「幻想郷へ行くわよ」
レミリアの言葉を聞き、一つの疑問が解決した。どうして東方キャラが外国にいるのかと思っていたが、なるほどねぇ、そう言うことだったのか。
つまり、だ。この世界……東方projectの世界の舞台はきっとあの幻想郷なのだろう。だから、諏訪子や神奈子、幽香だっていつの日か幻想郷へ来るのかもな。
「どうして、いきなり幻想郷へ行こうなんて思ったのさ?」
「フランが漸く外へ出てくれたからよ。だから私だって動いた方が良いでしょ?」
いや、それはまた違う気もするけど……
「それに、この辺りはもう支配し切ったのだし、丁度良い機会。そう思ったの」
おお、流石は吸血鬼。何だかカッコイイじゃないか。レミリアさん超カッコ可愛い。
さてさて、まぁ、レミリアたちが幻想郷へ行くのは構わない。俺だって幻想郷へ帰らなきゃいけないのだし、むしろ嬉しい。
しかしねぇ……
「どうやって幻想郷へ行くんだ?」
此処から幻想郷は遠い。紫の様な能力があれば問題ないが、アレは特別。それに吸血鬼って海を越えられるのか?
「其処はパチェがやってくれる。できるでしょ?」
誰だろうか、パチェって。ずっとあの部屋の中に居たせいで、紅魔館の状況が全然わからない。フランドールも話についていけてないみたいだし……
「……準備に時間はかかるけど、できると思う」
レミリアの言葉に紫髪の少女が答えた。すごいな、普通にできるって言いやがったよ。
そして、君がパチェなんだね。初めましてパチェさん。随分と変わった名前ですね。
「ふふっ、信頼しているわよ。……咲夜」
「はい」
「食事の準備を。せっかくフランもいるのだし、盛大にね」
「かしこまりました」
能力を使ったのだろうが、さも当たり前のようにいきなり現れる咲夜。随分と優秀なメイドなことで。
俺だけのメイドさんになってくれとか言ってみようかな。
ああ、そうだ。あのセリフを忘れていた。
「わーっ驚いたー」
「そ、それはもういいですから!」
真っ赤な顔して怒る咲夜。ごちそうさまです。
俺が取る普段の食事と言えば、焼いた魚か猪ばかりだった。食事のいらないこの体質。そんな適当な食事でさえ、たまにしか口にはしない。
そして、目の前には見たこともないような多くの料理。仔牛の丸焼きとか初めて見たよ……
正直なところ、俺は食事などいらなかったので同席するつもりはなかったが、フランドールに捕まってしまい、俺も参加することに。一人じゃ不安なんだとさ。まぁ、それなら仕方無い。
しかし、どう考えても食べきれない量の料理。豪華なことはわかるが、なんだかもったいないな。俺だって食の細い方ではないと思うが、流石にこれは多過ぎる。なんだろうか、実はパチェが大食らいだったりするのか? そうは見えないが……
ルーミアがいれば喜びそうだなんて、ふと思った。
「それじゃ、新しい私たちの未来に――」
「「「「「乾杯」」」」」
グラスの中には真っ赤な色をした液体。どうやらこれが赤ワインと言う奴らしい。
今まで日本酒は何度も口にしてきたが、赤ワインを飲むのは初めて。葡萄の甘味と酸味を感じる香りと、アルコールの匂いが少々。日本酒よりは弱いお酒なのだろうか。
一口飲むと、甘さと少しの渋さが口の中へ一気に広がった。うむ、ちょっと甘すぎるけれども、なかなか美味しい。ワインって葡萄ジュースみたいな物なんだな。
因みにだが、フランドールだけワインは無しらしい。飲めないこともないけれど、嫌いなんだって。
洋風の料理なぞ食べるのはどれも初めてだったため、口にする全ての料理が新鮮だった。てか、滅茶苦茶美味い。うむ、美味しいとは思うけれど、こりゃあ俺なんかが口にする料理じゃないな。俺にはただ肉を焼き、塩をかけた程度がちょうど良いのだ。
「フランドールはパチェや咲夜のことを知っていたのか?」
両手にナイフとフォークを持ったまま固まっているフランドールへ声をかける。何をやっているんだお前は……
「えっ……ううん。知らなかったよ。今日初めて会ったもの」
なんだ、フランドールも知らなかったのか。と、言うことはだ。あの二人は俺とフランドールが部屋の中へいる間に来たと言うことか。なるほど、つまり俺の方が古株じゃないか。まぁ、古株面するつもりなどないが。
「ね、ねぇ、青。これってどうやって食べればいいの?」
そんなことを聞いてきたフランドールの目の前には、ほとんど生焼けと言って良いようなステーキが一枚。俺はウェルダンが好きです。
「自分の好きなように食べれば良いんじゃないか?」
てか、俺に聞かれても困る。こんな料理を食べるのは初めてなんだ。あっ、すみません、箸ください。
「でも、マナーとかあるし……」
あら、フランドールってそう言うのを気にするタイプだったんだな。羽の時もそうだったが、少し周りの目を気にし過ぎじゃないか?
マナーねぇ……それを気にしすぎて、料理の味がわからなくなったらどう仕様も無いだろうに。料理くらい美味しく食べようぜ。
それにレミリアを見なさいよ。口の周りやナフキン汚れまくってるじゃん。ちょくちょく咲夜が拭いてくれているけど……ほら、また汚しちゃったよ。アレはちょっとどうかと思うが、料理を美味しく食べる。それが一番のマナーだろう。
「食べ難いようなら食べさせてあげようか?」
「えっ……そ、それはちょっと恥ずかしいよ」
そりゃあ残念だ。
「咲夜が一生懸命作ってくれた料理なんだ。美味しく食べてあげようぜ。マナーはその後にしてさ」
「うん、わかった」
その語、ぎこちない手つきではあったけれど、漸く料理に口をつけ始めてくれた。うん、それでいいさ。
「貴方って本当に不老不死者なの?」
咲夜からもらった箸で料理を啄いていると、パチェがそんな声をかけてきた。レミリアには咲夜がついているし、フランドールは俺と喋っていたから、一人で寂しかったのだろう。
一人ぼっちは寂しいもんな。
「まぁ、そうだよ。今まで数万回ほど死んだけど、例外なく生き返ったし」
今考えてみると、随分ぶっ飛んだ体質だよな。まぁ、死因の90%はあの熊畜生なんだが。
「数万回って……」
驚いたような、呆れたような表情。普通の人間ではまず有り得ない事だし、それも仕方無いか。すみません、ワインのおかわりをって……もう注がれてるよ。スゲーな、おい。
「君はどうして紅魔館に?」
「パチュリー・ノーレッジよ。種族は魔法使い。此処には沢山の本があったから……それだけ」
ああ、なるほど君も東方キャラだったのか。ってことは、紅魔館には4人も東方キャラがいるのか。うむ、これは来て正解だったね。
つまり、幻想郷へ行くのはパチュリーの魔法を使うってことなのだろう。魔法のことはさっぱりだが……そんなことできるのだろうか? ちょっと想像できない。パチュリーも凄い魔法使いってことなのかねぇ。俺だってある意味凄い魔法使いだが。それとは次元が違う。
「幻想郷へ行くのはどれくらいかかりそう?」
「準備しないとだから一ヶ月くらいかしら」
一ヶ月か。そりゃあ、一ヶ月後が楽しみだよ。
そんな感じのゆったりとしたパーティーは、ゆったりと終わっていった。
「フランドールはこれから何処で生活するんだ?」
「あの部屋。青は?」
なんだ、上には行かないのか。まぁ、今までずっと生活してきたのだし、いきなり変えると言うのも難しいのかな。
俺は……どうするかなぁ。夜はフランドールのためにもあの部屋で過ごせば良いが、昼間のうちは流石に暇だ。
「昼間は紅魔館の中をフラフラしているよ」
「夜は一緒にいてくれるの?」
そんな言葉に頷くと、フランドールは嬉しそうに笑った。ホント、懐いてくれるようになったね。まぁ、頼る相手が俺しかいなかったのだし、それもそうか。
「それじゃ、おやすみなさい青」
「うん、おやすみ。フランドール」
そろそろ太陽が昇り始める時間。良い子は寝る時間なのです。
地下へと続く階段でフランドールと別れ一人に。さてさて、これからどうするか。レミリアだって寝るだろうし、パチュリーも眠そうだった。咲夜は忙しそうだし……仕方が無い、一人で散策をしよう。久しぶりに外へ出るのも悪くはなさそうだ。
迷路のように入り組んだ紅魔館を歩くこと一時間。漸く、エントランスへと辿り着いた。どんだけ広いんだよ此処……
そして両開の大きな扉を開け、外へ。扉を開けた瞬間、暖かな空気と久しく嗅いでいなかった草花の微かな香りが鼻を抜けた。日の光が予想以上に強く、反射的に目を細める。すっかり引き籠もり生活が染み付いてしまっただなんて、一人で笑った。
紅魔館の外にはしっかりと手入れされた立派な庭園が広がっており、東屋のようなものまである。なんとも素敵な景色。どうせフランドールはこの景色を知らないんだろうな。
一人で見に来てしまったことに少しだけの罪悪感。ま、フランドールと一緒に来る時のための下見と考えよう。
昼間出ることは難しいだろうが、きっと星明かりの下ならば、吸血鬼とも一緒に此処を歩けるはず。そんな未来が楽しみだ。
フランス料理を食べるとき、私は箸をお願いします
まぁ、お願いできないときもありますが……
と、言うことで第69話でした
漸く体調も戻り始めたので、またのんびりと執筆していきます
今月中にはこの作品も完結できるのではないかな、なんて思ったり
次話は、そろそろ幻想郷へ行ってもらいたいところ
もう一頑張りです
では、次話でお会いしましょう