イワトオシ》が飛び出してきた。

 

超獣武者ツヅ-3 レベル1 守備300(チューナー)

超獣武者装留イワトオシ レベル4 守備0

 

「そして、この効果で特殊召喚されたモンスターと同じ数だけデッキからカードをドローする。そして、さらに俺は手札の《超重武者装留タネガシマ》の効果発動。俺の墓地に魔法・罠カードが存在せず、俺のフィールドにモンスターが存在しないとき、手札のこのカードを墓地へ送ることで、デッキからカードを2枚ドローし、その後で手札の超重武者1体を墓地へ送る。その時に手札に超重武者が存在しない場合、手札をすべて墓地へ送られなければならない。俺はカードを2枚ドローし、手札の《ビックベン-K》を墓地へ送る」

フィールドに侍用の甲冑の残骸をつなぎ合わせたような状態の鉄砲が現れると、権現坂の手札にあった《超重武者ビッグベン-K》を撃ちぬく。

「そして、相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、このカードは手札から特殊召喚できる。俺は《超重武者ヨシツ-Ne》を特殊召喚」

超重武者の名を持ち、武士の甲冑を身にまといながらも、女性のようなほっそりとした体つきをしているうえに白銀の布を頭からかけているためにこれまでとは違う趣を持つ超重武者が権現坂達の頭上を大きく跳躍してフィールドに現れる。

 

超重武者ヨシツ-Ne レベル7 守備2500

 

「そして、《ヨシツ-Ne》の効果。俺の墓地に魔法・罠カードが存在しない場合、1ターンに1度、フィールド上のカードを1枚破壊できる!」

「《剣闘排斥波》の効果。バトルフェイズ以外で俺の剣闘獣は相手の効果の対象にならない!」

「俺が対象とするのは《ツヅ-3》だ!いけ、《ヨシツ-Ne》!!」

2本の刀を逆手に握った《超重武者ヨシツ-Ne》が再び大きく跳躍すると、《超重武者ツヅ-3》の前に着地するとともにそのモンスターをバラバラに切り裂いた。

「そして、この効果で破壊したカードがモンスターの場合、その元々の攻撃力分のダメージを貴様に与える!」

「ぐうう!!」

剣閃がバトル・ビーストを襲い、その頬をかすめる。

体から感じる痛みに憤りを感じながら権現坂を見る。

 

バトル・ビースト

ライフ4000→3700

 

「《ツヅ-3》の効果。フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られたとき、墓地の超重武者1体を特殊召喚できる。俺は《ビッグベン-K》を特殊召喚する!」

権現坂のフィールドへ戻った《超重武者ヨシツ-Ne》の目の前にひざまずくような態勢で《超重武者ビッグベン-K》がフィールドに現れる。

そして、相手であるバトル・ビーストに向けて振り返ると、背中にさしてある刺叉を抜く。

 

超重武者ビッグベン-K レベル8 守備3500

 

「バトルだ!《ビッグベン-K》で攻撃する!さあ、攻撃対象を貴様が選ぶのだろう!?」

「グウウウ!!《ビッグベン-K》の相手は、お前が召喚した《イワトオシ》だ!!」

《超重武者ビッグベン-K》の拳が地面に突き立てられると同時に《超重武者装留イワトオシ》の足元から火柱が発生する。

炎の中にそのモンスターが消滅するとともに、権現坂のデッキからカードが1枚自動排出される。

「そして、《イワトオシ》の効果。このカードがフィールドから墓地へ送られたとき、デッキから《イワトオシ》以外の超重武者1枚を手札に加える。俺が手札に加えるのは《超重武者装留ビッグバン》!そして、メインフェイズ2に手札の《ビッグバン》の効果を発動。手札のこのカードを俺のフィールドの超重武者1体に装備させ、守備力を1000アップさせる。俺は《ビッグベン-K》にこのカードを装備する。俺はこれで、ターンエンドだ!」

 

バトル・ビースト

手札0

ライフ3700

場 剣闘獣総監エーディトル レベル8 守備3000

  剣闘獣ドミティアノス レベル10 攻撃3500

  剣闘排斥波(永続魔法)

  伏せカード1

 

 

遊矢&権現坂

手札

権現坂6→3

遊矢5

ライフ4000

場 超重武者ビッグベン-K(《超重武者装留ビッグバン》装備) レベル8 守備3500→4500

  超重武者ヨシツ-Ne レベル7 守備2500

 

ほんの些細ではあるが、ダメージを受けたことでバトル・ビーストの視線が権現坂に向けられる。

その様子を表情一つ変えずに見つめる権現坂。

(そうだ…来い、向かうのならば、俺に向かってこい!!)

「俺の…ターン!!!」

 

バトル・ビースト

手札0→1

 

「消し飛ばしてやる…!!《エーディトル》の効果発動!エクストラデッキから《剣闘獣ガイザレス》を特殊召喚する!」

再び鞭が振るわれ、フィールドには剣闘獣デッキには王道といえるモンスターが現れる。

すべては己を傷つけた男のモンスターを破壊するために。

 

剣闘獣ガイザレス レベル6 攻撃2400

 

「《ガイザレス》の効果!!このカードが特殊召喚に成功したとき、フィールド上のカードを2枚まで破壊できる!俺が破壊するのは2体の超重武者だ!!」

いかに守りを固めようとも、《剣闘獣ガイザレス》が生み出す真空波を前にしては容易に切り裂かれるだけ。

現に発生する無数の刃は《超重武者ヨシツ-Ne》を引き裂き、さらには周囲の木々や権現坂をも傷つける。

「権現坂!!」

「ぐうう…《ビッグベン-K》は破壊させん!!俺は手札の《超重武者装留ファイヤー・アーマー》の効果を発動!!手札のこのカードを墓地へ送り、俺のフィールドの超重武者1体の守備力をターン終了時まで800ダウンさせる代わりに、このターンの間は戦闘でも効果でも破壊されなくする!!」

「《ドミティアノス》の効果で、その効果は無効だああ!!」

フィールドに出現した《超重武者装留ファイヤー・アーマー》が《剣闘獣ドミティアノス》が放つ電撃によって消滅し、守りを失っている《超重武者ビッグベン-K》が両腕で我が身を守る。

装甲に数えきれないほどの傷が生まれ、やがて背中から倒れてしまう。

「俺は手札の《超重武者ツグノ-Bu》の効果発動!俺の墓地に魔法・罠カードが存在せず、俺のフィールドの超重武者が戦闘または相手の効果によって破壊されたとき、このカードを手札から特殊召喚できる!」

倒れた《超重武者ビッグベン-K》の前に青白い人型の炎が現れ、その身に包んだ甲冑を盾替わりにして真空波を受け止める。

 

超重武者ツグノ-Bu レベル2 守備0

 

「そして、墓地からその時破壊されたモンスター1体を特殊召喚し、それらを素材としてシンクロ召喚を行う!!俺はレベル8の《ビッグベン-K》にレベル2の《ツグノ-Bu》をチューニング!!」

真空波が収まるとともに鎧を強制排除した《超重武者ツグノ-Bu》の炎が2つのチューニングリングへと変換され、その中に《超重武者ビッグベン-K》が飛び込む。

「荒ぶる神よ、千の刃の咆哮と共に獣が住まう密林に現れよ!シンクロ召喚!いざ、出陣!レベル10!《超重荒神スサノ-O》!!」

シンクロ召喚された《超重荒神スサノ-O》がその場に座り、手にしている刀をバトル・ビーストに向ける。

 

超重荒神スサノ-O レベル10 守備3800

 

「よし…!《スサノ-O》の守備力は3800!!《ドミティアノス》の攻撃力を上回った!」

「グウウウウ!!俺は永続罠《剣闘海戦》を発動!!1ターンに1度、手札か墓地の剣闘獣1体をデッキに戻すことで、俺のフィールドの剣闘獣1体の攻撃力をターン終了時まで元々の守備力分アップさせる!俺は手札の《ホプロムス》をデッキに戻し、《ドミティアノス》の攻撃力をアップ!!」

 

剣闘獣ドミティアノス レベル10 攻撃3500→4700

 

「攻撃力4700!?」

せっかくシンクロ召喚した《超重荒神スサノ-O》の守備力3800がほんの一瞬で逆転されてしまった。

このままそのモンスターが戦闘破壊され、さらに攻撃表示に変更されるであろう《剣闘獣総督エーディトル》と《剣闘獣ガイザレス》のダイレクトアタックを受けたら、2人のライフは0になる。

「俺は《エーディトル》を攻撃表示に変更!!」

 

剣闘獣総督エーディトル レベル7 守備3000→攻撃2400

 

「バトル!!《ドミティアノス》で《スサノ-O》を攻撃!!」

《剣闘海戦》の効果によってパワーアップした《剣闘獣ドミティアノス》が杖を空に掲げ、同時に上空に分厚い雷雲が生まれる。

そこから落ちてくる雷が一撃で《超重荒神スサノ-O》を爆散させた。

「グオオオオオ!!さらに、《ガイザレス》でダイレクトアタック!!」

ギャオオオオと激しく鳴く《剣闘獣ガイザレス》がかまいたちを起こし、それが権現坂に襲い掛かる。

両腕で身を守り、それを受ける権現坂だが、その体は宙を舞い、後ろにある木に激突した。

「ガ…あ!!」

「権現坂!!!」

 

権現坂&遊矢

ライフ4000→1600

 

「続けて、《エーディトル》で…」

「いいや…ここで、俺は手札の《超重武者タダノ-Bu》の効果を発動。俺がダイレクトアタックにより戦闘ダメージを受けたとき、手札のこのカードを守備表示で特殊召喚できる」

左腕の裾で口元の血をぬぐい、カードを操作した権現坂の前に《超重武者ヨシツ-Ne》に似た甲冑姿をしたやや大柄の超重武者が主の盾とならんと3体の剣闘獣の前に立ちはだかる。

「そして、俺が受けたダメージと同じ数値の守備力を持つ《超重武者トークン》2体を特殊召喚する」

さらに《超重武者タダノ-Bu》の左右を固めるようにやや簡素な平安武者の甲冑を身に着けた超重武者が現れる。

 

超重武者タダノ-Bu レベル4 守備1800

超重武者トークン×2 レベル4 守備2400

 

「グウウウウ!!《エーディトル》!!《タダノ-Bu》を蹴散らせ!!」

本来であれば剣闘獣に命令するためにふるう鞭が敵である《超重武者タダノ-Bu》にふるわれる。

鞭を受けた《超重武者タダノ-Bu》が消滅した。

「そして、《ガイザレス》の効…!?」

発動を宣言しようとしたバトル・ビーストだが、急にそれを動きを止め、戸惑った様子を見せる。

その理由がわかっている権現坂は起き上がるとともに不敵な笑みを見せる。

「どうした…?効果によってデッキの仲間を呼び出すのではないのか?」

それが今の状況ではできないことはわかっている。

権現坂の墓地へ送られたカード、《超重武者装留ビッグバン》のせいで。

(《ビッグバン》は自分フィールドに超重武者が表側守備表示で存在する状態でバトルフェイズ中に相手がカード効果を発動したとき、墓地から除外することでその発動を無効にして、破壊する。そして、フィールド上のモンスターをすべて破壊して、お互いに1000のダメージを受ける…権現坂はこのために)

フィールドには2体の《超重武者トークン》が残り、バトルフェイズ終了時もバトルフェイズの一部。

発動条件は満たされる。

「俺は…効果を発動しない。ターンエンド!!《剣闘海戦》の効果は消える!!」

 

バトル・ビースト

手札1→0

ライフ3700

場 剣闘獣総監エーディトル レベル8 攻撃2400

  剣闘獣ドミティアノス レベル10 攻撃4700→3500

  剣闘獣ガイザレス レベル6 攻撃2400

  剣闘排斥波(永続魔法)

  剣闘海戦(永続罠)

 

 

遊矢&権現坂

手札

権現坂3→2

遊矢5

ライフ1600

場 超重武者トークン×2 レベル4 守備2400

 

「う、ぐう…」

「権現坂!!」

バトル・ビーストの動きが止まり、それを見た権現坂は若干ふらつき始め、遊矢がその巨体を支えようとする。

だが、権現坂は左手で振り払う。

「集中しろ、遊矢!!お前のターンだぞ!!」

「権現坂…」

「このターンが勝負だぞ…」

せっかく墓地へ落した《超重武者装留ビッグバン》の剣闘獣の動きを封じる効果はフィールドに守備表示の超重武者がいなければ発動できない。

当然、2体の《超重武者トークン》はこのままバトル・ビーストのターンが来れば破壊されるのは目に見えている。

「俺のターン、ドロー!!」

 

遊矢

手札5→6

 

「俺はスケール3の《EMシール・イール》とスケール6の《EMオッドアイズ・ミノタウロス》でペンデュラムスケールをセッティング!」

カラフルなウナギ型のモンスターと二色の眼を持つデフォルメされたミノタウロスというべきモンスターが遊矢の左右で光の柱を生み出す。

「《シール・イール》のペンデュラム効果発動!1ターンに1度、相手フィールドに存在するモンスター1体の効果をターン終了時まで無効にする!」

光の柱から飛び出した《EMシール・イール》が発射した×のシールが《剣闘獣ドミティアノス》に命中する。

同時に巨大化したシールはそのモンスターの身動きを封じて見せた。

「これで、攻撃対象を俺が決めることができ、モンスター効果も妨害されない!そして、俺はレベル4から5のモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!ペンデュラム召喚!現れろ、《EMチェンジ・スライム》《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」

光の中から現れたのは左目のあたりの星のタトゥーをつけ、白黒のシルクハットを受けた水色のスライムだった。

 

EMチェンジ・スライム レベル5 守備1900

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

「《チェンジ・スライム》の効果。このカードをリリースすることで、俺のフィールドのモンスターの属性と種族をターン終了時まで俺が宣言したものに変更する。俺が宣言するのは闇属性・ドラゴン族だ!」

《EMチェンジ・スライム》が大きくその体を膨張させ、元々闇属性・ドラゴン族である《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は無視して、2体の《超重武者トークン》を取り込んでいく。

そして、スライム部分が消えると現れたのは黒い甲冑へと変貌し、顔立ちがドラゴンに似たものとなった2体の《超重武者トークン》だった。

「さらに、俺は手札から《EMトランプ・ウィッチ》を召喚!」

 

EMトランプ・ウィッチ レベル1 攻撃200

 

「《トランプ・ウィッチ》の効果。1ターンに1度、俺のフィールドのモンスターを素材に融合召喚を行うことができる!俺が融合素材にするのは《チェンジ・スライム》の効果で闇属性・ドラゴン族になった2体の《超重武者トークン》!!」

(そうだ…俺の布陣は剣闘獣の動きを止め、弾丸を生み出すための物!!)

《EMトランプ・ウィッチ》が杖を振るい、トランプのスートがちりばめられた渦を生み出すと、その中に2体の《超重武者トークン》が飛び込んでいく。

「友を守る2つの盾が今一つとなる!融合召喚!現れろ、《ヴァレルロード・F・ドラゴン》!!」

 

ヴァレルロード・F・ドラゴン レベル8 攻撃3000

 

(《ヴァレルロード・F・ドラゴン》…。剣崎殿から受け取った、遊矢の新たなドラゴンの1体)

「バトルフェイズ開始とともに、《F・ドラゴン》の効果を発動!1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体と相手フィールドのカード1枚を破壊することができる!俺は《トランプ・ウィッチ》と《ドミティアノス》を破壊する!」

《EMトランプ・ウィッチ》が光の球体となって《ヴァレルロード・F・ドラゴン》に吸収される。

《ヴァレルロード・F・ドラゴン》の口が開き、口内に隠されていた銃身があらわとなる。

そこから発射された弾丸が《剣闘獣ドミティアノス》を撃ちぬき、爆散させた。

「続けて攻撃だ!《F・ドラゴン》で《エーディトル》を攻撃!」

続けて弾丸を生み出した《ヴァレルロード・F・ドラゴン》はそれを《剣闘獣総督エーディトル》に向けて発射する。

着弾と同時にそのモンスターも先ほどの《剣闘獣ドミティアノス》と同様爆散し、爆風がバトル・ビーストを襲う。

「グオオオオオ!!!」

 

バトル・ビースト

ライフ3700→3100

 

「さらに、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で《ガイザレス》を攻撃!螺旋のストライク・バースト!!」

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が放つ螺旋の炎が最後に残った剣闘獣を焼き尽くし、炎はバトル・ビーストにも及ぶ。

「《オッドアイズ》が相手モンスターと戦闘を行ったとき、相手に与える戦闘ダメージは倍になる!!」

「グルルル…」

 

バトル・ビースト

ライフ3100→2900

 

「そして、カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

バトル・ビースト

手札0

ライフ2900

場 剣闘排斥波(永続魔法)

  剣闘海戦(永続罠)

 

 

遊矢&権現坂

手札

権現坂2

遊矢6→0

ライフ1600

場 ヴァレルロード・F・ドラゴン レベル8 攻撃3000

  オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃2500

  EMシール・イール(青) Pスケール2

  EMオッドアイズ・ミノタウロス(赤) Pスケール6

  伏せカード1

 

 

「く…くそ!!」

「どうした?この程度か…?」

ヒイロとデュエルを行うサンダースは《マリンフォース・ドラゴン》のモンスター効果によってエクストラデッキに戻された《剣闘獣総督エーディトル》を見て、今自分が置かれている状況がいかに悪いものかを感じていた。

今はバトル・ビーストの状況を見る余裕はなく、おまけに一緒にいるブーンは加勢する様子を見せない。

「ブーン、貴様!!今すぐ加勢しろ!!奴を倒さねば、プロフェッサーに危害が!!」

「悪いな、あんたに俺たちジェルマンを命令する権限はない。そのプロフェッサーからジェルマン独自の行動を許されている。いわば、俺たちはアカデミアの中の独立した部隊というわけだ」

「き、貴様…!」

「悪いな、サンダース教官。安心しろ、お前がいなくなったとしても、プロフェッサーの身は安全だ」

 

「ジェルマン…。なるほど。アカデミアの中でも異質な部隊だということは遊矢たちからの話でも分かったが…」

「ええ…。ですが、変わらないものもあります。プロフェッサーの…いえ、赤馬零王の狂気から生まれた点です」

船内の病室の中でエリクから話を聞く遊勝の拳に力が入り、弱った体が震える。

身体障碍の著しい彼には遊勝の護衛を任されており、侵入してきたらすぐにデュエルができるようにデュエルディスクは装着したままにしている。

「プロフェッサーの登場によってアカデミアはデュエル戦士養育のための組織となりました。しかし、一定年齢に達した少年少女を集めて、訓練するのには時間がかかります。そして、本人の素質の問題もある。それを解決する手段として生まれたのが我々、ジェルマンなのです」

訓練してきたデュエル戦士の中でも高い素質を持つ少年少女のDNAを採取し、それから生み出したIPS細胞を利用して人工的に精子と卵子を精製する。

そして、最高の相性と認められた精子と卵子を人工授精して生み出された人間の集団がジェルマンだ。

「生み出されたデザインベビーは成長促進のための処置が施されます。そして、インプラントによって脳を制御すれば、アカデミアにとって最高の戦士となる…。しかし、今のジェルマンはプロフェッサーではなく、プロフェッサーの代理人であるAIそのものに忠誠を誓っています」

「AIそのものへの忠誠…か…。遅すぎたのかもしれないな…。すべてが…」

 

「ぐう…ぐうう…」

モンスターが全滅し、おまけに遊矢と権現坂のフィールドには2体のドラゴンが存在する。

この状況はバトル・ビーストにとっては絶望的な状況だ。

不意に脳裏にかすめたのがここから逃げるという選択肢。

だが、その選択肢はすぐに消えてしまい、視線がデッキに向けられた。

「俺の…ターン!!!」

 

バトル・ビースト

手札0→1

 

「俺は手札から魔法カード《逆境の宝札》を発動!!相手フィールドに特殊召喚されたモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しないとき、デッキからカードを2枚ドローする!!そして、俺は手札から《静寂の剣闘》を発動!相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、デッキから剣闘獣1体と剣闘獣魔法カード1枚を手札に加える。俺は《団結する剣闘獣》と《剣闘獣ホプロムス》を手札に加える!そして、俺は手札から《スレイブライオン》を召喚!」

密林の中からのそりのそりとゆっくりとした足取りで《スレイブタイガー》に似た様相の鎧を身にまとったライオンが現れる。

違いがあるとすれば、四肢と首に鎖付きの拘束具が装着されていることだ。

 

スレイブライオン レベル3 攻撃300

 

「こいつがフィールド上に存在する限り、こいつも剣闘獣扱いになる!そして、こいつの召喚に成功したとき、自分フィールドに他にモンスターが存在しない場合、相手フィールドに存在する特殊召喚されたモンスターと同じ数まで墓地から剣闘獣をエクストラデッキに戻すことができる!今フィールドに存在するのは《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と《ヴァレルロード・F・ドラゴン》!よって、墓地の《エーディトル》と《ガイザレス》をデッキに戻す!そして、戻したカードと同じ数だけデッキから剣闘獣を効果を無効にして特殊召喚する!俺は《ベストロウリィ》と《ウェスパシアス》を特殊召喚!」

《スレイブライオン》が空に向けて咆哮し、密林の中から2体の剣闘獣が飛び出し、彼の両サイドに立つ。

 

剣闘獣ベストロウリィ レベル4 攻撃1500

剣闘獣ウェスパシアス レベル7 攻撃2300

 

「俺は《F・ドラゴン》の効果を発動!このモンスターの効果は相手ターンでも発動できる!《オッドアイズ》と《剣闘排斥波》を破壊する!!」

《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が変化した光を吸収した《ヴァレルロード・F・ドラゴン》の口から放たれる弾丸が《剣闘排斥波》のソリッドビジョンを撃ちぬく。

これで新たな剣闘獣をフィールドに呼び出されることを防いだものの、まだバトル・ビーストの動きは止まらない。

「そして、俺は《ベストロウリィ》と《スレイブライオン》をデッキに戻し、融合する!!現れろ、《剣闘獣ガイザレス》!!」

 

剣闘獣ガイザレス レベル6 攻撃2400

 

「《ガイザレス》の効果発動!!このカードの特殊召喚に成功したとき、フィールド上のカードを2枚まで破壊できる!《ヴァレルロード・F・ドラゴン》と伏せカードを破壊する!!」

《剣闘獣ガイザレス》が大きく飛び上がり、かまいたちを起こそうとする。

「ここでフィールドががら空きになっては…!!」

「それはさせない!!俺は罠カード《ペンデュラム・ブロック》を発動!俺のペンデュラムゾーンにペンデュラムカードが2枚存在するとき、このターン俺のフィールドのモンスター1体は戦闘・効果では破壊されない!」

2本の光の柱が生み出したバリアが《ヴァレルロード・F・ドラゴン》を包み、その身を守る。

「バトルフェイズ開始と同時に、俺は手札から速攻魔法《団結する剣闘獣》を発動!!手札・フィールド・墓地の剣闘獣をデッキに戻し、剣闘獣融合モンスターをエクストラデッキから特殊召喚する!!俺は墓地の《アンダバタエ》、フィールドの《ガイザレス》をデッキに戻し、再び現れろ!!《剣闘獣総督エーディトル》!!」

 

剣闘獣総督エーディトル レベル8 守備3000

 

「そして、メインフェイズ2に《エーディトル》の効果!!再びエクストラデッキから《ガイザレス》を特殊召喚する!!」

《剣闘獣総督エーディトル》のふるう鞭に従い再び戦場に姿を現す《剣闘獣ガイザレス》。

再びフィールドを薙ぎ払うべく、翼に風をためていく。

「《ガイザレス》の効果!!お前の2枚のペンデュラムカードを破壊する!!」

再び吹き荒れる風が光の柱を粉々に打ち砕き、さらにはそれを生み出していた2体のペンデュラムモンスターを粉みじんにしていく。

「俺はこれで…ターンエンド…」

「《ペンデュラム・ブロック》の効果。この効果の対象となったモンスターがペンデュラムモンスターじゃない場合、ターン終了と同時に墓地へ送られる」

バリアが消えると同時に《ヴァレルロード・F・ドラゴン》も姿を消す。

守ってくれる存在のいない2人を2体の剣闘獣がにらむ。

 

バトル・ビースト

手札1(《剣闘獣ホプロムス》)

ライフ2900

場 剣闘獣総督エーディトル レベル8 守備3000

  剣闘獣ガイザレス レベル6 攻撃2400

  剣闘海戦(永続罠)

 

 

遊矢&権現坂

手札

権現坂2

遊矢0

ライフ1600

場 なし

 

「はあ、はあ…まだ、まだ…いる、ね…」

フラフラになった伊織はその場に座りかける自分に活を入れるべく足を叩くが、それでも体の疲労をごまかすことができない。

この中では一番持ちこたえているであろう零児も、十数人目のデュエルロイドを相手する段階でとうとう契約書の効果以外でのダメージを受けるようになっていた。

「ちっ…いくら倒しても機械じゃあな…」

「大丈夫だよ。遊矢君と権現坂君が勝って、本体を止めればこれも終わる。あとは、耐えればいいだけだ」

遊矢と権現坂もそうだが、気がかりなのは敗れた沢渡だ。

おそらくはカードにされている可能性が高く、デュエルロイドの中にもし沢渡のカードを持っている個体があれば、そこから回収して翔太の力で救出することができる。

そのためにも、2人には頑張ってもらうしかない。

 

「俺の…ターン!!」

 

権現坂

手札2→3

 

「獣め!このターンで終わらせてくれる!!俺のフィールドにモンスターが存在せず、相手フィールドに2体以上モンスターが存在する場合、《超重武者テンB-N》は特殊召喚できる!」

 

超重武者テンB-N レベル4 守備1800

 

「そして、このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、墓地からレベル4以下の超重武者1体を特殊召喚できる。俺が特殊召喚するのは《カゲボウ-C》だ!!」

 

超重武者カゲボウ-C レベル3 守備1000

 

「そして、俺は《テンB-N》と《カゲボウ-C》をリリースし、アドバンス召喚!老将の刃よ、密林の中で燃え上がれ!!《超重武者装留ホムラカネフサ》!!」

2体の超重武者が姿を消しと同時に権現坂と遊矢の目の前の地面が砕け、火柱が発生する。

その中から現れたのは切り傷や刺さったままの大量の矢が印象的な平安武者の鎧で、隙間からは炎が漏れ出ている。

火柱が収まると、鎧の中にあるのであろう炎が激しく燃え上がり、全身を炎でまとった状態で立ち上がる。

 

超重武者装留ホムラカネフサ レベル8 攻撃0

 

「《ホムラカネフサ》の効果…。このカードの召喚に成功したとき、墓地に存在するレベル7または8の超重武者を効果を無効にし、守備表示で特殊召喚し、このカードを装備させる!甦れ、《ビッグベン-K》!!」

砕けた地面から右腕が出てきて、それが地面をつかむ。

そこから出てきたのはボロボロな状態の《超重武者ビッグベン-K》で、這い出るとともにその装甲の破片が地面に落ち、内部の回路が露出していく。

そんな彼の身を守るべく、《超重武者装留ホムラカネフサ》が全身を分離させ、それらが《超重武者ビッグベン-K》に装着されていく。

紅蓮の鎧を身にまとった《超重武者ビッグベン-K》は新たに手にした燃える刀身の長刀を振るう。

「《ホムラカネフサ》を装備した《ビッグベン-K》の守備力は1000アップする!!」

 

超重武者ビッグベン-K レベル8 守備3500→4500

 

(これなら、《エーディトル》は倒せるかもしれない。でも…)

それでも、守備表示であるためにダメージを与えることができず、《剣闘獣ガイザレス》がフィールドに残ることになる。

フィールドに残る剣闘獣の数があればあるほど、バトル・ビーストの選択肢は広がることになる。

「そして、俺は墓地の《ペンデュラム・ブロック》の効果を発動!このカードを除外し、《ビッグベン-K》にこのターンのみ、戦闘または効果で破壊されたときに復活できる効果を与える!」

これで墓地から魔法・罠カードがなくなり、超重武者たちは再び真の力を発揮できるようになった。

だが、効果を無効化された《超重武者ビッグベン-K》は守備表示のまま攻撃することができない。

今の状態のバトルフェイズであれば、《超重武者装留ビッグバン》の効果を使うことができるが、そのことはバトル・ビーストも分かっていることだ。

「俺は《ホムラカネフサ》の効果を発動!俺のライフを半分支払い、フィールド上のこのカードの装備モンスターの守備力以下の攻撃力を持つモンスターすべてと魔法・罠カードを焼き尽くす!!」

「な…何ぃ!?」

「修羅の炎に焼かれるがいい!!」

一瞬目を光らせた《超重武者ビッグベン-K》が長刀を地面に突き刺すと同時に大爆発を引き起こす。

爆発とともにそこから発生する炎の嵐は森を焼き尽くし、2体の剣闘獣と《剣闘海戦》も灰となっていく。

「う、ああ…うわあああああ!!!!!」

荒れ狂う炎の中、崩壊していく布陣にバトル・ビーストは頭を抱え、声を上げるしかなかった。

 

「この感じ…?」

デュエルロイドとデュエルをする侑斗もまた、権現坂が引き起こした事態を感じ取った。

同時に、これは下手をするとこちらも巻き込みかねないスケールのものだということも感じていた。

「みんな!僕のところに集まるんだ!!!」

「はあ…?何を言って」

「いいから!!」

有無を言わさぬ態度に文句を言いたげな翔太だが、侑斗に従うように彼に近くまで後ずさる。

翔太に続いて零児や伊織たちも集まったのと前後するかのように、急に暑さを感じ始める。

「この暑さ…これは…」

「ウィンダ!」

「ユウ!!」

侑斗とウィンダが互いに風を起こし、それを障壁にして仲間たちの盾にした直後、激しい炎が侑斗たちに襲い掛かる。

炎を受けたデュエルロイド達は高温によって動きが鈍り、中には冷却が追いつかずに機能停止するものも出てくる。

焼かれていく森だが、それでも再生しようという動きを見せるも、続けてやってくる炎の嵐に再び焼かれる。

ほんの数分の嵐が過ぎ、風の障壁を解除した後に広がったのは焼け焦げた木々、そして何らかの機能を停止させるか何らかの障害を起こしているデュエルロイド達の姿だった。

「おいおい…何がどうしたら、こんなことが起こるんだよ…?」

「遊矢か権ちゃんがやったのって思ったけど…その通りみたい」

森が焼き尽くされたことで、バトル・ビーストとデュエルを行う2人の姿、そしてデュエルアカデミアの正門の光景を肉眼で見ることができた。

(この森のリアルソリッドビジョンの本来の大きさは30メートル程度。でも、僕たちの感覚ではそれ以上の広さに感じられた。ソリッドビジョンそのものの仕掛けというしかないのかな…?)

 

「そして、《ホムラカネフサ》の効果によって破壊された《ビッグベン-K》は《ペンデュラム・ブロック》から得た効果により、墓地からよみがえる!!」

焼けた地面に再び大穴が空き、そこから出てきたのは黒く焦げた装甲姿で、炎の長刀を握った《超重武者ビッグベン-K》だった。

 

超重武者ビッグベン-K レベル8 守備3500

 

遊矢&権現坂

ライフ1600→800

 

「とどめだ、獣よ!!《ビッグベン-K》でダイレクトアタック!!」

頭上で数回長刀を回転させた後、それをバトル・ビーストにむけてふるう。

「ギャアアアアアアア!!!」

刃を受けたバトル・ビーストの体は焼けた地面の上を転げまわり、正門に激突してようやく止まった。

 

バトル・ビースト

ライフ2900→0

 

 

 

 

 

 

超重武者装留タネガシマ

レベル3 攻撃1200 守備1500 効果 地属性 機械族

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できず、(3)の効果はデュエル中1度だけ発動できる。

(1):自分メインフェイズに自分フィールドの「超重武者」モンスター1体を対象として発動できる。自分の手札・フィールドからこのモンスターを守備力800アップの装備カード扱いとしてその自分のモンスターに装備する。

(2):このカードの効果でこのカードが装備されている場合に発動できる。装備されているこのカードを手札に戻す。この効果は相手ターンでも発動できる。

(3):自分の墓地に魔法・罠カードが存在しないとき、手札に存在するこのカードを墓地へ送ることで発動できる。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札の「超重武者」モンスター1体を墓地へ送る。その時手札に「超重武者」モンスターが存在しない場合、手札をすべて墓地へ送る。

 

超重武者ヨシツ-Ne

レベル7 攻撃1500 守備2500 効果 地属性 機械族

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しか行えない。

(1):自分フィールドにモンスターが存在せず、相手フィールドにモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):手札に存在するカードはこのカードのみの場合、このカードはリリースなしで表側守備表示で召喚できる。

(3):1ターンに1度、自分の墓地に魔法・罠カードが存在しない場合、フィールド上のカード1枚を対象に発動できる。そのカードを破壊する。その効果で破壊したカードがモンスターカードの場合、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。

 

超重武者ツグノ-Bu

レベル2 攻撃0 守備0 スピリット・チューナー 地属性 機械族

このカードは(2)以外の方法で特殊召喚できず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・リバースしたターンのエンドフェイズに発動する。

このカードを持ち主の手札に戻す。

(2):相手ターン中、自分フィールドの「超重武者」モンスターが戦闘または相手の効果によって破壊されたとき、自分の墓地に魔法・罠カードが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。その後、破壊されたそのモンスターを墓地から特殊召喚し、このカードと特殊召喚したモンスター1体のみを素材として「超重武者」SモンスターのS召喚を行う。

(3):このカードの召喚に成功したとき、自分の墓地に魔法・罠カードが存在しない場合、自分フィールドに存在する「超重武者」1体を対象に発動できる。そのモンスターはこのターン、1度だけ戦闘・効果では破壊されない。

 

超重武者タダノ-Bu

レベル4 攻撃0 守備1800 効果 地属性 機械族

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手の直接攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けたときに発動できる。手札に存在するこのカードを特殊召喚する。その後、自分が受けた戦闘ダメージと同じ数値の守備力を持つ「超重武者トークン」1体を表側守備表示で特殊召喚する。その時、自分の墓地に魔法・罠カードが存在しない場合、代わりに「超重武者トークン」2体を表側守備表示で特殊召喚する。

(2):このカードが墓地に存在し、自分フィールドの「超重武者」モンスターが破壊されるときに発動できる。代わりにこのカードをゲームから除外する。

 

超重武者トークン

レベル4 攻撃0 守備0 トークン 地属性 機械族

「超重武者タダノ-Bu」の効果で特殊召喚される。

 

EMチェンジ・スライム

レベル5 攻撃1600 守備1900 効果 水属性 水族

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードをリリースし、自分が属性・種族を1つずつ宣言することで発動できる。ターン終了時まで自分フィールドのモンスターの属性・種族は宣言したものと同じになる。

 

静寂の剣闘獣

通常魔法カード

このカード名のカードは1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドにモンスターが存在せず、相手フィールドにのみモンスターが表側表示で存在する場合にのみ発動できる。デッキから「剣闘獣」モンスター1体と「剣闘獣」魔法カード1枚を手札に加える。この効果で手札に加えた魔法カードはこのターン、1度しか使用できず、このカードを発動したターン、自分は「剣闘獣」以外のモンスターを召喚・特殊召喚できない。

(2):自分フィールドの「剣闘獣」が相手モンスターの攻撃対象となった時、墓地に存在するこのカードと「剣闘獣」モンスター1体を除外することで発動できる。そのモンスターはこのターン、戦闘では破壊されない。

 

スレイブライオン

レベル3 攻撃300 守備300 効果 地属性 獣族

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、ルール上「剣闘獣」モンスターとしても扱う。

(1):このカードの召喚に成功したとき、自分フィールドに他のモンスターが存在しない場合にのみ発動する。相手フィールドに存在する特殊召喚されたモンスターの数まで墓地から「剣闘獣」融合モンスターをEXデッキに戻す。その後、その効果でEXデッキに戻したカードと同じ数だけデッキから「剣闘獣」モンスターを攻撃表示で特殊召喚する(同名のモンスターは1体まで)。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。この効果を発動したターン、自分は「剣闘獣」以外のモンスターを召喚・特殊召喚できない。

 

ペンデュラム・ブロック

通常罠カード

(1):自分PゾーンにPカードが2枚存在する場合にのみ発動できる。ターン終了時まで自分フィールドのモンスター1体は戦闘・効果では破壊されない。この効果を受けたモンスターがPモンスター以外の場合、ターン終了時に墓地へ送られる。

(2):墓地に存在するこのカードを除外し、自分フィールドに存在するモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターはターン終了時まで以下の効果を得る。この効果はこのカードは墓地へ送られたターン、発動できない。

●このカードが戦闘・効果によって破壊されたときに発動できる。このカードを墓地またはEXデッキから表側守備表示で特殊召喚する。

 

超重武者装留ホムラカネフサ

レベル8 攻撃0 守備0 効果 炎属性 機械族

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。

(1):このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、自分の墓地に存在するレベル7または8の「超重武者」モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。その後、このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化される。

(2):このカードが「超重武者」モンスターの装備カード扱いとして自分魔法・罠ゾーンに存在するとき、自分LPを半分支払うことで発動できる。フィールド上に存在する装備モンスターの守備力の数値以下の攻撃力を持つモンスターとお互いのフィールドの魔法・罠カードをすべて破壊する。

 

「はあ、はあ、はあ…」

倒れたバトル・ビーストを見た権現坂はようやく疲労を自覚したのか、その場で膝をつく。

そして、このデュエルの切り札となった《超重武者装留ホムラカネフサ》のカードを見た。

(親父殿が此度の決戦の餞別として託してくれたカード…)

 

エクシーズ次元から戻った権現坂は傷の回復を待たず、再び山籠もりを始めた。

その時の彼の心を突き動かしていたのは、何よりも無力感だった。

エドに敗れ、人質となって遊矢の心を追い詰める道具にされた挙句、エドを救えなかったことに悲しむ遊矢に対して、何の力になることもできなかった。

そんな弱い自分を鍛えなおそうと滝に打たれ、熊と戦い、拳を大木を倒し…。

それでも、体が傷つくだけで何の足しにもならない。

刃からシンクロ召喚を学び、そのうえで修業していた時は何らかの変化があったにもかかわらず。

そのことに悩み、苦しむ中で父親から渡されたのがこのカードだった。

(昇よ、シンクロ召喚を学び、新たな不動のデュエルの道を進むおぬしに儂からかけることのできる言葉はない。だが、このカードであれば、道を示してくれるだろう)

 

(今の俺にできること…修羅の道を進まざるを得ない遊矢の、友の盾となること…)

ただ受け止めるだけではない。

受け止めて、焼き尽くして障害を排除する。

このカードはまさにその焼き尽くす役目を担うカードといえた。

「よくやった、2人とも。ここからであれば、アカデミアの内部へ突入することができるだろう」

「そうだ…沢渡のカードは…!?」

バトル・ビーストを止めたことでデュエルロイド達の動きも止まった今なら探せる。

動こうとする遊矢に対して、零児達は動くそぶりを見せない。

「どうしたんだよ!?沢渡を見つけないと…」

「探したよ。けれど…見つからなかった」

「きっと、もうすでに回収されてしまったんだ…。翔太の能力はアカデミアも知ってるからな」

「くそっ!!沢渡…」

「でも、回収されたというならきっと、この中にあるはず…助けられないことはないはずだよ」

幸いというべきか、ここはアカデミアで、もう中へ突入できる状態だ。

だとしたら、助け出せる可能性は目に見えている。

「なら、行こ…」

扉を開き、先へ進む決意を固める中、風を切る音が侑斗の耳に届く。

デュエルに敗北し、気を失っていたはずのバトル・ビーストが獣のような四本足で疾走し、遊矢にとびかかろうとする。

「まずい…遊矢!!」

遊矢を殴り飛ばした権現坂の左肩にバトル・ビーストが食らいつく。

牙のような鋭い歯が権現坂の肉を貫き、骨にまで達する。

肩から流れる血と激しい熱が権現坂の体を汗で濡らす。

「ぐ、うう…うう!!」

「権現坂!!」

「くっ…どくんだ!!」

風の目を発動した侑斗が起こした風を感じたバトル・ビーストが権現坂から離れ、大きく後ろへ跳躍する。

口と歯にべっとりとついた血をぬぐうそぶりを見せず、遊矢たちとデュエルをした時と違い、感情も見せていない。

「ちぃ…まさかとは思うが、ロジェがセキュリティに仕掛けていたものと同じことを…」

ロジェがセキュリティの人員を操り人形にするために行った仕掛け。

それによって、バトル・ビーストは機械のように動き、遊矢たちを止めようとしている。

敗れたというなら、相討ちになってでも止めろというAIの命令を実行するかのように。

体格のある権現坂ですら、肩に重傷を負ってしまった。

精霊の力を持つ侑斗とウィンダでも、止められるかわからない。

再び遊矢たちに攻撃を仕掛けようと駆け出すバトル・ビースト。

それを見た素良はデュエルディスクを外す。

「大丈夫…みんな。僕に任せて」

「紫雲院素良…?」

「素良、何を!?」

素良は首筋に注射器を押し付け、中のナノマシンを注入する。

そして、それを投げ捨てた後でバトル・ビーストに向けて走り出した。

体格が小さい素良だが、アカデミアでデュエル戦士として鍛えられた体でかろうじてバトル・ビーストを抑える。

だが、彼を排除しようとバトル・ビーストの牙が彼の首を襲う。

「素良ー!!」

「か‥うう…やっぱり、そうか…君は…」

首からの出血に耐え、バトル・ビーストにしがみつく素良には彼から感じるはずの体温が異様に冷たいのが感じられた。

エクシーズ次元での戦線に参加したとき、1度だけ触れた住民の遺体と同じ冷たさ。

自分の道連れにふさわしい相手。

「みんな、僕たちから…離れるんだ。今から…僕の中に仕掛けられている爆弾が爆発する!!」

「何…!?」

「冗談…に聞こえるよね…?けど、本当なんだ。ずっと…ナノマシンを注射して止めてたけど…今回は、特別だ…!」

血が流れ出ているのに、徐々に体温が高まっていくのを感じる。

体内に仕掛けられた、裏切り者ともども遊矢たちを抹殺するための爆弾が炸裂へのカウントダウンを始めている。

誤算があるとしたら、巻き込まれる相手がバトル・ビーストだということだ。

「ダメだ…素良!!やめろって!!」

何かできることがあるはず、そう言いたかった遊矢だが、それを口にすることができなかった。

もう彼を救う手立てがない、それを直感で分かってしまったから。

それに、たとえ爆弾を解除したとしても出血量を考えるともう長くはない。

「ごめん…やっぱり、僕…みんなと一緒にいる資格なんてないよ。みんなと一緒にいて、笑ってデュエルをするには…僕、血で汚れすぎたみたい…」

だが、そんな血にまみれた自分でも、未来のための礎になることができる。

遊矢たちなら、きっとアークエリア・プロジェクトよりも、このAIが導き出す次元統一よりもマシな未来を作ってくれる。

そんな未来を見たかったという気持ちはあるが、その願いはほかのだれかに託すことができる。

「あのさ…1つだけ、頼んでいい…?僕、アカデミアに引き取られる前に、生き別れた妹がいるんだ」

「え…?」

「美宇って女の子。もし、生きていたら…会ってあげて」

「そんなの…そんなの、自分で会いに…!!」

「約束してくれ、遊矢!!約束してくれなきゃ…僕…死んでも…父さんと母さんに、会わせる顔がないんだ…!!」

記憶のかなたに消え、どんな人だったのかすらわからない父親と母親。

守るべき妹と離れ離れになり、デュエル戦士となり、人殺しをしてきた素良にとって、これが美宇と両親にできる唯一の孝行。

もう助からず、死へと一直線に進む素良にかけられる言葉は一つしかなかった。

「…わかったよ。…ありがとう、素良…」

「ちっ…チビが…」

「素良君…」

「…もし、生まれ変わることがあったら…今度は、みんなと笑ってデュエルができるかな…?」

その言葉を最後に、素良とバトル・ビーストを包むように閃光が走る。

次の瞬間、その光を中心に激しい爆発が起こる。

激しい爆風が襲い掛かる中、侑斗とウィンダが風のバリアを展開する。

光から両腕で目を守る遊矢の目から涙があふれ、とどまることを知らなかった。

 


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