東方拾憶録【完結】   作:puc119

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(`・ω・´)もこたん!




第45話~一緒にいるだけで~

 

 

「海だーー!!」

「う、海だぁ……」

 

 目の前には、青々く広がる景色がどこまでも続いていた。

 この世界に来てもう数百年。しかし、海へ来たのはこれが初めて。今までは山の中ばかりだったしなぁ。山に囲まれていない景色と言うのは、やはり新鮮だ。

 鍋を手に入れてから二日。漸く目的地へたどり着くことができた。白い砂浜、青い海。風で運ばれる磯の香り。これで季節が夏だったら最高だった。

 

「ね、ねぇ青。さっきのやる意味あったの?」

 

 叫ぶことが恥ずかしかったのか、慌てたように妹紅が言った。

 たぶん、俺一人だけなら叫ぶことはなかっただろう。けれども、今は隣に妹紅がいる。妹紅ならきっと恥ずかしがりながらも叫んでくれるだろうと思っていた。

 それを見たかった。

 

「まぁね。海に来たら叫ぶものなんだよ」

「……そうなの?」

 

 そう言うことにしておいてくれ。

 

 さて、季節は秋。残念ながら水着の女の子もいないし、やることをさくっとやっていきましょうか。

 

 流木なんかを集め、妹紅に火をつけてもらい、その火で海水を入れた鍋を温める。海水を沸騰させ水量が減り、海水が白く濁り始めたところで、布で濾し析出した硫酸カルシウムを取り除く。濾した海水をさらに熱して、ドロドロになったところで、もう一度布で濾す。これで漸く苦汁と塩を作ることができる。

 できた苦汁も貴重な材料ではあるけれど、今はいらないので捨てることにした。豆腐作るのも面倒だしな。

 

「へぇ、こうやって塩って作るんだ」

「ん~……塩を作っている人たちはもっと違うやり方だと思う」

 

 塩濃度の濃い海水を作ってから、それを煮詰めたりしたと思う。詳しいやり方はわからないが。

 まぁ、塩を作って商売をやるわけじゃないのだ。別にこの作り方でも問題はないだろう。

 

 鍋いっぱいに入れられた海水を蒸発させるのはかなりの時間がかかる。計算してみようかとも思ったが、海水に溶け込んだ物質の物質量や火力は計算ができないためやめておいた。

 

 海水を煮詰めている間はやはり暇なため、妹紅と全力で砂遊び。目標はサグラダファミリア。

 しかし、高波が来る度に城は崩壊し、砂の城の作り方など二人ともわからなかったため、碌な物ができなかった。ガウディの壁は厚い。

 

 二杯目の海水を温め始める頃には日が落ち始め、灯した炎はよく目立つように。予め取っておいた川魚を、できたばかりの塩を振りかけ一緒に焼いてみる。パチパチと脂の弾ける音と、なんとも良い香りが辺りに広まり食欲をそそる。

 

 

「「いただきます」」

 

 

 両手を合わせ、得られた食材に感謝の意を伝えてから、焼き魚に齧り付く。甘い脂の味と、仄かに、けれどもしっかりとした塩味が良い感じに合わさる。

 

「うん、やっぱり塩は大切だな」

「おいしい……」

 

 今まで味気ない食事ばかりだったからな。やはり多少の刺激はほしいものである。いくら食事のいらない体質とは言え、楽しめるのなら楽しんだ方が良いに決まっている。人生なんてそんなもんさ。

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 

 今日は頑張って起きていると妹紅は言ったが、明らかに眠そうだったため、寝てもらうことに。今は近くに火もあり暖かいが、そろそろあの寒い季節がやってくる。

 雨風凌げる場所くらい探した方が良いよなぁ。俺だけならば、雪に埋もれたまま越冬とかしても問題ないだろうが、今は妹紅もいる。流石にそれは酷だろう。

 どうしてなのかわからないが、どうやら妹紅は俺のことをかなり信頼してくれているらしい。嬉しいことである反面。今までそんなことがなかったため、対応に困る。今だって隣で気持ちよさそうに寝ているが、いつ妹紅に襲いかかってもおかしくはない。理性を抑えるのが大変なんだ。もこたん可愛いよ、もこたん。

 けれども、何故か妹紅には我慢することができている。

 

 いっそ、俺のことは諏訪子やルーミアのように扱ってくれたら楽なんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋空を見上げ、星を眺める。強く輝く四辺形からなるペガスス座。この綺麗な星空をもう何回見たのかわからない。あと、この星空を何回見ることができるのかも……

 

 

 そして――ゾワリと随分と久しぶりの感覚が襲いかかってきた。

 

 

「や、久しぶりだな。紫」

 

 声をかけられる前に、此方から声をかける。

 

「こんばんは、青」

 

 ぬるりと、あの不気味な空間から金髪の美少女が現れた。

 さて、何の用でしょうね。紫と会うのもあの月へ行った時以来だ。

 

「それで? 今日はどうしたのさ。結婚してくれるの?」

「死ね」

 

 むぅ、まだか。まだダメだったか。

 紫と出会ってからもう百年以上は経った。もう十分だと思うが。何が気に食わないと言うのだ。アレか? 妹紅と一緒にいるから嫉妬してくれちゃってるのか? 全く、ツンデレさんなんだから。

 それなら心配はいらない。全員まとめて愛すくらいの心は持ち合わせている。

 

「大丈夫だよ紫。お前のことも大好きだから」

 

 引っぱたかれた。

 ありがとうございます。

 

 季節は秋。紅く染まった頬に一枚の葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 パチンという音が聞こえ目が覚めてしまった。青に言われて寝てみたものの、やはり眠りは浅かったらしい。不老不死の体となり、一人となってから熟睡できない日々が続いた。その名残なのか、深い眠りへつくことはなく、浅い眠りばかりを繰り返す。

 それでも、青と旅を始めてからは前よりも寝られるようになったと思う。私のことは青に話していない。普通の人間と違う白髪。決して美しくはない見た目。ぶっきらぼうな性格に、お淑やかでない口調。それだのに、青は私に優しく接してくれる。それがどれほど私の支えとなっているのか、きっと青はわかっていない。

 恥ずかしいから、そんなこと言えないけどさ。

 

「全く、貴方は……萃香から伝言よ」

「頬が痛い……」

 

 目を開けようとしたとき、青の声ともう一つ聞いたことのない声が聞こえた。

 誰?

 

 薄目を開け、聞き覚えのない声の主の方をそおっと見ると、其処には紫色の服を着て金色の髪の女性がいた。同性の私からでもそう思ってしまうほど……綺麗な女性だった。

 本当に綺麗な女性。けれども、その女性がただの人間ではないことは直ぐに理解することができた。

 この人は何者なんだろう。

 

「あら?」

 

 薄目を開けた先で、女性と目が合ってしまった。

 まずいと思い、直ぐにぎゅっと目を瞑る。別に私が起きたことが見つかっても問題はないはず。けれども、どうしてかその時はそうしなければと思った。

 

「ふふっ、話を続けても良いかしら?」

「おう。んで、萃香はなんだって?」

 

 あ、あれ? 何も声をかけてこないの? 確かに目は合ったと思う。えっと、どういうことだろうか。それに、萃香と呼んでいる人物は誰? さっきからわからないことだらけ。

 私だって自分のことを青に話してはいない。だから、私の知らない青がいてもおかしくはない。けれども――何故か心が痛んだ。

 

「『今度会ったら全力でぶん殴る』萃香はそう言っていたわ」

「あ~、やっぱり怒るよな……」

 

 

「それと――」

 

 

 青の過去に何があったのかはわからない。いつも明るく無邪気に笑っているその影を私は知らない。明るく私に接してくれる青は私の影を消す。けれども、私じゃ青の影を消すことはできない。それが悲しかった。

 

 

「『ありがとう』……そう言っていたわ」

 

 

「……そっか。萃香の奴は今も元気なのか?」

「ええ、毎日楽しそうにお酒を飲んで笑ってるわ」

「そりゃあ、良かったよ」

 

 心がまたズキリと痛んだ。

 きっと青は今まで長い時を越えてきたはず。だから、私と一緒に過ごしたこの時間なんて些細な物。私にとって大きな物でも、相手にとっては些細な物になることもある。

 そういうことなのかな。

 

 

 それは――少し寂しいな……

 

 

 うん、今日はもう寝よう。

 寝れば忘れてしまうほど器用な性格ではないけれど、これ以上……この会話を聞きたくない。

 

「そう言えば、最近の貴方って随分と落ち着いたのね。青なら直ぐにでも、其処で寝ている娘に襲いかかると思っていたのに」

「失礼な。そんなことするわけないでしょうが」

 

 もう寝よう。そう決めたのは良いけれど、寝よう寝ようと思えば思うほど目が冴えてしまう。

 

「はぁ、どの口が言っているんだか……二人で旅を始めてもう一ヶ月でしょ? 青にしては珍しいじゃない」

 

 えと……なんの会話なのかな? 襲うとか襲わないとか……

 でも、あの青が私を襲うとは思えない。今までだって、そんな雰囲気は感じたことがないもの。それに青なら、たぶん私なんかよりもずっと綺麗で可愛らしい女性と知り合いだろうし……

 

 

「……俺も不思議なんだけどさ。コイツ、俺に懐いてくれているみたいなんだよ」

 

 青の声がしたと思ったら、誰かに頭を撫でられた。

 び、びっくりした。心臓の鼓動が早くなって、身体が強ばるのがよくわかる。

 

「嘘みたいだろ? こんな可愛い娘がどうして俺なんかをって思うもん」

 

 青の言葉を聞き、かあーっと顔が一気に熱くなった。な、なにを言っているのさ!

 さっきよりも強く目を瞑る。流石にこれは恥ずかしい……

 

「だから、その娘のことは大切にしているの?」

「いんや、俺が大切にしてこなかった女性なんて一人もいないよ。ただ、妹紅だけは今までの女性と違うからさ……俺だってどうして良いのかわからないんだ」

 

 うわぁぁあああ、な、なにこれ? 寝なきゃ、早く寝ないと!

 そして、さっきから青は何恥ずかしいことを……

 

 

「最近になってさ、漸く考えるようになった」

「なにを?」

 

 ま、まさか、青って私が寝ている時いつもこうして頭を撫でていたの? そ、そりゃあ悪い気はしないけれど、そんな……まさか……だって、私は……

 

 

「物語の主人公は、物語が終わった後ってどうなるんだろうな? ってさ」

「……どういう、意味?」

 

 ちょ、ちょっと青。もういい、もう頭は撫でなくていいからっ!

 これじゃいつまでたっても寝られない。

 

「よくある話。例えば、神の手によって突然現れた主人公が悪者を倒し人々を救う物語。んでさ、その主人公は悪者を倒し、人々を救った後ってどうなるんだ?」

「それって、貴方……」

 

 

「あの二人組を見て、色々と考えてみた。自分なりに、足りない頭で色々考えた。何度も、何度も。けれど何度考えたって、最終的には同じ結論しか出てきてくれないんだよ……なぁ、紫はどう思う?」

「そんなこと、私にはわからないわよ……」

 

 さっきから青と知らない女性の会話が全く頭に入って来ない。

 物語とか主人公とか、なんの話?

 

 

「ま、そりゃそうか。これもいつか結論を出さなきゃいけないんかねぇ。世知辛い世の中だよ。ホント……」

 

 

 漸く気持ちが落ち着いてきたけれど、それからは二人の間ではほとんど会話もなく、ただただ、お酒を飲んでいたみたいだった。

 

 優しく頭を撫でられるのは何故かやたらと安心することができ、いつの間にか寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

「ほい、紫。こっちの酒も一杯どうだ?」

 

「あら、気が利くのね。じゃあ、もらおう……って、そのお酒……」

 

「…………い、いや、違うぞ。決して、神便鬼毒酒を飲んで倒れた紫を襲おうとか、最近発散できていないパトスを放出しようとかそう言うことではだな」

 

 

 ぶん殴られました。

 

 ムラっときてやった。後悔はしていない。

 

 






どうしてこうなった

妹紅さんも何勘違いしているのかわかりませんが

と、言うことで第45話でした
わりとシッポリ目のお話が続いたので、そろそろ戻ってもらいましょう
あの変態、地獄に落ちればいいのに……


次話では、主人公に動いてもらうことにします
一気にいってみよー

では、次話でお会いしましょう

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