東方増減記   作:例のアレ

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帰郷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから丁度1年

 

旅をしながらの子育ては俺にも子供にも負担がでかい

 

ってな訳で、久しぶりに幻想郷の自分の家に戻ってきた

 

もっと早く気付けば良かった

 

にとりか誰かが管理をしてくれていたのか、家の中は思ったより綺麗だった

 

それと何故か、幻想郷中に花が咲き乱れていた

 

俺の帰還を察した誰かが気を利かせてくれた……んな訳無いか

 

大方、幽香の仕業だろう

 

放っておこう

 

「呼んだかしら?」

 

「全然呼んで無い、だから帰れ」

 

どこから湧いて出るんだ?

 

「あなたが帰って来たって烏天狗が言いふらしてるから再戦の申し込みに来たのに、ひどい言い草じゃない」

 

射命丸の奴、何処から嗅ぎ付けたか知らないけど、後で後悔させてやる

 

「さ、行きましょう?」

 

「悪いが、今はそれどころじゃないから、また今度な」

 

いくらなんでも子供を背負いながら幽香と戦うなんて器用な真似、出来るけどしたくない

 

情操教育に悪い事この上ない

 

「………理由を訊いても良いかしら?」

 

あからさまに不機嫌になった幽香が睨んでくる

 

「理由も何も、この子が見えないのか?子供を抱えて戦う何てシュールな事したくないぞ?」

 

幽香は今、初めて気付いたとでも言わんばかりの顔で子供を見る

 

その後、俺の顔と子供の顔を何度か見ると、何かを言おうと口を開くが

 

「灰刃、戻って来ているの?」

 

スキマが開いて紫が顔を出す

 

だが、俺を見た後に子供の姿を見て見事に硬直してしまう

 

今の内にどこかに捨ててこようか

 

その方が平和な気がする

 

決心して紫の足元にスキマを開こうとした瞬間、紫が再起動した

 

「灰刃?その子は何かしら?怒らないから言ってみなさい?」

 

スキマから乗り出し、外に出て来る

 

紫に怒られる筋合いが分からないが、隣の幽香も説明を欲しがっている様子だ

 

面倒だが仕方ない

 

「俺の娘だ、以上」

 

だが、やはり面倒なものは面倒だ

 

ほんの少し省略してもいいだろう

 

しかし、今度は紫だけでなく幽香も硬直してしまう

 

手を顔の前で振ってみても全く反応が無い

 

それなら好都合だ

 

2人の足元にスキマを開いて適当な場所に繋げる

 

直立不動のまま、スキマの中に落ちていく紫と幽香

 

これで静かになった

 

居間に座布団を敷いて座る

 

「やっと落ち着いたな」

 

さくやに話しかけるが、さくやは眠っている

 

あの騒ぎの中で眠り続けるとは………将来が楽しみだ

 

さて、射命丸が騒いでいるって事は連中が来るのは確定事項か

 

それなら人里に食料の買出しに行っておいた方が良いな

 

落ち着いたばかりなのに忙しいな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里に着いた

 

昔よりもでかくなってるな

 

食料品を売っている店は何処だったっけ?

 

思い出そうとしながら歩き回る

 

しばらく歩くと目当ての店を見つけた

 

献立は……大勢で食べる事になるだろうから鍋が良いな

 

酔っ払いには質より量だろう

 

「お姉さん、鍋に使う野菜を一通りお願い」

 

店頭に立っていたお姉さんに声を掛ける

 

「はいは~い、ってあなた妖怪?」

 

バレるの早くない?

 

ちゃんと人間の姿で来たのに

 

「そうだけど、何で分かったの?」

 

「里の中で見慣れない人はいたら大抵は妖怪だよ」

 

あぁ、成程ね納得だ

 

「それに、尻尾が9本ある狐の妖怪がちょくちょく来るからね、何となく雰囲気でわかっちゃうの」

 

藍か、紫の世話で忙しい訳だな

 

「人里に堂々と来て、買い物していくって事は人間を襲う気はないんでしょ?鍋に使う野菜だったね?今、用意するから待ってて」

 

お姉さんは素早い動きで野菜を集めると持参した風呂敷に包んでくれた

 

代金を払い風呂敷を受け取る

 

「その子の為に桃、おまけしておいたから。またどうぞー!」

 

お姉さんに見送られながら次の店に向かう

 

後は酒と肉類だな

 

肉ってどこかで売ってるのか?猟師に頼んで分けてもらった方が早そうだな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰るとさくやが泣き出した

 

腹でも減ったのだろう

 

さっきおまけしてもらった桃をすりつぶしてからさくやに食べさせる

 

既に離乳食が食べられる歳になったのは助かる

 

ちょっと前までは…………やめよう、思い出したく無い

 

暫く一心不乱に桃を食べていたさくやだが、満腹になったのか寝てしまった

 

あー俺も眠くなりそうだ

 

 

ガラガラガラッ

 

 

「おじゃましますよー!」

 

この声は……射命丸か

 

「いやー、灰刃さん。お久しぶりですねー」

 

能天気に入って来た射命丸の足元にスキマを開き、天井付近に出口を開く

 

すると、あら不思議。逆さまになった射命丸が落ちてくる

 

ぷぎゅ!と声をあげて床に頭を強打する

 

「いたた、何するんですか!?」

 

「俺が帰って来た事をお前が言いふらした所為でスキマ妖怪と花妖怪が家に押し掛けて来た。これはその礼だ」

 

少し怒気を含んだ俺の物言いに、しかし、射命丸はあさっての方向を向きながら口笛を吹いている

 

かと思うと、俺の腕の中で寝ているさくやの姿を見つけると、何処に仕舞ってあったのかカメラを取り出し構える

 

「灰刃さん!撮っても良いですか!!」

 

「駄目だ。静かにしろ、さくやが起きる」

 

今にもシャッターを押しそうな射命丸を睨みつける事で制止する

 

「う~、仕方ないですねぇ……」

 

渋々とカメラを仕舞う。かなり惜しんでいるのが丸分かりだ

 

「それで、その子は誰ですか?見たところ人間みたいですけど」

 

「ちょっと事情があってな。俺が引き取って育ててる」

 

言った瞬間、再びカメラを取り出す

 

しかし、取り出した右手を左手で押さえている

 

今、射命丸の中でそれなりの葛藤があるらしいが、そっとしておこう

 

「おじゃましまーす!」

 

「じゃまするよ!」

 

射命丸を眺めているとにとりと勇儀が来たようだ

 

そういえば、料理の準備なんか全然していない事を思い出して土鍋を引っ張り出す為に台所に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、その亡くなった人に頼まれてその子を引き取ったんだ。お兄さんも大分お人好しだねぇ」

 

鍋の準備を整え、酒盛りを開始した辺りで3人に事情を説明した

 

「中々に可愛い顔してるじゃないかい」

 

勇儀の腕の中ですやすやと眠るさくやを眺めている

 

因みに、射命丸は事情を聞くと床に転がり悶えだした

 

見ていて面白いので止めない

 

よほど新聞沙汰にしたいのかコイツは

 

とりあえず、さくやは手の掛からない良い子なので部屋の隅で寝かせて3人に土産話を聞かせてやる

 

吸血鬼一家の事や神社に祀られた事

 

異国の町並みや暮らし、洋食の腕が上がった事など

 

酒を飲んで滑らかになった舌で夜遅くまで話し込んだ


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