東方拾憶録【完結】   作:puc119

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ちょっと休憩です




第40話~さようなら さようなら~

 

 

 外に出ることが久しぶりで、こうやってまた自分の足で歩けることが嬉しいのか、楽しそうに星空の下を歩く緑の彼女。

 幽々子の時も外へ出てはいたけれど、あの時は一瞬だったしな。

 

「随分と久しい感覚じゃ。懐かしい」

 

 土の感触を確かめ、周りに生えている草木に触れ、その都度嬉しそうに言葉を落とす。永い間、外へ出ることのできなかった者にしか彼女の気持ちはわからないだろう。

 この彼女が、どれほどの時間をあの灰色の世界で過ごしてきたのか俺にはわからない。それでも、こうやってまた彼女が外へ出られるようになったことは、きっと良いことだと思う。

 

「そういやさ、こうやって適当に歩いているけど君はあの郵便屋の場所ってわかるの?」

「うん? いや、わからんよ」

 

 ……ああ、ただ燥いでいただけなのね。

 最初に歩きだしたのは俺だけど、その後、やたら自信たっぷりに先を歩いていたからてっきりあの郵便屋の場所を知っているのかと……そもそも、彼女は俺が郵便屋と会おうとしていたことをわかっているのか? この調子では、それも怪しい。

 

 はぁ、どうすっかな。

 郵便屋はまた会おうと言っていたし、此処に来てはいると思うが……

 だいぶ、下の方へ下りてしまったけれど、やはり鬼たちのいた場所へ戻った方が良いのか? あの郵便屋、直ぐ迷子になるしなぁ。心配だ。

 

「今晩は。青さん」

 

 そんなことを考えていると、あの郵便屋の声が届いた。

 どうやら今回は迷子にならず、ちゃんと来ることができたらしい。

 

「や、今晩は」

 

 其処には、郵便屋とルーミアの姿が。なるほどルーミアも一緒だったのか。たぶん、一人だと迷子になっていたんだろうな。

 

 

 さてさて、どうやらこれで漸く俺のやらなければいけないことの最後も終わらせることができそうだ。何処かで終わってしまった物語を、ちゃんと終わらせることができる。

 

「や、久しぶり」

「久しぶりじゃな」

 

 郵便屋と彼女の会話。きっとそれは、途方も無い時間をかけての再会。

 どうしようか。やはり俺はいない方が良いのかな? せめて、この時間くらい二人だけにしてあげた方が良いのだろうか?

 

 いや……最期なんだ。ちゃんと見守っていてあげよう。彼女を連れ、郵便屋と会わせた俺にはその義務があるのだから。

 

 

 

 

 ――良い天気じゃな。

 

「お前はそのセリフばっかだね」

 

「気に入っておるからな」

 

「はぁ、俺がどれほど探したことか……世界を越えるのは流石にやりすぎでしょ?」

 

「ふふっ、お主は直ぐ迷子なるしのう。今回はよう頑張ったな」

 

「大変だったんだぞ。俺がお前を探す旅に出るって言ったら幽香には泣かれるし、諏訪子には襲いかかられるし、えーりんは怖いし……」

 

「まぁ、こうしてまた会えたんじゃ。それだけで十分じゃろ」

 

「ホント、お前は自分勝手だよなぁ……」

 

「誰かさんの影響でな」

 

「相変わらずの減らず口なことで」

 

「はっ、お主にだけは言われたくないわ。どうじゃ? 再会のキスでもしてやろうか?」

 

「いらんわ、気持ち悪い」

 

「……ひねくれ者」

 

 

「まぁね…………うん、おかえり」

 

「ああ、ただいま」

 

「あの時さ、言えなかったから今、言っておくよ」

 

「うん?」

 

 

 ――お前と出会えて良かった。ありがとう。

 

 

 

 

 この二人の関係は、やはりわからない。何があって出会い、何があって別れたのか……どんな旅を続け、どんな世界を越えてきたのか。

 

 ――其処に、どれほどの時間がかかっていたのか。

 

 漸くだ。薄々とだが、今更になって漸くわかった。

 この物語はバッドエンドだ。転生して、世界を越え、それでも続いてしまったこの物語の終わりは、救われることないバッドエンドだ。

 そんなことが自然とわかってしまった。

 

「青、お前さんにも迷惑をかけたな。助かったよ」

「ん、気にすんな。君には色々と助けてもらったんだ。返しきれないくらいの恩がある」

 

 きっとこの彼女がいなければ、クリアできた課題は今の半分もいかないだろう。そして、あの郵便屋がいなければさらに、その数は減る。

 周りの人に助けられてばかりの人生。逆に俺は今まで、どれくらいの人を助けることができたのだろうか?

 

「この後、君は?」

「まぁ、消えるじゃろうな。正直、もう限界じゃ。お前さんのことは気になるが、流石に最期まで見届けることはできん。ここらで消えるのが一番じゃろうよ」

 

 そっか。やはり、君は消えてしまうのか……あの灰色の世界も寂しくなるな。

 ありがとう。君と出会えて良かったよ。

 

「あんたも……消えちゃうの?」

「そうだね。大丈夫、ルーミアちゃんなら一人でも生きていけるよ。それに青さんだっているんだ。心配することはないでしょ?」

「あの変態とか、心配することしかないよ……」

「ふふっ、あまり変な物を食べてお腹を壊さないようにね」

 

 出会いがあれば別れがあるもの。そればっかりは避けることができない。きっとそう言うことなのだろう。

 この二人の物語が良い物だったのか、俺にはわからない。きっと俺が想像している以上の経験や、体験をしてきているはず。けれども、こうして二人は再会することができ、終わりを迎えることができた。そんな物語がバットエンドなはずはない。

 

 お疲れ様でした。

 

 貴方たちのおかげで俺は今、此処に立っていることができます。

 貴方たちのおかげで此処まで来ることができました。

 

 

 

 

「さて、と。そろそろ逝こうかのう。お前さん、ちょいとこっちを向け」

 

 彼女の言葉に従い、其方へ顔を向ける。

 これでお別れ、か。寂しくなるな。彼女とは死ぬ度に言葉を交わした。それが、どれほど俺の救いになったことか。彼女があの世界にいなければ、きっと俺の心は折れていた。

 本当に、感謝している。

 

 

 ――そして、俺の右頬に柔らかな何かが触れた。

 

 

 えっ……?

 

「もらっておけ。今のお前さんには必要はないが、きっといつの日か役立つ日が来るじゃろうよ」

 

 えっ、あっ……えっ? 今、君は何を?

 

「これでもう会うことはないでしょう。どうか、貴方の人生が幸せなものとなるよう、心から願っています……胸張って生きてください。きっと貴方なら、あの幻想郷の少女達を救うことができるはずです。それでは、さようなら」

 

 郵便屋の言葉が聞こえ、慌てて其方を振り向いたが、既に彼はいなかった。そして、緑の彼女の姿もやはり消えていた。

 

「……行っちゃったか」

 

 何処へ行ってしまったのかはわからない。それが天界や冥界と呼ばれる場所か、はたまた本当にただ消えてしまっただけなのか……最期の最期まで、あの二人が何者なのかはわからなかった。俺と同じような転生者なのか、それとももっと違う存在なのか。

 

 

 さようなら。

 どうか、きっとお元気で。

 

「終わっちゃったなぁ……」

 

 これで一つの物語は終わった。ただ、会って一言を言いたかっただけの物語。本当は、もっと会話をしていたかったのかもしれない。もっと一緒にいたかったのかもしれない。

 

 それでも――

 

「笑ってたもんな。あの二人」

 

 だから、きっとこれで良いのだろう。俺も最期は笑いながら物語を終わらせられるのだろうか?

 

 

 これで残されたのは俺の物語だけ。

 

 

 さて……もう一度、言っておこう。この物語はバッドエンドだ。この世界を越え記憶を拾い集めるための物語は、救われることのないバッドエンドで終わる。

 あの二人の物語のように綺麗に終わることもなく、ただただ救われずに終わる物語。

 

 あの二人を見て、それだけは、はっきりとわかった。

 

 ホント、人生上手くはいかないね。

 

 






ようやっと、中途半端に終わったお話を終わらせることができました
これで、この作品の前半部分は終了です

と、言うことで第40話でした
オリキャラは主人公だけとなり、少しばかり寂しくなります
あの二人は好きだったんだけどなぁ

この作品の終わりも漸く決めました
あとはそこへ向かっていくだけです

次話は……むぅ、どうなるんでしょうね?

では、次話でお会いしましょう

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