「柚子、ブレスレッドの反応は?」
「ううん…何も起こらない。ここからはもう遠くへ行っているってことじゃないかしら…?」
遊矢の問いかけにブレスレッドを確認した柚子が答える。
サヤカの言ったとおりの場所にトラックを止め、侑斗は地図を使って周辺を確認し、その場所が正しいかどうか確認する。
確認した結果、この場所は確かにサヤカが言っていた場所で間違いないのだが、ブレスレッドが反応しない。
となると、ここから遠くへ行っているという柚子の考えは正しいかもしれない。
「凌牙君が行きそうな場所…」
考え始めた彼はハートランドにあるものを思い出していく。
4つのデュエルスクール、ハートの塔、港…。
あの場所とは確かに異なる建物が多いが、それでも共通する場所が存在する。
「もしかしたら…あの場所かもしれない」
「あの場所…?わかるのか、剣崎さん」
「うん。もしかしたら…だけどね。みんな、乗って!」
侑斗に呼びかけられ、遊矢達は再びトラックへ乗り込み、トラックはその場を後にする。
トラックがいなくなると、近くのがれきに歪みが発生し、そこから2人の黒いスニーキングスーツを着用した2人の少女が現れる。
1人は白いロングヘアーで猫のような黄色い眼、もう1人は薄い金色のロングヘアーで赤紫の瞳をしており、2人はじっと走り去っていくトラックを見ていた。
「見えたな…さすがはジェルマンだ。いい情報を仕入れる」
「グロリア姉さん、どうするの?」
双眼鏡でトラックの行き先を確認するグロリアに妹と思われる白髪の少女が問いかける。
がれきが多いものの、オフロード向きに改造されたトラックであるため、速度減少はあまり期待できない。
リアルソリッドビジョンによって、デッキの中にあるとあるモンスターを召喚すれば、追跡は不可能ではない。
しかし、そのモンスターはどちらかというと短距離向きであり、長距離の追跡には向いていない。
「総司令に連絡するぞ」
「ええ…それに、早くこの服から着替えたいし…!」
「我慢して、グレース。基地に戻るまでは我慢だ」
グレースの言葉がわからないでもないが、任務が任務であるため、仕方がない。
アカデミアで開発されたこのスニーキングスーツはオクトカム・カモフラージュという風景だけでなく、質量や温度などをリアルタイムで再現できるシステムが備わっており、偵察や潜入に向いている。
おまけにゴムのような素材をベースとして体にフィットするように作られているため、引っかかるところも少なく、外界に溶け込みやすい。
それだけでなく、臓器を圧迫して機能を促進する、傷の治癒を早める、体温調節を行うなどといったとても優れた性能を持っている。
ただし、全身にフィットしているということで、来ているときつい感じがする上に女性が着用する場合は胸や尻などの形がわかるようになってしまう。
グロリアと違い、軍人気質ではないグレースはそれが嫌で仕方がない。
こうなったら、これを開発した人間に文句を言ってやりたいと思ったグレースだが、残念ながら今の状況では不可能だ。
「よし、この道を通れば、あの場所に行ける」
1本道に差し掛かり、トラックはまっすぐ進んでいく。
ブルーシートの中に隠れる柚子のブレスレッドが淡く光り始める。
「剣崎さんの言ったとおりだ。柚子のブレスレッドが反応してる」
「じゃあ、その場所に本当に凌牙さんっていう人が…キャア!!」
急に爆発音が鳴り響き、同時に振動がトラックに襲い掛かる。
ブルーシートの中にいる彼らには何が起こったのかわからない。
「何があった!?」
運転席と助手席のある方向の装甲を叩いた翔太が叫ぶ。
同時に、ガラガラと建物が崩れる音がする。
「みんな、伏せろ!!」
ズシィン、とけたたましい音が鳴り響くと同時の一陣の強風が吹く。
ブルーシートは4方から固定されているため、吹き飛びはしなかったが、バラバラと何かが当たる音が聞こえてくる。
少しして、ドアが開く音がし、同時にブルーシートが剥がされる。
「みんな、けがはない?」
「私たちは大丈夫。ユウ、何が起こったの??」
「どうやら、僕たちの動きが読まれていたみたいなんだ…。ほら」
遊矢達がトラックから降り、トラックの前方を見る。
左右にあるビルが崩れており、そのがれきによってここから先の道をふさがれてしまっている。
それと爆発音から、翔太はこれは敵が仕掛けた爆弾のせいだということが分かった。
3年前の戦いで、元々もろくなっていたビルであるため、ごく少量の火薬の爆弾でも容易に崩れてしまう。
おかげで、この道は使えなくなった。
「この道はもう使えない。どうする、剣崎さん」
トラックを使って進むなら、ほかに迂回ルートがあり、その道を黒咲は知っている。
そこを使っていくことも可能だ。
「いや、ここからは歩いていこう。もしかしたら、そのルートにも同じ罠が仕掛けられてるかもしれない」
今回は黒咲が間一髪で急ブレーキを踏んだおかげで、巻き込まれずに済んだ。
同じことが2度3度発生したら、今度こそ崩れるビルに巻き込まれてしまう。
そう考えると、ここからは歩いていった方が相対的に安全だと侑斗は判断した。
「ちっ…用意周到な野郎がいたもんだな。そこにいるんだろ?隠れてないで出てこい!」
「翔太…俺たち」
「ああ、遊矢。もう俺たちは胃袋の中みたいだな」
翔太の声に応じたのか、20人以上のアカデミアの兵士たちが物陰から出てくる。
赤服や黄色服だけでなく、オベリスクフォースも含まれている。
崩れたがれきの上には、襟などに金色の刺繍が施されたグレーの制服にプロフェッサーが着ているものと似た構造のマントを重ね着した、グレーの髪の少年が立っており、その隣には茶色いキノコのような髪型をした、黒いハイネックシャツと赤いインナー、青いスーツを重ね着した男が胸元にぶら下げている懐中時計で時刻を確認している。
「フフフ…時間通り。さすがです、エド・フェニックス総司令」
「3年の間に、ここの地形は頭に叩き込んだ。別に大したことじゃないさ。野呂」
今回、このように彼らを包囲できたのはジェルマンから彼らの存在を知り、グロリアとグレースのタイラー姉妹が偵察して居場所と目的地を特定してくれたからだ。
あとは爆発物を封鎖できるようにセットし、伏兵を用意しておけばいい。
しかし、野呂は今回のエドの策を勝算はしているものの、不満足な部分も感じていた。
(あの爆弾で、トラックごと壊してしまえばよかったものを…)
今回使用した爆弾はトラックが通る手前で爆発するようにプログラムするように、エドが指示をしていた。
相手はランサーズであり、デュエル戦士として、デュエルで彼らを倒してこそ、自分たちの戦いの正当性を示すことができる、という言い分だ。
デュエル以外の手段で実力行使をしてくる相手には、やむなく後味の悪い手段をとらざるを得なかったものの、デュエルで相手を倒すのがエドの基本スタンス。
だが、それがエクシーズ次元の侵攻スピードを遅らせているのは事実であり、以前に野呂は難民に変装した兵士でレジスタンスの基地に侵入し、爆弾テロを起こすことを提案したが、不採用となった。
侵略だけを考えると、野呂の考えは正しいのだが、エドの信条に反する提案だったこと、そして現場のデュエル戦士と最近補充要因としてアカデミアから派遣されたタイラー姉妹が彼を信頼していたためにそうなった。
時間と効率を重視する野呂にとって、エドは頭の痛い上司といえる。
アークエリア・プロジェクトの要である柚子が巻き込まれてしまうのだが、それは彼にとって、どうでもいいことだった。
「いいか、柊柚子の確保を第一目標。そして、ランサーズは1人残らずデュエルで撃破しろ」
「「ハッ!!」」
トラックの後方からもデュエル戦士たちが現れ、数はこちらの3倍以上。
しかも、彼らの会話から総司令がここにいるということで、さらに援軍がこちらにやってくる可能性が高い。
「じゃあ、柊柚子の確保は」
「私たちが!!」
グレース姉妹が一斉に柚子を確保するため、彼女に襲い掛かる。
「柚子!!」
そばにいた遊矢が彼女を守るために前に立つ。
「邪魔をするな!!」
グロリアが遊矢に向けて、右足で蹴りを入れようとする。
対人戦闘訓練の一環として、アカデミアではこうした体術の訓練も加えられており、グロリアは特にこの蹴り技を得意としている。
左腕でガードしたが、それでも腕の感覚を失うくらいの衝撃を与え、ひるませることができただろうと思った。
しかし、左腕にあたったときに発したガアンという金属に当たったような感触と、逆に足に伝わる痛みに驚く。
「遊矢!!」
「大丈夫、義手でよかった…!」
シンクロ次元で左腕を失い、代わりに手に入れた義手のおかげで柚子を守り、自分もダメージを抑えられた。
皮肉なものを感じながら、遊矢は袖を通している制服の上着を脱ぐ。
同時に、デュエルディスクをつけ、フィールド魔法《クロス・オーバー》を発動し、アクションデュエルの状態にする。
「アクションデュエル…。なんだかおもしろそう」
「関係ない。私たちの役目は柊柚子の確保。デュエルで拘束する」
「いいわ、姉さん。2人で行くわよ」
タイラー姉妹もデュエルディスクを展開する。
2人、特にグロリアは不敵な笑みを浮かべており、シンクロ次元での戦いの中でランサーズでも有数の実力者に成長しつつある遊矢に対して、余裕の態度を見せている。
「私たち、タイラー姉妹のタッグデュエル」
「知らないみたいだから、このデュエルでたっぷり教えてあげる」
「タッグデュエルなら、あたしも!!」
「柚子!?」
遊矢の隣に立った柚子もデュエルディスクを展開する。
これにより、タッグデュエルの条件が満たされ、デュエルディスクが自動的にタッグデュエルモードに設定が変更される。
「あたしも戦う。あたしだって、ランサーズなんだから」
「柚子…」
「あなたと一緒なら、怖くないわ。遊矢」
「ああ…一緒に戦ってくれ、柚子」
偽りのない、心からの言葉を聞き、遊矢も自然と笑みを浮かべる。
空気が甘くなり、それを見たグレースが少しうっとりしているが、グロリアににらまれて集中しなおした。
「プロフェッサーのためにも、柊柚子は確保させてもらう!」
「そんなことはさせるか!柚子は俺が守る!!」
「「デュエル!!」」
グレース&グロリア
手札
グレース5
グロリア5
ライフ4000
遊矢&柚子
手札
遊矢5
柚子5
ライフ4000
「私が先に行くわ、グロリア姉さん。私は手札から《アマゾネス王女》を召喚!」
青いライオンの鬣のような飾りを頭につけ、右手に長刀を持った、露出度の高い赤いビキニアーマー姿で黒い肌の少女が現れる。
アマゾネス王女 レベル3 攻撃1200
「《アマゾネス王女》の効果発動。このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、デッキからアマゾネス魔法・罠カード1枚を手札に加えるわ。私は《アマゾネスの叫声》を手札に加える。そして、速攻魔法《アマゾネスの叫声》を発動!」
浮いている足場を上り、一番上に到着した《アマゾネス王女》がイラストに描かれている《アマゾネスの射手>と同じように叫ぶ。
「デッキから、《アマゾネスの叫声》以外のアマゾネスカードを1枚手札に加えるか墓地へ送ることができるわ」
「サーチも墓地肥やしもできる速攻魔法だって!?」
「私はデッキから《アマゾネスペット仔虎》を墓地へ送るわ。さらに、手札からフィールド魔法《アマゾネスの里》を発動!アクションデュエルだから、このカードは永続魔法扱いになるわ!」
《アマゾネスの里》発動と同時に、廃墟には不釣り合いな密林が出現し、竪穴式住居風の家屋がいくつも現れる。
それについている窓や出入り口から、2人は何者かの目線を感じた。
「フィールドのアマゾネスの攻撃力は200アップするわ。そして、3枚カードを伏せて、ターンエンド」
グレース&グロリア
手札
グレース5→0
グロリア5
ライフ4000
場 アマゾネス王女 レベル3 攻撃1200→1400
アマゾネスの里(永続魔法扱い)
伏せカード3
遊矢&柚子
手札
遊矢5
柚子5
ライフ4000
場 なし
「あの男が…榊遊矢…」
エドはがれきの上から、デュエルを行う遊矢を見ていた。
彼を実際に見るのは初めてだが、プロフェッサーから何度も彼について話を聞いている。
また、スタンダード次元とシンクロ次元で戦ったオベリスクフォースのデュエルディスクについている録画機能で、映像として彼の姿を見たことがある。
「奴が…あの榊遊勝の息子なら…」
「そんなにのんびりとみてる場合か?総司令殿?」
ガレキの上まで1回のジャンプでたどり着いた翔太がエドをにらみ、デュエルディスクを展開する。
人間離れした翔太の身体能力に驚き、安全だと思ったエドのそばに敵が現れたことでびっくりした野呂は後ろに下がる。
「こういう時、大将首を取れば勝ちって相場だよなぁ?」
「邪魔をするな。僕は君なんかじゃなくて、榊遊矢に用があるんだ?」
「そんな要求をはい、そうですかと呑む敵がいるわけねえだろ?おいしいところは俺がもらう」
エドのデュエルディスクを見ながら、翔太はデュエルディスクを展開した。
「俺のターン、ドロー!!」
遊矢
手札5→6
「俺はカードを2枚伏せ、同時に罠カード《幻影騎士団シェード・ブリガンダイン》を発動!」
「伏せてすぐに発動できる罠カード!?」
「このカードは俺の墓地に罠カードがない場合、セットしたターンに発動できる!そして、発動後は通常モンスターとして俺のフィールド上に特殊召喚できる。さあ、まずは前座だ!」
球体型の鎧が急に《アマゾネス王女》の目の前に現れる。
急に現れた物体が何なのか、気になった少女はそれに触れると、急に鎧から青い炎が噴き出す。
びっくりした《アマゾネス王女》は足場から飛び降り、グレースのもとへ走って逃げた。
幻影騎士団シェード・ブリガンダイン レベル4 守備300
「びっくり箱のつもりか!?」
「さらに、俺は手札から魔法カード《螺旋のストライクバースト》を発動!デッキから《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を手札に加える。そして、俺は手札から《調律の魔術師》を召喚!」
「はあああ!」
召喚されたナヴィが元気よくフィールドに飛び出す。
調律の魔術師 レベル1 攻撃0(チューナー)
「《調律の魔術師》の効果!このカードの召喚・特殊召喚に成功したとき、俺たちは400のダメージを受け、相手は400ライフを回復する」
遊矢&柚子
ライフ4000→3600
グレース&グロリア
ライフ4000→4400
「マスター、こっち!」
「ありがとう、ナヴィ」
ナヴィに指をさされた木に向けて遊矢は走り、その木をよじ登る。
そして、葉に引っかかっているアクションカードを手にする。
「アクション魔法《昇格》を発動!俺のフィールドのモンスター1体のレベルを1から3上昇させる!俺は《調律の魔術師》のレベルを1から4に上げる!」
調律の魔術師 レベル1→4 攻撃0(チューナー)
昇格
アクション魔法カード
(1):自分フィールドのモンスター1体のレベルを1から3上げる。
「チューナーモンスター!?」
「レベル4の《幻影騎士団シェード・ブリガンダイン》にレベル4の《調律の魔術師》をチューニング!」
《調律の魔術師》が4つのチューニングリングへと姿を変え、炎を宿す鎧を取り込んでいく。
「剛毅の光を放つ勇者の剣!今ここに閃光と共に目覚めよ!シンクロ召喚!レベル8!《覚醒の魔導剣士》!」
覚醒の魔導剣士 レベル8 攻撃2500
「よし、アクションカード!!」
足場を上り、頭上の足場に貼り付けられているアクションカードを手にする。
「俺はアクション魔法《再動》を発動!このターンに発動した通常魔法カード1枚の効果を使う!俺は《螺旋のストライクバースト》を発動!デッキから《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》を手札に加える!」
遊矢の手札に、新たなオッドアイズが手札に加わる。
このカードはシンクロ次元から戻った遊矢のデッキの中にいつの間にか入っていたカードだ。
旅立つ前に、オッドアイズにこのカードが何かを尋ねたときの答えがこうだ。
「これは小僧のもう1つの可能性のカード。貴様がそれをつかむか、それとも堕ちるか…見させてもらうぞ…」
その答えを聞いたとき、これまでのように自分が彼とダーク・リベリオンに試されているような気がした。
だったら、それに自分なりの答えを出さなければならない。
彼にデュエルモンスターも笑顔にするといったからには。
再動
アクション魔法カード
(1):自分の墓地に存在する、このターン発動した通常魔法カード1枚の効果を得る。このカードを発動したターン、自分はアクションカードを手札に加えることができない。
「俺はスケール3の《EMオッドアイズ・ライトフェニックス》とスケール8の《EMオッドアイズ・ユニコーン》でペンデュラムスケールをセッティング!これで俺は、レベル4から7までのモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!ペンデュラム召喚!現れろ、二色の眼を持つ2体のドラゴン!!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》!」
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》とともに、彼と同じオッドアイをした、全身を骸骨のような白い鎧に覆われた青い体のドラゴンが現れる。
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃2500
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン レベル7 攻撃2500
「これが…遊矢の新しいオッドアイズ…!」
遊矢のフィールドに、攻撃力2500のモンスターが3体そろう。
グレースの伏せカードが何かはわからないものの、彼女のフィールドにいるモンスターは攻撃力1400の《アマゾネス王女》1体のみ。
「バトルだ!《覚醒の魔導剣士》で《アマゾネス王女》を攻撃!」
《覚醒の魔導剣士》が持っている2本の剣を合体、長刀状にして回転させながら彼女に切りかかろうとする。
「罠発動!《アマゾネス転生術》!私のフィールドに存在するアマゾネスモンスターをすべて破壊する!」
草陰や物陰から次々と矢が発射され、《覚醒の魔導剣士》は飛んでくる矢を斬るなどして回避に専念する。
その間に《アマゾネス王女》は密林の中へ姿をくらました。
「そして、破壊したモンスターと同じ数だけ墓地からレベル4以下のアマゾネスモンスターを守備表示で特殊召喚できるわ。私は墓地から《アマゾネス王女》を特殊召喚!」
矢が収まり、《アマゾネス王女》を見失った《覚醒の魔導剣士》が周囲を警戒する。
そんな彼の背後から、緑色の目と赤い肌の子供の虎に乗った《アマゾネス王女》がとびかかってくる。
びっくりした彼だが、遊矢のそばにいた《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が咆哮し、子供の虎がひるんだすきに脱出する。
「さらに、《アマゾネスペット仔虎》は自分フィールドにアマゾネスモンスターが召喚・特殊召喚されたとき、手札・墓地から特殊召喚できるわ!」
アマゾネス王女 レベル3 守備900→1100
アマゾネスペット仔虎 レベル2 守備500
「更に、《アマゾネス王女》の効果発動!デッキから《アマゾネスの秘宝》を手札に加えるわ。そして、《アマゾネスペット仔虎》は墓地のアマゾネスカードの数×100アップする!」
アマゾネスペット仔虎 レベル2 守備500→700
タイミングを逃しているため、《アマゾネスの里》の効果は発動しないものの、《アマゾネス王女》が守備表示となった上に、新たに《アマゾネスペット仔虎》が現れた。
そして、再びサーチ効果でデッキからカードが手札に加わっている。
しかし、《覚醒の魔導剣士》の攻撃は終わったわけではない。
「俺は《覚醒の魔導剣士》でもう1度、《アマゾネス王女》を攻撃!」
「罠発動!《密林融合-アマゾネス・フュージョン》。相手の攻撃宣言時、私のフィールドに存在するアマゾネスモンスターを素材に融合召喚をすることができるわ!」
「なに!?」
「私が融合素材にするのは《アマゾネスペット仔虎》と《アマゾネス王女》!《アマゾネスペット仔虎》はフィールド・墓地に存在するとき、カード名を《アマゾネスペット虎》として扱う。牙剥く密林の野獣よ。密林の王女を得て、新たな猛獣となりて現れよ。融合召喚!出現せよ、レベル7!《アマゾネスペット虎獅子》!」
密林の中に現れた渦の中へと2体のモンスターが消えていき、その中から赤い隻眼で両肩に黒いとげ付きのアーマーを装着したライガーが飛び出してくる。
アマゾネスペット虎獅子 レベル7 攻撃2500→2700
「そして、《密林融合》の効果で、攻撃モンスターの攻撃対象は融合召喚されたモンスターに変更される。そして、この効果で融合召喚されたモンスターはその戦闘では破壊されず、戦闘で発生する私たちへのダメージは0になるわ!」
《覚醒の魔導剣士》の刃と《アマゾネスペット虎獅子》の爪がすれ違いざまにぶつかり合う。
そして、剣士はウゥ、と苦しげな声を出して消滅し、ライガーは勝利を喜んでいるのか、空へ向けて咆哮する。
密林融合-アマゾネス・フュージョン
通常罠カード
このカード名のカードは1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手の攻撃宣言時、自分のEXデッキに存在する「アマゾネス」融合モンスター1体を対象に発動できる。自分フィールドに存在する融合素材となるモンスターを墓地へ送ることで、そのモンスターを融合召喚扱いで特殊召喚する。そして、攻撃対象はそのモンスターに変更される。また、この効果で特殊召喚されたモンスターはその戦闘では破壊されず、発生するお互いへの戦闘ダメージは0となる。
《アマゾネスの里》の効果により、攻撃力が2700となった《アマゾネスペット虎獅子》には2体のオッドアイズでも歯が立たない。
1ターンキルされる状況を2枚の伏せカードだけで回避し、おまけにエースカードを召喚し、こちらの上級モンスター1体を破壊した。
遊矢は彼女のデュエルの腕が純粋にすごいと思った。
だから、このような形でしかデュエルできないことを残念に思っている。
「さあ、どうするの?」
「メインフェイズ2に、俺はレベル7の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》と《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》でオーバーレイ!」
しかし、柚子を守るためにも立ち止まるつもりはない。
遊矢の宣言とともに、上空に現れたオーバーレイネットワークに2体のオッドアイズが取り込まれていく。
「二色の眼の竜よ、人々の涙を束ね、解放への道を示せ!エクシーズ召喚!ランク7!悲しき世界を穿つ氷河の竜、《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》!!これで、ターンエンドだ!」
グレース&グロリア
手札
グレース0→1(《アマゾネスの秘宝》)
グロリア5
ライフ4400
場 アマゾネスペット虎獅子 レベル7 攻撃2700
アマゾネスの里(永続魔法扱い)
伏せカード1
遊矢&柚子
手札
遊矢6→0
柚子5
ライフ3600
場 オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン(ORU2) ランク7 攻撃2800
伏せカード1
EMオッドアイズ・ライトフェニックス(青) ペンデュラムスケール3
EMオッドアイズ・ユニコーン(赤) ペンデュラムスケール8
「さあ、グロリア姉さん!」
「私のターン、ドロー」
グロリア
手札5→6
「私は手札から《アマゾネス王女》を召喚」
出だしはグレースと同じく、《アマゾネス王女》を召喚してくる。
問題はその効果でサーチされるカードと、そこからの動きだ。
アマゾネス王女 レベル3 攻撃1200→1400
「当然、効果は知ってるな。《アマゾネス王女》の効果で、デッキから《アマゾネスの闘志》を手札に加える。そして、私は手札から魔法カード《融合》を発動。手札の《アマゾネス女王》と《アマゾネスの剣士》を融合する!」
グレースとは異なり、手札の素材を即座に融合素材にする。
《アマゾネス王女》が大人に成長し、筋肉質な肉体を持った女王が片刃の剣を手に取り、赤とオレンジが混ざった鮮やかな、整っていない自然な髪をしたアマゾネスの戦士とともに渦の中へ消えていく。
「密林の女王よ、勇猛なる剣士の力を取り込みすべてを統べる帝国を築け!融合召喚!現れろ!レベル8、《アマゾネス女帝》!」
2本角の動物のどくろで作った冠と甘いマントを新たに装備した《アマゾネス女王》が皇帝の名を手にし、アマゾネスのすべての部族を統一した証を手にする。
彼女が剣を遊矢と柚子に向けた瞬間、《アマゾネスペット虎獅子》は咆哮し、密林に隠れるアマゾネス達が雄たけびを上げる。
アマゾネス女帝 レベル8 攻撃2800→3000
「更に、墓地の《アマゾネスペット仔虎》の効果発動。私のフィールドにアマゾネスモンスターが召喚・特殊召喚されたとき、墓地のこのカードを特殊召喚できる」
アマゾネスペット仔虎 レベル2 攻撃500→1400
「更に、手札から永続魔法《アマゾネスの闘志》を発動。私たちのフィールドに存在するアマゾネスが自分よりも攻撃力の高いモンスターを攻撃するとき、ダメージ計算時のみ、攻撃力を1000アップさせる。バトル!《アマゾネスペット虎獅子》で《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》を攻撃!」
右手に剣を手にした《アマゾネス女帝》が自身よりも大柄な《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》にひるむことなく切りかかる。
「《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》の効果!攻撃宣言時にオーバーレイユニットを1つ取り除くことで、その攻撃を無効にできる!リボーン・バリア!!」
《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》の前にオーバーレイユニットが変化した氷のバリアが出現し、氷が彼女の剣を阻む。
「さらにその後、手札・墓地からオッドアイズモンスター1体を特殊召喚できる。現れろ、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」
砕けた氷が集結し、その姿が《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》へと変わっていく。
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃2500
取り除かれたORU
・オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン
「かまわん!私は《アマゾネス虎獅子》で《アブソリュート・ドラゴン》を攻撃!《アマゾネスの闘志》の効果で、攻撃力をダメージ計算時のみ、1000アップさせる」
《アマゾネスの闘志》がオレンジ色に光り、《アマゾネスペット虎獅子》が咆哮する。
アマゾネス虎獅子 レベル7 攻撃2700→3700(ダメージ計算時のみ)
「それでも、《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》の効果で、その攻撃も防ぐ!リボーン・バリア!!」
もう1つのオーバーレイユニットで生まれた氷のバリアに阻まれたライガーはその氷を腹いせとしてかみ砕いた。
しかし、砕かれた氷は《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》へと姿を変え、ライガーと女帝から遊矢と柚子を守る防壁となる。
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン レベル7 攻撃2500
取り除かれたORU
・オッドアイズ・ファントム・ドラゴン
「ならば私は、《アマゾネス王女》で《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》を攻撃!」
「なんで…!?《アマゾネスの闘志》で攻撃力を上げても、《アマゾネス王女》の攻撃力は…!」
長刀を持った《アマゾネス王女》がオレンジ色の闘志を宿し、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》に切りかかる。
「同時に、《アマゾネス王女》の効果発動。このカードの攻撃宣言時、手札・フィールドからこのカード以外のカードを墓地へ送ることで、デッキからアマゾネスモンスター1体を守備表示で特殊召喚できる。私は《アマゾネスペット仔虎》を墓地へ送り、《アマゾネスペット虎》を特殊召喚する!」
《アマゾネスペット仔虎》が密林の中へ姿を消し、その中からそのモンスターが成長した姿といえる大きな虎が現れる。
アマゾネスペット虎 レベル4 守備1500
それでも、長刀でできたのは彼の鎧を傷つけることだけで、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》が口から放った回転する炎のブレスに飲み込まれる。
「く…!!」
グレース&グロリア
ライフ4400→4300
アマゾネス王女 レベル3 攻撃1400→2400(ダメージ計算時のみ)
「《アマゾネス虎獅子》の効果発動!私たちのアマゾネスが相手モンスターを攻撃したダメージ計算終了時に、相手フィールドに存在するモンスター1体の攻撃力を800ダウンさせる!」
《アマゾネス虎獅子》の閉じていた目が開き、赤い瞳が露出する。
その目から発生する渦が《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》の力を弱める。
オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン ランク7 攻撃2800→2000
「けど…これで《アマゾネス王女》は…」
「《アマゾネス女帝》が存在する限り、このカード以外のアマゾネスカードは戦闘・効果では破壊されない」
「何!?」
ブレスが消え、そこにはオレンジの闘志を宿したまま耐えた《アマゾネス王女》の姿があった。
攻撃を耐えた彼女の頭を《アマゾネス女帝》が笑みを浮かべながらなでる。
「でも、《アマゾネス女帝》を倒せば…」
「それは無理とは言わないけれど、難しいわね。《アマゾネスペット虎獅子》が存在する限り、ほかのアマゾネスを攻撃対象にできないわ。当然、この子も《アマゾネス女帝》の効果で戦闘・効果では破壊されない。後、この効果は《アマゾネスペット虎》も持ってる。つまり…」
「しゃべりすぎだ、グレース」
有利になり、余裕ができた妹を諫め、グロリアはカードを手に取る。
「私はカードを1枚伏せ、ターンエンド」
グレース&グロリア
手札
グレース0→1(《アマゾネスの秘宝》)
グロリア6→1
ライフ4300
場 アマゾネスペット虎獅子 レベル7 攻撃2700
アマゾネス女帝 レベル8 攻撃3000
アマゾネスペット虎 レベル4 守備1500
アマゾネス王女 レベル3 攻撃1400
アマゾネスの闘志(永続魔法)
アマゾネスの里(永続魔法扱い)
伏せカード2
遊矢&柚子
手札
遊矢0
柚子5
ライフ3600
場 オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン ランク7 攻撃2000
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃2500
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン レベル7 攻撃2500
伏せカード1
EMオッドアイズ・ライトフェニックス(青) ペンデュラムスケール3
EMオッドアイズ・ユニコーン(赤) ペンデュラムスケール8
グレースの言葉を聞いた遊矢は相手の布陣が完成したことを感じる。
2体の虎によって遊矢たちはダイレクトアタック以外の攻撃が不可能になった。
おまけにこちらが攻撃力の高いモンスターを召喚したとしても、《アマゾネス虎獅子》の効果で攻撃力を下げることですぐに突破されてしまう。
仮に攻撃できたとしても、《アマゾネス女帝》による破壊耐性が待っている。
(でも…どちらか一方でも崩せば、攻撃できる!)
幸い、柚子のデッキにはそれを可能にするカードが入っている。
そのカードを召喚できる条件が整うことを願いつつ、デッキトップに指をかける。
「あたしのターン、ドロー!」
柚子
手札5→6
「あたしは手札からレベル4から7のモンスターをペンデュラム召喚するわ!揺れなさい、魂のペンデュラム!天空に描いて、光のアーク!ペンデュラム召喚!現れて、私のモンスターたち!」
上空のペンデュラムが柚子の願いにこたえるかのように揺れ、2体のモンスターがフィールドに現れる。
「《幻奏の歌姫セレナ》、《幻奏の音女エクローグ》!」
幻奏の歌姫セレナ レベル4 攻撃400
幻奏の音女エクローグ レベル4 攻撃1600
「レベル4のモンスターが2体。これは…!」
「あたしはレベル4の《セレナ》と《エクローグ》でオーバーレイ!」
柚子の目の前にオーバーレイネットワークが出現し、2体の幻奏モンスターがその中へ飛び込んでいく。
「柚子がエクシーズ召喚を…?」
「あたしだって、成長してるんだから…!エクシーズ召喚!現れて、ランク4!《鳥銃士カステル》!」
鳥銃士カステル ランク4 攻撃2000
「攻撃力2000のエクシーズモンスター…?攻撃できない状況で、そのモンスターを召喚しても…」
「《鳥銃士カステル》の効果発動!1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ取り除くことで、相手フィールドに存在するモンスター1体を裏守備表示に変更できるわ。私は《アマゾネスペット虎獅子》を裏守備表示に変える!」
「何?」
《鳥銃士カステル》が上空から《アマゾネスペット虎獅子》に向けて散弾を発射する。
上空から飛んでくる散弾を凌ぐため、ライガーは密林にある岩陰に隠れ、様子をうかがう。
取り除かれたORU
・幻奏の音女エクローグ
「まだよ!更にあたしは永続罠《幻影霧剣》を《アマゾネス女帝》に対して発動!」
《アマゾネス女帝》の持つ剣から紫色の霧が発生し、その霧の中に彼女が飲み込まれていく。
「《幻影霧剣》の対象となった効果モンスターは攻撃対象にならないけど、攻撃と効果が封じられる。これで、あたしたちのモンスターは攻撃できるし、アマゾネスカードを破壊できる!」
攻撃をブロックするライガーと虎の一角を崩し、さらには彼らを守るはずの《アマゾネス女帝》を封じ込めた。
あとは崩した2頭を今のうちに撃破し、少しでも有利な状態で遊矢にターンを譲るだけだ。
「バトルよ。あたしは《鳥銃士カステル》で《アマゾネスペット虎》を攻撃!」
銃に弾を込めた《鳥銃士カステル》が照準を合わせると、徹甲弾を発射する。
額を撃ち抜かれた《アマゾネスペット虎》は消滅した。
「やった!これで…」
「《アマゾネスの里》の効果発動!1ターンに1度、アマゾネスモンスターが先頭・効果で破壊されたとき、そのモンスターの元々のレベル以下のアマゾネスモンスター1体を特殊召喚できる。私はデッキからもう1枚の《アマゾネスペット虎》を特殊召喚!」
密林の中から、木でできた檻が出現し、鍵が外された瞬間、《アマゾネスペット虎》が飛び出してくる。
アマゾネスペット虎 レベル4 攻撃1100→1300
「アマゾネスペット虎は自分フィールドに存在するアマゾネスモンスターの数×400攻撃力がアップする!私のフィールドに存在するアマゾネスモンスターは3体!」
アマゾネスペット虎 レベル4 攻撃1300→2500
「だったら、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》で裏守備になっている《アマゾネスペット虎獅子》を攻撃するわ!」
《アマゾネス女帝》が力を失い、裏守備になっているうちにライガーを倒す。
そのモンスターさえ倒せば、彼女たちの連携を崩せる。
「グロリア姉さん、私のカードを!」
「ええ。さらに私は罠カード《アマゾネスの弩弓隊》、さらに永続罠《アマゾネスの急襲》を発動!」
「まずは《アマゾネスの弩弓隊》の効果よ。相手の攻撃宣言時、私のフィールド上にアマゾネスが存在するとき、相手フィールド上のモンスターはすべて攻撃表示になり、攻撃力は500ダウンするわ」
密林の中から弓矢を装備したアマゾネス達が出てきて、遊矢と柚子のフィールドのモンスターたちに一斉に矢を放つ。
《鳥銃士カステル》は地上へ降りて矢をしのぎ、3体のオッドアイズは2人を守るために前に立ち、矢を受ける。
オッドアイズ・ファントム・ドラゴン レベル7 攻撃2500→2000
オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン レベル7 攻撃2500→2000
オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン ランク7 攻撃2000→1500
「更に、相手モンスターは可能な限り攻撃しないといけないわ!」
石の裏に隠れていた《アマゾネスペット虎獅子》が姿を現し、攻撃力が減った《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》が放つブレスをジャンプして回避する。
そして、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》の首にかみついた。
遊矢&柚子
ライフ3600→3200
アマゾネスペット虎 レベル4 攻撃2500→2900
「さらに、《アマゾネスの急襲》の効果発動。私たちのアマゾネスと戦闘を行った相手モンスターはダメージ計算終了時に除外される」
噛みつかれた《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》は密林の中から出てきた巨大なコブラに飲み込まれる形で消滅する。
「《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》が…!」
除外されたペンデュラムモンスターはエクストラデッキに置くことができない。
《鳥銃士カステル》の攻撃のタイミングに発動しなかったのはペンデュラムモンスターである《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》か《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃を誘うためだった。
だが、生き残った《アマゾネスペット虎獅子》と《アマゾネスペット虎》がフィールドにいるため、再びライガーと虎によるブロックが構築され、もう2人のモンスターは攻撃できない。
「なら…!」
グレースが《アマゾネスペット虎獅子》の背中に乗り、足場を次々と飛んで移動する。
そして、手にしたアクションカードをさっそく発動した。
「私はアクション罠《セキュリティ解除》を発動。私のフィールドに存在するモンスター1体の効果をターン終了時まで無効にするわ。私は《アマゾネスペット虎獅子》の効果をターン終了時まで無効にする!」
「そんな!ということは…」
「そう、残りのドラゴン達も攻撃しなければならないということだ」
セキュリティ解除
アクション罠カード
(1):自分フィールドに存在するモンスター1体の効果をターン終了時まで無効化する。
遊矢と柚子は手分けをしてアクションカードを探しに行く。
このままでは、《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》だけでなく、2体のオッドアイズまで破壊もしくは除外されることになってしまう。
しかし、柚子には2体のオッドアイズをどのように攻撃するかを選択する権利だけは与えられている。
(《アマゾネス虎獅子》の守備力は2400。《アマゾネス王女》は1400で、《アマゾネスペット虎》は2500。攻撃力で下回ってるのは《アマゾネス王女》だけ。でも…)
攻撃に成功したとしても、2体のオッドアイズが除外されることには変わりない。
どのみちがら空きになったフィールドで、後はどうにかするしかない。
「あたしは…《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で《アマゾネス王女》を攻撃…」
《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の回転する炎のブレスを受け、《アマゾネス王女》が消滅する。
しかし、背後から現れたコブラに飲み込まれ、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》も除外されてしまう。
グレース&グロリア
ライフ4300→3100
アマゾネスペット虎 レベル4 攻撃2900→2500
「更に、《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》で《アマゾネスペット虎獅子》を攻撃…!」
《オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン》の口から放たれた氷のブレスが起こす逆風を《アマゾネスペット虎獅子》はものともしない。
そして、密林から出てくるコブラによって、悲しみのドラゴンもまた飲み込まれてしまった。
遊矢&柚子
ライフ3200→2300
3体のオッドアイズがフィールドから消え、攻撃できるモンスターも、壁になるモンスターもいない。
「さあ…まだお前のターンが残っている」
「それとも、ここでサレンダーする?サレンダーしたなら、ほかの仲間たちは見逃してあげるわ」
「え…?」
グレースの言葉に柚子が揺れ、同時にセレナが融合次元へ連れ戻されてしまった時の状況を思い出す。
彼女は自分たちではかなわない敵だとわかっており、自らを犠牲にした取引によって遊矢達を守った。
そのあとに起こったことを考えると、それが良い選択肢だったかはわからない。
だが、衰弱したセレナにとって、できる精一杯はそれだけだったのは確かだ。
今、柚子はセレナのような状況に陥ってる。
「グレース…。はぁ、いいわ。少なくとも、私たちは手を出さないことを約束する。必要なら、総司令を説得する」
自分たちの最優先事項は柊柚子の確保だ。
ランサーズを倒すよりもそれは優先されるため、彼女を連れて融合次元へ戻れば、ランサーズを見逃したとしてもおつりが出る。
デュエルで決着をつけるという信条を持つ総司令なら、こちらの説得に応じてくれる可能性は高い。
それに、妹の約束を破られるような状況を姉であるグロリア自身が作るようなことをしたくなかった。
「…本当に、遊矢達には手を出さない?」
「当然だ。サレンダーしたならな。デュエル戦士の誇りにかけて、偽りは言わない」
「私は…」
「駄目だ、柚子!!」
遊矢の声を聞いた柚子は我に返り、遊矢に目を向ける。
柚子とは違い、今の遊矢にはまだ闘志が残っていた。
「遊矢…」
「まだライフが残ってるし、柚子のターンも終わってない。どんなに絶望的な状況でも…俺は柚子のそばにいる!一緒に戦う!だから、諦めるな!!」
すぐ後ろ向きになる遊矢とは思えないセリフに驚く柚子だが、彼女の手はデッキの上から離れていく。
シンクロ次元での戦いで、遊矢の心にも影響を与え、彼を強くしていた。
「…。あたしは…メインフェイス2に移るわ!」
「柚子…」
デュエル続行を宣言する柚子に遊矢は安どする。
しかし、状況はこちらが圧倒的に不利なことには変わりない。
「あたしは《幻奏の音女セレナ》の効果を使うわ!このカードが特殊召喚に成功したターン、通常召喚に加えて1度だけ、幻奏モンスターを召喚できる!」
メインフェイズ1で、柚子はペンデュラム召喚しか使っていないことから、柚子は条件付きながら2度の通常召喚の権利がある。
「このカードは相手フィールド上にのみモンスターが存在するとき、手札から特殊召喚できる。《幻奏の歌姫ソロ》を特殊召喚!」
赤い情熱的なバラをイメージさせるドレスを着たピンクの肌の天使がバレエのような舞を見せながらフィールドに現れる。
幻奏の歌姫ソロ レベル4 攻撃1600
「更に、あたしは手札から《幻奏の歌姫ソプラノ》を召喚!」
幻奏の歌姫ソプラノ レベル4 攻撃1400
「そして、《ソプラノ》の効果発動!1ターンに1度、あたしのフィールドに存在するこのカードを含むモンスターを素材に幻奏モンスター1体を融合召喚できる。あたしは《ソプラノ》と《ソロ》を融合!天使のさえずりよ!天使の羽ばたき!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台に安らぎの序曲を!《幻奏の音姫プレピュード・デビュッシー》!」
幻奏の音姫プレピュード・デビュッシー レベル7 攻撃2400
「この状況で、《融合》無しの融合召喚だと!?」
「《プレビュード・デビュッシー》の効果発動!このカードの特殊召喚に成功したとき、相手に1000ダメージを与えることができる!微睡のフルート!」
《幻奏の音姫プレピュード・デビュッシー》が奏でるフルートの旋律が柚子のまさかの逆襲に動揺するタイラー姉妹を襲う。
「何…?この音楽。アカデミアで聞いてるのと違う…」
アカデミアでは、軍歌くらいしか聞いたことがないためか、グレースにはその音が新鮮に聞こえていた。
グレース&グロリア
ライフ3100→2100
「更にこのカードが《ソプラノ》を素材に融合召喚されている場合、1ターンに1度、相手フィールド上の魔法・罠カードを2枚破壊できる!あたしは《アマゾネスの急襲》と《アマゾネスの里》を破壊するわ!」
発動宣言と同時に、急に曲のスタイルが変わり、一つ一つの音にキレが出てきて、同時に鎌鼬が発生する。
鎌鼬によって密林と家屋が切り刻まれ、《アマゾネスの急襲》もバラバラになって消滅する。
「おのれ…!窮鼠猫を噛むとはこのことか!だが、《アマゾネスの急襲》の効果発動!このカードが破壊され墓地へ送られたとき、墓地からアマゾネスモンスター1体を特殊召喚できる。私は《アマゾネス王女》を特殊召喚!」
アマゾネスペット虎 レベル4 攻撃2100→1900
アマゾネスペット虎獅子 レベル7 守備2400 攻撃2700→2500
アマゾネス女帝 レベル8 攻撃3000→2800
アマゾネス王女 レベル3 攻撃1200
「更に、《アマゾネス王女》の効果。デッキから《アマゾネスの叫声》を手札に加える」
「(今のあたしにできるのはここまで…遊矢、お願い)あたしはカードを2枚伏せて、ターンエンド!」
グレース&グロリア
手札
グレース1(《アマゾネスの秘宝》)
グロリア6→1(《アマゾネスの叫声》)
ライフ2100
場 アマゾネスペット虎獅子 レベル7 守備2400
アマゾネス女帝 レベル8 攻撃2800(《幻影霧剣》の影響下)
アマゾネスペット虎 レベル4 攻撃2500
アマゾネス王女 レベル3 攻撃1200
アマゾネスの闘志(永続魔法)
遊矢&柚子
手札
遊矢0
柚子6→0
ライフ2300
場 幻奏の音姫プレビュード・デビュッシー レベル7 攻撃2400
幻影霧剣(永続罠)
伏せカード2
EMオッドアイズ・ライトフェニックス(青) ペンデュラムスケール3
EMオッドアイズ・ユニコーン(赤) ペンデュラムスケール8
「おい…グレース!!何をしている!?お前のターンだぞ!?」
相手の2枚の伏せカードが何かわからない以上、勝利を確実なものとするためにアクションカードを探し始めたグロリアは《幻奏の音姫プレビュード・デビュッシー》の先ほどの演奏にすっかり見とれてしまったグレースに向けて叫ぶ。
姉の声に我に返ったグレースだが、なぜかそれに納得できないような自分を感じていた。
そんな自分を振り払うため、強引に頭を振ったグレースはデッキトップに指をかける。
「私のターン、ドロー!」
グレース
手札1→2
「私は手札から装備魔法《アマゾネスの秘宝》を《アマゾネスペット虎獅子》に装備!装備モンスターは1ターンに1度、戦闘では破壊されず、攻撃した相手モンスターをダメージ計算終了後に破壊するわ」
緑色の玉石が埋め込まれた人形が首にネックレスのようにぶら下げられた《アマゾネスペット虎獅子》が咆哮する。
「《アマゾネスペット虎獅子》を攻撃表示に変更。バトル!《アマゾネスペット虎獅子》で《プレビュート・デビュッシー》を攻撃。更に、《アマゾネスペット虎獅子》の効果発動!このカードが攻撃するとき、ダメージステップ時のみ、攻撃力を500アップさせる!」
アマゾネスペット虎獅子 レベル7 守備2400→攻撃2500→3000
(たとえ、《ハーフ・アンブレイク》であっても…!)
グレースは柚子が伏せたカードの中の1枚が《ハーフ・アンブレイク》や《聖なるバリア-ミラーフォース》のような攻撃反応型の伏せカードだと考えた。
(たとえ、《ミラーフォース》のようなカードであっても、私の手札には《アマゾネスの防御兵》がいる。このカードは手札から墓地へ送ることで、魔法・罠カードによるアマゾネスモンスターの破壊を無効にする効果がある。これなら、《アマゾネスペット虎獅子》を守ることができる)
アマゾネスの防御兵
レベル4 攻撃300 守備2100 効果 地属性 戦士族
(1):このカードを手札から墓地へ送り、自分フィールドに存在する「アマゾネス」モンスターを対象に発動できる。そのモンスターはこのターン、魔法・罠カードの効果では破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。
「あたしは罠カード《エンジェル・カーペット》を発動!あたしのフィールドに存在する、エクストラデッキから特殊召喚された光属性・天使族モンスター1体をリリースし、墓地からレベル4以下の光属性・天使族モンスター2体を守備表示で特殊召喚できる。あたしは《プレビュート・デビュッシー》をリリース!」
《幻奏の音姫プレビュード・デビュッシー》がフルートを拭くと、その姿を麦の匂いがする風の中に消していく。
「現れて、《幻奏の歌姫ソロ》、《幻奏の歌姫ソプラノ》!」
幻奏の歌姫ソロ レベル4 守備1000
幻奏の歌姫ソプラノ レベル4 守備1400
エンジェル・カーペット
通常罠カード
このカード名のカードの効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドに存在するEXデッキから特殊召喚された光属性・天使族モンスター1体をリリースすることで発動できる。自分の墓地からレベル4以下の光属性・天使族モンスター2体を特殊召喚する。
「なら、《アマゾネスペット虎獅子》で《ソプラノ》を攻撃!」
攻撃対象を失った《アマゾネスペット虎獅子》が《幻奏の歌姫ソプラノ》に目をつけると、彼女に向かってとびかかり、かみつくことで撃破した。
「(《幻影霧剣》の効果で、《アマゾネス女帝》が封じられていなかったら、貫通ダメージを与えられたけれど…!)更に、《アマゾネス王女》で《幻奏の歌姫ソロ》を攻撃!更に、《アマゾネス王女》の効果発動。《アマゾネスの秘宝》を墓地へ送り、《アマゾネスの大賢者》を特殊召喚!」
茶色い布のマントで身を包んだ、杖を持つ青い長髪のアマゾネスが白馬に乗って現れる。
アマゾネスの大賢者 レベル6 攻撃2400
アマゾネスペット虎 レベル4 攻撃2500→3000
《アマゾネス王女》が木の上から飛び降り、《幻奏の歌姫ソロ》を地面にあおむけに倒し、馬乗りになって長刀を突き刺して撃破する。
「《幻奏の歌姫ソロ》の効果発動!このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られたとき、デッキから幻奏モンスター1体を特殊召喚できる。あたしは《幻奏の音姫プロディシー・モーツァルト》を特殊召喚!」
幻奏の音姫プロディシー・モーツァルト レベル8 守備2000
「《アマゾネスの大賢者》で《プロディシー・モーツァルト》を攻撃!更に、《アマゾネスの大賢者》の効果発動!このカードの攻撃宣言時、フィールドに存在する魔法・罠カードを1枚破壊できる。この効果を発動するとき、私のフィールドにエクストラデッキから特殊召喚されたアマゾネスが存在する場合、相手は魔法・罠カードを発動できないわ。私は《幻影霧剣》を破壊するわ!」
杖から発生する青い波紋が《幻影霧剣》を破壊し、《アマゾネス女帝》の効果が復活する。
そして、《アマゾネスの大賢者》を乗せた馬が駆けだし、杖の先についている宝石が鋭利な刃に変化する。
その槍で《プロディシー・モーツァルト》が貫かれ、彼女は消滅する。
「《プロディシー・モーツァルト》!!」
「《アマゾネス女帝》の効果が復活したことで、そのモンスターの効果が発動するわ!」
「私たちのフィールドに存在するアマゾネスモンスターは守備表示モンスターを攻撃するとき、貫通ダメージを与える」
遊矢&柚子
ライフ2300→1900
アマゾネスの大賢者
レベル6 攻撃2400 守備1700 効果 地属性 戦士族
このカード名のカードの効果は1ターンに1度しか発動できない。
(1):このカードの攻撃宣言時、フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を対象に発動できる。そのカードを破壊する。自分フィールドにEXデッキから特殊召喚された「アマゾネス」モンスターが存在する場合、相手はこの効果の発動に対して、魔法・罠カードを発動できない。
「《アマゾネスペット虎》でプレイヤーへダイレクトアタック!」
「あたしは墓地の《エクローグ》の効果を発動!あたしの墓地に幻奏融合モンスターが存在し、あたしの手札が0枚で相手がダイレクトアタックするとき、1度だけこのカードを墓地から特殊召喚することでその攻撃を無効にするわ!」
上空に出現した魔法陣から《幻奏の音女エクローグ》が舞い降り、歌を歌い始める。
柚子に向けて攻撃しようとした《アマゾネスペット虎》はおとなしくなり、タイラー姉妹の元へ戻っていく。
幻奏の音女エクローグ レベル4 攻撃1600
「《アマゾネス女帝》で《エクローグ》を攻撃!」
先ほどまで、力を封じられたうっ憤を晴らしたいのか、《アマゾネス女帝》は口笛を吹き、虎にもう1本の剣を持ってこさせる。
二刀流となった彼女は《幻奏の音女エクローグ》に連続で切りかかり、彼女を消滅させ、衝撃が柚子を襲う。
「キャアア!!」
「柚子!!」
柚子を抱き、発生する衝撃を遊矢が代わって受ける。
遊矢&柚子
ライフ1900→700
「遊矢…!」
「柚子は俺が守るって…言っただろ?早く《エクローグ》の効果を!」
「え、ええ!《エクローグ》の効果発動!このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され、墓地へ送られたとき、墓地の幻奏モンスター1体とデッキから《融合》を手札に加えるわ」
墓地から排出された《幻奏の音姫ソプラノ》とデッキから《融合》を手にする柚子。
しかし、相手フィールドの状況を考えると、ここで手札に加えたこれらのカードが活躍できるか否かは遊矢にかかっている。
「私はこれで、ターンエンドよ」
グレース&グロリア
手札
グレース2→1(《アマゾネスの防御兵》)
グロリア6→1(《アマゾネスの叫声》)
ライフ2100
場 アマゾネスペット虎獅子 レベル7 攻撃2500
アマゾネス女帝 レベル8 攻撃2800
アマゾネスペット虎 レベル4 攻撃3000
アマゾネス王女 レベル3 攻撃1200
アマゾネスの大賢者 レベル6 攻撃2400
アマゾネスの闘志(永続魔法)
遊矢&柚子
手札
遊矢0
柚子0→2(《幻奏の音姫ソプラノ》《融合》)
ライフ700
場 伏せカード1
EMオッドアイズ・ライトフェニックス(青) ペンデュラムスケール3
EMオッドアイズ・ユニコーン(赤) ペンデュラムスケール8
「遊矢!!」
「ああ、俺の…ターン!!」
遊矢
手札0→1
「俺は手札から魔法カード《逆境の宝札》を発動!俺のフィールド上にモンスターが存在せず、相手フィールド上に特殊召喚されたモンスターが存在するとき、デッキからカードを2枚ドローする。更に手札から速攻魔法《揺れる眼差し》を発動!お互いのフィールド上に存在するペンデュラムゾーンのカードをすべて破壊し、破壊した枚数によって、効果が決まる!」
《EMオッドアイズ・ライトフェニックス》と《EMオッドアイズ・ユニコーン》が消滅し、フィールドを透明な波紋が包む。
「破壊したカードは2枚!相手に500ダメージを与え、デッキからペンデュラムモンスター1体を手札に加える。俺はデッキから《慧眼の魔術師》を手札に加える」
タイラー姉妹
ライフ1700→1200
「そして、手札から魔法カード《強欲で貪欲な壺》を発動!デッキの上から10枚のカードを裏向きで除外して、デッキからカードを2枚ドローする!(頼むぞ…俺のデッキ!)」
一気に10枚のカードを取り出し、デッキケースに入れ、2枚のカードを指にかける。
このドローするカードの中に魔術師のペンデュラムカードがなかったら、ペンデュラム召喚をすることができない。
「ドロー!!」
ドローした2枚のカードを見る。
「レディースアンドジェントルメーン!!」
「な…!?」
急に声をあげ、スポットライトに包まれる遊矢を見たグロリアは困惑する一方、グレースはなぜかワクワクしながら遊矢を見ている。
「これより、ドラゴンによる歌、そしてアマゾネスのみなさんによる舞を披露させていただきます!まずは、スケール5の《慧眼の魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》をペンデュラムスケールをセッティング。更に、《慧眼の魔術師》の効果発動!もう片方のペンデュラムゾーンに魔術師かEMのペンデュラムカードが存在する場合、このカードを破壊し、デッキから魔術師ペンデュラムカードをペンデュラムゾーンに置くことができる。それでは、まず《慧眼の魔術師》の変身をご覧ください!」
《慧眼の魔術師》がマントの中に身を隠す。
「1・2・3!!」
遊矢が指を鳴らすと同時にマントが宙を舞い、スケール1の《星読みの魔術師》がその中から現れる。
「スケール1の《星読みの魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》、これで俺は、レベル2から7までのモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!ペンデュラム召喚!現れろ、俺のモンスターたち!《EMオッドアイズ・ライトフェニックス》、《慧眼の魔術師》《EMシルバー・クロウ》!」
EMオッドアイズ・ライトフェニックス レベル5 攻撃2000
慧眼の魔術師 レベル4 攻撃1500
EMシルバー・クロウ レベル4 攻撃1800
「今更2体のモンスターのペンデュラム召喚をしたくらいで、アマゾネスの布陣を突破するなど…!!」
「いいや、まだ踊り手の登場がまださ!俺は墓地の《調律の魔術師》の効果発動!俺のペンデュラムゾーンに魔術師カードが2枚存在するとき、手札・墓地から特殊召喚できる。もう1度力を貸してくれ、ナヴィ!」
「はい!マスター!」
墓地から飛び出した《調律の魔術師》が彼女を中心に波紋を起こす。
調律の魔術師 レベル1 攻撃0(チューナー)
遊矢&柚子
ライフ700→300
グレース&グロリア
ライフ2100→2500
「更に、俺は罠カード《戦線復帰》を発動!墓地のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。《プレビュード・デビュッシー》を特殊召喚!」
幻奏の音女プレビュード・デビュッシー レベル7 守備2000
「それでは、歌い手にご登場願いましょう!俺はレベル7の《プレビュード・デビュッシー》にレベル1の《調律の魔術師》をチューニング!王者の咆哮、今天地を揺るがす。紅蓮の炎と共に、覇者の力宿して今こそ現れろ!シンクロ召喚!王者の魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!!」
チューニングリングをくぐった《幻奏の音女プレビュード・デビュッシー》が炎を纏った傷だらけの赤いドラゴンへと変わっていく。
レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト レベル8 攻撃3000
「攻撃力3000!?だが、《アマゾネス女帝》の効果でこのカード以外のアマゾネスモンスターは戦闘でも高価でも破壊されない!そして、《アマゾネスペット虎》と《アマゾネスペット虎獅子》の効果で、ダイレクトアタック以外の攻撃は封じられる。今更、そのようなモンスターを…」
「確かに、今の《レッド・デーモンズ》では勝てない。けど、まだ歌い手と踊り手だけ。後、足りないものがあるんじゃない?」
「足りないもの…??」
娯楽に疎いタイラー姉妹は遊矢が何を言っているのかわからなかった。
しかし、一緒に戦っている柚子はハッとする。
「もしかして…音楽家?」
「正解!それじゃあ、今度は音楽の用意だ!俺はレベル4の《シルバー・クロウ》と《慧眼の魔術師》でオーバーレイ!エクシーズ召喚!現れろ、ランク4!《交響魔人マエストローク》!!」
《交響魔人マエストローク》がオーバーレイネットワークの中から現れ、同時にどこからともなくピアノによるスペイン風の熱い情熱的な音楽が聞こえてくる。
交響魔人マエストローク ランク4 攻撃1800
「何々!?この音楽…!!」
聞こえてくる音色に笑顔を見せるグレース。
デュエルを忘れて、聞いたことのないその音楽に心を奪われていく。
「《マエストローク》の効果発動!1ターンに1度、オーバーレユニットを1つ取り除くことで、相手フィールド上の攻撃表示モンスター1体を裏守備表示にする!」
「何!?」
「女帝様は特別に、特等席へご案内!」
《クロス・オーバー》が生み出した足場の一番高い場所に玉座が現れ、《アマゾネス女帝》がそこに座り、音楽を聞き始める。
最初は何かわからず、困惑した彼女だが、聞いているとだんだん楽しくなったのか、人差し指で手すりを叩いてリズムを刻み始める。
取り除かれたORU
・EMシルバー・クロウ
「更に、《レッド・デーモンズ》の効果発動!1ターンに1度、このカード以外のフィールド上に存在するこのカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚された効果モンスターをすべて破壊し、破壊したモンスターの数×500のダメージを相手に与える!破壊されるカードは6枚。よって、3000のダメージだ!」
「しまった…!!」
《交響魔人マエストローク》の効果で《アマゾネス女帝》が裏守備表示となったため、アマゾネス達は破壊耐性を失っている。
《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》が咆哮し、フィールドが炎に包まれ、そのあとで上空を舞いながら咆哮する。
咆哮がフィールド中に響き渡ると、《アマゾネスペット虎獅子》と《アマゾネスペット虎》も吠えて駆けまわり、《EMオッドアイズ・ライトフェニックス》も彼らの咆哮に合わせて鳴く。
また、《アマゾネス王女》と《アマゾネスの大賢者》もまた踊り始めた。
「なんだ…なんなんだ、これは!?」
自分のモンスターまでもが楽しく歌い、踊り始めるという訳の分からない状況にグロリアは困惑する。
このようなデュエルは見たことも聞いたこともなく、デュエル戦士としての誇りがそれを認めなかった。
「生真面目なんだな、あなたは」
「何!?」
「でもさ、デュエルは楽しいものなんだ。ほら、だからモンスターたちも…あなたの姉妹も笑ってる」
遊矢の言葉を聞き、グロリアはグレースに目を向ける。
彼女はもういてもたってもいられなくなったようで、敵であるはずの柚子を巻き込み、フィールドにいるほかのアマゾネス達と一緒に踊っていた。
最初は驚いていた柚子だが、楽しくなったのか、グレースと一緒に踊り始めていた。
「…私たちの…完敗か…」
フッと何か馬鹿らしく感じたグロリアは仕方ないなと思いながら、笑みを浮かべた。
グレース&グロリア
ライフ2500→0