東方増減記   作:例のアレ

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寺子屋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時の流れは早いと最初に言ったのは誰なんだろうか?

 

思えば色々な事があった

 

アイツに喰われて妖怪になって。1000年、山でだらだらして

 

旅に出て、色んな村に立ち寄って……そういえば名前も知らない鬼の所に泊めてもらった

 

近くの村で名前を貰ったっけな、あの陰陽師はその後どうしただろう

 

そのすぐ後くらいに紫と始めて会ったんだった

 

思えば、あれが紫との腐れ縁の始まりだったのか

 

平安京に行って輝夜と妹紅に会ったんだったな、2人は今どうしているか

 

生きてはいるだろうから、何時か会えるだろう

 

その後に幽香と会ったな、幻想郷に引き摺り込まれもした

 

妖生、駆け抜けたって感じか?

 

これだけ思い出すのに大分掛かったけど

 

「父さん、何してるの?」

 

そうそう、一番早かったのはさくやに関する事だ

 

「いやな?昔の事を思い出していてな」

 

昔はあんなに小さかったさくやがもう5歳だ

 

「ふぅん。あ、お洗濯するから服脱いで」

 

さくやの手によって着ているものが毟り取られる

 

あっという間にパンツ(自作)だけにされてしまう、因みにトランクス型だ

 

「さくや、俺は父の服を毟り取るような娘に育てた憶えは無いぞ」

 

「父さん、放っておくと何日もお洗濯しないじゃない。偶には洗わないと汚いよ?」

 

そう言われたら反論できない

 

面倒臭がりな所が似なくて良かったと思っておこう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷から鬼の姿が消えて何年になるだろうか?

 

人間に愛想が尽きたとか言ってた気がするけど……聞き流していたのと酔いで良く憶えてない

 

萃香は地上に残るらしいが、勇儀が他の鬼たちと地下に移った

 

とは言っても、何日か置きにスキマを繋げて宴会を開いているので別れたという気がしない

 

地上の妖怪たちが地底都市を認める条件として、妖怪を地底都市に入り込ませない代わりに鬼は旧地獄の怨霊を封じる、という約束があるので鬼は地上に出て来れないのだが、俺の家に誰を招待しようが俺の勝手だ

 

にとりや射命丸もこの件にだけは口出ししない

 

紫も黙認している、問題が起きない限りは平気だろう

 

鬼たちに喧嘩を売られないのも少し寂しい気がする

 

チルノと大ちゃんも偶に宴会に参加している

 

さすがにサイキョーを名乗るチルノでも鬼の酒量には対抗できずにぐでんぐでんになって大ちゃんに抱えられて帰っていく

 

見慣れた風景ではある

 

他には何かあったか……?

 

「父さーん、ご飯出来たよー」

 

「おー、今行くー」

 

さくやに料理の腕前を抜かれたくらいか

 

才能ってのは恐ろしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近のさくやは

 

「父さん、きゅうりはもっとぶつぶつしている方が美味しいんだよ。すぐに適当に選ぶんだから」

 

とか

 

「父さん、お茶碗は水に浸けておいてって何回言ったら良いの?」

 

とか

 

「たまには布団くらい干しておいてよ」

 

とか

 

一体誰に似たんだか

 

……少なくても、俺じゃ無い事だけは確かだな

 

藍か?たまに紫の家に行っては色々と教えてもらってるみたいだし

 

いや、俺みたいになっても困るんだけど

 

しかし、一番困ったのはあの質問だな

 

 

 

 

 

 

 

「父さん、どうして私と父さんは違うの?」

 

ある日、さくやが唐突に尋ねてきた

 

「違う?違うって何が?」

 

若干だが思いつめている感じだ

 

「父さんには翼があるのに私には無いし……角もないし………」

 

遂に来たか

 

いつかは来るだろうと思っていたが………いざ来てみると答えに困るな

 

どうしたものか………

 

本当の事を言ってもいい気がするが、それでショックを受けて塞ぎ込んでしまったらと思うと言うべきか迷う

 

しかし、先延ばしにするのも限度があるだろう

 

けど、それでもしさくやに嫌われたら………

 

でも何時までも言わないでおく事は出来ないだろうし………

 

ああ、一体どうすればいいんだ!!

 

ここは、奥の手を発動しよう

 

「さくやがもう少し大人になったら教えるよ」

 

逃げだろうと何だろうと好きに言えば良いさ

 

「大人になったら?それっていつ?」

 

この質問の正解って何なんだろう

 

「そうだな……さくやが夜、1人で寝られるようになったらかな」

 

「だったら子供で良い!」

 

おおう、嬉しい事言ってくれるじゃないの

 

こんなさくやも何時かは男を連れてきて

 

『この人と結婚します』

 

とか言うのかなぁ

 

………想像したら腹が立ってきた

 

お父さんより弱い男は許しませんよ!!

 

「父さん?」

 

おっと、変な世界に行ってた

 

「ああ、何でも無い。それより最近、人里に寺子屋が出来たらしいな、さくやも通ってみるか?」

 

「良いの!?……でも、お料理とかお洗濯とかしなきゃ………」

 

「さくやが小さい頃、誰が飯を作っておしめを洗ったと思っている?」

 

言うと、さくやの顔が明るくなり、見て分かる程にウキウキしている

 

こうして後日、人里の寺子屋にさくやを連れて行く事になった

 

一応人間の姿で行った方が波風が立たなくて良いだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、人里の寺子屋までやって来た訳なんだが………

 

何だか見覚えのある人と見詰め合っている

 

向こうも同じらしく、2人で首を捻っている

 

横からみたら、さぞ滑稽に見えるだろう光景だ

 

しかし、どうしても思い出せない

 

この特徴的な四角い帽子、絶対に何処かで会っていると思うんだけど

 

「父さん、どうしたの?」

 

さくやも不思議そうに訊いてくる

 

思い出せないものは仕方ない、話を進めよう

 

「ああ、何でも無い。それより、この子を寺子屋に通わせたいんだけど」

 

見覚えのある人も諦めたらしく、進める事にしたらしい

 

「分かりました。責任を持ってお預かりします」

 

その後も少し話をして、早速今日からとさくやを連れて建物の中に入っていった

 

後で迎えに来れば良いとの事なので、一旦家に帰る事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食の仕込みを一段落させて、縁側でのんびりお茶を啜る

 

遠くには最近、恒例になった火柱が見える

 

さくやがいないと家の中が静かに感じるから不思議だ

 

……しっかり勉強しているだろうか

 

イジメられてないよな?

 

こっそり様子を見てみようか?

 

いやいや、そんなみっともない事はしない方が良い

 

けど、気になる

 

大丈夫だ、さくやを信じよう

 

そうだ、さくやの初授業だし、射命丸にカメラを借りて写真を撮った方が良いかも知れない

 

ダメだ、授業参観でもないのに教室に乗り込むなんて真似出来ない

 

俺も大昔に身を以って味わった筈だ

 

ああ、悶々としてきた

 

「どうかしたんですか?愉快な事になってますけど」

 

気になりすぎて縁側をゴロゴロと転がっていた俺に、何時の間にか来ていた射命丸が話しかけてきた

 

「実はさくやがな、寺子屋に通うようになったんだ。それがどうにも気になってな」

 

すると、射命丸が成程と頷いた

 

「それなら私が取材ついでに見てきますよ。もちろん写真も撮ってきます」

 

「射命丸、長い付き合いの中で初めてお前が頼もしく見えた」

 

ホントに、まるで輝いているかのようだ

 

「普段から頼りにしても良いんですよ?」

 

「それに関しては………スマン」

 

「何で謝るんですか!?」

 

しばらくは射命丸とじゃれあっていたが、早く行かないと授業が終わる

 

さっさと行けと蹴り出してやる

 

空で「何するんですかー!?」とか言っていたが、すぐに飛び去って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

射命丸が帰って来ない

 

もうすぐさくやを迎えに行く時間だ

 

仕方ない、これ以上は待っていても無駄だと判断して人間の姿になって人里近くにスキマを繋げる

 

里の中を横切って寺子屋に向かう

 

「灰刃さんじゃない、今日はさくやちゃんは一緒じゃないの?」

 

歩いていると、八百屋のお姉さんに声を掛けられる

 

「ああ、さくやは今、寺子屋に行っていてな。その迎えに来た所だよ」

 

「へぇ、さくやちゃんもそんな歳になるのねぇ。私も老ける訳ねぇ」

 

「何言ってるのさ、まだまだ若いじゃないか」

 

「そう言ってくれるのは灰刃さんだけよ。うちの亭主なんて………」

 

おっと、愚痴モードに突入した

 

こうなると長いんだよな、この人

 

幸い時間にはまだ余裕があるし、日頃から世話になってるんだ

 

少しくらい付き合おう

 

 

 

 

 

 

「………なのよぉ、ひどいと思わない?」

 

「確かにそれはひどいな」

 

女性は立ち話でこんなに話せるものなんだな

 

かれこれ、20分程経っている

 

「あら、少し話し過ぎちゃったわね。そろそろさくやちゃんの所に行ってあげて」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

どうやら満足したらしいので、お言葉に甘えて寺子屋に向かう

 

若干すっきりとした顔をしたお姉さんに見送られて歩き出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、父さん!」

 

寺子屋の前で待っていたさくやが俺の姿を見つけ駆け寄って来た

 

「どうだった、楽しかったか?」

 

豪快に飛び付いてきたさくやを受け止める

 

「うん!色んな事教えてもらったよ!」

 

どうやら随分と楽しかったらしい

 

「途中で射命丸さんが来たり私と同じ髪の色をしたお姉ちゃんと遊んでもらったりしたよ!」

 

射命丸、ちゃんと来ていたんだな

 

なら何故帰って来なかったんだ?

 

「そうか、なら遊んでくれた人には今度お礼を言わないとな」

 

まあ射命丸の事だ

 

別の何かを取材しに行ったんだろう

 

「うん!さっきまで居たんだけどな」

 

八百屋のお姉さんと話していた所為ですれ違ったようだ

 

いずれ会えるだろうし、気にする程でも無いか

 

「さて、帰るか」

 

「うん」

 

家に帰るまでの間に今日あった事を嬉しそうに話すさくや

 

そのさくやに返事をしながら里の外れで妖怪の姿に戻り、さくやを抱きかかえ空を飛ぶ

 

明日からもさくやを送り迎えしなければならない事にちょっと面倒だと思いつつ、こんなのも良いかもしれないとも思っていた

 


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