東方拾憶録【完結】   作:puc119

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(・∀・)もこたん!




第42話~いくら変態と呼ばれても~

 

 

「血が……ねぇ! 大丈夫!!」

 

 少女の声が届いた。

 薄れゆく視界には真っ白な長い髪。

 

 どうやら、随分と格好の悪いところを見られてしまっているようだ。太腿や脇腹から流れ出る血液は止まる気配がなく、この出血量で助かるとは思っていない。

 どうせ俺は死んでも生き返る。けれども、今会ったばかりのこの少女はそんなことを知らない。なんとか……なんとか安心させてあげないと。

 心配はいらない。大丈夫だって伝えてあげないと。

 

 体温は下がり続け、既に意識なんて飛びかかり、あの真っ白で綺麗な髪も見えなくなってきた。手足に力なんて入らず立ち上がることもできないだろう。

 それでも、この少女を安心させてやるくらいの余力は残っているはず。

 

 最期の力を振り絞れ!

 

 

「どうか……どうか、口汚く罵りながら、踏んでもらえないだろうか?」

 

 

 ……なんか、思っていたのと違う言葉が出てきたが、まぁ、アレだ。死にかけているせいで、生物的本能とかそう言うのが目覚めたのだろう。

 目覚めた本能の結果出てきた言葉が、アレと言うのも悲しい気もするが。

 

 そして、俺の意識はゆっくりと沈んでいった。

 

 さて、あの世界はどうなっているのやら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 目が覚めると其処は先程、俺の意識が消える前に見たソレと全く同じ景色だった。

 あれ? あの灰色の世界じゃないのか? これは現実……だよな。

 

 どういうことなのか理解はできないが、痛みもなく、ちゃんと手足に力も入る。つまり五体満足。それは幸せなことだ。

 

「えっ……目が覚めたの? どういうこと? だ、だって貴方、さっきあんなに血が……」

 

 再び聞こえてきた少女の声。

 う~ん、どうしてあの世界へ行かず、いきなり復活できたのかはわからないが、悪いことではないだろう。

 もしかしたら、もうあの世界へは行けないのかもしれないな。まぁ、あの彼女のいない世界へ行ったところで意味などは無いが。

 

 寝ていた身体を上げ、起き上がってから土などを叩いて落とす。やはり、身体におかしいところは見受けられない。

 

「やあ、お嬢さん。初めまして」

「あっ、うん。初めまして……」

 

 できる限りの笑顔で目の前の少女へ声をかける。

 第一印象こそなんとも格好の悪いものとなってしまったが、大丈夫。まだ取り戻すことはできるはずだ。

 

 少女の容姿で一番目に付いたのは、やはりその真っ白な長い髪だった。少女の髪として、この時代ではまず見ることのできない色。妖怪や、神々の髪の色は色鮮やかであったけれど、今まで会ってきた人間でこのような髪色は見たことがない。そして、この少女の髪は見とれるほどに綺麗だった。

 人間……ではないのか? そもそも、どうしてこんな山奥に可愛らしい女の子が一人でいると言うのだ。山の中は危険がいっぱい。熊怖いよ、熊。服装はボロボロだから、何か訳はあると思うが。

 

「それで……貴方は何者、なの?」

 

 たぶん、死んだと思った俺がこうやって普通に生きていることが疑問なのだろう。まぁ、血塗れで倒れていた人間がいきなり立ち上がったら驚くよな。

 

「名前は青。色々とあってさ、不老不死なんだ。周りの人間からは、へん……仙人と呼ばれているけどね」

 

 しかし、それももう昔の話。今では妖怪の味方をした者として、京では噂になっているだろう。とはいえ、人の噂も七十五日とも言うし、あと2ヶ月半ほどしたら戻ってみるのも良いかもしれん。なんてね。

 

 さて、そんな俺の話は別に良いのだ。今、気になっているのはこの目の前にいる少女が何者なのかと言うこと。

 

「それで、こんな山奥に一人でいる君は何者なのかな?」

「…………」

 

 だんまり、か。まぁ、他人に話したくないことくらい、いくらでもあるだろう。俺だって初対面の人に『貴方の詳しい性癖を教えてください』とか言われたら、黙ってしまう。

 相手が女の子なら嬉々として話すが。

 

 それにしても、名前くらいは教えてくれても良いのではないだろうか。それとも、名前を知られるだけで色々と困ることがあるってことなんかねぇ。

 

「貴方は、どうして不老不死になったの? 貴方も蓬莱の薬を?」

 

 むぅ、俺の質問には答えてくれないのに、君は質問するんだな。でも、いいさ。可愛い女の子だから許しちゃう。

 しっかし、蓬莱の薬ねぇ。なんとも輝夜を思い出すような単語じゃないか。この地球にいるらしいが、あの俺の婚約者は何処へいるのか……

 

 てか……うん? さっき、『貴方も』って言ったか? それじゃあ、まるで他にも蓬莱の薬を飲んだ者を知っているように聞こえるが……いや、俺の考え過ぎか。

 

「いや、そんな薬は飲んでいないよ。元々そう言う体質なんだ」

「そう……」

 

 俺の答えに、少女は何処か悲しそうに返事をした。そんな、悲しまれても困るのだが……

 

 どうしようか、会話が続かない。せっかくの可愛らしい女の子との会話だと言うのに、先程から下ネタしか浮かんでこない。ここで、渾身の下ネタをかましてみるのも吝かではないが、きっとドン引きされる。

 

「せめて、君の名前だけでも教えてくれないかな?」

 

 まず、お互いを知ることから始めよう。それがコミュニケーションの基本だ。

 

「……藤原妹紅」

 

 そう言って、漸く少女がその名前を口に出してくれた。

 藤原妹紅……その名前には覚えがあった。それは、俺の残してくれたあの手紙に書いてあった名前と、一致する。

 

「ああ、もこたんか」

「も、もこたん……?」

 

 確か、迷いの竹林と言う場所に住む不老不死の人間だったはず。この世界に来て俺が出会った二人目の不老不死者。なるほどね、それで『貴方も』か。

 目の前の少女が誰なのかわかったのは良いが、じゃあ何故妹紅がこんな山奥にいるのかはわからない。いくら不老不死とは言え、少女一人で暮らしていけるほど山の中は甘くないのだ。だって熊怖いもん。

 

「それで、青は何をやっていたの? 大怪我をしていたみたいだけど」

「熊畜生の目の前でサイドステップしていたら返り討ちにあった」

 

 完全に不意打ちだったね。汚いさすが熊汚い。俺はこれで熊きらいになったなあまりにもひきょうすぎるでしょう?

 まぁ、どう見ても俺の自業自得だが。それに熊は元々嫌いだ。

 

「へ、へ~……そうなんだ」

 

 あかん、もこたんが若干引いてる。しまったな、辛くも勝利を得られたが熊との死闘により怪我をしてしまっただけだよ。とか言っておけば良かった。それもそれで、おかしな話であるが。熊との死闘ってなんだよ。

 

「んで、もう一度聞くけど妹紅はどうしてこんな場所に?」

 

 まさか熊と戦いに来たわけでないだろう。普通の人はそんなに熊と会わないし。それに、もし会ったとしても普通の熊なら逃げるはず。俺が出会う畜生共の気が狂っているだけで、熊とは本来臆病なはずなのだ。

 

「…………」

 

 相変わらず、その質問にはだんまりな妹紅。どうしたものか……

 これは困ったな。話したくないのなら、俺から詳しく聞くことはやめておいた方が良いだろう。しかし、もし何か困っていることがあれば助けにはなりたい。相手は大切な東方キャラでしかも可愛い女の子なのだ。

 それでも、何かを話してもらわないと、俺には何もできない。

 

「青はさ……周りの人と違うことで色々言われたりすることはなかった?」

「うん? そりゃあ、あったよ。会う人皆から『この変態!』と罵られたさ」

 

 朝の挨拶のついでに、商品を渡したお礼と共に、お別れの挨拶に一言添えて、会う人去る人皆から変態変態と言われ続けた。

 

「へ、変態? え、えと……それは、青にとって辛いことじゃなかったの?」

「まぁ、嬉しいことではなかったかな。俺だってできれば普通に呼んでもらいたかったよ」

 

 一度で良いから綺麗なお姉さんに、あら素敵な人ね。とか言われたかった。それが老若男女関係なく皆から変態呼ばわりだ。

 何度も泣きそうになったし、実際泣いていたかもしれない。

 気にしなかったと言えば嘘となり、もっとやりようがあったんじゃないかとも思っている。

 

 

 それでも――

 

 

「それでも、これは俺の選んだ道なんだ。だから俺はその道を胸張って歩いて行くよ」

 

 

 いくら他人から変態と言われ続けても、胸張って、虚勢を張って、意地張ってそうやって生きてきた。これからもそうやって生きていく。

 

 妹紅の質問の意図くらいわかっている。きっと妹紅は自分の特殊な体質ゆえに辛い経験をしてきたのだろう。じゃあ、自分と同じ不老不死者はどうだったのか? そんなことを聞きたかったと言うことだと思う。

 なるほどねぇ、それで妹紅はこんな山奥に一人で、と言うことか……こんな可愛い女の子がそんなことになるとは……それは、悲しい世界だ。

 

「青は強いね……私にはそれができなかった」

 

 俺は強くなんてないだろ。ただ周りに恵まれていただけ。死ぬ度に彼女から励まされ、隣に居てくれた少女たちからは一歩踏み出す勇気をもらい続けた。

 彼女たちがいなければ、今の俺はいない。そんな弱い人間なことくらいわかっている。

 

 それに、妹紅だってそうやって生きていきたいのなら、今からそうすればいい。時間なら充分にあるのだ。遅すぎるということはないはず。

 大丈夫、君みたいな可愛い女の子ならきっと救われる。そうじゃない世界なんて間違っている。もしこの世界が可愛い女の子に厳しい世界だと言うのなら、俺がぶっ壊す。

 

「青は今、何をしているの?」

「旅をしているよ。目的地も決めず、ただフラフラと歩き続けるだけの旅を」

 

 けれども、そろそろ目的地くらいは決めた方が良いのかもしれない。良い加減、山の中だけを歩くのも飽きてきたところ。

 

「……私も、その旅に連れて行ってもらっても良いかな?」

 

 妹紅からの提案。その提案に拒む理由など何もない。

 

「もちろん、よろこんで歓迎するさ。よろしくな妹紅」

「うん、これからよろしく。青」

 

 そう言って妹紅は漸く笑ってくれた。

 うん、良い笑顔だ。

 

 






妹紅さんの主人公への評価は高そうですが、それがいつどん底まで落ちることやら……

と、言うことで第42話でした
主人公を一人だけにしておいてもクマさんとしか戦ってくれないので、なんとか妹紅さんには我慢してもらいたいところです
クマさん関係のお話も気に入ってはいますが……


次話はきっと妹紅さんと一緒に旅をするお話

では、次話でお会いしましょう

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