東方増減記   作:例のアレ

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目覚め

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「灰刃、そろそろ目が覚めそうよ」

 

赤青の声に寝ていた身体を起こす

 

「目が覚めるって誰が?」

 

寝ぼけてる、頭が働いてない

 

「はぁ…目が覚めるって言えばあなたの身体に決まっているでしょう」

 

ああ、そういえばここは俺の中だったっけ

 

長い事ここに居すぎた所為で忘れていた

 

「やっとか。随分と時間が掛かったな」

 

「傷の程度を見れば仕方ないでしょ」

 

まぁ、その通りか

 

「しかし、結局どれだけここに居たんだ?」

 

「知らないわよ。自分で数えてなかったの?」

 

俺が年数を数えるのは期待しない方が良い

 

「まぁ良いわ。それよりも、阿露とジャンが見送りに来ているわよ」

 

律儀な事だ

 

特に阿露なんて一緒に暮らしているっていうのに

 

「さ、行くわよ」

 

「あいよ」

 

赤青に先導されて外にでる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お元気でって言うのも変ですかね?」

 

「わしらは常に一緒にいるようなものじゃからのう」

 

ある意味、最高の居心地なこの場所からでるのは非常に名残惜しい

 

何もしないでずっと過ごせる上に食べる必要も無い

 

「とか考えているんでしょう?」

 

「何故バレた」

 

「分かるわよ。何時までも自分の中に引き籠ってるんじゃないの」

 

上手い事言うなぁ

 

なんてやりとりをしていると、徐々に身体が透け始める

 

「時間みたいね」

 

「何かありましたらすぐにお呼びください」

 

「呼び出せるかは分からんがのう」

 

涙の別れとはいかないか

 

それも良いな

 

「じゃ、また機会があったらこっちに来るよ」

 

「もう来ないようにするって考えは無いの?」

 

そいつは盲点だった

 

「あ、俺って封印されているんじゃなかったのか?」

 

外に出ても身動き取れないのは困る

 

「大丈夫じゃろう、封印をしたのはかなり前の事じゃからのう」

 

それなら安心だ

 

……安心なのか?

 

身体が完全に消えていく

 

さて、外はどうなっている事やら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシピシとかパキパキとか、何かに罅が入る音がする

 

やがて何かが崩れる音と同時に身体に自由が戻る

 

「あぁ良く寝た」

 

封印されていたのは大きな岩の中のようで、さっきの音はそれが崩れる音だったらしい

 

外にでて伸びをしてから回りを見回す

 

はて? 通行人が沢山、皆こっちを見ながら固まっている

 

そこにいる大多数が洋服を着ている

 

和服を着ているのはお年寄りくらいだ

 

整備された道路に車がびっしり並んでいる

 

どうやらかなり時代が進んだらしい

 

手近にいるスーツの男性に声をかける

 

「今は何年の何月何日だ?」

 

しかし、男性は口をぱくぱくさせるだけで一向に応えてくれない

 

いきなり岩の中から翼と角が生えた可笑しな奴が出てきたら誰だって似たような反応をするだろう

 

仕方ない、幻想郷に帰って自分で確かめよう

 

そう思い久しぶりにスキマを開き中に入る

 

入る直前に大勢の人間が叫び声が聞こえた気もするが、俺には関係無いって事にしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着!」

 

すっごい久しぶりな幻想郷だ

 

そして久しぶりの我が家だ

 

「ただいま、って言っても誰も居ないけど」

 

家の中は俺が出かけて行った時のままだった

 

埃が積もっている様子もない

 

誰かが管理していてくれたのかも知れない

 

「っと、さすがに食料品なんかは無いか、後で人里に行って買い物して来ないとな」

 

家の中を見てまわる

 

小さな子供用の着物を見つけた時は思わず涙が出そうになったが何とか堪えた

 

雨戸を開けて縁側を開放する

 

そこに狙ったかのようなタイミングで来客があった

 

「あやややややや!? 灰刃さん!? 生きてたんですか!?」

 

「射命丸か、生きてたとは御挨拶だな」

 

会うなり失礼な奴だ

 

「だ、だって何百年も留守だったんですよ!? もしかしたらって思うじゃないですか!?」

 

俺は百年単位で寝ていたのか

 

けど、それなら人間が発展していたのも頷ける

 

「まぁ色々あってな、ちょっと封印されてた」

 

「封印って! ああ、とにかく皆に知らせに行ってきます!」

 

言い残して飛び去る射命丸

 

相変わらず慌ただしい奴だ

 

……今持っている金は人里で使えるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良かった、ちゃんと金が使えた

 

人里も大分変わっているけど、外ほど発展していないのは何でだ?

 

外界とも接触が無いってのを差し引いたとしても情報くらいは入ってくるものじゃないのか?

 

まぁ後で訊いてみれば良いだろう

 

「灰刃さん?」

 

ふと呼ばれて振り向けば、金色の尻尾が9本

 

「藍か? 久しぶりだな」

 

「久しぶりじゃないですよ! 紫様がどれだけ寂しがっていたか!」

 

あー紫なぁ……正直、赤青とずっと一緒だったからあんまり離れていたって気がしないんだよなぁ

 

「それにですね! 貴方からの預かりモノもあるんですよ!」

 

預かりモノ? はて? 何か預けていたっけか?

 

「とにかく! 家に来てください!」

 

と、藍に引きずられるように八雲家に連れて行かれる事になった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「只今戻りました!」

 

どこをどう通ったかよく思い出せないが、どうやら八雲家に着いたらしい

 

藍が玄関戸をスパーンと景気よく開けながら靴を脱ぐのももどかしいと家の中に入っていく

 

引きずられている俺も当然一緒にだ

 

買った食料なんかはスキマの中に放り込んでおいた

 

「赫(かく)! 橙(ちぇん)! 紫様を起こして来てくれ!」

 

赫? 橙? 紫の新しい式か?

 

俺はそのまま居間まで引きずられ、首根っこを持たれたままで待つ事になった

 

「なぁ藍?」

 

「何ですか!」

 

「別に逃げやしないから離してくれ」

 

「ダメです!」

 

信用ないなぁ

 

しばらく待つと、どたどたと荒い足音が聞こえてきた

 

「藍! あなたねぇ、こんなに明るい時間に起こしてどういう…つもり……よ? …灰刃?」

 

「よう」

 

片手をあげて挨拶する

 

そろそろ首を離してくれてもいいんじゃないか?

 

「……ようじゃないわよ! 今までどこほっつき歩いていたの!」

 

「えぇとな? かくかくしかじかで」

 

「玉兎にやられて寝ていたですって!?」

 

これで通じるのか

 

「あぁもう……あんまり心配させないでよ。500年も音信不通で足取りすらも掴めなくてもしかしたらって思ったじゃないの……」

 

その場に座り込んでしまった

 

何だろう、ちょっと罪悪感

 

そして500年も寝ていたのか

 

「お母さん、大丈夫?」

 

「紫様、どこか痛いの?」

 

お母さん?

 

今まで紫の剣幕に押されて気付かなかったけど、紫を気遣うように寄り添う女の子が2人いる

 

「何だ? ついに所帯を持ったのか? 父親は誰だ?」

 

紫と一緒になるなんて……物好きな男もいたもんだ

 

「父親はあなたよ、灰刃」

 

………………ん?

 

「俺が父親?」

 

ちょっと待て、憶えが無いぞ

 

「あなたが持ってきた卵があるでしょ? あれから生まれたのが赫よ」

 

あの卵から?

 

「お母さん?」

 

「ほら赫、あれが赫のお父さんよ」

 

少女、赫は紫と俺の顔を交互に見て、最後に藍の顔を見た

 

「藍お母さん?」

 

「そうだぞ赫、あれがお父さんだ」

 

さっきからあれ呼ばわりが続いているが、俺の頭も混乱してきている

 

って言うか、紫も藍もお母さんって呼ばせてるんじゃない

 

赫がこっちに近寄ってくる

 

赤い髪に赤い着物、背中には炎のような翼が生えている

 

「は、初めまして赫です、よろしくお願いします」

 

そのまま90度のお辞儀をする

 

和むなぁ

 

「そうだ、良くできたぞ赫!」

 

藍は何故か片方の鼻の穴から鼻血を出している

 

「藍様、あの人が赫ちゃんのお父さん?」

 

「そうだぞ橙、お前も挨拶しておけ」

 

猫耳に2本の猫の尻尾、その娘もこっちに近寄り

 

「初めまして橙です、よろしくお願いします」

 

ぺこりとお辞儀する

 

これも和むなぁ

 

「良くできたぞ橙!」

 

鼻血が両方の穴からになった

 

……また会えるとは思っていなかった

 

既に生まれているとは思ったけど、もう会えないと諦めていた

 

何より、あの紫が育てていたって言うんだ

 

……良かった

 

「ちょっと…なんであなたが泣いてるのよ」

 

泣いてる?

 

目元を触ってみると、確かに涙が出ている

 

「あ、あの、お、お父さん、泣かないで?」

 

「良~い子に育ったなぁ」

 

思わず赫を抱きしめる

 

「あ! お父さん! 駄目!」

 

ん? 熱い?

 

赫の翼に触れている腕から熱が伝わってくる

 

普通の火と同じくらいの温度があるが、この身体には全く影響は無い

 

「あ、熱くないの?」

 

「熱いけど、これくらいなら平気だよ」

 

どうやら心配してくれたらしい

 

「その子はふらり火っていう妖怪らしいわよ? 犬のような顔をした鳥が炎に包まれた姿って人間の間では言われているらしいわね」

 

ふらり火? 成程、火の妖怪か

 

通りで熱い訳だ

 

「火の化身であり、供養をされなかった死者の霊魂が現世をさまよった末、このような姿に成り果てたって言われているけど、卵から生まれたから違うのかも知れないわね。今度、稗田の子にでも訊いてみたら?」

 

稗田か、今は何代目なんだろう

 

「どうでも良いだろ? この子が何者でも俺の子には変わり無い」

 

「そう? あなたがそう言うなら良いけど」

 

「俺は自分の正体にすら頓着しなかった男だぞ?」

 

娘の正体なんかどうでも良い

 

今、此処に生きていてくれただけで俺は十分だ

 

「ちょっと、正体って何よ?」

 

おっと、口が滑った

 

面倒な説明をするのは御免だな

 

「ひ・み・つ」

 

唇に人差し指をあてながら言ってみる、真顔で

 

我ながら気持ち悪い

 

「……気持ち悪いわよ?」

 

おぉっと言葉の暴力だ

 

「それはさておき、これからどうしようか?」

 

強引な話題の変換を試みる

 

「これからって何がですか?」

 

両鼻に詰め物をした藍が訊いてくる

 

……今度、藍の血を増やしておいた方が良いかも知れない

 

「いや、赫はこれからどっちの家に住むのが良いかとか」

 

それから、壮絶な言い争いが続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の娘なんだから俺の家に住むのが良いだろ!

 

今まで私たちの家に住んでいたんだからこれまでも一緒に住むのが良いに決まってるわ!

 

そうですよ! 大体、今まで放置しておいて、いざとなったら自分の娘って言うのは虫が良すぎませんか!?

 

それは仕方ないだろうが! 俺だって放置したくてした訳じゃない!

 

喧々諤々(けんけんがくがく)、以下省略

 

で、結局は本人に決めてもらおうとお決まりのパターンになった

 

何だろう、離婚した後の親権の取り合いみたいだ

 

「みんな一緒じゃ、だめ?」

 

「赫、それは駄目なんだ」

 

紫と暮らすなんて、何をされるか分かったものじゃない

 

「良いじゃないの」

 

「良い訳あるか」

 

朝起きたら既成事実なんて笑い話にもならない

 

「なら……お母さんと一緒が…良い」

 

まぁ、仕方ないか

 

いきなり現れた父親と、今まで暮らしてきた母親とでは聞くまでも無いか

 

「ですってよ?」

 

「赫ぅぅぅぅぅぅ!」

 

勝ち誇った顔の紫と鼻血の量が増した藍

 

「べ、別に悔しくなんてないんだからね!」

 

捨て台詞を吐いてスキマを開き、中に飛び込む

 

ちょっとわざとらしかったかも知れない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お母さん」

 

「大丈夫よ。どうせあの子煩悩の事だから近いうちに土産でも持って遊びにくるでしょう」

 

「うわぁ、見透かされてますねぇ」

 

「藍様、こぼんのうって何ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スキマを家の居間に直接つなげて帰宅する

 

やれやれ、ようやく買ってきた物を仕舞える

 

スキマの中から買ってきた物を取出し仕舞おうとすると後ろに嫌な気配を感じた

 

 

カサカサカサ

 

 

この気配は……まさか………Gのつく奴か?

 

態々この家を根城にする事は無いのに

 

さてどうするか、虫1匹に大騒ぎするのも格好悪い

 

だが放置するのも気持ち悪い

 

となると退治するなり追い出すなりしないとならない

 

……いや待てよ? 時代が進んでいるという事はアレが手に入るかも知れない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳で急いで外まで買いに行ってきた

 

取出したるはバル○ン

 

対虫兵器の中ではトップクラスの実力を誇るんじゃないかと言われる代物だ

 

家の中を密閉させ、能力で範囲と効果を増し、いざ発動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく外で待つ

 

すると、虫の羽音が聞こえてきた

 

有りえない程、大量に

 

馬鹿みたいな量の虫の大群が家の雨戸をぶち破って黒い雲になり何処かへと飛び去って行った

 

ちょっと鳥肌がたった

 

この家は虫の住処になっていたのか

 

って事は家の管理も虫がしていたのか?

 

もしそうなら悪い事をしたかも知れない

 

外れた雨戸を直し、家に入る

 

……なんだろう、居間の中に奇妙なモノが仰向けに倒れている

 

人? にしてはおかしい

 

緑色の髪の毛から2本の何かが伸びている、例えるなら虫の触覚だ

 

服装に変な所はないな、マント以外は

 

フリルのような物がついたYシャツのような服にかぼちゃのように膨らんだズボンをはいている

 

この少年は何故こんな所に倒れているんだ?

 

あぁ、さっきのバ○サンの所為か

 

………死んでないよな

 

近寄って揺すってみる、反応は無い

 

「おい、生きてるか?」

 

声をかけてみる

 

「……うぅん」

 

呻き声が聞こえた、生きてはいるようだ

 

さてどうするか

 

○ルサンで落ちてきたって事は虫の類なんだろうけど、人型って所を見ると妖怪なんだろうな

 

目を覚ます前に何処かに捨てに行くか、それとも看病してやるか

 

……考えるのも面倒になってきた

 

そもそも、最近の俺は働きすぎだろ

 

元々が面倒臭がりだってのにあっちに行ったりこっちに行ったり

 

500年程度じゃ休んだ気にならないっての

 

ごろごろする事に飽きさせたいならもう500年は持ってこい!

 

「うぅん……はっ此処は!?」

 

大体、俺を引っ張りまわすような事をするからさくやだってあんな目にあったんだ

 

いっその事、天照大神みたいに岩戸にでも引き籠るか

 

「あ! あなただね、さっきの毒ガスの犯人は!」

 

いや、生半可な場所じゃ紫あたりが引っ張り出しにくるか

 

「無視するな!」

 

何処かに良い場所でも無いか?

 

「いい加減に」

 

 

ゴゥゥゥゥン!!

 

 

考えを強制中断させる大きな爆音が聞こえてきた

 

玄関の方からだったけど、まさかな

 

「何! 何! 何!? 何の音!?」

 

「お? 何時の間に目を覚ましたんだ?」

 

「え? ついさっきだけど…って違う! あの毒ガスは」

 

まぁ良いや

 

それよりも音の原因を見に行こう、誰の行為かは予想つくけど

 

「あ! ちょっと待ってよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関に着く、いや正確には着けなかった

 

「おかえりなさい灰刃、待っていたわ」

 

「やっぱりお前か幽香。お前は家の玄関に何か恨みでもあるのか? これで3回目だぞ?」

 

「手っ取り早いでしょう?」

 

玄関は見るも無残に、いや見る影も無い、それも違う文字通り消滅していた

 

「な、何これ?」

 

後ろから声が戸惑った声が聞こえた

 

「あなたが相手なんだもの、隙間妖怪の言っていた命名決闘なんか必要ないわよね?」

 

命名決闘? 何だそれ?

 

名前を付けながら決闘するのか?

 

「さあ、行くわよ」

 

今回は場所の移動も無しか

 

対峙した幽香が手を翳す

 

その手からピンク色の花びらのような形の弾幕が放たれる

 

その数がまた凄まじい、幽香の姿が完全に見えなくなるくらいの密度だ

 

こんなモノを向けられたら家が壊れる

 

とりあえず、標的(俺)を射線上にある家から逸らす為に空に飛びあがる

 

しかし、放たれてしまった弾は止まらずに家にあたり無数の穴を開ける

 

「今度は玄関だけじゃなくて家本体まで壊す気か?」

 

「あなたが避けなければ良かったじゃない」

 

俺を追いかけつつとんでもない事を言っている

 

このままでは家が良くて半壊、悪くすれば全壊も有りえる

 

いっその事丸ごと作り直して貰うのも良いかも知れない

 

「さぁ、500年も待たせてくれたのだからもっと楽しませて頂戴?」

 

再び花びらが放たれる

 

右に左に上に下に、空間をフルに使って避ける

 

厄介な

 

しかし、この攻撃を俺の攻撃に変える手段が俺にはある

 

「不変の朝」

 

俺の周りと幽香の周りの空間が歪む

 

歪みに当たった幽香の弾幕が幽香の周りに出現する

 

「ふふ、甘いわよ」

 

幽香が呟くと同時弾幕が幽香を避けていく

 

「この弾幕は花びら、私の能力は花を操る程度の能力。つまり、私に操れる弾幕と言う事よ」

 

「うわ、卑怯だ」

 

「何とでも言いなさい、これであなたの技は私に効かないわ!」

 

いや、問題は無いな

 

両腕を突出し、細いレーザーを放ち歪みにぶつける

 

「な!」

 

「俺が攻撃をするとは予想しなかったのか?」

 

更にレーザーを2本放つ、これで合計4本

 

「まだまだ」

 

もう一回2本、これで合計6本

 

「おまけだ」

 

2本、合計は8本

 

「駄目押し」

 

合計10本になったレーザーが幽香を追いかける

 

「卑怯よ!」

 

必死にレーザーを避け続ける幽香を尻目にドヤ顔でにやにやと見つめる

 

「何とでも言え」

 

さっきのお返しだ

 

しかし、今回は幽香も粘る

 

避けながら自分の弾幕で俺のレーザーを相殺し、数を減らしていく

 

「侮るんじゃないわよ!」

 

全てのレーザーを撃ち落し再びこちらに対峙する

 

成程、あんな躱し方があったか

 

「次はこっちの番ね」

 

まずいなぁ

 

俺にはもうこれと言って技が無い

 

サボっていたツケが回ってきたかな?

 

『うむぅ、血が滾るのぅ』

 

ん? 今の声は………

 

『あら? もしかしたら聞こえているのかしら?』

 

「阿露と赤青か?」

 

思わず呟いてしまったが、今の声は間違いない筈だ

 

「あろ? 青? 何を言っているの?」

 

頭の何処かで混線でもしているのか?

 

『混線って言うよりも、元々繋がっていなかったのが繋がったんじゃないかしら?』

 

思考ダダ漏れか

 

「聞いてるの?」

 

『良いわ、話が出来るなら好都合よ。あなたに技を授けてあげる』

 

技? 必殺技的な奴?

 

『そう、2つあるけど、派手なのと貴方向きなのとどっちが良い?』

 

しびれを切らせた幽香が放つ弾幕を避けつつ答える

 

そりゃ俺向きの方が良いな

 

『なら、妖力を放出しなさい』

 

妖力を? ……まあ、やってみるか

 

「!」

 

妖力を感じ取った幽香が警戒して間合いを取る

 

『その妖力を人の形にするイメージをしなさい』

 

言われるがままなのが癪に障るけど、今は言われた通りにしてみる

 

『さぁ阿露、出番よ』

 

赤青の言葉の後、俺の身体から青い球がでてくる

 

球は人型にした妖力の中に入っていく

 

何となく次の展開が読めてきた

 

人型の妖力は徐々に人型ではなく、人に…いや、鬼の姿に変わっていく

 

やがて、完全に鬼になった

 

「うむ、久しぶりに太陽を見たのぅ」

 

俺と同じと言うより、俺が同じ角

 

鳶職人の履いているニッカボッカのように足首で丸まっている袴

 

上半身は裸で、細いが筋肉が詰まっているようだ

 

白髪と長い顎鬚が翁の面を思い出させる

 

「久しぶり…って程でもないか」

 

「そうじゃの、今朝別れたばかりじゃからな」

 

出てきた阿露と軽く挨拶を交わす

 

「さて、おぬしはもう見ているだけで良いぞ? ここからはわしがやろう」

 

成程、俺向きってのはそう言う事か

 

これは楽できて良いなぁ

 

「な! 何よあなた!」

 

「悪いが、わしの相手をしてもらうぞ? お嬢ちゃん」

 

一気に飛び掛かり大きく振りかぶった右の拳を繰り出す阿露

 

それを右手で受け止め、左手で殴る幽香

 

更にそれを受け止め……見ていても飽きるだけだな

 

地面に降り、穴だらけになった家に入りお茶を煎れる

 

しかし、酷い物だな

 

縁側まで花びらの形の穴だらけだ

 

これは修理は無理かも知れないな

 

「あのぉ……」

 

「ん? ああ、さっきの奴か、まだ居たのか?」

 

「さっきの妖怪って風見幽香ですよね? 大妖怪の」

 

おずおずと、という表現がぴったり合いそうな態度だ

 

「俺がいない間に改名していなければそうだな」

 

「そんな大妖怪と互角に戦っていた貴方は何者でしょうか?」

 

「なに、どこにでも居る妖怪の1人さ」

 

「いえ、どこにでも居る妖怪は大妖怪と渡り合うなんて出来ないと思いますけど…。それにあんなに強い鬼も従えているようですし」

 

空に視線を戻してみる

 

ドカッ! とかバキッ! とかの擬音が時々聞こえてくる

 

なんであんなに争い事が好きなのか俺に理解出来ないな

 

「ちょっと他の連中より長く生きているだけだ」

 

「私もあんなに強くなれるでしょうか?」

 

「さあなぁ」

 

横にいる奴にも茶を煎れてあげ、2人でしばらく空を見上げていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったぞ」

 

幽香を脇に抱えた阿露が降りてくる

 

「おかえり、随分と張り切っていたな」

 

「久しく味わっていなかった戦いじゃ、張り切るなと言うのが無理な話よ」

 

そんなものかねぇ

 

「さて、戻るとするかのぅ」

 

「戻るのか? そのまま成仏すれば良いのに」

 

「まだまだ現世には未練があるでの」

 

幽香を縁側に寝かせ、阿露は青い球に戻り俺の中に入っていく

 

さて、俺はにとりの所に行ってみるか

 

「俺は家の修理を頼みに行くけど、お前はどうする?」

 

「えぇと……どうしようかな。ここって貴方の家なんですよね?」

 

触覚付きの緑髪……名前を聞くのを忘れていた

 

「ああ、俺の家だな。それはそうと、俺の名前は灰刃だ」

 

「あっ、リグルです、リグル・ナイトバグ」

 

「ナイトバグ? 変わった名字だな」

 

「やっぱり変ですか? 自分で付けてみたんですけど。灰刃さんは名字はなんて言うんですか?」

 

名字?

 

考えた事も無かった

 

今の名前だって人に付けてもらったものだ

 

そう言われれば今まで出会った奴らには名字までしっかりとある

 

これは……俺も苗字が必要って事なのか?

 

「なぁ……名字って必要か?」

 

「え? …無いよりも有った方が良いと思いますけど。もしかして……名字、無いんですか?」

 

どうする? また誰かに付けてもらうか?

 

「ナイトバグ、良ければ付けてくれないか?」

 

「ええ!? 私がですか!?」

 

「駄目か?」

 

「駄目って事は無いですけど……やめた方が良いですよ? 名前を付けられるとその人と繋がってしまうって話ですし」

 

ふむ……これ以上誰かと繋がるのは勘弁して欲しい

 

仕方ない、自分で考えるか

 

いや、待て

 

俺にはある意味で強い味方がいるじゃないか

 

第一回緊急脳内会議開催!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、言う訳で、俺の名字を決めようじゃないか

 

『随分と急な話ね?』

 

『良いんじゃないかの?』

 

『今更感はありますけどね』

 

ではまず、どんなのが良いのかだけど

 

『数字じゃな』

 

数字?

 

『うむ、強い妖怪ほど名字や名前に数字を入れたがるものじゃ』

 

成程、数字が入っている事を条件にすれば良い訳だな

 

『因みにわしの名字は一角(いっかく)じゃ』

 

おお、数字が入っている

 

『私の元になった紫も八雲と名乗っているわね』

 

『四季映姫さん…はちょっと違いますか。八坂神奈子さんも妖怪では無く神ですね』

 

風見幽香も強い妖怪だけど、数字が入っていないな

 

『別に無理に数字を入れなくても良いんじゃないの?』

 

『悪いがここは拘らせて貰うぞぃ? 良い名前を名乗れば箔が付くというものじゃ』

 

『漢字に執着しすぎにならなくても良いのではないですか?』

 

いや、名前が漢字である以上は苗字も漢字が良いだろう

 

『下の名前の方はどうやって決めたのですか?』

 

かなり昔にどっかの退魔師だか陰陽師だかに見た目で名付けられた

 

『それなら名字も見た目から取ったらどうです?』

 

『成程ね、手っ取り早いかもしれないわ』

 

となると、数字が入っていて見た目に由来した名字だな

 

『いっその事わしと同じ名字はどうじゃ?』

 

そろそろ面倒になってきたし、それでも良い気がしてきた

 

『いやよ』

 

何でだよ

 

『私が紫と同じ八雲を名乗らない以上、あなたと同じ名字にするからよ』

 

赤青には角が無いから一角は嫌って事か

 

本格的に面倒になってきたから、誰かさくっと決めてくれよ

 

『四同っていうのはどうかしら?』

 

四同? その心は?

 

『私と灰刃、阿露にジャン、四人が同一になっているから』

 

『成程のぅ、灰刃の中に封印されている連中の数ともあうな』

 

じゃあそれで良いよ、面倒だし

 

『では、決定ですね』

 

『うむ』

 

『ええ』

 

じゃあ解散

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言う訳で四同って事になった」

 

「何が、と言う訳なんですか」

 

「良いじゃないか。さてにとりの所に行くとするか」

 

翼を広げて飛び上がる

 

「あ、私も行きます!」

 

ナイトバグも飛び上がる

 

「ナイトバグって言いにくいからリグルって呼んでも良いか?」

 

「良いですよ。私もその方が呼ばれ慣れていますから」

 

軽く世間話をしつつ、にとりの住んでいる洞窟を目指し飛んで行く

 

河童の集落に何か変わりはあるかな

 


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