天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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え~、また暴走気味です。

そして、ようやく銀河の彼方に旅立てるのかも知れません(^^;;。


遠くにある樹雷6

立木家は、大人数で楽しそうに夕ご飯中である。ちっちゃい子は、お兄ちゃんやお姉ちゃんに食べさせてもらっている。なんか大昔の地球の田舎のようだった。僕としてはそっちの方が微笑ましい。気がつくと、背後から、周りから人が鈴なりだったりする。父と母はさっきのところで座って引きつった顔している。それじゃあ、また樹雷でお目にかかりましょう。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします、と通信が切れた。

 「ええっと、銀河間航行用超光速宇宙船が出来ちゃうそうです。」

まあた、やっちゃったぁ、てへっ、みたいにみんなを見る。それを弾き返すようにそこにいるみんなが無表情なのが怖い。しばらくしてようやく水穂さんが口を開いた。

 「あの、頑固なアルゼルが・・・。確かに、そう言う技術を隠し持っているというウワサがあり、それを聞きつけた海賊の脅しはもちろん、GPは言うに及ばず、樹雷、世仁我の交渉も相手にしなかったあの星が・・・。あの赤色巨星化した恒星も海賊の脅しに屈しなかった報いと、周りには言われていましたのよ・・・・・・。」

水穂さんの話では、なんでも、どう交渉しても、どんな条件を出しても、たとえば、海賊が人質を取って脅しても、一切その脅しには屈しなかったらしい。結局、海賊が業を煮やし、銀河を渡ることが出来ると言う技術を開示しなければ、惑星破壊弾を恒星に大量に投げ込むぞと、そうなるとゆっくりと忍び寄る死に、身をやつすことになる、と再三脅されていたようである。結果、それにも応じず、実際に惑星破壊弾の大量投下により、恒星の核融合はバランスを崩し破綻、赤色巨星へとゆっくりと時間をかけて変わっていった。

 樹雷やGPはその攻撃阻止に間に合わなかった、ことになっているようだが、漁夫の利を得ようと、海賊が銀河間航行技術を手に入れれば奪おうと、わざとゆっくり現場に行ったようである。こちらも度重なる交渉にも応じないアルゼルにほとほと愛想が尽きてとのことらしい。良心が痛んだのかどうか分からないが、惑星破壊弾の大量投下後も、銀河連盟、樹雷とも、援助や救助を何度申し出ても、一切拒否。すべて断ってきたらしい。それが約3千年ほど前からのことだそうだ。惑星アルゼルが属する恒星系の主星は、第1惑星から第3惑星軌道まで膨張、惑星アルゼルも美しい地球型の星が海は干上がり、空気は恒星から押し寄せるプラズマに消し飛ばされ、自転軸も狂い、いよいよ星としての死が間近だったようである。それでも最後の最後まで生きようと、地下都市を築き、自らの死期をみさだめんと、なんとか生きていたらしい。何度も周辺国家から申し出られた援助や救助を断固拒否し、自らの死を選ぶ民族とはどんな人達だろう。そうせざるを得ない技術って・・・。

 「むっちゃ、汚い話っちゃぁ、話ですが、その辺、上手く立ち回れば良いのに・・・。」

それが外交だろうし、青臭い話でご飯は食べていけない、とおっさんは思う。籐吾さんや、あやめさん達が、結構意外そうな顔をして僕を見ている。そこまでの決意と引き替える価値のある技術なのだろうか・・・。僕は、そこまでの強い決意が想像も出来ない。

 「わたしも瀬戸様について、十数回、交渉に行きました。それも徒労に終わったんですよ。それこそ、とりつく島もない状態でした。樹雷と銀河連盟の代表交渉人や非公式の交渉人、海賊側のそれ、のかなりの人数がその星に移り住んで、アルゼルの人々と時間をかけて生活を共にしても、最後の一線で受け入れてはもらえず・・・。」

水穂さんが、悲しそうな目をしている。じっくりと時間をかけての交渉だったのだろう。それも数百年、数千年レベルの。

 「そんな星がなぜ、僕なんかに・・・。」

僥倖ではあるんだろうな、きっと。そんなに僕自身を買ってもらうほどのことは、していないと思う。

 「そんな不思議そうな顔をしないでくださいな。莫大な力を持った者は、なにがしかの発露やその結果を求めます。結果的に破壊に行き着くことが多いのですが・・・。あなたは最初から違いました・・・。」

そうかなぁ、そんなもんかな。

 「とにかく、一度その星には行ってみたいと思います。連れて行ってくださいね。」

 「そうですわね、たぶんその機会はすぐに訪れると思いますわ。」

謎めいた微笑を口に浮かべる水穂さんだった。大きな目が一種冷たくも見えるけど、強い意志を感じられ、美しい。いんやぁ、瀬戸様真っ青だな。さすが副官だった人。

 「なんですか?」

かなり迫力のある問いの言葉である。籐吾さん達は、あからさまにうわ、地雷踏んでると言う顔をした。

 「いえ、さすが瀬戸様の副官張れる人だな、と。」

 「あなたは、そのさすがな人と結婚なさろうとしてらっしゃるのよ。」

キラッとした鋭利な刃物を思わせるようなゾクゾク感がある。

 「すみません、それはあまり障害じゃありません。こんな僕でもあなたなら一緒にいてくれるんじゃないかなと思ったから・・・。」

耳が熱い。後ろにいる水穂さんの手を右手で握った。

 「うふ、かわいい人・・・。」

後ろから、大きく手を回して抱きしめてくれる。

 「はいはい、それじゃあ、今日はお開きとしようかね。ホントに、良かったよ・・・。」

母が涙ぐんでいた。男の子としてはこれはとても嬉しい。籐吾さん達もさっきの厳しいとも取れる表情はどこ吹く風、ホッとした表情をしている。それでは、自分たちも失礼します、と言って二階の転送ポートから消えていった。

 「そうだ、まだ少し早いので、どうです、剣士君を見に行きませんか。」

 「まあ、そうねえ。剣士君の行った世界、見てみたいわ。」

と言うことで、庭先の古い方の軽自動車にまた乗り込む。家のちょっとした陰に移動して、不可視フィールドを張って、探査機モードに変形。主機まで起動することはないけれど、と思うけども、まあ異常なく起動したようで、そのまま自宅から100mほど浮かび上がる。肩には一樹、足下には柚樹の気配がある。そこから、空間を渡り、亜空間生命体のえさ場として利用させてもらっている世界へ移動した。一樹から医療用ナノマシンを転送してもらって、二人して飲む。足下には柚樹さんの気配。

 「一樹、剣士君の反応は?」

 「いま、探査中・・・。見つけたよ。そこの上空へ移動するね。」

探査機の操縦系を一樹に渡すと、動き出して数分と移動せず剣士君の反応があるポイント到着する。上空から見ると、深い渓谷が二股に分かれ、その真ん中に中州のように土地がある。こちらもすでに夜になっている。白っぽい石質の何かの彫刻のように見えるものが渓谷の二股に分かれ、中州になっている部分にあった。何かの象徴的な土地なのかも知れない。もう少し下降する。その中州の土地には、煉瓦を積み上げて作ったような建物がいくつかあった。ちょっとした洋館のアパートかマンションに見える。そこからいくつか光が漏れている。剣士君の反応は・・・、そこから離れた森のようなところにあった。岩場のようなところを一生懸命掘っている。ちょうど月明かりがあってうっすらと明るかったりする。うん、危険な様子はないな。

 「水穂さん、ちょっと降りてみよう。」

誰もいないことを確認して、森の木々の切れ間へ転送で降りる。

 「剣士君、剣士君。」

ガツガツと何かを掘っていた剣士君が、びっくりしたようにこちらを見た。パンパンと手の汚れを払って立ち上がった。左右の袖の無いファスナーのある、白いジャンパーのような物とブラウンの半ズボンのカーゴパンツ姿である。ちょっと手の甲で顔をぬぐうような動作をした。薄暗いから、はっきりとは分からない。

 「出発の時、みんなと一緒に送ってあげられなくてごめんね。・・・どう、こっちは慣れたかな?・・・辛いことはない?」

大きく頷いて、こちらに歩いてくる。でも2m位手前で立ち止まった。瀬戸様や他のみんなみたいに抱きついてくるかと思ったけど、その手前で立ち止まった、と言うか踏みとどまったような雰囲気がある。周囲は、ほの暗い夜なので表情まで読み取れない。こちらもこれ以上近づかない。

 「・・・田本さん、天地兄ちゃん達に伝えてください。こちらに送られた直後は、陰謀に巻き込まれかけましたが、今は、ここ聖地と言いますが、シトレイユ王国の王女様の従者という形で良くしてもらっています。」

とは言っても、まったく知らない世界で心細いだろうに。

 「ちゃんとご飯食べてますか?」

水穂さんが、優しく聞いた。ちょっと鼻をすする音が聞こえた。

 「大丈夫です。いざとなればこの森で生きていけますし・・・。いまは、この聖地で働きながら、俺なりに天地兄ちゃん達の世界に帰る方法を探しています。」

こちらを見据えて言う目は、強いあの目だった。剣士君が柾木家にいるなら、それこそ天木辣按様の樹に引き合わせようと思っていたのに・・・。結局それはかなわず、なぜか僕の腕にその証がある。まあ、元気そうだし、なんとかなってるんだろう。それにしても岩を掘ってるようにみえたけど?

 「ところで何してたのよ?」

 「いや、あのぉ、まあ、趣味というかなんというか。結構このあたりって水晶が出るんですよ。」

剣士君の後ろから、白い2本の尾を持つ小動物がピョンピョンと駆けてきて、剣士君の肩によじ登った、と思ったらあと3匹が頭に登ったり、肩に手をかけたりしている。

 「かわいいねえ。剣士君が自分たちを害するような存在ではない、と言うことがよく分かってるんだね。」

 「これは、コロと呼ばれる動物らしいです。わりとこの森にはたくさん住んでます。柾木神社があった森よりも、この森はたくさんいろんな物が採れて、そう言う意味でもやろうと思えば自給自足出来ます。あ、でもちゃんとご飯食べさせてもらってますよ。食べ物は、あまり変わらないと思います。」

うん、ちょっと安心した。なんとか、こちらの人と上手く関係を構築できはじめているようだ。

 「今日は、気になってたんで来てみたんだ。また来るよ。身体に気をつけてね。」

ちょっと顔が曇ったように見える剣士君だった。でもこちらに歩いてこようとはしない。

じゃあね、と手を上げて転送フィールドに包まれて、探査機に戻った。ナノマシン洗浄のあと、また自宅庭に戻り、素知らぬ顔して玄関に入ろうとした。

 「あなた、ちょっと散歩しませんか。」

 「今日はいつもより涼しいから良いですね・・・。」


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