東方増減記   作:例のアレ

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スキマ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの鬼の住処を出発してから多分、十年くらい経ったと思う

 

俺は今、森の中を歩いている

 

目の前に奇妙な物が見える

 

リボンが2つ浮いているんだ

 

何かの悪戯かと思い手を伸ばしてみる

 

すると、寄り添う様に浮かんでいたリボンが離れて気味の悪い空間が見えた

 

紫色をして大きな目玉が幾つもこちらを見ている

 

思わず飛び退る

 

「こんにちは」

 

空間から1人の女性が出て来た

 

手に日傘を持ち紫色の服を着てドアノブカバーのような帽子を被っている

 

「貴方が最近有名な灰色の翼を持つ妖怪かしら?」

 

有名?俺は何時、何処で、誰に有名になったんだ?

 

分からない、訊いてみよう

 

「確かに俺は灰色の翼を持っているけど・・・有名って何?」

 

すると女性は意外そうな顔をする

 

「有名って言うのは、世間によく知られる事よ」

 

そんな事も知らないのか?って顔をされても・・・・それくらい知ってるっての

 

「いや、言葉の意味じゃなくて。何処で誰に有名なのかって事でね?」

 

言うと女性はくすくす笑いだした

 

「冗談よ。私は紫、スキマ妖怪の八雲紫よ。よろしく」

 

自己紹介される。結局、誰に有名なんだよ

 

手を伸ばしてくる

 

握手か?この時代に握手の習慣があるとは知らなかった

 

手を握り握手をする

 

瞬間、なんとなく力が抜ける様な感覚に襲われる

 

隠していた翼と髪の色が出てしまう

 

「何をした?」

 

率直に疑問をぶつける

 

「あら?その妖力をしまってくださらない?息が詰まるわ」

 

知らずに妖力を出してしまっていたらしい、意識して抑える

 

「それで、何をしたんだ?」

 

同じ妖怪だし、襲ってくる事は無いと思う

 

それでも若干警戒する

 

「境界をいじって貴方の正体を現せただけ」

 

胡散臭い笑みを浮かべながら話す紫

 

「境界?」

 

「そう、私の能力『境界を操る程度の能力』よ」

 

何だか掴み所の無い奴だ

 

正直、関わり合いにならない様にした方が良さそうだ

 

さっさと行こう

 

「そうか、じゃあ俺は急ぐから」

 

無理やり切り上げ歩き出そうとした

 

だが、後ろから妖気を感じた

 

すぐに、飛び上がるとさっきまで立っていた場所に妖力の弾があたる

 

「そんなつれない事を言わないで、少し遊びましょう?」

 

見れば手を突き出している紫の姿

 

「何を!?・・・うわっ!」

 

次々と飛来する妖力の弾

 

それを辛くも避け続ける

 

「あら、結構すばしっこいのね」

 

弾の密度が上がる

 

これは・・・まずいなぁ、逃げ場が無い

 

しょうがない、こっちも能力を使おう

 

「あら?」

 

視界を覆う弾がどんどん”減”っていく

 

「何をしたの?」

 

紫が不思議そうに訊いて来る

 

「俺も能力を使っただけだよ」

 

弾を減らし続け残り1つにする

 

俺の能力は幾つかの例外を除いて0にする事はできない

 

それでも1つになった弾を避けるのは容易い

 

「厄介な能力ね。何と言う能力なの?」

 

少しも厄介という顔をしない

 

相変わらず胡散臭い笑みだ

 

「増と減を操る程度の能力だ」

 

正直に教えてみる

 

「だから、こんな事もできる」

 

能力を使い紫の妖力に干渉する

 

「!・・・これは!」

 

今、紫は感じている筈だ

 

自分の妖力がどんどん減っていくのを

 

恐らく、もうしばらくすれば紫の妖力は底をつく

 

「やめて!私が悪かったわ、謝るから!」

 

焦った様な声が聞こえたので能力を止める

 

「ふう・・・名前の割には強力な能力ね。危うく消える所だったわ」

 

能力のこんな使い方を思いついたのは数年前の事だ

 

試しにやってみたら出来たので強力な妖怪なんかと戦う時に重宝する

 

「自業自得だろ?」

 

別にSという訳では無いので減らせた妖力を”増”やしてやる

 

「・・・便利な能力ね。これなら実質、妖力切れは起こさないわ」

 

その通りだ

 

妖力が減ってきたら能力で増やしてやる

 

もしくは、初めから減らない様にすれば良い

 

燃費の面では右に出る者は居ないだろうと思う

 

「これなら、頼る事が出来そうね」

 

「頼る?何を頼るんだ?」

 

「いずれ時がくればわかりますわ。その時はよろしくね」

 

そう言い残すと紫はスキマに消えていった

 

「何なんだ?・・・まぁ良いか、旅を続けよう」

 

次の目的地はそうだな・・・・・平安京でも行ってみるか


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