東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第終話~最後の願いは君に~

 

 

 『始まりの文字を繋ぎ合わせて』

 

 それが最後の課題。

 最初から何かおかしいとは思っていた。そして、何度も何度も確認をした。課題を考えたのは記憶の消える前の俺。そんな俺が考えたこと。きっと足りない頭を振り絞ってこの課題を考えたんだろうな。

 疑いは直ぐに確信へ変わった。後はいつその課題が来るのかと思っていたが、結局最後になってしまったね。

 一歩間違えなければクリアできた課題だろう。けれども俺は間違い続けた。当に不幸中の幸い。

 

 ま、そんな不幸も終わりにするんだけどさ。

 

 熊畜生のいた山を降り、今はルーミアがいるはずの森の中を、うろうろしているところ。今は癒しが欲しいのです。東の空は明るくなり始めているし、もしかしたらもうルーミアは寝てしまっているかもしれない。そしたらそっと抱きしめてあげよう。

 

 まぁ、最期はルーミアに頼みたいってだけなんだけどさ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラフラと森の中を探索していると、黒い球体がふよふよ浮いているのを発見した。

 目標を発見。絶対に逃がさない。

 

 アレだな。やはり俺とルーミアにも、切ることのできない何かが繋がれているのだろう。まぁ、俺が一方的に結びつけただけな気もするが……

 ルーミア曰く、あの黒い球体の中から外の景色は見えないらしい。よく木にぶつかるとも言っていた。そんなお茶目なルーミアも可愛いから俺は好きだよ。

 

 そして、霊力で身体強化をしてから、その黒い球体へ向かって飛び込んだ。

 

「なに? なにごと!?」

 

 ルーミアの叫びはとりあえず無視して、球体の中心にいた者を全力で抱きしめる。帰ってきたよー!

 

「ちょっ、このやめっ……あっ、バカ! 離れろ! この変態っ!!」

 

 やはりぶん殴られた。

 うむ、いつも通りのルーミアで俺も安心したよ。

 

 

 

 

「…………帰れ」

 

 いつものジト目。そんな目で見られると興奮する。

 終に何の用なのかすら聞いてくれなくなったけれど、俺はルーミアのこと心から愛しているよ。思い起こせば、もう千年以上の付き合いだもんな。初めて会った時から、好感度が全く上がっていないような気もするが、そんなこと俺とルーミアの間じゃ些細な問題だ。

 

「お願いがさ、あるんだ」

 

 ルーミアじゃなくても頼める相手はいる。それでも、最期は君にお願いしたいんだ。

 いつもいつも、迷惑ばかりをかけて申し訳ない。許してくれとは思わない。でも、きっとこれが最期だから。どうかお願いしたいのです。

 

「……ひどい顔ね」

「ルーミアに会えて嬉しいからな」

 

 もしかしたら、ただただ悪口を言われただけかもしれないが、たぶん違うだろう。どうやら表情が歪んでいたらしい。そんなつもりはないのに。

 

 

 ……この世界へ転生し、本当に色々なことがあった。

 

 諏訪の神々を始め、可愛らしい女の子たちと過ごしてきた。記憶を取り戻すための物語のはずが、こうやって思い返してみても、女の子ばかりを追いかける物語となってしまった。

 

 如何にも俺らしい俺の物語だ。

 

 もう充分満足したつもり。欲を言えば切りはないが、かなり充実した人生だったと思う。ルーミアのような可愛い女の子と一緒に過ごせてきたんだ。これ以上の幸せなんてないだろう。

 この物語は最初から最期まで、可愛い女の子が中心の物語だ。其処に俺が入る場所なんて、見つからなかった。

 

 そりゃあ、俺だって入りたかったよ。物語の主人公になりたかったさ。最初のうちはそんな物語に憧れていた。せっかくの転生人生なんだ、何処かに自分のはいる場所はないかと探しては見た。

 けれども見つかったそのどれもが、俺が入ってしまえば壊れてしまうものだったから……

 

 記憶を消してまで俺に頼んでくれた、自分を見捨てることなんてできない。けれども最後の課題をクリアした後待っているのは、どう考えたってバッドエンドだ。明るい未来なんて見えやしない。

 そんな自分があの少女達の中へ入ってしまえば、壊してしまう。

 

 それが嫌だった。

 そんな自分勝手な理由を隠しながら生きてきた。けれども、どうやら向き合う時が来たらしい。嫌なことを後に回し続けた結果がこれだよ。

 もう少し準備くらいしておけば良かったのにさ。

 

 

「……ねぇ」

 

 

 俺じゃあ主人公になれないとわかった。だから、モブキャラになろうとした。可愛い女の子たちを、影で支えてあげられるような人間を目指してみた。それができたかどうかなんてわからない。たぶん上手くはできなかったんじゃないかな。俺も器用な人間じゃないしさ。それに何より臆病だった。

 どうやら、ちょっと出しゃばり過ぎちゃったね。

 

 

「あんたも消えちゃうの?」

 

 

 いつだって思うんだ。もっと器用な生き方ができたんじゃないかって。どうにかすれば、俺だって主人公になれたんじゃないかって。

 けれども俺はそんな道を諦めてしまった。完全に諦めたのは、やっぱり緑の彼女とあの郵便屋の最期を見送ったときだろう。

 

 あの二人を見送って直感が働いた。俺もいつかは――

 

 そして、そのいつかってのはやはり最後の課題をクリアした時なんだろうなって。

 

 ホンっト、難しい人生ですよ。難しすぎて嫌になっちゃう。

 俺はこの世界が好きだ。可愛い女の子達が沢山いるこの東方の世界が大好きだ。けれども、そんな場所に俺がいてしまえば……可愛い女の子たちと、深く関わり合ってしまえば……

 

 記憶を取り戻したい。

 しかし、取り戻せば全てが終わる。

 そんなジレンマ。

 

 けれども、もう決めました。終わらせるって。もう充分楽しんだから良いじゃないかって。

 

 

「……ねぇ、私の質問に答えてよ」

 

 

 ごめんな、ルーミア。迷惑ばかりかけちゃってさ。

 けれども、君を好きなことは本当だから……嘘だらけの俺だけど、それだけは本当だから。

 

 やっぱり、この物語はバッドエンドだ。

 しかし、やっぱり最後くらいは納得して終わりたいじゃないか。良い人生だったって思いながら終わらせたいじゃないか。例えそれが虚勢だとしても、最期はそう思いながら終わらせたい。

 

 それくらいは……許して欲しいかな。

 

 

「……質問に答えろっ!」

 

 

 ルーミアも嫌いだ、嫌いだ。なんて言いながらも、どうやら俺のことを少しは想っていてくれたらしい。

 声を荒らげるルーミアの目は潤んでいるようにも見えた。

 

 

 

 うん。

 

 

 もう、いっかな。

 

 

 心の準備なんてできてはいないけれど、少しだけ勇気を出してみよう。

 

 

 『始まりの文字を繋ぎ合わせて』そんななんとも格好つけた課題。けれども、内容はいたってシンプルだ。まぁ、俺が考えた課題だし仕方ないのかな。

 俺の残してくれたあの残念な手紙。今までそれを何度も何度も読み返してきた。今では一字一句間違えずに言えるくらいだ。

 最初にあの手紙を読んだ時から、何かおかしいとは思っていた。だってあの手紙、何を言いたいのかよくわかんないんだもん。

 そして、そんな手紙を読み返しているうちに気づいたことが一つ。表紙と東方キャラのことの書かれた紙を抜かすと手紙は全部で10枚。明らかに多い。7枚目なんて一言しか書いてないし。

 だからこの手紙には、何かあるって思った。時間だけは大量にあったから、後は虱潰し探すだけ。

 とりあえず、一枚一枚に書かれた最初の文字だけを読んでみた。そして、どうやらそれが正解だったらしい。我ながらホント、単純なことで。

 

 やることは簡単。

 フランドールの誘いは断ってしまったけれど、やっぱりもったいなかったよなぁ……

 

 

 

「ごめんな、ルーミア」

 

 

 

 そう声をかけてから――ルーミアの唇に自分の唇をそっと当てた。

 

 『始まりの文字を繋ぎ合わせて』その課題の内容は『東方キャラとキス』。

 

 

 

 

『おめでとうございます。これで全ての課題はクリアとなります――』

 

 

 瞬間、あの無機質な声が響き、記憶の波が押し寄せた。

 

 

 自分の名前、親、友人、教師、朧ろ気な幼少期、小、中、高校生の記憶、放課後、夏の香り、自転車の滑る音、青色の信号機、近づく車、真っ暗な世界、真っ白な世界、ペッタンコの天使、転生の内容、自分へ当てた手紙……そして、東方projectと言うゲームの知識と記憶。それらが纏まって、一気に頭の中へ広がった。

 

 それは、たった十数年分の記憶。けれども俺にとって大切な記憶。

 

 ああ、なんでこんな大事なこと忘れていたんだろうな。

 

 

『おめでとうございます。これで課題は全てクリアとなります。おめでとうございます。これで課題は全てクリアとなります。おめでとうございます。これで課題は全てクリアとなります。おめでとうございます。これで課題は全てクリアとな――』今だ響き続ける無機質な声。『おめでとうござ――』五月蠅いっ『となります。おめで――』たらありゃしない。最期くらい静かにしてろってんだよ。

 

「怒らないのか?」

 

 つけていた唇を離し、ルーミアに聞いてみる。

 その目には大粒の涙。

 

「……だっ」

 

 曇ってしまった涙声。

 あの無機質な声が響き続けるせいで、ルーミアの声がよく聞こえない。

 

 

「あんたが消えるのは……いやだよぉ……」

 

 

 それでも、2回目の言葉ははっきりと俺の元まで届いてくれた。

 ……これなら、届かない方が良かったかもな。

 

 ごめんな。ルーミア。

 どうしても最後はルーミアが良かったからさ。本当にごめんな、自分勝手な人間でさ。

 

 漸くデレてくれたルーミアを抱きしめてあげたいところではあるけれど、どうやらもう限界らしい。

 手が薄くなり始めていた。

 

 ああ、やっぱり俺も消えるのか。

 

 ま、悪くない人生だったって胸張って言えるさ。

 

 

 

「なぁ、ルーミア」

 

 

 きっと、これが最期の会話。

 

 

「……なあに?」

 

 

 最期くらい明るくいこうぜ。

 

 

 

 

「俺のこと好き?」

 

 

 

 

「…………大っ嫌いだっ!」

 

 

 

 ふふっ、それで良いさ。

 その言葉が本当だとは思わないけれど、君と俺の関係はそれで良い。

 

 うむ、うむ。それだけ聞ければ充分満足だ。

 

 

 

 薄れる視界。

 

 遠のく意識。

 

 俺は今、ちゃんと笑えているだろうか?

 

 

 

『おめでとうございます。これで課題は全てクリアとなります。貴方に関する記憶は全てクリアとなります。お疲れ様でした』

 

 

 アフターケアまでバッチシですか……よくできた世界なことで。なんだよ、どうせ俺に関する記憶が消えるのなら、もっと色々できたじゃないか。

 まぁ、もうどう仕様も無いんだけどさ。

 

 

 転生すれば可愛い女の子達と、きゃっきゃうふふできると思っていました。けれども、そんなに甘くはないそうです。

 

 

 そんな甘くない人生。

 けれどもまぁ、良い人生だったと思うんだ。

 

 

 






うむ、うむ見事にハッピーエンドでしたね


けれども、このままじゃ終わらせない


では、次話でお会いしましょう

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