東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第60話~他の誰でもない~

 

 

 少しばかり考える時間がほしかった。

 

 まず、どうしてお前が此処幻想郷へいる? お前はあの山にいたはずだろ? 勝手に出てきちゃダメじゃないか。

 それに、お前が山神様? 笑わせてくれる。お前のような畜生の何処が神様なんだ。神様ってのはもっと神々しく、そして可愛らしくなければいけない。それだのに、お前のような熊畜生は神々しくもないし、何より可愛らしさの欠片もない。

 体からはドス黒い妖気な様なものが溢れ出ている。熊畜生の周りに植物が一切生えていないのはその影響だろうか?

 

 何の間違いかは知らんが、お前は神になった。つまり、何かしらの信仰を集めてしまったと言うことだろう。ただの熊だったお前が何をやってんだよ……

 

 もう二度と会わないだろうと思っていた。二度と会いたくないとも思っていた。数百年の時を越えての再会。そんなのはちっとも嬉しくない。

 

 この熊畜生を見ていると、どうしても足が震える。

 それでも俺は一歩、熊畜生へ近づいた。お前の様な畜生が、因縁の相手などとは思いたくもない。けれども、どうやら鬱陶しいことにお前と俺は繋がっているらしい。全く何の間違いかは知らんが、誰だよそんな縁を俺とコイツに結びつけたのは。

 

 はぁ、まぁ、それならば、俺がソレを切らなければいけないのだろう。

 

 なぁ、お前だってそう思うだろ? 良い加減、この鬱陶しい縁は切ろうじゃないか。

 どうせ、今の俺ではお前には適わない。それでも、やらなきゃいけないんだろう。此処は引き下がっちゃダメな場面なんだ。

 

 

「青。それ以上ソレに近づくのはやめておきなさい」

 

 後ろから、そんな声をかけられた。

 

「……紫、コイツは?」

「もう数百年も前のことだけど、それからずっと其処にいるのよ。此方から近づかない限り何もしないから、放って置いているの。まぁ……ソレに勝てる奴なんていないから、放っておくしかないのだけど」

 

 数百年も前、か。

 文の言葉が正しければ、まだこの山に鬼が居たはず。そして、あの鬼共がコイツを放っておくとも思えない。それでも、コイツが数百年の間ずっと居るということは……まぁ、そう言うことなのだろう。

 

「なんで、この畜生如きが神なんて言われているんだよ? 信仰したところで、コイツは何もしないだろうに」

 

 信仰とはそう言うものだ。何の見返りも求めず神になど祈らない。自分の力だけではどう仕様も無く、それでも何かを叶えたいから縋るのだ。

 

「……ソレが人間から信仰を集めているわけではないわ。何者も寄せ付けないほどの力が怖いから。ソレがただただ恐ろしいから……そんなこの山に住む、多くの妖怪の畏怖の念が積もり積もって、神になったのよ」

 

 ――ホント、面倒なことにね。

 

 ため息と共に、紫はそんな言葉を落とした。

 畏怖の念……か。神へその感情を抱くことはあるだろう。けれども今回の場合は、その順番が逆になった。神だから怖いと感じる。怖いと感じたから神になる。つまりはそう言うことだろう。

 良い迷惑だよ。

 

「コイツを殺すことは、お前でもできないのか?」

「無茶を言わないで。私だって何度も考えたわよ。こんなバケモノがいたら、いずれ此処は崩壊する。でも、例えソレが神ではなかったとしても、ただの妖怪だったとしても勝てる奴なんていない。ソレは力が違いすぎるもの。今はまだ何もしてこないから良いけれど、もしコイツが動き始めたら……そんなことは考えたくもないわね。いったい、何人の人間を殺せばそれだけの力が……」

 

 

 ……うん? ちょ、ちょっと待ってくれ。

 

 コイツが強いのは知っている。染み付いて取ることができないほどにわかっている。どうして此処までこの熊畜生が強いのか? そんな疑問だって何度も思った。

 

 コイツが……この熊畜生が此処まで強いのは――

 

 

「多くの人間を殺したから、コイツは此処までの力を持ったのか?」

「ええ、そうね……それこそ、百人や千人なんて言う量ではなく、万を超える数の人間を殺しでもしなければ、ただの熊が此処までの力をつけるのは有り得ないもの」

 

 万を超えるような人の数を殺す? それは……

 

 嫌な汗が全身から吹き出した。

 

 ああどうか、どうか……俺の勘違いであってくれ……

 

「一つ、教えてくれ」

「何よ?」

 

 切っても切り離すことのできない縁。そんな見えるはずもない糸が、俺の身体に纏わり付いた。

 口の中が酷く乾く。嫌な汗が止まらない。

 

 この熊畜生が、こんな巫山戯ている様な力をつけてしまったのは、多くの……それこそ数えるのも大変な量の人間を殺したから。

 

 ああ、まずいな。どうやらコレは勘違いではない気がする。

 

 心臓が暴れる。自責の念とか後悔とか、嫌な感情がグルグルと俺の中で暴れまわり続ける。

 

 

 だって……だって、この熊畜生がこうなってしまったのは――

 

 

「その殺した人間ってのは……同じ人間でも、良い……のか?」

 

「ええ、そうね。けれども、普通はそんなこ……ちょっ、ちょっと待って青。それって貴方……」

 

 

 紫の言葉を聞き、確信することができた。

 わかりたくもない事実がわかってしまった。

 

 そうか……そう言うことだったんだな。

 

 

 今から数百年前。俺がまだ地上へいたころ。もっと強くなりたくて、可愛い女の子を助けたくて、俺は修行をした。いつものように、自分一人でやるのではなくあの熊畜生を使って。

 修行をしていた時間は、たった30年程度だったと思う。

 

 それでも、そのたった30年の間に俺は何度もこの熊畜生に殺された。何度も何度も、来る日も来る日も、ひたすらに……バカみたいに殺され続けた。

 一日で三桁以上殺されたこともあった。

 それを30年。毎日繰り返し続けた。

 

 

 その間に殺された回数は一万など軽く超える。

 

 

 ……つまり、この熊畜生が此処まで強くなってしまったのは──全部、俺のせいだ。

 

 しまったなぁ……これは本当にやってしまった。

 自分が殺されることで相手が強くなる。そんなこと考えもしなかった。少しばかり強い、ただの畜生としか思っていなかった。

 

 今は乾いた笑いしか出てこない。

 

 流石に取り返しがつかない。どうすんだよ、コレ。

 

 何が、切れない縁を誰かが結んだ、だ。それをやったのは、やってしまったのは他の誰でもない俺じゃないか……

 そりゃあ、この熊畜生だって此処まで来るはずだ。こんな太い縁を切れるはずなど無いのだから。むしろ、よく地獄へ現れなかったと思う。

 

「やっぱりコイツがいると、不味いか?」

「……そうね。ソレが喋ることができるようなら、ルールを守ることができるようなら問題ない。けれども、ソレは言葉を使わない。それに、抑えることのできない力は……」

 

 まぁ、そうだよなぁ。

 こんな、いつ爆発するかわからん爆弾の様な奴がいて安全なわけがない。

 

 やっぱり、俺がどうにかしないと……だよな。

 

 しかし、今の俺ではコイツをどうにかすることができない。8つの課題をクリアし、強くはなった。それでもこの熊畜生には届かない。

 

 今から修行をするか? いや……それでもまだ厳しいか。

 

 もっと早く、もっと強い力を手に入れるのには──

 

 

 うん、決めた。

 

 残された課題はあと2つ。それをクリアすれば良い。そうすれば、今よりは確実に強くなるのだから。

 

 もう、なりふり構っている場合でもないだろう。これは俺がやらなければいけないことなんだ。

 他の誰でもない、俺とこの熊畜生だけの問題なんだ。

 

 

 さらに一歩、畜生へ近づく。

 襲いかかってくる様子は、ない。

 

 お前も何を考えているんだろうな。運命だかなんだか知らんが、ただの畜生だったお前がそんなものに引きずり回されてさ。

 まぁ、そう言うのも全部、俺のせいなのか。

 

 

「おい、ド畜生。ちょっと聞けや」

 

 俺の言葉を、コイツが理解するのかわからない。それでも、言わなきゃいけないことなんだ。

 

 

「悪いけど、今の俺じゃお前には勝てん。けれども、きっと近い未来でちゃんとお前を殺してやる。だから、もう少しだけ此処でおとなしくしててくれ」

 

 できるだけ早く課題をクリアしてきてやる。だから、それまでは我慢してろ。

 その後、全部終わらせよう。この馬鹿げた、俺とお前の関係を全部お仕舞いにしよう。

 

 今まで数百年も待っていたんだ。それくらいはできるだろ?

 

 

 俺の言葉に、熊畜生はやはり何の反応もしなかった。

 ホント、お前は可愛くないな。地獄にいたあの黒猫を少しは見習えってんだよ。

 

 まぁ、お前が可愛らしくても困るが。

 

 

 

 さて、もうこの場所でやることもなくなった。

 

 今までのんびりやってきたけれど、そろそろ頑張る必要があるそうだ。

 

 




 

今回は戦闘なしです
この続きはまたいつか……

と、言うことで第60話でした
主人公以外で残っているオリキャラはこのクマさんだけです
頑張ってほしいですね
そろそろこの作品も完結させたい気分ですので進めむしょうか


次話は一気に進か、全く進まないかのどちらかです
では、次話でお会いしましょう

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