「別に燃やさなくても、良かったんじゃない?」
目の前には、高々とした火柱を上げながら燃える一軒の家。
うむ、やはり木造住宅はよく燃える。見ていて気持ちが良い。
壁が崩れ、屋根が落ち、柱は倒れる。自分たちで建てた家。それなら、この家の最期だって自分でやるべきだ。
「もうこの場所には住めないからな。それならこの家も必要ないよ」
あの二人と別れた後、暫くの間あの二人の思い出に浸り、それからルーミアと山を下りることに。二人のお墓を作ることも考えたが、それは違う気がしてやめておいた。
消えてしまったけれど、俺の心の中であの二人は生きている。なんて青臭いことは思えないが、それでも何処かで見守っていてくれれば嬉しいかな。
「そうなの?」
太陽が登り始めた頃自分の家へ着き、もしかしたら俺の家に頼光たちがいるのでは? と思ったが、どうやらちゃんと起きることができ、何処かへ行ってしまったらしく俺の家の中には誰もいなかった。
人間を裏切り、妖怪を助けてしまったのだ。それでも人間と共に暮らしていこうなどと言うのは、流石に無理がある。俺が萃香達を助けた噂は直ぐに京中に広がるだろう。そうすれば、この家だって壊されてしまう。
それならいっそ、と思い俺は自分の家に火をつけた。
「そう言うものだよ」
それに、意気地の無い俺はこれくらいしなければ、前へ進もうとしない。立ち止まらせないために、我武者羅に進ませるために、これくらいはしないと。
「あんたはこれからどうするの?」
「旅に出るよ。色々な人と会って、色々な物を見てくる旅に」
残された課題は4つ。それもクリアしていかないとな。
因みにだが、次の課題は、
『課題7,「正体不明の正体を暴け」』
だそうだ。意味わからん。
なんだよ、正体不明って。東方キャラの中に、この課題に当たりそうなキャラも思いつかず、割りと手詰まり。あの二人が消えてしまう前に聞いておけば良かったね。まぁ、今更どうすることもできないが。
「ルーミアはどうする? 俺と一緒に行く?」
「ううん。一人で頑張ってみる」
……そっか。
うん、それなら俺は止めない。そりゃあ、一緒には来て欲しいし結婚してほしいが、ルーミアが頑張ると決めたこと。それなら俺はそれを応援するだけだ。
いくら昼間とは言え、家一軒丸ごと包む炎は壮大な物。
あの二人が何処へ消えてしまったかわからないが、少しでも良い場所へ行けるよう、この炎が送り火となってくれれば俺は嬉しいかな。
ありがとう。さようなら。
さて、火が消えたら出発するとしようか。目的も決めず、何処へ向かうのかもわからないが、今はとにかく進み続けよう。
自分の家が炭と灰だけとなってしまった頃、ふと思った。自分で勝手に決め、勝手に燃やしてしまったが、この家って萃香の家でもあるんだよね……
うん、まぁ、大丈夫。きっとアイツもわかってくれるさ……たぶん。
火がしっかりと消えてくれたことを確認。既にルーミアは旅へ出てしまい。今は一人だけ。
さて、これからどうするか。萃香たちがあの後どうなったのか気にはなるが、今更、会いにも行き辛い。結果として俺は萃香を助けたわけだが、それまで萃香を退治しようとしていた人間と一緒に行動していたのだ。そのため、どうにも萃香とは会い辛かった。
諏訪へ行くことも考えたが、妖怪の味方をしてしまった者が会いに行けば、諏訪子たちだって迷惑だろう。神様ってのは人間の味方なんだ。その人間を裏切った俺。やはり会いにはいけない。
「う~ん、どうするか」
あまり、この場所にいるともしかしたら人が来てしまうかもしれない。それは少しばかり面倒だ。そろそろ動かなければ。
ま、山の中でも歩いていれば、何か発見があるだろ。気楽に考えよう。
それじゃ、そろそろ行きますか。
日はまだ高く、出歩くのには良い時間。天気も晴れ。何か良いことありそうだ。
いつもの外套と、幽香の傘。それと『神便鬼毒酒』の入った瓢箪のみでほとんど手ぶらと言っても良い状態で旅へ出る。
ああ、手ぶらと言っても胸部を手で隠したあの魅力的な姿のことではないからね。それに、あれを男がやっても、ただただ気持ち悪いし。女性がやるからこそ魅力的なんだ。
これでこの場所ともお別れ。つまりあの熊畜生ともお別れと言うこと。もう、会うことはないだろう。名残惜しくなんてないし、むしろ清々しい気分にしかならない。殴られ、蹴られ、噛み付かれ何度も殺された。何度も、何度も。
ただ、まぁ……なんて言うか、そんなに嫌いではなかったよ。ま、そんな言葉すらお前みたいな畜生には届かないんだろうけどさ。
目指す場所なんてないけれど、今はただ後ろなんて振り返らず前へ進もう。
――――――――
「ふふっ、可愛い奴よのう。ほれほれ、こっちだこっち」
目の前には体長2mもいかない熊畜生が一匹。
『ぐわぁーぐわぁー』言って、必死に俺に攻撃を当てようとする仕草はとても愛くるしい。
2足歩行することも空を飛ぶこともなく、できるのはただ俺に熊パンチを食らわせようとするだけ。全く持って当たる気がしない。
霊弾を一発当てれば『くぅー』とか言って逃げ出し、攻撃を避け続ければとぼとぼと帰っていく姿など、可愛らしいこと此の上無い。
なんだよ、熊ってこんなに可愛らしい生物だったんだな。きっと、俺の家の近くに住み着いていたあの畜生がおかしかったのだろう。
だって普通の熊、空飛ばないもん。
旅を始めてから既に一ヶ月。いまだ目的地も決めず山の中をフラフラと歩く日々。出会うのは猪や熊などの畜生ばかりで、人間と出会ったことはない。
最初は、熊と出会えば直ぐに逃げるようにしていたが、たまには戦闘をしてみるのも悪くはないと思い戦ってみることに。
しかし、だ。どうにも熊の動きが遅い。突進など当たる気はしないし、噛み付きや熊パンチも隙だらけ。それで、試しにと思い霊弾を放てば悲しそうな鳴き声を残し逃げていく。
俺が強くなったと言うことなのか? あれだけ恐ろしかった熊が、今ではただの愛玩動物にしか思えない。
それからは、熊畜生と出会う度にじゃれて遊んでみることにした。熊可愛いよ、熊。何処かの体長4m近いローリング・ソバットを決めてくるあの化物とは大違いだ。
本当なら可愛い女の子と、きゃっきゃうふふといきたいところではあるが、可愛い女の子どころか人間とすら会えない毎日。そのため、熊とじゃれつくのも仕方が無いと言うもの。
正直に言おう。暇なんだ。
そんなわけで、今日も今日とて熊とじゃれあう日々。野生の熊を呼び寄せると言う、この謎体質のおかげで遊び道具には事欠かない。熊相手に『ふふっ、捕まえてごらーん』とかやっている人間の姿は、傍から見ればさぞ奇っ怪だろう。
けれども仕方無いのだ。他にやることもない。暇は人を殺すのだ。
そして、そんな阿呆みたいなことばかりをしていたせいか、野生の熊を完全に舐めていたせいか、ついにやらかした。
人間、一度失敗をしなければ学んではくれない。つまり、そう言うことなのだろう。
一対一なら野生の熊如きに遅れを取ることはない。そう、一対一なら負けることはないだろう。熊を呼び寄せるこの謎体質。その呼び寄せる熊が一匹だとは限らない。
熊畜生の目の前で、攻撃を避けながら華麗なサイドステップを行い『ねぇねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち?』と煽っている時だった。焼けるような痛みが右足の後ろ腿に走ったのは。
此処一ヶ月忘れていた痛み。バランスを崩し倒れこみ、後ろには一匹の熊畜生の姿。これはちょっと、やばいな。
そして、煽っていた熊からは脇腹を噛み付かれ、さらにあの鉄生臭い匂いが広がった。
ヤバいヤバい、ちょっと調子に乗りすぎた。
慌てて、霊力で身体強化。霊弾を飛ばし畜生共を威嚇しながら、歯を食いしばり、なんとか痛みを誤魔化して腕の力で起き上がる。
そして脇腹を右手で抑え空を飛び、どうにかその場から逃げ出した。どう見ても俺の自業自得。熊を煽っていたら殺されたなど笑い話にもならない。
数分ほど血を零しながらも、ふらふらと飛び続けたが流石に限界。何処なのかもわからない場所で倒れ込んでしまった。
もう、血が足りない。少しずつ体温が低下し、ぼやけ始める視界。
たぶん、これは助からないだろう。
あの灰色の世界に行っても彼女はもういない。死ぬことに慣れてはいるが、一人ぽっちってのはやはり悲しい。
ま、仕様が無いか。
そして、ゆっくりと目蓋を閉じようとした時、その声が聞こえてきた。
「血が……ねぇ! 大丈夫!!」
少女の声。ぼやけた視界の先に、長い真っ白な髪が見える。
俺と藤原妹紅との初めての出会いはそんな形となった。
ほい、後半スタートです
とうぶんは妹紅さんにあの変態の犠牲となってもらいましょう
と、言うことで第41話でした
次の課題まではあと170年ほど
彼には何をしてもらいましょうか?
次話は妹紅さんとのお話っぽいです
では、次話でお会いしましょう
妹紅さんの口調どうしよう……