東方増減記   作:例のアレ

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ハクタクと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、私はまだ弱いな」

 

妹紅を抱えたまま山を越えて村の近くまで来た

 

妹紅はついさっき目を覚ましたばかりだ

 

あっさり気絶したのが情けないらしい

 

「妹紅ならすぐに強くなれるさ。余り焦らないほうが良い」

 

これは間違いない。妹紅には才能があるらしいからな

 

「気休めでも嬉しいよ、ありがとう」

 

「別に気休めでもお世辞でもないさ」

 

「でも、まだ弱い。術だって火を出す程度だし」

 

そう言うと妹紅は掌に野球の球くらいの大きさの火を出す

 

「もっと修行してもっと強くならないと、灰刃に追いつけないな」

 

追いつかれても困るけど

 

ドドドドドドドドドド!!

 

ん?何だ、この音?

 

地響きか?

 

いや、何かが物凄い勢いで走ってきてる

 

人・・・っぽいな、急ぎの用事でもあるのか?

 

それにしたって地面が揺れる程の速度をださなくてもいいだろうに

 

・・・・・あれ?何かこっちに向かってきてるな

 

「そこの妖怪!その人からはなれろ!!」

 

ええ!俺ちゃんと人間の姿になってるよな?

 

何故バレた!

 

あっという間にすぐ近くまで走ってきた女性は青いワンピースの様な服に四角い赤いリボンが付いた帽子を被っている

 

その女性は俺に背を向けると妹紅と対峙した

 

って、あれ?何で妹紅の方を向いてるの?

 

もしもーし、妖怪はこっちですよー

 

「こんな明るい内から人を襲うなんて・・・・恥を知れ!」

 

あー、妹紅が手から火を出してたから勘違いしてるんだ

 

「そこの女の人、そいつは「私が来たからにはもう安心だ、さがっていろ」いや、だからそいつは「妖怪め、おとなしく住処に帰るなら良し、さもなければ退治する」ねぇ、聞いて」

 

聞く耳持たないとはこの事か

 

「私は妖怪じゃない、人間だ」

 

「そんなに強い妖力を出している人間が何処に居る!嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐け!」

 

妖力を感じ取れる種類の人か、ますます誤解が深まっていくなぁ

 

よく見れば霊力も放っているし、このままいけば妹紅が退治されてしまう

 

ここは俺も妖力を放って注意をこっちに向けるか

 

「!・・・貴様も妖怪だったのか!成程、まんまと罠にはまったと言う訳か・・・良いだろう、まとめて相手になってやる!」

 

「とりあえず落ち着いてくれ、俺は確かに妖怪だけど妹紅は正真正銘の人間なんだよ」

 

「この期に及んでまだそんな事を言うか。人間が妖力を持っている筈が無い!」

 

あー面倒臭くなってきた

 

「それには事情があってね?」

 

「灰刃、そんなのに何言っても無駄だ。一度痛い目に遭えばおとなしくなるだろ」

 

いつから妹紅はそんなに好戦的になっちゃったんだ

 

「面白い、やってみろ」

 

売り言葉に買い言葉、2人共やる気満々だね

 

もう良いや、ほっとこう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずずぅーーーー

 

「ふぅお茶が美味い」

 

向こうの方で妹紅と女性が戦っているのを見ながらお茶を飲む

 

霊力と妖力がぶつかるのって派手だねぇ

 

最近、能力の応用で温度を上げたり下げたり出来る様になった

 

なので、お湯を沸かしてお茶をいれたのだが・・・何時までやってるんだろう

 

いい加減飽きてきた

 

そろそろ止めるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまなかった!」

 

力任せに女性を拘束して説得すること1時間

 

漸く妹紅が人間で俺が人を襲わない妖怪だって事を分かってもらえた

 

「いえ、わかってもらえればいいんですよ」

 

「いや、それでは私の気がすまない。せめて、食事くらい奢らせてくれ。と言っても私の家でだけどな」

 

食事か、そう言えば腹が減ったな

 

山を越える前に少し食った程度だからなぁ

 

妖怪にも襲われたし

 

「妹紅、どうする?」

 

「腹が減った、私は行きたいな」

 

「了解、ならお邪魔しようか」

 

「そうか、良かった。案内する」

 

すると女性は先導して歩き出した

 

「そういえば、まだ名前を言ってなかったな。私は上白沢慧音だ、よろしくな」

 

「俺は灰刃、妖怪だ」

 

「藤原妹紅」

 

簡単な自己紹介を済ますとなんとなく見覚えのある道を歩いていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが私の家だ」

 

どう見ても洞窟です

 

見覚えがある筈だよ

 

ここって何年か前に俺が鬼からもらった鬼の住処だ

 

「慧音さん、この洞窟って・・・」

 

「・・・ああ、ちょっと事情があってね・・・私は村には住めないんだ」

 

少し悲しそうな表情を見せる慧音さん

 

でも訊きたいのはそう言う事じゃなくて

 

「いや、この洞窟の前って大きな岩がおいてあったとおもうんですけど」

 

塞いでいた筈の岩は今は横に転がっている

 

「よく知ってるな、村を出た時に偶然に隙間を見つけてな。苦労して岩をどかしてみたら洞窟を見つけたって訳だ」

 

「?・・灰刃、何で知ってるんだ?」

 

妹紅が不思議そうに訊いてくるが

 

「永く生きてればいろんな事を知ってるもんだよ」

 

はぐらかしておこう。別にこの住処に未練は無い、と言うより存在も忘れていたしね

 

妖怪の特徴なのか俺が暢気なのか、あまり執着しなくなった

 

「・・・なら、そういう事にしておく」

 

納得してないって顔に書いてあるよ

 

「灰刃さんは何歳なんだ?」

 

おおう!慧音さん、それ訊きますか!?

 

妹紅も興味津々な表情でこっちをみてますよ!?

 

正直に言うと忘れました!

 

「実はわす「忘れたは言わせないぞ?」なんで?」

 

正確に思い出せと?

 

「妖怪は生きた分だけ妖力が上がるって聞いた。自分の正確な年齢は忘れても大体は覚えている筈だ」

 

そんな事言われても数えるのが面倒臭くなったんだもの!

 

こうなったら、思い出そう

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

「大体・・・・・1500年くらい?」

 

確か、多分それくらいだったような気がしないでもない

 

「1500年!?大妖怪じゃないか!?」

 

ああ、そう言われて見れば

 

俺って大妖怪になってたんだな

 

「道理で馬鹿でかい妖力を持ってる筈だ」

 

妹紅、人の事を馬鹿って言う娘に育てた覚えはありませんよ

 

「けど、何で霊力も持ってるんだ?」

 

「それは秘密」

 

「何だそりゃ?」

 

別に言っても良いんだけど、良い男には秘密が付き物だぜ?

 

はい、すいません。調子にのりました

 

「まぁ良い、人は襲わないんだろう?それで良いじゃないか」

 

慧音さん、良い人すぎるな

 

「さぁ、食事の準備をしてくる。少し待っていてくれ」

 

おとなしく待っていよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、慧音さんはどうしてこんな所に住んでいるんだ?」

 

食事の後で気になった事を訊いてみた

 

「お前な、あまり無神経な事を訊くんじゃない」

 

「いや、良いんだ。私は半獣なんだ」

 

半獣と言うと確か半分獣の人間だったか

 

満月を見たりお酒を飲んだり怒ったり水を被ると人間と獣が混じった姿に変わるとか

 

「へぇ、珍しいな。何の半獣なんだ?」

 

妹紅、お前もしっかり興味があるんじゃないか

 

「ハクタクだ」

 

ハクタクっていうと、確か王者の下に現れて予言をするとか何とか

 

「それは生まれつきなのか?」

 

「いや、後天的なものだ。以前村が妖怪に襲われてな、その時に私が元々持っていた能力で自身を半獣にした」

 

半獣になる能力?想像も出来ないな

 

「歴史を食べる程度の能力といってな。自分の人間だという歴史を消してハクタクになったんだ」

 

「それがどうしてこんな所に住むって事になるんだ?」

 

「村を襲った妖怪を追い返す事は出来たんだが・・・村人たちに怖がられてな」

 

成程、人は自分たちと違う物を極端に恐れるからな。無理も無いが

 

おや?妹紅が震えてる

 

「何だ、その村の連中は!自分を救ってくれた奴を怖がるだと!ふざけるな!」

 

妹紅も同じ様な感じで家を追い出された口だからなぁ。怒るのも無理はないか

 

「落ち着け妹紅。ここでお前が怒っても意味は無いだろ?」

 

「けど灰刃!お前は頭にこないのか!?」

 

「俺も理不尽だとは思うけど、人間なんてそんなものだ。一々怒ってたら身がもたない」

 

「灰刃は妖怪だから、人間の気持ちなんか分からないんだ!!」

 

妖怪だから・・・か

 

一応、俺も元は人間なんだけどなぁ

 

長生きしてる内に変わったのかな?

 

「あ・・・すまない・・・」

 

黙っているのを勘違いしたのか妹紅が謝ってくる

 

「いや・・・」

 

何だか気まずい空気になっちゃったな

 

「そ、そうだ!2人共、よければ今日は泊まっていってくれ!」

 

重い空気に耐えられなかったのか、慧音さん明るく言った

 

「あ、ああ。良いだろ灰刃?」

 

「うん、お言葉に甘えよう」

 

「そうか、良かった!なら、部屋に案内するよ」

 

こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慧音さんに案内された部屋に布団を敷いてもらい寝ようとした

 

妹紅は慧音さんと同じ部屋で寝るそうだ

 

いざ、寝ようとした瞬間

 

地面が無くなって自由落下を始める俺の体

 

「な、なんじゃこりゃ~~~~~!!」

 

そして、後には静寂のみが残された


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