「妹紅はさ、此処で暮らしているのか?」
「……まぁ、うん」
むぅ、どうにも妹紅の機嫌がよろしくない。元々、愛想のあるような人物ではなかったけれど、此処までじゃなかった。今も表情は暗いし、いったいどうしたと言うのやら。
俺は妹紅とまた会えて嬉しかったんだけどなぁ……
もしかして、アレだろうか? 実は俺になんて会いたくなかったとか、そう言う……もしそうだとしたらかなりショックだ。
『うっわ、嫌な奴と会っちゃったよ、おい。でも知らない相手でもないから、一応挨拶くらいはしておいた方が良いよね。んもう、早く帰ってくれないかな』
とか思っているかもしれない。
それは心が折れそうだ。
妹紅は優しい性格の持ち主。きっと言いたくて言えないことはあるだろう。俺になんて気にせず言ってくれても良いのだが……ルーミアなんて、オブラートになど包みもせずぶっ込んでくるし。
ふむ、本当にそうだとしたら――やっぱり距離を置いた方が良いよな……
悲しいことではあるけれど、何かと自分の中へ溜め込んでしまう妹紅の性格を考えると、それが一番な気がする。ルーミアのように、自分で思ったことを直ぐに出せるようなら問題ないんだけどな。
しっかし、どうしてだろうか? 別れる前の妹紅からそんなことは微塵も感じていなかったのだが……まぁ、時が経てば変わることもある。そう言うこと……なのかな。
それならば仕方が無い。残念だけど、違う場所へ行くとしよう。こうして妹紅とまた会えただけで、俺は充分満足なのだから。
な~んて言い訳してみたり……
「さて、妹紅も元気っぽいし、違う場所へ行くとするよ。山の上の巫女さんも気になるしさ。んじゃあな、妹紅。またいつか」
う~ん、どうしてこうなったんかなぁ。本当に心当たりがない。けれども、仕方が無いこと……そう割り切ろう。またいつの日か、妹紅と一緒に笑いあえる日が来れば良いが。
やっぱり暗い表情をした妹紅をあまり見たくはない……
はぁ……んじゃ、道案内よろしく頼むよルーミア。
大丈夫、かなりショックではあったけれど、このくらいならなんともないから。
そして妹紅に軽く手を挙げてからその場を去ろうとした時、くいっと服を引っ張られた。
「え、えと……どうしたのさ妹紅?」
んもう、なんだと言うのだ。
どうすれば良いのかが全然わからない。俺は心なんて読めない。察することだって苦手だ。口で説明してもらわないとわからない……
「あっ、その……」
困ったような妹紅の表情。けれども、何に困っているのか全くわからない。
もしかして、俺の勘違いだったのか? 妹紅も俺と会えて嬉しかったとか……いや、けれどもじゃあ何故、妹紅は不機嫌なのか説明がつかない。
「……あんたが何を考えているのか、何を勘違いしているのか知らない。でも、私とコイツは別に親しいわけじゃない。むしろ私は嫌いだもの」
急にルーミアが口を開いた。
ため息を交えながら、さらりと俺のことを嫌いと付け加えながら。
「え? でも、さっき青は貴方のことを……お嫁さんだって」
「まぁ、今は違うとしても、いずれはそうなr「おい、少し黙ってろ」……あっはい、すみません」
ルーミアに本気で怒られた。
泣きそうになった。
「あれはコイツが勝手に言ってるだけ。私はそんなこと微塵も思っていない。本当に迷惑」
「そう……なの?」
「そうなの」
すっかり蚊帳の外へと追い出されてしまった。俺に関係している話題なのに、どうしてだろうか? あとルーミアさん、今日はいつもに増して辛辣なのね。そんな君も素敵だけど、できればもう少しばかり優しい君だと俺は嬉しいな。
「え……じゃ、じゃあどうして今は一緒に?」
「コイツに無理矢理案内させられてる」
いや、別に無理矢理ってわけじゃないぞ。確かに、逃げようとしたルーミアを捕まえはしたし、また逃げ出しても捕まえるだろうけれど、決して無理矢理ではない。お互いに同意の上でのことだ。ルーミアの同意は得られていなかった気もするが大丈夫。ルーミアの考えくらい俺には伝わっているから。
ねぇ、もうそろそろ喋っても良い? あっ、まだダメですか、そうですか……
寂しいなぁ。
「貴方は……青とどういう関係なの?」
そう聞かれてみると、俺とルーミアってよくわからない関係だよな。あの郵便屋の迷子が原因だが、100年近く一緒に暮らし、別れがあって、再会し、また別れ、そして再会した。もうコレ運命の糸で結ばれているだろ。
鬱陶しいことに、あの熊畜生とも結ばれているが、それに負けないくらいルーミアとも結ばれている気がする。だって、お互い会いに行っているわけでもないのに、こうしてまた再会できているのだから。それはまるで物語のようだ。
「さあ? それは私もよくわからない。でもコイツは嫌い」
……どうだろう。そろそろ俺は泣いても良いかもしれない。
どうすればルーミアの好感度は上がってくれるのだろうか? 俺の準備はもうできているのに……あとはルーミアが俺へ応えてくれるだけなのだ。
「そっか……そうなんだ」
ぽそりと呟いた妹紅の声。
さて、とりあえずルーミアのことは良いとして、妹紅は本当にどうしたのだろうか? 先程よりはまともな表情となってくれたが、質問の意図がよくわからない。
ルーミアと俺の関係とか……嫉妬? 妹紅がルーミアに? けれどもそれは考え難い。自分で言っていて悲しくなるが、傍からルーミアと俺を見ても仲が良いとは思わないだろう。だってルーミアさん全然笑ってくれないもん。だいたいムスっとしている。それもそれで可愛らしいから、俺は満足しているが。
――それならば何故?
……むぅ、考えてもわからん。
まぁ、とりあえず妹紅の機嫌も治ってくれてきているようだし、此処は良しとしよう。悪いことではないはずだ。
さて、この後はどうしようか? できれば妹紅も一緒について来てもらいたい。ルーミアと妹紅。まさに両手に花。それは幸せなことであるけれど……どうだろうか?
流石にもう口を開いても怒られはしないだろう。話だって進めなきゃいけないのだ。
「まぁ、俺とルーミアの関係なんてそんなものだよ。んで、妹紅はこの後、どうする? 一緒に来るかい?」
「ううん……今日はやめておこうかな。ちょっと色々と考えてみる。それにまた会えるんでしょ?」
ありゃ、一緒には来てくれないのか。妹紅が何を考えているのかはわからないが、まぁ、色々と思うところもあるのだろう。それなら仕方が無い。
「そうだね。これからは此処で生活することになるかな」
「そっか……うん、それならまた会えるよね。今日は青と会えて嬉しかったよ」
そう言って妹紅は笑ってくれた。
おお、漸く笑ってくれたか。やっぱり笑っている顔の方が俺も嬉しいよ。それに、俺と会えて嬉しかったとも言ってくれたし満足です。
妹紅が不機嫌だった理由はわからないが、俺と会いたくないと言うのは、どうやら俺の勘違いだったらしい。
うん。大丈夫、きっとまた会えるさ。
――――――――
妹紅と別れたあと、飛んで迷いの竹林から抜けることにした。俺のことをボロクソに言ってはいたが、ルーミアも一緒に来てくれている。良かった良かった。
そう言えば、妹紅はあの竹林に住んでいると言っていたが、ちゃんと自分の家に帰ることはできただろうか? そもそも、家があるのか? 妹紅が自分で家を建てられるとも……まぁ、今度会った時にどんな生活をしているのか聞けば良いか。
のんびりと竹林へ向かって歩いていたのもあるだろうが、どうやら相当な時間あの竹林にいたらしく、竹林を飛んで超えると西の空が赤くなり始めていた。むぅ、今日のうちに巫女さんの場所へ行くのは厳しいかもしれないな。
それにそろそろ……
「お腹すいた」
だよねぇ。今日はまだ何も食べていなかったもんな。
これは仕方が無い。やはり巫女さんは諦めよう。ルーミアのお腹を空かせたままじゃ可愛そうだもんな。
「ごちそうさまでした」
ルーミアの生活していたあの森まで飛び、結局今晩も其処で過ごすことに。
いつものように、ホイホイと現れてくれた熊畜生を食べ終わり、ご満悦の様子のルーミア。普通の熊程度ならまだ可愛いんだけどなぁ……
日は完全に沈んでしまい、パチパチと音を出している焚き火がよく目立つ。
野宿にも慣れたものではあるが、やはり家が欲しくなる。家がないと冬とか寒い。まぁ、それも紫との新婚旅行が終わってから考えよう。
今は他にやらなければいけないことがあるのだから。
さて、今晩はどんな練習をしようか? いつの日か、あの熊畜生と戦わなければいけないのだ。休んでいる暇はない。
しっかしなぁ、俺に勝てるのか? 実はあの熊も東方のキャラだったりはしないだろうか? もしかしたら、そのうち可愛い女の子の姿になるのかもしれない。
まぁ、あの手紙を読んだ限り、その線はかなり薄いんだけどさ。
「ねぇ」
「うん? どうした?」
パチパチと燃えた枝の弾ける音が静かな森に響いた。
頭上には綺麗な星空が広がっているだろうけれど、生憎この木の生い茂るこの森の中からはソレを見ることができない。
「本当にあんたは知らなかったの?」
……うん? ルーミアの質問の内容がよくわからない。
知らなかった? なんのことだ?
「えと……何のこと? 知らなかった? そんなことを言われても答えようがないぞ」
ルーミアもいきなりどうしたのだろうか? ルーミアには珍しく随分と抽象的な質問だ。
パチリ、パチリと枝の弾ける音が聞こえた。
「……ううん、それならいい。それに、たぶんそっちの方がいい。きっと、知ったら……気づいたらダメなこともあるから」
まただ。
妙な既視感を覚える。
そんなルーミアのセリフは、いつかのこいしちゃんが言った言葉を連想させる。
「どう言う意味だよ?」
「……」
俺の質問に、ルーミアはやはり答えてくれなかった。
はぁ、なんだろうね。いつだってこうじゃないか。知らないのは、気づかなかったのは俺だけなんだ。
「何なのか言ってはくれないのか?」
蚊帳の外へと追い出される、この感覚は好きじゃない。
例え、俺が知ってしまったことで被害を被るとしても、何も知らされないのは良い気分にはなれない。
「言ってくれないのは、あんたの方じゃないの?」
トクリと何かが跳ねた。
だって、それは――
「あんたとアイツは何処か似ている。あの時、私は何も知らなかった。だって何も言ってくれなかったから」
――もう寝る。おやすみ。
そんな言葉を残して、ルーミアは横になった。
そんなことを言われても……教えられるわけが、言えるわけがないだろう。
いつの日か、直面しなければいけないことだってわかっている。いつまでも逃げているだけじゃダメなことだってわかっている。
これは俺の物語。
けれども、そんなこの俺の物語の主人公は――俺じゃない。
もしかしたら病んだ妹紅さんを期待していた方もいるかもしれませんね
まぁ、書きませんが
いつもの妹紅さんが素敵です
と、言うことで第63話でした
終盤に近づいて来たと言うことで、それっぽいことを書いてみました
意味はよくわかりません
後は任せたぞ未来の私
なんてね
物語とか主人公とか、そう言うお話の続きは最終話辺りになりそうです
いきなり最終回じゃ寂しいですしね
準備くらいはしておかないと
次話は……どうでしょうか? 紫さんとの新婚旅行へ出発しているかもしれません
では、次話でお会いしましょう