東方拾憶録【完結】   作:puc119

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第34話~修行~

 

 

 漸く今後の目標が決まり、後は行動するだけとなったわけだが……

 

 あの熊畜生、俺が思っていた以上に強い。

 

 まず攻撃力がおかしい、一発喰らえばそれでアウト。畜生の左手によるジャブで殺された時はもう笑うしかなかった。

 

 次に問題なのが畜生の速さだ。

 全く畜生の動きに追いつけない。目で追いきれないものをどう対処しろってんだよ。何をされて殺されたのかもわからないことが多い。

 

 いくら霊力で身体を強化しようが、畜生の動きについてはいけず、此方の攻撃は全く当たらない。カウンターを何度か狙ってみたこともあるが、そもそも一発喰らえば終わりなのだ。カウンターにならん。

 

 

 昼間は二つ名を変えてもらえるよう京でせっせと働き、夜は畜生と戦う。そんな生活を繰り返した。

 今までと同じことをしていても、あの不名誉な二つ名が変わることはない。そのため、今までサービスとして渡していた花以外にも、強化された能力を利用し、創造した水を渡すようにもしてみた。

 

 何もない空間から水を創り出す。これがなかなかの宣伝となり、お客は『仙術』とか言って喜んだ。この時代ではまず見ることのできない超純水。そのすごさは伝わらないが、水を創り出せると言うことだけで充分だろう。

 

 まぁ、創り出した水も女性や子どもにしか渡さなかったが。野郎には興味がない。

 

 

 

 そんな感じで、昼間の方はきっと順調。しかし、夜はさっぱりだ。

 

「もうアレじゃ。暫く、お前さんから攻撃をしようとするのは諦めるんじゃな。あのクマの動きを見切れるようになるまで、とにかく攻撃を避け続けろ」

 

 彼女からの助言。

 まぁ、それもそうか。このままでは、いつまでたっても成長できる気がしない。避け続ける、か。

 

 熊畜生と戦い始めてそろそろ一ヶ月。だいたいが最初の一撃か、次の攻撃で殺される。確かに、俺の成長が遅いってのもあるだろうが、あの畜生の動きが日に日に良くなっている気もする。気のせいか?

 

 一ヶ月前にローリング・ソバットを決められたのも驚いたが、つい先日はネリチャギを喰らった。そして今回は決められた技はフォーリャ。だから何処でそんな技を覚えるんだよ。

 脚だってそれほど長い生物ではないのだから自重して欲しい。それなのにあの熊、アクロバティックすぎる。

 

 そのうちエリコピテロとかやってきそうだ。それはそれで見てみたいが……

 

 はぁ、さくっと俺の中に秘められた力とかが開花してくれないものだろうか?

 

「そんなに上手くはいかんじゃろ」

 

 ……おっしゃる通りで。

 

 

 

 

 それからは、とにかく死なないことを目標にした。

 畜生の動きをよく見て、全力で避けに徹する。手に力は入れず足にだけ集中させ、とにかく畜生の攻撃を避ける。

 それでも、畜生の動きは速く何度も殺された。殴られ、蹴られ、叩かれ、噛み付かれ、何度も何度も殺され続けた。そんな地獄のようの夜を繰り返し続けた。

 

 そして漸く、成果が出始めたと感じるようになったのは10の年が過ぎた時だった。

 

 ふと、思った。一日に彼女と会う回数が減っていると。最初の頃はどんなに少なくとも一晩で数十回ほども彼女と会っていた。それが、今では多くても10いかない。

 

 成長しているってことか?

 あの畜生が弱くなっているとも思えない。たぶん、そういう事なんだろう。

 

 

 そんなことを意識しだしてから、さらに10年。

 

 

 日が沈んだ頃熊と戦い始め――ついに夜が明けた。

 

 

 木々のなくなったあの場所に、朝日が差し込んだ。俺が一番驚いていたと思う。一晩中、畜生の攻撃を避け続けたせいか、息は上がり、足は震えている。

 

 それでも――漸く、此処まで来ることができた。

 

 

「あはっ」

 

 

 無意識に笑いが溢れる。

 これでやっと……やっと次の段階へ俺は進むことができるんだ。笑わずにはいられない。

 

 そして笑っていたところを畜生に殴り殺された。

 あの畜生には血も涙もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 実力の方は確実に上がってきている。此方は問題ない。

 そう、夜の方は別に良いのだが……

 

 

「こんにちは『ド変態』さん」

「今日も良い天気ですね『ド変態』さん」

「よお、『ド変態』。焼き魚を一つ頼むよ」

「『ド変態』がいるー!」

 

 

 昼間の方がちょっとヤバい。

 

 一応、『仙人』さんなんて呼んでくれる人もいるが、それはかなりの少数。どうしてこうなったよ。

 消えて欲しかった部分だけが残った。しかもパワーアップして。

 なんだろうか、何がいけなかったのかさっぱりわからない。ちょっとだけ、可愛い女の子に優しくして、ちょっとだけ、罵りながら蹴ってもらえないか頼んだらコレだよ。意味がわからない。

 

 まぁ、『ド変態』と呼んでいる人たちも、別に俺を嫌っているわけではないみたいだが……何と言うか、こう……熱い何かが込み上げてくる。これなら以前の呼ばれ方のが数段良かった。

 

 マズイな……このままでは鬼退治に参加することができない。

 

 いっそ、鬼側についてやろうか? でもなぁ、萃香曰く鬼はごっつい奴らばっかりらしいし、そんな所へいたくはない。酒呑童子とかどれだけゴツいのか想像もできない。

 

 それに、もし俺が鬼側についてしまったら、もう俺は人間たちと一緒に生活することはできなくなる。そんな覚悟も俺には足りていなかった。

 どうしても、この生活を捨てきることはできない。

 

 無理矢理、頼光達についていくことはできないだろうか。それはやはり厳しいか?

 まぁ、その時になるまで、わかりはしないけどさ。

 

 

 そう言えば、萃香の奴なかなか帰ってこないな。

 アイツが旅立ってからもう20年以上も経つ。ん~……もしかして、萃香って大江山にいるのか? 鬼たちの集まる場所と言っていたし。

 それはちょいとマズイぞ。このままだと、萃香も退治される側になってしまう。別に酒呑童子がどうなろうと関係ないが、萃香が退治されるのは困る。

 萃香なら『神便鬼毒酒』とか喜んで飲みそうだし。

 

 むぅ、これは考えておかないといけないな。もしもの時、萃香だけ上手く逃がすことはできないだろうか?

 ……でもなぁ、アイツの性格的にそれは嫌いそうだ。そんなことをするのなら、死んだ方がマシとか言いそうだし。

 と、なると。鬼たち全員を逃がさないといけなくなるのか? しかし、歴史だと酒呑童子は確かに死ぬはず。

 その首は持ち帰られ、祀られる。それが俺の知っている歴史。

 

 歴史を変えなければいけないのか? けれども、そんなことを俺ができるとは思えない……

 それならば、酒呑童子だけを殺し残りの鬼を逃がす……のが正解なのか?

 

 ん……そうじゃない。何か違う気がする。

 そもそも人間側と妖怪側の立場、俺はどちらへ付くつもりなんだ?

 

「はぁ、考えてもわからんか……」

 

 難しいことだ。

 

 妖怪と人間が共に暮らす世界、か。

 何故かそんなことを考えた。妖怪にとってやらなければいけない行動は、人間にとって害だ。それらが共存する世界ってのは、どんな世界なんだろうな。今の俺では想像できない。

 

 

 まぁ、うだうだ考えていても仕様が無い。とりあえず用意された紅茶を一口。うん、良い香りだ。

 

「……それで、今日は何の用事あるのよ?」

「暇だったから遊びに来た」

 

 目の前にはむすっとした表情の幽香。ため息なんてしちゃってどうしたのだろうか。

 熊畜生との戦いも漸く一段落。休憩するのも悪くない。そんなことを思って幽香の家へ遊びに来た。近くにいる知り合いも幽香だけだし。

 

 幽々子の屋敷があった場所へも行ってみたが、其処は更地となっていた。何処へ行ってしまったのかわかりはしないけれど、きっとまた会えるはず。

 映姫のいる場所へも行こうと思えば行けるが、久しぶりに幽香と会いたくなった。

 

「そう言えばさ。幽香は酒呑童子の噂とか聞いたことある?」

「いえ……聞いたことないわね」

 

 まぁ、それもそうか。幽香って、引き篭りみたくずっとこの場所にいるもんね。外の噂など入ってこないだろう。

 

「…………」

 

 無言で幽香に睨まれた。

 興奮する。

 

 それにしても、これだけ生活していて酒呑童子の噂が全く入って来ないってのもおかしい。鬼に人が攫われたとか、また旅人がやられたなんて噂はよく聞くが、それを酒呑童子がやっていると言う噂は聞いたことがない。

 まぁ、酒呑童子は鬼の頭。だから鬼達が起こしている全ての現況ではあると思うが、何か引っかかる物がある。

 どうにも、酒呑童子が悪者と言う感じがしない。もっと悪童非道な奴のイメージなんだが……

 

 結局その日は、京へ物を売りに行くことはなく日が暮れるまで、幽香と喋っていた。

 そして、やはり幽香は良い奴だと思う。俺のこと好きなんじゃないか?

 

 そんなことをちらっと聞いてみたらぶん殴られた。少しぐらい照れてくれたっていいのに……

 

 そろそろ梅雨も明ける。今年もまた綺麗なヒマワリが咲いてくれることだろう。そいつは楽しみだ。

 

 

 

 

 自宅へ戻り、風呂へ入っていると完全に日が落ちた。

 さて、そろそろ良い時間だ。

 

 あの熊畜生に一発食らわせてやるとしよう。

 第二段階スタートといきましょうか。

 

 






東方キャラが2話続けて出ないのは避けたかったので、無理矢理幽香さんに登場してもらいました
ごめんねー

と、言うことで第34話でした

妖怪が存在するためには人からの恐れなんかが必要らしいです
そして、それが多ければ多いほど強い妖怪となる
つまり人を殺せば殺すだけ強くなると言うことでしょうか

さてさて、あのクマさんは何人の主人公を殺してしまったのでしょうね?


次話は、なんとか頼光さん登場くらいは行きたいものです

では、次話でお会いしましょう

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