(-∀-)もこたん!
「そうだ、海へ行こう」
「別に良いけど、どうして海へ行くの?」
妹紅と一緒に旅を始めてから数週間。
その間はずっと山の中での生活を続けてきた。魚や猪を狩り焼いて食べ、また食べられそうな果実なんかもいただき、なかなかに充実した生活だったと思う。
妹紅も心を開き始めてくれたのか、最近はよく笑ってくれるようになった。いまだ、妹紅の過去に何があったのか教えてもらってはいないが。
まぁ、其方はのんびり待つとしよう。話したくないのなら別に話さなくとも問題は無い。そりゃあ、話をしてくれないってのも少しだけ寂しいけどさ。
「砂のお城作ろうぜ」
「えっ、え……お城?」
魚や肉、果実など色々な物を食べてはいるが、やはり味気ない。そう、今の料理には塩分が足りない。
「まぁ、そっちはついで。今は塩が欲しいんだ。だから海へ行こう」
「ああ、そういうことね。うん、私はいいよ」
海と言えば、水着の女の子を見るための場所であるが、残念ながら季節は秋。水着の女の子はいないだろう。まぁそもそも、この時代には水着の女の子がいないが。
寂しい時代だ。
さて、海へ行って塩を作るのは良いが、どうやって作ろうか。例え火を起こせたとしても、鍋なんかないため海水を温めることができない。むぅ、鍋くらい持ってくれば良かったな。
と、なると人里へ行かなければいけないが、妹紅嫌がりそうなんだよな。どうするかなぁ。其の辺で鍋とか落ちていれば良いが、まぁ、そんな物落ちていないだろう。
「なぁ、妹紅。塩を作るために鍋が必要だから人里へ行こうと思うんだ。それでもいいか?」
「…………」
俺の質問に妹紅は黙り込んでしまった。
やはり人里は嫌か。詳しいことはわからない。それでも、妹紅がどのような扱いを受けてきたのかはわかった。
この時代ではまず見ることのない白髪。普通の人間と外見が違うということは、それだけで差別を受けやすい。排他的な感の強いこの時代ならなおのこと。
「うん……大丈夫。良いよ人里へ行っても」
「……別に嫌なら行かなくても良いんだぞ? 何処かで待っていれば良いのだし」
そりゃあ、立ち向かうことは大切だ。しかし、逃げることがいけないと言うことは無い。どうしても立ち向かわなければいけない時以外は。
「ううん。大丈夫。きっと大丈夫だから」
まるで自分に言い聞かせるかのように妹紅は言った。むぅ、無理はしなくても良いんだけどなぁ。ただ鍋を手に入れに行くだけなのだし。
「それに……青だってこの髪を綺麗だって言ってくれたもの。だから私は大丈夫」
少しだけ頬を赤く染め、はにかみながら妹紅が言った。何この娘、めちゃくちゃ可愛い。
しっかし、そんなこと言ったかな? そう言われれば確かに言った気もするけれど、鮮明には覚えていない。まぁ、自分にとっては些細なことでも、相手にとっては大きなこととなることがある。たぶん、そう言う事なのだろう。
「そっか……うん、了解。ま、もし妹紅に変なことを言う奴がいたら、俺が全力でぶっ飛ばしてやるからさ。妹紅はどっしりと構えていてくれ」
「ふふっ、ありがとう」
どういたしまして。
ホント、よく笑ってくれるようになったよね。
きっとそれは良いことなのだろう。
人里へ行くと決めたは良いものの、生憎お金など持ち合わせてはいない。全部まとめて焼き払っちゃったもん。しまったなぁ、カッコつけて焼いたは良いけれど今は後悔しかしていない。
まぁ、今更そんな愚痴を落としたところでどう仕様も無い。お金がないのなら稼げばいいのだ。
「青ってさ器用だよね。そういう技術はどこで覚えたの?」
「大切な人から昔に教えてもらったんだよ」
捕まえた小さめの猪の処理を行いながら妹紅と会話。そう言えば、ルーミアは元気だろうか? お腹を空かせてはいないだろうか? 今でも俺のことを愛してくれているだろうか?
ルーミアとの出会いがなければ、獣の処理などできはしなかっただろう。本当に感謝しています。
本当なら、塩水でしっかり洗い血抜きをしたいところではあるけれど、そもそもこの猪を狩ったのは塩を手に入れるためだ。そこは我慢しよう。塩水の代わりになるのかはわからないが、一応神便鬼毒酒でしっかりと洗ってはみた。神のお酒で洗った肉とは随分と豪華な食材だ。
重さ20kgほどの肉を担ぎ、人里へ向かう。
そして人里の場所がわからないと言う、いつも通りのグダりっぷりではあったけれど、一度空を飛び周囲を確認すると、近くに人里らしきものを見つけることができた。
そんじゃ、ま。行くとしますか。
「いいか、妹紅。念の為、この里の中で俺と妹紅の関係は夫婦とするぞ」
「うん。わかった」
……妹紅さん、純粋なのね。青さん、妹紅が将来悪い男に騙されないか心配だよ?
ルーミアに同じことを言ったら、確実に殴られていただろう。半分は冗談だったんだけどなぁ。
「止まれ。お前たちは? それにその髪……何者だ」
人里へ入ろうとすると、門番に止められた。まぁ、そりゃあそうか。しかし、いきなり髪の色についての質問ですか。嫌になっちゃうね。穿突決めるぞコノヤロー。
まぁ、そんなことをしたらこの里へ入ることはできなくなる。此処は我慢、我慢。
「俺たちは修行中の仙人だよ。ちょいと必要な物があるから立ち寄らせてもらった。なに、別にこの里へ危害を加えようとかそんなことは思っていない」
「仙人……隣の女もか?」
「ああ、そうだよ」
なかなか入れてくれないねぇ。ホント面倒くさい。まぁ、コイツらだって怪しい奴らを中へ入れるわけにはいかないのだし、仕様は無いが。
「ふむ……まぁ、良いだろう」
うん? もう少し粘られるかと思った。仙術を見せろとか、空を飛んでみろとか。まぁ、入れてもらえるのなら良しとしよう。
「おい、女。これでその髪を隠しておけ。流石にその髪では目立ちすぎる。そのままでは、良い目はされない」
そう言って、門番が大きな一枚の布を投げ渡してきた。
何このイケメン。マジかっこいい。なるほど、確かに髪を隠せば妹紅だって普通の人間にしか見えない。始めからそうすれば良かったのか。
最初は嫌な奴と思っていたけれど、どうやらそうではなかったらしい。素敵な嫁さん見つけて幸せな家庭を作って末永く爆発しろ。
髪をまとめ、それを布で覆う妹紅。
うん、あの長く綺麗な白髪が見えなくなるのは残念だけど、今の妹紅も可愛いよ。ちらりと見える項が本当に素敵。
妹紅のためにも、人里へいる時間は短めにしてあげたい。それにこの肉、重いんだよ。さっさと売り飛ばしたい。
肉屋らしき場所へ行き、この肉と鍋を交換してくれないか頼むと、店主は快く承諾してくれた。どうやら、猪肉はかなり貴重らしく、それだけの量なら鍋1つと交換してもかなりのお釣りがつくらしい。
正直、俺にとって猪肉なぞ別に貴重でもなんでもないから、鍋をもらえればそれで良かったが、それでは店主が申し訳ないと言ったため、お酒ももらうことにした。やったぜ。
それにしても、あの猪肉は大丈夫だろうか? 神便鬼毒酒で洗ったのだし、何らかの効果がありそうだが……まぁ、気にしても仕様がないか。毒ではないはずだし。
思いがけないオマケもついてきて、気分上々なままに人里を後にした。
あとは海へ行き塩を作れば、漸く味気のない生活ともサヨナラすることができる。素材本来の味はもう十分楽しんだ。妹紅だってそろそろ、塩味が恋しい頃だろう。
「うん? どうしたの妹紅。どこか調子が悪いところでもあるのか?」
鍋も手に入れたことだし、早速海へ向かおうとしたがどうにも妹紅の様子がおかしい。こう、何かを考え込んでいるような感じだった。
「……ううん、大丈夫。ただ、人間にも色々な性格の人がいるんだなって思って」
ん……たぶんあの門番のことだろう。確かにあの門番は良い奴だった。そしてそれは妹紅にとって何かを考えさせるものだったと。
はぁ、こう言う話は苦手なんだけどな。
それでも、俺は妹紅がしっかりと生きていけるよう、手助けをしなければいけない。たまたま同じ不老不死として、それが俺の役目。
「……人間なんて腐るほどいるんだ。中には腐っちまった奴がいてもおかしくはない。さらに厄介なことに、腐った人間は周りも腐らせる。けれども、まだ腐っちゃあいない奴らだって沢山いるよ。そんな人生捨てたもんじゃないさ」
「うん……うん、そうだよね。なんかさ、ずっと一人で勝手に思い込んでた」
はぁ、と息を吐きだしてから妹紅は上を見上げた。
つられて俺も視線を上へと向ける。疎らに、そして薄く広がる鰯雲。秋ですね。
「うん、私ももう少しだけ頑張ってみる。だから、これからもよろしく青」
良い笑顔で妹紅が言った。
女心と秋の空。なんて言う言葉があるけれど、この空も心も、どうかもう少しだけ変わらずにいてくれたら嬉しいかな。
な~んて思ってみたり。
「ああ、これからもよろしくな妹紅」
さて、そんじゃま先へ進むとしましょうか。別に急ぐ必要はないけれど、今は無性に動きたい気分。
秋の空気ってのは、熱くなった顔を冷ますのにちょうど良い。お互いにさ。
「そう言えばさ。鍋じゃなくて、塩を交換してもらえば良かったんじゃない?」
……なるほど、その手があったか。どうして気がつかなかった。
「ふふっ、でもこれで青と行ける場所も増えたんだ。それはそれで良しとしておくよ」
そりゃあ良かった。秋の海に行っても、あまり面白くはないかもしれないけれど、まぁ、のんびり旅を続けましょうか。
妹紅さんの評価が上がりっぱなしで怖いです
どうしよう……
と、言うことで第44話でした
私には珍しくシッポリしているお話だった気がします
たまにはこういうお話もね
次話は海に行ってくれるでしょうか?
では、次話でお会いしましょう