東方増減記   作:例のアレ

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ちゅうごく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄様、いますか?」

 

部屋の外でレミリアが呼んでいる

 

「どうした?レミリア」

 

ドアを開け、レミリアを部屋の中に招きながら訊く

 

「今日は絵本を読んでくれる約束でしてよ」

 

小さな身体で精一杯に胸を張り約束を主張してくる

 

「ああ、そうだったな。分かった、おいで」

 

言い終わる前に既に入っているけども

 

とは言っても、何時もの事だしな

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼一家を助けてから既に6年が経過した、間違いなく6年だ

 

自信があるのはレミリアが6歳になったと言っていたからだ

 

自分では全く数えてなかったけど

 

とりあえず平和な6年だったと思う

 

平和ではあったが、決して平穏ではなかったとも思う

 

まずは引越しをした

 

何時までも盗賊の小屋に住んでいる訳にもいかず、早々の引き払い4つ隣の国に移住した

 

移動中は吸血鬼一家が日の光に弱いとの事でスキマの中に放り込んだ

 

血液(しょくりょう)は自分達で確保してもらう為に、夜な夜なラドゥがどこかに飛び去っていたのも良い思い出だ

 

移住後は適当な貴族から適当な屋敷付きの土地を買い取り住み始めた

 

何故かラドゥは屋敷を真っ赤に染めていたが……吸血鬼の感覚は分からない

 

引越しが済んで、本格的に生活を始めた

 

その時点で旅を再開しようと思ったが、吸血鬼一家に引き止められ、仕方なく真っ赤な館に住み込む事になった

 

大きな事件無かったが、レミリアが初めて喋った言葉が『かいは』だった所為でラドゥに恨まれたくらいだ。ローレンさんはにこにこと笑っていたが

 

大体これで2年分だ

 

3,4年目は特筆する事も無く、平和だった

 

5年目になると吸血鬼夫婦に2人目の子供が生まれて少し賑やかになった

 

そこで、6年間で最大と言っても過言ではない事件が起きた

 

2人目に子供、フランドール・スカーレット

 

その子が少々、問題を抱えており、時に正気が保てないらしい

 

仕方なく夫婦はフランを地下室に幽閉する事にした

 

俺は当然、それに異議を唱え、どうにかすると約束して一緒に地下室に入った

 

それから1年間、彼女の中の狂気を少しずつ少しずつ減らし、下げていった

 

一気に下げると人格が崩壊する危険性があったからだ

 

その甲斐あってか、正気を保つのは問題無くなった

 

今では、家族と一緒に暮らしている

 

まぁ、フランも最初に喋った言葉が『かいは』なので、またもやラドゥに恨まれる事になった。そして、ローレンさんは相変わらずにこにこと笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7年目の冬

 

外の出て伸びをする

 

1年間、地下に居たので身体の節々がダルいと言うか痛いと言うか

 

とりあえず、これで後顧の憂い無く旅立つ準備が出来た訳だ

 

しかし、俺の経験から言わせてもらうと、このまま素直に行かせてもらえるとも思わない

 

俺の感が早く屋敷の中に戻れと警告を発してくる

 

特に逆らう理由も無いので、屋敷の中に戻ろうと歩き始める

 

しかし

 

「…ぅ……ぅぅ………」

 

後ろからの呻き声を聞き逃す程、衰えてはいないらしい

 

ため息を吐きつつ声の発信源を探す

 

見殺しにしても良かったが様な気もするが……

 

「おい、あんた、大丈夫か?」

 

赤い髪に緑の帽子、緑のチャイナ服に白いズボン

 

中国人か?何でこんな所に?

 

確かに、この国と地面は繋がってるけども、ここにチャイナ服は不自然過ぎる気がする

 

何かに追われたか、何かから逃げてきたか

 

もしくは全く違う理由か

 

後で本人から訊いて見るとして、今はこの行き倒れを運んでやろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?何であんな所に倒れていたんだ?」

 

あれから数時間

 

客間のベッドで目を覚ました女性に尋ねる

 

因みに俺は人間の姿だ

 

女性が妖怪なのは身体から出ている妖気で分かるが、こちらが人間だと思わせておけば油断して理由を話すかもしれない

 

「え~と………笑わないでくださいよ?修行の為に放浪していたら何時の間にか路銀が尽きて、食料を探していたんですけど、余りの空腹に耐えられずに

倒れてしまったんです。なので、何か食べ物ありませんか?」

 

笑いながら間抜けな告白をしてくる

 

何と言うか……警戒する必要なかったな

 

「そうか…大変だったな。まぁ良い、今食事の用意をしてやるから待ってろ」

 

仕方ない、憐れな行き倒れに食事を提供してやろう

 

 

 

 

 

そんなこんなで、彼女にお粥をつくってあげた

 

消化に良い食べ物=お粥ってのは安易な考えなんだろうけど、他に知らないのでしょうがない

 

女性の名前は紅(ほん)美鈴(めいりん)と言うらしい

 

この国から遥か南東にある国の出身だと言っていた

 

多分、中国なんて言っても分からないと判断されたんだろう

 

「とりあえず、回復するまではこの部屋を使っても良いからな」

 

吸血鬼一家に、って言うかラドゥに文句は言わせない

 

何せこの屋敷は俺が買った俺の屋敷だからな

 

吸血鬼一家は居候の筈だ

 

「でも………」

 

「何だ?歯切れが悪いな。何か都合があるなら言えよ?」

 

手元の布団を握り締めながら何かを迷っている様子だ

 

しばらくそうしていたが、決心したかの様にこちらを見上げると

 

「すいません、私は実は妖怪なんです。だから、貴方の好意に甘える訳にはいかないんです」

 

妖怪だと隠していた事を打ち明けてくる

 

そういえば人間の姿のままだった

 

「なら問題無いな。この屋敷の中には人間は1人も居ない」

 

隠していた翼と角を出して見せてやる

 

「妖怪……だったんですか?じゃあ、今の私の決心は………」

 

「無駄以外の何物でも無いな」

 

「そんなの有りですか……」

 

落ち込んじゃった

 

………ほっとこう

 

暫くすれば再起動するだろう

 

とりあえず、ラドゥに事情を説明してこないとな

 

ラドゥも妖怪の血を飲もうとする程、飢えてないと思うし大丈夫だろう

 


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