東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第62話~迷える心は~

 

 夜の間はいつものように能力の練習をし、ルーミアと感動的な再会をした次の日の朝。

 

 一口サイズの氷を造り、それを俺が舐めているとルーミアが『私にもちょうだい』と言ってきたので、愛を込めた氷をあげた。氷、美味しいよね。いくらでもあるから、沢山食べなさいな。

 

 ガリっと口の中で転がしていた氷を噛み砕き、ルーミアへ挨拶。

 挨拶は大切なのだ。

 

「ねぇ、ルーミア。俺のこと好き?」

「…………」

 

 見事に無視された。

 無視が一番心へくる。

 

 作った氷を口の中でコロコロと転がし、気休め程度の冷たさを得る。うん、きっと口の中に氷があるから、喋ることができなかっただけだよね。

 

 さてさて、ルーミアと再会したのは良いが、これからどうしようか。正直、ルーミアがいれば俺は充分満足だが、せっかくなのだし幻想郷の中を案内してもらいたい。きっとまだ見ぬ素敵な出会いが俺を待っている。

 

「これからどうするの?」

 

 ようやっと、ルーミアが口を開いてくれた。

 先程の俺のセリフはなかったことにされたらしい。俺が叫んだ愛は消されてしまった。悲しい世界だ。

 

「俺もどうすっかなぁって考えてたところだよ。ルーミアは何処で生活してたの?」

「ここの森でふよふよしてた」

 

 そっかぁ、ふよふよしてたのか。

 それってどんな生活なんだろうな。

 

 ちょっと想像ができないけれど、まぁルーミアも元気そうだし悪い生活ではなかったのだろう。

 

「人里とかへは行かないのか?」

「うん、ほとんど行ってない。行っても食べちゃダメだもん」

 

 ああ、そう言うルールなのね。

 まぁ、そうでもしなければ人里なんて直ぐに消えるわな。じゃあ、人を食べる必要のある妖怪はどうしているんだ? たぶん、人里以外なら人間を食べても良いと言うことだろうが、それだけで此処の妖怪は足りるのだろうか?

 今度、紫に聞いてみよう。これからは此処で生活するのだ。やはりルールくらいは覚えておきたい。

 

「ま、とりあえず幻想郷を案内してよ。俺はまだ来たばかりだから、此処のことは何にも知らないんだ」

「それは別に良いけど……私も詳しいわけじゃないよ?」

 

 それでも俺よりは詳しいさ。紫との約束の日まで、それほど時間があるわけでもないが、まぁ、ゆっくりと幻想郷を楽しませてもらおう。幻想郷には観光名所とかはないのだろうか?

 

「じゃ、お願いするよ。幻想郷ってどんな場所があるんだ?」

「んと……妖怪の山には天狗とか河童がいて、霧の湖にはバカがいて……あとは、人里とか迷いの竹林とか、彼岸花が沢山咲く場所に……山の上には巫女がいる」

 

 ふむ。ルーミアの話を聞く限り、幻想郷ってあまり広くなさそうだな。妖怪の山に人里、それと霧の湖ってのは俺が凍らせたあの湖のことだろう。

 まだ行っていないのは、迷いの竹林に彼岸花の咲く場所と、巫女さんのいる山くらいか。

 

 ……うん? 迷いの竹林? 何処かでそんな単語を聞いた気が――

 

 ああ、そうだ。思い出した。あの手紙だ。俺の残してくれた、あの手紙の妹紅の部分に書いてあったじゃないか。妹紅は迷いの竹林に住んでいるって。

 そうか、じゃあ妹紅も幻想郷に来ているのか? この時代にいるのかはわからないが、いつの日か妹紅も幻想郷へ来るのだろう。

 

 山の上にいる巫女さんと言うのも気にはなるが、それよりも今は妹紅と会いたい。あの時はいきなりの別れとなってしまったんだ。きっと妹紅だって心配してくれていたはず。

 

「迷いの竹林ってところを案内してもらっても良いかな?」

「うん、わかった。でも、あそこ竹ばっかで面白くないよ?」

 

 あら、そうなのか? んじゃあ、まだ妹紅は此処へ来ていないと言うことだろうか。

 ん~……まぁ、それでも行ってみる価値は充分にある。例え妹紅がいないとしても、一度行ってみるのも悪くはない。

 

「それでも良いさ。案内よろしく頼むよ」

 

 きっと素敵な出会いがあるはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「いやぁ……こりゃあ確かに迷いの竹林だな」

 

 ルーミアに案内されながら森を抜け、人里の横を抜けると竹林が広がっていた。

 試しにと思い竹林の中へ入って数分。もう迷子です。

 

 前後左右竹しかなく、同じような景色がひたすらに続く。俺みたく、空を飛ぶことのできる奴なら問題ないだろうが、空を飛ぶことのできない奴にとってこの竹林は恐怖だろう。

 俺はあの郵便屋とは違い、方向感覚だって鈍いわけではない。けれども、この竹林は流石に迷う。

 

「だから、言ったじゃん。竹ばっかだって」

 

 しっかし、本当に竹しかないな。季節は既に夏。筍の季節は過ぎているし、この様子では誰も中へ入ろうとはしないだろう。

 なるほどねぇ、あの妹紅のことだ。人が来ないから此処に住もうとするのだろうな。迷子になったりはしないのかな? どうやら、あの性格は変わらなかったらしい。色々と思うところもあるだろうが、そろそろ自分を許してやっても、良いと思うんだけどねぇ。

 

「う~ん、まさか此処まで見事な竹林だとは思っていなかったよ。違う場所へ行こうか。山の上にいる巫女さんてのも気になるし」

 

 この様子じゃ、例え妹紅が此処に住んでいようが見つけるのは難しいだろう。また会える日が来れば良いが……

 

 

 

「あ、れ? も、もしかして青……なの?」

 

 

 声が聞こえた。

 さて、違う場所へ行こうか。そんなことを呟いた時だった。かさりと、地に降り積もった笹を踏む音と聞きなれた声。俺が一番長く一緒にいた相手。流石に聞き間違えることはない。

 

「久しぶりだね、妹紅。元気にしてた?」

 

 突然の別れが訪れたあの日と変わらぬ姿。

 久しぶり。

 

「えっ? え……本当に青? だってあの時、青は妖怪と一緒に封印されて……」

 

 ちょいとばかし混乱させてしまったらしく、どうにも妹紅に落ち着きがない。まぁ、いきなり消えた奴がこうして何の脈絡もなく現れたのだ、そりゃあ、驚くだろう。

 

「知り合い?」

 

 くいっと、ルーミアに袖を引っ張られそんなことを聞かれた。ルーミアからしてみれば、いきなり知らない少女が現れ、意味もわからず混乱し始めたようにしか見えていないだろう。

 

「うん、そうだよ。ルーミアと別れたあと、其処にいる妹紅と一緒に旅をしていたんだ」

「そうなのかー」

 

 そうなのだ。

 懐かしい。今思えば、妹紅と初めて会ったあの時だって急なものだった。

 

「え、えと、青は今まで何処にいたの?」

 

 漸く、落ち着いてくれた様子の妹紅。

 

「ちょっと地獄に堕とされててさ。なかなか出て来られなかったんだよ」

「へ? 地獄?」

 

 まぁ、地獄と言ってもそれほど悪い場所じゃなかったよ。古明地姉妹もいたし、萃香にも会えたし。それに今は地獄でもなくなった。またあの場所へ行ける日が来れば良いんだけどな。

 

「ずっと地獄へいれば良かったのに」

 

 ルーミアの口から何かが聞こえたが、何を言っているのかはわからなかった。きっと俺のことを好きだとか、そう言うことを言ってくれたのだろう。

 

 

「……そっちの女の子は?」

 

 やや、低めのトーンで妹紅が聞いてきた。

 あれ? 妹紅さん、もしかしてちょっと機嫌が悪い? 俺の気のせいか?

 

「ああ、そう言えば妹紅には言っていなかったね。名前はルーミアで俺のお嫁さんだよ」

 

 

 ぶん殴られた。

 きっとこれも愛情表現の一つだと俺は信じているよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 本当に久しぶりの再会だった。

 思い返してみれば、突然の出会い。いきなりの別れ。急な再会。いつだってそうだった。

 傘を差し、腰に瓢箪をぶら下げたあの時と変わらない姿。声。それが嬉しかった。

 

 別れたのはもう数百年も前のこと。光の中に青が飲み込まれたときは、頭の中が真っ白になって、憤りとかそういう黒い感情が爆発しかけた。最初はあの京を燃やしてしまおうかとも考えたけれど、そんなことをしたら、青に怒られるなんて考えて止まることができた。

 まぁ、その青は消えちゃったんだけど……

 

 

「全くルーミアも素直じゃ……あっ、殴るのはやめて。興奮しちゃう」

 

 

 青と別れたその日から、何をする気にもなれずフラフラと宛もなく旅を続けた。

 

 でも、やっぱり一人の旅はつまらなかった……

 

 青がいればもっと楽しかったのに――そんなことばかりを考えていた。そして、いつの間にか此処へ辿り着いてしまっていた。それからはやりたいことも見つからず、ただただ此処でボーっと過ごす日々。そんな状態の私にとって、人が訪れることのないこの場所は有り難かった。

 

 そして今日、たまにはと思い、ふらりと家から出てみた。やることなど何も無いと言うのに。

 

 何を考えるでもなく、ふらふら歩いていると声が聞こえた。

 懐かしい声だった。

 何かが込み上げて来そうだったけれど、なんとかそれを飲み込んで、震える足を動かして、声の元へ向かった。

 

 

 また会えたのは嬉しかった。本当に嬉しかったと思う。

 もしかしたら、また会えるんじゃないかって考えていた。でも、卑屈な性格の私はどうしても、そうじゃないことばかりを考えてしまっていた。

 

 

「ばか、変態」

「胸張って言ってやるよ。俺は変態だ」

 

 

 それでも、こうしてまた会えることができた。

 会いたかった相手。嬉しくないはずがない。そう絶対、嬉しいはずなのに……

 

 青の隣には、一人の女の子がいた。

 綺麗な金色の髪。ちょっと幼い部分があるけれど、可愛らしい顔。

 

 そして、青が言ったあの言葉。

 

 

 ――名前はルーミアで俺のお嫁さんだよ。

 

 

 その言葉を聞いてズキリと何かが痛んだ。

 

 痛い……

 

 私には見せてくれたことのないような青の表情。

 そんな顔、私は知らない。そんな顔を向けられたこともない。

 でも、それはおかしなことじゃない。私の知らない青がいても変なことじゃない。そんなことは知っている。わかっている。

 

 

 けれども、痛い。

 

 痛い、痛い……何が、痛いの?

 

 

 やだなぁ。なんだか、あまり良い気分じゃない。せっかく青と会えたのに。

 

 

 そして黒くて、濁っていて、嫌な感情がゆっくりと――

 

 

 ああ、そっか。痛いのは――

 

 






次回、『病んだ心と止まない怪雨』

まぁ、嘘ですけど


と、言うことで第62話でした
妹紅さんはまだ輝夜さんとは会っていないっぽいです
そして、ちょいと妹紅さんの様子がおかしいですけど、ドロドロしたものにはならないと信じています
頼むぞ主人公
私は信じている


次話はこの続きっぽいです
皆で笑いながらお酒を飲んでいれば嬉しいですね

では、次話でお会いしましょう

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