天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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作者は筆を滑らせまくり(パソコンのキーボード?)、主人公はほっといたらどっか行こうとする・・・。

ああでも一度、この目で見てみたい、超銀河団・・・。




晴れ時々樹雷13

「・・・良かった、田本様、お怪我は、あ、ありませんか?」

抱きとめた籐吾さんがむせ、ごぼりと、また血が口からあふれる。背後から深く一突きされている。場所から言って大動脈が傷ついている可能性があった。ゆっくりと膝を突き、籐吾さんを寝かせるが、傷口からの出血は多く止まらない。くっそぉっ、絶対に死なせはしない!。

 「謙吾、救急隊を呼んでくれ。」

その言葉を聞くやいなや走り出す謙吾さん。心の底からの怒りと自らの力が及ばず、好意を寄せてくれる者を傷つけてしまった喪失感とで、慟哭に近い、獣が吠えるような声が口から漏れ出す。そしてガタガタと震える僕をこの場にいる樹達がなだめてくれる。そして力を分けてくれるという。

 「籐吾殿の阿羅々樹、一樹、柚樹、そして水鏡、樹沙羅儀よ。力を分けてくれ!。」

生命の灯が消えようとして、力を失って行く籐吾さんを抱きしめる。僕の身体全体に樹の力が溜まっていく。どうしてそうしようと思ったのかは分からない。左手で抱きしめたまま、右手をまっすぐ上にあげ、手のひらを大きく広げた。右手のひらに凄まじい熱と光と思えるモノが集まってくる。それをつかみ、ゆっくりと籐吾さんの傷口に押し当てた。出血が止まり、傷口がふさがっていく・・・。

 「・・・田本様、な、にを。」

 「だまっていろ、樹が力を分けてくれている。まだ、お前をあちらに行かせるわけにはいかない。」

籐吾さんの苦しげな呼吸が、緩やかなそれに変わり、ゆっくりと目を閉じる。眠ったようだった。傷はもう見えず、出血もない。

 「田本様!」

謙吾さんと救急隊、そして瀬戸様と平田兼光さんが到着する。籐吾さんを寝かせ、救急隊に任せ、ゆっくりと立ち上がる。

 「籐吾の傷はたぶん治癒していると思う。出血がひどかったから、輸血が必要・・・。」

そこまで言って、おかしいと気付く。右手の熱が収まらない。左手も熱い。両手を見ると、皮膚に亀裂のようなモノが入り、光があふれ出すように見える。樹のエネルギーの流れ込むのが止まらない・・・。そして背中を始め全身が熱い・・・。パキンと背中が割れる感触があった。瀬戸様やその場にいたみんなが驚いた目で僕を見ている。何かの殻が破れ、足下にパラパラと落ちたように思った。

 「あ、あれ?」

意識が、身体を離れるというか、大きく拡大し、一瞬にして水鏡からはみ出し、木星は見る間に小さくなり、太陽がパチンコ玉みたいに見えると思ったところで、がつんと巨大な力に押さえつけられた。周りに巨大な力を感じる。威厳がありながら、深く、そして人の生き死にを超越したような、ある種冷たさを感じるような声が聞こえてきた。

 「・・・姉様、地球の男って、どうしてこうなんでしょうか。」

 「危うく、今度も三次元が裂けちまうところだったよ。ほんっとうにバカな子だね。」

 「皇家の樹5樹の力を人のその身に受けるなんて・・・。銀河系の崩壊どころか、三次元に連なる時空連続体が消滅するところでした・・・。でも、我らの思考錯誤の可能性は・・・。」

 「そうだね。また一つ生まれた。でもまだ羽化には早すぎる。訪希深、封印を解いておくれ。津名魅、一緒に押さえ込むよ。」

あれ、なんで鷲羽ちゃんが?と思うと同時に、さらにドンと大きく力がかかる。何かに踏みつぶされるようだ。

 「痛いよぉ、重いよぉ・・・。」

狭っ苦しい箱にぐいぐいと押し込まれるような、押しつぶそうというような力が容赦なくかかってくる。視界が暗転する、と思った瞬間、光の人物に見えるシルエットが目の前にあった。

 「ねえ、確か、超銀河団を旅するんでしょ?遙か未来、光が死に、闇が支配する、さらにその先を見たくないですか?。」

あ、行きてぇ。遠く時と空間の輪が接するその向こうに。見てぇよな・・・。一つ一つの銀河が光点のように見え。それがたくさんあつまり、川の流れのように濃い部分と薄い部分があり、まるで木の枝のように広がる超銀河団・・・。そこを当てもなく旅をする。

 イメージが浮かび、想いが弾ける。どかんと、どこかから落っこちるような衝撃を感じたあと、気がつくといつもの自分に戻っていた。左右の手も見えるし、ひび割れて光が出てもいない。さっきのは何だったんだろう。

 周りはさっきの水鏡だった。涙を流しながら、つかつかつかと瀬戸様がこちらに歩いてくる。ぴしゃり、と頬を叩かれた。そして、僕の胸に顔を埋めて静かに泣き始める。

 「無理をしないで。どこに行こうというの・・・。置いて行っちゃイヤよ。」

 「・・・瀬戸様、ごめんなさい。」

しばらくそうやって抱きついている、と思ったらニッと笑った爬虫類顔。

 「うふふ、裸の胸は良いわぁ・・・。あら、まあ水穂ちゃんがうらやましい。」

って、素っ裸じゃん。ワイシャツは?スラックスは?瀬戸様は顔をスリスリしながら、腰をくねらせてくっついて離れないし。そんなに腰をくねくねされたらヤバいって。腰が引けちゃうじゃん。

 「さっきので、ほれ、炭になって足下に落ちてるぞ。」

足のすねに本物のネコのように、身体を擦りつけながら、柚樹さんが顔を上に向けてそう言う。ばささっと頭に布のような何かが落ちてきた。

 「カズキ、これでも身につけといたら?」

一樹が転送してくれたのは、先週着て、一樹の中に入れておいた樹雷の服。とりあえず、瀬戸様を引きはがして、慌ててそれを身につけた。ほっとして、顔を上げたら瀬戸様の横に水穂さんが立っていた。目を真っ赤にして今にも泣きそうな顔だった。また、ぴしゃりと頬を叩かれる。

 「わたしを置いていかないで、って言ったでしょ・・・。抱いて、お願い。籐吾さんへの嫉妬で気が狂いそうなの。」

 「ううう、ごめんなさい。ほっぺたが痛いんですけど・・・。」

 「あったりまえよ!」

瀬戸様と水穂さんの声がユニゾンしている。

 「肉体を捨てて、どこかに行ってしまうのかと思ったわ・・・。」

頭を預けてくる水穂さん。また横から同じように頭を預けてくる瀬戸様。

 「僕も籐吾さんがうらやましいですぅ。」

ぼそそっとつぶやく謙吾さん。

 「わたしも仲間に入りたいなぁ・・・。」

天木蘭さんまで、何か言ってるし。

 「うおっほん、え~、まだ終わっとらんのですがね。」

平田兼光さんの咳払いに我に返る。そーだった、光應翼で包んだままだった。

 「こほん。まあ、この二人は、とにかくこのまま時間凍結フィールドに包んで樹雷に連れて行くわね。あと、サルベージ船に取り付けたフィールド発生装置を外して、鷲羽ちゃんに分析を依頼してもらえる?サルベージ船の皆さんは、もう帰ってもらっても良いでしょう。」

 いつもの調子で瀬戸様が指示を飛ばす。瀬戸様も若干壊れかけながら、なんとか通常状態に戻ったようだった。籐吾さんは、出血がひどかったため、やはり今夜は入院が必要で、まあ2,3日後には退院と言うことらしい。どちらにしても籐吾さんと謙吾さんは、一度樹雷に帰還すると。本当に、たぶん今度こそ。

 「それでは、僕たちは地球に帰還します。・・・って、この服だとまずいよなぁ。ねえ、水穂さんどーしよ。」

さっきの涙をぬぐいながら、水穂さんが笑顔を作ってくれる。

 「もお、こんな時だけ・・・。あ、そうだ、瀬戸様から預かったのですが、先週着ていた服が樹雷から帰ってきています。それを三次元コピーしましょう。一樹の工場でできるでしょう、確か。」

一樹もちょっと不機嫌だったが、何とかなだめて、もう一回一緒に生きていくことを約束させられ(勝手にどこか行かない)、水鏡の外で本来の大きさに戻った。その間にサルベージ船のフィールド発生器も取り外された。思ったよりも小さい。大きめの書類整理箱くらいかな?その辺を含めて立木謙吾さんが指揮をしてくれて、服のコピーも含めて終わったのが1時間半くらい後だった。もう一度、残った惑星規模艦の確認をして、木星の裏側の衛星静止軌道上に隠すことにした。後日あらためてGPが引き取りに来るそうだ。

 水鏡が、阿羅々樹と樹沙羅儀、サルベージ船他を引き連れ、超空間ドライブに入ったのを見送って、地球への帰還軌道に乗った。木星の大赤班から引き上げた遺物は、トラクタービームで牽引、不可視フィールド内に取り込んで、地球に下降する。柾木家の例の池の上空で一時停止し、亜空間ドックに一樹他を収容する。ドック内で荷物を鷲羽ちゃんの研究室や倉庫に転送する。一通り終わったところで一樹は例によって小さくなり、ドックの桟橋から外に出た。引き受け作業が終わった鷲羽ちゃんが出てくる。

 


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