東方増減記   作:例のアレ

26 / 40
妖精メイドと旅立ちと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レミリア10歳、フラン5歳の夏

 

美鈴は何だかんだで屋敷に居ついてしまった

 

家賃でも取ってやろうかと思っていたが

 

「お金は無いので働きます」

 

と、何故か自身に満ちた表情で言ってきた

 

折角なので、薪割りや水汲みといった力仕事をやってもらっている

 

料理が出来るようには見えないし………人一倍食べるクセにな

 

もしかしたら、旅をしていたなら少しくらい出来るのかも知れないが期待はしない。猪の丸焼きをかじっているイメージしか沸かない

 

吸血鬼一家も血を飲むついでに普通の物も食べるので、その用意もしなければならない

 

俺は使用人でも料理人でもないってのに

 

早いところ信用できる人間でも妖怪でも雇わないと、俺が過労で死ぬ

 

どこかに都合の良い人材は居ないものか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の献立を考えつつ、街まで買い物に来ている

 

ここ数年で洋食の腕前が急成長している……不本意ながら

 

いっその事、その辺から料理、洗濯が出来る奴を攫ってこようか

 

割と本気で物騒な事を考え始めていた時、視界の隅に小さな影がちらついた

 

何だ?子供か?こんな時間にあんな場所に?

 

一度気になってしまうと、確かめたくなるのは何故だろう

 

何となく、影が消えていった狭い路地に足を踏み入れてみる

 

しかし、周りを見回しても何も無い

 

おかしいな、勘違いだったか?

 

引き返そうとした時、足元で影の正体を見付けた

 

「何だ、妖精か」

 

分かってみれば興味は失せる

 

今度こそ引き返そうとした俺の頭の中にある考えが浮かぶ

 

こいつら仕込めばある程度は使えるかもしれない

 

さっきから足元で人間に見付かったと騒ぎながらうろちょろしている妖精を捕まえる

 

「お前、もっと安全な所で働きたくないか?」

 

5,6歳の人間の子供くらいのサイズがある妖精の両脇に手を入れて持ち上げる

 

妖精は言葉の意味が分からないのか、首を傾(かし)げてキョトンとしていた

 

「俺の手伝いをして欲しいんだけど」

 

……これでも分からないか

 

「詰まりな?料理とか洗濯とかの手伝いだ、わかるか?」

 

ようやく言葉が通じたらしい

 

笑いながら何度も頷く妖精を待たせて買い物を済ますと屋敷に連れて行く事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精を連れてきてから1ヶ月

 

 

「お、出来たか?」

 

妖精がつくって持ってきたスープを一口飲む

 

中々良い出来だ、もう教える事は無さそうだな

 

教え始めた時は「意味あるのか?」何て思ったけど、根気良く続ければ成果はでるものだ

 

掃除と洗濯は身体が小さい為に時間が掛かるが完璧だ

 

「これなら大丈夫だ。よく頑張ったな」

 

褒めてやると、両手を腰に当て胸を張っている

 

「えっへん」何て声が聞こえてきそうだ

 

こうやって、すぐに調子に乗るのが難点だが………

 

とにかく、これで俺にも自由な時間ができる

 

新しい趣味でも見つけようか?………って、違う!

 

いい加減に旅を再開しないと、何を馴染んでるんだ、俺は!

 

危うく、主夫として屋敷に永住する所だった

 

折を見て旅立つ事を告げよう

 

それまでは、レミリアとフランの面倒を見てあげないとな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂糖とバターを混ぜて?卵と薄力粉?こんなので本当に出来るのか?

 

とりあえずやってみるか

 

「お兄様?何をやってるの?」

 

「ん?レミリアか。クッキーをつくろうと思ってな」

 

「クッキー!ホントに!?」

 

「フラン、女の子なんだから暴れない」

 

料理は出来るが、お菓子作りは初めてだ

 

若干、慎重な手つきで材料を混ぜ合わせていく

 

一つの塊になったそれを、温度を下げて凍らせる

 

凍った塊を均等な大きさに切りオーブンの中に入れる

 

「兄様!どのくらいで焼けるの!?」

 

「20分くらいらしいな」

 

待っている間に紅茶の準備もしておこう………と、思ったら妖精が先にしておいてくれたらしい

 

焼きあがればお茶会の準備は万全だな

 

 

 

 

 

 

 

出来上がったクッキーと紅茶のセッティングをしたテーブルに吸血鬼一家と美鈴、何時の間にか増えていた妖精3人が座る

 

初めに連れてきた妖精が呼んだらしい

 

今では仕事を分担してこなしている

 

「兄様!美味しいよ!」

 

「フラン、お行儀が悪いわよ。もっとお淑やかになさい」

 

仲の良い姉妹だ

 

これなら、安心して旅立てる

 

「それで灰刃、話と言うのは?」

 

最近、血液を取りに行くくらいしか働かない半ニートのラドゥが切り出す

 

「ああ、ここも落ち着いてきたし、そろそろ旅に出ようかと思ってな」

 

その言葉にいち早く反応したのが、クッキーに夢中になっていたフランだ

 

「兄様行っちゃうの!?」

 

「フラン、口に物を入れたまま喋るなって何回言えば良いんだ?」

 

他の面々もそれぞれの反応を見せている

 

唯一落ち着いているのはローレンさんだ

 

レミリアは硬直しているし、美鈴は口から紅茶がこぼれている

 

「美鈴、汚い」

 

指摘してやると、服の袖で拭いている

 

後で自分で洗濯させよう

 

ラドゥは驚いて目を見開き口をパクパクさせている

 

「灰刃!どういう事なんだ!お前はレミリアかフランの婿として残ってくれるのではなかったのか!?」

 

「誰がそんな事言った!」

 

勝手な事ばかり言いやがって

 

「あなた、灰刃さんには灰刃さんの事情があるのですよ?あまり我侭を言うものじゃありません」

 

流石、ローレンさんは大人だな

 

一言でラドゥを黙らせた

 

「……分かった。それで、これからどこに行くんだ?」

 

「そろそろ故郷に帰ろうかと思ってる」

 

日本の風景が懐かしくなってきたし、丁度いい

 

「灰刃さんがいなくなったらご飯はどうするんですか!?」

 

「美鈴、自分で用意するって発想は無いのか?……それに妖精たちがいるだろ?」

 

3度の飯より飯が好きって言葉は美鈴の為にあるような言葉だな

 

さっきから何も言わないレミリアだが、よく見れば涙眼になっている

 

「どうした、レミリア?」

 

「何でもないわ。私は姉なのだから、笑顔で見送ってみせるわ」

 

「レミリア、別に今生の別れって訳じゃないんだからな?昔、俺の友人にも言われたが寿命なんて有って無い様なものだ。縁があればまた会える」

 

さて、そろそろお茶会もお開きだ

 

旅立つ準備をしなければな

 

「好きな時に遊びに来てくれ。また会おう、我らが恩人よ」

 

「ラドゥ、今更かっこつけても遅いぞ?」

 

どうせなら最初から最後までかっこつけろって話だ

 

あら、落ち込んじゃったよ

 

「そうだ、美鈴、この子たちを守ってやってくれよ?」

 

「ふぇ?は、はい!任せてください!」

 

これで思い残す事は無くなった………死ぬみたいだな

 

そして次の日、皆が見送る中、スキマを開いてこの国を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思ったがやめた

 

スキマに入る瞬間、不穏な気配を感じたのだ

 

何時もなら気にせずに無視をしていただろう

 

しかし、この時はいつもとは違う胸騒ぎを感じた

 

少し不安になった俺は、その気配の近くにスキマを開き覗き見てみた

 

そこには、10年前に見た吸血鬼一家を処刑しようとしていた神父らしき男と武装した騎士らしき者たちが少なく見積もっても数百人

 

まっすぐに屋敷を目指して歩いていた

 

………懲りないな

 

見過ごす訳にはいかない

 

気配を隠すのを止め、神父らしき男の前に姿を現す

 

「こんな所で何をやっているんだ?」

 

急に現れた俺を見た神父が慌てる

 

「き、貴様!あの時の悪魔!」

 

「俺は悪魔じゃなくて妖怪だ」

 

悪魔と妖怪に区別もつかないなんてな

 

正直、ほっといても良かったかも知れない

 

「妖怪だか何だか知らぬが、貴様がここにいるという事は邪悪な吸血鬼もこの近くにいると言う事だ。情報は正しかった訳だな」

 

成程、まだ諦めて無かったようだな

 

「それで?まさかここから先に進めるなんて思ってないよな?」

 

妖力を開放しつつ、威圧感を増す

 

「この人数を前にして大口を叩けるのも今の内だ!お前らやってしまえ!!」

 

その怒鳴り声を合図に一斉に襲い掛かってくる騎士らしき連中

 

突かれたランスを掴み、騎士ごと振り回し薙ぎ倒す

 

振り下ろされた剣を避け、相手の脇腹に蹴りを放つ

 

放たれた矢を受け取り、投げ返し、放った人間の頭に突き刺す

 

「必殺技試作8号!目からビーム!!」

 

これも前が見えない!今まで作った必殺技は全部、前が見えなくなるものばかりだ!

 

くそぅ、何時か必ず前が見える必殺技を完成させてみせるぜ

 

そんなふざけた事をしていたら、何時の間にか騎士らしき人間は1人残らず倒れていた

 

何だ、呆気ない

 

 

ドスッ!

 

 

調子に乗ってたのがいけなかった

 

若干の衝撃が身体を揺らす

 

下を見てみると、背中側から心臓を剣で貫かれていた

 

「ふ、ふはは、オンミョウジとやらが特別な祝福をした純銀の剣だ!これなら例え化け物でもひとたまりも無いだろう!」

 

不気味に笑う神父らしき男

 

………しまった……油断した………

 

意識が……薄れていく………

 

「後悔……する……な…よ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、正体不明の鳴き声を聞いたとの証言が近くの街で数多く寄せられた

 

そして同時に、ある国で吸血鬼を追って国を出た神父の消息が分からなくなったとの報告も寄せられた

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。