遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第123話 蝕まれる者たち

「があ…!!リン、リン!!俺だ!ユーゴだ!!俺のことがわかんねーのかよ!?」

扉を開け、ようやくリンの姿を見ることができて一安心していたユーゴをリンの華奢な拳が襲い掛かった。

そこから放たれたとは思えない、まるで現役プロボクサーの一撃を受けたかのようなそのダメージにふきとばされたユーゴの意識が途切れかける。

どうにか唇を噛み、血を流しながらもその痛みでどうにか途切れかける意識を無理やり戻し、立ち上がるユーゴはフラフラと自分の前へ歩くリンを見る。

「リン…」

(気を付けてください、ユーゴ!彼女の中に何かを感じます…それが彼女を操って…)

「何かって何なんだよ!?正体は!?」

(そこまではわかりません!わからないから何かって言ってるでしょう!!)

「くそ…アカデミアめ、リンに何しやがった!?」

さらった上に、今度は洗脳という悪辣な手段に打って出たアカデミアに怒りを覚えるユーゴだが、今やるべきは目の前のリンをどうにかして洗脳から解放することだ。

(解くすべがない以上、これ以上危害を加える前に彼女を拘束すべきです!)

「拘束ったって…!!」

その手段を問うユーゴだが、その前にユーゴの左腕のデュエルディスクめがけてアンカーが飛んできて、それがデュエルディスクをつかむ。

同時にデュエルディスクが勝手に展開し、カード5枚が排出されて地面に散らばる。

「ユーゴ…あんたを抹殺するわ。この世界にために…」

「世界にために…それは…」

ズァークのこと、ユーゴの脳裏に真っ先に浮かんだのはそれだ。

アカデミアが目指すズァークの抹殺。

毒を以て毒を制すユーリは現状は別として、遊矢とユーゴは抹殺対象。

洗脳されているリンがユーゴの命を狙うのは道理だ。

「悪く思わないでね、あんたが死んでくれたら世界は救われるんだから…」

「くそ…リンの本心じゃねえことはわかってるけど、リンに言われてると思うと、刺さるぜ…」

同時に、そんなことをリンに言わせているアカデミアに怒りを抱く。

その怒りが意識を完全につなぎ止め、ユーゴは立ち上がる。

「来いよ…リン!お前の目を覚まさせてやる!!!」

「せめてもの情けよ…デュエルで殺してあげる…」

「デュエル!!」

 

ユーゴ

手札5

ライフ4000

 

リン

手札5

ライフ4000

 

「黒咲君…黒咲君応答を…!」

「ダメ…ユウ!こっちもつながらない…」

デュエルロイドとデュエル戦士の群れをある程度薙ぎ払った侑斗とウィンダが黒咲に通信をつなげようとするが、一向にその返事が来ない。

雑音が響き、やがて信号自体が途切れてしまった。

それは黒咲がカードに変えられたか、デュエルディスクが破壊されたことを意味していた。

「黒咲君…」

もしかして、塔にたどり着く前に力尽きてしまったのか。

だが、最後の信号は確かに塔の最上階で記録され、そこである程度時間が経過している。

そこで何があったかはわからないが。

「剣崎さん、作戦は…」

「…わかってる。僕たちは進む、それに変更はないよ!!」

ユーゴと黒咲はたとえ敗れて、瑠璃とリンの救出に失敗したとしても、2人を助けない。

瑠璃とリンを助けたいとは考えているが、そのために単独行動をとることになったユーゴと黒咲を助けに行くことによって更なる被害が出て、それによって戦いに敗れることになったら元も子もない。

アカデミアを倒し、次元戦争を終わらせるにはたとえ仲間が危機に陥ったとしても時には切り捨てないといけない。

既にともに突入したヴァプラ隊にも犠牲者は出ている。

「くっ…」

「つらいよね…遊矢君。でも、それに慣れちゃだめだ。つらいのを…悲しいのをごまかし続けたら、人の心の痛みがわからなくなってしまうから…」

「痛み…」

「その痛みがわかる優しい君なら、そのカードを使える。君の信条に反するカードかもしれないけど…」

少し悲し気な侑斗の言葉に遊矢はエクストラデッキに眠る新たなカードに目を向ける。

4つの次元とは異なる別世界で手に入れたと思われるカード。

遊矢は目の前で戦うデュエルロイド、そして自分のフィールドにいる《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》に目を向ける。

「俺は《トランプ・ウィッチ》のペンデュラム効果を発動!1ターンに1度、俺のフィールドのモンスターを素材に融合召喚を行う!俺は《オッドアイズ》と《ダーク・リベリオン》を融合!砕かれた世界に宿りし憎しみと悲しみ、今次元のはざまで一つとなる!融合召喚!」

《EMトランプ・ウィッチ》が生み出す数多くのトランプが生み出す渦の中に遊矢とユートのエースモンスターが飛び込んでいき、一つとなる。

その姿は《覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン》とも《覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》とも違う。

リボルバーの中にあるチャンダーが胴体についていて、薄緑のラインのついた黒と赤の肉体を持つ人型の機械竜といえるモンスターが渦の中から現れる。

「現れろ!!《ヴァレルロード・F・ドラゴン》!!!」

本来ならこの次元で、遊矢が使うなどあり得ない怒り狂う竜が彼の手でフィールドに現れた。

 

ヴァレルロード・F・ドラゴン レベル8 攻撃3000

 

 

「俺の先攻!俺は《カードガンナー》を召喚!」

 

カードガンナー レベル3 攻撃400

 

「こいつは1ターンに1度、デッキの上からカードを3枚まで墓地へ送ることで、1枚につき500ポイント攻撃力がアップする!」

 

デッキから墓地へ送られたカード

・スピードリバース

・SR電々大公

・SRマジックハウンド

 

カードガンナー 攻撃400→1900

 

「そして、手札1枚を墓地へ捨て、手札から速攻魔法《SRルーレット》を発動!サイコロを1回振り、レベルの合計が出た目と同じになるように手札・デッキからSRを効果を無効にして特殊召喚する。だが、その効果でモンスターを特殊召喚できなかった場合、出た目1つにつき500ポイント俺はライフを失う!」

ユーゴの目の前にルーレットが出現し、回転するそれの上をサイコロが転がる。

ルーレットが止まると同時にサイコロも止まり、出た目は4となった。

「よっしゃあ!俺は《ドミノバタフライ》と《ビーダマシーン》を特殊召喚だ!」

 

手札から墓地へ送られたカード

・SR三つ目のダイス

 

SRドミノバタフライ レベル2 攻撃200(チューナー)

SRビーダマシーン レベル2 攻撃200

 

「これでレベルの合計は7…。出すつもりね、《クリアウィング》を」

「ああ…行くぜ!俺はレベル2の《ビーダマシーン》とレベル3の《カードガンナー》にレベル2の《ドミノバタフライ》をチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、レベル7!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

「そして俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

ユーゴ

手札5→1

ライフ4000

場 クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500

  伏せカード1

 

リン

手札5

ライフ4000

場 なし

 

「《クリアウィング》…破滅の風ね。ユーゴともども死んでもらうわ」

(死んでもらう…そうですね。私という心が生まれたのも、元々はユーゴを殺すため、きっと…彼らも…)

「私のターン、ドロー」

 

リン

手札5→6

 

「私のフィールドにモンスターが存在しない場合、手札の《WW-アイス・ベル》は特殊召喚できる」

水色の水晶でできた杖に腰かけたピンクの大きなリボンとスカートのついた白いドレス姿をした青い髪の魔法少女が空を飛んで現れる。

登場と同時に右手にスティックを出すと、それを振って上空に魔法陣を生み出す。

 

WW-アイス・ベル レベル3 攻撃1000

 

「そして、デッキから新たなWWを特殊召喚する。《WW-グラス・ベル》を特殊召喚」

魔法陣の中から飛び出したのは《WW-アイス・ベル》と同じ服装をしているものの、髪の色は薄緑色で乗っている杖には黄色い魔石が先端に埋め込まれている魔法少女だった。

 

WW-グラス・ベル レベル4 攻撃1500(チューナー)

 

「《アイス・ベル》の効果。このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、相手に500のダメージを与える」

再びスティックをふるうと、ユーゴの頭上に魔法陣が出現し、そこから風の刃がユーゴに向けて飛ばされる。

「ぐっ…!」

風の刃はユーゴのライディングスーツを傷つけ、その下の彼の肌を切り、出血させる。

 

ユーゴ

ライフ4000→3500

 

「さらに《グラス・ベル》の効果。このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、デッキからWW1体を手札に加える。私は《スノウ・ベル》を手札に加える。そして、《スノウ・ベル》は私のフィールドに風属性モンスターが2体以上存在し、それ以外の属性のモンスターが存在しない場合、手札から特殊召喚できる」

続けて召喚されたのは2体のWWとは大きく異なり、上部に天使の羽飾りがついた水色の鈴だった。

 

WW-スノウ・ベル レベル1 攻撃100(チューナー)

 

「レベル3の《アイズ・ベル》にレベル4の《グラス・ベル》をチューニング。真冬の風よ。雪も氷も我が力として吹き抜けよ!シンクロ召喚!現れよ!レベル7!《WW-ウィンター・ベル》!」

女性の上半身を思われる胴体をしているが、腕が刃のような鋭い羽根になっていて、サメのヒレのついた群青色の球体につながれたモンスター、ユーゴのよく知るリンのエースモンスターが敵として現れる。

 

WW-ウィンター・ベル レベル7 攻撃2400

 

「まだよ…レベル7の《ウィンター・ベル》にレベル1の《スノウ・ベル》をチューニング。不滅の水晶と氷河の魔女よ、吹雪となって永久の眠りをもたらせ!シンクロ召喚!現れよ、レベル8!《WW-ダイヤモンド・ベル》!」

シンクロ召喚されたばかりの《WW-ウィンター・ベル》を素材として、続けて出現したのは巨大な鈴ともとれる大きなスカートをつけた、ダイヤモンドでできた彫像のような女魔導士で、そこからは生物としての暖かさを感じることができない。

 

WW-ダイヤモンド・ベル レベル8 攻撃2800

 

「立て続けにシンクロ召喚で、一気に《ダイヤモンド・ベル》かよ!」

「《ダイヤモンド・ベル》の効果。このカードのシンクロ召喚に成功したとき、墓地のWWモンスター1体の攻撃力の半分のダメージを与える。《ウィンター・ベル》の攻撃力の半分、1200のダメージを受けてもらうわ!」

「くっ…!」

ユーゴの脳裏にシンクロ素材となった《WW-スノウ・ベル》が浮かぶ。

彼女をシンクロ素材とした風属性シンクロモンスターは相手のカード効果では破壊されないため、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》で破壊することができない。

「なら、せめてダメージは防がせてもらうぜ!《クリアウィング》の効果!レベル5以上のモンスターが効果を発動したとき、その発動を無効にし、破壊する!!」

「《スノウ・ベル》、《ダイヤモンド・ベル》を守って」

《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》のプリズム状の部分から放たれる緑色のビームから《WW-ダイヤモンド・ベル》を守るように《WW-スノウ・ベル》の幻影が現れてそれを受け止めていく。

大きなダメージを防ぐことはできたものの、それでも《WW-ダイヤモンド・ベル》を止めることにはつながらない。

「バトル。《ダイヤモンド・ベル》で《クリアウィング》を攻撃」

《WW-ダイヤモンド・ベル》の背後からダイヤモンドでできた鳩が現れ、それらが《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の周囲を飛び回った後で、かまいたちを放つ。

「くっ…!俺は速攻魔法《インスタント・チューン》を発動!相手フィールドにモンスターが特殊召喚されたターン、こいつをレベル1のチューナー扱いとして俺のフィールドのシンクロモンスター1体とともにシンクロ素材としてシンクロ召喚を行う!レベル7の《クリアウィング》にレベル1の《インスタント・チューン》をチューニング!神聖なる光蓄えし翼煌めかせ、その輝きで敵を討て!シンクロ召喚!いでよ!レベル8!《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

かまいたちに襲われ、体を傷つけられた《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》だったが、全身からビームを放って鳩たちを薙ぎ払うと、その姿を《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》へと変貌させ、傷ついた体も癒していく。

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン レベル8 攻撃3000

 

「攻撃力3000…。攻撃中止ね。私は手札から魔法カード《マジックブラスト》を発動。私のフィールドの魔法使い族1体につき、200のダメージを与える」

リンのデュエルディスクから水色の魔力の球体が生み出され、それがユーゴに向けて発射される。

「この程度…!」

両腕で身を守り、それを受け止めるユーゴだが、それと同時に再び《WW-ダイヤモンド・ベル》の鳩が不審な動きを見せる。

 

ユーゴ

ライフ3500→3300

 

「《ダイヤモンド・ベル》の効果。1ターンに1度、相手がダメージを受けたとき、フィールド上のカードを1枚破壊できる。この効果はこのカードのシンクロ素材がWWのみの場合、1ターンに2度行うことができる」

「くっ…!《クリスタルウィング》の効果発動!1ターンに1度、このカード以外のモンスター効果が発動されたとき、その発動を無効にし、破壊する!」

「シンクロ素材になった《スノウ・ベル》の効果で、《ダイヤモンド・ベル》は破壊されない」

水晶から放たれるビームは動き出す鳩たちを焼き尽くすものの、本体といえる《WW-ダイヤモンド・ベル》を破壊するには至らなかった。

「そんなこと、わかっているわ。別に、この効果はあんたがターゲットじゃないから」

「何…!?」

「ユーゴ!!」

《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》となったクリアウィングの声で何かに気づいたユーゴは即座にそばにある自分のDホイールに目を向ける。

そこのそばには生き残っている鳩の姿があり、それがかまいたちでDホイールを攻撃していた。

「や、やめろーーー!!そいつだけは!!」

「離れてください、ユーゴ!!」

このDホイールはリンや仲間とともにコモンズでかき集めた廃材で作ったもの。

エネルギー源であるモーメントについては自力での調達ができなかったことから、こっそり盗んだものを使っている。

だが、子供であり知識も何もない少年少女だけでDホイールを作ることは難し。

そのため、少しでもよさげな服を着てシティに忍び込み、盗んだ本を読み書きができる仲間とリンの協力で読み解いていき、Dホイールの基礎などを吸収してようやく完成させたものだ。

ライディングデュエルができるように何度も改良を重ね、いつかシティの頂点に立つことを夢見て手入れし続けてきた夢の象徴が、あろうことかリン自らの手で破壊されようとしている。

ライディングデュエルに対応できるよう、強固な設計がされているDホイールも、集中攻撃を受ければ傷つき、破損する。

その破損個所めがけて、今度はダイヤモンドの鳩が体当たりを仕掛ける。

「やめろ…リン!やめてくれ!!このDホイールは…!」

「わかっているわよ。これは私の悪夢の象徴。世界を壊すあんたと深いかかわりを持ってしまった罪の証。だから…破壊するの。その清算のために」

まるで汚物を見るような目で壊れていくDホイールを眺めるリンの目にはユーゴの姿が映っていない。

どうにかDホイールを守ろうと飛び出そうとするユーゴだが、その前にダイヤモンドの鳩が露出したエンジンに向けて体当たりを仕掛けたことでエンジンが損傷する。

「罪って…罪ってなんだよ!?清算ってなんだよ!!いつかジャックを倒して、シティの表舞台でこいつを走らせるのが俺たちの夢じゃなかったのかよ!?その夢を見ることまで罪っていうのか!?目を覚ませよ、リン!!」

どうにかしてリンに言葉を届けようと、声高に叫ぶ。

それが効果があったのかはわからないが、急に《WW-ダイヤモンド・ベル》が動きを止め、鳩たちも攻撃を止める。

同時に、リンが急にうつむいた状態になる。

「リン…!!」

「…ユーゴ…」

ゆっくりと顔を上げたリンの目には涙が浮かんでいて、苦しげな表情を浮かべている。

そして、目の前の彼に向けて手を伸ばしていた。

「ユーゴ…助けて…」

「リン!!ああ、リン!!」

あの時、ユーリによってリンが襲われたときは救いの手を伸ばすことができなかった。

むざむざと彼が連れ去っていくのを見ていることしかできなかった。

今度こそ、今度こそその手をつかむことができる。

走り出したユーゴはリンの手をつかもうとする。

だが、そんな彼を襲ったのは腹部への鈍い痛みだった。

「馬鹿め…」

「あ…」

笑みを浮かべるリンの膝蹴りがユーゴの腹部に突き刺さっていて、腹を抱えた状態でその場に横たわるユーゴを後目にリンはボロボロになったDホイールのそばまで向かう。

「無駄に頑丈ね。ここまで痛めつけてもまだ走ることができる」

「リン…お前、何を…!?」

起動したDホイールのモニターを慣れた手つきで操作したリンが後ろに下がると、Dホイールは勝手に最低速度で前進を始める。

それはゆっくりと、確実に地上へ向けて進んでいる。

「や…めろぉ!!」

「もう遅いわ。…さようなら」

無慈悲な一言の後で、ユーゴの視界の中でDホイールは落ちていく。

幼いころからただ1つの目標の象徴として、何度もリンとともに手入れを欠かさずにいた相棒のDホイールが落ちていくのを前にユーゴは鈍い痛みに耐え、這いながら進んでいく。

無駄だと頭ではわかっていても、それでも落ちていく相棒に何もしないわけにはいかない。

どうにか起き上がり、地上を見たユーゴの目に映るのは粉々に砕け散り、無残な姿を故郷であるシンクロ次元からほど遠く、ライディングデュエルなど存在しない融合次元のコンクリートの上にその姿をさらしていた。

Dホイールの動力源であるモーメントは光を失い、それはDホイールの死を意味していた。

「あ、あああ…」

「あっけないものね。こうして落とせばほら、こんな感じで。どう…?あんたも落ちる?大好きなあのポンコツを墓標にできるんだから、いいわよね?。私はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

ユーゴ

手札1

ライフ3300

場 クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン レベル8 攻撃3000

 

リン

手札6→2

ライフ4000

場 WW-ダイヤモンド・ベル レベル8 攻撃2800

  伏せカード2

 

「ユーゴ…」

力なくその場でひざを折るユーゴの姿をクリアウィングは見る。

いつものユーゴなら、すぐに立ち上がった相手に立ち向かうだろうが、今回はあまりにもユーゴにとってダメージが大きすぎた。

大切なDホイールがあろうことかリンの手で破壊されてしまったのだから。

「ユーゴ!!しっかりしなさい、ユーゴ!!ここで立ち上がらなければ、あなたはDホイールだけじゃない、リンまで失うことになるのですよ!?」

いつもなら怒った時は口調が汚くなり、暴言を吐くクリアウィングだが、今のクリアウィングも確かに怒っているが、口調はいつものまま。

その異常のせいか、ユーゴの視線がクリアウィングに向けられる。

「お前…」

「あなたが次元を飛び回り、戦い続けてきたすべてが無駄になるのですよ!?立ち上がってください、ユーゴ!!私は…あなたを殺したくありません…。見せてください、あなたがズァークではなく、ユーゴという1人の人間、リンとともに夢を追い求めた、私の主であるに値する男の姿を!!」

「くっ…」

ツー、と目から流れる涙をぬぐったユーゴは立ち上がり、ターンを終えたばかりのリンを見る。

「ああ…悪い、クリアウィング。目が覚めたぜ…。Dホイールはまた作りゃあいい…リンと一緒に。でも…」

そのためにも、過去の思い出を胸に未来を作っていくためにも、ここでリンまで失うことがあってはならない。

そして、取り戻すべきリンは確かに操られているようだが、目の前にいる。

目の前にいること、それだけがユーゴにとって重要なこと。

こんなビックチャンスは今までになかったのだから。

「そうだ、それでこそユーゴ…。だからこそ、私はあなたに、力を…!」

クリアウィングの声が響き、《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》が咆哮する。

その声が反応したのかどうかはわからないが、死に絶えたはずのモーメントが淡い光を放ち始める。

そして、その光がモーメントから飛び出し、地上に散らばるDホイールの残骸を吸収していく。

やがてそれがカードへと変貌すると、ユーゴのデュエルディスクめがけて一直線に飛んできた。

「これは…!!」

勝手に開いたエクストラデッキに入ったそのカードを見たユーゴの目が大きく開く。

驚きが最初に来たが、やがてそれは喜びへと変わっていく。

「そうか…そうだよな、お前もまだ終われねえ…終わってねえよな!!」

「スクラップがカードに…ズァークの力か…!?」

「違うぜ、リン…!ズァークは関係ねえ!こいつは俺とお前…そして、クリアウィングの力だ!俺のターン!!」

 

ユーゴ

手札1→2

 

「俺は…《SR電々大公》を召喚」

 

SR電々大公 レベル3 攻撃1000(チューナー)

 

「レベル8の《クリスタルウィング》にレベル3の《電々大公》をチューニング!!」

エクストラデッキから、Dホイールが転生したカードを引き抜いたユーゴはそれをフィールドに置く。

チューニングリングをくぐった《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》はその姿を破壊されたはずのDホイールへと変化していった。

そして、その真上に《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が現れ、その姿をカウルと尻尾のようなパーツのついた強化装備へと変化させてそれと合体する。

「3つの心が生み出した夢の結晶よ!不死鳥のごとく甦り、未来への道をひた走れ!!転生シンクロ召喚!!甦れ!《HSR/CWライダー》!!」

甦ったDホイールがユーゴの前に止まり、それにまたがったユーゴはデュエルディスクをセットする。

 

HSR/CWライダー レベル11 攻撃3500

 

「ユーゴ、確かにDホイールは転生したかもしれませんが、これはただのシンクロ召喚。特殊なシンクロ召喚を行ったわけではありませんよ」

「うわあ!!いきなりモニターに出てくんなよ!それと…んなことわかってんだよ!ノリだよ、ノリ!」

「ふふ…その調子です」

モニターに映るクリアウィングの表情はあまり変化しているようには見えないが、その口ぶりから安心してくれていることがうかがい知れる。

「なら、その死にぞこないのDホイールともども、殺してあげるわ!罠発動!《シンクロ・プロミネンス》!!シンクロモンスターをコントロールしているプレイヤーは1000のダメージを相手に与える!」

「何!?ダメージ覚悟で《CWライダー》を破壊するつもりかよ!そうはさせっか!俺は手札から速攻魔法《罠解体》を発動!相手が通常罠カードを発動したとき、その発動を無効にしてそいつを俺のフィールドのモンスター1体に装備させる!《シンクロ・プロミネンス》を無効にして、そいつを《CWライダー》に装備するぜ!」

発動したばかりの《シンクロ・プロミネンス》が白い光と化して《HSR/CWライダー》へと吸収される。

その光景にリンは舌打ちをする。

「そして、俺は《CWライダー》の効果発動!サイコロを1回振り、出た目の数だけ墓地の風属性モンスターをデッキに戻す!」

モニターに1の目のみが《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》の顔となっているサイコロが表示され、クルクルと回転し始める。

回転が止まると、出目が3と表示された。

「よし…俺は墓地の《クリアウィング》と《クリスタルウィング》をデッキに戻し、伏せカードと《CWライダー》が装備している《シンクロ・プロミネンス》を破壊する!」

リンの周りを走るユーゴのそばに《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》と《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》の幻影が現れ、それらがリンの伏せカードに向けて突撃する。

「くっ…!私は罠カード《スキル・サクセサー》を発動!私のフィールドのモンスター1体の攻撃力をターン終了時まで400アップさせる!!」

風に飲み込まれ、消滅する《スキル・サクセサー》だが、その力はかろうじてフィールドに残る《WW-ダイヤモンド・ベル》に宿った。

 

WW-ダイヤモンド・ベル レベル8 攻撃2800→3200

 

「それでも、《CWライダー》には届かないぜ!さらに《CWライダー》はこの効果でカードを破壊したことで、ターン終了時まで攻撃力を破壊したカードの数×500アップする!」

 

HSR/CWライダー レベル11 攻撃3500→4500

 

「攻撃力4500!?」

「行くぜ!!《ダイヤモンド・ベル》を攻撃だ!!」

アクセルを全開にしたユーゴは《HSR/CWライダー》に向けて突撃する。

「ぐ、おおおお!!!!なんだよ、この加速は!?」

いきなりトップスピードに突入するこの急加速に意識が持っていかれかけたユーゴだが、どうにか持ちこたえる。

彼らを包むように《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を模したオーラが発生し、それとともに突っ込んでくるユーゴに《WW-ダイヤモンド・ベル》が再びダイヤの鳩を生み出して攻撃を仕掛けるが、そのオーラがバリアとなって攻撃を防ぎ、突撃しようとする鳩たちの傷つくことのないはずのダイヤの体を粉々に粉砕する。

そして、弾丸のように《WW-ダイヤモンド・ベル》の胴体を穿ち抜き、彼女を爆散させた。

「くっ…!!」

 

リン

ライフ4000→2700

 

「はあ、はあ…元気がいいじゃねえか、相棒…」

一度Dホイールを止めたユーゴは体にかかった負担に驚きつつ、息を整えていく。

「おいおいクリアウィングさんよぉ、どんな設定にしてんだよ、これ…」

「すみませんね、ぶっつけ本番で試しているので、今のが90%です。楽しんでいただけましたか?」

「お前よぉ…なんか、俺に似てきた?」

「それはありません」

何も間を開けることなく否定されたユーゴは苦い表情を浮かべつつ、Dホイールの機首をリンに向けなおす。

「俺はこれでターンエンドだ!どうだ、リン!お前のエースの進化系をぶっ潰してやったぜ!」

 

ユーゴ

手札2→0

ライフ3300

場 HSR/CWライダー レベル11 攻撃4500→3500

 

リン

手札2

ライフ2700

場 なし

 

「私のターン…ドロー…」

 

リン

手札2→3

 

「私は手札から魔法カード《聖天使の施し》を発動…。デッキからカードを2枚ドローし、手札1枚を墓地へ捨てる…」

 

手札から墓地へ送られたカード

・パラサイト・フュージョナー

 

「そのカードは…!?」

「ユーゴ!警戒してください!あのカードは危険です!!」

リンのデッキに今まで入っておらず、彼女にはあまりにも似つかわしくないカード。

彼女が操られている原因はまさしくそれだとユーゴも判断できた。

「そして、手札から魔法カード《死者蘇生》を発動。墓地の《ウィンター・ベル》を特殊召喚する」

 

WW-ウィンター・ベル レベル7 攻撃2400

 

「《ウィンター・ベル》の効果…。墓地のWW1体のレベル×200のダメージを相手に与える。私は墓地の《ダイヤモンド・ベル》を選択…」

《WW-ウィンター・ベル》から吹雪が発生し、それがユーゴとDホイールを襲う。

「くう…寒いが、それがなんだってんだ!!」

 

ユーゴ

ライフ3300→1700

 

「さらに手札から魔法カード《スピード・ヴィジョン》を発動。墓地からレベル2以下のモンスター1体を特殊召喚できる。この効果で特殊召喚されたモンスターはターン終了時に破壊される。私は《パラサイト・フュージョナー》を特殊召喚」

墓地からよみがえった寄生虫はそれと同時にフィールドの《WW-ウィンター・ベル》に飛びつき、その体に入り込む。

寄生虫に体内からいじられ始めた彼女は苦しみながら、その姿をボキボキと醜い音を立てながら変質させていく。

「うげえ…」

「そして、《パラサイト・フュージョナー》は特殊召喚に成功したとき、このカードを含む融合素材モンスターを墓地へ送ることで、モンスターを融合召喚できる…!真冬の雪原を走り抜ける風の音よ。内なる声とひとつになりて、更に激しく響き渡れ。融合召喚!現れろ、荘厳に響く水晶の鐘。《WW-クリスタル・ベル》!」

変質したその姿は先ほどまでリンのフィールドにいた《WW-ダイヤモンド・ベル》に近い姿であるものの、背中についている羽根が3枚に減り、まがまがしい紫がベースの色彩となっていた。

そして、紫色に染まった目は忌々し気にユーゴを見つめる。

 

WW-クリスタル・ベル レベル8 攻撃2800

 

「リンが融合を…!けど、《CWライダー》の攻撃力は3500!そのモンスターじゃ…!」

「いえ、ユーゴ!リンの墓地には《スキル・サクセサー》が存在します!そのカードの効果を忘れましたか!?」

墓地に存在する《スキル・サクセサー》は自分のターン限定ではあるものの、墓地から除外をすることで自分フィールドのモンスター1体の攻撃力を800アップさせることができる。

そうなると、《WW-クリスタル・ベル》の攻撃力は3600となり、《HSR/CWライダー》の攻撃力を上回ることになる。

「ユーゴ、ここはもう1つの効果を…」

「ああ、そうだな…!俺は《CWライダー》の効果を発動!相手ターンのメインフェイズ時にシンクロ召喚したこいつをリリースすることで、エクストラデッキからレベル7の風属性シンクロモンスター2体を特殊召喚する!出ろ!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》!」

強化パーツが分離し、それが2つの風の球体へと変換される。

そして、その中から2体のモンスターが飛び出した。

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500

クリアウィング・ファスト・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

「そして、《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》の効果発動!1ターンに1度、エクストラデッキから特殊召喚された相手フィールドのモンスター1体の攻撃力をターン終了時まで0にし、その効果を無効にする!」

「私は手札の《WW-ノースベル》の効果。私のフィールドのWWが相手モンスターの効果の対象となった時、手札のこのカードを墓地へ送ることで、その効果を無効にする」

ゴツゴツとした氷でできた丸いベルの幻影がフィールドに現れ、それが音を鳴らしたことで《WW-クリスタル・ベル》を包む風が消えてなくなる。

「バトル。《クリスタル・ベル》で《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》を攻撃…!」

《WW-クリスタル・ベル》の紫の目が光ると同時にかまいたちが放たれ、それで両断された《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が破壊される。

「く…!!」

 

ユーゴ

ライフ1700→1400

 

「そして、《クリスタル・ベル》の効果。1ターンに1度、墓地のモンスター1体の姿をターン終了時までコピーし、その名前と効果を得る…。私は《ウィンター・ベル》を選ぶ」

「何!?」

再びゴキゴキと醜い音を立て始めた《WW-クリスタル・ベル》はその姿を《WW-ウィンター・ベル》に戻す。

その効果を止めるべき《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》は既にフィールドになく、《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》の効果も使えない。

「そして、《ウィンター・ベル》の効果を発動…。墓地のWW1体のレベル×200のダメージを与える…」

「リン…!」

「消えて…」

背中を向けたリンがそうつぶやくと同時に《WW-ダイヤモンド・ベル》から力を得た《WW-クリスタル・ベル》が紫色の吹雪を発生させ、それがユーゴを襲う。

「うわあああああああ!!」

Dホイールごと吹き飛ばされたユーゴの体がそれから離れ、塔から離れていく。

(リン…!)

落ちていくユーゴは去ろうとするリンに手を伸ばそうとするが、もはやそれは届かない。

重力に従い、落ちていくしかない。

「ユーゴ!!」

操縦者のいないDホイールに宿るクリアウィングだが、空を飛ぶことのできないそれにはユーゴのそばまで行くだけの力は残っていない。

せめてできることは、装着されているデュエルディスクを彼に向けて飛ばすことだけだった。

 

ユーゴ

ライフ1400→0

 

シンクロ・プロミネンス(アニメオリカ)

通常罠カード

(1):Sモンスターをコントロールしているプレイヤーは相手のライフポイントに1000ポイントのダメージを与える。

 

スピード・ヴィジョン

通常魔法カード

(1):自分の墓地に存在するレベル2以下のモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターはターン終了時に破壊される。

 

WW-ノース・ベル

レベル5 攻撃1800 守備1600 効果 風属性 魔法使い族

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分フィールドに存在する「WW」が相手モンスターの効果の対象となった時、手札に存在するこのカードを墓地へ送ることで発動できる。その効果を無効化する。

(2):自分フィールドの「WW」相手モンスターと戦闘を行うとき、墓地に存在するこのカードを除外することで発動できる。戦闘を行うお互いのモンスターの攻撃力はダメージステップ終了時まで相手モンスターと同じになる。

 

「…クク、クククク…!!」

研究室の中で2つのデュエルを見届けたドクトルは狂ったように笑い始め、両手で顔をふさぎ、小躍りを始める。

《パラサイト・フュージョナー》は想像以上の結果を上げ、まさか滅ぼすべきズァークの一部まで撃破することができた。

手に入れたデータはすぐにでも今デュエル戦士たちにとりつかせている《パラサイト・フュージョナー》に自動的に送り込んでいく。

「アハハハハハ!けれど、まだ足りない…。まだまだ《パラサイト・フュージョナー》に力を与え…クフフフフ…」

止まらない笑いをどうにか抑える努力をしつつ、端末を使ってリンと瑠璃にとりついている《パラサイト・フュージョナー》に命令を出す。

2人の少女は《パラサイト・フュージョナー》によって体と精神を操られ、塔を出ていずこかへと去っていった。


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