東方拾憶録【完結】   作:puc119

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今までのお話とは雰囲気が少々違います

ご注意ください




第65話~お願いだから~

 

 

 どうしても自分のことが好きになれなかった。

 私が遊ぶと皆壊れちゃう。そんなつもりは無くても、右手を握れば壊れた。色々な歌を聴かせてくれながら、壊れた。

 自分がちょっとおかしいことくらいわかってる。それは仕方が無いの。私だって壊したくはないもん。頑張ってみたもん。でも、私の中にいる私じゃない私がたまに出てきて、直ぐに壊しちゃうんだもん。壊れると、もう歌を聴かせてはくれない。私はもっと聴いていたかった。でも、もう歌は聴こえないの。

 

 それが嫌だった。だって、歌わなくなっちゃったのは私のせい。私の中の私のせいだけど、やっぱりそれは私のせい。

 そんな私を皆は怖がった。うん……それは仕様が無いよね。やっぱりこんな奴、怖いもんね。ごめんね、ごめんね。私のせいだよね。

 

 私の世界は、暗い暗い部屋の中。その部屋の中が私の世界の全部。いつからこの世界にいるのかは、もう忘れちゃった。ちゃんと考えればわかると思うけど、今は別に考えなくていいや。長い時間この世界に私はいる。でも、大丈夫。もうこの世界にも慣れたから。

 

 もうこの世界にも慣れた。慣れちゃったけど……いつかまた、外の世界へ行ってみたないぁ。それは、やっぱり無理なのかなぁ。

 そんな、いつ訪れるのかわからない未来を想像しながら、私はあの玩具を握って壊した。

 なんだか最近、歌ってくれなくなったね。ねぇ、私にもっと聴かせてよ。

 

 

 

 

 あの玩具が私の所へ来てから、かなりの時間が経ったと思う。たぶん200年とかそれくらいだと思う。

 それは、他の玩具と比べてよく歌う玩具だった。

 でも、すこし遊んだだけでやっぱり壊れた。壊しちゃった後は、いつものように落ち込んだ。ごめんね、ごめんね。大事にできなくてごめんね。

 壊したのは私。もしかしたら、私の中の私とは違う私かもしれないけれど、壊しちゃったのはやっぱり私。だから謝った。ごめんね。壊してごめんね。

 

 新しい玩具が来る度に、少しだけ期待した。今度は壊さないようにできるんじゃないかって、今度は大事にできるんじゃないかって。けれども、今までの玩具は全部直ぐに壊れた。今回の玩具も一緒。そう思った。なかなか成長できないなぁ。なんて、思っていたら壊れたはずの玩具が直った。

 今まで沢山の玩具で遊んだ。壊した。壊れにくい玩具だってあった。けれどやっぱり壊れた。

 

 壊れた玩具が直ることはない。また歌を聴かせてくれることはない。そう思っていた。それが当たり前だって思っていた。でもその玩具は直った。

 

 確かに私はその玩具を壊したはずなのに。

 

 

「あはっ」

 

 

 そんな玩具を見て、私の口から音が出た。久しぶりの音。そっか……私ってこんな声だったんだ。そんなことも忘れていた。

 直った玩具はまた歌ってくれた。それが嬉しかった……のかな? うん、たぶん嬉しかった。また歌を聴かせてくれたことが、またこの玩具で遊べることが。

 

 その玩具はよく歌ってくれる。沢山、沢山歌ってくれる。他の玩具みたいに五月蝿いだけの歌じゃなくて、もっと聴きたくなるような歌を歌ってくれる。沢山、沢山……

 

 それが嬉しかったから、私は右手を握った。

 玩具は壊れた。

 ごめんね。また壊してごめんね。

 

 

 

 

 それは壊してもまた直ってくれる玩具。沢山、色々な歌を聴かせてくれる大切な玩具。

 だから、大事にしなきゃって思った。でも、壊れてもまた直るから良いよね。なんて思って私はまた玩具を壊した。

 ごめんね。ごめんね。

 次は頑張ってみるから、今度はきっと大事にしてみるから。

 

 あの玩具を壊す度にそう思った。

 でも、私にはそれができなかった。

 何回壊しても、何回直っても、私はその玩具を大事にすることができなかった。

 

 そんな自分が嫌だった。

 なんでかなぁ。どうして壊しちゃうのかなぁ。私のせい? 私の中の私のせい? どうして貴女は出てくるの? どうして大事にしてくれないの? それもやっぱり私のせいなのかなぁ。それは嫌だなぁ……私だって大切にしたいもん。それなのにどうして、貴女は壊しちゃうの?

 

 

 

 

 

 最近、あの玩具が歌ってくれなくなった。

 壊れた玩具は歌わない。でもこの玩具は壊しても直る。それなのに、直ってもあの玩具は歌ってくれなくなった。

 玩具が歌ってくれない。だからちょっとずつ、私がおかしくなった。元々、おかしかった私がもっとおかしくなった。

 

 

「ねぇ、前みたいに歌ってよ」

 

 

 私に歌を聴かせてよ。

 どうして? なんで歌ってくれないの? 私は歌を聴きたい。聴きたいの。

 

 私が声をかけても、玩具は歌ってくれない。アレだけ歌ってくれた玩具が、もう歌を聴かせてくれない。

 嫌だ。それは嫌だ。

 

 それが嫌だったから、もう一度歌を聴きたかったから……でも、どうして良いのかわからなかったから私は右手を握った。やっぱり玩具は壊れた。

 ごめんね。ごめんね。

 

 

 

 

 

 玩具が歌ってくれない。アレから、全く歌ってくれない。

 何度も何度も、私が声をかけても玩具は歌ってくれない。壊れてはいない。それなのに歌ってくれない。

 

 

「おはよう」

 

 

 目を覚ましてから、玩具に声をかける。でも、玩具はやっぱり歌ってくれない。

 私は右手を握った。玩具は壊れた。

 

 

「おやすみなさい」

 

 

 寝る前に玩具へ声をかける。やっぱり玩具は歌ってくれない。

 私は右手を握った。玩具は壊れた。

 

 おやすみなさい。

 

 

 

 

 目を覚まして声をかけて、寝る前に声をかけて……私は右手を握った。玩具は壊れた。

 

 玩具が歌ってくれない。

 私が右手を握る。

 玩具が壊れる。

 私が謝る。

 玩具が直る。

 玩具は歌ってくれない。

 

 そんなことを繰り返した。何度も何度も、繰り返した。私は歌を聴きたかったから。でも玩具は歌ってくれなかったから。

 どうして? 歌ってよ。歌を聴かせてよ。歌ってくれないのは私のせいなの? せっかく、何度も壊しても直る玩具なのに。今度こそ私は変わることができるって思ったのに。

 

 私の世界は暗い……暗い、暗い。何も聴こえない。

 

 やっぱり私のせい……なのかな。私が大事にできなかったから歌ってくれなくなったのかな? でもね、私も大事にしようと思ったの。だから声をかけたの。

 

 それなのに――貴方は歌ってくれないの?

 

 どうして、こうなっちゃったのかなぁ。アレだけ歌ってくれたのに、どうして歌ってくれなくなっちゃったのかなぁ。

 

 

「ごめんね」

 

 

 謝った。大事にできなかったから。歌ってくれなくなっちゃったから。それは私のせいだから。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 この玩具を大事にできなかったのは、私の中の私と違う私のせい。

 でも、それは私だ。私じゃないけど、私なんだ。

 

 嫌だ。嫌だ。ごめんなさい。ごめんなさい。

 私は私が嫌いだ……

 

 

「ねぇ、また歌ってよ。前みたいに歌を私に聴かせてよ……」

 

 

 声をかけた。

 玩具は歌わない。

 

 ――右手を握った。

 

 

 

 

 色々と考えてみた。

 また歌ってもらえるにはどうしたらいいのかなぁって。いっぱい、いっぱい考えた。

 でも、私にはわからなかった。

 

 どうして、歌ってくれなくなっちゃたのかなぁって考えた。沢山、沢山考えた。

 でも何度考えたって答えは、やっぱり私のせいだった。

 

 こんなに考えたのは初めて。

 でも、考えれば考えるほど、ドロドロとした何かが私の頭の中を駆け巡る。あまりよくない気持ちばかりが私を押しつぶす。

 

 目から何かが溢れる。それが止まらない。全然……止まってくれない。

 

 ねぇ、私はもう限界だよ? これ以上、貴方の歌を聴けないと私は私じゃなくなる。

 こんな気持ちは、こんな感情はもう抑えられない。それだけは、嫌だよ……

 

 

 

 

 お願い、お願いだからまた貴方の歌を聴かせてよ……

 

 

 

 お願い、お願いだから――

 

 

 

「私を助けてよ――青……」

 

 

 

 

「当ったり前だろうが、そのために俺は来たんだから」

 

 

 うん……ありがとう。

 

 

 






ふわふわっとしたお話を目指して書いてみました
決して、ほのぼのとした空気ではありませんでしたね

けれども、たまには良いかもしれません

と、言うことで第65話でした
なんとか一話で収めたかったので、展開は早めでしたね


次話はこのお話の主人公サイドのお話
彼が何を考えていたのかとか書いてみたいものです

では、次話でお会いしましょう

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