「ええっと…あー、あー、これでいいの?もうちょっと離れた方がいい??」
「ううん。距離はOK!ここから撮影だけど、準備OK?」
「あ、待って!伊織!どうしよう…また緊張してきちゃった…」
多くのコンテナが積まれた薄暗い倉庫の中で、伊織が持つデジタルカメラの前で、すっかり緊張してしまった柚子はその場にうずくまり、このやり取りを何度もこの1時間でしてきた伊織は思わずため息をつく。
「んもう、これだとみんなにビデオレターを送れないじゃん!!それに、忙しくなるからせめてビデオレターでも、って言ったのは柚子でしょ?」
「…ごめんなさい」
「おいおい、勘弁してくれよ。まだ終わってないのかよー」
いつまでたっても順番が回ってこないことに不満を覚えた遊矢はがっくりと肩を落とす。
いよいよあと8時間後にはスタンダード次元から融合次元へ転移し、アカデミアとの決戦となる。
次元戦争を終わらせ、遊勝に再会する。
そのためには決意を固めなければならないその時に柚子の緊張が台無しにしていた。
「仕方ないなぁ…柚子、代わって」
「うう…」
しぶしぶと遊矢と交代し、伊織のカメラには遊矢の姿が映る。
伊織が録音ボタンを押すと、遊矢はわざとらしい咳払いをした後で、左手の手袋を外し、袖をまくる。
「みんな、これから俺たちは融合次元へ行く。この次元戦争で、俺たちはたくさんのものをなくしてしまった。俺は左腕をなくした。仲間をなくした。力を得るために向かった2つの次元でも、手を取り合えるはずだった人を…俺はなくしてしまった」
シンクロ次元に来たばかりの時にセキュリティから救ってくれたクロウ、トップスを破壊し、革命を起こそうとしたシンジ、家族を奪った復讐に燃えていたカイト、一度は楽しいデュエルを否定していたエド。
デュエルをすることで分かりあい、それで笑顔を取り戻せたはずだった。
だが、次元戦争はそのはかない希望や光を打ち砕いていった。
「でも、こんな悲しい戦争はもうすぐなくなる。アカデミアに自分や家族、仲間を奪われる恐怖や悲しみがこれ以上増えることはなくなるんだ。そのために、ランサーズができて、仲間たちが集まってくれた」
幼いころから知っている柚子や権現坂、ランサーズ構想を打ち立て、長年にわたってアカデミアとの戦いの準備を続けてきた零児とその義弟の零羅。
すっかり腐れ縁となった沢渡に、遊勝塾に新しく入った翔太と伊織。
エクシーズ次元で仲間たちを失った黒咲や元シェイドのメンバーたち。
他にも、侑斗やウィンダといったヴァプラ隊のメンバーやヒイロもいる。
次元戦争を終わらせるという一つの目的のために、多くの人が今、スタンダード次元を出ようとしている。
「アカデミアはすべての次元を一つにすることで理想郷を作ろうとしている。その理想郷がどんなものかは分からない。けど、一方的にそのエゴを押し付け、悲しみを与えるそのやり方を俺は認めない!そして、この戦争の終わりのために、みんなの命はいらない!誰一人欠けることなく、必ず生きてスタンダード次元へ帰る!だから、みんなで待っていてくれ。必ず、帰ってくるから!」
「遊矢…」
「遊矢君…」
遊矢の戦争を終わらせることへの強い意志が一つ一つの言葉からにじみ出ており、伊織は思わず録画を止めるのを忘れてしまった。
翔太に肩を叩かれたことで、ようやくそれに気づいて録画を止める。
「…ごめん。軽く帰ってくるから待ってろ…そういうつもりだったけど、これじゃあすっかりみんなへのメッセージにもなってしまってるな」
「別にいいんじゃねえか?俺も、まだベクターとの決着がついてねーからな、死ぬつもりなんてサラサラない」
「私も同じ!それに、私にはお父さんに会うっていう目的ができちゃったから」
「親父…か…」
ベクターの記憶も宿してしまった翔太にはその言葉にあまりいい感情がわかない。
頭に浮かぶのは強権的で、自分の意のままに動かなければ殺そうとさえする暴君しかいない。
秋山翔太となってからはそうした親と言える存在は当然いない。
「そのためには、翔太君の力も必要だから…お願いね!」
「ちっ…仕方ねえな。ん…?」
急に全員が静まり返り、遊矢達の視線が向けられていることに違和感を覚える。
どうしてか分からず、首をかしげる中で柚子が口を開く。
「口調は変わってないのに…頼みにあっさりと答えちゃった」
「翔太…変わったな」
「はぁ…?変わった?俺が??」
「うんうん、いい傾向だね、翔太君!この調子でもっと素直になってくれれば…」
「ちっ…うるせーな」
これ以上聞きたくないと思った翔太が倉庫から飛び出していく。
それが滑稽に見えたのか、伊織は思わず笑ってしまった。
レオコーポレーション社長室では、零児がデスクでパソコンを操作していて、ちょうどそれを終えて電源を切ったところで零羅が入って来た。
「兄様、出発の準備がもうすぐ終わるよ。みんな、待ってる」
「ああ、分かっている。その前に零羅…お前に渡しておきたいものがある」
「渡したいもの…?」
なんだろうと思い、まっすぐに零児の元へ歩いていく。
席を立ち、前へ歩いていき、零羅と正面で向き合う形になると、零児は膝を曲げて視線を零羅に合わせると、持っているUSBメモリを零羅の小さな手に握らせた。
「これは…?」
「お守りだ。お前にはすまないと思っている。私たち家族の愚かしい争いに巻き込んでしまった」
戦災孤児である彼を仮にヒイロが連れて帰らなかったとしたら、きっと彼は今頃命を落としていたか、少年兵として消耗品扱いにされていただろう。
連れて帰ったとしても、施設に入れるなど、彼の将来のためにできることはほかにもあったはずだ。
だが、できたことは零羅という名前を与えることとプロフェッサーとの戦いに巻き込むことだけだった。
日美香が零羅の特異な能力に目をつけ、彼を切り札にしようとしたことについては否定するつもりはない。
きっと彼女も、この次元戦争を終わらせるためにできる最大限の手段としてそれを選んだだろう。
しかし、零児は時折思ってしまう。
こんなことをしたことで、逆に零羅の未来を閉ざしてしまったのではないかと。
「もし、これ以上闘うのが嫌なら、今すぐランサーズを抜けてくれても構わない。そして、本当にやりたいことを探すんだ。それがきっと…」
「…ううん。戦うよ、兄様」
「零羅…?」
じっと零児の目を見て、怯えを見せることなく零羅は答える。
「確かに、セレナを守れなかったときはとてもつらかった…。でも、こんな僕を必要としてくれる人がいる。何もない僕を兄様たちが家族にしてくれた。それが、うれしいんだ」
「零羅…」
「だから、もう二度とそんなことで僕に謝ることなんてしないで。今の僕が一番やりたいことは…母様や兄様、みんなの力になることだから」
ここまで自分の言葉で何かを言ってくるのは初めてのことで、零児も驚いてしまった。
だが、おどおどしていた彼がここまで成長してくれたことを嬉しくも思ってしまう。
これを日美香が喜ぶかどうかは分からないが。
「兄様、僕とデュエルをして」
「私と…?」
「うん。今の僕の持っている力を見せたいんだ。僕の手で作ったこのデッキで」
シンクロ次元に戻ってから、零羅は無力な自分が許せずに、黙々と特訓を続けた。
元シェイドのメンバーや残っているランサーズの仲間たちのところにも押しかけて、デュエルを磨き続けた。
その中でようやく作ることのできた、零児からもらったものではない、正真正銘の自分のデッキ。
このデッキはほかの誰にも見せてはいない、今初めて見せている。
「ふっ…兄として、そこまで言われたのなら、相手にするしかないな」
出発までのスケジュールを考えると、スタンディングデュエルだけなら1回はできるだけの時間の余裕はある。
そして、これからのことを頭に浮かべると、どうしても今の零羅を焼き付けておきたいという気持ちもある。
零児は零羅から距離を取ると、デュエルディスクを展開する。
「本気で来い、今のお前の思いを私にぶつけろ!」
「いくよ…兄様!!」
「「デュエル!!」」
零羅
手札5
ライフ4000
零児
手札5
ライフ4000
「僕の先攻。僕は手札から《カードガンナー》を召喚!」
カードガンナー レベル3 攻撃400
(《カードガンナー》…?零羅の今までのデッキにはなかったカードだ)
「《カードガンナー》の効果発動!デッキの上から3枚までカードを墓地へ送ることで、1枚につき、攻撃力を500アップさせる!」
カードガンナー レベル3 攻撃400→1900
デッキから墓地へ送られたカード
・水晶機巧-サルファフナー
・緊急同調
・チューニング・サポーター
「そして、墓地の《サルファフナー》の効果発動。このカードが手札・墓地に存在するとき、手札のクリストロン1枚を捨てることで、特殊召喚できる。僕は《水晶機巧-シストバーン》を墓地へ送り、《サルファフナー》を復活させる!」
黄金の水晶でできた体と鎧姿をした4本脚の翼竜がフィールドに現れる。
水晶機巧-サルファフナー レベル5 守備1500
「そして、《サルファフナー》はこの効果で特殊召喚に成功した場合、自分フィールドのカードを1枚破壊する。僕は《サルファフナー》を破壊する!」
召喚されたばかりの《水晶機巧-サルファフナー》が粉々に砕け散り、その破片である水晶が零羅のフィールドに浮遊した状態でとどまる。
「そして、フィールドに存在する《サルファフナー》は戦闘・効果で破壊された場合、デッキからクリストロン1体を守備表示で特殊召喚できる。僕は《シトリィ》を特殊召喚」
浮遊する水晶が再び集結し、その姿が金色のワンピース姿の小柄な少女になった。
水晶機巧-シトリィ レベル2 攻撃500(チューナー)
「そして、手札からフィールド魔法《スターライト・ジャンクション》を発動!カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
零羅
手札5→1
ライフ4000
場 水晶機巧-シトリィ レベル2 攻撃500(チューナー)
カードガンナー レベル3 攻撃1900→400
伏せカード1
スターライト・ジャンクション(フィールド魔法)
零児
手札5
ライフ4000
場 なし
「私のターン、ドロー!」
零児
手札5→6
ドローしたカードを確認した後で、零児は零羅のフィールドを見る。
フィールドには攻撃力の低い2体のモンスターが棒立ちで、そのうちの1体はチューナー。
気になるのはなぜシンクロ召喚を行わなかったかだ。
普通なら、《カードガンナー》と《水晶機巧-シトリィ》で《A・O・Jカタストル》や《フレムベル・ウルキサス》などをシンクロ召喚できる。
だが、その答えは零羅が発動した《スターライト・ジャンクション》にある。
(《スターライト・ジャンクション》は相手ターンに自分がシンクロモンスターをエクストラデッキから特殊召喚した場合、フィールド上のカード1枚をデッキに戻す…。何らかの手段で、零羅は私のターンにシンクロ召喚を行ってくる)
問題はそこで召喚してくるのが何か、そしてシンクロ召喚を行うタイミングだ。
「私は手札から永続魔法《地獄門の契約書》を発動。その効果により、私はデッキから《DDスワラル・スライム》を手札に加える。そして、《スワラル・スライム》の効果発動。このカードと手札のモンスターを素材にDDD融合モンスターの融合召喚を行う。私は《スワラル・スライム》と《アビス・ラグナロク》を融合。自在に形を変える神秘の渦よ、神々の黄昏よ、今ひとつとなりて新たな王を生み出さん!融合召喚!生誕せよ!《DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン》!」
まずは小手調べと、背中に日輪を背負い、鎧も《DDD烈火王テムジン》と比較するとより磨かれて鋭利なものとなっている、進化した王が現れる。
DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン レベル8 攻撃2800
「…!僕は《シトリィ》の効果発動!相手メインフェイズ時、もくしはバトルフェイズ時に墓地のチューナー以外のモンスター1体を効果を無効にして特殊召喚できる!僕は墓地から《水晶機巧-サルファフナー》を特殊召喚!」
《水晶機巧-シトリィ》が手から放った水晶が増殖していき、その姿が彼女の元の姿であったはずの《水晶機巧-サルファフナー》へと変化していく。
水晶機巧-サルファフナー レベル5 攻撃2000
「そして、この効果で特殊召喚されたモンスターと《シトリィ》を素材にシンクロ召喚を行う。けど、この効果で素材となった2体のモンスターは除外される!」
「そういうことか…!」
「レベル5の《サルファフナー》にレベル2の《シトリィ》をチューニング!」
《水晶機巧-シトリィ》の体が黄金の水晶でできたチューニングリングへと変わり、その中で《水晶機巧-サルファフナー》が飛び込んでいく。
「シンクロ召喚!現れて、レベル7!《鬼動武者》!」
光と共に背中に刀を差した、三日月状の飾りのある兜を付けた、ステレオタイプの鎧武者型の機械が現れる。
鬼動武者 レベル7 攻撃2600
「更に、《スターライト・ジャンクション》の効果発動!《エグゼクティブ・テムジン》を兄様のデッキに戻す!」
《スターライト・ジャンクション》のソリッドビジョンが光り、底から発射される青い光を受けた《DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン》が消滅し、自動的にエクストラデッキに戻る。
その光景を見た零児はフッと唇を緩める。
(《エグゼクティブ・テムジン》はフィールドに存在し、私がDDを召喚・特殊召喚を行った時、1ターンに1度だけ、墓地のDDモンスター1体を特殊召喚できる効果がある。さらなる展開を止めるために、ここでシンクロ召喚をしてきたか)
そして、フィールドにいる《鬼動武者》は相手のカード効果でフィールドから離れたとき、墓地の機械族モンスター1体を特殊召喚できる効果がある。
戦闘する場合でも、ダメージステップ終了時まで零児の魔法・罠・モンスター効果の発動を封じる上に、バトルフェイズの間だけ、戦闘を行った相手モンスターの効果まで封じる。
墓地に存在する機械族モンスターは《水晶機巧-シストバーン》のみなので、まだ脅威とまではいかないが、このカード自身が墓地に存在していた場合はその限りではない。
「私はスケール1の《DD魔導賢者コペルニクス》とスケール10の《DD魔導賢者ニュートン》でペンデュラムスケールをセッティング!これで私はレベル2から9までのモンスターを同時に召喚可能。我が魂を揺らす大いなる力よ。この身に宿りて、闇を引き裂く新たな光となれ!ペンデュラム召喚!生誕せよ、《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》!《DDD超視王ゼロ・マクスウェル》!」
DDD死偉王ヘル・アーマゲドン レベル8 攻撃3000
DDD超視王ゼロ・マクスウェル レベル8 攻撃2800
「いきなり、《ヘル・アーマゲドン》を…!」
「私も手加減するつもりはない。今のお前の力のすべてを受け止め、それを超える力を見せよう。バトルだ!私は《ヘル・アーマゲドン》で《鬼動武者》を攻撃!」
《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》の水晶から発射される複数のビームが《鬼動武者》の装甲を次々と撃ち抜いていき、爆散させた。
「あああああ!!」
零羅
ライフ4000→3600
「更に《ゼロ・マクスウェル》で《カードガンナー》を攻撃」
《DDD超視王ゼロ・マクスウェル》の頭部から発射される大出力のビームで《カードガンナー》が消滅し、更には零羅をも襲う。
「ぐ、ううううう!!」
零羅王
ライフ3600→1200
「《カードガンナー》の効果。このカードが破壊されたとき、デッキからカードを1枚ドローする。更に僕は罠カード《クリストロン・インパクト》を発動。除外されている僕のクリストロン1体を特殊召喚する。僕は《シトリィ》を呼び戻す!」
水晶機巧-シトリィ レベル2 守備500(チューナー)
零羅
手札1→2
「そして、相手フィールドに表側表示モンスターが存在する場合、そのモンスターの守備力を0にする!」
「…!?」
《水晶機巧-シトリィ》が手から放つ黄金の波動を受けた2体のだが、失われたのは守備力だけで、力が失われたわけではないためか、一歩も後ろに下がる気配がない。
DDD死偉王ヘル・アーマゲドン レベル8 守備1000→0
DDD超視王ゼロ・マクスウェル レベル7 守備2500→0
「だが、攻撃力に変化はない。私はこれでターンエンドだ」
零羅
手札2
ライフ1200
場 水晶機巧-シトリィ レベル2 攻撃500(チューナー)
スターライト・ジャンクション(フィールド魔法)
零児
手札6→0
ライフ4000
場 DDD死偉王ヘル・アーマゲドン レベル8 攻撃3000
DDD超視王ゼロ・マクスウェル レベル7 攻撃2800
地獄門の契約書(永続魔法)
DD魔導賢者コペルニクス(青) ペンデュラムスケール1
DD魔導賢者ニュートン(赤) ペンデュラムスケール10
「僕のターン、ドロー!!」
零羅
手札2→3
「カードを1枚伏せ、墓地の《シストバーン》の効果発動!墓地のこのカードを除外して、デッキからクリストロンモンスター1体を手札に加える。僕はデッキから《スモーガー》を手札に加える。そして、《スモーガー》を召喚!」
背中から2本角のような水晶の棘を生やした白銀の虎が零羅の背後から飛び出してくる。
水晶機巧-スモーガー レベル3 攻撃1000
「更に手札から永続魔法《補給部隊》を発動し、《スモーガー》の効果。自分フィールドの表側表示のカード1枚を破壊することで、デッキからクリストロンチューナー1体を特殊召喚できる。僕は《スモーガー》自身を破壊し、《クオン》を特殊召喚!」
《水晶機巧-スモーガー》の体が砕け散り、その欠片が再結集すると、薄水色の鎧と水晶の小さな騎士の姿へと変貌する。
水晶機巧-クオン レベル1 攻撃500(チューナー)
「《補給部隊》の効果発動。1ターンに1度、僕のフィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊されたとき、デッキからカードを1枚ドローする!」
「いずれのチューナーも、私のターンにシンクロ召喚をするための…!」
「更に僕は手札から魔法カード《精神操作》を発動!相手フィールドのモンスター1体のコントロールをターン終了時まで得る。僕は兄様の《ヘル・アーマゲドン》のコントロールを得る!」
「何!?」
零羅のフィールドに引っ張られるように、《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》が移動していく。
チューナーがフィールドに存在する上での《精神操作》の意味は零児にはすぐに理解できた。
「僕はレベル8の《ヘル・アーマゲドン》にレベル1の《クオン》をチューニング!シンクロ召喚!現れて、レベル9!《灼銀の機竜》!」
下半身が戦車のキャタピラで、上半身がドラゴンとなっているうえに背中にはキャノン砲、両腕にはレールガンなどの火器を贅沢に装着した白銀の兵器が現れる。
現れたと同時に、《灼銀の機竜》は零児を威嚇するかのように咆哮した。
灼銀の機竜 レベル9 攻撃2700
「《灼銀の機竜》の効果発動!1ターンに1度、手札・墓地・フィールドに表側表示で存在する僕のチューナー1体を除外することで、フィールド上のカードを1枚破壊できる。僕は墓地の《クオン》を除外して、兄様のフィールドの《コペルニクス》を破壊する!」
背中のキャノン砲が火を噴き、撃ち抜かれた《DD魔導賢者コペルニクス》が腹部に大穴を開けて消滅する。
「そして、僕はカードを1枚伏せてターンエンド!」
零羅
手札3→0
ライフ1200
場 灼銀の機竜 レベル9 攻撃2700
水晶機巧-シトリィ レベル2 攻撃500(チューナー)
補給部隊(永続魔法)
伏せカード2
スターライト・ジャンクション(フィールド魔法)
零児
手札0
ライフ4000
場 DDD超視王ゼロ・マクスウェル レベル7 攻撃2800
地獄門の契約書(永続魔法)
DD魔導賢者ニュートン(赤) ペンデュラムスケール10
(《ゼロ・マクスウェル》ではなく、《コペルニクス》を除去するか…これで、ペンデュラム召喚ができなくなった、ということか)
シンクロ素材となった《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》はエクストラデッキに休眠状態に入っている。
次にドローするカードがスケール7以下のペンデュラムモンスターなら、セッティングすることで再び生誕させることができる。
「私のターン、ドロー!」
零児
手札0→1
「スタンバイフェイズ時に《地獄門の契約書》の効果を発動。私は…1000のダメージを受ける!ぐぅ!!」
《地獄門の契約書》から出る黒い霧が零児を取り込み、同時に零児は激痛を覚えてその場で膝をつく。
だが、ここから勝利へ向かうためには必要な痛みであることを理解しているためか、甘んじて受けていた。
零児
ライフ4000→3000
「メインフェイズに入った瞬間、僕は《シトリィ》の効果を発動!墓地の《カードガンナー》を特殊召喚!」
カードガンナー レベル3 攻撃400
「そして、レベル3の《カードガンナー》にレベル2の《シトリィ》をチューニング!そして…永続罠《魔封じの芳香》を発動!!」
「何!?」
相手ターンシンクロ召喚と同時に発動してきたカードにさすがの零児の目も大きく開く。
このタイミングで、ペンデュラム召喚を多用するデッキには大きく刺さるカードが登場した。
「このカードが存在する限り、僕たちは魔法カードはセットしなければ発動できず、セットしたプレイヤーから見て自分のターンになるまで、そのカードは発動できない!更にシンクロ召喚!《水晶機巧-アメトリクス》!!」
紫色のアメジストと黄色のシトリンを組み合わせて作られた、ほっそりとした体格で背中に2枚羽根をつけた悪魔のようなモンスターが現れる。
水晶機巧-アメトリクス レベル5 攻撃2500
「この瞬間、《スターライト・ジャンクション》の効果発動!まずは兄様のフィールドの《地獄門の契約書》をデッキに戻す!更に、《アメトリクス》のシンクロ召喚に成功したとき、相手フィールドの特殊召喚された表側表示モンスターをすべて守備表示にする!」
《水晶機巧-アメトリクス》の羽根から発生する光の奔流を受けた《DDD超視王ゼロ・マクスウェル》が体を沈め、守備表示となる。
そして、零児は指定された《地獄門の契約書》をデッキに戻した。
DDD超視王ゼロ・マクスウェル レベル7 攻撃2800→守備0
《DDD超視王ゼロ・マクスウェル》自身は表示形式を変更すれば、また攻撃できる。
それ以上に厄介なのは《スターライト・ジャンクション》と《魔封じの芳香》だ。
その2枚が零児の動きを妨害し、今ここでペンデュラム召喚まで封じてくる。
(まさか、あの零羅がここまでやってくれるとはな…)
追い詰められたにもかかわらず、零羅の成長を素直に喜ばずにはいられない。
だが、だからといって素直に負ける理由はない。
「私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」
零羅
手札0
ライフ1200
場 灼銀の機竜 レベル9 攻撃2700
水晶機巧-アメトリクス レベル5 攻撃2500
魔封じの芳香(永続罠)
補給部隊(永続魔法)
伏せカード1
スターライト・ジャンクション(フィールド魔法)
零児
手札1→0
ライフ3000
場 DDD超視王ゼロ・マクスウェル レベル7 守備0
伏せカード1
DD魔導賢者ニュートン(赤) ペンデュラムスケール10
「僕のターン、ドロー!!」
零羅
手札0→1
「バトル!《アメトリクス》で《ゼロ・マクスウェル》を攻撃!!」
《水晶機巧-アメトリクス》が上空へ飛びあがり、再び羽根から光の奔流を放つ。
その光を受けた《DDD超視王ゼロ・マクスウェル》は消滅し、零児のフィールドががら空きになる。
「更に、《灼銀の機竜》でダイレクトアタック!そして、罠カード《シンクロ・ストライク》を発動!ターン終了時まで、シンクロ召喚したモンスター1体の攻撃力をシンクロ素材にしたモンスターの数×500アップさせる!」
灼銀の機竜 レベル9 攻撃2700→3700
機動した《灼銀の機竜》がキャタピラ側面に装着されているミサイルを全弾発射し、それが零児に襲い掛かる。
(この攻撃が通れば…!」
「罠発動!《DDDの緊急会合》!!私が直接攻撃によってダメージを受けるとき、そのダメージを半分にする!!ぐうう!!」
激しいミサイルの弾幕に耐え、零児はデッキから自動排出されたカードを手にする。
零児
ライフ3000→1150
「そして…受けたダメージ以下の攻撃力を持つDDモンスターをデッキから特殊召喚する。現れろ!《DD魔導賢者トーマス》!」
真っ白な人面のある『何か』が入った、金色の台のついた試験管がフィールドに現れ、その『何か』の目がギロリと開く。
DD魔導賢者トーマス レベル8 攻撃1800
「倒せなかった…僕はカードを1枚伏せ、ターンエンド」
零羅
手札1→0
ライフ1200
場 灼銀の機竜 レベル9 攻撃2700
水晶機巧-アメトリクス レベル5 攻撃2500
魔封じの芳香(永続罠)
伏せカード1
スターライト・ジャンクション(フィールド魔法)
零児
手札0
ライフ1150
場 DD魔導賢者トーマス レベル8 攻撃1800
DD魔導賢者ニュートン(赤) ペンデュラムスケール10
ライフは同じになったが、フィールドのアドバンテージを考えると、有利なのは零羅の方で、今の零児にはペンデュラム召喚を行うことができない状態。
零児はデッキトップに指をかける。
「私のターン、ドロー」
零児
手札0→1
「《トーマス》の効果発動。ペンデュラムゾーンのDDカードを1枚破壊し、デッキからレベル8のDDDモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。私は《ニュートン》を破壊し、デッキからもう1体の《ヘル・アーマゲドン》を特殊召喚する」
DDD死偉王ヘル・アーマゲドン レベル8 守備2500
「更に私は墓地の《DDDの緊急会合》の効果発動!私のフィールドにDDDペンデュラムモンスターが特殊召喚されたとき、私のペンデュラムゾーンにカードがない場合、このカードを墓地から除外することで、エクストラデッキに存在するペンデュラムスケールの異なるDDペンデュラムモンスター2体を手札に加える。私は《ニュートン》と《コペルニクス》を手札に加える!」
「ペンデュラムモンスターを手札に戻した!?けど…《魔封じの芳香》がある以上、このターンにペンデュラム召喚は…」
「私はレベル8の《DD魔導賢者トーマス》と《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》でオーバーレイ!!2つの太陽が昇るとき、新たな世界の地平が開かれる! エクシーズ召喚!現れいでよ!ランク8!《DDD双暁王カリ・ユガ》! 」
2本角の悪魔を模した紫の鎧を身に着けた男が黄土色の玉座に座った状態で現れる。
DDD双暁王カリ・ユガ ランク8 攻撃3500
「《カリ・ユガ》の効果発動!このカードがエクシーズ召喚に成功したターン、このカード以外のフィールド上のすべてのカードの効果を発動不能にし、効果を無効にする!」
《DDD双暁王カリ・ユガ》が両手を空に掲げると、その手から発生する波紋によって、零羅の魔法・罠ゾーンのカードが灰色に変わり、その力を一時的に失ってしまう。
「更に《カリ・ユガ》の効果。オーバーレイユニットを1つ取り除き、フィールド上の魔法・罠カードをすべて破壊する!!」
それだけでは飽き足らないのか、オーバーレイユニットを右手に宿した《DDD双暁王カリ・ユガ》がそれを振るうと、激しい衝撃波が発生し、無力化した零羅の魔法・罠カードが消滅した。
破壊された伏せカード
・シンクロン・リフレクト
取り除かれたオーバーレイユニット
・DD魔導賢者トーマス
「これで私はペンデュラム召喚を行える。私はスケール1の《DD魔導賢者コペルニクス》とスケール10の《DD魔導賢者ニュートン》で再びペンデュラムスケールをセッティング!!これで私はレベル2から9までのモンスターを同時に召喚可能。。我が魂を揺らす大いなる力よ。この身に宿りて、闇を引き裂く新たな光となれ!ペンデュラム召喚!生誕せよ、《DDD死偉王ヘル・アーマゲドン》!《DDD超視王ゼロ・マクスウェル》!」
DDD死偉王ヘル・アーマゲドン レベル8 攻撃3000
DDD超視王ゼロ・マクスウェル レベル8 攻撃2800
「あ、ああ…」
破壊されたはずの2体の王が新たな王と共に再び零羅の前に壁となって立ちはだかる。
もう零羅にはその3体の王を止めるだけの手段はなかった。
「零羅…行くぞ。私は3体のDDDで攻撃する」
3体のDDDが放つ魔力が上空で融合していき、それが小さな太陽へと変化していく。
そして、その太陽はゆっくりと零羅のフィールドに落ちていき、2体のシンクロモンスターと零羅を飲み込んでいった。
零羅
ライフ1200→500→0
DDDの緊急会合
通常罠カード
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手の直接攻撃宣言時に発動できる。その戦闘で発生する自分へのダメージが半分になる。その後、自分が受けた戦闘ダメージ以下の攻撃力を持つ「DD」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。
(2):自分フィールドに「DDD」Pモンスターが特殊召喚されたとき、自分Pゾーンにカードがない場合、墓地に存在するこのカードを除外することで発動できる。自分EXデッキに表側表示で存在するPスケールの異なる「DD」Pモンスター2体を手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターン、発動できない。
「負けた…やっぱり、兄様、強い…」
追い詰めたのはいいが、最後の最後で逆転されてしまい、その悔しさで零羅はその場に座り込む。
零児はそんな縮こまっている零羅の前で膝を降り、彼の頭を撫でる。
顔を上げると、そこには優しく笑う零児の顔があった。
「強くなったんだな、零羅…。正直に言うと、負けるかもしれない…そう思ってしまったよ」
「兄様」
「強くなりたいという気持ちを大事にするんだ。それがお前に可能性を作り出してくれる。それで、次元戦争を越えた先の未来を…うう!!」
突然苦しみ出した零児はわずかに後ろに下がると、胸に手を当てて痛みに耐える。
「兄様!?」
「なんでも…ない!」
近づこうとする零羅を制止させ、零児は懐にある使い捨ての空気注射器を出し、それを首筋に当てる。
ピストンを押し込み、その中にある液体が首筋から体内へと入っていく。
次第に発作が収まると、零児はゆっくりと呼吸をして、体を落ち着かせる。
「兄様…病気なの?」
「少し、疲れただけだ。心配する必要はない。お前は先に『船』へ行くんだ。私もあとから行く。それから、今渡したメモリと私のことは…誰にも言うな。いいな?」
「う、うん…」
何も言えなくなった零羅は回れ右をして社長室を後にする。
1人になった零児はゆっくりと起き上がり、使ったばかりの空気注射器を見つめる。
(ふふ…『欠片』の誘惑に耐えてはきたが、まさか体に影響が出るとはな…)
健全なる魂は健全なる精神と健全なる肉体に宿る、という古代ローマのユフェナリウスの言葉を思い出す。
これはその精神と肉体は互いに影響しあっているともとれる。
『欠片』によって精神的に追い詰められているのを必死に耐えた結果、そのダメージが自分の体へ向かってしまった。
侑斗から何度も警告されたにも関わらず、使い続けたツケと言えるだろう。
(だが、まだだ…。少なくとも、父を…プロフェッサーを止めるまでは、死ぬわけにはいかない…)
体が元通りに戻るのを感じた零児は社長室を出る。
果たして、ここにもう1度入る時が来るのか、それを知ることもせずに。