東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第58話~思ってたのと違う~

 

 幻想郷、か。

 忘れられたものの集まる場所とか。最後の楽園とか。そう言うことはよくわからない。けれども、たぶん此処が俺の過ごす最期の場所になるんだろうな。

 まぁ、課題のことがあるからもしかしたら、此処を離れなければいけないのかもしれないが。

 

「んで、幻想郷へ来たのは良いんだけど、俺はこれからどうすれば良いんだ?」

 

 此処へは来たばかり。何をすれば良いのかさっぱりわからない。家とかないし。空家でもあれば助かるが……

 ああ、紫が住んでいる家ってのもありだな。まぁ、絶対断られるか。

 

「青の行きたい様に生きなさいな。あまり問題を起こされると困るけれど、基本的に此処は自由よ。人里で暮らしても良いし、離れて暮らしても良いし」

 

 んじゃあ、可愛い女の子と一緒に暮らしたい。一人きりで生活するのは寂しいと思っている女の子はいないだろうか。その心の隙間を俺が埋めてあげよう。

 

 何処かにそんな女の子はいませんか?

 

「此処は全てを受け入れる場所。あとは貴方次第よ」

 

 そんな言葉を残し、紫は消えてしまった。

 

 一人残される俺。

 これからどうしろと。

 

 せめて、人里の場所くらいは教えてくれても良かったのに。

 

 置いていかれてしまったのなら仕方が無い。フラフラと散策でもさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 8つ目の課題をクリアしたことで、俺は新たに『水の状態を操る程度』などと言う能力となった。状態と言うことは、気体・液体・固体の三態のことを言っているのだろう。

 つまりそれは、水を氷や水蒸気へ変えることができるようになったと言うこと。もしかしたら、プラズマのように第四の状態へすることもできるかもしれないが、まぁ、別にそれはできなくとも良い。

 しかしこれで漸く……漸く能力らしい能力となってくれた。相変わらず戦闘には使えそうもないが、今までと比べて能力の幅はかなり広がる。

 氷でドラゴンとか作りたいよね。ドラゴン超カッコイイ。

 

 これで、残る課題はあと2つ。あと、たった2つだけ。それをクリアできれば俺の記憶は戻るはず。実際のところ、生前の記憶なんて十数年程度の物でしかない。この世界で暮らした1000年近くの記憶と比べると、それはあまりにも小さな物だ。けれども、それを捨てることはできない。

 自分のためにも頑張らないとだな。

 

 んなわけで、次の課題お願いします。

 

 

『課題9,「引き籠もりの妹を外へ」』

 

 

 あの声が頭の中で響いた。

 うむ、意味わからん。だいたい妹って誰の妹だよ。

 

 まず初めに思い当たる妹と言えばこいしちゃんだが、こいしちゃん引き籠もりじゃないし、絶対違う。こいしちゃん超アクティブだもん。何方かと言えばさとりの方が引き籠もりがちだった。

 

 その他に俺が会ったことのある妹と言えば、月にいた依姫くらいか。まぁ、あの娘も違うだろう。となると、今回の課題は俺が今まで会ったことのない人物となる。

 俺の残してくれた手紙に書いてあった妹キャラと言えば、スカーレット姉妹、プリズムリバー姉妹、秋姉妹、九十九姉妹か。しかし、あの手紙からでは誰が引き籠もりなのかはわからないし、姉妹のうち何方が妹なのかもわからない。この姉妹の中の誰かだとは思うんだが……

 まぁ、考えてもわからないものはわからないか。なんとも大変な課題が来たものだよ。

 

 この次の課題はもっと大変なんだろうけどさ。

 

 

 そうやってうだうだと、考え事をしながら歩いていると、いつの間にか何処かの湖に辿り着いていた。日差しの強さや、草花などを考えるに、季節は夏の始まりくらいだろう。水浴びも気持ちよさそうだ。

 まぁ、裸になった途端、女の子が現れて叫ばれるだろうから水浴びはしないが。

 

 湖、か。ちょうど良い。せっかくだし、能力でも使ってみよう。

 

 

「大ちゃん見ててよ! 今からあたいの能力を使ってみせるから!」

「あっ、ちょっと待ってよチルノちゃん」

 

 どうやらこの湖には俺以外にも人はいるらしく、そんな楽しげな声も聞こえた。

 よく見れば、背中に羽のようなものをつけた女の子二人が空を飛んでいる。あれが妖精って奴なのだろうか? 妖精には実際に会ったことがないから、そうなのかはわからないが。

 

 さてさて、俺も能力を試させてもらおうか。俺の予想が正しければ、この湖の水を凍らせることができるはず。きっとこれから暑くなるのだから、重宝する能力となりそうだ。

 

 湖の大きさは諏訪の湖ほどではないにしろ、なかなかに大きい。霧がかかっているせいで少々見え辛いが、水も澄んでいて綺麗なものである。

 

「それじゃあ、いくよー!!」

 

 湖へ近づき、その水の中へ手を入れるとひんやりと心地の良い冷たさ。

 それじゃ、やろうかね。

 

 せめて、手の近くくらいは凍ってくれれば嬉しいな。なんて思いながら頭の中で水を凍らせるイメージ。

 

 

 そして――

 

 

 

 湖の水、全てが凍りついた。

 

 

 

「……は?」

 

 そんな惚けた声と共に吐き出された息が白く変わる。

 

 えっ……え?

 なに、コレ。どうなってんの? こ、これ、俺がやった……のか?

 てか、ヤバい。水の中へ入れていた腕が抜けない。

 

「あ、あたいってやっぱり最強だ……」

「チ、チルノちゃんすごい」

 

 いやいや、ちょっと待ってくれ。俺はただほんの少し凍ってくれれば良いと思っていただけで、こんな氷河期を想像させるような現象を起こしたかったわけじゃない。

 まずいまずい、まさかこんなことになるとは思わなかった。俺の能力と言えば、なんともショボイものばかりだったため、こんなこと全く想像していなかった。

 

「でもチルノちゃん。これって戻せるの? こんないきなり冬みたいにしちゃったら、怒られちゃいそうだけど……」

「えっ? うーん……そ、そのうち戻るよ!」

 

 だよなぁ、流石にこれは紫から怒られるよな……問題を起こすなと言われたばかりなのに。

 戻ってくれるかなぁ……

 

 今度は氷から水へ戻るよう。頭の中でイメージ。頼む、戻ってくれ。

 

 すると一瞬で、湖を覆っていた氷が全て水へ戻った。

 これはすごいな。なんだか神様にでもなった気分だ。しかし、制御が全くできていない。夜の練習でやらなければいけないことがまた増えた。練習あるのみと言ったところか。

 

「あれ? 戻っちゃった。う~ん、よくわからないけど、ま、いっか」

 

 妖精たちの元気な声が響く。ごめんな。ちょっと驚かせちゃったね。

 

 

 その後、何度もこの湖で凍らせる練習をしてみたが全然上手くいってくれなかった。

 どんなに力を抜いても、どんなにイメージしても湖の水は全て凍りついた。まずいな、これじゃあ湖の環境がぶっ壊れてしまう。そろそろ水面に魚が浮き始めてもおかしくない。

 

 そして十数回ほど、凍らせまた水に戻してを繰り返すと、猛烈な目眩を感じその場に倒れてしまった。たぶん、ただの霊力切れだろう。まさか能力が強すぎて困る日が来るとはねぇ。

 人生ってのも、何が起こるかわからないものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、満天の星空が広がっていた。

 澄んだ空気に星空はよく映えてくれる。数百年振りに見た星空は、吸い込まれそうなほどに綺麗だった。ああ、星空ってこんなに綺麗だったんだな。そんなことも忘れていた。

 

 辺りを見回しても人影はない。可愛い女の子でも居てくれれば嬉しかったが、そんなに上手くいくことなんてないわな。

 まぁ、この星空を独占できると考えれば、一人と言うのも悪いものではない。

 こうやって星空を見上げていると、妹紅と一緒に見たときのことを思い出す。妹紅とは急な別れとなってしまった。元気にしていてくれれば嬉しんだがなぁ。それなりに良い仲でもあったのだ。やはりもう一度会いたくなる。幻想郷にいたりしないだろうか。

 妹紅以外にも、ルーミアや幽香にはもう一度会いたい。一人くらい幻想郷にいたって良いと思うんだがなぁ。

 

 さて、これからはどうやって生活をしていこうか。自分で家を建てるのも悪くはないが、今回は萃香がいない。きっと大変な作業になるだろう。道具だって何もないし。

 まだ行っていないが、人里へも行ってみないとだな。人里で暮らすことはないと思うが、これからは何度も行くことになるだろうし、早めに行っておきたい。妖怪蔓延るこの地に暮らす人間と言うのも気になる。

 

 う~ん、やらなければいけないことが多いな。何から手をつければ良いのか全くわからない。攻略本くらい用意してくれってんだよ。

 

 

 けれども、まぁ、今ばかりはこの星空を楽しませてもらうとしよう。

 それくらいは許してもらえるはず。

 

 






漸く体調も戻ってくれましたので更新です

と、言うことで第58話でした
霧の湖を凍らせてしまいましたが、わかさぎ姫さんは大丈夫でしょうか? 次の日になって水面にわかさぎ姫さんが浮いていたら私のせいですね

次話は……未定です
もう少しほどフラフラするのかな?

では、次話でお会いしましょう

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