遊戯王ARC-V 戦士の鼓動   作:ナタタク

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第112話 雪原の決闘

「《ディメンジョン・ムーバー》システム問題なし、座標入力」

「座標入力完了、次元レーダー展開、周囲及び潜入地点周辺不審な影無し」

艦橋のモニターには素良が提供した座標情報で出た地点とその周辺の光景が映し出される。

レオコーポレーションが開発した次元レーダーのおかげで、転移と同時に敵に遭遇するアクシデントは大幅に減るものと予想されている。

その地点から海路でファウスト島へ向かうことになる。

「バラスト水、異常なし。燃料補給完了」

「出力安定、システムオールグリーン。いつでも発進できますよ!」

「これで、ここにはほとんど戦力は残るまい」

艦橋にいる零児は今自分たちが背水の陣を敷いていることをもう1度心にとどめる。

アカデミア攻撃のため、このイージス艦にはランサーズだけでなく、ヴァプラ隊やエクシーズ次元、シンクロ次元から志願したデュエリストを可能な限り乗せている。

防衛のために乗り切れなかった人々もいるが、それはわずかで、彼らが3つの次元の防衛を担うことになる。

保険はかけているとはいえ、それでも仮に自分たちが敗れてしまったら最後。

アカデミアの攻撃によって3つの次元は落ち、アークエリアプロジェクトが完成することになる。

その後に待っているのはアカデミアにとっての理想郷であり、それ以外の次元の人々にとっては地獄と言える世界。

そのような世界を許すつもりはなかった。

「次元跳躍船『クレイトス』、発進」

クレイトスがアンカーを収容し、舞網市の港から離れていく。

沖に出るとともに徐々に浮上し始めるとともに船体が緑色の光に包まれていく。

「…!!」

「翔太君、どうしたの?」

「いや…痣がうずいただけだ」

次元転移が始まるとともに、翔太の痣も反応し、バチバチと光を放つ。

やがて、クレイトスは光と共に姿を消していった。

 

雪と氷に包まれた海は視界を真っ白に覆い隠していき、雪明りが時間間隔を狂わせる。

アカデミアより北へ100キロ離れた海は北極や南極に匹敵する寒さと氷に包まれた海で、少なくとも融合次元の人々はその海へ行こうとはしなかった。

そこには資源がなく、過酷なその海に入り、帰ってきても釣り合うほどの旨みも存在しない。

それ故に今では船が出入りすることもない、静寂と氷雪だけが取り柄の海となっていた。

だが、そんな海を大型のコンテナ船が氷を突き破りながら進んでいく。

氷を砕き、ぶつかるとともに揺れが起こり、船室のベッドで横たわる遊勝もその揺れを感じていた。

「やはり、ここは本当にひどい海だな…はあ、はあ…」

「先生。大丈夫ですか?」

遊勝のことを心配した明日香がノックをした後で入ってくる。

彼が重たくなった体に鞭打ち、布団の中から左腕を出すと、彼女はその腕に持っていた注射器を押し付け、その中にあるナノマシンを遊勝の体内に流し込む。

注射を受けながら、遊勝は部屋の壁にかけられている時計を見る。

前に注射をしたのが昼の13時。

そして、今回注射をしたのが夕方の17時半。

3年前は1週間に1回で済んだこの注射も、今では注射する時間間隔が狭まっている。

「すっかり、私の体はこの薬が効かなくなり始めたみたいだな…」

注射のおかげで体が楽になっては来たが、それでも起き上がるのはまだ辛い状態のままだ。

残された時間の短さを感じつつ、遊勝は昨日見た夢のことを思い出す。

幼い遊矢にデュエルを、笑顔の大切さを教えた時のことだ。

遊勝の記憶の中の彼は3年前で止まっている。

零王を止めたら帰るつもりでいたが、今のこの体では帰れるかどうかすらわからない状態だ。

「先生…このままではあなたの体は…もう…」

「分かっているさ、明日香。もう私に未来はないということくらいは…。だが、せめてこの戦争を終わらせなければ、死んでも死にきれない」

「プロフェッサーがあなたの親友だから…ですか?」

「それもある。だが…それ以上に…」

「おっさん、明日香さん、もうすぐだぜ!ええっと…ああ、そうだ!ファウスト島が!!」

ノックもせずに対寒服姿で入って来たユーゴがうっかり忘れかけた目的地の名前を思い出しながら2人に伝える。

ユーゴのDホイールはあくまでライディングデュエル用な上に自作であることから、寒冷地での運用など想定されているはずがなく、今コンテナ船の中にはそれを整備できるのはユーゴのみなうえに、寒冷地仕様に改良する技術も資材もない。

そのため、ユーゴの左腕にはDホイールに取り付けてあったデュエルディスクが装着されている。

「そうか…。なら、早く出発の準備をしないとな…」

「おっさんは寝てていいぜ?俺と明日香さんだけで行っても…」

「いや…私が行かなければならん。やらなければ…」

ゆっくりと体を起こし、ベッドのそばに置いてある杖を手にして中から抜け出していく。

そこから車いすのところまで歩いていき、それに腰掛けると備え付けてあるコントローラーでそれを動かす。

「私は…彼を止めることができなかったから、今も戦争が続いている…。私には、止める義務がある」

「義務…なんだ、それ?よくわかんねえけど…」

難しいことは分からないと自覚しているユーゴだが、遊勝が動かずにはいられないという気持ちは分かる。

無理やりおいていって、一人で残したとしても勝手についてくるなら、連れて行った方がいい。

そう考えたユーゴは彼が操作する車いすの後ろに向かい、それを押して進んでいった。

 

「うおおおおおお!!!寒いーーーーー!!!!」

コンテナ船を出て、さっそく出迎えた激しい雪と突き刺すような冷たい風にユーゴは絶叫すると同時に地団太する。

コモンズにいたとはいえ、比較的温暖な場所で暮らしていたユーゴにとってはここは防寒着を着用したとしても、あまりにも寒すぎた。

「静かにして。もしかしたら、アカデミアの連中が私たちに気付いている可能性もあるわ」

「その通りだ。一回中に入れば、寒さをしのげる。すまないが、それまで我慢してくれ」

「んなことは、分かってるけどよぉー…」

段々鼻水が出て来て、我ながら情けない姿を見せているなと思いながら、3人でファウスト島に降り立つ。

冷たい雪にマッチする、冷たくて硬いコンクリートの大地。

本来、このような場所に人工島を作るメリットはないにも等しいが、一つだけアドバンテージがあるとしたなら、隠密性があることだ。

遊勝から聞いた話だが、この島の存在はアカデミアでもほとんど知られておらず、その協力者がいたからこそ、場所と名前を知っている。

そして、そこにアカデミアの秘密が隠されていることも。

遊勝は車いすを操作し、デュエルディスクを展開して、液晶部分に地図を表示する。

「彼からの情報が正しければ、ここから北西へ進んでいくと施設への非常用の出入り口がある。そこからなら、唯一施設の中に入ることができるはずだ」

「なら、ありがてえよ。さっさと行こうぜ」

一刻も早くこの極寒地獄から抜け出したいと、ユーゴは足早に車いすを押しながら進み、遊勝の指示に従いながら進んでいく。

最初は真っ白な視界で、代わり映えなんて何もなかったが、次第に鉛色の巨大なシルエットが見えてくる。

かさついた無機質な足音と風の音だけが聞こえ、近づくにつれてそのシルエットの正体が見えてくる。

真っ黒で四角形のキューブが組み合わさったような巨大な施設が露となり、トップスの高層ビルくらいしか巨大な建物を見たことのないユーゴはその今まで見たことのない施設に息をのむ。

「ここだ。ここから西へ壁伝いに進むんだ。そうすれば…」

「お待ちしておりました。榊遊勝さん。お元気…というわけではありませんでしょうが」

若い男性の穏やかな声とキリキリと車輪の動く音がかすかに聞こえ、閉鎖されているはずの正面の戦車が通れるほどの大きな扉が開く。

そこから出てきたのはエリクで、既にデュエルディスクを展開した状態で3人に近づいていく。

「あなたは…エリク」

「知ってるのか?おっさん」

「ああ。彼が協力者との仲介人だ。私にナノマシンを定期的に持ってきてくれている。だが、なぜここへ…?」

「立場上、私はアカデミアの特務部隊であるジェルマンの一員です。密命として、ここでN教授の監視をしています」

まるでそれは映画監督から言われた役目を遂行しているだけだと言わんばかりに、密命についてもはっきりと答えている。

立場上はアカデミアの一員といえる彼と親し気に会話する遊勝にユーゴは首をかしげる。

「なぁ、明日香さん。このおっさん、味方だよな?怪しい雰囲気がすごいぜ??」

「信頼できる人よ。あのひとはN教授に大きな恩があると言っているわ」

明日香も最初に会った時はその怪しい雰囲気と逃げたばかりで気持ちに余裕がなかったことも手伝って、敵だと誤認してデュエルをしてしまったことがある。

右腕しか自由に使える手足がなく、車いすを操縦する彼であるにもかかわらず、デュエルの技量はとてつもなく、その時は一方的に負けてしまったという苦い思い出がある。

後で誤解は解けて、味方であることは分かっているが、それでもその時の敗北の記憶が強く焼き付いており、明日香にとっては少し苦手な人物といえる。

「そちらの方は…?」

遊勝とある程度話をしたエリクの視線がユーゴに向けられる。

その顔を見たと同時にエリクの脳裏にユーリの姿が浮かぶ。

だが、言動や声がまるで違うこともあり、同一人物ではないと考えた彼は一瞬でも抱いてしまった警戒心を解く。

「紹介しよう。彼はユーゴ。シンクロ次元から来た。彼の知人であるリンという少女が捕まっている。おそらくは…」

「なるほど。少なくとも敵でないということだけは分かりました。しかし…」

急に開きっぱなしになっていたはずの扉が閉じてしまい、勝手にユーゴのデュエルディスクが展開する。

「お、おいおいおい!どうなってんだよ!?俺はなにもしてねーよ??味方だろぉ??」

「ここから先へ向かい、真実を知ったら、もう引き返すことはできない。あなたに進む覚悟があるのか、確かめさせてもらいます」

「はぁ…?だからなんで俺が試されなきゃならねーんだよ?それに、俺には時間がねえんだぞ!!」

明日香の話を聞き、味方だと信じたものの、試すなどと自分を下に見るような言動が気に食わない。

それに、ファウスト島へ行くことがリンを助ける近道になると納得して遊勝達に同行している。

今はもうこの1戦すら時間が惜しい。

「私をデュエルで倒さねければ、この施設の扉は一切開きません。いわば、私は宝の番人といったところでしょう。宝がほしければ、私を倒して力づくで奪ってみることです」

「くそ…上等だぜ、てめえ!!」

もう何が何だかわからないが、倒さなければ前へ進めないことだけはわかったユーゴは激高しつつ、デュエルディスクを展開する。

(エリク…一体どうしたというのだ?なぜ、こんな形で彼とデュエルを…?)

「「デュエル!!」」

 

エリク

手札5

ライフ4000

 

ユーゴ

手札5

ライフ4000

 

「私の先攻。私は手札から《伝説の黒石》を召喚」

 

伝説の黒石 レベル1 攻撃0

 

「このカードをリリースすることで、デッキからレベル7以下のレッドアイズ1体を特殊召喚できます。私は《伝説の黒石》を墓地へ送り、《真紅眼の亜黒竜》を特殊召喚」

《真紅目の黒竜》と比較すると、赤身が増した黒い鱗となった竜が彷徨し、周囲の雪を吹き飛ばしていく。

 

真紅眼の亜黒竜 レベル7 攻撃2400

 

「さらに私は手札から魔法カード《レッドアイズ・インサイト》を発動。手札・デッキからレッドアイズ1体を墓地へ送り、デッキからレッドアイズ魔法・罠カード1枚を手札に加える。私はデッキから《真紅眼の黒竜》を墓地へ送り、デッキから《真紅眼融合》を手札に加える」

「《融合》…!ってことは、ここで…!」

「安心してください。このカードを発動したターンはこのカード以外の方法で私はモンスターを召喚・特殊召喚できない。もうすでにモンスターを召還しているため、このターンはこのカードを使うことはできません。そして、私は永続魔法《巨神竜の遺跡》を発動」

発動と同時にエリクとその背後にある扉を阻むように竜の化石がおかれた台座が出現する。

「そして、私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

エリク

手札5→2(うち1枚《真紅眼融合》)

ライフ4000

場 真紅眼の亜黒竜 レベル7 攻撃2400

  巨神竜の遺跡(永続魔法)

  伏せカード1

 

ユーゴ

手札5

ライフ4000

場 なし

 

「味方の癖に、俺の邪魔をしやがって!さっさと道を開けやがれ!!俺のターン、ドロー!!」

 

ユーゴ

手札5→6

 

「俺は手札から《SRベイゴマックス》を特殊召喚!こいつは俺のフィールドにモンスターが存在しない場合、手札から特殊召喚できる!」

 

SRベイゴマックス レベル3 攻撃1200

 

「そして、《ベイゴマックス》の効果!こいつの召喚・特殊召喚に成功したとき、デッキからスピードロイド1体を手札に加えることができる。俺はデッキから《SR赤目のダイス》を手札に加える。さらに俺は手札から《赤目のダイス》を召喚!」

 

SR赤目のダイス レベル1 攻撃100(チューナー)

 

「チューナーモンスター…。これで、あなたはレベル4のシンクロモンスターをシンクロ召喚できますね」

「そんなモンスターを召喚するつもりはねー!《赤目のダイス》は召喚・特殊召喚に成功したとき、ほかのスピードロイド1体のレベルを1から6までの好きな数値に変更できるんだぜ!俺は《ベイゴマックス》のレベルを6に変更!」

 

SRベイゴマックス レベル3→6 攻撃1200

 

「レベル6の《ベイゴマックス》にレベル1の《赤目のダイス》をチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、レベル7!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500

 

「ユーゴ。注意してください。彼はかなりの手練れ。簡単に挑発に乗ると…」

「るせー!俺は先へ行かなきゃならねーんだよ!バトルだ!《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》で《真紅眼の亜黒竜》を攻撃!旋風のヘルダイブスラッシャー!!」

相棒の忠告を無視し、ユーゴの攻撃命令により、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》が回転しながら《真紅眼の亜黒竜》に向けて突撃する。

胴体に大穴が開いた黒竜はガラスのように砕け散る。

「ふっ…《真紅眼の亜黒竜》の効果発動。このカードが戦闘または相手のカード効果によって破壊されたとき、私の墓地に存在するレベル7以下のレッドアイズ1体を特殊召喚できます。その効果で特殊召喚されたモンスターが《真紅眼の黒竜》の場合、その元々の攻撃力は倍になる」

「なに!?」

「よみがえりなさい、《真紅眼の黒竜》」

ガラスのように砕けた肉体が再び集結し、《真紅眼の黒竜》の姿となって再生する。

 

真紅眼の黒竜 レベル7 攻撃2400→4800

 

エリク

ライフ4000→3900

 

「何やってんだ、ユーゴ!!忠告を無視して攻撃なんかしやがって!!私の効果は墓地のモンスターには届かねーことはわかってんだろーが!!」

「るっせー!そんな効果があるなんて知らなかったんだよ!!それなら、墓地のモンスターも対象にできるようになれ!!」

「ふざけんな!!それは私が《クリスタルウィング》になったからできることだ!!無茶な注文すんじゃねー!バカユーゴ!!」

「バカっつーな!バカって!!」

「な…なに、これ??」

ユーゴとクリアウィングがデュエル中であるにもかかわらず大喧嘩を繰り広げるが、当然明日香たちにはクリアウィングの声など聞こえるわけがない。

ただ、ユーゴが一方的にリアルソリッドビジョンの《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》に怒声を浴びせているだけにしか見えない。

「ユーゴさん、そんな痛いことをしていても大丈夫ですか?リンさんを一刻も早く助けたいのではないのですか?」

「痛いっつーな!痛いって!てめーがそもそもこんなデュエルをしなきゃ…ああ、くそぉ!!俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだぁ!!」

 

エリク

手札2(うち1枚《真紅眼融合》)

ライフ3900

場 真紅眼の黒竜 レベル7 攻撃4800

  巨神竜の遺跡(永続魔法)

  伏せカード1

 

ユーゴ

手札6→2

ライフ4000

場 クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7 攻撃2500

  伏せカード2

 

先制ダメージを与えることには成功したが、その代償としてもともとの攻撃力が4800まで上昇した《真紅眼の黒竜》の召喚を許す結果となってしまった。

この攻撃力の前では、たとえ《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》でも粉砕されてしまう。

「私のターン、ドロー」

 

エリク

手札2→3

 

「私は手札から魔法カード《黒炎弾》を発動。このカードを発動したターン、私の《真紅眼の黒竜》は攻撃できない。しかし、私のフィールドの《真紅眼の黒竜》1体のもともとの攻撃力分のダメージを与える」

「《真紅眼の黒竜》の元々の攻撃力は2400…じゃない!!《真紅眼の亜黒竜》の効果でもともとの攻撃力そのものが…」

「だから、ユーゴが受けるダメージは2400ではなく…4800…!」

初期ライフを一撃で消し飛ばす真っ黒な炎が《真紅眼の黒竜》の口に圧縮されていく。

まだ発射されたというわけでもないにもかかわらず、ビリビリとプレッシャーがユーゴの肌に伝わる。

この攻撃を受けた瞬間、1ショットキルでユーゴの敗北が決定する。

「いけ、《真紅眼》」

《真紅眼の黒竜》の口から無情な炎がはなたれ、それがまっすぐにユーゴに迫る。

「くっそお!!俺は罠カード《シンクロ・バリアー》を発動!俺のフィールドのシンクロモンスター1体をリリースすることで、次の俺のターンが終わるまで、俺が受けるすべてのダメージを0にする!!」

《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》がバリアへと変化し、ユーゴを敗北へ追い込もうとした炎を受け止める。

「ぐ…あぶねえ…!!」

「私はこれで、ターンエンド」

 

エリク

手札3→2(うち1枚《真紅眼融合》)

ライフ3900

場 真紅眼の黒竜 レベル7 攻撃4800

  巨神竜の遺跡(永続魔法)

  伏せカード1

 

ユーゴ

手札2

ライフ4000

場 伏せカード1

 

「なんとかこのターンの敗北は防いで、ユーゴのターンまで彼はダメージを受けない。けど…」

エリクのフィールドには攻撃力が4800となった《真紅眼の黒竜》と効果のわからない《巨神竜の遺跡》が存在する。

それに対して、ユーゴのフィールドは伏せカード1枚のみで、手札も残り2枚。

明らかにユーゴの不利が明確だ。

「どうしましたか?あなたの実力はこの程度なのですか?」

「くそ…!この俺がこの程度で終われるかよ!俺のターン、ドロー!!」

 

ユーゴ

手札2→3

 

「俺は罠カード《ロスト・スター・ディセント》を発動!俺の墓地のシンクロモンスター1体を効果を無効にし、守備力を0にして、守備表示で特殊召喚する。俺は墓地の《クリアウィング》を特殊召喚!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン レベル7→6 守備2000→0

 

「そして、手札から《SRドミノバタフライ》を召喚!」

 

SRドミノバタフライ レベル2 攻撃100(チューナー)

 

「チューナーモンスター…」

「いくぜ!俺はレベル6になった《クリアウィング》にレベル2の《ドミノバタフライ》をチューニング!神聖なる光蓄えし翼煌めかせ、その輝きで敵を討て!シンクロ召喚!いでよ!レベル8!《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン レベル8 攻撃3000

 

「せっかくシンクロ召喚に成功したようですが…攻撃力3000では私の《真紅眼》を倒すことなどできませんよ」

「そんなの関係ねえ!《クリスタルウィング》はレベル5以上の相手モンスターと戦闘を行うとき、ダメージ計算時のみ、自分の攻撃力を相手モンスターの攻撃力分アップする!」

レベル5以上という条件さえクリアできれば、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》はどんなに攻撃力の高いモンスターであろうと上回ることができる。

これなら、エリク自慢の《真紅眼の黒竜》を倒すことができる。

「それは…どうでしょうか?残念ですが、このターンにそれはできないですね」

「はぁ!?何を言って…!?」

鎮座している竜の化石の瞳がきらりと光ると同時に、《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》の体が紫色の光に包まれる。

力が抜けているのか、その場で地に伏した格好となってしまった。

「お、おい!!どうしちまったんだよ!?おい!!」

「《巨神竜の遺跡》の効果です。私のフィールドにレベル7か8のドラゴン族モンスターが存在し、墓地以外からモンスターが特殊召喚された場合、そのモンスターの効果はこのターン、無効となる。よって、今の《クリスタルウィング》はこのターンのみですが、効果を失っています」

「ぐっ…!!けどよぉ、《巨神竜の遺跡》の効果はこのターンだけだ!次のターンで倒してやる!俺はカードを枚伏せて、ターンエンド!!」

 

エリク

手札2(うち1枚《真紅眼融合》)

ライフ3900

場 真紅眼の黒竜 レベル7 攻撃4800

  巨神竜の遺跡(永続魔法)

  伏せカード1

 

ユーゴ

手札3→1

ライフ4000

場 クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン レベル8 攻撃3000

  伏せカード1

 

「私のターン、ドロー…」

 

エリク

手札2→3

 

「《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》…。1ターンに1度、私のモンスター効果を封じ、破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力をターン終了時まで奪う効果を持つドラゴン…」

「《クリスタルウィング》の効果を知ってるのか!?」

「当たり前です。私はジェルマン。アカデミアに所属するデュエリストのデュエルデータは閲覧できますから」

シンクロ次元のギャングとして潜入していたこともあり、《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》の効果はよく知っている。

そして、その弱点も。

「私は手札から《真紅眼融合》を発動。手札・デッキ・フィールドのモンスターを素材に真紅眼融合モンスター1体をカード名の《真紅眼の黒竜》として扱った上で融合召喚できる。私はデッキの《真紅眼の黒魔術師》とフィールドの《真紅眼の黒竜》を素材に融合!赤き瞳を持つ黒魔術師よ、赤き瞳の竜よ、今こそ1つとなり、新たな力へと姿を見せよ。融合召喚!現れろ、竜の力を宿す黒き魔術師、《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》」

赤い瞳と赤黒いローブを身にまとう《ブラック・マジシャン》に似た容姿の魔術師と《真紅眼の黒竜》が融合し、その姿を赤い宝石をいたるところにつけた、黒竜をイメージさせるローブで身を包み、右手にはのこぎりのような刃の剣を握った魔術師が姿を現す。

 

超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ レベル8 攻撃3000

 

(攻撃力4800のモンスターを捨ててまで融合召喚する…?それだけの価値があのモンスターに…?)

レベル5以上であることには変わりないにもかかわらず、しかも魔法使い族であることから《巨神竜の遺跡》の効果まで捨てる形になっている。

そうしてまで融合召喚したそのモンスターにクリアウィングのみならず、ユーゴ自身も警戒していた。

「《ドラグーン・オブ・レッドアイズ》…。絆を持つ者が1つとなることで難敵を打ち破る。融合召喚とは、その交わる力で不足する者を補い、困難に立ち向かうための調和の力であるのに、アカデミアはそれを踏みにじっている」

「調和の力…?」

「仕方のないことです。今のプロフェッサーを名乗る者にはそんな力の真実すら見極める力を持つはずなどないのですから…」

(今のプロフェッサー…?どういう意味だ??)

遊勝は今のエリクの言葉の意味を理解しかねていた。

協力者であり、信頼できる相手であることには間違いないが、エリクにはまだ自分にすら伝えていない真実を握っているのか。

だとしたら、なぜ伝えない、もしくは伝えることができないのか。

「《ドラグーン・オブ・レッドアイズ》の効果。私のメインフェイズ時に、相手フィールドのモンスター1体を破壊し、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える…」

「《クリスタルウィング》の効果発動!1ターンに1度、このカード以外のモンスター効果を無効にし、破壊する!そして、ターン終了時までそのモンスターの元々の攻撃力分攻撃力がアップする!」

《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》の口から放たれる白いブラスが効果を発動しようとする《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》を飲み込んでいく。

しかし、これで効果を無効にできるはずなのに心に宿る嫌な予感を捨て去ることができない。

何か取り返しのつかない失敗をしているのかとさえ思ってしまう。

「《ドラグーン・オブ・レッドアイズ》の効果発動。1ターンに1度、カード効果が発動したとき、手札1枚を捨てることで、その発動を無効にし、破壊する」

「何!?」

ブレスを穿つように、のこぎり状の剣が一直線に《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》めがけて投擲される。

その刃が喉を貫通し、《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》は消滅した。

「そして、このカードの攻撃力を1000アップさせる」

 

超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ レベル8 攻撃3000→4000

 

手札から墓地へ送られたカード

・天罰

 

「マジ…かよ…!」

せっかく起死回生の切り札とした召喚した《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》があっという間に破壊されただけでなく、再びユーゴのフィールドががら空きになった状態で攻撃力4000のモンスターが出現することになった。

また一撃受けたら敗北という最悪な状況が生まれる。

「いかがでしょうか?どう動いても敗北への道を突き進む今の状況は」

確かに、ここで《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》の効果を発動しないという選択肢もあっただろう。

しかし、その場合は3000のダメージを受ける上にダイレクトアタックを受けて敗北という未来が待っているだけ。

どう動こうと、この絶望的な状況が生まれるのを指をくわえてみていることしかできない。

「ちくしょう!今回のデュエル程、もてあそばれたって気分になるデュエルはなかったぜ!!」

「バトル。《ドラグーン・オブ・レッドアイズ》でプレイヤーへダイレクトアタック」

《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》が剣を地面に刺し、両手で魔力を凝縮させて黒炎弾を生み出し、それをユーゴに向けて発射する。

「この攻撃を受けたら、ユーゴのライフが0に!!」

「だからといって…こんなところで、こんなところで終われるかよ!罠発動!《スピードターン&リバース》!!俺の風属性シンクロモンスターが墓地へ送られたターンにだけ発動できて、俺が受けるダメージをこのターン、半分にする!うわあああ!!」

風の障壁で一時的に受け止められた黒い炎だが、やがて突き破ってユーゴを襲い、真正面から受けたユーゴの体が冷たいコンクリートと雪の地面に転がる。

「私はこれで、ターンエンド」

「そして…ターン終了時に俺の墓地に存在する風属性シンクロモンスター1体を特殊召喚する!よみがえれ、《クリスタルウィング》!!」

 

クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン レベル8 攻撃3000

 

ユーゴ

ライフ4000→2000

 

エリク

手札3→1

ライフ3900

場 超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ レベル8 攻撃4000

  巨神竜の遺跡(永続魔法)

  伏せカード1

 

ユーゴ

手札1

ライフ2000

場 クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン レベル8 攻撃3000

 

「どうにか《クリスタルウィング》がユーゴのフィールドに戻ったが…エリクのフィールドには《ドラグーン・オブ・レッドアイズ》がいる…」

「《クリスタルウィング》の効果は封じられたも同然だ。ユーゴ…どう戦うつもりだ?」

エリクの真意が気になるのはもちろんだが、デュエリストの性なのか、2人のデュエルがどうなるかという興味をどうしても抱いてしまう。

今のエリクのフィールドにはレベル7か8のドラゴン族は存在しないため、《巨神竜の遺跡》の効果は発動していない。

自由に動けるが、《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》の効果という次の壁が待つ。

「俺の…ターン!!」

 

ユーゴ

手札1→2

 

「俺は…カードを2枚伏せて、ターンエンド…」

 

エリク

手札1

ライフ3900

場 超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ レベル8 攻撃4000

  巨神竜の遺跡(永続魔法)

  伏せカード1

 

ユーゴ

手札2→0

ライフ2000

場 クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン レベル8 攻撃3000

  伏せカード2

 

「私のターン、ドロー…」

 

エリク

手札1→2

 

「…君の《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》はレベル5以上のモンスターと戦闘を行うとき、ダメージ計算時のみ戦う相手モンスターの攻撃力分、攻撃力がアップする」

「そうだぜ…。けど、あんたの《ドラグーン・オブ・レッドアイズ》は1ターンに1度、手札を1枚捨てることで、カード効果の発動を無効にして、破壊する上に攻撃力が1000アップするんだろ?だが、《クリスタルウィング》のもう1つの効果はこいつ以外のモンスター効果が発動したとき、その発動を無効にして、破壊することができる。そして、破壊したモンスターの攻撃力分、攻撃力がターン終了時までアップする」

ここでエリクから動いた場合、半自動的にそれらの効果が発動し、軍配が上がるのはユーゴになる。

だが、そんなことはエリクも分かっている。

必ず何らかの対策をするに決まっている。

「…バトル!《ドラグーン・オブ・レッドアイズ》で《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》を攻撃…!」

《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》が握っている剣を振るい、黒い剣閃が一直線に《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》に向けて飛んでいく。

「俺は《クリスタルウィング》の効果を発動!《ドラグーン・オブ・レッドアイズ》の攻撃力分、攻撃力がアップする!」

「私は手札の《真紅眼の竜戦士》の効果を発動。私のフィールドに存在するレッドアイズが相手モンスターを攻撃するとき、手札のこのカードを墓地へ送ることで、その相手モンスター1体の攻撃力をターン終了時まで0にする!」

白と赤を基調とした翼竜のようなアーマーを身に着けた金髪の少年が出現し、《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》を倒そうとする水晶の竜の懐に飛び込み、拳を叩き込もうとする。

「相討ちにするつもりかよ!!俺は《クリスタルウィング》の効果を発動!《真紅眼の竜戦士》の効果を無効にし、破壊する!!」

「《ドラグーン・オブ・レッドアイズ》の効果を忘れましたか?手札を1枚墓地へ送り、《クリスタルウィング》のその効果の発動を無効にし、破壊します!」

剣閃が黒い炎の鎖に変化して、《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》の肉体を縛り付ける。

そして、身動きが封じられたそのドラゴンの胴体に《真紅眼の竜戦士》の拳が叩き込まれ、その個所を中心に爆発が起こる。

(私が伏せているカードは《レッドアイズ・インサイト》。たとえ手札に攻撃を阻むカードがあろうと、このカードで追撃できるレッドアイズを蘇生できる…)

《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》を突破し、勝利を確信しようとしたが、突然腹部を貫かれたはずのその水晶の竜の体が透明になっていく。

そして、巨大なエネルギー体へと変化していった。

「何…?」

「発動、したぜ…。俺の最後の返しだ!!罠カード《コズミックブラスト》!俺のフィールドのドラゴン族シンクロモンスターがフィールドから離れたターンに発動できて、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「しかし、私のライフは3900。その1枚では…」

「そうだ!こいつ1枚じゃあ倒し切れねえ!だが、こいつならどうだ!!」

ユーゴはもう1枚の《コズミックブラスト》を発動する。

2枚の《コズミックブラスト》の効果で、エリクが受けるダメージは合計6000となる。

「まさか、そんな力任せな反撃をするとは…予想外でしたよ」

まさかの一撃を受ける形となったエリクだが、悔しさはなく、いつもと同じ薄い笑みだけだった。

エネルギー体はエリクを飲み込んでいき、デュエルの終幕を告げた。

 

エリク

ライフ3900→900→0

 

スピードターン&リバース

通常罠カード

(1):自分フィールドに存在する風属性Sモンスターが墓地へ送られたターンにのみ発動できる。このターン、自分が受けるダメージを半分する。そして、このカードを発動したターン終了時、自分の墓地に存在する風属性Sモンスター1体を自分フィールドに特殊召喚する。

 

真紅眼の黒魔術師(レッドアイズ・マジシャン)

レベル7 攻撃2500 守備2100 効果 闇属性 魔法使い族

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。

(1):このカードは「真紅眼」融合モンスターの融合素材となるとき、カード名を「ブラック・マジシャン」としても扱う。

(2):自分が「レッドアイズ」魔法・罠カードを発動したターンのメインフェイズ1に、自分フィールドに存在するこのカードをリリースし、自分の墓地に存在する「真紅眼の黒魔術師」以外のレベル6以上の「レッドアイズ」モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

真紅眼の竜戦士(レッドアイズ・ドラゴンウォリアー)

レベル7 攻撃2400 守備2000 効果 闇属性 戦士族

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分フィールドの「レッドアイズ」モンスターが相手モンスターを攻撃するとき、手札に存在するこのカード1枚を墓地へ送ることで発動できる。その相手モンスターの攻撃力をターン終了時まで0にする。

(2):このカードは「真紅眼」融合モンスターの融合素材とするとき、カード名を「真紅眼の黒竜」としても扱い、種族をドラゴン族として扱うことができる。

 

コズミックブラスト(アニメオリカ・改変)

通常罠カード

(1):自分フィールドのドラゴン族Sモンスターがフィールドから離れたターンにのみ発動できる。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。この効果を発動したターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。

 

「ふっふふふ…まさか、このような形で私が敗れるとは…。《コズミックブラスト》を2枚伏せるとは…ね。大胆なことをしてくれますね、ユーゴ…」

「うっせえよ!ただ、手札に来て、こいつしかあんたを倒せる手がねえと思ったからやったんだよ…」

正直、最後のドローで《コズミックブラスト》がもう1枚こなかったら、もう敗北を覚悟していた。

勝利してほっとする気持ちもあるが、同時に敗北したにもかかわらず笑う彼に疑問を抱く。

「答えてほしいな、エリク。なぜこのようなデュエルを…」

「その理由が、もう到着したところのようですね」

「何…?」

エリクが遊勝らのいる方向に指をさし、3人は後ろに振り返る。

そこには十数人の集団が歩いてきていて、その集団の中には遊勝にとっては見覚えのある人物の姿もあった。

「まさか…遊矢…なのか…??」

「教授に残された時間は短い。故に、そろって聞いていただけた方が都合がよろしいので」


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