東方増減記   作:例のアレ

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旅に出て数十年が経過した

 

その間に色々な村に行った

 

時には現地の人に頼み、家の一室を借り

 

時には妖怪の住処に泊まった

 

野宿もした

 

妖怪とは時に戦い、時に友情を育んだ

 

今も一匹の鬼の住処を借りている

 

「何をしてるんだ?」

 

「ん?いや、ちょっと回想を」

 

「?変な奴だな」

 

ちょっと気が荒いけど良い奴だ

 

「そうだ、お前人間は好きか?」

 

「ああ、好きだよ。気の良い奴も多いし」

 

「は?何言ってんだ?」

 

話の食い違いがあるらしい

 

「食い物の話だぞ?」

 

元人間の身としては人間を喰うなんて発想は無かった

 

「いや、人間は食い物としては見れないよ」

 

「何!?なら今までどうやって生きてきた!?」

 

余程衝撃的だったのか声を荒げて訊いて来る

 

とりあえず、全部を話すと日が暮れる所か数年掛かる

 

はしょって話すか

 

「普通に山に篭って果物とか動物の肉とか食べて生きてきたけど?」

 

はしょり過ぎたか?

 

しかし、鬼の顔は衝撃に染まっていた

 

「山に篭っていただと!?人間に関わらずにか!?」

 

ちょ、顔が近いって

 

「そりゃあ、まあ。人なんて寄り付けない位に厳しい山だったし」

 

すると、鬼が有り得ないと言わんばかりの形相になった

 

「嘘を吐くな!俺達みたいな鬼やお前みたいな妖怪は人間に関わらなければ力がどんどん衰えていくんだぞ!?お前みたいな馬鹿でかい妖力を持った奴が人間に関わらずに生きてきたなんて信じられる訳が無い!」

 

そんな事言われても、俺が居た山の近くには初め人間どころか妖怪も居なかったし

 

妖怪も結構最近になって見かける様になったばかりだし

 

って言うか、俺って妖力なんて持ってたのか、気付かなかった

 

「お前、何者だ」

 

ふと鬼を見ると何故か立ち上がり戦闘態勢をとっていた

 

「まさか、人間じゃないだろうな?」

 

俺が人間?人間なんて数千年も前に辞めましたよ?

 

「いや、人間に翼は生えてないだろ」

 

すると、鬼は考え込む様な仕草をすると構えをといた

 

「そうだな、冷静に考えると人間が妖力を持っている筈がない」

 

微妙に話が噛み合わない

 

「悪かったな、しかしそうなると何故お前は生きているんだ?」

 

生きててすいません

 

いや、卑屈になってる場合じゃない

 

「うーん・・・多分だけど俺の能力が関係してるんじゃ無いかな?」

 

思い当たった事を言ってみる

 

「能力?お前能力なんて持ってたのか?」

 

床に座り直すと鬼が訊いてくる

 

「ああ、増と減を操る程度の能力って言うんだけど。多分その能力で力が減らないようにしてるとか、力を増やしてるとか?」

 

正直、それしか思いつかない

 

「成程な、便利な能力だ」

 

どうやら鬼も納得してくれた様だ

 

「でも何でいきなり人間が好きか何て訊いたんだ?」

 

大体わかるけど一応訊いてみる

 

「あぁ?そんな物決まってるだろ。人間を喰いに行くから一緒に行くかどうかの確認だ」

 

やっぱりか、元人間の立場で言えば止めた方が良いかも知れないが、この鬼にとっても死活問題だ。余りとやかく言えない

 

けど、人間ってどんな味がするんだろう?美味いのか?・・・・・いやいや!何て事を考えているんだ俺は!

 

身体は妖怪になってしまったけど心は人間のつもりなんだ、人間を喰う訳にはいかない

 

「まぁ、お前は人間を喰わないらしいからな。俺1人で行ってくるぞ」

 

言うが早いか洞窟を出て行く鬼

 

それを見送り、俺は寝る事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼が覚めると早朝、朝日が昇り始めた時間だった

 

周りを見回すと居る筈の鬼がいない

 

初めは何処かに寄り道でもしてるんだろうなんて思っていた

 

しかし、日が完全に昇りきっても鬼が帰ってくる気配は無かった

 

さすがに心配になって近くの村まで様子を見に行く事にした

 

姿を人間に変え旅人を装い村に入る

 

「何か、家とかがやけにぼろぼろになってるなぁ」

 

壁に大穴が開いた家とか屋根が一部無くなっている家とか

 

「そいつは昨晩、鬼が来て壊しちまったんだよ」

 

すぐ後ろから声が聞こえた

 

「あんた、旅の人かい?」

 

何時の間にかすぐ後ろに老人が1人、立っていた

 

「はい、旅をしている者です。鬼が来たって言ってましたけど・・・大丈夫だったんですか?」

 

何食わぬ顔で訊いてみた

 

「ああ、昔からこの辺りに住み着いていた鬼でな?いい加減、村が滅んじまうってんで退魔師様の方にお願いして鬼を退治してもらったんだ」

 

嫌な予感、と言うか確信

 

「・・・その鬼はどうなったんですか?」

 

多分聞きたくない答えが返ってくると分かっていながら訊いてみる

 

「退魔師の方が見事に退治してくださったよ」

 

やっぱりか

 

1週間も一緒にいなかったけど死んだと聞くとかなりの衝撃がある

 

けど、実は初めてでは無い

 

何回か似た様な場面に遭遇している

 

「鬼の首は村の広場に置いてあるから見に行ってみると良い」

 

そんな言葉を言い残し去っていく老人

 

見たくないけど、せめて鬼の最後を見ておいてあげたくて広場に向かう

 

広場には人だかりが出来ていた

 

皆、口々に

 

「やっとこの辺りも平和になる」

 

「いい気味だ!鬼め!」

 

「さすがは退魔師様だ」

 

なんて事を言ってる

 

その人垣の向こうに鬼の首が見える

 

予想に反して安らかな顔をしている

 

しばらく鬼の顔を眺める

 

「お前が灰色の翼を持つ妖怪か?」

 

全く気配を感じさせないで横に立っている男が1人

 

「答えろ、お前が灰色の翼を持つ妖怪か?」

 

さっきと同じ質問をされる

 

「なんの事です?俺は「隠しても無駄だ」え?」

 

言葉を遮られた

 

「隠すならまず翼よりも妖力を隠せ」

 

・・・妖力を感じ取れるって事はこいつが退魔師か

 

「別に退治しようとは思っていない」

 

退魔師なのに妖怪を放って置くのか?

 

「あの鬼の遺言だ『もしかしたら後で俺を探しに灰色の翼を持つ妖怪が来るかも知れない、そいつは人間を襲わないから見逃してやってくれ』だ、そうだ」

 

あの鬼が俺の為に?会ったばかりなのに?

 

やっぱり良い奴だったんだな

 

「それともう1つ『あの住処はお前にやる、好きにしろ』これは言伝だな」

 

まだ、名前も知らないってのに

 

「さぁ、俺の気が変わらない内に行け」

 

・・・俺も殺されたくはない

 

できれば鬼を葬ってあげたいけど、この状況じゃ無理だろう

 

立ち去ろう、多分もうこの村に来る事も無いだろう

 

俺は元の妖怪の姿に戻り飛び立とうとした

 

「待て、お前の名前を訊いておこう」

 

後ろから声を掛けられる

 

けど、名前なんてとっくの昔に忘れた

 

「名前は・・・無い」

 

正直に告げる

 

「何?お前、名無しか?」

 

少し驚いた様子だ

 

「ならば、今から灰刃(かいは)と名乗れ」

 

灰刃?どうやら名付けて貰った様だ

 

特に断る理由も見つからないし、それで良いか

 

でも、何故に灰刃?

 

「構わないけど・・・意味は?」

 

「灰色をした、まるで刃の様な羽毛の翼を持っているからだ」

 

成程、まぁ良いだろう

 

「わかった、今から灰刃を名乗らせてもらうよ」

 

言い残し、今度こそ飛び立つ

 

少し上昇すると後ろから

 

「妖怪だー!」

 

「た、退魔師様!退魔師様ー!」

 

なんて声が聞こえてきたが無視しておこう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼の住処の洞窟に着いた

 

とりあえず、村の人間に姿を見せてきたからには早々に旅を再開しよう

 

必要な物を纏めて外に出る

 

洞窟は入り口に大きな岩を置いて隠しておく

 

もう、来る事は無いかもしれないけど、形見に近い物だ。せめて荒らされない様にしておこう

 

さて、次は何処に行こうか?


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