(゚∀゚)もこたん!
「そう言えばさ。妹紅って今まで何を食べていたんだ? どうせ、ずっと山の中にいたんだろ?」
「何も食べなかっ……じゃなくて、えと、適当に食べてたよ。別にずっと山の中にいたわけじゃないし」
う~ん、この様子だとたぶん、何も食べていなかったんだろう。しかし、どうやら妹紅は自分が特殊な体質だと思われたくはないらしい。
ふむ、難しいな。
別に俺は、妹紅が不老不死だろうが妖怪だろうが構いはしない。けれども、どうやら妹紅の過去に色々とあったらしく、本人はそれを気にしているのだろう。まぁ、それなら俺は妹紅に対して普通に接してあげるべきだ。妹紅が自分のことを話してくれるまで。
「そかそか、了解したよ。んじゃ、とりあえず飯の確保をするか」
「うん、良いけど何を食べるの?」
ん~……そう言えば、妹紅って飯は必要ないのか? 俺は腹が減るということもないが、妹紅がどうなのかはわからない。同じ不老不死者ではあるけれど、俺と妹紅は違うのかもしれない。まぁどの道、妹紅には普通の人間と変わらないよう接すると決めたのだ。気にしても仕様が無いことではある。
さて、飯を食べようと言ったのは良いが、何を食べようか。残念ながら食べ物は何も持ち合わせてはいない。調味料すら無いと言うのが現状。
熊は……流石に嫌だよな。それに熊を狩ったところで肉が余ってしまう。猪も同じだ。
と、なると兎や魚が無難か。しかし、兎って捕まえるのが難しいんだよな。ぴょんぴょん跳んで、すぐどっか行っちゃう。
「魚でも捕まえて焼いて食べるか」
「うん、わかった」
とりあえず、魚が泳いでいそうな川でも探さないとだな。
魚と言えば水の中を泳ぐもの。水と言えば、俺の能力だ。現時点で戦闘に使うことは難しいだろうが、普段の生活ではなかなかに重宝する。生物にとって水は必要不可欠な存在。そう考えれば、この能力が使えるのもよくわかる。
さらに、神便鬼毒酒を飲んだことで、俺の能力も『水を動かす程度の能力』へと変わった。まだ、この能力に慣れてはいないが、漸く能力っぽい感じとなってくれた。
「水が……すごい」
そして、試しにと思い魚を捕まえるついでに使ってみたが、この能力、予想以上に便利っぽいです。
大きな石の下など魚が隠れやすそうな辺りの場所を、水ごと掻っ攫う。するとその攫った水の中に魚がいるため、今までのようにヌメヌメと格闘することなく、簡単に魚を捕まえられる。
妹紅もかなり驚いているが、まさかこんなことができるとは自分でも思っていなかったため、自分でも驚いている。もしかして、今の俺ってカッコイイんじゃないか?
ん~……そんなことないか、ただ水を動かしただけなのだし。
さて、魚を捕まえたのは良いが、この魚をどうしようか。一応、小刀はあるため内臓を取り出すことはできるが、火を起こすのが大変。起こせないことはないが、如何せん時間がかかる。
「なあ、妹紅。火を起こせる道具とか持ってないか?」
打鉄でも持っていてもらえると助かる。チャートなどは其の辺に落ちているだろうし。
「えと、道具は持っていないけど……火なら起こせると思う」
うん? そうなのか? どういう意味なのかよくわからないが、それは助かる。火のある生活と、火のない生活では雲泥の差。
これで、火すら起こせない原始的な生活ともおさらばだ。
「了解。んじゃあ、火は任せるわ」
「うん、頑張ってみる」
さてさて、火を起こすとはどういうことなんでしょうね?
「あ~……うん、もうちょっと火力を落として良いかも」
「ご、ごめん。まだ上手く抑えられなくて……」
とりあえず火のつきやすい枯れた松の枝や落ち葉などを集め、その周りに枝を通した川魚を並べたが……
川魚が燃え尽きた。
綺麗な色してるだろ。魚なんだぜ。それ。まぁ、今はどう見ても炭だが。
むぅ、これはちょっと食べられそうにない。料理において焦げだけは取り返しがきかないのだ。
どうやって火を起こすのか見ていたら、妹紅の手から炎が吹き出した。
えっ、何コレ。どうなってんの? と、思わず凝視してしまったが、吹き出す炎は一向に収まる気配がない。おやおや? ちょっと妹紅さん? 魚焦げ始めてますよ、なんてことを思っていたが、相変わらず強烈な炎を出す続ける妹紅。そして、魚が真っ黒になったところで、水を創造してかけてあげた。
ふむ、どうして炎を出せるのかはわからないが、たぶんそう言う能力なのだろう。扱いきれていないところは残念であるが、そんなのは練習すれば良いのだ。俺みたいにいくら練習したところで、水を出す程度が限界の能力よりよっぽど伸びしろがある。
「妹紅はどうして炎を出せるんだ?」
「襲われた時からできるようになった。私もどうして出せるのかはよく、わからない……」
ピンチになった時、自分の中の秘められた力が覚醒したとかそう言う話だろうか? それは羨ましい話だ。
俺の場合、崖から突き落とされた時も、熊に殴り殺された時も、幽香に刺殺された時だって、そんな力が覚醒することはなかった。俺には秘められた力がないってことなのかね?
さて、炭を食べるわけにもいかないし、もう一度川魚を捕まえましょうかね。
川でまた4匹ほどの魚を捕まえ、今度は炭にならないよう、妹紅には一度別の場所で火を起こしてもらい、その火を移すことで安全な火を確保した。妹紅の抑えきれない炎を俺は消すことができるわけなのだし、俺と妹紅の相性は良いのかもしれない。もういっそ、結婚してくれないだろうか。
焼き魚だけと言うのも寂しく思ったため、近くにあった山柿も取っておいた。柿が赤けりゃ、医者青く。栄養は満点だ。
魚から出た脂がパチパチと弾け、なんとも良い香りがする。俺も久しぶりの食事だ。
「ほい、お一つどうぞ」
「ありがとう」
とりあえず、焼けた魚を妹紅へ渡す。
塩などの調味料は一切なく、ただ魚を焼いただけ。素材本来の味が一番美味しいなんて言うけれど、やはりそうは思えない。俺も食べてみて思ったが、熱い脂からは仄かに甘味を感じ、柔らかい肉は確かに美味しい。けれども何かが足りない。やっぱり調味料ってのは大切だ。
今度、海に行って塩を作ってみようかな。このまま味気ない生活を続けるのは少々寂しい。
そんな、なんとも物足りない料理であったが――
「うん、おいしい……おいしい」
なんて妹紅は言って、一生懸命焼き魚に齧り付いていた。
きっと、今までの生活では碌な物を食べていなかったのだろう。俺みたいに食事を必要としない者は、意識しないと忘れそうになってしまうが、食と言う文化は大切なのだ。
4匹ほど捕まえた魚は1匹だけ俺がもらい、残りは全て妹紅に渡した。どうか、今ばかりは沢山食べてくださいな。
先程取っておいた山柿も妹紅に渡し、俺も一口。
径が8cmほどのそれを囓ると、舌がひっつくような猛烈な渋さが口の中に広がった。思っていた通り、やはり渋かったか。こりゃあ、渋抜きをしないと食べられそうにはない。渋抜きって日本酒でできたかな?
あまりの渋さに山柿を吐き出し、神便鬼毒酒を飲み口直し。
妹紅の様子を確認すると、そちらもやはり渋柿らしくなんとも言えない表情をしていた。確認してからのが良かった。ごめんね。
「……甘くないね」
「人生なんてそんなもんだろ」
俺らみたいなはみ出し者ならなおさらだ。まぁ、人生甘くはないのなら柿くらいは甘くあって欲しいけどさ。
妹紅がお酒を飲むのかわからないが、持っていた神便鬼毒酒を渡した。ま、これでも飲みなよ。
「これは?」
「神様のくれたお酒。味は……まぁ、イマイチだけど口直しにはちょうど良いだろうさ」
「私、お酒飲むの初めてだ」
あら、そうだったのか。そりゃあもったいない。
恐る恐るといった感じで、妹紅は瓢箪に口をつけ、ゆっくりと瓢箪を傾けた。
間 接 キ ス い た だ き ま し た 。
まさに、計画通り。渋柿を渡し、極々自然な流れでお酒を渡して口をつけてもらう。後は瓢箪を返してもらい、俺が口をつけるだけ。そんな完璧な作戦。
「けほっ……お酒って飲みにくいのね。美味しくはないかも」
「最初なんてそんなもの。そのうち美味しく飲めるようになってくるよ」
やばい、やばい。これはテンションめっちゃ上がる。萃香なんかとの間接キスはよくあったが、妹紅とは初めて。可愛い少女との間接キスともなれば、やはり嬉しいものがある。
いかんいかん。頬が緩まないよう気をつけなければ。後はあの瓢箪に俺が口をつけるだけで良いのだ。たったそれだけで、この先も希望を持って生きていける。
「むぅ、私にはまだ早かったのかな。ありがとう、これ返すね」
そう言って、妹紅は飲み口の部分を袖で拭ってから俺に瓢箪を返してくれた。
……うん、まぁ、人生なんてそんなもんだろ。
悲しさを紛らわすために囓った柿はやはり渋かった。
と、言うことで第43話でした
どうやら、まだ妹紅さんに主人公の残念さはバレてなさそうです
むしろ、評価は上がってそうですね
次話は、そろそろ動いてもらいたいですが……
では、次話でお会いしましょう