天地無用!~いつまでも少年の物語~。   作:かずき屋

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静かな日曜日の夜にしたかったんですけど・・・。

すみません、ガマン出来ませんでしたぁ(自爆)。


遠くにある樹雷5

「ええ、このシステムをそろえた頃は、音楽再生に命をかけていたようなところもあったもんで・・・。」

頭を掻きかき照れて言う。音楽は、悲しみを再生するが、その後元気を呼び込んでくれると僕は思う。なんか凄かったねえ、阿重霞お姉ちゃん急いでお買い物にいこうね。とか何とか言いながらどやどやと柾木家女性陣が帰っていった。なんだか微妙にプライベートがないような気もする。そんなこんなで気がつくと夕方・・・。

 「おおい、みんな呼んで、今夜は焼き肉するぞ。衛星軌道にいるみんなも呼べや。」

階下から父の声がする。お、いいじゃん。さっそく籐吾さんや、神木あやめ・茉莉・阿知花さんを呼ぶ。今回謙吾さんは、樹雷で我らが母艦、梅皇の建造中である。

 「そうだ、お酒やお肉は?」

リビングに降りていくと、近くの美味しいお肉屋さんで調達済みだそう。お酒は、そうだな地球流でビールだろう。某社製銀色の缶ビールが冷えている。すでに野菜もどっさり切られていた。

 呼んでから、1時間ほどでみんなが服を着替えて玄関に来てくれた。今日はちょっと狭いけど、うちの台所で机を足して焼き肉パーティとなる。素材とかそういうモノは皇族の物ではないけれど、肩の凝らない一般家庭というのも良いだろうし。さらっと着こなした地球の夏服がみんな似合っている。何度も言うけど、都会で歩いていると一発スカウトだろう。

 「皆さんお疲れ様です。そしていろいろありがとう。乾杯。」

なんか別にかしこまることもないし、父母もいるし。いただきま~すと大きめのホットプレート二台で焼き肉だった。もちろん、スーパー山田で手に入る市販のタレ。

 「あの、みんなで作ったんですけど。」

と阿知花さんが、大きなボールにポテトサラダを持ってきてくれた。さらに籐吾さんも、うちの味ですけど、お口に合うかどうかと、筑前煮のような物を。母が、あらあら、あんたがこれ作ったのかい?ホントにうちの息子にはもったいない方だねぇとか言っている。みんな手まめだなぁ。

 「うちのバカ息子が迷惑かけてないかい?」

とか水穂さん達に母が聞いている。あははは、そうだろうね~。籐吾さんが、まま、お父さん一杯どうぞとか、わいわいと飲んで食べている。あたしゃ残念ながらあんまり入らないのでビール片手に焼き役である。焼き肉用トング持って、厚手に切られた肉を焼いていた。こちらでは輪切りにしたサツマイモとかジャガイモ、木綿豆腐の水切りした物なんかも焼く。味噌で焼いても良いが、そのままタレを付けて食べてもうまい。ご飯も電子ジャーからどんどん無くなっていく。もちろんうちの米である。

 「ご飯、甘くて美味しいですね~。」

籐吾さんが、口いっぱいに頬張ってそう言った。父はご満悦な顔だったりする。冬場に他と違う堆肥を入れていたりする。いまどきお米を作っても収入になろうはずはなく、まあ趣味とご先祖様からの土地を荒らさないだけ、のために作付けしているような物だったりする。

 「・・・なかなかうちのお米評判でね。」

うんうん、と茉莉さんが黙ってご飯を口に入れていて、あやめさんは焼けた肉を探す目が怖い。こちらを見上げて催促な視線。はいはい、と鶏肉や牛肉を置いていく。じゅわ~と焼けていく。そして近所からもらった柔らかキャベツ。僕もたまに一切れ、野菜や肉を食べる。ニンジンを何の気なしに口に入れると、これ、甘い。そして鮮烈な香り。口に残らない歯ごたえ・・・。もしかして・・・。

 「さっき、役場の総務課の柾木さん、かしら。かわいらしい子どもさんを連れてやってこられて、少ないですけど食べてくださいって置いていったのよ。なんか人当たりのいい方だねぇ。綺麗で立派なニンジンでしょう?」

それ、遥照様のお孫様だよ。とぼそっと父母に言った。びっくりして父母が目を合わせている。天地君、そのために畑に行ってくれたんだ。ありがたいことである。

 「あら、まあ!。うちのキュウリとなすをあげたけど良かったのかしら?」

ああ、それならだいじょうぶ。たぶん喜んでくれるよ。と言っておいた。このニンジンは皇族御用達だけど、とは言わなかった。うちの畑で採れたものなら喜んで食べてくれるだろう。皇族の特選素材でなければ、とかそう言うことは言わないと思う。あのご家庭なら。

 「カズキ様、このビールって美味いっすね。」

 「地球じゃ、ビールと焼き肉は鉄板組み合わせだよ。生ビール用意出来れば良かったんだけどね~。」

 「さっき思いついたからね~。こんど山本さんちに頼んでおこうかね。」

うん、今度また頼んどいてね、とか言いながら焼いている。近所の酒屋さんが数千円~1万円くらいでビールサーバー一式をレンタルしてくれるのだ。屋外で、堅めのカップとかで飲む生ビールも美味い。

 「ああ、美味しかったです。ご馳走様でした。」

手を合わせてくれる籐吾さん達。お粗末様でしたと母が言った。スッと阿知花さんと水穂さんとあやめさん茉莉さんが立って、すぐにお片付けモードである。女性5人がキッチンに並ぶけど、役割分担が凄い。あっという間に目の前からいろんな物が消えていく。ずっと昔、僕がまだ小さかった頃、親戚がよくこの家に集まっていた。その時と似ている。

目の前には、少し残った、ポテトサラダと、筑前煮がある。これもあまり食べられないけど美味しい。

 「それ、あやめさんと茉莉さんとで作ったんですよ。」

洗い物をしながら阿知花さんが、こっち向いて言う。ポテトと、マヨネーズの中に各野菜が埋没せず、しっかり美味い。リンゴの薄切りは入れないんだ。薄切りタマネギが良いアクセントだったりする。

 「籐吾さんが、こう言うの作ることが出来ることが意外・・・。」

 「結構、料理は得意なんですよ。日亜様はあまり食べてくれませんでしたけど。」

へえ、もったいない。こんなに美味しいのに・・・。

 「あ、わかった。初代樹雷総帥を差し置いて、籐吾さんを好きになったらいけないって、操を立てていたとか・・・。」

えっ!とびっくりした顔をしてこちらを見る籐吾さん。

 「それは、日亜様の記憶ですか?」

 「いや、僕の推測。」

ちょっとした謎めいた笑顔をしてみる。良い具合に煮込まれて色づいた野菜を口に入れる。うん、美味しい。地球の醤油と砂糖の味ではないが、薄味でかつコクのある煮方は僕は美味しいと思う。

 「ホントに不思議なお方だ・・・。」

洗い物を終えた水穂さんが、歩いてきてドンと乱暴に僕の隣に座る。ぎゅっと腕を取られる。同時に、今度は、籐吾さんの横にあやめさんがドンと座って、籐吾さんの腕を取っている。

 「そちらも、お仲が良いようで。」

にまあっといやらしいおっさん顔をしてみる。あやめさんがポッと顔を赤らめる。いや、アルコールのせいかな。

 「いえいえ、司令官殿の真似をしているだけです。」

うっふっふ、と負けない笑みを返してくれる。

 「あははは、元気なら良し!」

右手をグッと握って、立ち上がってみたりする。座ったままの籐吾さんと拳を合わせてみる。電子音が鳴って、半透明のディスプレイが食卓に出現する。

 「う~~、俺がこっちで頑張っているのに・・・。」

謙吾さんの恨めしそうな通信だった。

 「あ~、ごめんね~。今度もう一度みんなで食べよう。」

 「実は、うちもみんなで食べてます。俺も姉ちゃんもなかなか家に帰らないから・・・。」

こんばんは~~と、立木家の様子が映し出される。林檎様、謙吾さん、そしてちっちゃな妹や弟さん達、お父様やお母様、祖父母に見える方々。何とも大人数だった。慌ててお礼を言った。

 「林檎様や謙吾さんには、本当にお世話になっております。助けてもらってばかりで申し訳ございません。」

まあまあ、ご丁寧に。うちの謙吾でよければ、こき使ってやってください。あっはっは、とお父様のような方が言ってくれる。

 「それに、うちの管理する星系を助けて頂いて・・・。赤色巨星化してもうだめだと、あきらめていたところでしたのに・・・。本当にありがとうございます。」

お母様らしき人からお礼を言われた。は?と惚けた顔をしてしまう。スッとタブレットを起動して林檎様が説明してくれた。まるでプレゼンテーションみたいだったり。

 「田本様、ちなみに、あの二日で生き返らせた星系は20を超えています。しかも皇家の管理する星系がその半数を占め、特に天木家と竜木家が多うございますわ。瀬戸様の星系もございます。あとは、ある大企業の管理星系がいくつかと世仁我の管理星系も・・・。」林檎様がそのお美しい顔で結構冷徹にカウントする。はあ?と、よく分からないです僕的に答える。

 「いいですか? この経済効果は非常に、というか、かつて無いほど巨大です。まさにひとつの経済圏が誕生したごとし、ですわ。来期の樹雷の決算はそれやこれやで大幅黒字決算。しかも滅亡を待っていた、古い歴史を持つ惑星系も瞬時に生き返らせてしまわれて・・・。周辺星域からの助けを拒むほど、もの凄く頑固な文明だったんですけど・・・。ここに眠っていたシードを行った文明の航法システムとその航法データを樹雷とGPが率先して管理出来ることになりました。三千年越しの夢が叶ったのですわ。ただし、田本様の意志で最終管理することが条件だそうです。その惑星系の宗教教義書の最後に「破壊よりも誕生を」の一文があったからだ、そうです。」

そこまで一気に言った林檎様、手近のコップの中身をグッと開けた。もしかしてかなり酔ってる?あの美しい林檎様の顔が一瞬上気した色っぽいものに変わった。そういえば、赤色巨星化した惑星系に一個だけ焼け焦げた惑星があったなぁ。

 「死に行く者に、その覚悟をした者に非常に重荷になるとは思ったんですけど・・・。」

まさかあの焼け焦げた星に、そんなものがあったとは・・・。

 「姉ちゃんが言った、さきほどの惑星の名は、アルゼル。その惑星評議会内でも大議論になったようです。あまりにも危険な技術、この文明圏はまだ成熟していない。予定通り、我らが死を持って封印すべしと。でも、先週のパレードで、ガッチガチに固まってた、今回の出来事の張本人、カズキ様を見て、全会一致で技術供与が決まったそうです。梅皇にその航法システムは積まれます。樹雷始まって以来初めての、銀河間航行用、空間跳躍超光速宇宙船の誕生です。」

そこまで言って、謙吾さんもコップの飲み物をグッと一息で開けた。珍しく、ぷはぁっと美味そうに飲んでいる。

 「俺、本当に嬉しいです。こんな凄い船の開発が出来るなんて・・・。でも田本様の家で焼き肉食べたかったっす。」

ううう、と腕で涙をぬぐっている。

 「あにょお、なんだか凄いことを言われた気がしますけど・・・。ちなみに、今の一樹で1万五千光年を15時間くらいでしょ?梅皇だと?」

ふっと謙吾さんが笑う。

 「やはり13時間くらいです。」

なんだ遅いじゃん。がっかりした顔になったのだろう、謙吾さんがすぐに続ける。

 「いえね、銀河系内ではその航法は使えません。銀河法がらみもありますが、あまりに大きく空間をゆがませるため、半径50光年に恒星系がないことが条件です。その条件をクリアした場合、100万光年を数秒で移動出来ます。」

あ、はあ、ええと、と思考が付いてこない。

 「あともう一つ問題があります。その主機関を起動するために、最初だけ、第一世代の樹でも足りないエネルギー量が必要です。計算上、あなたとその宝玉、一樹、柚樹、のエネルギーが必要です。バックアップとして阿羅々樹、樹沙羅儀、緑炎・赤炎・白炎も必要です。初期起動に成功すれば、梅皇だけで運用は問題なく可能です。まさにあなたでないと起動すら出来ない船ですね。」

この手の突然には慣れた気がしていたけど、びっくりを通り越して妙に冷静だったりする自分がいる。そう言えば、こう言うことを喜々として言いそうな瀬戸様は?

 「瀬戸様は、さっきまで、アイリ様、美守様と、田本様と水穂様の結婚式の準備をされていて、本当に先ほど、その話を聞いて、さすがに寝込んでらっしゃいますわ。すぐに元気になられると思いますけど。ちなみに、樹雷皇阿主沙様は、今とってもご機嫌のようですわ。」

林檎さんがちょっと逝っちゃった目でそう言った。もしかして泥酔モードかい。立木家は、大人数で楽しそうに夕ご飯中である。ちっちゃい子は、お兄ちゃんやお姉ちゃんに食べさせてもらっている。なんか大昔の地球の田舎のようだった。僕としてはそっちの方が微笑ましい。気がつくと、背後から、周りから人が鈴なりだったりする。父と母はさっきのところで座って引きつった顔している。


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