東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第37話~一撃必殺~

 

 

「それが、貴方の選ぶ道ですか……ふふっ、それは辛く険しい道のりとなりますよ。それでも良いのですか?」

 

 覚悟なんてありゃしない。きっと後悔だってするだろう。それでも、可愛い女の子ってのは救われなきゃあダメなんだ、そして、それをできるのが俺だけだって言うのなら、俺がやらなければいけない。

 自分のことは後回し。いつだって、俺の世界は可愛い女の子を中心に回ってきた。

 

「歩く道なんて、それくらいの方が面白いだろ?」

 

 平坦な道のりは歩きやすい。けれども人生、山の中歩くくらいがちょうど良いのだ。大丈夫、山道は歩き慣れている。

 熊は怖いが。

 

「わかりました。この先、貴方の歩む道のりが良いものとなるよう、僕は願っています」

「貴方は一緒に行かないのか?」

「ん~……僕は鬼の方々に顔を知られていますので、行かない方が良いと思います。わちゃわちゃしちゃいそうですし」

 

 そう言って笑いながら郵便屋は応えた。その感情はやはり読み取れない。

 そう言えば、そんなことも言っていたかな。まぁ、それなら仕方が無い。この郵便屋がいてくれれば心強いが、どうやら自分だけで頑張らなければいけないみたいだ。

 

 酒呑童子を……萃香を救うと決めた。つまり俺は、あの頼光たちと戦わなければいけないと言うこと。相手は少なくとも5人以上。俺はあの熊畜生にすら歯が立たないと言うのに、勝てるかねぇ? 向こうには、熊に跨りお馬の稽古なんてしちゃう奴がいるってのにさ。どんな化物だよ。

 

 鬼たちと一緒に戦えば、そりゃあ勝てるだろう。けれども、俺は課題のために『神便鬼毒酒』を飲む必要がある。そのため、鬼たちと一緒に戦うのは難しいだろう。そりゃあ、機会があれば『神便鬼毒酒』を先に飲んではおきたいが、それは難しいと思う。

 それに、萃香とは面識はあるがその他の鬼と俺の間に関係は何もない。見ず知らずの人間が一緒に戦ってくれと言っても信用はされない。

 

 ……あれ? これけっこうヤバくない? どうせ向こうは全員刀持ちだろう。それに対して此方は素手。一瞬で斬り殺される未来しか想像できない。

 とは言っても、今更刀の練習をしたところで意味はないだろうし、その他に使えそうな物と言っても幽香からもらった傘くらいだ。確かに、あの傘なら200年以上も一緒にいるため使い慣れてはいるが……武器として使ったことはかなり少ない。

 

 ん~……それでも素手よりはマシか?

 約束の時まであと一週間。時間はあまりない。もし、傘を使ったとすると、それはどんな武術になるのだろうか? 棒術っぽい気もするが、たぶん違う。棒術の棒ってもっと長いし。

 まぁ、あの熊畜生で練習してみればいいか。

 

「さて、青さんの答えも聞けましたので、僕は帰るとします。ルーミアちゃんを待たせすぎるのも可愛そうですし。では、一週間後にまた会いましょう」

 

 うん、また。

 寄り道せず、ちゃんと帰るんだよ。迷子になっちゃだめだよ。

 

 かなり心配ではあったけれど、他人を心配している余裕はない。

 あと一週間、俺の歩く最後の人間道。名残惜しいものもあるが、やると決めたのなら全力でやるだけだ。

 

 

 

 

 それから一週間。俺は傘を使った戦い方を研究し続けた。

 今更後悔しても遅いが、ただただボーっと過ごしたあの二週間は本当にもったいなかった。一週間ではできることが少なすぎる。

 

 それでも、だ。この一週間でこの傘の特徴や、使い方はかなりわかった。

 まず、この傘はかなりの強度がある。あの重い熊畜生の攻撃を受けても、傘の骨は折れることはなく、攻撃を受け止めてくれる。さらにそれは、傘を開いた状態でも問題なかった。まさか、此処までの強度があるとは……幽香には感謝するばかりだ。

 

 ただ、まぁ、問題があるとしたら、俺自身が熊畜生の攻撃に耐えられないことだ。傘は問題なく攻撃を受け止める。けれども、その傘を持っている俺は吹き飛ばされる。吹き飛ばされたところを襲われる。んで、殺される。

 こればかりはどう仕様も無い。熊強いよ、熊。

 

 傘を使った攻撃と言うと、先端を突き刺したり、ゴルフクラブやバットのように叩きつける攻撃が直ぐに浮かんだ。しかし、だ。逆に言うとそれくらいしか思いつかない。

 開けば頑強な盾となり、閉じれば強靭な矛となる。そう言うと聞こえは良いが、実際はただの傘。それ以下でも以上でもない。

 突き指す、叩く以外に何かできることはないか、考えてみた。畜生に殴り殺されながら、色々と考えてみた。そして浮かんだ、この傘の一つの使い方。一つの技。

 

 この時代でも和傘のように頭に乗せるだけではない、差すことのできる傘はある。しかし、その持ち手は全て真っ直ぐとなっており、未来で一般的に使われるようにフック状にはなっていなかった。

 けれども、俺が幽香から貰った傘の持ち手はフック状となっており、ステッキのように使うことができる。

 

 そう、フック状になっているのだ。

 

 俺には記憶がない。そのため、俺が使おうとしている技の威力が、どの程度のものなのかはわからない。しかし、俺の中の知識が、身体に染み付いてしまった経験が言っている。

 

『その技は危険だ』

 

 そんな技を使うことにやはり抵抗はある。本当に使っても良い技なのか考えた。本当ならそんな危険な技を使うことが正しいはずはない。

 けれども、俺には時間がない。もう、なりふり構っている場合ではないのだ……

 

 だから俺はその禁忌に手を出すことに決めた。外れてしまった人間道。こうなれば、とことん外道を突き進むとしよう。

 そして、俺はその技に“穿突”と言う名を付けた。ただ、その一点を貫き突き通す。まさに一撃必殺。成功さえすれば、あの熊畜生ですら倒すことができるだろう。それがこの技である。

 

 ただ、まぁ、その穿突をあの畜生に食らわせたことはないが。これが意外と決まらないのだ。

 

 

 

 

「……その技、本当に強いのかえ? わしにはよくわからんが」

 

 まぁ、君にはわからないだろうな。俺もこの技を食らった記憶はない。それでも、この穿突の威力は痛いほどによくわかる。もし、自分が全力をかけたこの技を食らったら……そんなことを想像もしたくない。

 

 ただ、熊畜生にこの穿突が決まらないように、この技を当てるのはなかなか難しい。本当なら相手の背後から決めなければいけない技。つまり相手の後ろを取る必要がある。

 それが難しかった。

 正面からやれないこともないが、穿突の威力は半減以下となってしまう。まぁ、一撃必殺がそうポンポン決められても困るが。

 

 こんなことになるのなら、もっと早くに修行をしておけば良かった。そんな後悔ばかりが頭に浮かぶ。この一週間でできたことは少ない。結局、最後まであの畜生に穿突を決めることはできなかった。本当に、俺は頼光たちを倒すことができるのか? そんな不安ばかりが残る。

 それでも、俺は前へ進まなければいけない。

 

 可愛い女の子を救うためなんだ。無茶くらい、いくらでもしてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、約束の日が来た。

 俺が人間と共に歩むことのできる最後の日が。

 

 諏訪の神からもらった外套を羽織り、幽香からもらった傘を手に持つ。つまり、まぁ、いつも通りの格好で平安京の正門である羅城門へ。そこには山伏のような格好をした5人の男たちがいた。

 

 えーっなんで皆して同じ格好なのさ。これじゃあ、俺だけ仲間外れじゃん。

 

「おおー、来てくれたから。もしかしたら来てくれないのではと思っていたが……有難う、有難う」

 

 俺に気づいた頼光が声をかけてきた。

 ごめんな頼光。俺は、あんたらを邪魔しに来ただけなんだ……なんとも申し訳ない気分になる。

 

「其方の4人は?」

「うむ、手前から渡辺綱、坂田公時、碓井貞光、卜部季武だ。いずれも腕の立つ信頼のおける仲間だよ」

 

 いかにも、強そうな雰囲気を醸し出す4人。コイツらを俺は倒さなければいけないのか……一人くらい風邪でもひいとけってんだよ。

 

 手前から二番目の男に視線を向ける。

 坂田公時。頼光はそう言った。この男が、かの有名な金太郎なのか。金太郎と言えば、丸金の文字が入った赤い腹掛けのみを着て、まさかりを担いでいるイメージしかなかった。

 それが、なんとまぁ、立派な格好じゃないか。そして意外とイケメンなのね。死ねばいいのに。

 まぁ、大の大人が赤い腹掛けのみを着てまさかりを担いでいたら、それはホラーでしかない。熊だって逃げ出すレベルだ。

 

「もう行くのかい?」

「ああ、早い方が良いからな。道のりは険しいが、大江山へ夜となる前につくだろう。お主の準備は大丈夫か?」

「ああ……いつでも」

 

 さて、これで逃げ出すことはできないだろう。

 

 もう後ろは振り返らない。ひたすらに前へ歩き出すんだ。

 

 






一撃必殺とかかっこいいですよね
憧れです

と、言うことで第37話でした
最近は重い話ばかりでしたので、いつもの雰囲気に戻してみました
この後で、また重い雰囲気がきますしね


次話は漸く鬼退治

では、次話でお会いしましょう

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