東方増減記   作:例のアレ

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番外編・慧音

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちがこの幻想郷という名の土地に住み始めてもうすぐ5年が経つ

 

思えば長い旅路だったと思う

 

記憶が霞むくらいの昔から、私は妹紅という少女と旅を続けてきた

 

旅の始まりは私にとっては些細な、しかし妹紅にとっては大きな理由からだったと記憶している

 

昔、妹紅を妖怪と勘違いして襲った事がある

 

その当時の妹紅の連れである、名前が…確か……灰刃…だったか

 

正直、顔はよく憶えていないが

 

その灰刃と妹紅を勘違いの詫びとして家に招待したのが始まりだった

 

食事の後、私の身の上話が原因で灰刃と妹紅は口論となり、場を収める為に泊まっていく事を勧めた

 

しかし、次の日の朝に灰刃は姿を消した

 

それを知った妹紅は激しく落ち込んでいた

 

自分の所為で灰刃は姿を消したんだと

 

しばらくは食事も喉を通らない様子だったが、ある日決心したかのように私に尋ねてきた

 

━近くに妖怪は集まる場所はないか?

 

私は尋ね返した

 

━何故、そんな事を訊く?

 

理由は簡単なものだった

 

━灰刃を探す、心当たりが無いから妖怪が集まっている所を片っ端から探していく

 

私は当然、反対した

 

だが、妹紅の決心は固いようで、教えてくれないなら自分で探すと家を出て行ってしまった

 

私は心配になった

 

私が原因の口論で、妹紅が死にでもしたら申し訳がない

 

向こうが勝手にした事だと切り捨てる事が出来れば楽だったかも知れない

 

でも私はそれを出来るほど非情では無かったらしく、結局は荷物を纏めて追いかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

妹紅に追い付いた時、既に妹紅は妖怪の住処に入って戦闘をしていた

 

炎を操り妖怪を牽制していたが、明らかに分が悪かった

 

水の気質でも持っている妖怪だったのか、妹紅の放つ炎は消され、追い詰められていった

 

妹紅に加勢し、なんとか妖怪を撃退できた時は心底安堵した

 

恐らくは妹紅はこれからも無茶を続けるだろう

 

そう思った私は妹紅の旅に同行すると申し出た

 

始めの内は渋っていた妹紅だったが、なんとか説き伏せ納得させた

 

こうして妹紅と私の長い旅が始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の頃は妹紅と各地を旅をしながら修行の真似事をした

 

強くならないと妖怪達から話を聞く事すら出来なかったからだ

 

ある程度まで強くなると、今度は聞き込みに力を注いだ

 

時に人間から、時に妖怪から

 

根気強く聞き込みを続けた

 

偶に妖怪退治をして旅の路銀を稼いだ

 

妖怪からの聞き込みと人間からの聞き込み、更に路銀まで稼げるという一石三鳥の手段だった

 

とある有名な神社に行ってそこに居る神にも話を聞こうと思ったが、流石に会わせてはもらえなかった

 

そうしている内に、何時の間にかこの国の隅々まで探し終えていた

 

ただ一箇所を除いて

 

私たちが幻想郷の話を聞いたのは旅を始めて五百余年ほど経過した頃だった

 

既に妹紅は半ば諦めているようで、惰性で旅を続けているだけの無気力な状態だった

 

私は妹紅に提案した、諦めようと、定住の地を目指そうと

 

妹紅から不老不死の事を聞いていた、私も半獣なので寿命は計り知れない

 

ならば、妖怪たちと人間たちが一緒に暮らしていると言う幻想郷に行ってみよう

 

妹紅は半ば死んだような目でそれを了承してくれた

 

 

 

 

 

 

幻想郷には人里と呼ばれる人間たちの領域があった

 

身体は妖怪に近い私達だったが、心は人間だ

 

だから、人里の長に頼み里に住まわせてもらった

 

初めの内は畑を耕したり、米の収穫を手伝ったりしながらその日の糧(かて)を得ていた

 

妹紅も手伝ってはくれたが、やはり無気力な所は変わらなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷に住み始めてしばらく経ったある日

 

里の中の子供たちと話す機会があった

 

その子たちは外の歴史を何一つ知らないと言った

 

これまでにこの国であった色々な事を知らないと言ったのだ

 

確かに、畑を耕すのに歴史は必要ないだろう

 

食事をするのに学は必要ないだろう

 

しかし、このままでは里は停滞を続けるだけだ

 

聞く話では、妖怪の山にいる河童たちは様々な発明をしていると言う

 

もしかしたら、いずれこの里の人間たちは幻想郷内の妖怪たちに飼われるだけの家畜に成り下がるかも知れない

 

それではいけない、幸い私には長い旅の間で培(つちか)った知識がある

 

私は人里の発展の為に寺子屋を設立する事にした

 

里の子供を集めてあらゆる事を教える、そうすれば里は発展するだろう

 

そう信じて、私は里の長に話を持ちかけに向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寺子屋を設立してから約一年が経過した

 

結果を言えば成功だと思う

 

始めの頃は学をつけるよりも畑を耕す手伝いをしろという考えだった里の者達も、徐々に興味を惹かれて除きに来る事が多くなった

 

そして里の発展に役立つと認めてくれる人が多くなった

 

私は充実していた

 

加えて、妹紅が最近昔のような目に戻ってきた

 

理由は詳しくは知らないが、度々出かけてはぼろぼろになって帰ってくる事が多くなった

 

人間と妖怪を合わせても、かなりの強さを持つようになった妹紅が苦戦するような妖怪でも見つけたのだろうか?

 

不老不死であろうとも心配な事に変わりは無く、だが本人は問題無いとしか言わない

 

無気力よりは良いと、しならくは様子を見る事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寺子屋に通う子たちが増えてきた

 

家の手伝いがある子や通えない理由がある子は仕方ないにしても、これは嬉しい

 

今日も張り切って頑張ろうと思っていた時、変わったお客さんが現れた

 

妖気が出ている所を見ると妖怪なのだろうが、何故か気になる

 

何処と無く見覚えがある顔なのだ

 

幻想郷内の妖怪で顔を知っているのは、幻想郷の管理者を名乗る女性の妖怪と文文。新聞なる瓦版(かわらばん)を無断で置いていく烏天狗くらいの筈だ

 

しかし、現に見覚えのある顔がそこにいる

 

思い出そうと首を捻る

 

向こうも同じなのか、同様に首を捻っている

 

頭の中にある記憶を総ざらいしてみるが、思い出せない

 

意を決して尋ねてみよう、そう思った時、妖怪の隣にいた子供が声を発する

 

「父さん、どうしたの?」

 

親子だろうか?

 

それにしては似ていない

 

髪も白いので妖怪なのだろうが、それにしては妖気の類を感じない

 

「ああ、何でも無い。それより、この子を寺子屋に通わせたいんだけど」

 

何か複雑な事情でもあるのかも知れない

 

あまり聞かない方が良い事もある

 

「分かりました。責任を持ってお預かりします」

 

害は無さそうなので引き受ける事にした

 

恐らくは山に住んでいる妖怪だろうから、後で迎えに来てくれと伝えると妖怪は帰っていった

 

さて、そろそろ時間だ

 

新しい子も来た事だし、早めに紹介を済ませてしまおう


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