東方拾憶録【完結】   作:puc119

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(・∀・)まっちょ!




第47話~その暗闇から~

 

 

 漸く妹紅の話を聞けてから数十年。つまり不老不死者同士で始めたこの旅は、もう100年以上も続けていることになる。

 妹紅の話を聞き何かが変わったのかと言うと、別にそんなことはなかった。恋人同士になったわけでもなく、手を繋いだことだって数回程度しかない。

 ただ、もう100年以上も一緒に生活しているのだ。これはもう夫婦と言っても間違いではないだろう。それはきっとお互いに理解しているはず。言葉にせずとも通ずるものはあるのだから。

 

 そう言えば、旅の途中で映姫のいた場所へ訪れたこともあったが、何故かその場所に映姫はいなかった。何処へ行ってしまったのかはわからず、不老不死の身であるため、残念ながら未来でも映姫と関わりあうことは少ないはず。一度で良いから『お兄ちゃん』と呼んでもらいたかったんだがなぁ。

 無事、閻魔になれたってことなのかねぇ。

 

 さて、そんな感じで妹紅とはなんとも言えない絶妙な距離間を取りつつ旅をしてきたが、漸く物語が動いてくれそうだ。

 

 それは、とある夜のことだった。

 日課の練習をしている時、いつもの不快感と共に紫が現れた。

 

「今晩は」

「や、今晩は」

 

 100年以上の間を開けての再会。

 お待ちしておりました。

 

「んで、どう?」

「京で最近、夜な夜な正体のわからない妖怪が現れているそうよ。人々はそれを鵺と呼んでいるらしいわ」

 

 流石は紫。どうやら頼みごとはちゃんと覚えていたらしい。

 自分でも調べてはいたが、結局ほぼ丸々紫にぶん投げる形となってしまった。これはお礼をしないといけない。

 

「鵺……ねぇ。了解、ありがとう紫。お礼としてキスしてあげ……」

 

 殴られた。

 ありがとうございます!

 

「……それで、貴方は行くのかしら?」

「まぁ、そうだな。正直、京へはあまり行きたくはないし、もしかしたら妹紅は行かないと言うかもしれない。それでも俺は行かないと」

 

 紫や妹紅にはまだ俺の事情を話してはいない。これからも、話すつもりもない。諏訪子や輝夜には話してしまったが、アレはまぁ、仕様がなかったのだ。

 これは俺だけの問題。それなら話す必要もないだろう。

 

「そう、わかったわ。ただ……気をつけて、どうにも良い予感はしないから」

「大丈夫だよ」

 

 見事にフラグを立ててはくれたが、いつだって立てられたフラグをへし折ってきた。だから俺はいつも通り行かせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「えっ? 京へ行くの?」

 

 昨晩そんな会話を紫とし、今は京へ行くことを妹紅へ伝えているところ。妹紅の過去の話を聞く限り、やはり京へ良い感情を持ってはいないだろう。今回行く予定なのは大和ではなく平安京。それでも、嫌がるだろうなぁ。

 

「うん、その予定。どうしても俺は行かなければいけないけれど、別に妹紅はついて来なくとも大丈夫だぞ?」

 

 わざわざ、辛い思いをしてまで行く必要はない。それに、それほど時間のかかるものでもないだろうし。そう言えば、今回はどの東方キャラが関係する課題なんだろうな。

 残念なことに俺は鵺の伝説ってよく知らないんだ。鵺が東方キャラとなると……どうにも思い当たるキャラがいない。鵺と言えば、手足が虎で、尻尾は蛇。頭が猿で身体が狸……だったかな? なんか違う気もするが、まぁ、そんなよくわからない妖怪なはず。

 

 ん~……ああ、封獣ぬえと言うキャラは確かいたよな。東方キャラでは数少ない絶対領域の持ち主だったはず。絶対領域……うん、ありですね。

 

「じゃあ、私も行くよ」

「……良いのか?」

 

 そりゃあ、俺だって妹紅にはついてきてもらいたい。一人よりも二人。そっちの方が良いに決まっているのだから。けれどもねぇ……俺の気にしすぎか?

 

「別に大丈夫だよ。あれから何年も経ったんだ。それに青と別れたらその間、暇になっちゃうし」

 

 はにかむように笑って、妹紅はそう言った。

 信頼、してくれているのかな? そうだと嬉しいな。

 

「……そっか、うん、了解」

 

 課題の内容は『正体不明の正体を暴け』だったかな。はっきり言ってどうすれば良いのか、さっぱりわからないけれど、どうにかなるはず。そんな根拠のない自信ばかりは湧いてくる。隣には可愛い女の子が居てくれるんだ、それだけあれば根拠なんていらないだろうさ。

 

 

 

 そして、俺はまた失敗を繰り返す。

 

 そんな気は全くしなかったんだけどなぁ。

 やはり、人生うまくはいってくれないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 百数十年振りに訪れた夜の京は、痛くなるほどに静かな世界だった。

 俺がいた頃は、家々から灯りが漏れ、中からは楽しそうな声が聞こえ、道沿いに並んだ店からは笑い声と、美味しそうな食べ物の香りが広がっていたと言うのに。

 

 これも鵺の影響なのかねぇ?

 人間は知らないものを酷く恐れる。正体のわからない妖怪など、畏怖の対象でしかないだろう。

 

「誰もいないね……」

 

 隣にいた妹紅がぽそりと呟いた。

 う~ん、どうしたものか。まぁ、人が沢山いても困るので悪いことではないが、これではどうにも気味が悪い。

 

 そう言えば、史実だと鵺ってどうなるんだ? 鵺と言う名前はよく聞くが、鵺の登場する物語は知らない。やはり、妖怪だから退治されてしまうのだろうか? それならば萃香のときみたく、色々とやる必要がある。しかしなぁ、何をどうすれば良いのかさっぱりわからない。俺の勉強不足だ。

 困ったものである。

 

 

 

 

 ぽてぽてと行く宛もなく、妹紅と二人で京の中を歩いている時、ゾワリと薄気味悪い何かを感じた。紫が登場する時とはまた違った感覚。

 なんだ?

 

 月明かり以外に頼れるものはなく、どうにも薄暗い。

 しかし、何かがいる。

 

「妹紅、何か見えるか?」

「ううん、まだ見えない……けれど、何かいると思う」

 

 どうやら俺の勘は間違っていないらしく、妹紅も何かを感じているらしい。

 

 暗く染まった景色の先から、ひたひたと微かに足音のようなものが聞こえたてきた。周りには薄らと黒い煙のような何かが立ち込み、不気味さはさらに増す。

 霊力を高め、暗い中でも見えるよう集中する。こう暗いままだと何もできないしな。

 

 そして、見えてきた黒い煙の先から――

 

 

 四つ這いになった上半身裸で筋肉ムキムキの男が現れた。

 

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 叫んだ。

 妹紅ではなく俺が。

 

「えっ……? 何コレ? てか、青はいきなり叫んでどうしたの?」

 

 どうしたのも何も、暗闇の中から四つん這いの、筋肉ムキムキマッチョが現れたら誰だって叫ぶだろ! むしろ、どうして妹紅は其処まで平然としていられるんだよ!?

 なに? 妹紅さん、ああ言うのが好きなの? 青さんそれはどうかと思うよっ!

 

 俺だって、周りの奴らから変態変態と言われているが、アレはレベルが違う。あんな変態見たことねーよ!

 

「ちょっ。ちょっと落ち着いてよ青。確かに、黒い靄みたいなのがあってよくわからないけれど、そんなに慌てるようなものじゃないでしょ?」

 

 えっ……うん? どういうことだ? も、もしかして妹紅にはあの変態が見えていないのか?

 もしかしたら、妹紅には筋肉ムキムキのマッチョマンが好きとか、そう言う性癖があるから叫ばなかったと言う可能性もあるけれど、そうではないのか?

 

「も、妹紅にはアレがどう見える?」

「う~ん、4本足で歩く、黒い煙を纏った獣……かな?」

 

 ん……どうやら妹紅に見えているものと、俺に見えているものは違うらしい。まぁ、いくら妹紅でもあんな変態が暗闇から現れたら叫ぶよな。

 良かった、別に妹紅の性癖が特殊と言う事ではなかったのか。安心した。

 

 しっかし、これはどうしたものか。そして、俺と妹紅どちらが正しいのだ? どうやら、はっきり見えているのは俺の方らしい。と、なるとやはり俺が正しいのだろうか。

 良かった、妹紅にはこの地獄絵図は見えていないのか。もし見えていたらトラウマ間違いなしだろう。

 

 さて、此方に襲いかかってくる様子はないが、はっきり言って気分の良いものではない。俺だってそう言う性癖は持っていないのだから。そしてできるなら、野郎ではなく女の子が良かった。まぁ、女の子が現れても俺は叫んでいたと思うが。

 

 と、とりあえず落ち着こう。

 目の前のマッチョを眺めるのも嫌だったため、上を見上げる。きっと今日だって星々は綺麗に輝いているはずだから。

 

 

 

 そして上を見上げると、両手を広げた筋肉ムキムキのマッチョが空を飛んでいた。

 

 

 

「ぎゃああああ!!」

「ああ、もう五月蝿い! どうしたのさ?」

 

 何コレ? マジどうなってんの? いつの間に京はこんな地獄のような場所となってしまったの?

 アレか? もしかして俺が酒呑童子を助けてしまったから、その影響で歴史が変わって、筋肉ムキムキのマッチョが蔓延るような世界へ……

 

 

 ああ、ああ……なんてことを俺はしてしまったんだ。

 

 

 そりゃあ、京の人々だって家へ篭ってしまうはずだ。夜な夜なマッチョが現れるのだ。そんなの恐怖でしかない。どうしよう、誰に謝れば良いのか全くわからない。

 

「あれ? なんだ、これただの犬だったんだ」

 

 とりあえず頼光には謝る必要があるだろう。すまん、すまん……これは言い訳の仕様も無い。それほどのことを俺はしてしまったのだから。

 

「ねえ、ちょっと青、聞いてる?」

「うん? どうした妹紅。俺はこれから頼光のお墓を探しに行かないといけないのだが」

「……何言ってるの?」

 

 妹紅に声をかけられ、ふと其方を見ると妹紅が両腕で犬を抱いていた。

 おい犬畜生。そこ変われ。

 

 それにしても、いつの間に犬など捕まえたのだろうか。

 

「その犬は?」

「さっきの奴だよ。捕まえたら黒い煙が抜けて犬になった」

 

 えっ、妹紅さんムキムキマッチョを捕まえたんですか? なんて思ったが、そう言えば妹紅にはマッチョに見えていなかったね。もし、マッチョに見えていたのに捕まえようとしたのなら、正気の沙汰とは思えないが。

 

 

 さ、さて、漸く……なんとなくだが、わかってきた。

 脳裏にはマッチョの姿が焼き付けられてしまったが、それでもだいぶ落ち着いてきた。

 

 つまり、誰かが動物を使い京をマッチョだらけにしているのだろう。

 そして、その犯人がきっと……

 

 なるほどねぇ。随分と可愛くないイタズラを思いつくじゃないか。相手は可愛い女の子のはず、けれどもちょいとばかしお仕置きは必要だろう。

 

 






鵺を退治したと言われる源頼政さんって、酒呑童子を退治した源頼光さんの子孫らしいですね

と、言うことで第47話でした
なんとなく書いていたらマッチョさんが出てきました

どうなってんでしょうか

次話は、きっとぬえさん登場
どうなることやら……

では、次話でお会いしましょう

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