ヒカルの碁並行世界にて   作:A。

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第六話

六月。第四回北区中学夏期囲碁大会。ヒカルが幽霊部員の自分も出ていいのかと尋ねると、三谷は同じ囲碁部員で何か問題があるのか? 使えるモノは使うに決まっているだろ。実力的にお前大将な。とやや強引に決めると出場が確定していた。

 

しかし、前の通り二回戦で海王とぶつかることにはなっていたものの、塔矢アキラは囲碁部員にはなっていない。そもそも、前は学校に乗り込んできたのだが、今回は手がかりが無いので来れずじまいだからだ。

 

ただ、大会中に隅で対局した際、「また対局がしたいから、良かったら連絡をくれないだろうか?」と連絡先を渡されたという経緯はある。あるものの、なんとなく連絡しずらい為、まだ手つかずだ。

 

大将はヒカル。副将が三谷。三将が筒井さん。途中で、時折あの時の進藤だという声を聞きながらも勝ち星を拾い。結果、大会は見事優勝をすることが出来たのだった。

 

◇◆◆◇

 

第十四期NCC杯トーナメント。筒井とトーナメント観戦にやってきた。大盤解説を見て、そういえばここでネット碁を知ったんだよなーと感慨深く思う。

 

最後まで大盤解説を見ても楽しめたのだが、実は一つ約束があった。もちろん事前にはそれを伝えてあるため、途中までは一緒にという事で筒井とは行動を共にしていた。

 

ロビーを出て、ウロウロする。見渡して漸く目的の人物を発見した。

 

「桑原のじーさん、用って一体何?」

 

「そう急かさずとも。実はな、ヒカル。お主、オモシロイ話に興味はないか?」

 

「オモシロイ話ぃ?」

 

「そうじゃ。ちょいと、な」

 

疑問符で一杯なヒカルに桑原はにんまりと笑ってみせたのだった。目の前に見せられたのは、前に案内してもらった閉鎖されている碁会所の鍵だ。

 

「スポンサーの内の一つでな。ちょいとした条件と引き換えにココへパソコンをレンタルしておる。ネット碁に興味はないか?」

 

「ネット碁? あー……うん、どうしよう。それも良いんだけどさ、プロ試験を受けるつもりなんだ」

 

「なに、ほんの一週間ばかしじゃて。本番に備えて、好きな時間に入り浸り好きに対局すれば良いじゃろ?」

 

「一週間か。それならやってみようかな」

 

◇◆◆◇

 

――アメリカ。

「ん? これは何だ?」

 

国際アマチュア囲碁カップのアメリカ代表に選ばれたことを電話でママに報告をしていた男が、ネット碁をしようとしてとある『お知らせ』に気がついた。

 

訝しげに思いながらもダブルクリックをして詳細を開く。そこに記されていたのは、ネット碁のサイト×NCCのコラボ企画のお知らせだった。

 

ページをスクロールする。これから一週間の期間中、NCCの公式アカウントが登場し、対局相手に選ぶことが出来る。もしも、見事勝利することが出来たら先着五名様に素敵な記念品が届きます。と記載されていた。

 

それをみた男が鼻息を荒くした。丁度、良いタイミングだ。これなら、肩慣らしとして不足ない。更新時刻を見ると、ほんの少し前に告知されたばかりでそれを知る者は少ない筈だ。ならば、自分が先陣を切ってやろう。

 

男は意気揚々とNCCの公式アカウントに勝負を挑んだ。

 

が、

 

「oh…crazy(クレイジー).なんだってまた、あんなのに五人も勝てると思っていやがるんだ。アレに対して五人!? ふざけていやがる。一人だって勝てないに違いない」

 

負けてしまい、自宅で頭を抱えていた。

 

――オランダ。

「そうか!プロを直に雇っているに違いない」

 

納得が言ったとばかりに独り言を呟くと生徒達が聞きつけて近くに寄ってくる。

 

師匠(マスター)?」

 

「きっと、素敵な記念品というのも物凄く豪華絢爛(ごうかけんらん)なんだ。公式はそれをやるのが惜しいから、プロに依頼をしたんだよ。いいや、逆に素敵な品は渡すつもりだったとしても、その強さから話題を呼び込もうとしているのかも」

 

「どうしたんですか?」

 

「完敗だよ。ボクの勝てる余地が全くなかった。何て緻密(ちみつ)で隙の無い打ち方をするんだ。ボクはすっかり参っちゃったよ」

 

パソコンを覗き込んでいた生徒がその画面を見る。

 

「うわっ。これは……」

 

「ワォ!」

 

「ボクとしては諦めずに挑戦してみたい気持ちがある。けど、勝てる気が全くしない。何て罪作りなんだ!」

 

――日本棋院

 

「桑原先生!」

 

「? なんじゃ」

 

日本棋院にて呼び止められて振り向くと、そこにはNCCの担当者の姿があった。その人物は桑原を見つけるや否や、人気の少ない方へと移動を願い出、方向を誘導する。桑原もそれを分かっていたようで、それに続いた。

 

「いや、一体誰に例のアカウントを依頼をしたんですか? いえ、いいんです。言えないならそれでも全く構わないんです。しかし、物凄い反響なんですよ。あの! もう少し期間を延長することはできないんでしょうか? お礼と言っては何ですがパソコンはそのまま差し上げますので」

 

「うーむ、残念ながらそれは厳しいようでな」

 

「そうですか……非常に残念です。公式が倒せない!って普通ならクレームになるんですがそうならず、話題になる一方。嬉しい悲鳴で一杯なんですよ。いやね、ここだけの話なんですが、最初は記念品って言ってもショボイ代物だったんです。それをこの騒ぎになって急遽(きゅうきょ)豪華な品物に大慌てで変更をかけたんです」

 

「そうじゃったのか」

 

「はい。といっても、これで本当に釣り合うのかと疑問は残りますがね。何を景品にしたら良いのか分からない位だったんですよ……」

 

「ひゃっひゃっ。やはりオモシロイ。いっそのこと、対局の権利の方が喜ばれるのかもしれんな」

 

「お願い出来るならしています!」

 

◇◆◆◇

 

棋士採用試験予選日初日。日本棋院。

 

「進藤。君もプロ試験を受けに?」

 

「おー塔矢。そんな感じかな」

 

「……どうして僕に連絡をくれなかったの?」

 

「うっ……悪い。タイミングがな。つい、連絡しづらかったんだよ」

 

予選前に出くわした塔矢と会話をしていると、その言葉が聞こえたらしい周囲がざわついた。

 

「塔矢アキラ? マジで」

「誰、どいつ?」

「あっちの方。そういえば名人の息子が今年受験だったっけか」

 

そして皆塔矢の顔を認識すると、その相手が気になってくるのだ。では、その塔矢と気軽そうに話している相手は誰だろうと。ヒカルは自分にも注目が集まってくるのを感じ取った。

 

「あー取り敢えず移動しねェ?」

 

「構わないけど、そんなことよりも、また僕と対局してくれないだろうか? あと、お父さんも君に興味を持ったみたいで、今度家にでも誘いなさいと言われているんだ。囲碁サロンでも良いそうだけど。ただ、前に緒方さんが偶然君を見つけた時には、何故か逃げられてしまったって聞いたけどあれはどうして?」

 

何というか色々と遅かった。塔矢の発言に再び、アイツ何者!?とばかりの視線が飛んでくる。更に内容に名人やら緒方の名前が入っているものだから特に厳しく鋭い視線が突き刺さる。

 

どうしようと思案していたヒカルだが、そろそろ予選の時間なのに目を付け、その場から逃げるのであった。

 

 


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