熊畜生と別れ、別にやることもなかったがとりあえず下山。
今の俺じゃあ、あの熊畜生を倒すことはできない。それでも、これは俺がやらなければいけない問題だ。
次の課題は『引き籠もりの妹を外へ』なんて言う課題だったと思う。その意味はやはりわからないが、なんとかこれをクリアしなければいけない。
今までは、自分のためだけに課題をクリアしてきた。のんびりと、時間に追われることなどなく、ゆっくりと。
しかし、今回ばかりはのんびりしていることはできないらしい。アレだけのことをやらかしてしまったんだ。被害を受けるのが自分だけなら問題はない。だが、今回は違う。ただの熊畜生を、紫のような大妖怪でも手が出せない妖怪へ変え、さらには神にまでしてしまった。
それはもう自分だけの問題ではない。
早急に課題をクリアし、なんとか力をつける必要がある。
もう手段は選ばない。なりふり構っている場合でもない。
「なぁ、紫。スカーレット姉妹って知ってる?」
何故か紫がまだ居たため、疑問をぶつける。
なんでコイツ帰らなかったんだろうね? もしかして、俺のこと好きなんじゃないだろうか。全く、少しくらい素直になれば良いのに。
「姉妹? ……ええ、レミリア・スカーレットなら知っているけれど、どうして貴方がその名前を?」
どうしてって言われてもねぇ。俺が残してくれたあの手紙に書いてあったなんて言えないし……
「風の噂で聞いただけだよ。んで、できればだけど、その姉妹のいる場所へ連れて行ってもらえないかな?」
日本の何処にいるのか知らないが、自分の力だけで探すのは流石に骨が折れる。紫が知っていて助かったよ。連れて行くのは無理だとしても、場所くらいは教えてくれるはず。
俺の残してくれた手紙曰く、東方のキャラの中に姉妹は何人もいる。その中で、どうして俺がスカーレット姉妹を選んだかと言うと、どうやらこのスカーレット姉妹は吸血鬼で、年齢も500歳ほどらしい。秋姉妹など他の姉妹がこの時代にいるのかはわからない。けれども、スカーレット姉妹ならこの時代にいるそう思った。
そして、その考えは正しかったらしく、実際この時代にもうスカーレット姉妹はいるっぽい。課題である引き籠もりの妹が、スカーレット姉妹の妹なのかはわからない。それでも、会ってみる価値は充分にあるだろう。
「私も会う予定があったからそれは良いけれど……貴方は何の用事があるのよ?」
まぁ、そりゃあ気になるよな。
紫にはまだ課題のことを教えていない。別に教えたところで問題はないだろうが、教える予定はない。やっぱり、あまり迷惑をかけたくないしな。
さて、此処はどうやって誤魔化したものか。
「いやな、その吸血鬼って可愛いんだろ? だったら会いに行かなきゃいけないじゃん」
「…………」
紫にものすごい顔をされた。
なんだろうか、そんな顔をされると興奮する。
まぁ、あの手紙にもスカーレット姉妹のことはヒロイン候補と書かれていたし、この理由だって嘘ではない。未来のお嫁さんが俺を待っている。
「だからな。俺は可愛い女の子が好きな「もういい。わかった。充分わかったから少し黙れ」あっ、はい」
なんだよ。せっかくこれから、俺の可愛い女の子への想いを丁寧に教えてあげようと思ったのに。
さて、どうだろうか? ちゃんと俺も連れて行ってもらえるのだろうか?
「そんなゴミみたいな理由でねぇ……貴方らしいと言えば、貴方らしいけど」
酷い言われようだった。可愛い女の子と会いたい。それ以上に崇高な理由など、この世には存在しないはずだ。
まぁ、なんとか納得してくれたようだし、此処は良しとしよう。
「んで、どうなの? 結局、連れて行ってくれるってことで良いのか?」
「はぁ、ちゃんと連れて行くわよ。そうね……10日後の満月の日で良いかしら?」
おお、良かった。ちゃんと連れて行ってくれるのか。
うむ、吸血鬼の姉妹、か。なんとも楽しみである。是非、俺の血を吸っていただきたい。いや、血を吸われると俺も吸血鬼になるのか? あれ? 逆か、俺が吸血鬼の血を吸うと吸血鬼になるのか。
それなら、いくら吸われても問題ないな。
「おう、問題ないよ」
今すぐに出発しても良いくらいだしな。
まぁ、女性は準備に時間がかかると言うし、それは仕方が無いのかもしれない。連れて行ってもらえるだけで充分だ。
「そう言えばさ、スカーレット姉妹って何処に住んでるんだ?」
よくよく考えてみれば、吸血鬼の噂など聞いたことはない。
まぁ、俺が地獄にいる間に誕生したのかもしれないが。
「あら、青は知らなかったの? 海を越えた先……つまり西洋よ。それじゃ、またね」
……なに? 西洋? えっ、スカーレットさん日本にいないんですか?
そりゃあ、そうだ。考えてもみろ、吸血鬼なんて思いっきり西洋の妖怪じゃないか。今までずっと日本にいた俺なんかが、吸血鬼の噂を聞けるはずがない。スカーレット姉妹の名前もカタカナだし。それなのに、どうして日本にいるなどと考えていたんだ。大蒜と十字架、それと日の光を嫌う夜の帝王。超メジャーな大妖怪の中の大妖怪。
ちょっと困った、俺は日本語しか話せないぞ。英語ならまだなんとかなるが、他の言語はさっぱりだ。これは、まずいな……ボディランゲージでなんとかなれば良いが……大丈夫だろうか、俺の愛はちゃんと伝わってくれるだろうか? しまったな、これならスカーレット姉妹は後にした方が良かったかもしれない。
それに、なんだよ。東方って日本だけが舞台なんじゃないのか? ホント、どんなゲームなのやら。
まぁ、考えたところで仕方が無い。成るようにしか成らないのだから。
そう言えば、どうやって西洋へ行くんだろうな? ん~……あれ? もしかしてこれって紫と二人旅か? なるほど、それは素敵な旅となりそうだ。これはもう、新婚旅行と言っても間違いではないだろう。
それなら俺もしっかり準備をする必要がありそうだ。
さて、紫との新婚旅行まで10日。その間、俺は何をしていようか。この幻想郷に知り合いは、ほとんどいない。チルノと遊んでいるのも悪くはないが、どうせなら違う女の子と会いたいものだ。
先程出会った文なんかとも、もう少し話をしてみたいが、何処にいるのかわからないしなぁ。それに会ってもくれない気がする。しかし、アレは良いパンツだった。是非また拝見したい。
さてさて、パンツの話はどうでも良いのだ。いや、パンツは素晴らしい物だし重要なことだけどさ。それはまた今度。
そろそろ日も暮れる。
まぁ、とりあえずあの湖に戻るとしよう。
そして、あの湖へ向かって歩いているときだった。
短めの金色に輝く髪。
抱きしめるのにはちょうど良い身体。
此方も数百年の時を越えての再会。しかし今回はあの熊畜生とは違い。嬉しさが込み上げてくる。
「ルーミアァァアアアア!!」
叫んだ。駆け出した。
もう止まらない。止まることはない。
「っ! …………」
ルーミア は 逃げ出した。
しかし 変態 が 回り込んだ。
ルーミア は 逃げられない!
「ちょっ、やめっ……放せバカ! に、匂いを嗅ぐな! 変態!!」
霊力で身体強化をしてからルーミアへ近づき、全力で抱きしめた。
ああ、もう。ホントにお前は可愛いな! ヤバいヤバい! ホントにルーミアだ。ルーミアの匂いだ!! なんだよ、お前は幻想郷にいたのかよ。それならもっと早く此処へ来ていれば良かった。
とりあえず、ぶん殴られるまでルーミアを堪能した。
「…………」
逃げることは諦めてくれたのか、漸く此方を向いてくれるようになったルーミア。
滅茶苦茶睨まれているけど、そんな君も可愛いよ。
「……何の用?」
「ふっ、なんだよ。用事がなければ会いに来ちゃいけないのか?」
「用事が合っても会いたくない」
酷い言われようだった。俺が何をしたと言うのだ。全く身に覚えがない。
相変わらずルーミアはツンツンだが、会えただけで俺は充分だ。それだけで世界がバラ色に変わる。だってねぇ、本当に久しぶりの再会なんだ。嬉しくないはずがない。
あの熊畜生との再会は全く嬉しくなかったが。
「ねぇ」
「うん、俺もルーミアのこと愛してるよ」
「そうじゃねーよ、死ね」
……ホント、君は辛辣だね。
心が折れそうだ。
「お腹すいた」
「ん、了解。飯にするか」
こんな会話も随分久しぶり。懐かしい。それでも、これからは、またルーミアと一緒に生活ができるのだ。もう、課題とかどうでも良いかもしれない。
だってルーミア可愛いもん。
……まぁ、冗談だけどさ。
今日稼いだお金は全てあの煙管に使ってしまったため、手持ちのお金は何もない。それに、塩などの調味料だって持ってはいない。
それでも、のそのそと現れてくれた猪を、ルーミアは美味しそうに食べてくれた。うん、良い笑顔だ。見ている此方が元気になる。
「ルーミアっていつから此処にいるんだ?」
「結構前から」
結構前からねぇ。あの郵便屋と別れたあと、ルーミアはずっと一人旅を続けていたのだろう。きっと大変なこともあったはず。それでも、こうしてまた会えたんだ。それは、良いことに違いはない。
結構前から、此処にいると言うのなら、ルーミアは幻想郷に詳しいのかもしれないな。紫との新婚旅行まではまだ時間がある。その間はルーミアに幻想郷の中を案内してもらおう。
一人より二人。
そっちの方が良いに決まっているのだから。
ルーミアさんに出てきてもらいました
ごめんねルーミアさん
辛いと思うけどちょっとその変態の相手をしててね
と、言うことで第61話でした
紫さんとの新婚旅行(笑)まで10日ほどの時間をいただいたので、その間はルーミアさんと遊んでいてもらいます
次話はルーミアさんとのお話っぽいです
のんびりいきましょう
では、次話でお会いしましょう